Kagaku to Seibutsu 53(1): 61-62 (2015)
農芸化学@High School
ミミズの交替性転向反応
Published: 2015-01-01
本研究は,日本農芸化学会2014年度大会(開催地:明治大学)の「ジュニア農芸化学会」で発表されたものである.発表者らは,本発表で動物の行動について報告している.具体的には,無脊椎動物に広く観察される「交替性転向反応」の有無をミミズで検証している.
© 2015 Japan Society for Bioscience, Biotechnology, and Agrochemistry
© 2015 公益社団法人日本農芸化学会
交替性転向反応とは,動物の行動において直前に曲がった方向とは逆の方向に曲がる反応である.この反応は無脊椎動物に広く観察される行動で,ダンゴムシなどの節足動物ではよく知られている.しかし,移動に足を使うダンゴムシとは異なり,這って移動する環形動物であるミミズについての研究例は少ない.そこで,発表者らは市販の釣餌ミミズ「ミミズちゃん熊太郎Big size」を用いて以下の実験を行った.
白色のポリスチレン製のT字型の迷路(図1A図1■実験に用いた迷路)を作製した.迷路のスタート地点から1匹のミミズを室温(15~20°C)で這わせ,センター部分を経てT字の分岐点で進行方向に対して左右のどちらに曲がりゴール地点に至ったのか観察した.センター部分の長さは10,20,および40 cmの3通りとし,各試験区で10匹のミミズについて3回ずつ,計30回観察した.
前述のT字型迷路のスタート地点を図1B図1■実験に用いた迷路のとおりに延長し,室温(15~20°C)でスタート地点を出発したミミズが進行方向に対して左に強制的に転向するようにした.同様に最初に右へ強制転向する迷路も作製した(図示なし).強制転向したミミズがその後,センター部分を経てT字の分岐点で進行方向に対して左右のどちらに曲がるのか観察した.図1B図1■実験に用いた迷路の迷路を用いた場合,左に強制転向した後に右側に曲がれば交替性転向反応があると判断した.実験1と同様に,センター部分の長さを10,20,および40 cmの3通りとし,各試験区で10匹のミミズについて3回ずつ計30回観察した.
図1A図1■実験に用いた迷路の迷路を用いて観察した結果を図2図2■実験1の結果に示す.センター部分の長さが10,20,および40 cmの各試験区をそれぞれ30回観察した結果,センター部分が10 cmの場合,左に曲がったのが17回,右は13回となった.図2図2■実験1の結果はセンター部分が20 cmおよび40 cmの場合の結果も併せて示している.
自由度を58に設定したときの両側検定における有意水準5%の臨界値は2.00である.センター部分が10,20,40 cmのときの左右の差を検定した.それぞれの検定値は0.51,1.57,0.25となり,これはいずれの場合でもミミズが曲がる傾向に左右の偏りはないことを示唆する.
20 cmの場合で左右に違いがあるような数値となっているが,センター部分の長さにかかわらず有意水準を5%に設定したt検定によって,ミミズの曲がる傾向に左右の偏りがないことを示すことができた.したがって,ミミズは分岐点で左右いずれにも偏りなく曲がることができると結論した.この結果を踏まえて,交替性転向反応を観察する実験2を実施した.
図1B図1■実験に用いた迷路の迷路を用いてミミズが進行方向に対してまず左に強制的に転向するようにした.センター部分の長さが10,20,および40 cmの各試験区の30回の観察結果を図3図3■実験2の結果:左に強制転向した場合に示す.たとえば,センター部分が10 cmの場合,左に曲がったのが1回,右は29回であった.図3図3■実験2の結果:左に強制転向した場合はセンター部分が20 cmおよび40 cmの場合の結果も併せて示している.
図2図2■実験1の結果と同様に,センター部分が10,20,40 cmのときの左右の差を検定した.それぞれの検定値は4.51,0.77,0.51となり,センター部分が10 cmのときに,左右に有意な差があることがわかった.
得られた数値に対して実験1と同様な検定を行ったところ,センター部分が10 cmの場合では有意に右に曲がる傾向があることがわかった.このことは,交替性転向反応があることを示唆する.一方,センター部分が20 cmあるいは40 cmになると,有意差なく左右いずれにも曲がることが明らかになった.
以上と同様な結果は,最初に右に強制転向した場合でも得られている.センター部分が10および20 cmであれば分岐点で左に偏って曲がる傾向があることを観察している(図4図4■実験2の結果:右に強制転向した場合).これら実験2の結果から,ミミズは強制的に曲がってから10 cmの進行距離であれば,交替性転向反応を示すと結論づけた.
図2図2■実験1の結果と同様に,センター部分が10,20,40 cmのときの左右の差を検定した.それぞれの検定値は4.51,5.09,1.58となり,センター部分が10および20 cmのときに,左右に有意な差があることがわかった.
本研究によって,節足動物のみならず環形動物であるミミズにも交替性転向反応が見られることが示された.動物の進行方向は外部からの物理的および化学的な刺激に影響される.たとえば,障害物といった物理的なものや餌の匂いなどの化学的なものが考えられる.本研究の場合では,迷路の壁が物理的な刺激となっている可能性がある.今後は転向時の壁の影響を極力低減した迷路を使った実験が必要になるであろう.
土壌における物質循環という重要な働きを生態系で担うミミズは,身近な存在である.ジュニア農芸化学会は,こうした身近な生物や素材を対象に,高校生が抱いた疑問を解き明かすことを目的としている.本研究では問題解決にあたり,実験のデザインから迷路の作製,ミミズの行動観察,そして結果の解釈まで豊かな洞察力を発揮して研究を進めている.今後のますますの発展を期待したい.
(文責「化学と生物」編集委員)