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プレニルフラボノイドの生体利用性: プレニル化は体内滞留時間を延長させて,組織への蓄積を高める

Rie Mukai

向井 理恵

徳島大学大学院ヘルスバイオサイエンス研究部Institute of Health Biosciences, The University of Tokushima ◇ 〒770-8503 徳島県徳島市蔵本町3丁目18-15 ◇ 3-18-15 Kuramoto-cho, Tokushima-shi, Tokushima 770-8503, Japan

Junji Terao

寺尾 純二

徳島大学大学院ヘルスバイオサイエンス研究部Institute of Health Biosciences, The University of Tokushima ◇ 〒770-8503 徳島県徳島市蔵本町3丁目18-15 ◇ 3-18-15 Kuramoto-cho, Tokushima-shi, Tokushima 770-8503, Japan

Published: 2015-01-20

プレニルフラボノイドは,フラボノイドの基本骨格であるdiphenylpropaneに一つ以上のC5 isoprene (dimethylallyl) unit(s)が結合した構造を有する一連の化合物群である.

フラボノイドは,植物の2次代謝産物としてmalonyl CoAやp-coumaroyl CoAから合成される.さらに植物体に分布する酵素プレニルトランスフェラーゼの触媒作用により,フラボノイドはプレニル化される(1)1) K. Sasaki, K. Mito, K. Ohara, H. Yamamoto & K. Yazaki: Plant Physiol., 146, 1075 (2008)..多くのフラボノイドは糖が結合した配糖体として存在するが,プレニルフラボノイドでは,糖の結合はほとんど見られずアグリコンとして存在する.これは,植物内の代謝経路がプレニル化,あるいは糖鎖付加のどちらか一方に制限されることに由来する.

プレニルフラボノイドを含むマメ科やクワ科の植物は,健康食品や漢方によく用いられている.ビールの原料であるホップにはキサントフモール,8-プレニルナリンゲニンなどが含まれ,マルベリーには6-プレニルケルセチンが検出される.抗菌作用,抗酸化作用,抗がん作用,エストロゲン様活性などがプレニルフラボノイドの生理機能として報告されている.これらの生理機能は,非プレニル型のフラボノイドでも認められている.しかし,プレニル基の有無によりフラボノドの生理機能の強さが異なる場合があることはたいへん興味深い.たとえば,ナリンゲニンのエストロゲン様活性やルテオリンのメラニン合成阻害活性は,プレニル基を導入することにより効果が増強する(2,3)2) G. Kretzschmar, O. Zierau, J. Wober, S. Tischer, P. Metz & G. Vollmer: J. Steroid Biochem. Mol. Biol., 118, 1 (2010).3) E. T. Arung, K. Shimizu, H. Tanaka & R. Kondo: Fitoterapia, 81, 640 (2010).

フラボノイドの生体利用性において,小腸からの吸収効率は重要な決定因子になる.フラボノイドは生体異物であるため,小腸粘膜細胞の生体防御機構が生体吸収の関門となるからである.フラボノイドアグリコンは,受動輸送で小腸粘膜細胞へ取り込まれると考えられている.プレニル基は,フラボノイドの疎水性を上昇させ,生体膜脂質との親和性を高めることから(4)4) A. B. Hendrich, R. Malon, A. Pola, Y. Shirataki, N. Motohashi & K. Michalak: Eur. J. Pharm. Sci., 16, 201 (2002).,細胞への取り込みに有利に働く.実際,小腸上皮モデル細胞Caco-2細胞でのプレニルフラボノイドの細胞取り込み率は高く,細胞内最大濃度に到達するまでの時間は短い(5)5) R. Mukai, Y. Fujikura, K. Murota, M. Uehara, S. Minekawa, N. Matsui, T. Kawamura, H. Nemoto & J. Terao: J. Nutr., 143, 1558 (2013)..小腸上皮細胞へ取り込まれたフラボノイドは,第Ⅱ相薬物代謝酵素による抱合代謝を受け,トランスポーターを介して細胞内から管腔側あるいは基底膜側へ排出される.プレニルフラボノイドは,基底膜側への排出量が少ないか,あるいは排出に時間がかかる(5,6)5) R. Mukai, Y. Fujikura, K. Murota, M. Uehara, S. Minekawa, N. Matsui, T. Kawamura, H. Nemoto & J. Terao: J. Nutr., 143, 1558 (2013).6) Y. Pang, D. Nikolic, D. Zhu, L. R. Chadwick, G. F. Pauli, N. R. Farnsworth & R. B. van Breemen: Mol. Nutr. Food Res., 51, 872 (2007)..小腸上皮細胞の細胞質タンパク質との結合が強いことがその理由として考えられる.以上のことから,プレニルフラボノイドはリン脂質二重層からなる細胞膜を容易に通過する一方で,細胞内から排出されにくいことが明らかである.したがって,培養細胞などの実験系を用いた評価では,プレニルフラボノイドの生理活性は非プレニルフラボノイドに比べて強く発現することに留意しなければならない.

図1■プレニルフラボノイドの体内動態(10)

BCRP: breast cancer resistance protein, MRP: multidrug resistance associated protein, COMT: catechol-O-methyltransferase(文献10を改変).

次に,主要な体内循環経路である血液中でのプレニルフラボノイドの動態を考察する.マウスにケルセチンやナリンゲニン,およびそれらのプレニル化体を単回投与した場合,プレニルフラボノイドでは非プレニル型の約10~20%程度の最大血中濃度であったことから,プレニルフラボノイド代謝物の血中移行性は低いことがわかる(5,7)5) R. Mukai, Y. Fujikura, K. Murota, M. Uehara, S. Minekawa, N. Matsui, T. Kawamura, H. Nemoto & J. Terao: J. Nutr., 143, 1558 (2013).7) R. Mukai, H. Horikawa, Y. Fujikura, T. Kawamura, H. Nemoto, T. Nikawa & J. Terao: PLoS ONE, 7, e45048 (2012)..これは先の段落で述べた小腸上皮細胞の低排出性と関連づけられる.しかし,ヒトや実験動物への8-プレニルナリンゲニンの単回摂取の場合では摂取後48時間でもその代謝物が血中で検出されたことから,プレニル化はフラボノイド代謝物の血中滞留時間を延長させると思われる(7,8)7) R. Mukai, H. Horikawa, Y. Fujikura, T. Kawamura, H. Nemoto, T. Nikawa & J. Terao: PLoS ONE, 7, e45048 (2012).8) R. B. van Breemen, Y. Yuan, S. Banuvar, L. P. Shulman, X. Qiu, R. F. Ramos Alvarenga, S. N. Chen, B. M. Dietz, J. L. Bolton, G. F. Pauli et al.: Mol. Nutr. Food Res., (2014)..なお体内では,吸収されたプレニルフラボノイドのほとんどが抱合体代謝物に変換される.イカリチンではグルクロン酸抱合体が多いとの報告があるが(9)9) Q. Qian, S. L. Li, E. Sun, K. R. Zhang, X. B. Tan, Y. J. Wei, H. W. Fan, L. Cui & X. B. Jia: J. Pharm. Biomed. Anal., 66, 392 (2012).,ほかのプレニルフラボノイドについて血中抱合体代謝物の同定は報告されていない.血液とは別に体内循環を担うリンパ液中にも8-プレニルケルセチン代謝物が分布することが動物実験で確かめられている.リンパ液中の8-プレニルケルセチン代謝物最大濃度は,ケルセチンの約50%程度の値であるが,投与後4時間から24時間後の間に8-プレニルケルセチン代謝物の血中濃度はほとんど低下しないため,これらの時間範囲の8-プレニルケルセチン代謝物の血中濃度は血中半減期の短いケルセチン代謝物の濃度を上回る(5)5) R. Mukai, Y. Fujikura, K. Murota, M. Uehara, S. Minekawa, N. Matsui, T. Kawamura, H. Nemoto & J. Terao: J. Nutr., 143, 1558 (2013)..これらのことから,血液循環,リンパ液循環のいずれの場合も,最大濃度は非プレニル型フラボノイドのほうが高いが,循環系からの排出はプレニルフラボノイドのほうが遅いために,長時間にわたって体内に存在すると考えられる.

経口摂取したフラボノイドは,動物体内のさまざまな臓器に分布することが示されている.プレニルフラボノイドの場合も,同様に種々の臓器へ到達することが報告されている(5)5) R. Mukai, Y. Fujikura, K. Murota, M. Uehara, S. Minekawa, N. Matsui, T. Kawamura, H. Nemoto & J. Terao: J. Nutr., 143, 1558 (2013)..8-プレニルナリンゲニンは,ナリンゲニンよりも約10倍多く腓腹筋へ蓄積することが示された(7)7) R. Mukai, H. Horikawa, Y. Fujikura, T. Kawamura, H. Nemoto, T. Nikawa & J. Terao: PLoS ONE, 7, e45048 (2012)..一方,坐骨神経モデルマウス実験において8-プレニルナリンゲニン摂取は廃用性筋萎縮を抑制したが,ナリンゲニン摂取は全く効果を示さなかった.これは,標的臓器への高い蓄積性が生理活性の発現を惹起したと推測できる.8-プレニルケルセチンでは,その血中濃度はケルセチンよりも低いにもかかわらず,骨格筋での蓄積量はケルセチンの場合とほぼ同等であった(5)5) R. Mukai, Y. Fujikura, K. Murota, M. Uehara, S. Minekawa, N. Matsui, T. Kawamura, H. Nemoto & J. Terao: J. Nutr., 143, 1558 (2013)..一方,マウス骨格筋由来C2C12細胞を用いたin vitro実験では,プレニルフラボノイドは細胞からの排出がほとんど起こらなかった(5,7)5) R. Mukai, Y. Fujikura, K. Murota, M. Uehara, S. Minekawa, N. Matsui, T. Kawamura, H. Nemoto & J. Terao: J. Nutr., 143, 1558 (2013).7) R. Mukai, H. Horikawa, Y. Fujikura, T. Kawamura, H. Nemoto, T. Nikawa & J. Terao: PLoS ONE, 7, e45048 (2012)..また,ケルセチンはATP-binding cassette transporterを介して排出されるのに対し,8-プレニルケルセチンは本トランスポーターを介さないことが示された(5)5) R. Mukai, Y. Fujikura, K. Murota, M. Uehara, S. Minekawa, N. Matsui, T. Kawamura, H. Nemoto & J. Terao: J. Nutr., 143, 1558 (2013)..8-プレニルケルセチンをマウスに長期摂食させると腎臓や肝臓に顕著な蓄積が認められ,この蓄積量はケルセチンと比較して非常に高い値であった(5)5) R. Mukai, Y. Fujikura, K. Murota, M. Uehara, S. Minekawa, N. Matsui, T. Kawamura, H. Nemoto & J. Terao: J. Nutr., 143, 1558 (2013)..8-プレニルケルセチンの臓器への高蓄積には薬物代謝酵素による代謝変換速度や,トランスポーターによる排出特異性が関与すると推察するが,明確な知見に乏しく今後の研究が必要である.

プレニルフラボノイドは,消化管からの吸収効率が低いため体内循環量が少ないが,いったん体内循環に入ると体外への排出は非常に遅い.その結果として,「組織中にたまりやすい」と思われる.これまでのフラボノイド研究では,血中濃度が高い場合に生体利用性が高く,強い生理機能につながると考えられてきたが,プレニルフラボノイドでは血中濃度と組織への蓄積性の特徴が大きく異なる点に考慮することが求められる.

Reference

1) K. Sasaki, K. Mito, K. Ohara, H. Yamamoto & K. Yazaki: Plant Physiol., 146, 1075 (2008).

2) G. Kretzschmar, O. Zierau, J. Wober, S. Tischer, P. Metz & G. Vollmer: J. Steroid Biochem. Mol. Biol., 118, 1 (2010).

3) E. T. Arung, K. Shimizu, H. Tanaka & R. Kondo: Fitoterapia, 81, 640 (2010).

4) A. B. Hendrich, R. Malon, A. Pola, Y. Shirataki, N. Motohashi & K. Michalak: Eur. J. Pharm. Sci., 16, 201 (2002).

5) R. Mukai, Y. Fujikura, K. Murota, M. Uehara, S. Minekawa, N. Matsui, T. Kawamura, H. Nemoto & J. Terao: J. Nutr., 143, 1558 (2013).

6) Y. Pang, D. Nikolic, D. Zhu, L. R. Chadwick, G. F. Pauli, N. R. Farnsworth & R. B. van Breemen: Mol. Nutr. Food Res., 51, 872 (2007).

7) R. Mukai, H. Horikawa, Y. Fujikura, T. Kawamura, H. Nemoto, T. Nikawa & J. Terao: PLoS ONE, 7, e45048 (2012).

8) R. B. van Breemen, Y. Yuan, S. Banuvar, L. P. Shulman, X. Qiu, R. F. Ramos Alvarenga, S. N. Chen, B. M. Dietz, J. L. Bolton, G. F. Pauli et al.: Mol. Nutr. Food Res., (2014).

9) Q. Qian, S. L. Li, E. Sun, K. R. Zhang, X. B. Tan, Y. J. Wei, H. W. Fan, L. Cui & X. B. Jia: J. Pharm. Biomed. Anal., 66, 392 (2012).

10) J. Terao & R. Mukai: Arch. Biochem. Biophys., 559, 12 (2014).