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神経組織による骨リモデリングの制御: ゼブラフィッシュ側線神経系における骨の形態形成メカニズム

Hironori Wada

和田 浩則

国立遺伝学研究所National Institute of Genetics ◇ 〒411-8540 静岡県三島市谷田1111 ◇ 1111 Yata, Mishima-shi, Shizuoka 411-8540, Japan

Published: 2015-01-20

人間の体は,大小約200個の骨で構成される.ぞれぞれの骨は,外から加わる力に対して十分な強度を得るために,適応的に形づくられている.さらに,骨は成長の過程で,形や比率が変化する.たとえば,生まれたばかりの赤ん坊では4頭身だったものが,成人では,約7.5頭身にプロポーションが変わる.骨は結合組織であり,体積の大部分を細胞外マトリックスで占められているので,骨の形づくりや成長には,特定の領域に骨を沈着させる作用(骨形成)と,特定の領域の骨を吸収する作用(骨吸収)とが必要である.それぞれの機能をもつ細胞(骨芽細胞と破骨細胞)は,自分自身よりもはるかに大きなスケールの3次元空間を,どのように認識しているのか,そのメカニズムはよくわかっていない.

近年,クラゲ蛍光タンパク質(GFP)によってさまざまな細胞を生体標識することが可能となった.特に,メダカやゼブラフィッシュでは,体内の骨芽細胞や破骨細胞の動態を見ることができる.解析の結果,魚類の骨形成も,哺乳類と同様の遺伝子制御を受けていることが明らかになった(1)1) M. Chatani, Y. Takano & A. Kudo: Dev. Biol., 360, 96 (2011)..これらの遺伝学的な解析ツールに加え,魚類が骨の形態形成のモデルとして有用な理由は,体表に発達した膜性骨(皮骨)をもつことである.体軸を構成する軟骨性骨(脊椎骨や四肢骨)と異なり,膜性骨は軟骨を前駆体にもたない.哺乳類では頭骨の一部と鎖骨が膜性骨であり,魚類ではそれらに加えて,鱗と鰭条が膜性骨である.鱗は表皮の直下に存在し,単純な繰り返し構造をしており,かつ著しい再生能力をもつことから骨形成メカニズムの解析に適している(2)2) A. Quilhac & J. Y. Sire: J. Exp. Zool., 281, 305 (1998).

多くの魚類の体表面には,体幹中央部に沿って一条の筋が見られる.これは,側線と呼ばれる感覚器であり,特殊な形状をした鱗(側線鱗)で構成される.側線鱗の数や分布は,魚種によって決まっており,ゼブラフィッシュでは体の前方部に2~5枚の側線鱗が存在する(図1A図1■ゼブラフィッシュ側線鱗(管器)の形成過程).通常の鱗が均一な平たいプレートであるのに対し,側線鱗は中央に半円筒形の膨らみ(管器)がある(図1B図1■ゼブラフィッシュ側線鱗(管器)の形成過程).管器は中空になっており,規則的に体表に開いた穴(孔器,図1E図1■ゼブラフィッシュ側線鱗(管器)の形成過程)で外部とつながり,水によって満たされている.管器の下には側線神経の感覚器である感丘が存在する(管器感丘,図1B図1■ゼブラフィッシュ側線鱗(管器)の形成過程).感丘は,哺乳類の聴覚器(コルチ器)や平衡器とよく似た器官であり,有毛細胞が水の運動を感知している.同様の器官は体表面に遊離感丘として存在しており(図1B図1■ゼブラフィッシュ側線鱗(管器)の形成過程),遊離感丘が水の速度を感知するのに対し,管器感丘は水の加速度を感知すると考えられている.また,感丘は神経プラコードに由来する神経組織であることがわかっている(3)3) A. Ghysen & C. Dambly-Chaudière: Genes Dev., 21, 2118 (2007)..それでは,側線鱗はどのように形づくられるのだろうか?

図1■ゼブラフィッシュ側線鱗(管器)の形成過程

(A)ゼブラフィッシュ成魚における管器の分布.頭部と体幹部前方に管器が分布する.(B)管器の模式図(断面図).管器はアーチ状に変形した鱗(骨)であり,その下には側線神経の感覚器である感丘が存在する(管器感丘).感丘は体表面にも存在する(遊離感丘).(C–E)管器感丘の形成過程.感丘(有毛細胞),硬骨,表皮を生体標識している.(C)はじめに鱗は感丘の直下に形成される.(D)次に感丘の周囲の骨が隆起する.同時に感丘の直下の骨は吸収される.(E)管器骨は,孔器を残して融合し,感丘は骨の下に埋没する.(C’–E’)断面の模式図.管器の形成は骨形成と骨吸収を伴う骨リモデリング過程である.この過程は,感丘組織によって引き起こされる(Wada et al., 2014より改変).

孵化したばかりの稚魚には鱗は存在せず,すべての感丘は体表面に存在している.稚魚が8.5~9 mm(孵化後約1カ月)に達すると鱗が体全体を覆い始める.そのとき,鱗は皮膚の直下に形成され,感丘は鱗の上に位置している(図1C, C’図1■ゼブラフィッシュ側線鱗(管器)の形成過程).稚魚が約10 mmに達する頃,感丘を取り囲む鱗の一部が隆起し,アーチ状の骨を感丘に沿って伸ばし始める(図1D図1■ゼブラフィッシュ側線鱗(管器)の形成過程).同時に,感丘の直下にある鱗は徐々に消えてゆく(図1D’図1■ゼブラフィッシュ側線鱗(管器)の形成過程).さらに,アーチ状の骨は孔器の部分を残して融合し,感丘は骨の下に埋没する(図1E, E’図1■ゼブラフィッシュ側線鱗(管器)の形成過程).管器の形成過程は,骨形成と骨吸収を伴う骨リモデリング過程であり,骨芽細胞と破骨細胞の局在が確認される(4)4) H. Wada, M. Iwasaki & K. Kawakami: Dev. Biol., 392, 1 (2014)..管器の形成は,再生過程でも見られ,側線鱗を取り除くと3日で通常の鱗が形成し,さらに骨リモデリングが生じて管器が再生する.ところが,側線鱗とともに感丘を取り除くと,骨リモデリングは生じず,通常の鱗が形成された(4)4) H. Wada, M. Iwasaki & K. Kawakami: Dev. Biol., 392, 1 (2014)..このことから,感丘(神経組織)が骨リモデリングを引き起こしていることがわかった.さらに,破骨細胞の分化に異常を示す突然変異体では,骨リモデリングが阻害される結果,管器の成長が妨げられた(4)4) H. Wada, M. Iwasaki & K. Kawakami: Dev. Biol., 392, 1 (2014)..以上の結果は,神経組織と骨組織(結合組織)が相互作用して感覚器を形成することを示している.

管器感丘が大きくなるのに対し,遊離感丘は一定の大きさを保ちながら「出芽」によって数を増やす(図1B図1■ゼブラフィッシュ側線鱗(管器)の形成過程).このとき,有毛細胞は細胞増殖抑制因子を分泌している(5)5) H. Wada, A. Ghysen, K. Asakawa, G. Abe, T. Ishitani & K. Kawakami: Curr. Biol., 23, 1559 (2013)..一方,感丘に投射する神経軸索末端は,細胞増殖促進因子を分泌すると考えられている(6)6) H. Wada, C. Dambly-Chaudière, K. Kawakami & A. Ghysen: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 110, 5659 (2013)..今後,感丘やそれに付随する神経組織が,どのように骨芽細胞と破骨細胞に作用し,骨リモデリングを制御しているのか,分子メカニズムの解明が期待される.

神経組織による骨リモデリングの制御は,最近,マウスにおいても報告されている.マウスの脊椎骨や四肢骨には,脊髄後根神経節から伸びる感覚神経軸索が投射している.Sema3a変異体マウスでは軸索投射が失われる結果,骨密度が低下する(7)7) T. Fukuda, S. Takeda, R. Xu, H. Ochi, S. Sunamura, T. Sato, S. Shibata, Y. Yoshida, Z. Gu, A. Kimura et al.: Nature, 497, 490 (2013)..つまり,感覚神経軸索は,骨芽細胞と破骨細胞の活性バランスを制御している.このことから,神経組織と骨組織の相互作用は,脊椎動物に普遍的な現象であり,共通の分子メカニズムが存在することが示唆される.骨の恒常性維持には,内分泌系,神経系,免疫系にまたがる多くの組織・細胞・シグナルが密接に関与しているため,解析が難しい.ゼブラフィッシュの側線鱗は,構造が極めて単純であり,かつ,骨形成・骨吸収過程を容易に観察できることから,今後,有用な骨疾患モデルになると考えられる.

Reference

1) M. Chatani, Y. Takano & A. Kudo: Dev. Biol., 360, 96 (2011).

2) A. Quilhac & J. Y. Sire: J. Exp. Zool., 281, 305 (1998).

3) A. Ghysen & C. Dambly-Chaudière: Genes Dev., 21, 2118 (2007).

4) H. Wada, M. Iwasaki & K. Kawakami: Dev. Biol., 392, 1 (2014).

5) H. Wada, A. Ghysen, K. Asakawa, G. Abe, T. Ishitani & K. Kawakami: Curr. Biol., 23, 1559 (2013).

6) H. Wada, C. Dambly-Chaudière, K. Kawakami & A. Ghysen: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 110, 5659 (2013).

7) T. Fukuda, S. Takeda, R. Xu, H. Ochi, S. Sunamura, T. Sato, S. Shibata, Y. Yoshida, Z. Gu, A. Kimura et al.: Nature, 497, 490 (2013).