農芸化学@High School

オカダンゴムシの交替性転向の仕組みを探る

草野 ゆうか

福島県立磐城高等学校Iwaki High School ◇ 〒970-8026 福島県いわき市平字高月7番地 ◇ Takatsuki 7, Taira, Iwaki-shi, Fukushima 970-8026, Japan

新妻 裕翼

福島県立磐城高等学校Iwaki High School ◇ 〒970-8026 福島県いわき市平字高月7番地 ◇ Takatsuki 7, Taira, Iwaki-shi, Fukushima 970-8026, Japan

Published: 2015-01-20

本研究は,日本農芸化学会2014年度(平成26年度)大会(開催地:明治大学生田キャンパス)「ジュニア農芸化学会2014」において発表されたものである.ダンゴムシの交替性転向,すなわち右に曲がった後は左に曲がり,左に曲がった後は右に曲がるという習性は,最近,テレビなどでも紹介され,小学校の課外授業でも取り上げられている.外敵からの逃避に有効な習性とも言われるが,そのような行動が現れるメカニズムについては不明な点が多い.本研究はそのメカニズムに迫る興味深いものであった.

本研究の目的・方法・結果・考察

目的

オカダンゴムシArmadillidium vulgareは,右に曲がった後は左に曲がり,左に曲がった後は右に曲がる,交替性転向という習性をもつ.

オカダンゴムシの交替性転向の研究では,被験体を強制的に転向させる強制転向点(F),被験体に左右の迷路を選択させる選択点(C)を設けたT字迷路がよく用いられる(図1図1■上から見たT字迷路).先行研究には,交替性転向が見られるのはFC間の距離が16 cmより短い場合であるという報告があるが(1)1) 渡辺宗孝,岩田清二:動物心理学年報,6, 75 (1956).,これとは異なり,FC間16 cmで交替性転向が見られるという報告もある(2)2) 川合隆嗣:人文論究,60, 113 (2011)..そこで,FC間16 cm以上でも交替性転向が見られるのか確かめることにした.また,交替性転向を説明する仮説として走触性仮説(図2図2■走触性仮説)とBALM(Bilaterally Asymmetrical Leg Movements)仮説(左右の脚の作業量平均化)(図3図3■BALM仮説)の2つの仮説が知られているが,いずれがより妥当な仮説であるか,調べることにした.

図1■上から見たT字迷路

図2■走触性仮説

オカダンゴムシは,壁に触れながら歩き,曲がり角では触れていた方向に斜めに移動する傾向がある.その結果,前とは逆側の体が壁に接触し,その壁との接触を保ったまま前進.これを繰り返し,交替性転向が起こるという説.

図3■BALM仮説

角を曲がる際,カーブの外側の脚の作業量が内側の脚の作業量より大きい.この作業量差を平均化するため,交互に転向するという説.

目的Ⅰ:FC間16 cm以上で交替性転向は見られるのかを調べる.

目的Ⅱ:交替性転向が生じる仕組みを明らかにするため,行動パターンを解析し,走触性とBALMのどちらが優位に働くかを調べる.

方法

被験体の頭部をT字迷路のスタートラインの中央に重ねてスタートさせた.迷路を進んだダンゴムシの頭部がゴールラインに達したとき,選択方向・移動方法を記録した.1個体につき1試行とし,迷路実験中に動きが止まった被検体,ゴールせずにUターンした被検体は,目的Iの結果には含まなかった.C点において強制点と逆の方向へ曲がった被験体を交替性転向を行った個体とした.この実験をFC間の距離を16,20,24,28,32,33,34,35,36,40,44 cmに変化させていった.

結果と考察

目的Ⅰ:各FC間において,交替性転向が見られた個体の割合は,40~79%であった(図4図4■FC間16~40 cmで交替性転向をした被験体の割合.).二項検定を行うと,FC間16~32,34,35 cmで,交替性転向をした個体の割合がしなかった個体の割合よりも有意に高かった.よって,オカダンゴムシが交替性転向をする限界の長さは,FC間32~36 cmの間にあると考えられた.

図4■FC間16~40 cmで交替性転向をした被験体の割合.

*は,各FC間での実験において交替性転向をした被験体の割合としなかった被験体の割合に有意差(二項検定,p<0.05)があったことを示す.

目的Ⅱ:被検体の行動パターンは,7つに分かれた(図5図5■被検体の行動パターン).行動パターン1~4は,走触性を示す移動方法である.これらの行動をした被検体の割合は,試行を行った全314個体の19%であった.一方,行動パターン5~7は,走触性を示さない移動方法であり,その割合は全個体の81%であった(図6図6■FC間の長さと行動パターンの割合の関係).走触性を示した被検体の割合は,走触性を示さなかった被検体の割合に比べて少なかった.また,行動6の割合はFC間が増加するにつれて減少した(図6図6■FC間の長さと行動パターンの割合の関係).このことは,BALM仮説を支持すると考えられた.FC間が増加するに従い,転向時に生じた被験体の右脚と左脚の作業量差が減少するためである.これらの結果から,走触性よりもBALMのほうが優位に働いていると考えられた.

図5■被検体の行動パターン

1: 迷路の内側を歩いて左折.2: 迷路の内側を歩いて右折.3: 迷路の外側を歩いて左折.4: 迷路の外側を歩いて右折.5: 迷路の真ん中を歩いて途中でUターン.6: 迷路の真ん中を歩いて分かれ道まで行き,左折.7: 迷路の真ん中を歩いて分かれ道まで行き,右折.

図6■FC間の長さと行動パターンの割合の関係

本研究では,FC間32~36 cmの間に交替性転向の限界があるという新たな発見をした.また,BALMが優位に働いていることが示された.今後は,32~36 cmの間の長さを細かく調べはっきりとした限界の距離を調べたい.

本研究の意義と展望

身近な現象のメカニズムに迫るたいへん興味深い研究であった.仮説を立て,それを検証するための巧みな実験系を構築し,結果を統計的に解析するという科学の基本がきちんとおさえられており,高く評価される.早い段階で科学の基本を身につけた前途有望な高校生たちの今後の活躍と研究のますますの発展を期待したい.

(文責「化学と生物」編集委員)

Reference

1) 渡辺宗孝,岩田清二:動物心理学年報,6, 75 (1956).

2) 川合隆嗣:人文論究,60, 113 (2011).