今日の話題

黄色ブドウ球菌の2成分性膜孔形成毒素γヘモリジンの膜孔形成メカニズム: 失敗から明らかになった毒素の戦略

Yoshikazu Tanaka

田中 良和

北海道大学大学院先端生命科学研究院 ◇ 〒060-0810 北海道札幌市北区北10条西8丁目

Faculty of Advanced Life Science, Hokkaido University ◇ Kita 10, Nishi 8, Kita-ku, Sapporo-shi, Hokkaido 060-0810, Japan

Published: 2015-02-20

多くの病原性細菌は,宿主の赤血球を破壊するために,膜孔形成毒素と呼ばれるタンパク質を分泌する.膜孔形成毒素は,可溶性の単量体タンパク質として分泌されるが,赤血球に接すると,細胞膜上で膜孔中間体と呼ばれる円状の会合体を形成した後,大きく形を変えて膜孔と呼ばれる孔を空けて赤血球を殺傷する(1)1) I. Iacovache, F. G. van der Goot & L. Pernot: Biochim. Biophys. Acta, 1778, 1611 (2008).図1図1■黄色ブドウ球菌の膜孔形成毒素の作用機構の模式図(上図)と,各状態の結晶構造解析の歴史(下図)).興味深いことに,膜孔を形成して細胞を殺傷するという手段は,哺乳類の免疫系においても用いられており,したがって,膜孔形成はさまざまな生物が普遍的に用いる攻撃の戦略であると言える(2)2) M. C. Peitsch & J. Tschopp: Curr. Opin. Cell Biol., 3, 710 (1991)..さらに,膜孔を分子が通過するときに生じる電位の変化を利用して,膜孔形成毒素はナノデバイスとして応用されており,実際にDNAシーケンサーが開発されつつある(3,4)3) Y. Astier, O. Braha & H. Bayley: J. Am. Chem. Soc., 128, 1705 (2006).4) A. Asandei, A. Apetrei & T. Luchian: J. Mol. Recognit., 24, 199 (2011)..このように,膜孔形成毒素は生命科学的だけでなく,工学的にも重要なタンパク質である.

図1■黄色ブドウ球菌の膜孔形成毒素の作用機構の模式図(上図)と,各状態の結晶構造解析の歴史(下図)

数ある膜孔形成毒素の中で,古くから研究されてきたものの一つが黄色ブドウ球菌の膜孔形成毒素である.黄色ブドウ球菌は院内感染の原因菌として広く知られる細菌であり,複数の種類の膜孔形成毒素を分泌して血球細胞を破壊する.黄色ブドウ球菌が分泌する膜孔形成毒素は主に2種類に分類される.一つは,1種類のタンパク質の会合体として膜孔を形成する1成分性膜孔形成毒素で,α-ヘモリジンがこれに該当する.もう一つは,2種類のタンパク質が会合して初めて溶血活性を示す,2成分性膜孔形成毒素でγ-ヘモリジンやロイコシジンがこれに分類される.これらのメカニズムの解明に向け,さまざまな研究が行われてきたが,X線結晶構造解析により初めて原子構造が決定されたのは,1成分性毒素のα-ヘモリジンの膜孔であった(図1図1■黄色ブドウ球菌の膜孔形成毒素の作用機構の模式図(上図)と,各状態の結晶構造解析の歴史(下図).Song et al.(1996)の構造)(5)5) L. Song, M. R. Hobaugh, C. Shustak, S. Cheley, H. Bayley & J. E. Gouaux: Science, 274, 1859 (1996)..α-ヘモリジンの膜孔はキノコ型の7量体の分子で,β-バレル型の膜貫通領域を有していた.その後,2成分性毒素の単量体の結晶構造が次々に発表され(6~8)6) R. Olson, H. Nariya, K. Yokota, Y. Kamio & E. Gouaux: Nat. Struct. Biol., 6, 134 (1999).7) J. D. Pedelacq, L. Maveyraud, G. Prevost, L. Baba-Moussa, A. Gonzalez, E. Courcelle, W. Shepard, H. Monteil, J. P. Samama & L. Mourey: Structure, 7, 277 (1999).8) V. Guillet, P. Roblin, S. Werner, M. Coraiola, G. Menestrina, H. Monteil, G. Prevost & L. Mourey: J. Biol. Chem., 279, 41028 (2004).,膜孔形成に伴う構造変化の詳細が明らかになってきた(図1図1■黄色ブドウ球菌の膜孔形成毒素の作用機構の模式図(上図)と,各状態の結晶構造解析の歴史(下図)).すなわち,単量体では折り畳まれていたステム領域が,膜孔では大きく飛び出し,ほかのプロトマーと会合して筒状の膜貫通領域を形成するのである.

ここまでが明らかになった頃に,膜孔の形について大きな疑問が生じた.1成分性のα-ヘモリジンは7量体の膜孔だったが,2成分性毒素の膜孔もα-ヘモリジンと同様の7量体構造,すなわち,2つの成分であるにもかかわらず奇数個のプロトマーが会合するのか,それとも偶数個のプロトマーから構成されるのかという疑問である.プロトマーの数については,20年近くにわたって論争が繰り広げられたが,2011年に2成分性膜孔形成毒素のγ-ヘモリジンの結晶構造が8量体であったことで決着がついた(図1図1■黄色ブドウ球菌の膜孔形成毒素の作用機構の模式図(上図)と,各状態の結晶構造解析の歴史(下図). Yamashita et al.(2011)の構造)(9)9) K. Yamashita, Y. Kawai, Y. Tanaka, N. Hirano, J. Kaneko, N. Tomita, M. Ohta, Y. Kamio, M. Yao & I. Tanaka: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 108, 17314 (2011)..γ-ヘモリジン膜孔は,2つの成分(LukFとHlg2)がそれぞれ交互に円状に会合して8量体を形成していた.

そして最近,γ-ヘモリジンの膜孔中間体の結晶構造が決定された(図1図1■黄色ブドウ球菌の膜孔形成毒素の作用機構の模式図(上図)と,各状態の結晶構造解析の歴史(下図).Yamashita et al.(2014)の構造)(10)10) D. Yamashita, T. Sugawara, M. Takeshita, J. Kaneko, Y. Kamio, I. Tanaka, Y. Tanaka & M. Yao: Nat. Commun., 5, 4897 (2014)..これにより,単量体から膜孔中間体へと会合し,膜孔を形成する一連の構造変化の詳細が明らかになった.膜孔中間体の構造は,膜孔と非常に類似していたが,β-バレルの上部だけが形成されており,下部の膜貫通領域は構造を形成していなかった.これは,β-バレルの上側と下側が別々に形成されることを意味しており,膜孔中間体ができたときには,β-バレルの上半分はすでにできあがっていて,膜孔を形成するときには,実際に膜に突き刺さるβ-バレルの下半分だけが構造変化をするのである.膜孔は強い界面活性剤であるドデシル硫酸ナトリウム(SDS)存在下でも解離しない非常に安定な構造を有するため,β-バレルは一つの構造単位と考えられてきたが,実は上下半分ずつ徐々に構築されるということは驚きであった.

このように,膜孔,膜孔中間体の構造が立て続けに決定されたことで,動的な分子メカニズムが一気に明らかになった.しかし,これらの構造解析の成功の陰には,非常に重要な実験の失敗が存在することを最後に述べたいと思う.上述のとおり,膜孔形成毒素のうち,最初に構造が決定されたのは,α-ヘモリジン(1成分性毒素)の膜孔であった.だとすると,膜孔形成の分子メカニズムを解明するには,α-ヘモリジンの単量体の構造解析をすれば良いと思った読者の方も多いと思う.同様に考え,Tanakaらはα-ヘモリジン単量体の構造解析に取り組んだが,MPD(2,4-ジメチルペンタンジオール)の存在下で得られた結晶の構造は7量体の膜孔であった(図1図1■黄色ブドウ球菌の膜孔形成毒素の作用機構の模式図(上図)と,各状態の結晶構造解析の歴史(下図).Tanaka et al.(2011)の構造)(11)11) Y. Tanaka, N. Hirano, J. Kaneko, Y. Kamio, M. Yao & I. Tanaka: Protein Sci., 20, 448 (2011)..この結果から,Tanakaらは,MPDが膜孔を自発的に形成する作用をもつ分子であることを見いだし,これを2成分性毒素の構造解析に応用したのである.失敗とも言えるような結果にヒントを得て,より困難な2成分性毒素の膜孔・膜孔中間体の構造解析を達成させたことは,些細なことを見逃さずに追求することの重要性を示す良い例と言える.

一連の研究により,単量体から膜孔に至る構造変化の詳細が明らかになった.先述のとおり,膜孔は分子デバイスとして応用されている.今後は,一連の研究により明らかになった分子の動きを利用し,動く分子デバイスが開発されることを期待している.また,1成分性の膜孔形成毒素については,単量体と膜孔中間体の構造がいまだに決定されていない(図1図1■黄色ブドウ球菌の膜孔形成毒素の作用機構の模式図(上図)と,各状態の結晶構造解析の歴史(下図).クエスチョンマークの部分).さらに詳しく膜孔形成現象を理解するためには,これらの構造決定が重要となる.何らかの工夫を凝らし,成功させたいと思う.

Reference

1) I. Iacovache, F. G. van der Goot & L. Pernot: Biochim. Biophys. Acta, 1778, 1611 (2008).

2) M. C. Peitsch & J. Tschopp: Curr. Opin. Cell Biol., 3, 710 (1991).

3) Y. Astier, O. Braha & H. Bayley: J. Am. Chem. Soc., 128, 1705 (2006).

4) A. Asandei, A. Apetrei & T. Luchian: J. Mol. Recognit., 24, 199 (2011).

5) L. Song, M. R. Hobaugh, C. Shustak, S. Cheley, H. Bayley & J. E. Gouaux: Science, 274, 1859 (1996).

6) R. Olson, H. Nariya, K. Yokota, Y. Kamio & E. Gouaux: Nat. Struct. Biol., 6, 134 (1999).

7) J. D. Pedelacq, L. Maveyraud, G. Prevost, L. Baba-Moussa, A. Gonzalez, E. Courcelle, W. Shepard, H. Monteil, J. P. Samama & L. Mourey: Structure, 7, 277 (1999).

8) V. Guillet, P. Roblin, S. Werner, M. Coraiola, G. Menestrina, H. Monteil, G. Prevost & L. Mourey: J. Biol. Chem., 279, 41028 (2004).

9) K. Yamashita, Y. Kawai, Y. Tanaka, N. Hirano, J. Kaneko, N. Tomita, M. Ohta, Y. Kamio, M. Yao & I. Tanaka: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 108, 17314 (2011).

10) D. Yamashita, T. Sugawara, M. Takeshita, J. Kaneko, Y. Kamio, I. Tanaka, Y. Tanaka & M. Yao: Nat. Commun., 5, 4897 (2014).

11) Y. Tanaka, N. Hirano, J. Kaneko, Y. Kamio, M. Yao & I. Tanaka: Protein Sci., 20, 448 (2011).