解説

酵母に見いだした新規な抗酸化酵素「N-アセチルトランスフェラーゼMpr1」

A Novel Antioxidative Enzyme “N-Acetyltransferase Mpr1” Found in Yeast

高木 博史

Hiroshi Takagi

奈良先端科学技術大学院大学バイオサイエンス研究科 ◇ 〒630-0192 奈良県生駒市高山町8916番地5

Graduate School of Biological Sciences, Nara Institute of Science and Technology ◇ 8916-5 Takayamacho, Ikoma-shi, Nara 630-0192, Japan

那須野

Ryo Nasuno

奈良先端科学技術大学院大学バイオサイエンス研究科 ◇ 〒630-0192 奈良県生駒市高山町8916番地5

Graduate School of Biological Sciences, Nara Institute of Science and Technology ◇ 8916-5 Takayamacho, Ikoma-shi, Nara 630-0192, Japan

Published: 2015-02-25

微生物から高等生物まで広く存在する「N-アセチルトランスフェラーゼ」は,さまざまな基質をアセチル化することで,多くの重要な細胞機能の制御に関与している.筆者らは,環状の二級アミンであるプロリンアナログ(L-アゼチジン-2-カルボン酸,シス-4-ヒドロキシ-L-プロリン)を基質とする新規のN-アセチルトランスフェラーゼMpr1を酵母Saccharomyces cerevisiaeに見いだした.また,Mpr1がアルギニン合成を亢進することで一酸化窒素の生成を誘導し,酵母の酸化ストレス耐性に寄与する新しいタイプの「抗酸化酵素」であることを明らかにした.さらに,X線結晶構造解析により,Mpr1のユニークな立体構造と反応機構の解明にも成功した.本稿では,Mpr1の分子構造と生理的役割について概説する.また,Mpr1の酵素特性や生理機能に基づく応用研究の成果も紹介する.

はじめに

N-アセチルトランスフェラーゼ(EC 2.3.1.-)は,基質のアミノ基にアセチルCoAのアセチル基を転移させる酵素である.これまでにタンパク質やアミノ酸,ポリアミン,アミノグリコシド系抗生物質などさまざまな物質を基質とするN-アセチルトランスフェラーゼが発見されており,その生理機能も多岐にわたっている(1)1) D. A. Evans: Pharmacol. Ther., 42, 157 (1989)..特に,真核生物の多くのタンパク質では,本酵素が翻訳と同時にアミノ末端のアミノ酸のアセチル化を行うと考えられており,その生物学的意義が注目されている.また,本酵素はヒストンやチューブリンのアミノ末端または特定部位のリジン残基をアセチル化することで,遺伝子発現の活性化,微小管の寿命などに関与しており,対応する脱アセチル化酵素(デアセチラーゼ)とともに細胞機能の制御に重要な役割を担っている(2)2) C. Choudhary, C. Kumar, F. Gnad, M. L. Nielsen, M. Rehman, T. C. Walther, J. V. Olsen & M. Mann: Science, 325, 834 (2009).

筆者らは,酵母Saccharomyces cerevisiaeにおけるプロリンの生理機能を解析する過程で,プロリンの毒性アナログとして知られ,環状の二級アミンであるL-アゼチジン-2-カルボン酸(AZC)を基質とする新規のN-アセチルトランスフェラーゼ(Mpr1)を偶然見いだした.また,その後の研究でMpr1が酵母の細胞内において,酸化ストレス下でアルギニン合成を亢進することで一酸化窒素(NO)の生成を誘導し,最終的には酵母の新規な酸化ストレス耐性機構に寄与していることを明らかにした.さらに最近,X線結晶構造解析と速度論的解析により,Mpr1の立体構造と反応機構を解明することに成功した.本稿では,酵母に見いだしたMpr1の分子特性と生理的役割,特にMpr1がアルギニン合成を介して関与する新しい抗酸化機構について概説する.また,Mpr1の立体構造ならびに反応機構の特徴,既知のN-アセチルトランスフェラーゼとの類似点・相違点などを解説する.さらに,Mpr1の酵素特性や生理機能に基づく,産業酵母の育種,有用物質の生産,バイオテクノロジーへの応用についても紹介する.

Mpr1は環状二級アミンを基質とする新規なN-アセチルトランスフェラーゼである

酵母S. cerevisiaeは,真核生物のモデルとして基礎科学への多大なる貢献だけでなく,製パンや各種アルコール飲料,バイオエタノールなどの生産に用いられ,発酵・醸造産業上において極めて有用な微生物である.酵母の発酵生産過程は細胞にとってストレス環境であり,エタノール,高温,冷凍,乾燥,浸透圧,酸など多様なストレスにさらされている.このようなストレスを連続的または複合的に受けると,タンパク質など生体高分子の変性・失活とともに,ミトコンドリア膜の損傷に起因する活性酸素種(ROS)の生成・蓄積によって,生育阻害や細胞死が引き起こされ,酵母の有用機能(エタノール,炭酸ガス,味・風味成分の生成)が制限されてしまう(3)3) R. V. Pérez-Gallardo, L. S. Briones, A. L. Díaz-Pérez, S. Gutiérrez, J. S. Rodríguez-Zavala & J. Campos-García: FEMS Yeast Res., 13, 804 (2013)..したがって,発酵生産性の向上には,酵母に優れたストレス耐性,特に強い抗酸化能を付与することが重要である.

筆者らは,植物や細菌において浸透圧調節物質(適合溶質)として知られているアミノ酸のプロリンが(4) 4) 高木博史:蛋白質核酸酵素,53, 249 (2008).,トレハロースやグリセロールと同様に,冷凍後の酵母の細胞生存率の低下を防ぐことを見いだした(5)5) H. Takagi, F. Iwamoto & S. Nakamori: Appl. Microbiol. Biotechnol., 47, 405 (1997)..そこで,ストレス下におけるプロリンの生理機能を解析する目的で,プロリンの毒性アナログであるAZCに対する耐性を指標に,プロリン蓄積変異株のスクリーニングを行った.その結果,変異が入ったプロリン合成系の遺伝子(6)6) Y. Morita, S. Nakamori & H. Takagi: Appl. Environ. Microbiol., 69, 212 (2003).とは別に,S. cerevisiae Σ1278b株由来のゲノムから細胞にAZC耐性を付与する遺伝子MPR1(sigma 1278b gene for L-proline analogue resistance)を単離した(7)7) H. Takagi, M. Shichiri, M. Takemura, M. Mohri & S. Nakamori: J. Bacteriol., 182, 4249 (2000)..興味深いことに,MPR1の発現はAZC耐性には関与するが,細胞内のプロリン含量に影響はなかった.MPR1は推定アミノ酸配列からN-アセチルトランスフェラーゼをコードしていると考えられ,実際にAZCを基質としてMPR1産物(Mpr1)の活性を測定したところ,明確なアセチル化活性が得られた(8)8) M. Shichiri, C. Hoshikawa, S. Nakamori & H. Takagi: J. Biol. Chem., 276, 41998 (2001)..AZCはプロリンと競合して新生ポリペプチド鎖に取り込まれると,タンパク質は正しいフォールディングを形成できずに変性・凝集し,細胞毒性を引き起こすと考えられている(9,10)9) C. Franzblau & F. Troxler: J. Biol. Chem., 250, 1464 (1975).10) K. Bessonov, V. V. Bamm & G. Harauz: Phytochemistry, 71, 502 (2010)..Mpr1はAZCのアミノ基にアセチル基を転移し,タンパク質への取り込みを防ぐことで,細胞にAZC耐性を付与していると考えられた(図1図1■AZCの毒性発現機序とMpr1によるAZCの解毒).

図1■AZCの毒性発現機序とMpr1によるAZCの解毒

AZCはタンパク質合成の際,プロリンと競合して新生タンパク質に取り込まれ,異常タンパク質の蓄積により細胞毒性を発揮する.Mpr1はAZCのアミノ基をアセチル化することで,タンパク質への取り込みを妨げていると考えられる.

MPR1はΣ1278b株の14番染色体のサブテロメア付近に存在するが,10番染色体のサブテロメア付近にも1コピー存在する(MPR2).両者のDNA配列は1塩基だけ異なり,その結果85番目のアミノ酸残基に違いがあるが(Mpr1: Gly, Mpr2: Glu),機能的な差異は観察されていない(7)7) H. Takagi, M. Shichiri, M. Takemura, M. Mohri & S. Nakamori: J. Bacteriol., 182, 4249 (2000)..Mpr1はそのアミノ酸配列から,Gcn5-related N-acetyltransferase(GNAT)スーパーファミリーに属すると考えられた(7)7) H. Takagi, M. Shichiri, M. Takemura, M. Mohri & S. Nakamori: J. Bacteriol., 182, 4249 (2000)..GNATスーパーファミリーには,ヒストンタンパク質やポリアミン,アミノ酸,セロトニン,アミノグリコシド系抗生物質などさまざまな化合物を基質とするタンパク質が含まれるが(11)11) M. W. Vetting, L. P. S de Carvalho, M. Yu, S. S. Hegde, S. Magnet, S. L. Roderick & J. S. Blanchard: Arch. Biochem. Biophys., 433, 212 (2005).,これらの基質のほとんどは一級アミンであり,環状の二級アミンを基質とするN-アセチルトランスフェラーゼはこれまで報告がない.一方in vitroでの解析から,Mpr1はAZCと同様に環状二級アミンであるプロリンアナログのシス-4-ヒドロキシ-L-プロリン(CHOP)を基質にすることも判明した(12)12) B. T. Hoa, T. Hibi, R. Nasuno, G. Matsuo, Y. Sasano & H. Takagi: J. Biosci. Bioeng., 114, 160 (2012)..以上の結果は,Mpr1が極めて珍しい基質特異性を有する新規なN-アセチルトランスフェラーゼであることを示している(図2図2■Mpr1(上段)と既知のGNATスーパーファミリー酵素(下段)の基質特異性).

図2■Mpr1(上段)と既知のGNATスーパーファミリー酵素(下段)の基質特異性

Mpr1はアルギニン合成を亢進し,新規な酸化ストレス耐性機構に関与する

AZCは,自然界ではスズランなど一部の植物に存在するだけで,酵母の細胞内には検出されていない(13,14)13) L. Fowden: Biochem. J., 64, 323 (1956).14) L. Fowden & M. Bryant: Biochem. J., 71, 210 (1959)..では,Mpr1の細胞内基質および生理機能とは一体何か? 筆者らはS. cerevisiae Σ1278bの野生型株(MPR1/2保持)とMPR1/2の破壊株をさまざまな培養条件で比較したところ,MPR1/2破壊株が過酸化水素や高温処理などの酸化ストレスに対して感受性になることを見いだした(15)15) M. Nomura & H. Takagi: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 101, 12616 (2004).図3A図3■Mpr1依存的な抗酸化作用とそのメカニズム).また,冷凍やエタノールなどのストレスに対してもMpr1が細胞保護効果を示すことがわかった(16,17)16) X. Du & H. Takagi: J. Biochem., 138, 391 (2005).17) X. Du & H. Takagi: Appl. Microbiol. Biotechnol., 75, 1343 (2007)..その後の遺伝学的解析から,酵母が酸化ストレスの一種である高温にさらされると,Mpr1依存的に合成されるアルギニンが細胞のストレス耐性に関与することを見いだした(18)18) A. Nishimura, T. Kotani, Y. Sasano & H. Takagi: FEMS Yeast Res., 10, 687 (2010)..さらに最近では,アルギニンからジフラビンタンパク質Tah18依存的にNOが発生すること,またNOがシグナル分子として酸化ストレス耐性に寄与するメカニズムを明らかにした(19)19) A. Nishimura, N. Kawahara & H. Takagi: Biochem. Biophys. Res. Commun., 430, 137 (2013)..酵母においてアルギニン合成を介した抗酸化機構はこれまで報告がなく,Mpr1は新規な抗酸化機構の鍵酵素とも言える.

図3■Mpr1依存的な抗酸化作用とそのメカニズム

(A)野生型株(WT)とMPR1/2破壊株(Δmpr1/2)の生育.(B)MPR1ARG2ARG8各遺伝子の破壊株の生育.各株を最少培地にて培養した.(C)Mpr1依存的なアルギニン合成と抗酸化機構.Mpr1は,N-アセチルグルタミン酸,N-アセチルグルタミルリン酸,N-アセチルグルタミン酸-γ-セミアルデヒドのいずれかを供給し,アルギニン合成に寄与する.Glu:グルタミン酸,GP:グルタミルリン酸,GSA:グルタミン酸-γ-セミアルデヒド,Orn:オルニチン,Arg:アルギニン.

Mpr1の細胞内基質については,まだ同定されていないが,遺伝学的な解析からアルギニン合成系の中間代謝物であるN-アセチルグルタミン酸,N-アセチルグルタミルリン酸,N-アセチルグルタミン酸-γ-セミアルデヒドのいずれかを,Mpr1が直接的または間接的に生成することが明らかとなっている(18)18) A. Nishimura, T. Kotani, Y. Sasano & H. Takagi: FEMS Yeast Res., 10, 687 (2010).図3B, C図3■Mpr1依存的な抗酸化作用とそのメカニズム).Arg2(N-アセチルグルタミン酸シンターゼ)とArg6(N-アセチルグルタミン酸キナーゼ)は最終産物のアルギニンにより強いフィードバック阻害を受けるが(20)20) K. Pauwels, A. Abadjieva, P. Hilven, A. Stankiewicz & M. Crabeel: Eur. J. Biochem., 270, 1014 (2003).in vitroの解析からMpr1の酵素活性はアルギニンによる阻害を受けないことがわかっている.Mpr1がArg6,もしくはその下流の酵素と同様の生成物を供給する場合,Mpr1依存的なアルギニン合成経路はアルギニンによるフィードバック阻害を受けないと考えられる.細胞が酸化ストレス条件に置かれた場合,アルギニン欠乏でないにもかかわらず,細胞保護のためにアルギニンを合成する必要がある.このような状況では,フィードバック阻害を受けないMpr1を介してアルギニンを合成することで,ストレス耐性を獲得するのではないか? つまり,既知のアルギニン合成系は通常時に,Mpr1依存的なアルギニン合成系はストレス応答時に,それぞれ目的別に機能しているのではないか? そうだとすると,この機構は細胞の生存戦略として合理的であると言える.一方,Mpr1の生成物が上記のいずれであったとしても,Arg2やArg6,Arg5などのアルギニン合成系の酵素はミトコンドリアに局在すると報告されているため(21)21) J. C. Jauniaux, L. A. Urrestarazu & J. M. Wiame: J. Bacteriol., 133, 1096 (1978).,Mpr1もミトコンドリアへの局在が予想された.GFPを用いた細胞内局在の観察を行ったところ,Mpr1は細胞質以外にミトコンドリアにも存在することが示された(18)18) A. Nishimura, T. Kotani, Y. Sasano & H. Takagi: FEMS Yeast Res., 10, 687 (2010)..Mpr1の一次構造には明確なミトコンドリア移行シグナルは存在しない.また,GFPをMpr1のアミノ末端に融合するとAZC耐性を示さず,液胞に局在したことから,アミノ末端側は酵素機能の発現や細胞内局在に関与すると考えられる.最初に基質として同定したAZCは,培地から細胞内に取り込まれた後,細胞質のMpr1がアセチル化し,解毒するのであろうが,酸化ストレスなどの生理的条件では,Mpr1はミトコンドリア内のアルギニン合成系酵素との相互作用も含め,その機能や局在が厳密に制御されている可能性がある.

興味深いことに,Mpr1は同じS. cerevisiaeの中でも,ゲノム解析が行われたS288C系統株や清酒酵母にはオルソログ遺伝子が存在しないが,近縁種のSaccharomyces paradoxus(Spa Mpr1)や分裂酵母Schizosaccharomyces pombe(Ppr1)には保存されており,AZCアセチル化活性を有している(22,23)22) Y. Kimura, S. Nakamori & H. Takagi: Yeast, 19, 1437 (2002).23) M. Nomura, S. Nakamori & H. Takagi: J. Biochem., 133, 67 (2003)..また,Kluyveromyces lactisCandida albicansWickerhamia fluorescensなど多くの酵母やカビのゲノム上にはMPR1と相同性の高いDNA配列が存在しており,これらの菌ではAZCアセチル化活性も検出された(24,25)24) M. Wada, K. Okabe, M. Kataoka, S. Shimizu, A. Yokota & H. Takagi: Biosci. Biotechnol. Biochem., 72, 582 (2008).25) T. Kotani & H. Takagi: FEMS Yeast Res., 8, 607 (2008)..したがって,MPR1は共通の祖先遺伝子に由来しており,このようなMpr1依存的な酸化ストレス耐性機構は真菌類に広く保存されている可能性がある.酵母においてMpr1は,既知の抗酸化酵素のようにROSに直接作用するのではなく,プロリンやアルギニン代謝に関与することでROSレベルを制御していることから,既存の抗酸化システムのバックアップとして機能しているのかもしれない.

Mpr1はユニークな立体構造と反応機構を有している

上述したように,Mpr1はユニークな基質特異性を有している.また,Mpr1にはGNATスーパーファミリーに保存される配列モチーフは存在するものの(11,25)11) M. W. Vetting, L. P. S de Carvalho, M. Yu, S. S. Hegde, S. Magnet, S. L. Roderick & J. S. Blanchard: Arch. Biochem. Biophys., 433, 212 (2005).25) T. Kotani & H. Takagi: FEMS Yeast Res., 8, 607 (2008).,一次構造全長にわたって相同性があり,かつ立体構造が明らかなタンパク質は報告されていない.したがって,Mpr1は新規な立体構造を有するタンパク質であり,特に基質認識部位の構造や認識様式は独特なものであると予想された.実際に,X線結晶構造解析によりMpr1の構造決定を試みたところ,基質フリーの構造を1.9 Åの分解能で,また基質の一つであるCHOPとの複合体構造を2.3 Åの分解能で,それぞれ決定することに成功した(26)26) R. Nasuno, Y. Hirano, T. Itoh, T. Hakoshima, T. Hibi & H. Takagi: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 110, 11821 (2013)..Mpr1は8本のβ-ストランドと6本のα-へリックスから成り,既知のGNATスーパーファミリーのタンパク質のフォールディングとよく似た構造であった.超遠心分離により溶液中での会合状態を解析したところ,Mpr1は溶液中で二量体を形成しており,これもほかのGNATタンパク質と類似していた.Daliサーバー(27)27) L. Holm & P. Rosenström: Nucleic Acids Res., 38 (Web Server), W545 (2010).を用いて,立体構造の類似性が高いタンパク質を探索すると,Mpr1は真核生物よりも細菌由来のN-アセチルトランスフェラーゼに類似していることが明らかになった.

複合体構造中のCHOPは隣接した2本のβ-ストランドの間の領域に結合しており,Asn135の側鎖アミド,およびAsn125とLeu173の主鎖アミドとCHOPのカルボキシル基が結合していた(図4A図4■Mpr1の立体構造).またPhe138の主鎖アミドは,水分子を介してCHOPのアミノ基と相互作用していた.Asn135Ala変異体は基質に対するKm値が約20倍上昇し,Asn135Asp変異体では酵素活性が検出できなくなったこと,さらに反応溶液のpHを酸性側にシフトさせることで基質に対するKm値が上昇したことから,Mpr1はAsn135とそれを含む領域により,基質のカルボキレートアニオンを認識・結合していると考えられた(図5A図5■Mpr1(A)および既知のGNATタンパク質(B)の反応機構).一方,CHOPのγ炭素原子とTyr75の疎水性側鎖がファンデルワールス相互作用していることも示唆された.予想に反することではあるが,これらのことはMpr1による基質の環状構造の認識はそれほど厳密なものではなく,むしろカルボキシル基の認識が基質結合により重要であることを示している.

図4■Mpr1の立体構造

(A)Mpr1-CHOP-アセチルCoA三者複合体モデルの活性中心.いくつかのアミノ酸残基とアセチルCoA, CHOPをスティックモデルで示す.(B)Mpr1および既知GNATタンパク質(ribosomal protein acetyltransferase(2CNS),aminoglycoside N-acetyltransferase(1M4Iおよび1B87),serotonin N-acetyltransferase(1CJW),glucosamine-6-phosphate N-acetyltransferase(1I1D),histone acetyltransferase(1FY7),mycothiol synthase(1OZP),推定acetyltransferase(4H89))のβ-バルジ構造.Mpr1のPhe138を含むβ-ストランド(緑),推定acetyltransferase(4H89)のβ-ストランド(赤),およびその他のGNATタンパク質のβ-ストランド(黒)に相当する領域をそれぞれリボンモデルで示す.(C)Phe65残基の周辺構造.Phe65および周辺の疎水性残基をスティックモデルで示す.