Kagaku to Seibutsu 53(3): 186-191 (2015)
セミナー室
植物細胞壁: その形を決める仕組み
細胞の形を決定する微小管安定性制御機構
Published: 2015-02-20
© 2015 Japan Society for Bioscience, Biotechnology, and Agrochemistry
© 2015 公益社団法人日本農芸化学会
多細胞生物である高等植物はさまざまな形の細胞から構成されており,細胞の形には細胞や組織の機能が反映されている場合も多い.たとえば,茎,胚軸,根などの軸状組織は細長い円筒状の細胞が集合し,扁平な葉の表皮はジグソーパズル状の複雑に入り組んだ細胞で大部分が埋め尽くされている.葉表皮の細胞集団には,ガス交換のために開閉する半月形の孔辺細胞や防御機能が想定される枝状のトライコーム細胞が散在する.また,根には効率的な養分吸収のために棒状の根毛が分化している.
植物細胞の最終的な形は,細胞分裂後の細胞(多くは立方体に近い形をしている)がどの方向にどれだけ肥大(伸長)するかによって決まり,この過程には細胞骨格系,特に微小管細胞骨格による細胞壁形成制御が重要な役割を果たす.微小管の形成を薬剤で阻害すると細胞は極性を失って肥大する.また,細胞の形が異常になった変異体の多くで,微小管そのもの,あるいは微小管を制御する分子機構に変異が見られる(1)1) T. Hashimoto: “The Plant Cytoskeleton,” ed. by B. Liu, Springer, 2011, pp. 245–257..
植物組織は発生・分化の段階で植物ホルモンや細胞間コミュニケーションによる相互位置情報の伝達により細胞の最終形や組織内での配置が決められる.また,遺伝的に決定された細胞の形態や配置は環境要因(病原菌の感染,光,重力,温度などの物理的刺激)によってある程度可塑的に変化する.本稿では,特に表層微小管がかかわる植物細胞の形の制御様式について,シグナル伝達に注目して解説する.
微小管はα,βチューブリンヘテロ二量体から構成される中空の生体ポリマーであり,真核生物で広く保存されている.細胞周期の間期において,大部分の動物細胞では核近辺に配置される中心体から細胞膜に向かって微小管が放射状に伸びているが,中心体を欠く植物細胞では微小管は細胞膜内側に張り付いた表層微小管(cortical microtubules)を形成する(図1A図1■表層微小管によるセルロース繊維の配向制御).この間期植物細胞に一般的に見られる表層微小管の主な(おそらく唯一ではないと思われる)機能は,細胞壁におけるセルロース繊維(cellulose microfibril)の並び方を制御することにある.
(A)間期植物細胞における微小管(表層微小管)の配置.核は青色の楕円形で示す.G. Westeneys: J. Cell Sci., 115, 1345(2002)より改変.(B)細胞膜直下の束化した表層微小管はリンカータンパク質(CSI1)によりセルロース合成酵素複合体(CSC)と相互作用する.CSCはセルロース繊維を合成しながら,微小管に沿って移動する.結晶化したセルロース繊維の配向と直角方向に細胞が伸長する.
細胞の機械的強度を保ついくつかの細胞壁多糖の中で,結晶性セルロース繊維がその配置方向(配向)を通じて細胞の伸長方向を決定している(図1B図1■表層微小管によるセルロース繊維の配向制御).セルロース繊維はほとんどの伸長する細胞において伸長軸に対して垂直方向に並んだばね様の構造をとり,細胞側面の肥大を抑制することにより,縦方向の細胞伸長を促進する.植物細胞壁中のセルロースは細胞膜に埋め込まれたセルロース合成酵素複合体(cellulose synthase complexes; CSCs)により合成される.CSCは3種のセルロース合成酵素6分子を主成分とする構成単位が6単位集合したロゼット超構造をとり,細胞内から供給されたショ糖をつなげてセルロースポリマーを細胞壁に吐き出す.一つのセルロース合成酵素が1分子のセルロースを合成する能力があるので,CSCロゼッタ構造は最大36分子(実際はそれよりも少ない)のセルロースが同時に合成され,すぐにセルロース分子同士が水素結合で多量体の束(結晶性セルロース)を形成し,強固な微繊維となる(2)2) M. Bringmann, B. Landrein, C. Schudoma, O. Hamant, M.-T. Hauser & S. Persson: Trends Plant Sci., 17, 666 (2012).(図1B図1■表層微小管によるセルロース繊維の配向制御).
伸長する植物細胞では表層微小管はセルロース微繊維と大部分同じ向きに並んでいることから,前者が後者の配向を決めているという仮説が提唱されていた.2006年に蛍光標識したセルロース合成酵素で可視化したCSCが束化した表層微小管(大部分は2本の微小管の束と思われる)に沿って細胞膜中を移動すること,青色光を植物体に照射して表層微小管の配向を変化させると,CSCの進行方向も微小管の変化に伴って同様に変化することから,この仮説は強く支持された(3)3) A. R. Paredez, C. R. Somerville & D. W. Ehrhardt: Science, 312, 1491 (2006)..一方,植物体の微小管を薬剤で消失させると,CSCはしばらくの間,以前の進行方向に近い方向に進む.すなわち,CSCの推進力はセルロース繊維の合成によるもので,動きにくい結晶性セルロースに押し出される形で,CSCが微小管に沿って動くことを示唆している.また,微小管がない状態ではCSCの進行速度が低下したことから,微小管との相互作用がCSCの進行速度を速めている.
古くから表層微小管とCSCを物理的に結びつけるリンカー分子が存在することが提唱されてきたが,近年,この機能を担うタンパク質(Cellulose Synthase Interactive 1; CSI1)が同定された.CSI1は最初にセルロース合成酵素と相互作用する分子として酵母2ハイブリッド法で同定されたが(4)4) Y. Gu, N. Kaplinsky, M. Bringmann, A. Cobb, A. Carroll, A. Sampathkumar, T. I. Baskin, S. Persson & C. R. Somerville: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 107, 12866 (2010).,細胞伸長が異常な変異株の原因遺伝子としても改めて報告されている(5,6)5) M. Bringmann, E. Li, A. Sampathkumar, T. Kocabek, M. T. Hauser & S. Persson: Plant Cell, 24, 163 (2012).6) Y. Mei, H.-B. Gao, M. Yuan & H.-W. Xue: Plant Cell, 24, 1066 (2012)..シロイヌナズナにはCSI1に相同性の高いCSI2とCSI3があるが,CSI2はほとんど発現していない.これらのCSIタンパク質はアルマジロ反復配列(armadillo repeats)とC2ドメインをもつ.CSI1とCSI3はCSCと植物細胞で共局在し(したがって,表層微小管上に局在),CSI1には微小管結合ドメインが同定されている(7,8)7) S. Li, L. Lei, C. R. Somerville & Y. Gu: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 109, 185 (2012).8) L. Lei, S. Li, J. Du, L. Bashline & Y. Gu: Plant Cell, 25, 4912 (2013)..一方,CSI1とCSI3はお互いに部分的にしか共局在しない(8)8) L. Lei, S. Li, J. Du, L. Bashline & Y. Gu: Plant Cell, 25, 4912 (2013)..csi1変異株では細胞伸長が部分的に阻害されている一方,csi3変異株の表現型はほとんどないが,csi1csi3二重変異株では顕著な細胞の伸長阻害が見られた.また,csi1変異株細胞では,CSCの微小管への局在が大幅に低下し,csi3では局在に変化が見られなかった.興味深いことに,csi1細胞ではCSCの速度が低下しており,csi3はこの効果を増大させた(8)8) L. Lei, S. Li, J. Du, L. Bashline & Y. Gu: Plant Cell, 25, 4912 (2013)..前述の薬剤による微小管消失実験結果と同様に,CSCは微小管と相互作用することにより,細胞膜中の移動速度(おそらくセルロース合成速度を反映しているものと考えられる)を増大させていることが示唆される.また,CSI3をCSI1プロモーターの下流で発現させても,csi1変異株の表現型は相補されなかった.これらの実験結果は,CSI1が主なリンカー分子として機能し,CSI3が補助的に働くという解釈だけでは説明できないため,論文の筆者らはCSI1とCSI3には部分的な機能分化があると主張している(8)8) L. Lei, S. Li, J. Du, L. Bashline & Y. Gu: Plant Cell, 25, 4912 (2013)..
シロイヌナズナ葉の表皮細胞は「ジグソーパズル」状の形をとる.平面的な凹凸のある細胞の形は,隣り合った細胞間でのシグナル応答の結果,微小管とアクチン繊維細胞骨格の再編成が起こり構築される(図2図2■葉表皮細胞の凹凸部における細胞骨格の制御).
オーキシンを結合したオーキシン結合タンパク質(ABP1)は細胞膜局在受容体型キナーゼ(TMK)と複合体を形成し,凹部ではsmall GTPaseであるROP6を活性化し,RIC1を介して微小管の重合を促進する.一方,凸部ではこの複合体はROP2を活性化し,RIC4を介してアクチン繊維の重合を促進する.この両者の働きにより,凹凸のある葉の表皮細胞が形作られる.文献9を参考に作図.
細胞の多様な形が作られる際には低分子量Gタンパク質が重要な役割を果たしている.低分子量Gタンパク質は活性型(GTP結合型)と不活性型(GDP結合型)を行き来する分子であり,その活性はさまざまな段階で制御されている.動物や真菌ではRac,Cdc42,RhoのようなRhoサブファミリーが細胞骨格の制御に重要であるが,植物においてもRhoサブファミリーに含まれるROP(Rho-of-plant)が働く(9)9) C. Craddock, I. Lavagi & Z. Yang: Trends Cell Biol., 22, 492 (2012)..葉表皮細胞に凹凸が形成されるのは,凸部においてROP2の下流因子であるRIC4によってアクチン繊維の重合が促進されて凸領域の拡大が促進される一方,凹部においてはROP6によって微小管結合タンパク質であるRIC1が活性化され,微小管が凹部間を橋渡しするように束化した構造を作る.微小管により橋渡しされた2つの凹部は拡張が阻害される(10)10) Y. Fu, Y. Gu, Z. Zheng, G. Wasteneys & Z. Yang: Cell, 120, 687 (2005)..
最近,細胞間隙に存在するオーキシンが細胞膜内側のROPを活性化する仕組みが明らかとなった.ABP1(Auxin binding protein1)はER内および細胞膜近傍の細胞壁スペースに存在するオーキシン結合タンパク質であり(11)11) T. Xu, M. Wen, S. Nagawa, Y. Fu, J.-G. Chen, M.-J. Wu, C. Perrot-Rechenmann, J. Friml, A. M. Jones & Z. Yang: Cell, 143, 99 (2010).,オーキシンが結合したABP1は細胞膜局在受容体様キナーゼTMK(transmembrane kinase)と複合体を形成する(12)12) T. Xu, N. Dai, J. Chen, S. Nagawa, M. Cao, H. Li, Z. Zhou, X. Chen, R. De Rycke, H. Rakusova et al.: Science, 343, 1025 (2014)..この複合体はROP2およびROP6をともに活性化し,RIC4とRIC1を介して,細胞の凹凸の形成を誘導する.シロイヌナズナではTMK相同遺伝子は4つあるが,tmk四重変異体ではROPシグナル経路がオーキシンによって活性化されず,細胞骨格が再編成されずに,最終的な表現型として表皮細胞に凹凸がほとんどできない.また,ROP2-RIC4シグナル系は細胞骨格の再編成だけでなく,オーキシン排出輸送体であるPIN1の細胞内取り込みも抑制することで,凸部においてオーキシンを細胞外に効率よく排出させる(13)13) S. Nagawa, T. Xu, D. Lin, P. Dhonukshe, X. Zhang, J. Friml, B. Scheres, Y. Fu & Z. Yang: PLoS Biol., 10, e1001299 (2012)..
このシグナル系では,細胞骨格が空間的に制御され区画化されている.活性化したROP2はRIC1と結合することによりその働きを阻害し,RIC1の微小管結合を妨げる.一方でROP6-RIC1によって形成された束化した微小管はROP2とRIC4の結合を妨げ,アクチン繊維の形成を妨げる.この相互抑制システムによって,一つの細胞の中に区画化されたシグナル領域が形成され,葉表皮細胞の特徴的な凹凸を作る.ある細胞の凸部は隣り合う細胞の凹部と組み合わされるように凹凸が発達する.すなわち,隣接する細胞間にはおそらくはオーキシンを介した相互作用が働き,互いに接する細胞領域で相反するシグナル系が利用されると想像される.TMK1は凹凸形成の初期段階では凸部に集積することから,この時期の凹凸部における局所的なオーキシン濃度勾配の形成に寄与しているのかもしれない.
表皮細胞凹部を架橋する微小管束に沿ってセルロース微繊維が実際に形成されているか,また,セルロース微繊維か表層微小管束のどちらが細胞狭部の形成に主要な働きをしているのか,に関しては実証されていない.後述の環境刺激に応答した微小管の再編においても,「表層微小管がセルロース微繊維の配向を決定する」という主に胚軸表皮細胞における観察結果をもとに考察されているが,微小管再編時においてセルロース微繊維の配向がどの程度,またどれだけ素早く変化するかは,よく解析されていない.
弱光化で発芽させた幼植物に横方向から青色光を照射すると,細長く伸びた胚軸は光をフォトトロピン(phototropin)と呼ばれる青色光受容体キナーゼにより感知し,光の方向に向かって屈曲する.青色光照射前の胚軸表皮細胞では表層微小管が伸長方向軸に対して垂直(横方向)に配向することで縦方向の細胞伸長を促進しているが,青色光が照射された側の細胞では縦方向に微小管が再編される(図3図3■青色光による表層微小管の再編成).この微小管再編現象は光照射数分後に開始され,約1時間後に完了する比較的早い反応であり,胚軸の光屈性に重要であると考えられる.この配向変化は細胞の縦方向に微小管が新生することが原因であるが,興味深いことにこの現象に微小管重合開始に必須なγチューブリン含有複合体は関与しない.横方向の微小管に交差して縦または斜め方向に別の微小管が横断する際に,2本の微小管の交差点で横断する方の微小管が微小管切断タンパク質カタニン(katanin)により切断される.切断後の微小管プラス端が引き続き重合を続けることにより,縦方向の微小管の本数が増大する(14)14) J. J. Lindeboom, M. Nakamura, A. Hibbel, K. Shudyak, R. Gutierrez, T. Ketelaar, A. M. C. Emos, B. M. Mulder, V. Kirik & D. W. Ehrhardt: Science, 342, 1245533 (2013)..カタニンの微小管切断活性は青色光を受容したフォトトロピンにより増大する.光照射前では横方向の微小管が大部分を占めるため,縦方向の微小管が重合を続けると,次々と横方向に微小管と交差し,縦方向の微小管が増幅されることになる.縦方向の表層微小管が大部分を占める表皮細胞は縦方向に伸長できないため,光照射を受ける側の伸長が受けない側に比べて抑制され,青色光の方向に胚軸が屈曲すると考えられる.
暗所で生育させたシロイヌナズナ幼植物の胚軸表皮細胞は細胞の長軸に対して直角方向(図では横方向)に表層微小管が配向している.一方向から青色光を照射すると,微小管同士が交差する点で縦方向の微小管がカタニンにより切断され,縦方向に新たな微小管(青色)が新生する.この微小管の切断と新生は微小管交差点で繰り返され,箒状に縦方向の微小管が増幅する.文献14より改変.
本稿の最後に,細胞の形の変異株から同定された因子が,環境ストレスに応答して微小管を再編する機能をもつことが見いだされた研究を紹介する.われわれの研究室では,軸組織の表皮細胞が右または左に傾いて伸長するために,根,胚軸,花弁などがねじれる変異体を多数単離してきた.その中の一つに,propyzamide hypersensitive 1-1d(phs1-1d)と呼ばれる変異体がある.この半優勢変異体の微小管は微小管脱重合剤プロピザミドに高感受性を示し,根などの軸組織は左方向にねじれる(15)15) K. Naoi & T. Hashimoto: Plant Cell, 16, 1841 (2004)..この変異体の原因遺伝子は,C末端にMAPK(mitogen-activated protein kinase)phosphatase様ドメインをもつタンパク質をコードしており,phs1-1d変異株ではN末端のMAPK相互作用モチーフ類似配列のアミノ酸置換変異が原因であった.PHS1の遺伝子破壊変異株は通常の培養条件下では顕著な表現型を示さないこと(16)16) J. Pytela, T. Kato & T. Hashimoto: Planta, 231, 1311 (2010).,phs1-1d変異遺伝子を野生株導入するとねじれ変異形質が再現できることから,phs1-1dは機能獲得変異であることが推定される.
組換えPHS1タンパク質は人工基質に対してフォスファターゼ活性を示すが,フォスファターゼ活性部位に変異を導入して活性を完全に失わせた変異PHS1を植物細胞で発現させたところ,表層微小管が脱重合され,細胞と組織の異常な肥大が見られた(図4A図4■高浸透圧ストレスによる微小管の再編成).さらなる解析により,この微小管脱重合活性にはフォスファターゼドメインを除く中央断片が必要十分であり,この領域は粘菌の非典型的なキナーゼドメインと相同性をもつことがわかった(17)17) S. Fujita, J. Pytela, T. Hotta, T. Kato, T. Hamada, R. Akamatsu, Y. Ishida, N. Kutsuna, S. Hasezawa, Y. Nomura et al.: Curr. Biol., 23, 1969 (2013)..PHS1断片に活性のあるフォスファターゼドメインが含まれると,このキナーゼドメインの微小管脱重合活性が効果的に抑制されることから,通常の植物細胞ではフォスファターゼドメインがPHS1キナーゼの活性を抑えていることが示唆された.PHS1キナーゼドメインの細胞内基質を探索した結果,このキナーゼはin vitroでもin vivoでもαチューブリンのThr349をリン酸化することが明らかとなった.このトレオニンは微小管中の縦方向に並ぶ2つのチューブリン分子の境界面に存在し,微小管ポリマーの安定性に重要であると推測される.実際,この部位をリン酸化されたチューブリンはin vitroでもin vivoでも微小管にほとんど重合しないことが示された(17)17) S. Fujita, J. Pytela, T. Hotta, T. Kato, T. Hamada, R. Akamatsu, Y. Ishida, N. Kutsuna, S. Hasezawa, Y. Nomura et al.: Curr. Biol., 23, 1969 (2013)..
(A)活性化型PHS1を発現させたシロイヌナズナ幼植物体.細胞は極性をもった伸長が阻害され,丸く膨らむ.下図は上図の根端部の拡大図.(B)通常の生育条件では,PHS1のフォスファターゼ活性がキナーゼ活性を抑制するため,PHS1は不活性状態に保持される(左図).高浸透圧ストレスがかかると,この抑制が速やかに解除されるために,PHS1は活性化され,チューブリンをリン酸化する.リン酸化されたチューブリンは微小管ポリマーに取り込まれない.文献17より改変.
原形質分離を起こすような高浸透圧条件に植物細胞をさらすと微小管の速やかな脱重合が引き起こされること,およびαチューブリンのThr349がその際にリン酸化されるらしいことが報告されている(18)18) Y. Ban, Y. Kobayashi, T. Hara, T. Hamada, T. Hashimoto, S. Takeda & T. Hattori: Plant Cell Physiol., 54, 848 (2013)..PHS1遺伝子破壊変異株ではこの現象が全く起こらないことから,PHS1のチューブリンリン酸化活性が高浸透圧ストレスにより活性化され,微小管の速やかな脱重合が引き起こされることが判明した(図4B図4■高浸透圧ストレスによる微小管の再編成).最初に発見されたphs1-1d変異株では標的MAPKとの相互作用が部分的に弱められたため,PHS1キナーゼがストレス非依存的に低レベルで活性化され,微小管の不安定化とねじれ表現型が現れたと考えられる.
間期の植物細胞に特徴的な表層微小管はセルロース合成酵素複合体の動きを制御することにより,セルロースの配向を決定し,植物細胞の最終的な形を決定する主要因となっている.したがって,表層微小管が細胞膜直下でどのようなパターンに配置されるかが重要であり,その制御機構の解明が期待される.微小管はダイナミックに動く動的なポリマーであり,細胞が膨張を完了して最終形を取った後でも,光や浸透圧などの外界刺激により,そのパターンが再編成されることが近年注目されるようになった.このような細胞骨格の再編成は動けない植物が環境刺激や環境ストレスにすばやく応答し,環境によりよく適応できるように進化させてきた細胞応答システムかもしれない.
Acknowledgments
筆者らの研究は,文部科学省基盤研究ならびに新学術領域研究「植物細胞壁の情報処理システム」により支援されています.
Reference
1) T. Hashimoto: “The Plant Cytoskeleton,” ed. by B. Liu, Springer, 2011, pp. 245–257.
3) A. R. Paredez, C. R. Somerville & D. W. Ehrhardt: Science, 312, 1491 (2006).
6) Y. Mei, H.-B. Gao, M. Yuan & H.-W. Xue: Plant Cell, 24, 1066 (2012).
7) S. Li, L. Lei, C. R. Somerville & Y. Gu: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 109, 185 (2012).
8) L. Lei, S. Li, J. Du, L. Bashline & Y. Gu: Plant Cell, 25, 4912 (2013).
9) C. Craddock, I. Lavagi & Z. Yang: Trends Cell Biol., 22, 492 (2012).
10) Y. Fu, Y. Gu, Z. Zheng, G. Wasteneys & Z. Yang: Cell, 120, 687 (2005).
15) K. Naoi & T. Hashimoto: Plant Cell, 16, 1841 (2004).
16) J. Pytela, T. Kato & T. Hashimoto: Planta, 231, 1311 (2010).