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脂質を動かす酵母Oshタンパク質ファミリー: オルガネラ膜接触部位におけるOshの役割

Atsuko Ikeda

池田 敦子

広島大学大学院生物圏科学研究科 ◇ 〒739-8528 広島県東広島市鏡山1-4-4

Graduate School of Biosphere Science, Hiroshima University ◇ 1-4-4 Kagamiyama, Higashi-Hiroshima-shi, Hiroshima 739-8528, Japan

Kouichi Funato

船戸 耕一

広島大学大学院生物圏科学研究科 ◇ 〒739-8528 広島県東広島市鏡山1-4-4

Graduate School of Biosphere Science, Hiroshima University ◇ 1-4-4 Kagamiyama, Higashi-Hiroshima-shi, Hiroshima 739-8528, Japan

Published: 2015-03-20

細胞膜やオルガネラはそれぞれ固有の脂質組成を有しており,それらが正しく維持されて細胞は正常に機能する.脂質組成の維持には,脂質が合成された場所から目的の場所へ正確に運ばれる必要がある.脂質の輸送は小胞輸送のほかに,輸送小胞を介さない特殊な装置によって厳密に制御されていると考えられる.近年,オキシステロール結合タンパク質(oxysterol-binding protein; OSBP)の酵母ホモログ(Osh)が,ステロール以外にphosphatidylinositol-4-phosphate(PI4P),セラミド,phosphatidylserine(PS)の“運び屋”として働いていることが見いだされた.本稿では,Oshの最新の知見を紹介する.

OSBPおよびORP(OSBP-related proteins)はヒトから酵母まで高度に保存されたタンパク質である(1)1) V. M. Olkkonen & S. Li: Prog. Lipid Res., 52, 529 (2013)..異なる分子種からなるファミリーを形成し,C末端に脂質と結合するOSBP-related ligand-binding domain(ORD)をもつ.出芽酵母Saccharomyces cerevisiaeには,OSBPと相同性を有する7つの分子(Osh1-Osh7)をコードする遺伝子OSH1-OSH7が存在する.7つすべての遺伝子を破壊すると酵母は致死となることから,OSHは酵母にとって重要な働きをもつ遺伝子であると言える.Osh1-Osh4はPI4Pと結合するPleckstrin homology(PH)domainを有し,さらにOsh1とOsh2はC末端側にタンパク質との相互作用に関連するankyrin repeats(ANK)を,Osh3はGolgi dynamics(GOLD)domainをもつ(図1図1■酵母Oshタンパク質ファミリーの構造).

図1■酵母Oshタンパク質ファミリーの構造

Oshファミリーの中でもOsh4は最初に機能が明らかにされたタンパク質であり,最もよく研究が進んでいる.OSH4遺伝子を欠失した酵母を用いた解析から,Osh4はゴルジ体からの輸送小胞の形成を負に制御する因子であることが1996年に報告された(1)1) V. M. Olkkonen & S. Li: Prog. Lipid Res., 52, 529 (2013).図2図2■酵母Oshタンパク質ファミリーの役割; ①).Osh4はそのORD内にある一つの結合ポケットでステロールとPI4Pの両方と結合する能力を有することから(図2図2■酵母Oshタンパク質ファミリーの役割; ②),PI4Pと結合するOsh4の能力がゴルジ体における負の制御に密接に関係していると予想されるが,いまだ詳細な分子機構は不明である.一方で,すべてのOSH遺伝子を破壊しosh4変異遺伝子を形質転換したoshΔosh4変異株では分泌障害が起こる(1)1) V. M. Olkkonen & S. Li: Prog. Lipid Res., 52, 529 (2013)..また,Osh4はゴルジ体から出芽されてできた分泌小胞に局在すること,oshΔosh4変異株では分泌小胞の異常蓄積が観察されていることから(2)2) Y. Ling, S. Hayano & P. Novick: Mol. Biol. Cell, 25, 3389 (2014).,Oshはポストゴルジにおいては小胞輸送を正に制御するタンパク質であることが示唆されている(図2図2■酵母Oshタンパク質ファミリーの役割; ③).おそらくOshは,分泌小胞とその標的膜である細胞膜(plasma membrane; PM)との融合を促進させる役割をもつ可能性がある.さらに,Oshは細胞膜からのエンドサイトーシスを正に制御していることも知られている(図2図2■酵母Oshタンパク質ファミリーの役割; ④).

図2■酵母Oshタンパク質ファミリーの役割

Cer, ceramide; CSL, complex sphingolipid; PI, phosphatidylinositol; PI4P, phosphatidylinositol-4-phosphate; PS, phosphatidylserine.

それでは,ほかのオルガネラでは,Oshはどのような役割を担っているのであろうか.Oshファミリーの多くは,小胞体(endoplasmic reticulum; ER)膜とPMあるいはオルガネラ膜同士が接触している部位membrane contact sites(MCS)に局在する(1)1) V. M. Olkkonen & S. Li: Prog. Lipid Res., 52, 529 (2013)..Osh1はER(核膜外膜)と液胞との間のnucleus-vesicle junction(NVJ)と呼ばれるMCSに,Osh2,Osh3,Osh6,Osh7はERとPMとの間のMCSに局在することが知られている.Osh1,Osh2,Osh3はORDのほかに,ER膜タンパク質(vesicle-associated membrane protein-associated protein; VAP)の酵母ホモログScs2およびScs22と結合するFFAT(two phenylalanines(FF)in an acidic tract)モチーフをもつ(図1図1■酵母Oshタンパク質ファミリーの構造).このモチーフを介してER膜に結合するが,OshとScs2あるいはScs22との複合体のERにおける役割は不明であった.筆者らは,Osh4に加え,Osh2とOsh3がERからの輸送小胞の形成を負に制御することを見いだした(3)3) K. Kajiwara, A. Ikeda, A. Aguilera-Romero, G. A. Castillon, S. Kagiwada, K. Hanada, H. Riezman, M. Muñiz & K. Funato: J. Cell Sci., 127, 376 (2014).図2図2■酵母Oshタンパク質ファミリーの役割; ⑤).また,それらOshのFFATモチーフと結合できないscs2変異体を用いた解析から,Osh2,Osh3による制御はScs2との結合を介したものであることも示唆された.

一方,OSH2OSH3OSH4の三重破壊株では,輸送小胞を介したERからゴルジ体へのセラミドの輸送に異常が生じ,複合スフィンゴ脂質の合成が低下する(3)3) K. Kajiwara, A. Ikeda, A. Aguilera-Romero, G. A. Castillon, S. Kagiwada, K. Hanada, H. Riezman, M. Muñiz & K. Funato: J. Cell Sci., 127, 376 (2014)..つまり,Osh2,Osh3,Osh4はセラミドのERからの小胞輸送を正に制御する役割を担う(図2図2■酵母Oshタンパク質ファミリーの役割; ⑥).積荷タンパク質であるCPYやGas1のERからの輸送にはOshが必要でないことから,セラミドはそれらのタンパク質が含まれる小胞とは異なる輸送小胞を介してゴルジ体へ運ばれると考えられる.おそらく,OshはERにおけるタンパク質とセラミドの選別,あるいはセラミドに富む輸送小胞とゴルジ体との特異的な結合に関与しているのであろう.興味深いことに,Mousleyらは,ステロールとの結合に欠陥をもつosh4変異株でセラミドが蓄積すること,さらに栄養状態に対する細胞応答の主要シグナル因子であるTOR(Target of Rapamycin)複合体1(TORC1)の活性が低下することを報告している(4)4) C. J. Mousley, P. Yuan, N. A. Gaur, K. D. Trettin, A. H. Nile, S. J. Deminoff, B. J. Dewar, M. Wolpert, J. M. Macdonald, P. K. Herman et al.: Cell, 148, 702 (2012)..Oshによるスフィンゴ脂質の恒常性維持機構は,TORシグナル伝達経路において重要な役割を果たしているかもしれない.

MCSの生理的意義はまだよくわかっていないが,脂質やカルシウムなどの低分子のオルガネラ間移動や交換を効率よく起こさせるために機能している領域であると考えられている.ER-PM間のMCSの形成にはOshは必要ではない.しかし,人工膜を用いたin vitro系でOshのORDが2つの膜を凝集させる能力を有すること,さらにOsh4はステロールとPI4Pを引き抜く能力を有することから,Oshはオルガネラ間のMCSでステロールとPI4Pを交換する輸送タンパク質として機能しているというモデルが提唱されている(1)1) V. M. Olkkonen & S. Li: Prog. Lipid Res., 52, 529 (2013).図2図2■酵母Oshタンパク質ファミリーの役割; ⑦).しかし,これに反して,OshはER膜中でのステロールの側方移動や組織化をコントロールする因子として機能している可能性も指摘されている(5)5) A. G. Georgiev, D. P. Sullivan, M. C. Kersting, J. S. Dittman, C. T. Beh & A. K. Menon: Traffic, 12, 1341 (2011).図2図2■酵母Oshタンパク質ファミリーの役割; ⑧).

近年,MCSに局在するOshには脂質を運ぶ以外の役割もあることがわかってきた.Emrのグループは,Osh2とOsh3がVAPとの結合を介して,ERに局在するPI4PホスファターゼSac1を活性化させることを報告している(6)6) C. J. Stefan, A. G. Manford, D. Baird, J. Yamada-Hanff, Y. Mao & S. D. Emr: Cell, 144, 389 (2011)..このSac1の活性化はER膜に接しているPM内のPI4PをPIへ代謝させると考えられる(図2図2■酵母Oshタンパク質ファミリーの役割; ⑨).これと一致して,ER-PM間のMCSをなくすと,PIに対するPI4Pの割合が増加することが認められている(7)7) A. G. Manford, C. J. Stefan, H. L. Yuan, J. A. Macgurn & S. D. Emr: Dev. Cell, 23, 1129 (2012)..さらに,ER-PM間のMCSにおいて,Osh3はホスファチジルコリンの合成酵素Opi3の活性調節にも関与していることが示唆されている(8)8) S. Tavassoli, J. T. Chao, B. P. Young, R. C. Cox, W. A. Prinz, A. I. de Kroon & C. J. Loewen: EMBO Rep., 14, 434 (2013)..つまり,MCSは異なる膜に存在する酵素と基質間での反応を仲介する働きを担っており,そこに局在するOshによって脂質代謝が制御されているようである.

先に述べたように,Osh6とOsh7はER-PM間のMCSに主に局在する.Osh6の局在はPSの代謝異常により著しく変化することから,Osh6はPSの輸送タンパク質として機能していると推察された.実際,Osh6とOsh7はPSに特異的に結合することが示された(9)9) K. Maeda, K. Anand, A. Chiapparino, A. Kumar, M. Poletto, M. Kaksonen & A. C. Gavin: Nature, 501, 257 (2013)..また,人工膜リポソームを用いたPS移行のin vitroin vivoの解析から,Osh6とOsh7はERとPM間でのPSの輸送に関与するタンパク質であることが示唆された(図2図2■酵母Oshタンパク質ファミリーの役割; ⑩)(9)9) K. Maeda, K. Anand, A. Chiapparino, A. Kumar, M. Poletto, M. Kaksonen & A. C. Gavin: Nature, 501, 257 (2013)..ER-PM間のMCSがPSの輸送に重要であるかどうかは今後の研究を待たなければならないが,ヒトORP5とORP10もPSと結合する能力を有していることから,OshによるPSの輸送制御は進化的に保存された機構であると考えられる.

このように,ここ数年,Oshの役割に関する興味深い報告が続いている.Oshは脂質輸送タンパク質や脂質代謝調節因子としての役割以外に,脂質を感知しその情報を下流に伝えるセンサーとしての役割も指摘されている(1)1) V. M. Olkkonen & S. Li: Prog. Lipid Res., 52, 529 (2013)..また,OSH1-OSH7遺伝子のそれぞれの単独および六重までの多重破壊では生育に影響を与えないが,7つすべての遺伝子を破壊すると致死となることから,互いに機能を相補しあうことのできる遺伝子ファミリーであると考えられる.しかし,Osh間での機能ネットワークについてはよくわかっていない.今後はそれらに関しても研究が進展し,細胞の形成や維持におけるOshファミリーの重要な役割が明らかにされるものと期待される.

Reference

1) V. M. Olkkonen & S. Li: Prog. Lipid Res., 52, 529 (2013).

2) Y. Ling, S. Hayano & P. Novick: Mol. Biol. Cell, 25, 3389 (2014).

3) K. Kajiwara, A. Ikeda, A. Aguilera-Romero, G. A. Castillon, S. Kagiwada, K. Hanada, H. Riezman, M. Muñiz & K. Funato: J. Cell Sci., 127, 376 (2014).

4) C. J. Mousley, P. Yuan, N. A. Gaur, K. D. Trettin, A. H. Nile, S. J. Deminoff, B. J. Dewar, M. Wolpert, J. M. Macdonald, P. K. Herman et al.: Cell, 148, 702 (2012).

5) A. G. Georgiev, D. P. Sullivan, M. C. Kersting, J. S. Dittman, C. T. Beh & A. K. Menon: Traffic, 12, 1341 (2011).

6) C. J. Stefan, A. G. Manford, D. Baird, J. Yamada-Hanff, Y. Mao & S. D. Emr: Cell, 144, 389 (2011).

7) A. G. Manford, C. J. Stefan, H. L. Yuan, J. A. Macgurn & S. D. Emr: Dev. Cell, 23, 1129 (2012).

8) S. Tavassoli, J. T. Chao, B. P. Young, R. C. Cox, W. A. Prinz, A. I. de Kroon & C. J. Loewen: EMBO Rep., 14, 434 (2013).

9) K. Maeda, K. Anand, A. Chiapparino, A. Kumar, M. Poletto, M. Kaksonen & A. C. Gavin: Nature, 501, 257 (2013).