農芸化学@High School

捕食性テントウムシのギルド内捕食とアブラムシ餌適性

村田 篤志

常総学院高等学校 ◇ 〒300-0849 茨城県土浦市中村西根1010番地

Joso Gakuin High School ◇ 1010 Nakamura-Nishine, Tsuchiura-shi, Ibaraki 300-0849, Japan

Published: 2015-03-20

本研究は,日本農芸化学会2014年度大会(開催地:明治大学)での「ジュニア農芸化学会」において発表された.日本を含め東アジア一帯に生息する捕食性テントウムシの一種であるナミテントウ(Harmonia axyridis)は,農作物に被害を与えるアブラムシの駆除を目的に日本から欧米に移入された.しかしナミテントウは,欧米在来の捕食性テントウムシ類を激減させるなど自然環境に大きな影響を与えたことから,生物多様性を脅かすおそれがあるとされ,侵略的外来種に指定されている.一方,日本ではほかの捕食性テントウムシと共存しており,生態系に悪影響を与えているという報告はない.発表者は,ナミテントウを含む日本在来の捕食性テントウムシ3種の捕食行動や餌となるアブラムシの種類を詳細に比較・解析することで,日本でナミテントウとほかの在来の捕食性テントウムシが共生できる原因を考察するなど,得られた結果は非常に興味深いものとなっている.

本研究の目的,方法および結果(講演要旨集とポスターを部分的に改変転載)

目的

ナミテントウは,欧米各地で爆発的に生息域を広げているが,その理由として,幼虫のギルド内捕食能力の高さが挙げられる.ギルドとは同じような資源を利用する生物種のグループのことを指し,この場合,アブラムシやカイガラムシなどを食べる年齢の異なる複数種の捕食性のテントウムシが同一エリア内に共存する場合,体格の大きなナミテントウの幼虫が小さな他種の個体を捕食してしまう事象を指す.

しかし日本では,ナミテントウはほかの捕食性テントウムシと共存しており,欧米のような問題は起こっていない.そこで,ナミテントウを含む日本在来の3種の捕食性テントウムシについて,そのギルド内捕食能力と餌となるアブラムシの餌適性に注目し,比較することで3種のテントウムシが共存できる原因を考察した.

実験方法

実験1 捕食性テントウムシ3種のギルド内捕食状況の観察

空腹状態にしたナミテントウ・ナナホシテントウ・ヒメカメノコテントウの終齢幼虫それぞれ1頭と,各種テントウムシの1齢幼虫4匹をシャーレに入れ,ケース内の1齢幼虫の頭数を1時間観察した(各種類,終齢幼虫は5頭ずつ実験).

実験2 ナミテントウとナナホシテントウの終齢幼虫にさまざまな餌を与えたときの成長の程度の観察

ナミテントウとナナホシテントウの幼虫を,終齢幼虫になった時点から,①アブラムシ,②ギルド内餌(テントウムシの1齢幼虫),③人工飼料のそれぞれを与える3つのグループに分け飼育し,それぞれのグループの終齢幼虫の羽化率を比較した(各種類,終齢幼虫は10頭以上で実験).

実験3 捕食性テントウムシ3種のアブラムシ餌適性の比較

孵化したテントウムシの初齢幼虫に同じアブラムシを与え続けて育てた時の羽化率を指標に餌適性を調べた.アブラムシは自宅近くで採集した9種を用い(表1表1■実験に用いたアブラムシとその宿主),テントウムシは各種10頭程度ずつ実験に供した.

表1■実験に用いたアブラムシとその宿主

結果と考察

実験1 捕食性テントウムシ3種のギルド内捕食の様子

捕食者がナミテントウの場合は,実験に用いた5頭すべてで1齢幼虫を60分以内で捕食した.また1齢幼虫がナミテントウあるいは他種のテントウムシであっても捕食行動に差はなかった(図1A図1■被捕食者の残数推移).一方,捕食者がナナホシテントウの場合は,ナミテントウ,ナナホシテントウの1齢幼虫を一部捕食できない個体があったが,被捕食者がヒメカメノコテントウの場合は,60分以内にほとんどすべて捕食した(図1B図1■被捕食者の残数推移).また捕食者がヒメカメノコテントウの場合は,ナミテントウ,ナナホシテントウに対しては,捕食率がかなり低下したが,被捕食者がヒメカメノコテントウの場合(共食い)は,比較的抵抗なく捕食した(図1C図1■被捕食者の残数推移).

図1■被捕食者の残数推移

終齢幼虫1頭と1齢幼虫4頭を同じケースに入れたときの,10分おきの1齢幼虫の残数を示す.Aは捕食者がナミテントウ,Bはナナホシテントウ,Cはヒメカメノコテントウが捕食者である場合を指す.

実験2 ナミテントウとナナホシテントウの終齢幼虫にさまざまな餌を与えたときの成長の様子

ナナホシテントウは,アブラムシを与えた場合は高い確率で羽化に至ったが,1齢幼虫のみおよび人工飼料を与えた場合は3割程度しか羽化に至らなかった.一方,ナミテントウは,アブラムシ,1齢幼虫のみおよび人工飼料のどれもが高い確率で羽化に至った(図2図2■ナミテントウとナナホシテントウの終齢幼虫にさまざまな餌を与えたときの成長の様子).

図2■ナミテントウとナナホシテントウの終齢幼虫にさまざまな餌を与えたときの成長の様子

これら実験1, 2の結果をまとめると,ナミテントウは1齢幼虫を抵抗なく捕食し,しかも1齢幼虫のみを摂食しても羽化に至る確率が高かった.このことから,ナミテントウのギルド内捕食能力は,ほかのテントウムシより高く,ナミテントウはアブラムシ捕食者の中で最も生存面で有利であると言える.

実験3 捕食性テントウムシ3種のアブラムシ餌適性

3種のテントウムシとも羽化率が高かったのは,オカボノ,マツヨイ,ノゲシフクレ,マメに付くアブラムシ種を与えた場合であった.ナナホシテントウのみ羽化率が低かったのは,ニワトコヒゲナガアブラムシを与えた場合であった.ナミテントウのみ羽化率が低かったのはソラマメ,アザミクロ,セイタカに付くアブラムシ種を与えた場合であった.3種とも羽化率が低かったのはニセダイコンアブラムシを与えた場合であった(図3図3■捕食性テントウムシのアブラムシ餌適性).

図3■捕食性テントウムシのアブラムシ餌適性

孵化したテントウムシの初齢幼虫に同じアブラムシを与え続けて育てたときの羽化率を示す.オカボノアカ:オカボノアカアブラムシ,マツヨイ:マツヨイグサアブラムシ,ノゲシフクレ:ノゲシフクレアブラムシ,マメ:マメアブラムシ,ニワトコ:ニワトコヒゲナガアブラムシ,ソラマメ:ソラマメヒゲナガアブラムシ,アザミクロ:アザミクロヒゲナガアブラムシ,セイタカ:セイタカアワダチソウヒゲナガアブラムシ,ニセダイコン:ニセダイコンアブラムシ.

実験3の結果をまとめると,捕食性テントウムシ3種のアブラムシ餌適性が異なることで,アブラムシ餌適性に基づいた住み分けができている可能性がある.そのため,ギルド内捕食能力ではナミテントウがほかのテントウムシより生存力が高くても共存できるのではないかと推測される.

本研究の意義と展望

本研究は,発表者が日本原産のナミテントウが欧米で侵略的外来種として問題となっていることを知ったことがきっかけとなってスタートしたと聞いている.侵略的外来種は,本来の生息地では,ほかの生物種と共存しているが,人為的要因で他地域に持ち込まれることで生態系や健康,経済に重大な影響を与えることがある.

本研究では,ナミテントウと他在来テントウムシ2種の食性や生態を詳細に比較することで,上記3種のテントウムシが本来の生息地で共存できる原因を推測している.今後は,ナミテントウの被害が大きい欧米在来のテントウムシとナミテントウとの食性や生態を比較することでその関係がよりクリアになっていくものと期待される.

本研究は,生物の多様性を守る一つの方策として,人間がその生物や生態についてしっかりと研究し見識を得ることが大切だと思わせるものであった.また本研究は,個人で長い年月をかけて蓄積してきたデータをまとめたものであり,その過程で専門家のアドバイスを受けるなど十分な検討を進めてきた.目標に向かってそれを解決するための方法を考え,計画的かつ継続的な研究を進めていく姿勢は,研究における基本的な姿勢をうかがわせる.今後のますますの発展を期待したい.

(文責「化学と生物」編集委員)