解説

ファイトケミカルがもつoff-target効果の意義: 機能性と潜在的副作用の観点から

The Significance of Off-Target Effects of Phytochemicals from the Viewpoints of Their Physiological Functions and Potential Side-Effects

村上

Akira Murakami

京都大学大学院農学研究科 ◇ 〒606-8502 京都府京都市左京区北白川追分町

Graduate School of Agriculture, Kyoto University ◇ Kita-Shirakawa-Oiwake-cho, Sakyo-ku, Kyoto-shi, Kyoto 606-8502, Japan

Published: 2015-04-20

ポリフェノールなどのファイトケミカル(phytochemical)は植物の二次代謝産物で多彩な生理機能性を示す化合物群である.近年,ケミカルバイオロジーを基盤とした研究手法の開発によって,これらの標的分子が多数,明らかにされ,作用機構に関する分子レベルの知見が集積されつつある.その一方で近年,私たちは,生体タンパク質に対して非特異的に結合するファイトケミカルの例を見いだし,さらにそれが機能性の発現に寄与するという,ユニークな現象を明らかにしつつある.特異的および非特異的な特性の両面から作用機序を解析することは,「そもそもファイトケミカルがなぜ機能性を示すのか?」という本質的な命題を解く鍵でもあり,また安全性を議論するうえでも重要であると考えている.

はじめに

抗酸化能をもつポリフェノール類は代表的なファイトケミカル(phytochemical,植物二次代謝産物)の1種であり,多彩な生理機能性を示す.しかし,それらの作用機構において抗酸化作用が重要な役割を果たしているか否かについては議論の余地がある.なぜなら,生体への吸収効率が極めて低く,抗酸化作用を示す血中濃度に達することは希だからある.一方,個々の機能性に関する遺伝子発現や,それらを制御する上流のシグナル分子群に対する調節作用も数多く報告されてきた.しかし,こうした知見の多くはファイトケミカルの間接的な効果が反映された結果に過ぎないと指摘できる.このように,薬剤と異なり食品機能性成分の作用機構については不明な点が多い.ところが2004年,Tachibanaらは,緑茶成分(−)-epigallocatechin-3-gallate(EGCg)の細胞膜受容体を67 kDa laminin receptor(67LR)と同定し,生理活性を発現する引き金とも言える標的分子の一つを発見した(1)1) H. Tachibana, K. Koga, Y. Fujimura & K. Yamada: Nat. Struct. Mol. Biol., 11, 380 (2004)..これ以降,機能性を担う結合タンパク質に関する知見が相次いで報告され,作用機序を分子レベルで理解することが可能な時代を迎えている.

ところで,EGCgと67LRの関係ように,本来,植物自身が環境ストレス適応の目的で生合成したファイトケミカルが,動物の生体タンパク質に対して高い親和性を示す事実は単なる偶然なのだろうか.たとえば分子進化的な考えに則し,動物が長年にわたり植物を摂取してきた過程で,これらを受容するタンパク質を優先的に生合成してきたと想像することもできる.いずれにせよ,こうした化合物は分子量も小さく比較的単純な化学構造をもつことから,細胞内に取り込まれた場合,タンパク質などの生体機能分子に対して非特異的に相互作用する可能性が考えられる.しかし,これまでに,ファイトケミカルの非特異的な作用性に関する知見は乏しく,また,筆者が知る限り,その意味や役割に関する報告はなかった.

本稿ではファイトケミカルの作用機構の理解に必須と考えられる,標的分子に関するいくつかの研究例に加え,私たちが最近見いだした,非特異的相互作用に基づいた機能性発現機構について解説した.さらに,ファイトケミカルを生体異物と捉えることで浮き彫りとなる,安全性の問題についても考察を加えた.

特異的な標的分子の例

上述した67LRの発現を低下させたがん細胞では,EGCgの増殖阻害作用が減弱した(1)1) H. Tachibana, K. Koga, Y. Fujimura & K. Yamada: Nat. Struct. Mol. Biol., 11, 380 (2004)..したがって,67LRはEGCgに対して単に高い親和性を示すだけでなく,その抗がん活性の発現機構において重要な役割を示すと考えられる.また本受容体は,幅広い臓器や組織で発現しているが,興味深いことに,特に悪性度の高いがん細胞での発現レベルが高いことから,67LRを標的とした,がん細胞選択的な増殖阻害効果が期待されている.さらに,EGCgやその類縁体の既知の生理機能性のうち,抗アレルギー作用(2)2) Y. Fujimura, D. Umeda, K. Yamada & H. Tachibana: Arch. Biochem. Biophys., 476, 133 (2008).や抗炎症作用(3)3) E. Hong Byun, Y. Fujimura, K. Yamada & H. Tachibana: J. Immunol., 185, 33 (2010).の発現機構においても67LRが重要な役割を果たしている.一方,ほかの研究グループもフラボノイドを中心とした標的分子の探索研究を行っている.たとえば,Koらはアフィニティークロマトグラフィーと質量分析法を駆使して,quercetin(タマネギなど天然に広く存在するフラボノイド)の結合タンパク質の一つをheterogeneous nuclear ribonucleoprotein A1(hnRNPA1)と同定した(4)4) C. C. Ko, Y. J. Chen, C. T. Chen, Y. C. Liu, F. C. Cheng, K. C. Hsu & L. P. Chow: J. Biol. Chem., 289, 22078 (2014)..hnRNPA1は,細胞質から核へのシグナル分子の輸送に関与しているが,quercetinは本タンパク質に結合することでcellular inhibitor of apoptosis protein-1の核移行を抑制し,アポトーシスを誘導した.一方,Limらは,大豆やアルファルファなどに含まれるメチル化イソフラボンのbiochanin Aが,mixed-lineage kinase 3に直接結合し,これがUV照射によるcyclooxygenase-2(COX-2,炎症反応亢進タンパク質)の誘導抑制機構として重要であるとしている(5)5) T. G. Lim, J. E. Kim, S. K. Jung, Y. Li, A. M. Bode, J. S. Park, M. H. Yeom, Z. Dong & K. W. Lee: Biochem. Pharmacol., 86, 896 (2013)..上記の研究例では,まず特定のファイトケミカルに着目し,その標的分子を探索するというアプローチであった.しかし,これとは逆に,あらかじめ重要な鍵タンパク質に着目し,それに結合するファイトケミカルを同定するという方向性の研究例もある.たとえばLiuらは,細胞増殖を促進するcasein kinase 2(CK2)に対して特異的に結合する天然化合物の究明を試みた(6)6) S. Liu, D. Hsieh, Y. L. Yang, Z. Xu, C. Peto, D. M. Jablons & L. You: BMC Pharmacol. Toxicol., 14, 36 (2013)..まず,化合物の純度や起源などを考慮して化合物ライブラリー14万種類からあらかじめ120種に絞り込み,その後,結合評価試験によってcoumestrol(アルファルファ,豆類,芽キャベツなどに含まれるイソフラボノイド)を同定している.本化合物はCK2のATP結合部位に結合することでその機能を阻害し,肺がん細胞A549などの増殖が顕著に抑制されることを実証した.

ポリフェノール類に並び,天然に広く分布するテルペノイドも多彩な生理活性を有する.トリテルペンの1種であるursolic acid(UA)は構造異性体のoleanolic acidとともに,さまざまな炎症モデル実験系で抗炎症作用を示すことで注目されてきた.たとえばUAは,リポ多糖(lipopolysaccharide; LPS)で刺激したマクロファージ(Mϕ)からの炎症関連メディエーターの産生を顕著に抑制する.これに対して私たちは以前,無刺激状態のMϕをUAで処理した場合の細胞応答性に興味をもち,いくつかの実験条件でMϕを刺激した.その結果,炎症性サイトカインの1種であるMϕ migration inhibitory factor(MIF)やinterleukin-1β(IL-1β)の産生が増加する現象を見いだした(7)7) Y. Ikeda, A. Murakami & H. Ohigashi: Mol. Nutr. Food Res., 52, 26 (2008)..すなわちUAは炎症刺激を加えたMϕにおいては抗炎症的に働くが,無刺激状態では逆作用を示すというユニークな二面性を明らかにすることができた(図1図1■マクロファージ(Mϕ)に対するウルソール酸(UA)の二面性).次に,表面プラズモン共鳴法や遺伝子欠損マウスなどを用いて,その分子機構の解明を試みた.その結果,UAは細胞膜表面のCD36(異物貪食に関与するスカベンジャー受容体の1種)に結合することで活性酸素の生成やmitogen-activated protein kinase(MAPK)経路の活性化を促し,炎症性サイトカインの産生を促進することが判明した.興味深いことに,添加したUAは培地中で凝集し,この凝集体が炎症反応の惹起に関与する.また,OAを含むUAの構造類縁体には同様な作用が認められなかったことから,トリテルペンの中でもUAに特徴的な現象だと考えている.上記の知見はICRマウスの腹腔Mϕを用いた実験で得られたが,C57BL/6JやDDYマウス由来のMϕはIL-1β産生能が弱く,さらにC3H/HeマウスMϕやRAW264.7細胞(株化Mϕ)では炎症応答は全く観察されなかった(8)8) Y. Ikeda, A. Murakami & H. Ohigashi: Life Sci., 83, 43 (2008)..そこで,これら一連の異なる細胞種に関して,炎症反応にかかわる主要なシグナル伝達分子のmRNA発現プロファイリングを行った.その結果,UAによるIL-1β産生に対して特に必要なタンパク質は,CD36および活性酸素の産生に関与するgp91phoxであると示唆された.

図1■マクロファージ(Mϕ)に対するウルソール酸(UA)の二面性

LPS(lipopolysaccharide: リポ多糖)は,TLR4(Toll-like receptor 4, 病原体に特異的な分子を認識するtoll様受容体の1種)を介してMϕにおける炎症反応を惹起する.UA(ursolic acid)は,この反応を抑制し抗炎症性を示すが,無刺激のMϕに対しては,その受容体であるCD36(スカベンジャー受容体の1種)に結合し,逆に炎症反応を惹起する.

次に,生体防御機構において中心的役割を果たし,また多くのファイトケミカルの標的分子として注目されているKelch-like ECH-associated protein 1(Keap1)について述べる.ストレス負荷が弱い定常状態において,Keap1は転写因子NF-E2-related factor 2(Nrf2)と結合し,プロテアソーム(proteasome)依存的な分解を促進することから,Keap1はNrf2の抑制因子と言える.しかし,活性酸素や求電子性物質によってKeap1のcysteine thiol基が酸化あるいは修飾を受けるとNrf2との結合能が失われ,生体防御遺伝子群の転写が始まる(図2図2■Keap1-Nrf2システムによる生体防御遺伝子の発現機構).代表的なNrf2の標的遺伝子としては,glutathione(GSH)抱合により生体異物を解毒するGSH-S-transferase(GST)などの代謝酵素群やsuperoxide dismutase(SOD)を含む抗酸化酵素群がある.環境中の化学発がん物質の多くはNrf2依存的な代謝酵素群によって不活性化されるため,Nrf2の活性化は発がんに対して抑制的に機能する(しかし,がん細胞のNrf2活性を増加させることはストレス耐性の増加につながるので諸刃の剣とも考えられている).

図2■Keap1-Nrf2システムによる生体防御遺伝子の発現機構

Keap1のSH基が求電子性物質の付加を受け,また酸化されるとNrf2が遊離し,リン酸化を受けた後,核内へ移行する.その後,転写共役因子sMaf(small Maf proteins)とヘテロ複合体を形成しさまざまな生体防御遺伝子の発現を活性化する.

このように,Keap1は細胞や組織を酸化ストレスや異物による傷害から保護するためのストレスセンサーとして機能している.したがって,ファイトケミカルも異物であることからKeap1によって感知されても不思議ではない.事実,アブラナ科植物に含まれるisothiocyanate(ITC)類の共通官能基(–N=C=S)は強い求電子性を示し,Nrf2を活性化することがよく知られている.代表的なITC類の1種であるsulforaphane(ブロッコリーなどに含まれる)は,げっ歯類において強い発がん予防作用を示すが,その作用機序はNrf2依存的な防御遺伝子群の誘導作用と理解されている.同様に,求電子性のα,β-不飽和カルボニル基を有するファイトケミカルの中にはKeap1へ付加することでNrf2を活性化するものもある.また,catechol構造をもつポリフェノール類はo-quinone体に酸化されると求電子性を示し,同様な特性を獲得する.さらに,こうした求電子性物質がGSHへ付加することにより,あるいはミトコンドリア電子伝達系の阻害作用によっても活性酸素が生成し,Nrf2の活性化に至る例も報告されている.

私たちは以前,東南アジア産野菜類の発がん抑制活性スクリーニングを行い,ハナショウガ(Zingiber zerumbet Smith)の根茎からセスキテルペンのzerumboneを単離した.本化合物はα,β-不飽和カルボニル基を有し,thiol基の求核付加を受ける可能性がある(図3図3■タンパク質チオール基によるゼルンボンへの求核付加反応).また,げっ歯類の皮膚や大腸などにおいて強い発がん抑制および抗炎症作用を示すが,その作用機構については,Nrf2活性化作用(9)9) Y. Nakamura, C. Yoshida, A. Murakami, H. Ohigashi, T. Osawa & K. Uchida: FEBS Lett., 572, 245 (2004).とCOX-2抑制作用(10)10) A. Murakami, D. Takahashi, T. Kinoshita, K. Koshimizu, H. W. Kim, A. Yoshihiro, Y. Nakamura, S. Jiwajinda, J. Terao & H. Ohigashi: Carcinogenesis, 23, 795 (2002).の2つが重要だと考えている.MϕをLPS刺激した際のCOX-2発現シグナル伝達経路における作用点を解析した結果,zerumboneはCOX-2 mRNAの安定化段階を選択的に阻害することが示唆された(11)11) A. Murakami, T. Shigemori & H. Ohigashi: J. Nutr., 135(Suppl.), 2987S (2005)..また,求電子性を消失させたzerumbone誘導体は抗炎症活性を全く示さなかったことから,この化学的特性はNrf2の活性化だけでなく抗炎症機能にも必須である.次に,Keap1への結合を確証するために,biotin基を導入したzerumbone誘導体を合成した.COX-2抑制作用の評価に用いたRAW264.7 MϕをLPSで刺激した際に活性化,あるいは不活性されるタンパク質を選択し,avidinビーズに結合したタンパク質量を無処理の細胞における発現量と比較した.その結果,評価したタンパク質総計28種の中ではKeap1に対して最も高い結合活性を示すことがわかった.さらに,zerumboneによるheme oxygenase-1(抗酸化酵素)などの発現増強作用がNrf2欠損マウスでは顕著に減弱していた(12)12) J. W. Shin, K. Ohnishi, A. Murakami, J. S. Lee, K. Kundu, H. K. Na, H. Ohigashi & Y. J. Surh: Cancer Prev. Res. (Phila.), 4, 860 (2010)..したがって,zerumboneはKeap1への結合を介してNrf2を活性化し,抗酸化・解毒作用を発現すると考えられる.その一方で,zerumboneのbiotin誘導体は炎症関連遺伝子のマスター転写因子であるNFκB(nuclear factor κB, p65)へも顕著に結合した.しかし,zerumboneはNFκBの転写活性には影響を与えない(9)9) Y. Nakamura, C. Yoshida, A. Murakami, H. Ohigashi, T. Osawa & K. Uchida: FEBS Lett., 572, 245 (2004).ことから,この結合は抗炎症作用には寄与しないと推察している.以上から,Keap1はzerumboneの生体防御分子発現機構における主要な標的分子の一つであると結論づけた.その一方で,この結合がCOX-2などの発現抑制作用に関与しているか否かについては今後の課題として残されている.

図3■タンパク質チオール基によるゼルンボンへの求核付加反応

非特異的な相互作用

上述した実験手法では,あらかじめ想定したタンパク質との結合活性は評価できるが,未知の標的を発見することは不可能である.そこで,zerumboneへthiol基が付加した部分構造を特異的に認識する抗体を作製し,新たな標的分子の究明を試みた.まず,マウス肝臓がん細胞Hepa1c1c7にzerumboneを添加し,本抗体を用いたウエスタンブロットを行ったところ,付加体に由来するラダー状のバンドが時間依存的に増加した(13)13) K. Ohnishi, S. Ohkura, E. Nakahata, A. Ishisaka, Y. Kawai, J. Terao, T. Mori, T. Ishii, T. Nakayama, N. Kioka et al.: PLoS ONE, 8, e58641 (2013)..また,zerumboneをSepharoseビーズに固定したアフィニティーゲルを調製し,細胞溶解液中の結合タンパク質をCBB染色した場合にも同様な結果が得られた.一方,本ビーズを用いてN-ethylmaleimideとの競合試験を行った結果,Keap1などとの結合活性が顕著に減少したことから,タンパク質のthiol基への共有結合性が確証できた(14)14) K. Ohnishi, K. Irie & A. Murakami: Biosci. Biotechnol. Biochem., 73, 1905 (2009).図3図3■タンパク質チオール基によるゼルンボンへの求核付加反応).さらに,zerumboneで30分間処理した細胞を付加体抗体で免疫染色すると,細胞質や核などの広い範囲で陽性染色が観察された.以上から,zerumboneにはKeap1という主要な標的分子が存在する一方で,細胞内の多数のタンパク質と非特異的に共有結合するという新たな特性が明らかとなった.

果たして,このランダムな結合が意味するところは何であろうか.生体タンパク質への軽微な結合は,生理的な意味をもたないのかもしれない.しかし,それらの機能を損なうまでに付加反応が亢進すれば,タンパク質ストレス(proteo-stress)を与えるものと推察できる.生体タンパク質の立体構造が損なわれると,protein disulfide isomeraseやheat shock proteins(HSPs)などの分子シャペロン群が構造修復を試みる.こうしたタンパク質品質管理(protein quality control; PQC)機構は,変性タンパク質の生成が引き金となって活性化する場合があり,その機序は次のように考えられている(図4図4■変性タンパク質の生成を引き金とする熱ショックタンパク質の誘導機構).通常,HSPの転写因子であるheat shock factor-1(HSF-1)はHSP90と結合し不活性化されている.しかし,細胞質内で変性タンパク質が生成するとHSP90を奪い,HSF-1が遊離する.次いで,HSF-1は三量体化やリン酸化を経て活性化され,さまざまなHSPの遺伝子発現量を増加させる.タンパク質ストレスが軽度な場合は,構成型あるいは誘導型HSPの構造修復機能によってタンパク質の恒常性は維持される.しかし,ストレスが熾烈な場合や何らかの理由で修復機能が低下すると変性タンパクの蓄積が起こる.しかし,その選択的分解系が機能すれば排除可能である.たとえば,CHIP(C-terminus of Hsc70 interacting protein,ubiquitin E3 ligaseの1種)は変性タンパク質を特異的にubiquitin(Ub)化し,プロテアソームにおける分解へと導く.変性ストレスがさらに強くなるとタンパク質の凝集も起こるが,凝集体はUb-プロテアソーム系では分解できない.その場合でもなお,Ub標識された凝集タンパク質はp62/SQSTM1に認識され,オートファジー(autophagy)によるバルク分解を受けクリアランスされる.このように,細胞がタンパク質変性ストレスに暴露されても,その程度に応じたPQC機構が備えられており,非常に高度な恒常性維持機構であることは特筆に値する(図5図5■タンパク質品質管理機構の概略).

図4■変性タンパク質の生成を引き金とする熱ショックタンパク質の誘導機構

細胞内で生成した変性タンパク質はHSP90と結合し,構造修復機構へ送られる.このプロセスはHSP90からのHSF1の遊離反応と共役している.転写因子HSF1は三量体化とリン酸化を経て活性化し,さまざまなHSP分子群の遺伝子発現を増加させタンパク質の品質を維持しようとする.

図5■タンパク質品質管理機構の概略

変性タンパク質は分子シャペロンによって構造修復可能であるが,変性ストレスが強い場合はCHIP(C-terminus of Hsc70 interacting protein)によるユビキチン化を受けプロテアソームにおける分解機構へと導かれる.その一方で,タンパク質凝集体はp62/SQSTM1による標識を受け,オートファジーによってクリアランスされる.興味深いことに,最近の研究結果では,こうした品質管理機構の活性化は,がんやメタボリックシンドロームのなどの生活習慣病の発生に対して予防的であるとされている.

次に,zerumboneに修飾されたタンパク質の細胞内での運命について検討した.まずHepa1c1c7細胞をzerumboneで処理したところ,CHIP依存的なUb化タンパク質が多数検出された一方で,アグリソーム(aggresome,タンパク質凝集体)の形成も観察された(15)15) K. Ohnishi, E. Nakahata, K. Irie & A. Murakami: Biochem. Biophys. Res. Commun., 430, 616 (2013)..次に,zerumbone付加タンパク質が熱変性タンパク質と同様,HSP90に認識されるか否かを評価した.Zerumboneで処理した細胞溶解液を抗HSP90抗体で免疫沈降したところ,沈降物中のzerumbone付加タンパク質量はzerumboneの添加濃度依存的に増加した.また,HSP90とzerumbone付加タンパク質の結合によって起こる細胞応答について解析したところ,HSF-1の活性化やHSF-1依存的な誘導型HSPの発現増加が確認できた.以上の結果から,細胞をzerumboneで処理することで生成する付加タンパク質は熱変性タンパク質と同様に認識され,熱ショック処理時と同様な細胞応答が起こることがわかった.さらにzerumboneは,プロテアソーム活性やその主たる構成因子であるβ5などの発現,また,p62/SQSTM1を含む多種のオートファジー関連遺伝子の発現も増加させたことから,異常タンパク質分解系も活性化できると考えている(15)15) K. Ohnishi, E. Nakahata, K. Irie & A. Murakami: Biochem. Biophys. Res. Commun., 430, 616 (2013)..非常に興味深いことに,PQC機構は,がんやメタボリックシンドロームをはじめとするさまざまな生活習慣病の進展に対して抑制的に機能していることが近年,明らかにされつつある(16)16) B. Levine, N. Mizushima & H. W. Virgin: Nature, 469, 323 (2011).図5図5■タンパク質品質管理機構の概略).したがって,zerumboneを含むファイトケミカルがPQC機構を活性化することで既知の生活習慣病予防効果を発現している可能性も想定できる.

次に,zerumboneで処理した培養細胞や線虫(Caenorhabditis elegans)の形質変化を評価した.過酸化脂質分解物の4-hydroxy-2-nonenal(HNE)は,lysine残基やcysteine残基へ付加することでタンパク質毒性を示すことが知られている.そこで,細胞をzerumboneで前処理すればPQC活性の増加によってHNEの毒性が緩和できると考えた.その予想どおり,HNEによる肝臓細胞毒性はzerumboneの前処理でほぼ完全に抑制でき,さらにこの細胞保護効果はp62/SQSTM1依存的であった(15)15) K. Ohnishi, E. Nakahata, K. Irie & A. Murakami: Biochem. Biophys. Res. Commun., 430, 616 (2013)..また,線虫にzerumboneを投与するとHSP16.41のmRNA発現が強く誘導され,熱ショックによる線虫の個体死は顕著に抑制された(15)15) K. Ohnishi, E. Nakahata, K. Irie & A. Murakami: Biochem. Biophys. Res. Commun., 430, 616 (2013)..植物成分のzerumboneは,動物にとっては「タンパク質ストレスを与える不要な異物」という一面がある.しかし同時に,その用量が適度であればPQC機構を活性化し,逆にタンパク質ストレス耐性を賦与することも事実である.このような現象は,ある種のトレーニングとも表現でき,たとえばマイルドな熱処理によって熱ストレス耐性が賦与されるのと同義であろう.

ところで,上記したユニークな性質がzerumboneに限定されるのか,それともほかの食品成分にも認められるかを見極めることは重要である.そこで,16種の栄養素(糖,アミノ酸,ビタミン,ミネラル)および8種のファイトケミカルを無作為に選び,それぞれのHSP70誘導活性を調べた(13)13) K. Ohnishi, S. Ohkura, E. Nakahata, A. Ishisaka, Y. Kawai, J. Terao, T. Mori, T. Ishii, T. Nakayama, N. Kioka et al.: PLoS ONE, 8, e58641 (2013)..その結果,栄養素ではall-trans retinoic acidとzinc chlorideだけが誘導活性を示したのに対し,後者の試験では,curcumin, phenethyl ITC,UAなど半数以上の被検試料に有意な活性が認められた.より高頻度でファイトケミカルが誘導活性を示した結果に必然性はあるのだろうか.積極的に体内に吸収される栄養素とは対照的に,ファイトケミカルは異物である.事実,これらの化合物群は,体内への吸収効率が低く,また,ごく微量に取り込まれた場合も,抱合反応などを受け速やかに排泄される.したがって,これらが「招かれざる客」であるからこそ,ストレス応答分子であるHSPの誘導が高頻度で起こったと解釈するのが妥当ではないだろうか.

高用量ポリフェノールの害作用

一般的に,ファイトケミカルは「体に良い(体に優しい)」物質だと考えられている.しかし,上述のように生体異物であることを踏まえると,これは原則的には誤った概念であろう.私たちは以前,EGCgがヒト大腸がん細胞において,活性酸素の生成を介してpro-matrix metalloproteinase-7(proMMP-7,がん転移酵素)の産生を増加させるという逆作用を報告していた(17)17) M. Kim, A. Murakami & H. Ohigashi: Biosci. Biotechnol. Biochem., 71, 2442 (2007)..そこで次に,マウス大腸二段階発がん試験によって,ポリフェノール類のほかの害作用の有無について検討した.緑茶ポリフェノール混合物(green tea polyphenols; GTP)を0.01~1%という幅広い用量で混餌投与した結果,低~中用量のGTPは大腸における炎症性サイトカイン(IL-1βやMIF)の産生を抑制したが,0.5%を超える高用量において,それらの産生量は対照群よりも増加していた(18)18) M. Kim, A. Murakami, S. Miyamoto, T. Tanaka & H. Ohigashi: Biofactors, 36, 43 (2010)..また,マウスの個体差が大きく統計学的有意差はなかったが,用量依存的に大腸発がんを増加させる傾向も見られた.同様に,マウス急性大腸炎モデルにおいても,低用量では抗炎症作用を示した一方で,高用量では,肝臓と腎臓の機能低下や酸化ストレスマーカーの増加が認められた(19)19) A. Murakami: Arch. Biochem. Biophys., 557, 3 (2014)..さらに,これらの臓器における抗酸化酵素やHSPの発現レベルが低下していたことから,高用量のGTPは種々のストレス耐性機能に影響を与えるものと考えている.重要なことに,いくつかの疫学研究グループも高用量における緑茶関連試料の害作用を指摘している.たとえば,Mazzantiらは,1999~2008年に公表された関連論文のメタアナリシスで,36編の副作用報告(肝臓障害による死亡例を含む)があったとし,サプリメントなどによる過剰摂取に対して警鐘を鳴らしている(20)20) G. Mazzanti, F. Menniti-Ippolito, P. A. Moro, F. Cassetti, R. Raschetti, C. Santuccio & S. Mastrangelo: Eur. J. Clin. Pharmacol., 65, 331 (2009).

ホルミシスの概念

ストレスは,しばしば悪く表現される.しかし,その程度が軽度であれば適応応答が活性化し,結果的にストレス暴露前より耐性が強化する場合もある(図6図6■ホルミシス曲線).本現象はホルミシス(hormesis)と呼ばれ,1888年,ドイツの薬学者Schulzが毒物で刺激された酵母の生育が促進したのを観察したのが端緒とされている.ホルメティックな作用を引き起こす代表的な環境ストレス要因としては,化学物質,活性酸素,紫外線,微生物などが挙げられる.また,たとえば,運動,日光浴,入浴などの日常的な行動や精神活動についても,負荷の強さがメリットとデメリットを分けるという点で共通しており,ホルミシスが関係しているのかもしれない.興味深いことに,上記したGTPに関する私たちの研究例と同様,ファイトケミカルのホルミシス効果を示唆する現象がいくつか報告されている.たとえば,curcuminは,1~5 µMの濃度範囲では濃度依存的にオートファジー誘導活性を増加させたが,それ以上の濃度では阻害作用に転じた(21)21) D. Demirovic & S. L. Rattan: Biogerontology, 12, 437 (2011)..また,ラットに対する混餌投与実験において,25 mg/kgの用量のresveratrolは心臓保護作用を示したが,100 mg/kg体重では有害であったという(22)22) A. Juhasz, S. Mukherjee & D. K. Das: Exp. Clin. Cardiol., 15, e134 (2010).

図6■ホルミシス曲線

生体はさまざまなストレスの暴露を受けるが,その程度が取るに足らない場合は何も問題は起こらない.また多少のストレスを受けても,原則的にそれに対する防御機構が備わっており適応できる.そして,それにとどまらずこうした適応機構の活性化によってストレス暴露以前よりも防御能が強化される場合があり,この現象はホルミシスと呼ばれている.しかし,自己の許容力を超えたストレスを浴びた場合は適応することはできず,さまざまな害作用が顕在化する.

このように,ファイトケミカルが高用量で害作用を示す現象を逆に捉えると,毒性物質も低用量では機能性を示すという可能性が想起される.事実,毒物として有名なsodium azideは,5%の高濃度では線虫の寿命を短縮させるが,驚くべきことに0.5~2%では有意な長寿効果を示したという(23)23) M. R. Massie, E. M. Lapoczka, K. D. Boggs, K. E. Stine & G. E. White: Cell Stress Chaperones, 8, 1 (2003)..これと同様に,有機溶媒のdimethyl sulfoxideは,10 mMの濃度では線虫に熱耐性を賦与している(20 mMでは効果なし)(24)24) X. Wang, X. Wang, L. Li & D. Wang: Biochem. Biophys. Res. Commun., 400, 613 (2010)..さらに,一酸化炭素(CO,環境基準は10 ppm以下)は1,000 ppmを超えると致死量だが,興味深いことに,250 ppm付近では実験動物において抗炎症作用を示した(25)25) S. H. Liu, K. Ma, X. R. Xu & B. Xu: Cell Stress Chaperones, 15, 717 (2010)..これらの毒物が低濃度で機能性を発現するメカニズムは完全には解明されていない.しかし,sodium azideとCOの場合は,ともにミトコンドリアに存在するcytochrome c oxidaseの阻害作用との関連性が示唆されている.すなわち,本酵素の阻害によって生成する活性酸素がKeap1–Nrf2系を活性化し,ストレス耐性や抗炎症作用をもたらしたと推察されている.重要なことに,これらの毒性自体もcytochrome c oxidaseの阻害作用によって起こる.したがって,本酵素の阻害作用の強弱が機能性と毒性を決定する可能性が高い.これに関連して,16世紀のスイスの医師のパラケルスス(Paracelsus)が「すべてのものは毒であり,毒でないものはない.投与量のみが毒か否かを決定する」という金言を残したことを指摘しておきたい.この「毒か否か」という部分を「機能性成分か否か」と置き換えれば,異物であるファイトカケミカルが機能性を示す本質的な理由を理解するうえでの一助となるのではないだろうか.

おわりに

ファイトケミカルの作用機構は部分的にしか解明されておらず,未知の機構が数多く潜んでいることに疑いの余地はない.たとえば最近,miRNAを介したユニークな分子機構も発見されているが,これを10年前に予見できた食品機能研究者は一人もいなかったであろう.一方,薬剤に関しても,想定した標的だけに作用していると考えるべきではない.たとえば最近,MEK(MAPK kinase)の選択的阻害剤が,標的分子への結合を介さない機構で細胞内カルシウム流入を阻害し,norepinephrineの放出を抑制するという予期せぬ作用特性が報告された(26)26) E. M. Wauson, M. L. Guerra, B. Barylko, J. P. Albanesi & M. H. Cobb: Biochemistry, 52, 5164 (2013)..また,estrogen受容体のアンタゴニストであり,乳がん抑制機能をもつtamoxifenには,近年,酸性ceramidaseの阻害によって前立腺がんの転移を抑制するという新しい側面も明らかにされている(27)27) S. A. Morad, J. C. Levin, S. F. Tan, T. E. Fox, D. J. Feith & M. C. Cabot: Biochim. Biophys. Acta, 1831, 1657 (2013)..このように,比較的選択性の高い薬剤でもoff-target効果が見られる事実を鑑みると,化学構造が単純で,かつ動物タンパク質に対する親和性が担保されていないファイトケミカルが,細胞内で非特異的に振る舞っても不思議ではないであろう.

上述した私たちの研究成果は,「生体タンパク質への非特異的な相互作用を介した新たな作用機構の可能性」を提示する(図7図7■ファイトケミカルの主な作用機構の概要の分類).その妥当性や普遍性の検証は今後の課題であるが,「タンパク質ストレスを介したホルミシス」という特性に着眼し,本機構を「プロテオホルミシス(proteo-hormesis)」と称している.また,ファイトケミカルの摂取によって適応応答性を鍛えることは「ケミカルトレーニング(28)28) K. Ohnishi, K. Irie & A. Murakami: Funct. Food Health Disease, 3, 400 (2013). 」と表現できよう.ところで,sulforaphaneが抗酸化酵素や解毒酵素を誘導するという現象は,この機能性成分が「体に良い」からであろうか.むしろ,生体にとっては酸化ストレス源であり,また不要な化学物質だという側面が反映した結果と捉えるべきであろう.こうしたファイトケミカルを適量摂取すればストレス抵抗性が強化できるかもしれないが,効果的な摂取量の決定は決して容易ではない.いずれにせよ,ホルミシスの概念に則して考えれば,生体異物であるファイトケミカルが機能性を示す根本的な理由や過剰摂取による副作用の原因が合理的に説明できる(図6図6■ホルミシス曲線).さらに,このような視点で植物性化学物質と動物細胞との相互作用を解析すれば,たとえば「ヒトがなぜ野菜を食べてきたのか」という壮大な謎を解くための材料を提供できるかもしれない.

図7■ファイトケミカルの主な作用機構の概要の分類

(1)活性酸素消去などの抗酸化作用によって機能性が説明できる場合.(2)ファイトケミカルの標的分子は不明だが,それに対する結合過程の下流で起こるイベントは判明している場合.(3)特異的相互作用:生理活性の引き金とも言える標的分子が同定されている場合.(4)非特異的相互作用:生体タンパク質とのランダムな相互作用に対する適応応答としてタンパク質品質管理機構が活性化し,その結果として生理機能性の発現に寄与している可能性(Ub,ユビキチン).タンパク質ストレスに対するホルミシスということを踏まえ,筆者らはこの現象を「プロテオホルミシス」と称している.

Acknowledgments

本稿で言及した筆者らの研究成果は,研究室の入江一浩教授をはじめ,多くの共同研究者の皆様のご指導やご協力によって生まれたものです.とりわけ,当該研究課題の主たる研究者として真摯な姿勢で成果を上げてくれた大西康太博士(現 名古屋大学・日本学術振興会特別研究員)に感謝致します.また,農研機構生研センター「イノベーション創出基礎的研究推進事業」および日本学術振興会の研究助成に対し厚く御礼申し上げます.

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