今日の話題

ポリケチド–ヌクレオシドハイブリッド抗真菌性化合物jawsamycinの生合成Unusual iterative PKSとradical SAM enzymeによるポリシクロプロパン骨格の構築

Tomoshige Hiratsuka

平塚 知成

独立行政法人理化学研究所環境資源科学研究センターケミカルゲノミクス研究グループ ◇ 〒230-0045 神奈川県横浜市鶴見区末広町一丁目7番22号

Chemical Genomics Research Group, Center for Sustainable Resource Science, RIKEN ◇ 1-7-22 Suehiro-cho, Tsurumi-ku, Yokohama-shi, Kanagawa 230-0045, Japan

Hideaki Oikawa

及川 英秋

北海道大学理学研究院化学部門 ◇ 〒060-0810 北海道札幌市北区北10条西8丁目

Department of Chemistry, Faculty of Science, Hokkaido University ◇ Kita 10 Nishi 8, Kita-ku, Sapporo-shi, Hokkaido 060-0810, Japan

Published: 2015-05-20

Jawsamycin(FR-900848, 1)(図1a図1■ポリシクロプロパン型天然物の生合成)は放線菌Streptoverticillium fervens HP-891により生産される二次代謝産物で,植物病原菌に対する強い抗真菌活性をもつことが知られている(1)1) M. Yoshida, M. Ezaki, M. Hashimoto, M. Yamashita, N. Shigematsu, M. Okuhara, M. Kohsaka & K. Horikoshi: J. Antibiot., 43, 748 (1990)..生理活性もさることながら目を引かれるのは脂肪酸部の立体配置が同一の連続したシクロプロパン構造である.JAWSamycinの名は,この構造がサメの歯のように見えるため現場の研究者が使っていた愛称である.一つのシクロプロパン環をもつ生理活性物質としてはduocarmycin類(抗腫瘍活性)やpyrethrin類(殺虫活性),curacin A(有糸分裂阻害活性)などが知られているが,ポリシクロプロパン構造をもつ化合物は極めて珍しく,1のほかにはStreptomyces sp. UC-11136の生産するコレステロールエステル輸送タンパク質阻害物質U-106305(2)(図1b図1■ポリシクロプロパン型天然物の生合成)が唯一報告されている.また1の特異な構造は生化学者のみならず有機合成化学者からも注目され,1996年には2つのグループにより全合成が達成された(2)2) T. Hiratsuka, H. Suzuki, R. Kariya, T. Seo, A. Minami & H. Oikawa: Angew. Chem. Int. Ed., 19, 5423 (2014)..一方で生合成機構については,各種安定同位体の取り込み実験より,1の核酸部はuridineに由来し,脂肪酸部はポリケチド合成酵素(PKS)により合成され,シクロプロパン骨格のメチレン炭素はS-adenosyl-L-methionine(SAM)由来であることが示されていたが(3,4)3) M. S. Kuo, R. J. Zielinski, J. I. Cialdella, C. K. Marschke, M. J. Dupuis, G. P. Li, D. A. Kloosterman, C. H. Spilman & V. P. Marshall: J. Am. Chem. Soc., 117, 10629 (1995).4) H. Watanabe, T. Tokiwano & H. Oikawa: Tetrahedron Lett., 47, 1399 (2006).,具体的な機構は未解明のままであった.

図1■ポリシクロプロパン型天然物の生合成

(a)Jawsamycin予想生合成経路.(b)U-106305構造式.(c)Jawsamycin生合成遺伝子クラスター.

また,1のもつ抗真菌活性の作用機構は明らかにされていないが,やはりその活性には特徴的な脂肪酸部が重要な役割をもつと予想される.丸山らはStreptomyces lavendulaeの生産する抗生物質streptothricinの生合成機構を解明し,β-リジンペプチド鎖の長さを制御することでその抗菌スペクトルの改変に成功している(5)5) C. Maruyama, J. Toyoda, Y. Kato, M. Izumikawa, M. Takagi, K. Shin-ya, H. Katano, T. Utagawa & Y. Hamano: Nat. Chem. Biol., 8, 791 (2012).1においてもシクロプロパン導入制御を明らかにすることで,シクロプロパン導入数や位置をコントロールし,その生理活性を変化させることができると考えた.さらにPKSにより生合成されるポリエン型天然物の生合成経路にシクロプロパン導入酵素を組み込んで改変した生合成マシナリーの構築により,既知化合物をポリシクロプロパン化し新たな生理活性を賦与することも可能になると考えた.

そこで筆者らは生合成機構の解明を目標とし,1の生合成遺伝子(jaw)クラスターの同定を試みた.当初1の脂肪酸部はその不規則なシクロプロパン導入パターンからモジュラー型PKSが関与すると考え,PCRスクリーニングを行ったが不成功に終わった.次に最近の関連研究から,1の生合成にはuridine monophosphate(UMP)修飾酵素の関与が示唆されたため(2)2) T. Hiratsuka, H. Suzuki, R. Kariya, T. Seo, A. Minami & H. Oikawa: Angew. Chem. Int. Ed., 19, 5423 (2014).,生産菌ゲノムDNAデータを取得し,それら酵素およびPKSに相同な遺伝子を含むクラスターを選抜した.この遺伝子クラスターには,jaw7jaw8(UMP修飾)のほかに,jaw5(radical SAM酵素,シクロプロパン導入),jaw2(アシル基転位,脂肪酸部と核酸部の縮合)などの予想機能をもつ遺伝子も含まれていた(2)2) T. Hiratsuka, H. Suzuki, R. Kariya, T. Seo, A. Minami & H. Oikawa: Angew. Chem. Int. Ed., 19, 5423 (2014).図1c図1■ポリシクロプロパン型天然物の生合成).興味深いのは,予想したモジュラー型PKS遺伝子ではないjaw4(iterative PKS, KS-AT-DH-ACP)の存在であり,さらに通常モジュール内に組み込まれているべきjaw6(ケトレダクテース,KR)が独立していたことである.この場合,ポリケチド鎖の合成においてKRがモジュール外から関与するということになるが,そのようなiterative PKSはこれまでに報告がない.

次にStreptomyces lividansを宿主として選抜遺伝子クラスターの異種発現を行った結果,形質転換株による1の生産が確認された.続く遺伝子破壊実験やin vivoin vitroにおける各酵素の機能解析では,UMP修飾やアシル基転位などが確認されたことから,図1a図1■ポリシクロプロパン型天然物の生合成に示す1予想生合成経路を提唱した.特に,精製His6-Jaw2を用いた5′-amino-5′-deoxyuridine(3)および各種アシルCoA(基質脂肪酸ミミック)の縮合反応では,1の脂肪酸部と同鎖長のC18-CoAを用いた際に最も高い活性が検出され,さらに短鎖長のアシルCoAに対しても一定の活性が確認された(C8~16-CoAにおいてC18-CoAの14~45%).この結果は遺伝子組換えなどによる1の短鎖脂肪酸誘導体の生産の可能性を予感させる.また,jaw2456導入S. lividansへの3の投与実験においてはdehydrojawsamycinの生産が確認された.Jaw2は核酸部–脂肪酸部の縮合反応を行うため,これはシクロプロパンが導入された脂肪酸がJaw4, 5, 6により合成されるという明確な証拠であり,シクロプロパンの導入制御もJaw4, 5, 6により行われていることを意味する.シクロプロパン化はJaw5が触媒することが支持されるが,その場合,Jaw4, 6により合成されたポリエンを一挙にポリシクロプロパン化する経路(path A),またはJaw4, 6と共同し脂肪酸を伸長しつつ段階的にシクロプロパンを導入する経路(path B)が考えられる.これは,同位体ラベルSNAC diketideアナログ(4)がエナンチオマー選択的に1に取り込まれるという結果に加え(6)6) T. Tokiwano, H. Watanabe, T. Seo & H. Oikawa: Chem. Commun. (Camb.), 45, 6016 (2008).jaw5破壊異種発現株において1のシクロプロパン未導入アナログの生産が確認されないことから,path Bが有力と考える.

さて1および2の脂肪酸部を比較すると,2番目と8番目の伸長単位が共通してシクロプロパンが導入されていないことに気づく.そこには同様の制御機構が作用すると思われるが,まだ十分な知見が得られていない.しかし,一般的なiterative PKSにおいて本来モジュール内に組み込まれているKRドメインが独立し,さらにradical SAM酵素が加わった三者のタンパク質間相互作用にこそシクロプロパン導入制御の秘密があると推測される.Iterative PKS, radical SAM酵素はともに扱いが難しく,制御の解明は簡単ではない.だがjawsamaycin PKS群の詳細な生合成機構の解析は関連化合物の多様性の創出につながるため,大きな意義があると考えている.

Reference

1) M. Yoshida, M. Ezaki, M. Hashimoto, M. Yamashita, N. Shigematsu, M. Okuhara, M. Kohsaka & K. Horikoshi: J. Antibiot., 43, 748 (1990).

2) T. Hiratsuka, H. Suzuki, R. Kariya, T. Seo, A. Minami & H. Oikawa: Angew. Chem. Int. Ed., 19, 5423 (2014).

3) M. S. Kuo, R. J. Zielinski, J. I. Cialdella, C. K. Marschke, M. J. Dupuis, G. P. Li, D. A. Kloosterman, C. H. Spilman & V. P. Marshall: J. Am. Chem. Soc., 117, 10629 (1995).

4) H. Watanabe, T. Tokiwano & H. Oikawa: Tetrahedron Lett., 47, 1399 (2006).

5) C. Maruyama, J. Toyoda, Y. Kato, M. Izumikawa, M. Takagi, K. Shin-ya, H. Katano, T. Utagawa & Y. Hamano: Nat. Chem. Biol., 8, 791 (2012).

6) T. Tokiwano, H. Watanabe, T. Seo & H. Oikawa: Chem. Commun. (Camb.), 45, 6016 (2008).