Kagaku to Seibutsu 53(6): 389-397 (2015)
セミナー室
病原細菌と宿主オートファジーとの攻防
Published: 2015-05-20
© 2015 Japan Society for Bioscience, Biotechnology, and Agrochemistry
© 2015 公益社団法人日本農芸化学会
宿主の粘膜には常在細菌叢,タイトジャンクション,粘液・免疫バリアからなる防御機構が構築され,微生物の侵入を阻止している.また,TLRs(Toll like receptors),NLRs(Nod like receptors)などによりPAMPs(pathogen-associated molecular patterns)が認識されることで発動された炎症応答や細胞死により病原細菌を速やかに排除する自然免疫応答も備わっている.さらに最新の研究から,オートファジーが細胞内侵入性細菌に対する新たな自然免疫機構として機能していることが明らかになってきた(1,2)1) M. Cemma & J. H. Brumell: Curr. Biol., 22, R540 (2012).2) V. Deretic, T. Saitoh & S. Akira: Nat. Rev. Immunol., 13, 722 (2013)..当初は哺乳類細胞のオートファジーには基質認識に特異性がないと考えられてきたが,ユビキチンなどで標識された標的を特異的に認識する「選択的オートファジー」の存在が最新の研究から明らかになっている.選択的オートファジーは標的とオートファゴソームとを結びつけるカーゴレセプターと呼ばれる一連のアダプター分子によって駆動され,損傷を受けたオルガネラや変性タンパク質凝集体(アグリソーム),細胞に侵入した病原細菌を特異的に異物として認識し分解する(3~5)3) C. Behrends & S. Fulda: Int. J. Cell Biol., 2012, 673290 (2012).4) T. Johansen & T. Lamark: Autophagy, 7, 279 (2011).5) S. Shaid, C. H. Brandts, H. Serve & I. Dikic: Cell Death Differ., 20, 21 (2013)..
本項では病原細菌に対する選択的・非選択的オートファジー認識機構,病原細菌によるオートファジー回避・利用のメカニズムを中心に,さまざまな病原細菌とオートファジーとの攻防について筆者の研究成果を交えながら,最新の知見を紹介する(6~8)6) A. Choy & C. R. Roy: Trends Microbiol., 21, 451 (2013).7) J. Huang & J. H. Brumell: Nat. Rev. Microbiol., 12, 101 (2014).8) S. Mostowy & P. Cossart: Trends Cell Biol., 22, 283 (2012)..
多くの細胞内侵入性細菌は宿主細胞侵入後にファゴソーム(エンドソーム)膜に損傷を与える.たとえば,赤痢菌(Shigella flexneri),サルモネラ菌(Salmonella Typhimurium)などグラム陰性細菌が保持しているⅢ型分泌装置や結核菌(Mycobacterium tuberculosis)が保持しているESX-1分泌系は菌が細胞に侵入した後にニードルの先がエンドソーム膜に突き刺さることで膜に損傷を与える(7,9)7) J. Huang & J. H. Brumell: Nat. Rev. Microbiol., 12, 101 (2014).9) N. Dupont, S. Lacas-Gervais, J. Bertout, I. Paz, B. Freche, G. T. Van Nhieu, F. G. van der Goot, P. J. Sansonetti & F. Lafont: Cell Host Microbe, 6, 137 (2009)..A群連鎖球菌(GAS, Streptococcus pyogenes)が産生するSLO(ストレプトリジンO)やリステリア属菌(Listeria monocytogenes)が産生するLLO(リステリオリジンO),黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)が産生するα-ヘモリシンなどの膜孔形成毒素もエンドソーム膜に損傷を与えて,膜断片(membrane remnant)を生じさせる(10)10) M. B. Mestre, C. M. Fader, C. Sola & M. I. Colombo: Autophagy, 6, 110 (2010)..これらの膜断片はDAMPs(damage-associated molecular patterns)として宿主に炎症応答やオートファジーを誘導する(7,9)7) J. Huang & J. H. Brumell: Nat. Rev. Microbiol., 12, 101 (2014).9) N. Dupont, S. Lacas-Gervais, J. Bertout, I. Paz, B. Freche, G. T. Van Nhieu, F. G. van der Goot, P. J. Sansonetti & F. Lafont: Cell Host Microbe, 6, 137 (2009)..以下,それぞれの菌の感染により生じた膜断片に対する選択的オートファジー認識機構について紹介する(図1図1■病原細菌の感染により誘導されるさまざまなオートファジー).
病原細菌の細胞への付着,細胞内外でのPAMPsの放出,侵入,ファゴソームの膜の破綻,アミノ酸飢餓,dsDNAの放出,cAMPの低下などがオートファジー誘導の引き金になる.病原細菌に対するオートファジーはLAP, ファゴソーム膜断片,菌を内包する損傷を受けたファゴソーム,または菌体そのものを認識するにオートファジーに分類される.感染細胞では幾種類かのオートファジーが同時に,または感染時間ごとに起きている.細胞内に脱出するタイプの病原細菌である赤痢菌やリステリア属菌はカーゴレセプターによる選択的オートファジーを巧妙な方法で回避している.
サルモネラ菌は本来ファゴソーム内で増殖する病原細菌であるが,一部のエンドソームはサルモネラ菌の分泌装置であるSPI-Iによってエンドソーム膜が損傷を受ける.生じた膜断片は宿主のE3リガーゼであるLRSAM1によりユビキチン化され,そのポリユビキチン鎖にカーゴレセプターであるp62,NDP52,OPTN(オプティニューリン)がリクルートされる(11~13)11) M. Cemma, P. K. Kim & J. H. Brumell: Autophagy, 7, 341 (2011).12) A. Huett, R. J. Heath, J. Begun, S. O. Sassi, L. A. Baxt, J. M. Vyas, M. B. Goldberg & R. J. Xavier: Cell Host Microbe, 12, 778 (2012).13) P. Wild, H. Farhan, D. G. McEwan, S. Wagner, V. V. Rogov, N. R. Brady, B. Richter, J. Korac, O. Waidmann, C. Choudhary et al.: Science, 333, 228 (2011)..これらのアダプター分子は隔離膜上のLC3と結合し,最終的にサルモネラ菌を内包するエンドソームはオートファゴソームに捕捉される.また,損傷を受けたエンドソーム膜にgalectin-8がリクルートされ,galectin-8とNDP-52との結合が引き金になりユビキチンに依存しない選択的オートファジーが誘導されることも明らかになっている(14)14) T. L. Thurston, M. P. Wandel, N. von Muhlinen, A. Foeglein & F. Randow: Nature, 482, 414 (2012)..このほか,サルモネラ感染ではNADPH oxidseとジアシルグリセロールに依存し,ユビキチンに依存しないLAP(LC3-associated phagocytosis)と呼ばれるNoncanonicalなオートファジーが観察されている(15)15) S. Shahnazari, W. L. Yen, C. L. Birmingham, J. Shiu, A. Namolovan, Y. T. Zheng, K. Nakayama, D. J. Klionsky & J. H. Brumell: Cell Host Microbe, 8, 137 (2010)..このように,選択的オートファジーにはユビキチンに依存するものと依存しないものがある(7)7) J. Huang & J. H. Brumell: Nat. Rev. Microbiol., 12, 101 (2014)..
結核菌もサルモネラ菌と同様に細胞侵入後,分泌装置依存的にオートファジーを誘導する.結核菌を内包するエンドソームは分泌装置であるESX-1依存的に損傷を受けた後,宿主のE3リガーゼであるPARK2によりユビキチン化され,続いてp62,NDP52,NBR1がリクルートされることで最終的にオートファジーにより処理される(16)16) P. S. Manzanillo, J. S. Ayres, R. O. Watson, A. C. Collins, G. Souza, C. S. Rae, D. S. Schneider, K. Nakamura, M. U. Shiloh & J. S. Cox: Nature, 501, 512 (2013)..さらに,PARK2は膜ポテンシャルを消失したミトコンドリアに対する選択的オートファジー(ミトファジー)においてもミトコンドリア外膜表面の標的をユビキチン化するE3リガーゼとして機能している(17)17) D. Narendra, A. Tanaka, D. F. Suen & R. J. Youle: J. Cell Biol., 183, 795 (2008)..ミトコンドリアは細胞内寄生した細菌を起源とすることから,結核菌など細胞内に長期寄生する細菌とミトコンドリアが共通のE3リガーゼであるPARK2によってユビキチン化されオートファジーにより排除されることはたいへん興味深い.サルモネラ菌や結核菌ではそれぞれE3リガーゼが同定されているが,ユビキチン化される菌側の基質は不明である.
赤痢菌やリステリア属菌は宿主細胞侵入後にエンドソームから細胞質へと脱出する病原細菌であるが,その過程でエンドソーム膜を破壊し,生じた膜断片がオートファジーで処理される(9)9) N. Dupont, S. Lacas-Gervais, J. Bertout, I. Paz, B. Freche, G. T. Van Nhieu, F. G. van der Goot, P. J. Sansonetti & F. Lafont: Cell Host Microbe, 6, 137 (2009)..これらの菌はエンドソームから脱出し,アクチンコメットを形成して運動性を獲得し細胞内を動き回るが,侵入部位に残されたエンドソーム膜断片はポリユビキチン化され,そのポリユビキチン鎖には赤痢菌ではp62,NDP52,NBR1が,リステリア属菌ではp62,NDP52がそれぞれリクルートされオートファジーで分解される(18)18) S. Mostowy, V. Sancho-Shimizu, M. A. Hamon, R. Simeone, R. Brosch, T. Johansen & P. Cossart: J. Biol. Chem., 286, 26987 (2011).(図1図1■病原細菌の感染により誘導されるさまざまなオートファジー).エンドソームから脱出する菌では感染初期の膜断片に対するオートファジーと,細胞質脱出以降の菌自体を標的としたオートファジーとは区別して解析する必要がある.損傷を受けた膜断片はDAMPsとして認識されIL-1β産生などの炎症応答を惹起することから,過剰な炎症反応を抑制するためにオートファジーで膜断片を早急に処理する必要があるのではないかと考えられている.リステリア属菌と同様,GASは膜孔形成毒素であるSLOを分泌しエンドソーム膜を損傷させる.GAS JRS4株はオートファジーで速やかに殺菌されることが知られており(19)19) I. Nakagawa, A. Amano, N. Mizushima, A. Yamamoto, H. Yamaguchi, T. Kamimoto, A. Nara, J. Funao, M. Nakata, K. Tsuda et al.: Science, 306, 1037 (2004).(図2図2■病原細菌感染におけるオートファジーの意義),菌から放出されたSLOにより生じた膜断片は未知のE3リガーゼによりユビキチン化を受け,p62,NDP52がリクルートされて,オートファジーで分解される.電子顕微鏡によりGASも細胞質へと移行することが観察されていることから(19)19) I. Nakagawa, A. Amano, N. Mizushima, A. Yamamoto, H. Yamaguchi, T. Kamimoto, A. Nara, J. Funao, M. Nakata, K. Tsuda et al.: Science, 306, 1037 (2004).,GASにおいても膜断片のオートファジーと菌自体のオートファジーとを分けて考える必要があると思われる.細胞質に離脱した菌自体を認識するオートファジーについては後述する.
細菌表面の接着因子と宿主受容体の相互作用によって宿主細胞表面に強固に接着する一連の細菌では細胞への接着刺激がオートファジーを誘導することが知られている.Joubertらは,GASの菌体表層のMタンパク質と宿主細胞表面のCD46が結合し,CD46の細胞内ドメインがGOPCを介して菌の接着部位にVps34-Beclin1をリクルートすることで細胞侵入直後の菌はオートファジーにより速やかに捕捉されることを報告している(20)20) P. E. Joubert, G. Meiffren, I. P. Gregoire, G. Pontini, C. Richetta, M. Flacher, O. Azocar, P. O. Vidalain, M. Vidal, V. Lotteau et al.: Cell Host Microbe, 6, 354 (2009).(図1図1■病原細菌の感染により誘導されるさまざまなオートファジー).また,Deuretzbacherらはマクロファージ様培養細胞であるJ774細胞において,エルシニア菌の侵入因子であるインベイシンやYadAと宿主細胞表面のβ1-インテグリンとの結合がオートファジー誘導の引き金になることを報告している(21)21) A. Deuretzbacher, N. Czymmeck, R. Reimer, K. Trulzsch, K. Gaus, H. Hohenberg, J. Heesemann, M. Aepfelbacher & K. Ruckdeschel: J. Immunol., 183, 5847 (2009).(図1図1■病原細菌の感染により誘導されるさまざまなオートファジー).
エンドサイトーシスとオートファジーは細胞内の膜輸送システムの一部を共有しているため,病原細菌の細胞侵入イベントがオートファジー誘導の引き金になる例が報告されている.Philpottらは赤痢菌やリステリア属菌を感染させたHeLa細胞では侵入部位の直近にAtg16L1やNOD1,NOD2が集積し,NOD1,NOD2依存的にオートファジーが誘導されることを報告している(22)22) L. H. Travassos, L. A. Carneiro, M. Ramjeet, S. Hussey, Y. G. Kim, J. G. Magalhaes, L. Yuan, F. Soares, E. Chea, L. Le Bourhis et al.: Nat. Immunol., 11, 55 (2010).(図1図1■病原細菌の感染により誘導されるさまざまなオートファジー).このことは,NLRs(NOD-like receptors)が病原体の侵入を感知しオートファジー誘導することを示している.NLRsだけではなくTLRs(Toll-like receptors)もオートファジーを誘導し,TLR4を介したファゴサイトーシスではファゴソームの周りにLC3やBeclin1が集積することが報告されている(23,24)23) M. A. Sanjuan, C. P. Dillon, S. W. Tait, S. Moshiach, F. Dorsey, S. Connell, M. Komatsu, K. Tanaka, J. L. Cleveland, S. Withoff et al.: Nature, 450, 1253 (2007).24) M. A. Delgado, R. A. Elmaoued, A. S. Davis, G. Kyei & V. Deretic: EMBO J., 27, 1110 (2008)..また,クラスリンを介したエンドサイトーシスでは,クラスリンが菌の侵入部位にAtg16L1をリクルートし,初期エンドドームに集積したAtg16L1はLC-3 IIの生成反応を促進する(25)25) B. Ravikumar, K. Moreau, L. Jahreiss, C. Puri & D. C. Rubinsztein: Nat. Cell Biol., 12, 747 (2010).(図1図1■病原細菌の感染により誘導されるさまざまなオートファジー).興味深いことに,細胞に侵入した一部のサルモネラ菌を内包するエンドソームはLC3陽性であるにもかかわらず通常のオートファゴソームとは異なる形態を示すLAPへと移行する(26)26) S. C. Lai & R. J. Devenish: Cells, 1, 396 (2012).(図1図1■病原細菌の感染により誘導されるさまざまなオートファジー).LAPはAtg1ホモログであるULK1に依存せず,感染による細胞内でのROS(Reactive Oxygen Species)の上昇が引き金になることが知られており,類鼻疽菌(Burkholderia pseudomallei)やリステリア属菌を感染させたマクロファージでも観察される.これまでにROSは直接殺菌作用を示すことが知られていたが,LAPはROSが間接的に作用する殺菌機構である.
細胞内に侵入した細菌から放出されたdsDNA(double-stranded DNA)はcGAS(cGAMP synthase)によって認識され,さらにセカンドメッセンジャーであるcGAMP(cyclic GMP–AMP)の産生を上昇させる.cGAMPはSTING(stimulator of interferon genes)-TBK1(TANK-binding kinase 1)を活性化させてType I IFN応答を誘導する.最新の研究から,dsDNAはSTINGを介してオートファジーを活性化させることが明らかになってきた(図1図1■病原細菌の感染により誘導されるさまざまなオートファジー).Coxらのグループは細胞内の結核菌から放出されたdsDNAがSTINGによって認識され(27)27) R. O. Watson, P. S. Manzanillo & J. S. Cox: Cell, 150, 803 (2012).,それが引き金になって結核菌選択的オートファジーに必須のPARK2が活性化されることを報告している.STINGがPARK2を活性化する機構についてはたいへん興味深く,今後の研究が待たれる.dsDNA以外にも細胞内の菌から放出されるcyclic di-AMPとcyclic di-GMPは分子センサーであるDDX41,STINGと複合体を形成しオートファジーを誘導することが示唆されている.また,細胞質へと脱出したGAS JRS4株は8-nitro-cGMPによって菌体表面がS-グアニル化され,それが引き金となって菌体表面がLys63-ポリユビキチン化され,最終的に選択的オートファジーにより認識・殺菌されることが有本らによって報告されている(28)28) C. Ito, Y. Saito, T. Nozawa, S. Fujii, T. Sawa, H. Inoue, T. Matsunaga, S. Khan, S. Akashi, R. Hashimoto et al.: Mol. Cell, 52, 794 (2013)..さらに最近,結核菌感染によりMyD88,NF-κB経由で誘導されたDRAM1(DNA-damage regulated autophagy modulator 1)が,STING依存的にp62を介した選択的オートファジーを誘導することが報告されている(29)29) M. van der Vaart, C. J. Korbee, G. E. Lamers, A. C. Tengeler, R. Hosseini, M. C. Haks, T. H. Ottenhoff, H. P. Spaink & A. H. Meijer: Cell Host Microbe, 15, 753 (2014)..このように,cyclic dinucleotideとオートファジーの関係は多岐にわたっており,STINGの活性化による非特異的オートファジー誘導機構と特異的なE3リガーゼによるユビキチン化という選択的オートファジーが連動する現象はたいへん興味深い.
このほかにも,細胞内に侵入した病原細菌がアミノ酸を消費することにより誘導されるアミノ酸飢餓応答(30)30) I. Tattoli, M. T. Sorbara, D. Vuckovic, A. Ling, F. Soares, L. A. Carneiro, C. Yang, A. Emili, D. J. Philpott & S. E. Girardin: Cell Host Microbe, 11, 563 (2012).や,病原細菌の感染に起因する細胞内cAMPの低下によるAMPKの活性化がオートファジーを誘導することが報告されているが,これらについてはオートファジーを阻害する菌の項で紹介する(図1図1■病原細菌の感染により誘導されるさまざまなオートファジー).
ここまで見てきたように,オートファジーは細胞内に侵入した細菌と宿主細胞との攻防の最前線での自然免疫機構として働いている.しかし,赤痢菌やリステリア属菌のように宿主細胞侵入後に細胞質へと脱出し細胞質内を動き回る病原細菌は,細胞侵入後に速やかにエンドソームから細胞質へと脱出するため,損傷したエンドソーム膜をターゲットとしたオートファジーではこれらの菌を効率的に排除することができない.さらに,これらの病原細菌は運動性によりオートファジーを回避するだけではなく,細胞内生存戦略としてオートファジーを回避する戦略をもっている.ここではリステリア属菌と赤痢菌に関するわれわれの研究を中心に紹介する(31)31) L. A. Baxt, A. C. Garza-Mayers & M. B. Goldberg: Science, 340, 697 (2013).(図1図1■病原細菌の感染により誘導されるさまざまなオートファジー).
われわれはリステリア属菌を選択的に認識する機構を解析した結果,①リステリア属菌のオートファジーは表面がポリユビキチン化された菌体を宿主のカーゴレセプターであるp62–LC3が認識することで誘導されること,②リステリア属菌の菌体の一極に局在する表層タンパク質で,菌体一極でのアクチンコメットの形成に必須なActAが,Arp2/3複合体やVASPといった宿主タンパク質を菌体表面にリクルートすることで,菌体表面のユビキチン化を阻害すること,③リステリア属菌の野生株はActA欠損株と比較して菌体周囲へのユビキチン-p62-LC3のリクルートおよびオートファジーによる殺菌が顕著に抑制されていることを明らかにしている(32)32) Y. Yoshikawa, M. Ogawa, T. Hain, M. Yoshida, M. Fukumatsu, M. Kim, H. Mimuro, I. Nakagawa, T. Yanagawa, T. Ishii et al.: Nat. Cell Biol., 11, 1233 (2009)..さらに,アグリソーム形成を誘導するタンパク質にActAを融合させて異所的に培養細胞に発現させるとアグリソームのユビキチン化およびp62によるオートファジー認識が顕著に抑制されることも明らかになった(図1図1■病原細菌の感染により誘導されるさまざまなオートファジー).
リステリア属菌はこのほかにもInlKによるオートファジー阻害機構を備えていることが報告されている(33)33) L. Dortet, S. Mostowy, A. Samba-Louaka, E. Gouin, M. A. Nahori, E. A. Wiemer, O. Dussurget & P. Cossart: PLoS Pathog., 7, e1002168 (2011)..InlKは菌体のActAとは逆側の極に局在する表層タンパク質で,宿主のMVP(major vault protein)を菌体表面にリクルートすることでActAの量が少ない極がユビキチン化されることを防いでいる.また,リステリア属菌が産生するPlcAとPlcBはオートファジーの開始に必要なPtdIns(3)Pの量を低下させることでオートファジーによる菌の分解を抑制することがGiraidinらのグループから報告されている(34)34) I. Tattoli, M. T. Sorbara, C. Yang, S. A. Tooze, D. J. Philpott & S. E. Girardin: EMBO J., 32, 3066 (2013)..
われわれは,赤痢菌のオートファジー認識機構およびその回避機構を対象とした研究から,赤痢菌の一極に局在する表層タンパク質でアクチンコメットの形成に必須のVirGとオートファジー関連タンパク質であるAtg5が直接結合し,赤痢菌に対するオートファジーが誘導されること,それに対し赤痢菌のⅢ型分泌装置から分泌されたエフェクターであるIcsBがAtg5–VirG結合を競合的に阻害することで赤痢菌はオートファジーから逃れていることを明らかにしている(35)35) M. Ogawa, T. Yoshimori, T. Suzuki, H. Sagara, N. Mizushima & C. Sasakawa: Science, 307, 727 (2005)..さらに,われわれはAtg5結合タンパク質の探索から得られた分子量約130 kDaの機能未知タンパク質Tecpr1(Tectonin domain-containing protein 1)の解析を行った結果,Tecpr1が赤痢菌を認識する新規カーゴレセプターであることを見いだした.Tecpr1はAtg12–Atg5–Atg16L1複合体およびPtdIns(3)P結合タンパク質WIPI-2に結合し,VirG-Atg5–Tecpr1–WIPI-2–PtdIns(3)P複合体を形成することで赤痢菌に対するカーゴレセプターとして機能していた(36)36) M. Ogawa, Y. Yoshikawa, T. Kobayashi, H. Mimuro, M. Fukumatsu, K. Kiga, Z. Piao, H. Ashida, M. Yoshida, S. Kakuta et al.: Cell Host Microbe, 9, 376 (2011).(図1図1■病原細菌の感染により誘導されるさまざまなオートファジー).興味深いことにTecpr1はサルモネラ菌,GASなどほかの病原細菌,傷害を受けたミトコンドリア,アグリソームを選択的に標的とするオートファゴソームにも局在し,Tecpr1 KO MEF(マウス胎子由来線維芽細胞)の細胞質にはアグリソームや脱分極し形態異常のミトコンドリアが蓄積していた.
最近,Goldbergらのグループが赤痢菌の感染初期(感染40分後)ではIcsBがToca-1を菌体周囲にリクルートし菌の周囲にF-アクチンを集積させることで,損傷したエンドソーム膜断片,またはLAPへのNDP-52とLC3のリクルートを抑制することを報告している(37)37) L. A. Baxt & M. B. Goldberg: PLoS ONE, 9, e94653 (2014)..赤痢菌のⅢ型分泌装置から分泌されるエフェクタータンパク質であるVirAもまた,赤痢菌のオートファジー回避に重要な役割を果たしている.Shaoらのグループは赤痢菌のVirAがRab1に対してGAPとして機能しオートファジーを抑制していることを報告している(38)38) N. Dong, Y. Zhu, Q. Lu, L. Hu, Y. Zheng & F. Shao: Cell, 150, 1029 (2012)..Mostowyらは,細胞質に脱出した一部の赤痢菌はフィラメント構造を有するGTP結合性の宿主タンパク質であるセプチンによって鳥かごで囲うように捕捉され(septin cage),運動性を消失した赤痢菌はやがてp62,NDP52により認識されて最終的にオートファジーに捕捉され,さらにこの現象はIcsB変異株ではより顕著に観察されることを報告している.しかし,セプチンが特異的に赤痢菌を認識する機構やIcsBがセプチンによる補足とそれに続くp62,NDP52による認識を阻害するメカニズムは不明である.
レジオネラ菌(Legionella pneumophila)はDot/Icm分泌装置から分泌されるRavZによってオートファジーを抑制する.RavZはシステインプロテアーゼ活性を有し,LC3-IIのC末端を切断しLC3-Iへと不可逆的に不活化する(39)39) A. Choy, J. Dancourt, B. Mugo, T. J. O’Connor, R. R. Isberg, T. J. Melia & C. R. Roy: Science, 338, 1072 (2012)..興味深いことにRavZ欠損株はオートファジーを抑制できないにもかかわらず,野生株と比較して細胞内増殖性が低下しない.このことはRavZ欠損株がさらにほかのメカニズムでオートファジーによる殺菌を抑制していることを示唆している.
上述のとおりGAS JRS4株はオートファジーで速やかに殺菌されるが,GAS 5448株はオートファジーを抑制し,細胞質内で増殖することが報告されている.GAS 5448 SpeB欠損株は野生株と比較して,細胞質内のLC3陽性菌の割合が顕著に高く,細胞内増殖性が大幅に低下していた.SpeBは分泌性のシステインプロテアーゼであり,in vitroの実験においてp62,NBR1を特異的に分解することから,カーゴレセプターの分解により菌に対する選択的オートファジー認識を阻害していることが示唆されている(40)40) T. C. Barnett, D. Liebl, L. M. Seymour, C. M. Gillen, J. Y. Lim, C. N. Larock, M. R. Davies, B. L. Schulz, V. Nizet, R. D. Teasdale et al.: Cell Host Microbe, 14, 675 (2013)..
類鼻疽菌やMycobacterium marinumは赤痢菌やリステリア属菌と同様に細胞侵入後にファゴソームから細胞質へと脱出し,細胞内を動き回る.上述のように類鼻疽菌は細胞侵入後にLC3陽性のLAPに捕捉されて,phagolysosomeで殺菌される(26)26) S. C. Lai & R. J. Devenish: Cells, 1, 396 (2012)..類鼻疽菌のⅢ型分泌装置から分泌されるBopAはファゴソームからの脱出に関与するエフェクターであることが示唆されているが,BopA欠損株ではLC3陽性菌の割合が上昇することからBopAはLAPによる殺菌の回避に必要であることが示唆されている(41,42)41) M. Cullinane, L. Gong, X. Li, N. Lazar-Adler, T. Tra, E. Wolvetang, M. Prescott, J. D. Boyce, R. J. Devenish & B. Adler: Autophagy, 4, 744 (2008).42) L. Gong, M. Cullinane, P. Treerat, G. Ramm, M. Prescott, B. Adler, J. D. Boyce & R. J. Devenish: PLoS ONE, 6, e17852 (2011)..一方,M. marinumはESX-1分泌装置依存的にLC3陽性vesicleに捕捉される.菌を内包するvesicleは成熟しRab7,Lamp1陽性となるが,カテプシンD陰性であることからリソソームとの融合が阻害されていることが示唆されている(43)43) M. C. Lerena & M. I. Colombo: Cell. Microbiol., 13, 814 (2011)..ラパマイシンでオートファジーを活性化するとM. marinumを内包するvesicleとリソソームとの融合が起こり,vesicle内の菌は殺菌される.また,細胞質へ離脱した一部のM. marinumはユビキチン化され,形態的にはオートファゴソーム様の二重膜であるにもかかわらず,LC3,Atg5陰性のvesicleに捕捉されることが報告されている.このM. marinumを内包するエンドソームは最新の研究からその存在が明らかになりつつあるalternative autophagyの可能性が示唆されている.alternative autophagyではその形成にULK1を必要とするが,Atg5やLC3を必要としないオートファゴソーム様の膜構造が形成されることが報告されている(44)44) S. Honda, S. Arakawa, Y. Nishida, H. Yamaguchi, E. Ishii & S. Shimizu: Nat. Commun., 5, 4004 (2014)..
野兎病菌(Francisella tularensis)は細胞侵入後に赤痢菌やリステリア属菌と同様にファゴソームから細胞質へと脱出する.細胞内運動性はないが,細胞質内で速やかに増殖するため,宿主細胞は細胞質へと脱出した菌をLC3陽性のオートファゴソーム様のコンパートメント(FCV)で捕捉殺菌しようとする.野兎病菌のタイプⅣ線毛(Tfp)はFCVの形成を抑制することが報告されているが,FCV形成のための菌体認識機構とTfpによるFCV形成阻害メカニズムは不明である(45)45) E. N. Salomonsson, A. L. Forslund & A. Forsberg: Frontiers in Microbiology 2, 29 (2011)..また,野兎病菌はオートファジーに関与する遺伝子の発現を抑制することも報告されているが,そのメカニズムは不明である(46)46) J. P. Butchar, T. J. Cremer, C. D. Clay, M. A. Gavrilin, M. D. Wewers, C. B. Marsh, L. S. Schlesinger & S. Tridandapani: PLoS ONE, 3, e2924 (2008)..野兎病菌のO多糖がオートファジーを抑制し,マクロファージ内での野兎病菌の生残性に関与することをCelliらが報告している(47)47) E. D. Case, A. Chong, T. D. Wehrly, B. Hansen, R. Child, S. Hwang, H. W. Virgin & J. Celli: Cell. Microbiol., 16, 862 (2014)..野兎病菌が細胞内増殖にオートファジーを利用しているという報告もあるが,このことについては次の項で紹介する.
リステリア属菌がArp2/3,VASP,MVPを,赤痢菌がToca-1を菌体の周囲にリクルートすることで菌体周囲の膜断片または菌体表層タンパク質のユビキチン化,およびそれに続くオートファジー認識を抑制することは上述したが,結核菌Erdman株はcoronin-1を菌体周囲にリクルートし菌体周囲にF-アクチンのバリアを作ることでユビキチン–p62–LC3によるオートファジー認識を阻害している(48)48) K. L. Fine, M. G. Metcalfe, E. White, M. Virji, R. K. Karls & F. D. Quinn: Cell. Microbiol., 14, 1402 (2012)..このように,いくつかの病原細菌が菌体周囲に宿主タンパク質をリクルートし菌体をカモフラージュすることで,ユビキチン・カーゴレセプターによるオートファジー認識を抑制するという共通の戦略を有することはたいへん興味深い.
細胞内に侵入した細菌は細胞内でアミノ酸を消費することでアミノ酸センサーであるGCN2を介したアミノ酸飢餓応答を誘導する(30)30) I. Tattoli, M. T. Sorbara, D. Vuckovic, A. Ling, F. Soares, L. A. Carneiro, C. Yang, A. Emili, D. J. Philpott & S. E. Girardin: Cell Host Microbe, 11, 563 (2012).(図1図1■病原細菌の感染により誘導されるさまざまなオートファジー).アミノ酸飢餓応答はmTORC1活性を阻害し,mTorをリソソーム膜から細胞質へと移行させるが,サルモネラ菌感染4時間後にはmTORC1は再活性化されてmTorは再び細胞質からリソソーム膜へとリクルートされ,オートファジーは収束する.一方で,赤痢菌を用いて同様に行った実験では感染4時間後におけるmTORC1の再活性化は観察されなかった.さらに,ラパマイシン処理によりmTORC1を強制的に阻害した状態でサルモネラ菌を感染させると,感染4時間後におけるLC3陽性の菌の割合が大幅に上昇した.この結果から,サルモネラ菌は感染後期においてmTORC1の再活性化を誘導することでオートファジーの収束を早める戦略を有していることが示唆されている(49)49) I. Tattoli, D. J. Philpott & S. E. Girardin: Biol. Open, 1, 1215 (2012)..Casanovaらの最新の報告では,感染後期に活性化されるⅢ型分泌機構SPI-2から分泌される未知のエフェクタータンパク質によるFAKの活性化がmTORC1の再活性化に必要であることが示唆されている(50)50) K. A. Owen, C. B. Meyer, A. H. Bouton & J. E. Casanova: PLoS Pathog., 10, e1004159 (2014)..
AMPK(AMP-activated protein kinase)はATP/AMPの低下により活性化され,以下の3つの経路でオートファジーを強力に誘導する(51)51) R. C. Russell, H. X. Yuan & K. L. Guan: Cell Res., 24, 42 (2014)..すなわち,①TSC1/TSC2をリン酸化してmTORC1活性を阻害する経路,②mTorを直接リン酸化してmTORC1活性を阻害する経路,さらに③ULK1/ULK2(Atg1ホモログ)を直接リン酸化する経路でオートファジーを誘導する経路である.さらに,cAMPの上昇はPKAを活性化し,活性化したPKAはAMPKの活性を直接阻害することでオートファジーを抑制する.酵母では活性化したPKAがAtg13をリン酸化することでオートファジーを抑制することが報告されている.炭疽菌(Bacillus anthracis)の致死毒素はadenylyl cyclase活性によりcAMPを上昇させ,コレラ菌(Vibrio cholerae)のコレラ毒素はADP ribosyltransferase活性により細胞内のcAMP量を増加させるが,これらの毒素は強力にオートファジーを抑制し,その抑制効果はラパマイシン処理によっても解除することができない(52)52) S. Shahnazari, A. Namolovan, J. Mogridge, P. K. Kim & J. H. Brumell: Autophagy, 7, 957 (2011)..一方で,黄色ブドウ球菌は細胞内のcAMP量を低下させ,その下流のEPAC(exchange protein activated by cAMP),Rap2Bの活性を抑制することでオートファジーを上昇させる(53)53) M. B. Mestre & M. I. Colombo: PLoS Pathog., 8, e1002664 (2012).(図1図1■病原細菌の感染により誘導されるさまざまなオートファジー).黄色ブドウ球菌が誘導するオートファジーの意義についてはオートファジーが殺菌的に働くという報告と細胞内増殖のためにオートファジーを利用しているという報告があり,今後の研究の進展が待たれるところである(54,55)54) K. Harada-Hada, K. Harada, F. Kato, J. Hisatsune, I. Tanida, M. Ogawa, S. Asano, M. Sugai, M. Hirata & T. Kanematsu: PLoS ONE, 9, e98285 (2014).55) A. Schnaith, H. Kashkar, S. A. Leggio, K. Addicks, M. Kronke & O. Krut: J. Biol. Chem., 282, 2695 (2007)..
コクシエラ菌(Coxiella burnetii)はⅣ型分泌機構をもつ細胞内侵入性細菌で,細胞内の酸性vesicleの中で増殖する.興味深いことにコクシエラ菌が増殖するvesicleはLC3陽性であり,オートファジーを抑制すると増殖が抑制される.このことからコクシエラ菌は菌を内包しているエンドソームを増殖に適した環境にするためにオートファジーの膜輸送システムを利用していると考えられている(56)56) M. G. Gutierrez, C. L. Vazquez, D. B. Munafo, F. C. Zoppino, W. Beron, M. Rabinovitch & M. I. Colombo: Cell. Microbiol., 7, 981 (2005)..
ブルセラ菌(Brucella abortus)もⅣ型分泌機構をもつ細胞内侵入性細菌で,Ⅳ型分泌機構依存的にER由来の酸性vesicle(BCV)の中で増殖する.BCVはautophagic BCV(aBCV)へと成熟した後に菌は細胞から放出され隣接細胞に再感染する.BCVがaBCVに成熟するためにはオートファジータンパク質であるULK1,Beclin1,Atg14が必須であるがAtg5,Atg7,Atg16,LC3は必要としない(57)57) T. Starr, R. Child, T. D. Wehrly, B. Hansen, S. Hwang, C. Lopez-Otin, H. W. Virgin & J. Celli: Cell Host Microbe, 11, 33 (2012)..さらに,ULK1はブルセラ菌の細胞内増殖性には必要ではないが,隣接細胞への再感染に必要であることからaBCVはブルセラ菌の細胞内ライフサイクルに必要であることが示唆されている.aBCVはAtg5に依存せず,殺菌的に働かないことから,alternative autophagyの可能性が示唆される.一方で,Brucella melitensisはLC3-II量の増加を伴うオートファジーを誘導し,3-メチルアデニンでオートファジーを阻害すると細胞内の菌数が減少することから,オートファジーを利用して細胞内で増殖することが示唆されている(58)58) F. Guo, H. Zhang, C. Chen, S. Hu, Y. Wang, J. Qiao, Y. Ren, K. Zhang, Y. Wang & G. Du: Cell. Mol. Biol. Lett., 17, 249 (2012)..
Yersinia pseudotuberculosisはⅢ型分泌装置を有する菌であり,細胞侵入後にLC3陽性のvesicle内で増殖する.オートファジーを阻害するとvesicleは成熟・酸性化しvesicle内の菌は殺菌される.このことから,Y. pseudotuberculosisはオートファジーを利用して細胞内で増殖していると考えられている(59)59) K. Moreau, S. Lacas-Gervais, N. Fujita, F. Sebbane, T. Yoshimori, M. Simonet & F. Lafont: Cell. Microbiol., 12, 1108 (2010)..ペスト菌(Yersinia pestis)もオートファジーにより認識されるが,オートファゴソームの酸性化を阻害することにより細胞内生残性を獲得していることが報告されている(60)60) C. Pujol, K. A. Klein, G. A. Romanov, L. E. Palmer, C. Cirota, Z. Zhao & J. B. Bliska: Infect. Immun., 77, 2251 (2009)..
アナプラズマ(Anaplasma phagocytophilum)は二重膜で包まれたLC3,Beclin1陽性のオートファゴソーム様のエンドソーム(inclusion)内で増殖することが知られている.アナプラズマの細胞内増殖はオートファジー阻害剤である3-MA(3メチルアデニン)で阻害され,ラパマイシンで促進される.アナプラズマを内包するLC3陽性のinclusionは成熟が阻害されており,リソソームとの融合が起きない(61)61) H. Niu, M. Yamaguchi & Y. Rikihisa: Cell. Microbiol., 10, 593 (2008)..興味深いことに,inclusion内のアナプラズマはⅣ型分泌装置からAts-1(anaplasma translocated substrate 1)を細胞質へ分泌し,Ats-1はBeclin-1と結合することでカノニカルなオートファゴソーム形成を誘導する.さらに,Ats-1陽性のオートファゴソームはinclusionへとリクルートされ,両者が融合することでアミノ酸などのエネルギー源をinclusion内のアナプラズマへと供給していることが報告されている(62)62) H. Niu, Q. Xiong, A. Yamamoto, M. Hayashi-Nishino & Y. Rikihisa: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 109, 20800 (2012)..
野兎病菌はオートファジーによる菌の殺菌を阻害しているが,クロロキンや塩化アンモニウムによりオートファゴソームの酸性化を阻害し,オートファジーのfluxを抑制すると細胞内での菌の増殖が抑制されることから,野兎病菌はオートファジーを阻害するだけではなく,FCV内での増殖に利用していることが示唆されている(63)63) C. Checroun, T. D. Wehrly, E. R. Fischer, S. F. Hayes & J. Celli: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 103, 14578 (2006)..興味深いことに,野兎病菌が細胞内で増殖するためにはオートファゴソームからアミノ酸などの栄養を得ることが必要であり,さらにそのオートファジーは菌に対して殺菌的に働くAtg5依存的なオートファジーとは異なるAtg5非依存的なalternative autophagyの可能性があることをKawulaらが最近報告している(64)64) S. Steele, J. Brunton, B. Ziehr, S. Taft-Benz, N. Moorman & T. Kawula: PLoS Pathog., 9, e1003562 (2013)..細胞内の菌がオートファゴソームから栄養を搾取するという戦略はアナプラズマと共通でありたいへん興味深い.さらに,ブルセラ菌や野兎病菌などalternative autophagyを利用している菌は,殺菌的に働くAtg5依存的なオートファジー(Xenophagy)を抑制しつつ,自身の増殖に必要なAtg5非依存的なオートファジーは阻害しないという高度な戦略を有していることを示唆している.トキソプラズマ原虫感染細胞では,Atg5,Atg7,Atg16L1に依存し,Atg9a,Atg14,UlK1には依存しない,オートファジーとは異なる新たな感染防御機構が存在することが報告されている.同様の殺菌機構はリステリア菌感染においても観察されており,Atgタンパク質がオートファジー以外の機能をもつことを示唆する現象として期待されている(65~67)65) J. Choi, S. Park, S. B. Biering, E. Selleck, C. Y. Liu, X. Zhang, N. Fujita, T. Saitoh, S. Akira, T. Yoshimori et al.: Immunity, 40, 924 (2014).66) J. Ohshima, Y. Lee, M. Sasai, T. Saitoh, J. Su Ma, N. Kamiyama, Y. Matsuura, S. Pann-Ghill, M. Hayashi, S. Ebisu et al.: J. Immunol., 192, 3328 (2014).67) Z. Zhao, B. Fux, M. Goodwin, I. R. Dunay, D. Strong, B. C. Miller, K. Cadwell, M. A. Delgado, M. Ponpuak, K. G. Green et al.: Cell Host Microbe, 4, 458 (2008)..
このように,Atg5には依存せずULK1に依存するオートファジー,Ulk1には依存せずAtg5に依存するオートファジー,Atg5とUlk1の両者に依存するオートファジー,UlK1には依存しないがLC3は関与するオートファジー,さらにはAtgタンパク質が関与するが既存のオートファジーではない殺菌機構など,感染現象におけるオートファジーをさまざまな型に再度分類し,議論する段階にきている.
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