Kagaku to Seibutsu 53(7): 449-454 (2015)
解説
水産生物へのゲノム編集技術活用に向けて―現状と可能性
Genome Engineering in Aquaculture
Published: 2015-06-20
近年,CRISPR/Cas9やTALENなどを用いたゲノム編集技術が急速に進展し,非モデル生物においてもゲノムの改変が容易になった.同様に各生物におけるゲノム情報もますます充実してきている.このような背景の下,ゲノム編集技術は今後,水産業にも大きな影響を及ぼすと考えられる.本稿では,これまでの遺伝子導入技術とゲノム編集技術の違いを述べ,ゲノム編集技術の一つである遺伝子破壊技術を用いた養殖マダイでの育種の試みを紹介する.そして,ゲノム編集技術の水産生物への有効性と可能性,および,今後解決すべき課題について論じる.
© 2015 Japan Society for Bioscience, Biotechnology, and Agrochemistry
© 2015 公益社団法人日本農芸化学会
近年の健康食・和食ブームの広がりから,世界的に魚介類の消費量が増加し,生産性の向上や栄養価値が高いなどの高品質の魚介類が求められるようになってきた.
日本の水産業はマグロに代表されるように高い養殖技術を有しているが,これまで養殖魚の育種や品種改良は,家畜や作物のように行われていない.陸上生物に比べ水生生物の個体を管理し特徴を観察するにはより多くの労力が必要である.また,養殖対象魚となっている魚種の性成熟には数年から十数年必要であるため,陸上生物で行われてきた世代を重ねた選抜育種という方法で,今から優良品種を作出するには,非常に長い年月が必要となる.
ゲノムシーケンス技術の目覚ましい進展のおかげで,各種生物のゲノム情報を容易に取得できるようになり,養殖対象魚もその恩恵を受けている.加えて,近年,ゲノム編集技術が猛烈なスピードで開発・進展してきた.これらの知見と技術とを組み合わせることで,これまであまり手がつけられていなかった魚介類の育種・品種改良を短期間で実現できる可能性が出てきた.
本稿では,ゲノム編集技術を概説した後,養殖魚のゲノム編集への道のりをわれわれの研究を交えて紹介し,養殖魚/水産生物におけるゲノム編集技術の課題と展望について述べる.また,本稿では,ゲノム編集技術の中でも水産業への応用に最も現実的である遺伝子破壊(Gene Knockout)技術*1ゲノム編集技術ではさまざまなゲノムの改変が可能であるが,外来遺伝子/塩基配列を宿主に挿入しないことや改変効率などを考慮し水産業に利用可能な技術として遺伝子破壊について論じる.を主に取り上げる.
ゲノム編集技術とは,生物ゲノム上の任意の塩基配列を改変させる技術であり,これを可能にする分子をゲノム編集ツールと呼ぶ.ゲノム編集ツールは,「特定の塩基配列認識パーツ」と「機能パーツ」から構成されている.
ゲノム編集技術開発のブレークスルーとなったのは,「特定の塩基配列認識パーツ」の開発であった.これまでに,転写調節因子によく見られるC2H2型ジンクフィンガー(Zinc Finger)モチーフ,植物の病原菌であるキサントモナス属が宿主の遺伝子発現に使用するtrans Activator-Like Effector (TALE),真正細菌や古細菌がもつ獲得免疫システムを利用したClustered Regularly Interspaced Short Palindromic Repeats(CRISPR)が「特定の塩基配列認識パーツ」として利用・開発され,それぞれに「機能パーツ」としてDNA 2本鎖を切断するヌクレアーゼを結びつけたものがZinc Finger Nuclease(ZFN),trans Activator Like Effector Nuclease (TALEN),および,Clustered Regularly Interspaced Short Palindromic Repeats(CRISPR)/CRISPR associated 9システム(CRISPR/Cas9)である.詳細については原著論文やほかの成書をご参照していただきたい(1,2)1) D. Carroll: Annu. Rev. Biochem., 83, 409 (2014).2) 山本 卓編:“今すぐ始めるゲノム編集”,羊土社,2014..
なかでも,最も新しく開発されたCRISPR/Cas9では,必要なRNAが簡便に作製できることから現在さまざまな分野で用いられ,かつ,さまざまな改良が加えられている.たとえば,「機能パーツ」を交換することにより,2本鎖の1本だけを切断するもの,遺伝子発現を促進するもの,遺伝子発現を抑制するもの,ターゲット配列の存在を可視化するものなどが存在する(3)3) Addgene: New CRISPR Tools, https://www.addgene.org/CRISPR/.
本稿では主に,遺伝子破壊について話を進めるため,そのメカニズムについてCRISPR/Cas9を例に簡単に解説しておく(図1図1■CRISPR/Cas9 systemによる遺伝子破壊メカニズム).胚(受精卵)や株化細胞などにCRISPR/Cas9を導入すると,Cas9タンパク質とsingle guide RNA(sgRNA)の複合体が,sgRNAの一部と相補的な染色体DNA上の塩基配列(標的配列)に結合し2本鎖切断を誘導する.細胞は,この染色体のキズの修復を2つの方法で行う.一つは,姉妹染色体の相同配列を利用した相同組換え(Homologous Recombination; HR)であり,染色体は元どおりに修復される.もう一つは,とにかく染色体をつないでしまう非相同末端結合(Non-Homologous End Joining; NHEJ)である.NHEJでは塩基の欠失や付加を伴うことがあり,その結果,読み枠のズレ(フレームシフト)が起こり,標的遺伝子がコードするアミノ酸配列がでたらめになるため,遺伝子が破壊されることになる.
魚類への遺伝子導入(トランスジェネシス)は早くから行われていた.1982年にマウスで初めての人為的な遺伝子導入個体が報告されたが(4)4) R. D. Palmiter, R. L. Brinster, R. E. Hammer, M. E. Trumbauer, M. G. Rosenfeld, N. C. Birnberg & R. M. Evans: Nature, 300, 611 (1982).,1986年にはいち早く,ニワトリδクリスタリン遺伝子を導入した遺伝子導入メダカが報告された(5)5) K. Ozato, H. Kondoh, H. Inohara, T. Iwamatsu, Y. Wakamatsu & T. S. Okada: Cell Differ., 19, 237 (1986)..この遺伝子導入技術は,生物に新規遺伝子を導入する,つまり新たな形質を付与することができる技術として魚類の養殖分野でも注目を浴びた.その後,ニジマス,コイ,ティラピア(6)6) L. M. Houdebine & D. Chourrout: Experientia, 47, 891 (1991).などの養殖対象魚でも遺伝子導入が行われた.なかでも,成長ホルモン遺伝子を導入し,1年間での成長速度が2~6倍になったギンザケが報告され,遺伝子導入法は新たな有用品種作出技術として期待された(7)7) S. J. Due, Z. Gong, G. L. Fletcher, M. A. Shears, M. J. King, D. R. Idler & C. Hew: Nat. Biotechnol., 10, 176 (1992)..しかしながら,遺伝子導入法で作られた生物は,宿主に他生物の遺伝子を導入するなど自然界では起こらない遺伝子の改変を伴うため,いわゆる「遺伝子組換え生物」であり食品として好意的には受け入れられてこなかった.そのため,魚類の遺伝子導入技術は専ら基礎研究で用いられるようになった.一方,この期間に,受精卵への顕微注入(マイクロインジェクション)技術が多くの魚類で試され,その後のゲノム編集技術のスムーズな導入につながった.
ゲノム編集技術が開発されるまでは,脊椎動物ではゲノムの任意の配列を変換した個体を作製するには,相同組換えにより任意の配列を改変した胚性幹細胞(ES細胞)の胚への移植,あるいは,同様の改変を施した培養細胞の卵への核移植でしか行いえなかった.魚類では,生殖細胞への分化に生殖質と呼ばれる特別な母性因子を必要とするが,この因子は現在でも同定されていない.そのため生殖質を保有する幹細胞,つまり生殖細胞へ分化する幹細胞の作製は成功していない.また,有効な核移植法も確立されてない.そのため,ゲノム上の任意配列を改変することは高嶺の花だった.このような状況で,ES細胞や核移植なしにゲノムの任意改変が行えるゲノム編集技術は,魚類を対象とした研究において待望の技術であった.
ゲノム編集技術の魚類への導入は,モデル生物であるメダカ(8,9)8) S. Ansai, T. Sakuma, T. Yamamoto, H. Ariga, N. Uemura, R. Takahashi & M. Kinoshita: Genetics, 193, 739 (2013).9) S. Ansai & M. Kinoshita: Biol. Open, 3, 362 (2014).やゼブラフィッシュ(10,11)10) F. E. Moore, D. Reyon, J. D. Sander, S. A. Martinez, I. J. S. Blackburn, C. Khayter, C. L. Ramirez, J. K. Joung & D. M. Langenau: PLoS ONE, 7, e37877 (2012).11) V. M. Bedell & S. C. Ekker: Methods Mol. Biol., 1239, 291 (2015).で始められ,ほかの生物と同様に遺伝子破壊(gene knockout)や遺伝子挿入(gene knockin)が可能であることが示された.その後,アトランティックサーモン(12)12) R. B. Edvardsen, S. Leininger, L. Kleppe, K. O. Skaftnesmo & A. Wargelius: PLoS ONE, 9, e108622 (2014).,ナマズ(13)13) Z. Dong, J. Ge, Z. Xu, X. Dong, S. Cao, J. Pan & Q. Zhao: Zebrafish, 11, 265 (2014).など複数の魚類でその有効性が報告されているが,水産業上重要な生物への利用はこれからである.
遺伝子導入技術では宿主細胞・個体に「外来遺伝子」の導入を行うが,ゲノム編集技術による遺伝子破壊では「内在性の遺伝子」の改変を行う,という点が両者の最も大きな違いである(図2図2■遺伝子導入とゲノム編集による遺伝子破壊の違い).魚類でのゲノム編集技術は,一般的にゲノム編集ツールをRNAとして受精卵にマイクロインジェクション法により導入する.特に遺伝子破壊を行う場合,導入されたRNAは,胚の発生とともに分解され消失する.そして,個体には,塩基の欠失や付加によるねらった遺伝子の破壊のみが残る.得られた個体を見る限り,本来の遺伝相配列は変化しているが,外来の遺伝子が付加されていない.この点で,自然放射線や紫外線で引き起こされる自然突然変異,あるいは,化学薬剤で引き起こされる誘導突然変異との区別がつけにくいとされている.
そのほかに以下のような違いが挙げられる.魚類での遺伝子導入は,染色体のねらった部位に導入遺伝子を挿入する方法は確立されておらず,専ら偶然に外来遺伝子が染色体に組み込まれることで成立している.そのため,外来遺伝子導入による予期せぬ作用が現れる可能性がある.しかしながら,ゲノム編集技術では,改変する塩基配列(染色体上/遺伝子上の位置)が明確である.そのため,個体に現れる特徴が予測でき,また,再現性が保証されその効果・影響の検証も正確に行える,つまり,遺伝子導入技術に比べ高度に制御されたシステムであるといえる.
われわれはこれまでのメダカの経験を生かして,2014年春季から近畿大学水産研究所の家戸敬太郎教授と共同でゲノム編集技術を用いたマダイの育種に取り組んでいる.海産養殖魚でのゲノム編集技術の一例として,ここで紹介する.
われわれはマダイのミオスタチン遺伝子(MSTN)を標的とし,CRISPR/Cas9での破壊を試みた.MSTNは,骨格筋の分化と成長を抑制的に制御する遺伝子である.同遺伝子の自然突然変異体は多くの陸上動物で知られており,すでに産肉牛では同遺伝子の突然変異体が,ベルジアン・ブルー種やピエモンテ種として品種化されている.メダカにおいても,TILLING法で得られた同遺伝子の変異体(14)14) S. Chisada, H. Okamoto, Y. Taniguchi, Y. Kimori, A. Toyoda, Y. Sakaki, S. Takeda & Y. Yoshiura: Dev. Biol., 359, 82 (2011).で骨格筋量が増加することが報告され,魚類でもMSTNが同様の機能を有することが示された.そこで,マダイでの筋肉(可食部)の増量を目指し,研究を開始した.
マダイMSTNの第一エキソンの2カ所を標的としたsgRNAを作製し,Cas9mRNAとともにそれぞれのsgRNAについて受精直後の約1,000粒のマダイ受精卵にマイクロインジェクション法により導入した.受精後一日胚を用いたHeterodupulex Mobility Assay(HMA)によりMSTNへの変異導入を調べたところ,24個中10個の胚で変異導入が確認された.導入された変異様式を調べるため,胚からゲノムDNAを抽出後,ターゲット領域近傍の塩基配列を検討した.その一部を表1表1■CRISPR/Cas9によるマダイミオスタチン遺伝子の破壊に示す.複数のタイプの塩基の欠失あるいは付加が観察され,そのなかでアミノ酸への読み枠がずれて本来翻訳されるべきタンパク質の途中で終止コドンになってしまうフレームシフト変異が多数観察された.その後,約50%が孵化し,5カ月齢での生存率は約20%であった.筋肉増量効果を検討するために,5カ月齢の個体を用いて,MSTN変異導入と肥満度(Condition Factor: (体重)/(体長)3×1,000)の相関を検討した.目視でも変異導入個体のほうが,導入されていない個体よりわずかに体幅の増加が観察され,また,統計的にも変異導入個体のほうが肥満度が高いと判定された(図4図4■ミオスタチン遺伝子破壊によるマダイ肥満度の増加).このことは,ゲノム編集技術により魚の形質変換を短期間で可能にすることを示しており,同技術の「魚の育種」への有効性を示したといえる.
表現型 | ターゲット近傍の塩基配列(5′→3′) | 欠失塩基数 | 読み枠のずれ |
---|---|---|---|
野生型 | CCAAATATCAGCCGGGACATCGTGAAGCAGCTCCTGCC | — | — |
変異型1 | CCAAATATCAGCCG - - - - - - - - TGAAGCAGCTCCTGCC | 8 | 有 |
変異型2 | CCAAATATCAGCCGGGA - - TCGTGAAGCAGCTCCTGCC | 2 | 有 |
変異型3 | CCAAATATCAGCC - - - - - ATCGTGAAGCAGCTCCTGCC | 5 | 有 |
変異型4 | CCAAATATCAGCCGGGA - - - - - - - - AGCAGCTCCTGCC | 8 | 有 |
変異型5 | CCAAATATCA - - - - - - - - - TCGTGAAGCAGCTCCTGCC | 9 | 無 |
マダイ受精卵にミオスタチン遺伝子配列をターゲットにしたCRISPR/Cas9を導入後,一日胚で観察された塩基配列欠失を示す.読み枠がずれた変異では翻訳されるアミノ酸配列がでたらめになり完全なタンパク質が作られず,遺伝子機能が失われる.下線は,ターゲット配列を示す.バー(-)は塩基欠失を示す. |
魚類の育種は進んでおらず,家畜などで用いられてきた選抜育種法は,世代を重ねて優良形質を選抜していく方法であるため品種を確立するためには長期間を必要とし,かつ,優良形質の出現は偶然による.一方,魚類においてもゲノムの解読と遺伝子機能解析が進み,個々の遺伝子と優良形質との関連について知見が深まってきた.このような背景において,ゲノム編集技術を用いて短期間で内在遺伝子の改良を行った魚類の食品などへの利用の可能性が拓けると考えられている.
では,ゲノム編集技術でどのような特徴をもった魚が望まれるであろうか.MSTN破壊による筋肉増量のように生産者にメリットのある品種に加え,たとえば高度不飽和脂肪酸など栄養成分を豊富に含む魚や毒結合タンパク質をなくした無毒フグなど消費者にメリットのある品種の開発も必要であろう.そのためには,よりいっそう遺伝子機能の解明を進める必要がある.
また,ゲノムに系統や品種に固有の塩基欠失を入れることで,その系統や品種にバーコードのように塩基配列標識を付けることができ,地域の特産品として管理することも考えられる.
加えて,ゲノム編集技術がより進展し,効率的な相同組換えが可能となれば,機能を失った内在遺伝子を復活させることも可能となる.そうすれば特定の魚種が進化の過程で脱落させた遺伝子機能(たとえば,ビタミンの合成系など)をよみがえらせ,養殖魚の餌の低コスト化や魚肉の栄養成分増強が期待できる.まだまだ夢の話であるが,ゲノム科学の進展とアイデア次第でさまざまな有益な養殖魚ができるのではないだろうか.
産業への活用に向け,ゲノム編集技術により作出された個体の法的管理方法,オフターゲット影響の評価をいかに行うかが今後乗り越えるべき課題だと思われる.
ゲノム編集技術による遺伝子破壊個体は,「外来遺伝子が付加されてない」という点で遺伝子導入による遺伝子組換え個体とは大きく異なる.また,遺伝子破壊に用いた分子(魚類でのゲノム編集の場合は,RNA)が,自然放射線や紫外線,または,化学薬剤による変異誘導の薬剤が個体に残存しないという点では,自然突然変異体あるいは化学薬品誘発変異体と区別がつかない.このような点から,ゲノム編集でできあがった遺伝子破壊個体は,遺伝子組換え生物と同じGenome Modified Organism(GMO)になるのか,そうでないのか,現在のところ,この問題に対して慎重に検討されている.実際の水産業への利用はこの議論に結論が出てから行うべきであろう.
ゲノム編集でできあがった遺伝子破壊個体がGMOであるかどうかにかかわらず,養殖魚の管理や生態系への配慮は欠かせない.これまでに,水産総合研究センターなどで陸上の閉鎖系での海産魚養殖技術の開発が進められており,ゲノム編集個体の管理に大いに役立つ技術であると考えられる.
ゲノム編集技術は,標的とした塩基配列に特異的に改変を加えるものであるが,頻度は低いものの標的以外の塩基配列に影響(オフターゲット影響)を及ぼすこともある.これまでのわれわれのメダカでのCRISPR/Cas9による遺伝子破壊実験でオフターゲット影響が観察されている(9)9) S. Ansai & M. Kinoshita: Biol. Open, 3, 362 (2014)..オフターゲット影響の有無を調べるには,対象魚の全ゲノム配列を調べればよいのであるが,ゲノム解読が終了したとされている生物でも完全にすべての配列が解読されているというわけではなく*2たとえば,完成度が高いとされているメダカゲノムの場合でもテロメア近傍や高度な繰り返し配列などなお5%程度が未解明である.,次世代シーケンサーを用いた全ゲノムの解析を行ったとしても解読できない領域が存在すると思われるため,現状の解析能力ではオフターゲット影響の有無を完璧に調べることは不可能である.現実的には,個体の成長や繁殖への影響評価や体成分組成の評価を行い生物への影響と食品としての安全性を評価することが重要であろう.
ゲノム編集技術は非モデル生物でも利用可能である.もちろん,魚類以外にも応用可能で,今後,甲殻類や貝類への応用が期待される.一例として,これらの生物ではトロポミオシンやアルギニンキナーゼなどのタンパク質がアレルゲンとなることが報告されており(15)15) M. Pedrosa, T. B. Martinesz, C. G. Ara & S. Quirce: Clinic. Rev. Alleg. Immunol., DOI: 10.1007/s12016-014-8429-8 (2014),これらタンパク質のアミノ酸の1次構造をゲノム編集を用いて変化させることにより,アレルゲンフリーの食材を提供することなどが考えられる.
本技術を動物に利用する場合,受精卵にRNAなどの顕微注入し,飼育/繁殖を行うことになる.日本では養殖技術が発達しているが,受精卵から成体まで飼育し次世代を得るという完全養殖を行える生物はさほど多くはない.ゲノム編集技術を水産業に活用するには,各生物のゲノム情報を集積することとともに各水産生物の完全養殖技術を確立することも重要な課題だと思われる.
Reference
1) D. Carroll: Annu. Rev. Biochem., 83, 409 (2014).
2) 山本 卓編:“今すぐ始めるゲノム編集”,羊土社,2014.
3) Addgene: New CRISPR Tools, https://www.addgene.org/CRISPR/
6) L. M. Houdebine & D. Chourrout: Experientia, 47, 891 (1991).
9) S. Ansai & M. Kinoshita: Biol. Open, 3, 362 (2014).
11) V. M. Bedell & S. C. Ekker: Methods Mol. Biol., 1239, 291 (2015).
13) Z. Dong, J. Ge, Z. Xu, X. Dong, S. Cao, J. Pan & Q. Zhao: Zebrafish, 11, 265 (2014).
15) M. Pedrosa, T. B. Martinesz, C. G. Ara & S. Quirce: Clinic. Rev. Alleg. Immunol., DOI: 10.1007/s12016-014-8429-8 (2014)
*1 ゲノム編集技術ではさまざまなゲノムの改変が可能であるが,外来遺伝子/塩基配列を宿主に挿入しないことや改変効率などを考慮し水産業に利用可能な技術として遺伝子破壊について論じる.
*2 たとえば,完成度が高いとされているメダカゲノムの場合でもテロメア近傍や高度な繰り返し配列などなお5%程度が未解明である.