解説

代謝デザインと13C同位体標識を用いた代謝フラックス解析の物質生産への応用

In Silico Metabolic Pathway Design and 13C-Based Metabolic Flux Analysis for Bio-Production

清水

Hiroshi Shimizu

大阪大学大学院情報科学研究科 ◇ 〒565-0871 大阪府吹田市山田丘1番5号

Graduate School of Information Science and Technology, Osaka University ◇ 1-5 Yamadaoka, Suita-shi, Osaka 565-0871, Japan

松田 史生

Fumio Matsuda

大阪大学大学院情報科学研究科 ◇ 〒565-0871 大阪府吹田市山田丘1番5号

Graduate School of Information Science and Technology, Osaka University ◇ 1-5 Yamadaoka, Suita-shi, Osaka 565-0871, Japan

戸谷 吉博

Yoshihiro Toya

大阪大学大学院情報科学研究科 ◇ 〒565-0871 大阪府吹田市山田丘1番5号

Graduate School of Information Science and Technology, Osaka University ◇ 1-5 Yamadaoka, Suita-shi, Osaka 565-0871, Japan

Published: 2015-06-20

微生物による有用物質生産を実現するには,代謝を効率よく改良する必要がある.宿主の選定,異なる生物からの遺伝子獲得および導入,不要な遺伝子や代謝経路の削除による生産収率や生産性の変化などについて,予測するための計算機プラットフォームがあれば有意義であろう.また,デザイン指針に基づいて構築した細胞が望みどおりのパフォーマンスを示すかどうか,代謝の流れが達成さているかを実験的に評価することも重要である.13C同位体を標識した化合物を炭素源として細胞内に取り込ませ,13C標識の代謝物質中の濃縮度を観測することで,どの代謝反応が実際に活性化しているかを決定することが可能である.本稿では,このような代謝デザインと13C代謝フラックス解析法の解説とその物質生産への応用について述べる.

はじめに

微生物発酵で生産可能な物質の範囲を拡大し,収率や生産速度を向上させていく重要性は論を俟たない.今まで,どちらかというと優れた機能をもつ微生物を天然より見いだし,理解し,応用することで多大な成果が積み重ねられてきた.代謝工学分野では,細胞内の代謝を多段階反応プロセスとして捉え,大腸菌や出芽酵母など知識やノウハウが集積された工業有用微生物を合理的に改良する方法論の開発とその応用を目指してきた.細胞内の代謝の流れ(代謝フラックス:Metabolic flux)を統一的に計算機で扱えるよう情報を整理し,目的物質を高収率で生産可能な代謝経路をデザインできないか? あるいは,実際に細胞内で起こっている代謝フラックスを精度よく捉えられないか? というような問題設定を行い,多くの成果が生まれている.今後,発見的手法と工学研究の統合により,有用微生物の創製が,大きく発展していくと考えられる.本稿では,われわれがこれまでフラックスレベルでの代謝の理解に向けて取り組んできた代謝シミュレーション法および13C代謝フラックス解析法の原理を概説し,代謝改変への応用例や,得られた知見について紹介する.

代謝フラックス

代謝物質が細胞内で変換される速度をモル基準で,時間当たり細胞当たりに表現したものを代謝フラックス(mol/h/cell)という.栄養源からどれだけ高収率,高速度で標的の物質を生産するかを議論するために,代謝フラックスという量を用いれば便利である.代謝経路は,複雑に入り組んでおり,同じ物質に到達するにも異なる経路が存在したり,逆反応が存在し,生成したものが反応物に戻されたりする.また,目的物質を生成するために必要なエネルギー物質(ATP)や還元力(NADH, NADPH)は生成や消費がうまくバランスされていないと定常的な細胞の生産能力につながらず,注意する必要がある.これらのことを統一的,かつ,効果的に検討できる計算プラットフォームの開発が望まれている.

化学量論による代謝の理解

化学量論とは,代謝マップに集約された反応式(たとえば,ヘキソキナーゼ:グルコース+ATP→グルコース-6-リン酸+ADP)で反応物と生成物の量的な関係である.生成したグルコース-6-リン酸は次の反応により直ちにフルクトース-6-リン酸に変換される.多段ステップの反応からなる解糖系において,連続的に反応が起こることを考えるとグルコースは2分子のピルビン酸に変換され,次式のように2分子のATPとNADHを生成する.

グルコース+2ADP+2NAD+→2ピルビン酸+2ATP+2NADH

酵母はATPを増殖のエネルギー源として利用しつつ,ピルビン酸を脱炭酸し,さらにNADHを用いてエタノールへと還元してから,菌体外へ排出している.

ピルビン酸+NADH→エタノール+CO2+NAD+

2つを合わせると,酵母における嫌気発酵を表す化学量論式となる.

グルコース+2ADP→2エタノール+2CO2+2ATP

このように,酵母のエタノール発酵は基質レベルでも,酸化還元バランスのレベルでも全体として収支が合い,かつ菌体維持のためのエネルギーも確保できるたいへん都合がよい状態である.グルコース消費フラックスの2倍のエタノールとCO2の排出フラックスをもっていることがわかる.

ゲノムスケール代謝モデルと代謝デザイン

Flux Balance Analysis(FBA)は,上に述べたように,化学量論だけに着目し,代謝全般にわたって解析する方法である(1)1) B. Ø. Palsson: “Systems Biology: Properties of Reconstructed Networks,” Cambridge University Press, 2006.代謝モデルには酸素や栄養源の取り込みフラックスや発酵産物の培地への排出フラックスも扱うことができるので,炭素源や窒素源の違い,通気条件,代謝反応の有無が,目的化合物の生産収率に及ぼす影響を解析できる.一方で,代謝の動的な解析や代謝物質濃度と反応速度の関係などは扱えない.たとえば,フィードバック制御の影響,発酵の時間的変化などは予測できない.このような制約はあるが,FBAができることを最大限に生かすことで,さまざまな応用が行われている.

代謝反応を化学量論式で記述することで代謝フラックス間の関係を線形代数方程式で記述することができる.上の例では解糖経路とエタノール生成経路のみを考えたが,細胞内に存在する代謝反応を全般的に集めてくれば,ゲノムワイドな代謝モデルとなる.図1図1■ゲノム情報からの代謝モデルの構築の概要に代謝モデルの構築についてイメージを示す.

図1■ゲノム情報からの代謝モデルの構築の概要

このモデルでは,フラックスを決定するには情報が足りないことが問題となるが,「細胞は,与えられた環境下で細胞増殖を最大とするように代謝フラックスを調整する」という大胆な仮定をおくことによって線形最適化問題となって代謝フラックスを決定することができる.

ゲノムスケール代謝再構築とフラックス予測

われわれは,この方法の予測の有効性を検証するために,コリネ型細菌のゲノムスケール代謝モデルを構築するとともにグルコースの取り込みフラックスに対して酸素の供給をさまざまに変化させた実験を行って,計算機で予測された乳酸,酢酸,コハク酸などの有機酸の生成フラックスが各実験データをよく説明することを見いだした(2)2) Y. Shinfuku, N. Sorpitiporn, M. Sono, C. Furusawa, T. Hirasawa & H. Shimizu: Microb. Cell Fact., 8, 43 (2009)..すなわち,与えられた環境状態に対して細胞の代謝フラックスがどのようになるかを計算予測することが可能となったと言える.図2図2■コリネ型細菌における異なる酸素条件下の代謝フラックスのシミュレーションに計算により求められた炭素中心代謝の代謝フラックスを示す.グルコースを炭素源とした場合,酸素供給が十分な場合は解糖経路やTCAサイクルが活性化され,細胞は盛んに増殖する.これに比較して酸素供給がグルコース消費に対して小さくなると,生成したNADHをNAD+に戻すための酸化的リン酸化反応において酸素消費が十分でないため,有機酸生成経路を使って細胞はNADH/NAD+バランスを保とうとする.シミュレーションではこのようなことが表現され,実験データを説明可能であることがわかる.この方法を用いることにより,目的物質を最大生産するための遺伝子削除について,計算機上でデザインすることが可能となる.ゲノムスケールの代謝モデルはゲノムが明らかになった生物数の上昇とともに多くなっており,多くの生物のゲノムスケールの代謝モデルの利用が可能である(3)3) A. M. Feist & B. Ø. Palsson: Nat. Biotechnol., 26, 659 (2008).

図2■コリネ型細菌における異なる酸素条件下の代謝フラックスのシミュレーション

太い矢印は大きいフラックスをもつ代謝反応であることを示している.

遺伝子削除については,計算機プラットフォーム上では,その遺伝子が関与する代謝のフラックスを強制的にゼロにすることで設定が可能である.このような制約を設定したうえで同じように計算を行うことにより遺伝子削除がもたらす代謝状態を知ることができる.すべての遺伝子を対象に削除を行うこと,多重に遺伝子の削除を行うことなど,実験では多くの労力や時間がかかる多くのケースについて計算することが可能となる.また,代謝データベースを探索して宿主には本来ない遺伝子を獲得・導入することも,反応を計算機プラットフォーム上に加えることで容易に実現され,細胞が元来作れない物質の生産可能性を考えてみることも可能である.

3ヒドロキシプロピオン酸(3HP)の生産性向上の代謝デザイン

この方法を利用して,大腸菌による3ヒドロキシプロピオン酸(3HP)の生産性向上のデザインを試みた例について述べる.Escherichia coli MG1655(DE3)株を宿主とし,Klebsiella pneumoniaedhaBgdrABの導入と,大腸菌のaldHを過剰発現することで,グリセロールを基質とした大腸菌3HP生産株を構築した.M9合成培地にて培養を行った結果,3HP生産収率は5%となった.次に,大腸菌の代謝モデルに対し,FBAを用いた遺伝子破壊シミュレーションを行い,生産収率の向上が期待できる遺伝子破壊を探索した.図3図3■大腸菌による3HP生産性向上のための遺伝子削除デザインに示すように探索結果に基づいてtpiAzwfの二重遺伝子破壊を行った結果,収率は20%に増加した.さらに,主な副生産物である1,3-プロパンジオールの生合成にかかわるyqhDを破壊すると収率を34%に向上させることに成功した(4)4) K. Tokuyama, S. Ohno, K. Yoshikawa, T. Hirasawa, S. Tanaka, C. Furusawa & H. Shimizu: Microb. Cell Fact., 13, 64 (2014)..このように,in silicoプラットフォーム上の遺伝子破壊シミュレーションによる標的化合物の生産性の向上が実際の遺伝子破壊によって有効であることが確認された.

図3■大腸菌による3HP生産性向上のための遺伝子削除デザイン

この方法は,さらに,10を超える多重遺伝子削除の高速探索法(FastPros)の開発(5)5) S. Ohno, H. Shimizu & C. Furusawa: Bioinformatics, 30, 981 (2014).やさまざまな異種生物の生合成経路を探索,獲得し,本来,宿主が生産し得ない物質の生産を新規にデザインする方法(ArtPathDesign)(6)6) S. Chatsurachai, C. Furusawa & H. Shimizu: BMC Bioinformatics, 13, 93 (2012).の開発へと発展し,その応用範囲を拡大している.

13C代謝フラックス解析

次に,実際に遺伝子改変された細胞の代謝状態がどのようになったかを評価する方法について述べる.代謝反応は複雑であり,可逆反応が存在したり,同じ代謝物質に到達するにもいろいろな経路が存在したりする.たとえば,グルコースが解糖経路を通ってグリセルアルデヒド-3-リン酸(GAP)になったのか,ペントースリン酸経路を経由して同じ物質に到達したのかは細胞が細胞の外から消費したり,外へ排出したりする代謝物質の増減や変化を観察しているだけではわからない.しかし,1位に安定同位体13Cで標識されたグルコース([1-13C]グルコース)を細胞に取り込ませ,その13C標識がどのような代謝物にどの程度濃縮されているかを測定することで,どの経路が活性化されているかを知ることができる.

図4図4■解糖経路とペントースリン酸経路の代謝フラックス量比の実験的決定の原理に原理を示す.ゲノムスケール代謝モデルの項で示したようにグルコース-6-リン酸(G6P),グリセルアルデヒド-3-リン酸(GAP)分子を考え,G6P分岐で解糖経路への代謝フラックスとペントースリン酸経路へのフラックスの比が求まるかを考えてみる.取り込まれたグルコースの1位にある炭素原子は,ペントースリン酸経路を通って代謝された場合は6炭糖から5炭糖に変換される際に,CO2として分子の炭素骨格から離脱することがわかっている.したがって,[1-13C]グルコースを細胞に取り込ませながら培養した後,GAPに含まれる13C標識割合を観測すれば,その値から解糖系とペントースリン酸系に流れたフラックス割合を決定することができる.定量性の良さからタンパク質中に取り込まれたアミノ酸の13C標識割合を測定することで代謝フラックスを決定することが多く行われてきた.最近では,さまざまな代謝物質の13C標識割合に基づいて代謝フラックスの分布を決定することが可能になってきている.

図4■解糖経路とペントースリン酸経路の代謝フラックス量比の実験的決定の原理

この方法の概要を示したものが図5図5■13C代謝フラックス解析方法の概要である.13C標識された化合物を取り込ませて培養を行い,濃縮度が定常に落ち着いたところで,細胞から代謝物質を抽出し,その13C標識濃縮度をガスクロマトグラフ質量分析計(GC-MS),キャピラリー電気泳動質量分析計(CE-MS),液体クロマトグラフ質量分析計(LC-MS)など,分離装置と質量分析装置を用いて定量する.得られた13C標識割合のデータを最もよく説明する代謝フラックス量をコンピュータで決定する(7)7) Y. Toya & H. Shimizu: Biotechnol. Adv., 31, 818 (2013).

図5■13C代謝フラックス解析方法の概要

この方法を中心炭素代謝全体で行うためには,各反応における反応物と生成物の原子の移動を表すモデルが必要である.代謝物質の質量分析においては,13C同位体を含む分子の標識割合が測定できる.代謝フラックスの決定においては,代謝フラックスを仮定し,そこから得られる各代謝分子の濃縮度を計算して実測値と比較して仮定が正しかったかを検証する.実測と計算がずれている場合は代謝フラックスを仮定し直し,ずれが十分小さくなるまで計算を繰り返す.このようにして観測値と計算値の残差が小さく質量分析データをよく説明するフラックス分布を決定することが可能となる.このような実験データを説明する代謝モデルの手動での構築や代謝フラックスの決定は,繰り返し計算も含めていろいろな作業が必要となる.われわれは,13C代謝フラックス解析のためのオープンソフトウェアOpenMebiusを開発した(8)8) S. Kajihata, C. Furusawa, F. Matsuda & H. Shimizu: BioMed Research International, 2014, 627014 (2014)..このOpenMebiusの主な機能を示すと以下のようになる.

大腸菌,枯草菌,コリネ型細菌,出芽酵母,シアノバクテリアなどの微生物に利用可能であることを確認している.最近では,医学分野の研究者にも注目され,がん細胞の代謝フラックス解析の研究も行われるようになってきており,さまざまな細胞への応用展開が今後,期待される.

定量メタボロームや定量プロテオミクスと代謝フラックス解析の統合

上述のように細胞内の代謝フラックスを定量的に得る技術が開発されてきた一方,代謝物質濃度やタンパク質濃度の定量が行えれば,従来は,試験管の中で酵素反応として見ていた現象を細胞内の情報に基づいて解析できるようになることが期待される.最近,液体クロマトグラフィー・タンデム質量分析計(LC-MS/MS)を用いたメタボローム分析手法が発展し,代謝物質の定量的分析の精度が向上している.LC-MSでは,異なる溶離時間の分析機器内におけるイオン化状態が異なるイオンサプレッション効果があり,絶対定量が難しいとされてきた.最近,非標識,または,すべての炭素を標識したユニフォーム標識炭素源([U-13C]炭素源)を含む培地で細胞を培養し,LC-MS/MSの多種の代謝物を同時測定可能なMultiple reactions monitoring(MRM)モードで各代謝物質の非標識体と[U-13C]標識体を別個に測定し,そのピーク面積比から代謝物濃度を求めることによって中心代謝物の絶対定量法を構築する試みが行われている.この方法では,絶対定量に必要な内部標準物質として,[U-13C]標識炭素源で培養した細胞から抽出した同位体標識化合物を利用することで,各代謝物質の絶対濃度定量が可能となる(9)9) S. Nishino, N. Okahashi, F. Matsuda & H. Shimizu: J. Biosci. Bioeng., in press (2015).

また,ナノLC-MS分析を用いることにより,また,上記と同様に,非標識,または,[U-13C]炭素源を含む培地で細胞を培養し,中心代謝のタンパク質のトリプシン消化物の非標識体と[U-13C]標識体を別個に測定し,そのピーク面積比を求めることで定量プロテオーム解析を行うことができる.われわれは,出芽酵母の中心代謝の野生株と一遺伝子破壊株において定量プロテオーム解析を行い,酵素の発現変動と代謝状態,増殖活性などを定量的に解析しようと試みている(10)10) F. Matsuda, T. Ogura, A. Tomita, I. Hirano & H. Shimizu: J. Biosci. Bioeng., 119, 117 (2015).図6図6■酵母中心代謝の定量プロテオーム解析の例).

図6■酵母中心代謝の定量プロテオーム解析の例

Saccharomyces cerevisiae S288C株,pfk1破壊株(Δpfk1),zwf1破壊株(Δzwf1),gnd1破壊株(Δgnd1)株の解糖経路,ペントースリン酸経路,グリセロール合成経路,エタノール合成経路,TCAサイクル,グリオキシル酸経路,補充経路のタンパク質量の比較(10)10) F. Matsuda, T. Ogura, A. Tomita, I. Hirano & H. Shimizu: J. Biosci. Bioeng., 119, 117 (2015).

代謝フラックス解析の応用例

最後に13C代謝フラックス解析の一例を示す.シアノバクテリアは,CO2と光エネルギーから有用物質生産を行うことができ,将来の物質生産に有望な微生物である.昼夜のサイクルにおいて,光独立的にCO2を固定し,夜間は貯蔵したグリコーゲンなどを使って活動するため,異なる栄養条件における代謝状態を詳細に解析することは物質生産にとって非常に重要な情報基盤となる.われわれは,Synechocystis sp. PCC6803の異なる栄養条件における精密な代謝フラックス解析を決定することを目標に研究を行った.図7図7■Synechocystis sp. PCC6803における混合栄養条件(左)と従属栄養条件(右)における代謝フラックス解析の結果に,混合栄養条件(左図)と従属条件(右図)下における代謝フラックスの解析結果を示す.従属栄養条件は,光化学系IIに競合的に結合することで光合成電子伝達を阻害するアトラジンを添加することで人為的に作成した.図7図7■Synechocystis sp. PCC6803における混合栄養条件(左)と従属栄養条件(右)における代謝フラックス解析の結果左図のように混合栄養条件では,炭素源としてCO2のみならず,グルコースを資化するので,13C標識グルコースを用いて代謝解析を行っている.RuBisCO反応が中心代謝系で最も大きなフラックスをもっており,ペントースリン酸経路が還元的な方向に流れをもってカルビンサイクルとして機能していることがわかる.一方,図7図7■Synechocystis sp. PCC6803における混合栄養条件(左)と従属栄養条件(右)における代謝フラックス解析の結果右図のように従属栄養条件では,光合成を阻害されているので主にグルコースを炭素源として利用しているが,この条件では,酸化的ペントースリン酸経路が顕著に活性化しており,混合条件下では光合成で得られていたNADPH生成がこの経路によって補われることがわかった(11)11) T. Nakajima, S. Kajihata, K. Yoshikawa, F. Matsuda, C. Furusawa, T. Hirasawa & H. Shimizu: Plant Cell Physiol., 55, 1605 (2014)..このように細胞の代謝フラックスをさまざまな条件で解析することが可能となってきており,今後,代謝物質濃度,タンパク質濃度,代謝フラックスの詳細なデータをセットで得られることとなり,よりシステム的な解析を可能とする土台が整いつつあると考えている.

図7■Synechocystis sp. PCC6803における混合栄養条件(左)と従属栄養条件(右)における代謝フラックス解析の結果

数字はフラックスの大きさを示す.

Reference

1) B. Ø. Palsson: “Systems Biology: Properties of Reconstructed Networks,” Cambridge University Press, 2006

2) Y. Shinfuku, N. Sorpitiporn, M. Sono, C. Furusawa, T. Hirasawa & H. Shimizu: Microb. Cell Fact., 8, 43 (2009).

3) A. M. Feist & B. Ø. Palsson: Nat. Biotechnol., 26, 659 (2008).

4) K. Tokuyama, S. Ohno, K. Yoshikawa, T. Hirasawa, S. Tanaka, C. Furusawa & H. Shimizu: Microb. Cell Fact., 13, 64 (2014).

5) S. Ohno, H. Shimizu & C. Furusawa: Bioinformatics, 30, 981 (2014).

6) S. Chatsurachai, C. Furusawa & H. Shimizu: BMC Bioinformatics, 13, 93 (2012).

7) Y. Toya & H. Shimizu: Biotechnol. Adv., 31, 818 (2013).

8) S. Kajihata, C. Furusawa, F. Matsuda & H. Shimizu: BioMed Research International, 2014, 627014 (2014).

9) S. Nishino, N. Okahashi, F. Matsuda & H. Shimizu: J. Biosci. Bioeng., in press (2015).

10) F. Matsuda, T. Ogura, A. Tomita, I. Hirano & H. Shimizu: J. Biosci. Bioeng., 119, 117 (2015).

11) T. Nakajima, S. Kajihata, K. Yoshikawa, F. Matsuda, C. Furusawa, T. Hirasawa & H. Shimizu: Plant Cell Physiol., 55, 1605 (2014).