解説

植物と動物におけるmicroRNAによる翻訳制御機構

microRNA-Mediated Translational Repression in Plants and Animals

岩川 弘宙

Hiro-oki Iwakawa

東京大学分子細胞生物学研究所基幹部門RNA機能研究分野 ◇ 〒113-0032 東京都文京区弥生一丁目1番1号

Laboratory of RNA Function, Core Research Laboratories, Institute of Molecular and Cellular Biosciences, The University of Tokyo ◇ 1-1-1 Yayoi, Bunkyo-ku, Tokyo 113-0032, Japan

東京大学大学院新領域創成科学研究科 ◇ 〒277-8561 千葉県柏市柏の葉五丁目1番5号

Graduate School of Frontier Sciences, The University of Tokyo ◇ 5-1-5 Kashiwanoha, Kashiwa-shi, Chiba 277-8561, Japan

幸秀

Yukihide Tomari

東京大学分子細胞生物学研究所基幹部門RNA機能研究分野 ◇ 〒113-0032 東京都文京区弥生一丁目1番1号

Laboratory of RNA Function, Core Research Laboratories, Institute of Molecular and Cellular Biosciences, The University of Tokyo ◇ 1-1-1 Yayoi, Bunkyo-ku, Tokyo 113-0032, Japan

東京大学大学院新領域創成科学研究科 ◇ 〒277-8561 千葉県柏市柏の葉五丁目1番5号

Graduate School of Frontier Sciences, The University of Tokyo ◇ 5-1-5 Kashiwanoha, Kashiwa-shi, Chiba 277-8561, Japan

Published: 2015-07-20

タンパク質をコードしていない20塩基から30塩基程度の小分子RNAは,相補的な配列をもつ標的遺伝子の発現を負に制御する.核にコードされている小分子RNAであるmicroRNA(miRNA)が内在の相補的な遺伝子を抑制するシステムは動植物で保存されており,分化,発生やストレス応答などさまざまな生体反応を緻密に制御している.本稿では植物のmiRNAが標的の遺伝子を抑制するメカニズム,特にこれまで理解が進んでいなかったmiRNA依存的な翻訳抑制機構について動物のmiRNA機構と比較しながら解説する.

はじめに

小さなRNAが標的の遺伝子を制御するRNAサイレンシング機構が発見されてから20年近くの月日が経ち,現在ではゲノムにコードされたmicroRNA(miRNA)が内在遺伝子発現を制御することにより,分化や発生などさまざまな生体反応を制御することはもはや常識となった.miRNAが相補性をもった標的遺伝子と相互作用し発現を抑制するという「システム」は動植物で共通しているが,標的遺伝子を抑制する「メカニズム」は動植物間で大きく異なる.最大の違いは植物のmiRNAが標的の切断を促すのに対し,動物のmiRNAは切断せず翻訳抑制とmRNAの不安定化を促進することで標的を制御する点にある.しかしながら近年,植物においてもmiRNAが翻訳抑制を促すことが明らかになってきた.本稿では植物のmiRNAが機能を発揮するRNA–タンパク質複合体に取り込まれるまでの過程を解説したのち,どのようなしくみで植物miRNAが標的の翻訳を抑制しているかを動物のmiRNA機構と比較しながら解説する.

miRNAの生合成とRISC形成

ゲノムにコードされているmiRNAは,ステムループ構造をもつ前駆体RNAとしてRNAポリメラーゼⅡによって転写される.前駆体miRNAのステムループ構造はRNase III型酵素であるDICER-LIKE 1(DCL1)により連続的に切断され,3′端がそれぞれ2塩基突出した二本鎖RNAとして生み出される.その後,HUA ENHANCER1(HEN1)により二本鎖RNAの3′端ヌクレオチドがメチル化(2′-O-Me)修飾を受けた後,細胞質へ輸送される(1)1) N. G. Bologna & O. Voinnet: Annu. Rev. Plant Biol., 65, 473 (2014)..このmiRNA二本鎖それ自体は標的遺伝子を抑制することはできない.機能を発揮するためにはRNA-induced silencing complex(RISC)と呼ばれる複合体に取り込まれる必要がある.RISCに含まれるタンパク質は同定されていないものも数多くあると推測されるが,中心となるタンパク質はRNaseH様ドメインをもつArgonauteタンパク質(AGO)である.シロイヌナズナはAGO1からAGO10までの10種類のAGO遺伝子をコードしているが,miRNAは主にAGO1と相互作用し機能を発揮する(1)1) N. G. Bologna & O. Voinnet: Annu. Rev. Plant Biol., 65, 473 (2014)..細胞質に輸送されたmiRNAはATP,シャペロンである熱ショックタンパク質90(HSP90),コシャペロンのCyclophilin 40(CYP40)の助けを借りて,二本鎖の状態でAGO1に取り込まれる(2,3)2) T. Iki, M. Yoshikawa, M. Nishikiori, M. C. Jaudal, E. Matsumoto-Yokoyama, I. Mitsuhara, T. Meshi & M. Ishikawa: Mol. Cell, 39, 282 (2010).3) T. Iki, M. Yoshikawa, T. Meshi & M. Ishikawa: EMBO J., 31, 267 (2012)..片方の鎖(miRNA鎖)はAGO1と強固に相互作用するが,反対の鎖(miRNA*鎖)はAGOがもつRNase活性によって切断されるか,AGO1の構造変化によって切断非依存的にRISCから排出される(miRNAの一本鎖化)(図1図1■植物miRNAの生合成過程とRISC形成過程).AGO1に結合したmiRNA鎖は相補的な配列をもつmRNA上にRISCを運ぶ“案内役”としての役割をもつためガイド鎖と呼ばれ,排出される鎖はパッセンジャー鎖と呼ばれる.動物のmiRNAはDroshaとDicerと呼ばれる2種類のRNaseIIIタンパク質によってプロセシングされ,miRNAの3′端がHEN1によってメチル化修飾されないという点以外は基本的に植物miRNAと同様の機構で作り出され,RISCの成熟化過程も保存されていると考えられる(4)4) R. W. Carthew & E. J. Sontheimer: Cell, 136, 642 (2009).図1図1■植物miRNAの生合成過程とRISC形成過程).植物のRISCおよび動物のRISCの一部は取り込んだmiRNAとほぼ完全に相補的なmRNAをAGOのヌクレアーゼ活性により切断する.一方,miRNAと標的部位の中央部分にミスマッチが存在すると標的と結合はできるものの切断はできなくなる(4)4) R. W. Carthew & E. J. Sontheimer: Cell, 136, 642 (2009)..

図1■植物miRNAの生合成過程とRISC形成過程

前駆体miRNAはCap構造とポリA配列をもった形でゲノムDNAからRNAポリメラーゼⅡ(Pol II)によって転写される.前駆体miRNAはDICER-LIKE1(DCL1)によって21塩基のmiRNA二本鎖にプロセシングされ,HUA ENHANCER1(HEN1)によって3′メチル化(2′-OMe)修飾を受ける.このようにして生合成されたmiRNA二本鎖は細胞質に運ばれ,ATP,熱ショックタンパク質90(HSP90),Cyclophilin 40(CYP40)によってAGO1に取り込まれ前駆体RNA-induced silencing complex(RISC)を形成する.その後切断依存的,非依存的なmiRNAの一本鎖化過程を経てRISCは成熟化する.

動物のRISCによる抑制メカニズム

動物の標的mRNAは一般的に3′非翻訳領域(3′ UTR)に,miRNAの5′から数えて2番目から7番目または8番目までの6~7塩基(シード配列)に相補的な配列をもつ(5)5) D. P. Bartel: Cell, 136, 215 (2009). .miRNAと標的配列の中央部分はミスマッチとなるため切断することはできないが,代わりに標的mRNAの翻訳を抑制するとともに,mRNAの分解を促す.これらの活性に重要な役割を果たしているタンパク質が動物特異的なAGO結合因子であるGW182(哺乳類ではTNRC6)である.GW182はN端側のグリシン・トリプトファン反復配列(GWリピート)が複数存在するドメインで,動物のAGOと相互作用し,C端側のドメインでCCR4–NOT複合体をリクルートする.CCR4–NOT複合体にはCCR4とCAF1というデアデニル化酵素が含まれており,これらの活性によって標的のポリA鎖は分解され,mRNAは不安定化する(6,7)6) J. E. Braun, E. Huntzinger & E. Izaurralde: Cold Spring Harb. Perspect. Biol., 4, 1 (2012).7) M. R. Fabian & N. Sonenberg: Nat. Struct. Mol. Biol., 19, 586 (2012).図2図2■動物のmiRNAによる遺伝子発現制御機構).また,GW182はPAN2–PAN3複合体と呼ばれるデアデニル化酵素複合体もmRNA上にリクルートすることが知られているが(7)7) M. R. Fabian & N. Sonenberg: Nat. Struct. Mol. Biol., 19, 586 (2012).,それらの因子を阻害してもポリA鎖は短縮されるため,サイレンシングへの貢献はCCR4やCAF1に比べて低いと考えられる(7)7) M. R. Fabian & N. Sonenberg: Nat. Struct. Mol. Biol., 19, 586 (2012)..CCR4–NOT複合体はさまざまなデキャッピング化促進因子を呼びこむことでポリA鎖短縮後のmRNA分解を促進する.標的遺伝子の翻訳は少なくとも以下3つの独立した経路によって抑制される.一つ目はポリA配列短縮による抑制経路である.ポリA配列にはmRNAの翻訳の促進に必要なポリA結合タンパク質(PABP)が結合しているため,CCR4やCAF1によるポリA配列の短縮は結果として翻訳の抑制を引き起こす(7,8)7) M. R. Fabian & N. Sonenberg: Nat. Struct. Mol. Biol., 19, 586 (2012).8) A. O. Subtelny, S. W. Eichhorn, G. R. Chen, H. Sive & D. P. Bartel: Nature, 508, 66 (2014).図2図2■動物のmiRNAによる遺伝子発現制御機構).2つ目の経路はCCR4–NOT複合体に結合している因子による抑制経路である(7)7) M. R. Fabian & N. Sonenberg: Nat. Struct. Mol. Biol., 19, 586 (2012)..最近,CCR–NOT複合体には,Cap構造分解促進因子であるMe31B(ヒトではDDX6),および翻訳開始因子eIF4Eと結合する4E-Tと呼ばれるタンパク質が結合することが明らかになった.これらの因子をノックダウンするとmiRNAによる翻訳抑制が一部解除されることが報告されている(9~12)9) H. Mathys, J. Basquin, S. Ozgur, M. Czarnocki-Cieciura, F. Bonneau, A. Aartse, A. Dziembowski, M. Nowotny, E. Conti & W. Filipowicz: Mol. Cell, 54, 751 (2014).10) Y. Chen, A. Boland, D. Kuzuoglu-Ozturk, P. Bawankar, B. Loh, C. T. Chang, O. Weichenrieder & E. Izaurralde: Mol. Cell, 54, 737 (2014).11) C. Rouya, N. Siddiqui, M. Morita, T. F. Duchaine, M. R. Fabian & N. Sonenberg: RNA, 20, 1398 (2014).12) A. Kamenska, W. T. Lu, D. Kubacka, H. Broomhead, N. Minshall, M. Bushell & N. Standart: Nucleic Acids Res., 42, 3298 (2014).図2図2■動物のmiRNAによる遺伝子発現制御機構).3つ目の経路はGW182に依存しない翻訳抑制機構である.ショウジョウバエの培養細胞を用いた研究で,GW182をほぼ完全にノックダウンしても標的の翻訳抑制は解除されないことがわかっている.このときポリA鎖の短縮は起こらないことから,この機構はGW182やCCR4–NOT複合体非依存的であると考えられる(13)13) T. Fukaya & Y. Tomari: Mol. Cell, 48, 825 (2012).図2図2■動物のmiRNAによる遺伝子発現制御機構).最近,ショウジョウバエとヒトの培養細胞抽出液を用いた生化学的な解析より,動物のRISCは,40SリボソームがmRNAに結合する段階で必要な翻訳開始因子複合体であるeIF4F,またはその構成因子の一つであるRNAヘリカーゼeIF4Aを標的mRNAから解離することで翻訳を抑制することが報告された(14,15)14) A. Fukao, Y. Mishima, N. Takizawa, S. Oka, H. Imataka, J. Pelletier, N. Sonenberg, C. Thoma & T. Fujiwara: Mol. Cell, 56, 79 (2014).15) T. Fukaya, H. O. Iwakawa & Y. Tomari: Mol. Cell, 56, 67 (2014).図2図2■動物のmiRNAによる遺伝子発現制御機構).このように動物のmiRNA依存的な抑制機構はここ数年で遺伝学的,生化学的にかなり詳細まで明らかになってきている.

図2■動物のmiRNAによる遺伝子発現制御機構

動物のRISCによる標的mRNA分解:GW182/TNRC6を介してCCR4–NOTデアデニル化酵素複合体がmRNA上にリクルートされることにより標的のポリA鎖が短縮し,mRNAは不安定化する.NOT1はさらにデキャッピング化促進因子を標的mRNA上にリクルートすることでmRNAの分解を促進する.動物のRISCによる翻訳抑制:翻訳抑制は主に3つの機構により抑制される(1)ポリA鎖の短縮による翻訳促進因子PABPの解離,(2)デキャッピング化促進因子Me31B/DDX6および4E-Tを介した翻訳抑制,(3)GW182非依存的な翻訳抑制.RISCの標的になったmRNAからはリボソームの呼び込みに必要な翻訳開始因子複合体であるeIF4F,またはその構成因子であるRNAヘリカーゼeIF4Aが解離することが明らかになった.

植物のRISCによる翻訳抑制機構の遺伝学的解析

植物には動物のRNAサイレンシングに重要なGW182のホモログが存在しない.また,植物のmiRNAの多くはほぼ完全に相補的な標的遺伝子が見つかっており,それらの標的がRISCによって切断されることが確認されていることから,植物のRISCは切断のみによって標的の遺伝子発現を制御していると考えられていた(図3A図3■植物RISCによる遺伝子発現制御機構).しかしながら,その後,標的タンパク質の蓄積は顕著に減少しているが,mRNA量はあまり減少していないという実験結果が数多く報告され,植物RISCは標的の切断だけでなく翻訳抑制も同時に引き起こすのではないかと考えられるようになった(16~18)16) M. J. Aukerman & H. Sakai: Plant Cell, 15, 2730 (2003).17) X. Chen: Science, 303, 2022 (2004).18) R. Schwab, J. F. Palatnik, M. Riester, C. Schommer, M. Schmid & D. Weigel: Dev. Cell, 8, 517 (2005)..2008年Voinnetらのグループは,微小管切断酵素であるKATANIN(KTN),脱キャップ化促進因子Ge-1ホモログVARICOSE(VCS),そしてAGO1とAGO10に変異をもつシロイヌナズナでは,標的mRNAの蓄積量に変化はないが標的タンパク質の蓄積を顕著に増加させることを見いだし,植物でもmiRNA依存的な翻訳抑制が存在することを示唆した(19)19) P. Brodersen, L. Sakvarelidze-Achard, M. Bruun-Rasmussen, P. Dunoyer, Y. Y. Yamamoto, L. Sieburth & O. Voinnet: Science, 320, 1185 (2008)..さらにその後GW182との相同性は低いが,GWリピートをもち,翻訳抑制や分解途中のmRNAが蓄積するP-bodyと呼ばれる構造体に局在するSUOと呼ばれるタンパク質が,翻訳抑制にかかわることが報告された(20)20) L. Yang, G. Wu & R. S. Poethig: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 109, 315 (2012)..最近になって,植物のmiRNA依存的な翻訳抑制にかかわる新たな因子が発見された.小胞体局在タンパク質ALTERED MERISTEM PROGRAM1(AMP1),そしてその相同タンパク質LIKE AMP1(LAMP1)である.それらの変異体シロイヌナズナではmiRNAによる翻訳抑制が解除されており,小胞体画分を用いたショ糖密度勾配遠心の結果,変異体では標的mRNAのポリソームへの局在が増加していた.これらの結果より,植物のRISCは小胞体膜上で標的mRNAの翻訳を抑制していることが示唆された(21)21) S. Li, L. Liu, X. Zhuang, Y. Yu, X. Liu, X. Cui, L. Ji, Z. Pan, X. Cao, B. Mo et al.: Cell, 153, 562 (2013)..これらの遺伝学的解析から植物のさまざまな因子が翻訳抑制にかかわっていることが明らかになったが,それらの因子がmiRNAの標的の翻訳をどのように抑制しているのかは現在のところ明らかになっていない(図3B図3■植物RISCによる遺伝子発現制御機構).

図3■植物RISCによる遺伝子発現制御機構

(A)植物のmiRNAは相補性の高い標的mRNAをAGO1の標的切断活性を用いて切断する.(B)KATANIN(KTN),VARICOSE(VCS),SUO,ALTERED MERISTEM PROGRAM1(AMP1)/LIKE AMP1(LAMP1)などの因子が植物RISC依存的な翻訳抑制にかかわることが報告されているが,その作用機序は明らかになっていない.(C)植物のRISCはmRNAの翻訳開始を阻害するが,ORFに結合した場合,リボソームの進行も止めることができる.動物のRISCとは異なりポリA鎖の短縮は促進しない.

植物のRISCによる翻訳抑制機構の生化学的解析

植物のRISCによる翻訳抑制機構をより直接的に解析するためには試験管内でRISCの働きを調べることが必要となる.これまでに,タバコ培養細胞BY-2由来の細胞抽出液中で過剰発現した植物AGOに,任意のmiRNAをプログラムすることでRISCを形成できる実験系が開発されおり(2)2) T. Iki, M. Yoshikawa, M. Nishikiori, M. C. Jaudal, E. Matsumoto-Yokoyama, I. Mitsuhara, T. Meshi & M. Ishikawa: Mol. Cell, 39, 282 (2010).,その系を応用した植物のRISCによる翻訳抑制機構の評価系が構築された(22)22) H. O. Iwakawa & Y. Tomari: Mol. Cell, 52, 591 (2013)..植物RISCの翻訳抑制機構のみを調べるために,植物のAGOがもつ標的切断活性に変異をもつ変異体AGO1を用いて解析が行われた.その結果1. 植物のRISCはmRNAの翻訳開始を阻害すること,2. ポリA配列の分解は引き起こさないこと,3. 5′ UTRおよびタンパク質コード領域(ORF)に高い相補性をもって結合した場合,リボソームのリクルートメントおよび進行を物理的に止めうること,4. 動物とは異なりシード配列のみでは標的と結合できず,翻訳抑制はできないことが明らかになった(22)22) H. O. Iwakawa & Y. Tomari: Mol. Cell, 52, 591 (2013).図3C図3■植物RISCによる遺伝子発現制御機構).これらの結果より,植物のRISCは標的の翻訳を抑制できるが,そのメカニズムは動物のそれと全く異なることが明らかとなった.さらに,植物のmiRNAが標的の翻訳を抑制するためには高い相補性が必要であることから,植物のmiRNAが翻訳レベルで制御できる標的の数は動物のmiRNAよりずっと少ないことが示された.

おわりに

植物のmiRNAを介した翻訳抑制機構はこの数年で徐々に明らかになってきた.しかし,本稿を読んでわかるように遺伝学的解析で見つかった翻訳抑制にかかわる因子が,生化学的解析によって得られた抑制メカニズムにどのようにかかわるのかはいまだ不明である.また,これまでに,植物RISCの標的切断が植物の発生に必須であることが明らかになっているが,翻訳抑制がいつ,どこで,どの程度,miRNA依存的な抑制に貢献しているかも今後調べる必要があるだろう.動物のmiRNA経路では翻訳抑制の後に標的mRNAが分解されることが大規模解析より示されている(23~26)23) A. A. Bazzini, M. T. Lee & A. J. Giraldez: Science, 336, 233 (2012).24) J. Bethune, C. G. Artus-Revel & W. Filipowicz: EMBO Rep., 13, 716 (2012).25) S. Djuranovic, A. Nahvi & R. Green: Science, 336, 237 (2012).26) S. W. Eichhorn, H. Guo, S. E. McGeary, R. A. Rodriguez-Mias, C. Shin, D. Baek, S. H. Hsu, K. Ghoshal, J. Villen & D. P. Bartel: Mol. Cell, 56, 104 (2014)..植物ではどうなのか,今後の進展が期待される.

Reference

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