解説

組織マクロファージのサブセットとその分化機構

The Subset of Tissue Macrophages and Their Development Pathway

Masako Kohyama

香山 雅子

大阪大学微生物病研究所生体防御研究部門免疫化学分野 ◇ 〒565-0871 大阪府吹田市山田丘3番1号

Department of Immunochemistry, Division of Host Defense, Research Institute for Microbial Diseases, Osaka University ◇ 3-1 Yamadaoka, Suita-shi, Osaka 565-0871, Japan

Published: 2015-08-20

ほぼすべての組織にはマクロファージが恒常的に存在し,これらの組織マクロファージは単に免疫細胞として免疫応答に関与するだけではなく,組織における恒常性の維持にも関与すると考えられている.組織マクロファージは存在する組織によって機能および形態が異なるが,この組織マクロファージの多様性を制御する因子(シグナル)については,不明な点が多い.本稿では,組織マクロファージの分化制御機構および機能について,脾臓のマクロファージを中心に概説する.

はじめに:組織マクロファージとは

19世紀の生物学者であるEllie Metchnikoffがヒトや下等動物の組織内で異物を捕捉する細胞を貪食細胞(phagocyte)と呼び,その形態学的な特徴から貪食細胞のなかでも単核性の細胞をマクロファージと名づけた.マクロファージは病原微生物を貪食し,高度に発達したリソソームと融合して貪食した病原微生物を分解・消化することにより生体防御を担う細胞として知られるようになった.さらに,病原微生物を貪食しサイトカインなどの炎症性メディエーターを産生し炎症反応を誘起するのみならず,分解・消化された病原性微生物由来のペプチド抗原をMHC分子上に提示させ,T細胞を活性化させることにより免疫応答を誘導する機能ももっている細胞であることがわかった.

定常状態にてほぼすべての臓器・組織にはマクロファージが分布し,これらは組織マクロファージと呼ばれ生体に最も多く存在する抗原提示細胞である(表1表1■脾臓における組織マクロファージの局在と機能).現在では,機能的には同じであっても炎症時に誘導されてくるマクロファージとは区別されている.脾臓内に分布するRed pulp macrophage(赤脾髄マクロファージ),Marginal zone macrophage(マージナルゾーンマクロファージ),Tingible body macrophage(可染体マクロファージ),肺のAlveolar macrophage(肺胞マクロファージ),肝臓のKupffer cell(クッパー細胞),さらには中枢神経系に分布するMicroglia(ミクログリア)細胞,骨のOsteoclast(破骨細胞),皮膚の表皮中に局在するLangerhans(ランゲルハンス)細胞など多彩である(1,2)1) S. Gordon & P. R. Taylor: Nat. Rev. Immunol., 12, 953 (2005).2) R. E. Mebius & G. Kraal: Nat. Rev. Immunol., 8, 606 (2005)..これらの組織マクロファージは貪食能を有するという共通点はもっているがヘテロな細胞集団であり,存在する臓器さらには局在によって機能・細胞の形態・細胞表面分子などが異なる.また,これら組織マクロファージは免疫応答に関与しているだけではなく,古くなった細胞の除去,組織の再構築,あるいは炎症応答後の組織の修復などの役割も担っており,組織の恒常性の維持にかかわると考えられている.

表1■脾臓における組織マクロファージの局在と機能
組織マクロファージマーカー機能
脂肪組織Adipose tissue-associated macrophagesF4/80+, CD45+脂肪生成,インシュリン感受性の制御,adaptive thermogenesis
血液Ly6clo monocytesCXCR1+, Ly6clow, F4/80+, CSF1R+骨破壊と骨吸収
赤血球形成および造血幹細胞の維持
OsteoclastsCalcitonin receptor+脳分化,シナプス再構成および死神経細胞の除去の促進
Bone marrow macrophagesCD169+, F4/80+, ER-HR3+
MicrogliaF4/80+ CD11b+, CD45low腸管のホメオスタシスの維持,腸内細菌の制御
腸管Intestinal macrophagesCXCR1high, F4/80+, CD11b+, CD11c+, CD64+血液中の微生物およびcell debrisの除去,感染赤血球や古くなった赤血球の除去
肝臓Kupffer cellsF4/80high, CD11blow, CD169+, CD68+, Galectine-3+吸入に伴い肺胞上皮に沈着した物質の除去
Alveolar macrophagesF4/80low, CD11blow, CD11chigh, CD68+, Siglec F+, MARCO+, CD206+, Dectine-1+外界より侵入してきた抗原物質をを取り込み,T細胞に抗原提示
皮膚Dermal macrophagesF4/80low+, CD11b+, CD11clow, CD206+, MHCIIlow, CD169+, F4/80+, CD11b+, CD11c+, Langerin+感染赤血球や古くなった赤血球の除去
Langerhans cells血中由来抗原の取り込み,免疫寛容の誘導
脾臓Red pulp macrophageF4/80+, CD206+, Dectin-2+, auto-Fluorescence微生物業減退の取り込み,免疫寛容の誘導
Marginal zone macrophageCD68+, CD209+, MARCO+, Dectin-2+, Tim4+アポトーシスB細胞の除去
Marginal zone metallophilic macrophageCD68+, CD169+, MOMA-1
Tingible body macrophageCD68+

組織マクロファージの起源

1968年にvan FurthとCohnはマクロファージの大部分は血中の単球より分化するという,Mononuclear phagocyte system(MSP)という概念を提唱した(3)3) R. van Furth & Z. Cohn: J. Exp. Med., 128, 415 (1968)..その後MSPは組織マクロファージにも当てはめられた(4)4) R. van Furth et al.: World Health Organ., 46, 845 (1972)..つまり骨髄中にある前駆細胞が単球に分化し,さらに組織マクロファージに分化するという考え方が信じられてきた.マウスにおいて,マクロファージが作られる“場”は卵黄嚢(yolk-sac)の一次造血(primitive hematopoiesis)からAGM(Aorta gonad mesonephros)領域,そして胎児の肝臓へと移行していく.さらに,ほかのリンパ球と同様にマクロファージの発生の場は,骨髄で営まれる二次造血系(definitive hematopoiesis)へと移行する.二次造血系が単球(常在性Ly6c monocyteおよび炎症性Ly6c+ monocyte)の源であり,この単球より組織マクロファージが分化してくると考えられてきた.

しかし,単球よりMPSが分化してくるという概念は近年書き換えられつつある(図1図1■マウスにおける組織マクロファージの起源).脳に局在する組織マクロファージであるマイクログリア細胞は卵黄嚢由来の細胞を前駆細胞とすること,さらに皮膚に局在するランゲルハンス細胞は卵黄嚢と胎児の肝臓に存在する前駆細胞を起源にもつことがLineage-tracing実験により明らかにされた(5)5) F. Ginhoux, M. Greter, M. Leboeuf, S. Nandi, P. See, S. Gokhan, M. F. Mehler, S. J. Conway, L. G. Ng, E. R. Stanley et al.: Science, 330, 841 (2010)..さらに,c-myb欠損骨髄を用いた同様なLineage-tracing実験により,脾臓・皮膚・膵臓・肝臓に存在する組織マクロファージの前駆細胞が卵黄嚢に由来することが示された(6)6) G. Hoeffel, Y. Wang, M. Greter, P. See, P. Teo, B. Malleret, M. Leboeuf, D. Low, G. Oller, F. Almeida et al.: J. Exp. Med., 209, 1167 (2012)..また,大部分の組織マクロファージが卵黄嚢あるいは胎児肝臓由来するのに対して,樹状細胞やF4/80lowマクロファージは骨髄由来であることも同時に示された(7)7) C. Schulz, E. Gomez Perdiguero, L. Chorro, H. Szabo-Rogers, N. Cagnard, K. Kierdorf, M. Prinz, B. Wu, S. E. Jacobsen, J. W. Pollard et al.: Science, 336, 86 (2012)..これらの結果より,マウスにおいてマクロファージの前駆細胞は少なくとも卵黄嚢,胎児肝臓,そして単球の3種類の前駆細胞に由来すると現在は考えられている.

図1■マウスにおける組織マクロファージの起源

組織マクロファージの分化誘導機構

ここまでに述べたように定常状態において組織マクロファージの形態および機能が存在する組織さらには局在によって異なるのみならず,発現する転写因子も異なることが報告された(8)8) D. A. Hume et al.: J. Leukoc. Biol., 92, 433 (2012)..この多様性を生む要因として,マクロファージとマクロファージを支持する周りの細胞とのクロストークによるところが大きい.組織マクロファージの多様性を理解するためには,それぞれの分化を規定する転写因子の同定,およびその作用機序を明らかにしていく必要がある.

これまで明らかにされている重要な転写因子としてはETSファミリーに属する転写因子であるPU.1が挙げられる.PU.1に変異を加えるとCD11b+ F4/80+マクロファージが完全に消失することにより,その重要性は明らかである(7)7) C. Schulz, E. Gomez Perdiguero, L. Chorro, H. Szabo-Rogers, N. Cagnard, K. Kierdorf, M. Prinz, B. Wu, S. E. Jacobsen, J. W. Pollard et al.: Science, 336, 86 (2012)..しかしPU.1遺伝子欠損マウスはマクロファージのみならずB細胞も欠損するため,PU.1の機能はマクロファージに限局されたものではない.また,同じくETSファミリーに属する転写因子であるETS2は単球・マクロファージの増殖因子であるサイトカインであるCSFのレセプターであるCsf1rのプロモーターを制御することで,マクロファージ分化を制御していることがわかっているが(9)9) G. W. Henkel, S. R. McKercher, H. Yamamoto, K. L. Anderson, R. G. Oshima & R. A. Maki: Blood, 15, 2917 (1996).,これもマクロファージに特異的ではない.さらに成人においては,Mafbが常在マクロファージの局所における増殖に必須であることも報告されている(6)6) G. Hoeffel, Y. Wang, M. Greter, P. See, P. Teo, B. Malleret, M. Leboeuf, D. Low, G. Oller, F. Almeida et al.: J. Exp. Med., 209, 1167 (2012)..このように,組織マクロファージの分化やその維持に必要な転写因子はわかりつつあるが,組織マクロファージの多様性を決定している転写因子,つまりは各々の性質や分化を誘導する転写因子については,ほとんどわかっていない.

脾臓マクロファージの種類

脾臓は形態や機能の異なるマクロファージが多数存在する代表的な臓器の一つである.マウス脾臓における組織マクロファージは1)赤脾臓に分布するRed pulp macrophage,2)白脾臓の周辺に限局してマージナルゾーン内側に局在するmarginal zone metallopilic macrophageと3)その外側に存在するMarginal zone macrophage,ならびに4)白脾臓のリンパ濾胞内に局在するTingible body macrophagesに区別される(1,2)1) S. Gordon & P. R. Taylor: Nat. Rev. Immunol., 12, 953 (2005).2) R. E. Mebius & G. Kraal: Nat. Rev. Immunol., 8, 606 (2005).図2図2■マウス脾臓に存在する組織マクロファージ表1表1■脾臓における組織マクロファージの局在と機能).Red pulp macrophage(RPM)はその局在から古くなった赤血球や感染赤血球を貪食し,脾臓における鉄のリサイクルに関与していると考えられていたが,直接生体内で証明されていなかった(2)2) R. E. Mebius & G. Kraal: Nat. Rev. Immunol., 8, 606 (2005)..従来のマクロファージ分化誘導および機能解析は,骨髄細胞をサイトカイン(GM-CSFやM-CSFなど)の存在下で培養することにより行われていた.この方法は成熟マクロファージを容易にかつ大量に誘導できるというのが利点であるが,機能的に画一的なマクロファージしか誘導できず,生体内に存在する「異なる細胞表面マーカーや異なる機能をもつ」組織特異的マクロファージの側面を反映しているとは言い難い.また,ある特定の細胞の生体内での役割を明らかにするためには,その細胞を特異的に欠損している動物を利用することが望ましい.そのようなマウスを作成するためには,その細胞の分化を制御している分子(転写因子)を同定する必要があると筆者らは考え,まず組織マクロファージの分化を規定する転写因子を同定することを試みた.

図2■マウス脾臓に存在する組織マクロファージ

文献10より改変.

Red pulp macrophageの分化誘導機構

筆者らはさまざまな免疫細胞および正常組織由来の細胞の遺伝子発現をマイクロアレーにより比較するという方法を用いることにより,脾臓の赤脾髄に存在する組織マクロファージ,Red pulp macrophageに特異的に発現する分子として,ETS familyに属する転写因子Spi-Cの同定に成功した(11)11) M. Kohyama, W. Ise, B. T. Edelson, P. R. Wilker, K. Hildner, C. Mejia, W. A. Frazier, T. L. Murphy & K. M. Murphy: Nature, 457, 318 (2009).図3a図3■定量PCRによるSpi-C発現の比較(A),およびFACSによるSpi-C遺伝子欠損マウスにおける脾臓F4/80の発現の検討(B)).元々Spi-CはB細胞に発現するPU.1サブファミリーに属する転写因子としてクローニングされた転写因子だが,B細胞における機能はいまだにはっきりしていない(12~14)12) M. Bemark, A. Mårtensson, D. Liberg & T. Leanderson: J. Biol. Chem., 274, 10259 (1999).13) S. Hashimoto, H. Nishizumi, R. Hayashi, A. Tsuboi, F. Nagawa, T. Takemori & H. Sakano: Int. Immunol., 11, 1423 (1999).14) R. Carlsson, K. Thorell, D. Liberg & T. Leanderson: Biochem. Biophys. Res. Commun., 344, 1155 (2006)..筆者らはRed pulp macrophageにおいてB細胞よりもSpi-Cが高発現しており,さらにほかの組織マクロファージではほとんど発現が認められなかったことからSpi-CはRed pulp macrophageの分化を制御している因子ではないかと予想し,その欠損マウスを作成した.Spi-C遺伝子欠損マウスでは脾臓においてRed pulp macrophageを欠損しており,Marginal zone macrophageといったほかの組織マクロファージの分化には影響がなかった(図3b図3■定量PCRによるSpi-C発現の比較(A),およびFACSによるSpi-C遺伝子欠損マウスにおける脾臓F4/80の発現の検討(B)).またRed pulp macrophageと同じくF4/80を発現している腹腔マクロファージも野生型マウスと同様に存在しており,Spi-CがRed pulp macrophageの分化誘導を特異的に制御していることが明らかになった(11)11) M. Kohyama, W. Ise, B. T. Edelson, P. R. Wilker, K. Hildner, C. Mejia, W. A. Frazier, T. L. Murphy & K. M. Murphy: Nature, 457, 318 (2009).

図3■定量PCRによるSpi-C発現の比較(A),およびFACSによるSpi-C遺伝子欠損マウスにおける脾臓F4/80の発現の検討(B)

赤脾臓に特異的因子による分化誘導

脾臓Red pulp macrophageの分化が転写因子Spi-Cで制御されていることがわかったので,このSpi-CがどのようにRed pulp macrophageの分化に関与しているのか,あるいはSpi-Cを誘導するシグナルは何か,Spi-Cのターゲット分子は何かといったことを明らかにすることが求められる.そこで筆者らはRed pulp macrophageの分化制御を促すシグナル,つまりSpi-Cの発現を制御しているシグナルは,組織特異的な因子によって誘導されてくるという仮説を立てた.赤脾臓は古くなった赤血球を分解し,ヘムと結合している鉄をリサイクル場と考えられている.そこでRPMの分化に必須であるSpi-Cの発現を制御している組織特異的なシグナル(因子)は赤脾臓に特徴的な鉄代謝に関連すると分子と予想した.

そこでin vitroにて赤血球の代謝産物であるヘム(老化赤血球の代謝物質)で刺激するとSpi-Cの発現が誘導され,さらにはF4/80陽性細胞が分化してきた(図4図4■赤血球の代謝産物であるヘムによってSpi-Cの発現,およびF4/80+細胞の分化が誘導(A),赤血球代謝産物であるヘムによるマクロファージの分化制御(B)).同時に,SpicがRPMと同様に鉄のリサイクルの機能を有するF4/80+VCAM1+骨髄マクロファージ(BMM)分化も制御することも明らかとなった.過剰なヘムはRPMとBMMのアポトーシスを誘導するが,単球におけるSpicの発現を誘導しRPMとBMMを分化誘導した.また,Spi-Cの発現誘導はリプレッサーであるBACH1によって阻害された.ヘムは,プロテアソーム依存的にBACH1を分解し,Spi-C転写の阻害を解除した.この結果は,組織マクロファージの分化が代謝物質よって制御されていることを初めて示した例である(15)15) M. Halder et al.: Cell, 13, 1223 (2014).図4図4■赤血球の代謝産物であるヘムによってSpi-Cの発現,およびF4/80+細胞の分化が誘導(A),赤血球代謝産物であるヘムによるマクロファージの分化制御(B)).

図4■赤血球の代謝産物であるヘムによってSpi-Cの発現,およびF4/80+細胞の分化が誘導(A),赤血球代謝産物であるヘムによるマクロファージの分化制御(B)

Red pulp macrophageの機能

Red pulp macrophageの機能をin vivoで検討する目的で,RPMによる赤血球の取り込み能をSpi-C遺伝子欠損マウスを用いて検討した.オプソナイズした赤血球あるいはCD47遺伝子欠損マウス由来の赤血球(16)16) P. A. Olswnborg et al.: Science, 288, 2015 (2000).をCFSEでラベルしてマウスに投与し,脾臓中のどの細胞群がこれらの赤血球を取り込むのかを検討した.すると,脾臓ではF4/80highとF4/80lowの細胞群が赤血球を取り込むことができるが,F4/80highであるRed pulp macrophageによる取り込みが優れていることがわかった(図5図5■赤血球の取り込み実験).さらにRed pulp macrophageを欠損するSpi-C遺伝子欠損マウスを用いて同様の実験を行うと,野生型マウスに比べて赤脾臓でのCSFEの強度が低くなっており,このことはRed pulp macrophageが欠損している脾臓では赤血球の取り込みが悪くなっていることを示している(図5図5■赤血球の取り込み実験).つまり,脾臓において赤血球はRed pulp macrophageによって除去されることが遺伝子欠損マウスを用いることにより直接証明された.

図5■赤血球の取り込み実験

CFSEでラベルした赤血球を静注し,24時間後のB6マウスの脾臓をF4/80とCD68抗体で染色し,CFSEの強度を検討(A).B6マウスおよびSpi-C遺伝子欠損マウスの組織切片によるCFSE発現の比較(B).

また,生まれてくるSpi-C遺伝子欠損マウスは正常であるが,加齢とともに脾臓が肥大してくる(図6図6■加齢に伴うSpi-C遺伝子欠損マウスにおける脾臓の肥大化(A),および鉄の異常沈着(B)).面白いことに,この肥大にはリンパ球の増大は伴っておらず,代わりに赤血球の異常蓄積が認められた.さらに,血中の鉄や赤血球の数は野生型マウスと変わらないが,鉄を染色するペルシアンブルーで脾臓を染めると,野生型と比較して異常な鉄の沈着が認められた(図6図6■加齢に伴うSpi-C遺伝子欠損マウスにおける脾臓の肥大化(A),および鉄の異常沈着(B)).つまり,Red pulp macrophageは脾臓における鉄代謝に重要な役割を担っていることが生体内で初めて明らかとなった(11)11) M. Kohyama, W. Ise, B. T. Edelson, P. R. Wilker, K. Hildner, C. Mejia, W. A. Frazier, T. L. Murphy & K. M. Murphy: Nature, 457, 318 (2009).

図6■加齢に伴うSpi-C遺伝子欠損マウスにおける脾臓の肥大化(A),および鉄の異常沈着(B)

また黒滝らはin vitroの系にてRed pulp macrophageがIL-10やTGF-βを産生することで調節性T細胞(Treg)を誘導し,自己免疫応答の制御にも関与すると報告している(17)17) D. Kurotaki, S. Kon, K. Bae, K. Ito, Y. Matsui, Y. Nakayama, M. Kanayama, C. Kimura, Y. Narita, T. Nishimura et al.: J. Immunol., 186, 2229 (2011)..実際にRed pulp macrophageがTregを誘導し,自己免疫応答を制御しているのかの生体内での検討が待たれる.

Tingible-body macrophageの機能

白脾臓の胚中心(germinal center)はB-リンパ球が成熟分化する場であり,抗原に対して高い親和性をもつB細胞受容体を発現する細胞は生き残り,低親和性受容体を発現するBリンパ球はアポトーシスに陥り死滅する(18)18) G. D. Victora & M. C. Nussenzweig: Annu. Rev. Immunol., 30, 429 (2012)..胚中心に存在するCD68陽性のTingible-body macrophagesは,アポトーシスを起こしたB-リンパ球を貪食する.脾臓においてTingible-body macrophagesはMFG-E8を特異的に発現している(19)19) R. Hanayama, M. Tanaka, K. Miyasaka, K. Aozasa, M. Koike, Y. Uchiyama & S. Nagata: Science, 304, 1147 (2004)..MFG-E8(Milk Fat Globular Protein EGF-8)は,マクロファージが分泌するタンパク質(20)20) J. D. Stubbus et al.: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 87, 8417 (1999).で,アポトーシス細胞が提示するリン脂質やホスファチジルセリン(phosphatidylserine)を認識してアポトーシス細胞に結合する因子である(21)21) R. Hanayama, M. Tanaka, K. Miwa, A. Shinohara, A. Iwamatsu & S. Nagata: Nature, 417, 182 (2002)..Tingible-body macrophagesはMFG-E8を発現しており,MFG-E8遺伝子を欠損するマウスの脾臓マクロファージには貪食されないアポトーシスを起こした細胞が数多く認められ,加齢とともに脾臓が肥大化する.さらに,本来存在しない自己抗体(抗核抗体,anti-nuclear antibody(ANA);抗DNA抗体)が血清中に増加するため,マウスは腎炎を引き起こす.これらの結果より,胚中心に存在するTingible-body macrophagesが,アポトーシス細胞の貪食に重要な役割を果たしていることが明らかになった(21)21) R. Hanayama, M. Tanaka, K. Miwa, A. Shinohara, A. Iwamatsu & S. Nagata: Nature, 417, 182 (2002).

Marginal zone macrophageおよびMarginal zone metallopilic macrophageの機能

マージナルゾーンはリンパ濾胞を貫通した中心動脈の枝が赤脾臓と白脾臓の境界部の脾洞内に開口し,血中の物質や抗原が脾臓で最初に到達する部位である(2)2) R. E. Mebius & G. Kraal: Nat. Rev. Immunol., 8, 606 (2005)..このマージナルゾーンには2種類の組織マクロファージが存在する.一つは,外側に局在するMarginal zone macrophageは優れた貪食能をもちMARCO(Macrophage receptor with collagenous structure),SR-A(Scavenger receptor-A),SIGNR1(SIGN-related1)などのPattern recognition receptor(PPR)を発現し,種々の微生病原体に結合し,生体防御上重要な役割を担っている(1,10)1) S. Gordon & P. R. Taylor: Nat. Rev. Immunol., 12, 953 (2005).10) P. R. Taylor, L. Martinez-Pomares, M. Stacey, H. H. Lin, G. D. Brown & S. Gordon: Annu. Rev. Immunol., 23, 901 (2005)..マージナルゾーンの内側に存在するMarginal zone metallopilic macrophageはCD169分子を発現し(10,22)10) P. R. Taylor, L. Martinez-Pomares, M. Stacey, H. H. Lin, G. D. Brown & S. Gordon: Annu. Rev. Immunol., 23, 901 (2005).22) P. R. Crocker et al.: EMBO, 13, 4490 (1994).,菌体成分の中性多糖類に対する免疫応答に関与する(1,23)1) S. Gordon & P. R. Taylor: Nat. Rev. Immunol., 12, 953 (2005).23) P. R. Taylor, S. Gordon & L. Martinez-Pomares: Trends Immunol., 26, 104 (2005)..近年,マージナルゾーンに局在する2種類のマクロファージを一時的に消失することのできるマウスを用いて(24)24) Y. Miyake, K. Asano, H. Kaise, M. Uemura, M. Nakayama & M. Tanaka: J. Clin. Invest., 8, 2268 (2007).(CD169-DTR mouse),これらのマクロファージを消失させた後MOGを発現している細胞を投与すると,MOGに対する免疫寛容が誘導できず,EAEの発症を抑制できないことがわかった.このことからMarginal zone macrophageが死細胞貪食に伴う免疫寛容の誘導にも重要な働きをしていることが示された(24)24) Y. Miyake, K. Asano, H. Kaise, M. Uemura, M. Nakayama & M. Tanaka: J. Clin. Invest., 8, 2268 (2007).

腹腔マクロファージの機能を制御するGATA6

岡部らは腹腔マクロファージに着目し,腹腔マクロファージが腹腔特異的なシグナルを感知することで,腹腔マクロファージに特異的な遺伝子の発現を誘導する分子機構を明らかにした(25)25) Y. Okabe & R. Medzhitov: Cell, 157, 832 (2014)..彼らはまず,われわれと同様にマイクロアレーにて腹腔,肺,肝臓,脾臓,小腸,脂肪組織の6つの組織に存在するマクロファージの遺伝子発現を比較し,腹腔マクロファージに特異的に発現するGAT A6遺伝子に着目した.GAT A6欠損マウスにおいて腹腔マクロファージは野生型マウスと同様に存在したが,腹腔マクロファージに特異的な遺伝子のうち約40%の発現が著しく減弱していた.このことは,腹腔マクロファージにおいて特異的な遺伝子の発現の多くが転写因子GAT A6に依存して制御されていることを示している.そこで,彼らはGAT A6遺伝子の活性化を腹腔マクロファージに特異的な遺伝子の発現の指標とすることで,組織に特異的なマクロファージの遺伝子発現の分子機構を解析し,腹腔に存在するレチノイン酸がGAT A6遺伝子の発現を活性化することを明らかにした.腹腔マクロファージの分化を制御する因子ではないが,腹腔に特有のマクロファーの機能の獲得に重要なシグナルが,組織特異的な因子のレチノイン酸であることを見事に証明している.

まとめ

以上,組織マクロファージの分化機構およびそれらの機能について概説した.その多くは未知のままだが,本稿で紹介したように少しずつ明らかになってきている.今後の研究の進展が大いに期待される.組織マクロファージの分化誘導機構の解明が基礎的な研究にとどまらず,マクロファージを標的としたさまざまな疾患の治療戦略につながっていくことを期待したい.

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