バイオサイエンススコープ

遺伝資源へのアクセスと利益配分に関する名古屋議定書日本の研究開発が多大な影響を受ける恐れがあることを知っていますか?

Ayumu Inoue

井上

一般財団法人バイオインダストリー協会 ◇ 〒104-0032 東京都中央区八丁堀二丁目26番9号 グランデビル8階

Japan Bioindustry Association ◇ Grande Building 8F, 2-26-9 Hacchobori, Chuo-ku, Tokyo 104-0032, Japan

Published: 2015-08-20

はじめに

2010年10月に名古屋で開催された生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)で採択された名古屋議定書が,昨年10月12日に発効した.この名古屋議定書は,遺伝資源へのアクセスと利益配分(ABS)に関する国際的な枠組みを定めるものである.現在,日本でも批准に向け検討が行われているが,「遺伝資源」の定義が明確でないなど,いくつかの問題点があり,遺伝資源を対象とする研究開発が幅広く影響を受ける恐れがある.このため,今年2月には,日本農芸化学会と日本生物工学会が連名で,慎重な対応を求める要請書を関係各大臣宛に提出した(1,2)1) 公益社団法人日本農芸化学会:生物多様性条約・名古屋議定書に関する要請書,http://www.jsbba.or.jp/info/news/nagoya_protocol.html (2015年5月29日アクセス).2) 公益社団法人日本生物工学会:生物多様性条約・名古屋議定書に関する要請書,http://www.sbj.or.jp/news/news_20150522-1.html(2015年5月29日アクセス).

しかしながら,名古屋議定書を理解している研究者は,まだそれほど多くない.そこで,本稿では,名古屋議定書の交渉経緯,概要,問題点,研究者へ及ぶ影響などを概観し,研究者が理解を深める一助としたい.なお,本稿では,名古屋議定書に関する説明を主とし,ABSに必要な具体的な手続きなどについては必要最小限の説明にとどめた.それらについては,別途拙稿(3)3) 井上 歩:日本乳酸菌学会誌,26,22 (2015).を参照していただきたい.

生物多様性条約とABSの基本

1. 生物多様性条約

1992年にブラジルのリオ・デ・ジャネイロで開催された国連環境開発会議(リオ・サミット)で,「生物の多様性に関する条約(Convention on Biological Diversity)」(以下,生物多様性条約またはCBD)が採択された.この生物多様性条約は,翌年の1993年12月29日に発効し,現在195カ国とEUが加盟する大きな条約である(4)4) CBD事務局: List of Parties,https://www.cbd.int/information/parties.shtml(2015年5月29日アクセス).(ただし,米国は非加盟).また,条約がカバーする内容も,生物多様性の保全のほか,本稿の主題である「遺伝資源へのアクセスと利益配分(Access and Benefit-Sharing; ABS)」や,それ以外にも多くの項目が含まれており,非常に多岐にわたっている(5)5) 外務省:生物の多様性に関する条約,http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/treaty/pdfs/B-H5-0299_1.pdfおよびhttp://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/treaty/pdfs/B-H5-0299_2.pdf(2015年5月29日アクセス).

その一つである遺伝子組換え体の安全性については,このCBDの下にカルタヘナ議定書があり,それを受け日本では「遺伝子組換え生物等の使用等の規制による生物の多様性の確保に関する法律」(通称,カルタヘナ法)が設けられているので,本稿の読者にとっても非常に関係が深い条約である(図1図1■地球環境関連条約).

図1■地球環境関連条約

2. ABSの基本

このCBDには,次の3つの目的がある.

  • 1)生物多様性の保全
  • 2)生物多様性の構成要素の持続可能な利用
  • 3)遺伝資源の利用から生ずる利益の公正かつ衡平な配分

この3番目の目的に関する事項が「遺伝資源へのアクセスと利益配分」(以下,ABS)であり,このためにCBDは環境条約ではあるが経済的な側面をもつ特異な条約なのである.このABSに関し,CBD第15条では,次のように規定している.

各国は,自国の天然資源に対して主権的権利を有するものと認められ,遺伝資源の取得の機会につき定める権限は,当該遺伝資源が存する国の政府に属し,その国の国内法令に従う.

すなわち,それまで人類共通の財産と考えられてきた遺伝資源に対し,その遺伝資源が存在する国が遺伝資源へのアクセスを国内法令等で規制することが可能になったのである.これに関し,CBD第15条には,次の2つのABSの基本原則が規定されている.

  • 1)必要な情報を事前に知らせたうえで,遺伝資源提供国から「事前の情報に基づく同意(Prior Informed Consent; PIC)を得る.
  • 2)遺伝資源の利用から生じる利益は,「相互に合意する条件(Mutually Agreed Terms; MAT)」(契約)によって公正かつ衡平に配分する.

これを図に表したのが,図2図2■遺伝資源へのアクセスと利益配分の基本原則である.

図2■遺伝資源へのアクセスと利益配分の基本原則

すなわち,海外の遺伝資源を利用する場合には,その遺伝資源が存在する国の国内法令などに従い,その国の当局から「事前の情報に基づく同意(PIC)」を取得し,それと並行して実際の遺伝資源の提供者などと遺伝資源の移転や利用条件,利益配分に関する交渉を行い,「相互に合意する条件(MAT)」(契約)を結ぶ必要がある.

なお,CBDの下で,「遺伝資源」は次のように定義されている.

  • ・「遺伝資源」とは,現実の又は潜在的な価値を有する遺伝素材をいう.
  • ・「遺伝素材」とは,遺伝の機能的な単位を有する植物,動物,微生物その他に由来する素材をいう.

このように,「遺伝資源」の定義は非常に広く,ABSの対象範囲が無限大に広がりうることから,研究において海外の生物サンプルを取り扱う際には,多くの場合このABSへの対応が必要になる(CBD第15条では,各国の管轄下にある「遺伝資源」をABSの対象としており,いずれの国の管轄にも属さない「遺伝資源」(たとえば,公海や南極の「遺伝資源」)は対象としていない).

しかしながら,CBDが発効してから二十数年が経過した今でも,CBD加盟国のうちABSに関する国内法令などを定めている国は30カ国程度にとどまっている.PICを取得しようにも,そのルールすらない国がほとんどであり,このことがABSへの対応を非常に難しくしている.

なお,「利益配分」と書くと,ロイヤリティの支払いなど金銭的な利益配分を思い浮かべがちであるが,CBDの下では,金銭的な利益配分とともに,共同研究の実施,その成果の共有,教育や研修の実施,技術移転など,非金銭的な利益配分という考え方がある.基礎研究の場合は,この非金銭的な利益配分のほうが現実的であろう.また,「公正かつ衡平な利益配分」というのは,利益を等分することを意味しているのではない.あくまで研究などへの貢献度合に応じて配分すればよいことを付け加えておく.

名古屋議定書

1. 採択までの経緯

このように,CBDの発効に伴い,各国の遺伝資源は,ABSの2つの基本原則に従って利用されることとなった.しかし,ABSを実施するためのルールは,各国の裁量に任され,具体的な国際規定が定められたわけではなかった.このような状況の下,開発途上国は,ABSのための何らかの国際的な枠組みが必要であるとの主張を展開した.これを受け,当初は,法的な拘束力をもたないガイドラインという方向で国際交渉が進み,2002年のCOP6で「ボン・ガイドライン」(6)6) 一般財団法人バイオインダストリー協会生物資源総合研究所:ボン・ガイドライン(2002年9月5日JBA訳),http://www.mabs.jp/archives/bonn/index.html(2015年5月29日アクセス).が採択された.

しかし,これでABSに関する議論が決着したわけではなかった.あくまで法的拘束力をもつ枠組みを望む開発途上国側が「先進国企業による遺伝資源の不正な取得が依然として行われており,利益配分が十分担保されていない」との主張を繰り広げたのである.このため,2002年の「持続可能な開発に関する世界首脳会議(WSSD)」(ヨハネスブルグ・サミット(リオ+10))において,利益配分に関する国際的な枠組み(International Regime; IR)に関する交渉を始めることが決定され,法的拘束力のあるIRについての議論が開始された(7)7) 一般財団法人バイオインダストリー協会生物資源総合研究所:もうひとつの生物多様性のおはなし-Win-Winな関係(2009),http://www.mabs.jp/archives/pdf/mohitotsu.pdf(2015年5月29日アクセス).

この国際交渉の中でも,開発途上国側は,法的拘束力をもつ枠組みを強く主張した.これに対し,先進国側は,先に述べたように,そもそもABSに関する国内法令など,遺伝資源を取得する際のルールすら整備されていない国が多いことから,まず,そのルールの明確化を求めた.このため,2003年の交渉開始以来,交渉の入り口で意見が対立し,交渉は困難を極めていた.

このような状況の下,2010年10月に名古屋市でCOP10が開催された.このときも,直前の準備会合やCOP期間中の会合を通じて,約3週間にわたりIRについて精力的に交渉が行われたが,対象範囲や,遺伝資源の利用国で実施する措置などで対立は解消されず,COP10最終日まで交渉官レベルでの合意は得られなかった.

しかし,COP10最終日に,議長であったわが国の環境大臣から「議長提案」が各国に提示された.これを,全体会合に諮ったところ,さまざまな意見があったものの,最終的には各国が政治判断に基づき受入れ,「生物多様性に関する条約の遺伝資源へのアクセス及びその利用から生じる利益の公正かつ衡平な配分に関する名古屋議定書」(Nagoya Protocol on Access to Genetic Resources and the Fair and Equitable Sharing of Benefits Arising from Their Utilization to the Convention on Biological Diversity: 以下,名古屋議定書)が採択されたのである(8)8) 薮崎義康,渡辺順子,野崎恵子,炭田精造:バイオサイエンスとインダストリー,69,162 (2011).

では,争点であった,議定書の対象範囲や,遺伝資源の利用国で実施する措置などについては,どのような解決が図られたのであろうか? 詳細は,「名古屋議定書の問題点」で述べることとするが,一言で言うと,それらは曖昧なまま残されたのである.

2. 名古屋議定書の特徴

このように名古屋議定書(9)9) 一般財団法人バイオインダストリー協会生物資源総合研究所:名古屋議定書(2011年1月31日JBA仮訳),http://www.mabs.jp/archives/pdf/nagoya_protocol_je_3.pdf(2015年5月29日アクセス).は政治決着という劇的な展開を迎え採択された.では,次にその概要を眺めてみたい.

ただ,その前に,名古屋議定書の位置づけを確認しておきたい.というのは,国際交渉の部分でも紹介したように,名古屋議定書は,CBDの3番目の目的に対し「利益配分に関する国際的な枠組み」を定めたものであり,直接1番目と2番目の目的に関するものではないということである.

それでは,名古屋議定書の概要を眺めてみよう.まず,CBDの下での2つのABSの基本原則は,そのまま名古屋議定書の下でも変わらない.したがって,これまで同様,海外の遺伝資源にアクセスする際には,提供国の国内法令などに従い,PICを取得し,MATを締結しなければならない.

では,名古屋議定書で何が新たに定められたのであろうか.それは,遺伝資源提供国と遺伝資源利用国の双方に,それぞれ義務が課せられたことである.

もう一度,国際交渉の争点を思い出していただきたい.先進国側は,そもそもABSに関する国内法令などが整備されていない国が多いことから,ABS手続きの明確化を求めた.これを受け,提供国には,ABSに関する国内法令などを整備し,それを,CBD事務局のホームページに設けられる情報交換センターであるABSクリアリング・ハウス(ABS-CH)に公開することが義務づけられた.

また,提供国には,利用者からのPIC申請に対し許可証を交付し,そのPIC許可証をABS-CHに登録することも求められた.このPIC許可証が,ABS-CHで公開された場合には「国際的に認知された遵守証明書」となり,遺伝資源へのアクセスに関し,国際的にも透明性が確保されることになる(ただし,秘密情報は保護されることとなっている).

一方,開発途上国側は「先進国企業による遺伝資源の不正な取得が依然として行われており,利益配分が十分担保されていない」と主張した.これを受け,利用国には,自国の管轄下で利用される遺伝資源が,当該遺伝資源の提供国のABS国内法令などに従い,PICを取得し,MATが設定されたうえで,適切に取得されたものであることをモニタリングするための措置(利用国遵守措置)を設け,そのために1カ所以上のチェックポイントを置くことが義務づけられたのである.この措置は,提供国の法令などの遵守を利用国側で確認するという意味において特異であり,名古屋議定書の中核とも言えるものである(10)10) 磯崎博司,炭田精造,渡辺順子,田上麻衣子,安藤勝彦:“生物遺伝資源へのアクセスと利益配分—生物多様性条約の課題—”,信山社,2011, p. 264.

なお,提供国側のABS国内法令などの整備は,それぞれの国の判断により,そのような措置は取らないという選択肢をとることもできるが,利用国遵守措置は,すべての国が利用国となりうるので,名古屋議定書の締約国はすべて設けなければならない.また,提供国側のABS措置も,利用国側の遵守措置も,それぞれ「立法上,行政上又は政策上の措置」と,措置の設け方について各国の裁量権が認められている.

このことを図に表したのが,図3図3■名古屋議定書の特徴である.

図3■名古屋議定書の特徴

3. 名古屋議定書の仕組み

さらに,名古屋議定書の仕組みがどのように機能するのかを示したのが,図4図4■名古屋議定書の仕組みである.ABS国内法令などを定めた国(①)は,それをABS-CHに公開する(②).海外の遺伝資源にアクセスしたい利用者は,ABS-CHを見れば,自分がアクセスしたい国のABS法令などがわかることになる(③).利用者は,その国内法令などに従い,PICを取得し,MATを設定して(④⑤),遺伝資源にアクセスし(⑥),その利用から生じた利益を公正かつ衡平に配分することになる(⑦).一方,利用国は,定めた利用国遵守措置に従い,自国の管轄権内で利用されている遺伝資源が適正にアクセスされたものであることをモニタリングすることになる(⑧).

図4■名古屋議定書の仕組み

このように名古屋議定書が円滑に機能すれば,遺伝資源の利用が促進され,公正かつ衡平な利益配分が確保されることが期待される.

名古屋議定書の状況

1. 締約国

この名古屋議定書が,昨年の10月12日に発効した.現在の締約国は,表1表1■名古屋議定書の締約国に示した58カ国と欧州連合(EU)である(11)11) CBD事務局:Parties to the Nagoya Protocol, https://www.cbd.int/abs/nagoya-protocol/signatories/default.shtml(2015年5月29日アクセス).(2015年5月29日現在).

表1■名古屋議定書の締約国
欧州8EU, デンマーク,スペイン,ハンガリー,ノルウェー,スイス,アルバニア,ベラルーシ
アフリカ26 (1)ベニン,ボツアナ,ブルキナファソ,ブルンジ,コモロ,(コンゴ),コートジボアール,コンゴ民主共和国,エジプト,エチオピア,ガボン,ガンビア,ギニア,ギニアビサウ,ケニア,レソト,マダガスカル,マラウイ,モーリシャス,モザンビーク,ナミビア,ニジェール,ルワンダ,セーシェル,南アフリカ,スーダン,ウガンダ
アジア12・東南アジア(5):カンボジア,インドネシア,ラオス,ミャンマー,ベトナム
・東・中央アジア(2):モンゴル,タジキスタン
・南アジア(2):ブータン,インド
・中東(3):ヨルダン,シリア,アラブ首長国連邦
中南米8ドミニカ共和国,グアテマラ,ガイアナ,ホンジュラス,メキシコ,パナマ,ペルー,ウルグアイ
大洋州5マーシャル諸島,フィジー,ミクロネシア,サモア,バヌアツ
カッコ内は,批准書等提出済の国:コンゴは2015年8月12日に,締約国となる予定(2015年5月29日現在).

2. 提供国ABS国内法令などや利用国遵守措置の整備状況

では,現在,名古屋議定書は円滑に機能しているのであろうか? これに対しては,残念ながら「まだ,機能していない」と答えざるを得ない.先に述べたように,名古屋議定書が機能するためには,まず遺伝資源提供国がABS国内法令などを定め,それをABS-CHに公開しなければならない.しかし,現在,ABS国内法令などに関する情報をABS-CHに公開している締約国は,ベラルーシ,インド,マラウィ,メキシコ,ペルー,南アフリカ,スイス,ベトナムだけである(12)12) CBD事務局:Access and Benefit-sharing Clearing-house, https://absch.cbd.int/(2015年5月29日アクセス).(2015年5月29日現在).これでは,利用者はABS-CHから必要な情報を得ることができない.

また,利用国遵守措置に至っては,締約国59カ国+EUのうち,設けていることが確認できているのはEU(EU加盟国に効力が及ぶ),スイス,デンマーク,ノルウェー,ベラルーシだけである.利用国遵守措置は,本来すべての締約国が設けなければならないはずであるが,この状況である.これでは,名古屋議定書が円滑に機能する状況にあるとは言えない.

なお,先に述べたように,CBDが発効してから二十数年を経た今でも,ABSに関する国内法令などを定めているのは,30カ国程度にすぎない.このことを考えると,今後,名古屋議定書の締約国がABS国内法令などを定めるのにも,時間がかかることが予想され,直ちに名古屋議定書が円滑に機能するのは難しいと思われる.

名古屋議定書の問題点

先に,名古屋議定書は政治決着という形で採択されたため,争点となっていた,議定書の対象範囲や,遺伝資源の利用国で実施する措置などについて,曖昧なまま残されたと書いた.このため,名古屋議定書には以下に示すような問題点があると考えられ,次にこれらについてみていきたい.

1. 議定書の対象範囲

「ABSの基本」で,CBDの下での「遺伝資源」の定義が広く,ABSの対象範囲が無限大に広がりうると説明した.名古屋議定書においても,「遺伝資源」が再定義されることはなく,CBDと同じ定義が適用されることとなった.

また,名古屋議定書では,「遺伝資源の利用」は次のように定義されている.

  • ・「遺伝資源の利用」とは,条約第2条に定義するバイオテクノロジーの応用を通じたものも含め,遺伝資源の遺伝的及び/又は生化学的な構成に関する研究及び開発の行為をいう.
  • ・条約第2条に定義する「バイオテクノロジー」とは,物又は方法を特定の用途のために作り出し又は改変するため,生物システム,生物又はその派生物を利用する応用技術をいう.
  • ・「派生物」とは,生物資源若しくは遺伝資源の遺伝子発現又は代謝の結果として生じる天然に存在する生化学化合物をいい,遺伝の機能的な単位を有しないものも含む.

このように,「遺伝資源」や「遺伝資源の利用」の定義が広く,外縁が明確でないことから,いろいろな疑問が生じる.たとえば,

  • ・海外から輸入された発酵食品をスーパーマーケットで購入し研究開発に利用することは,名古屋議定書の対象範囲となるのか?
  • ・試験研究機関が,受託業務として「遺伝資源」の遺伝子解析や成分分析を行うことは,「遺伝資源の利用」に該当するのか?
  • ・「派生物」(たとえば,植物抽出物や精油,酵素タンパク質など)は,名古屋議定書の下で,どのように取り扱われるのか?

などである.これらは,一例にすぎないが,「遺伝資源」や「遺伝資源の利用」の解釈が国ごとに異なり,同じ名古屋議定書の下での措置であるにもかかわらず,提供国ABS国内法令などや利用国遵守措置の対象範囲が各国で異なり,対応に混乱が生じる恐れがある.

2. 玉虫色の重要条項

遺伝資源の利用国で実施する措置については,最終的に交渉官レベルで合意されることなく,名古屋議定書が採択された.では,政治決着ながらも,どうして採択という結果が得られたのだろうか.それは,利用国遵守措置に関する規定が,多様な解釈が可能な玉虫色の表現となっているからである.

具体的に言うと,利用国遵守措置に関する議定書第15条,16条,17条では,“as appropriate”(適宜)が多用されている.さらに,利用国での遺伝資源の利用のモニタリングを規定する第17条では,通常条約などで用いられる“shall”のほか,“would”,“should”,“will”が使い分けられ,微妙に規定の重さの違いを表現している.これらは措置の導入に際し各国の裁量権を認めたものであるが,このことにより,読み手の立場による多様な解釈が可能となっている.このため,開発途上国,先進国のそれぞれが,自分たちの主張がある程度反映されたと解し採択に至ったものと思われる.

なお,利用国遵守措置に関する規定が,多様な解釈が可能な玉虫色の表現となっていることは,各国に裁量権が認められたものであるので,基本的には問題点とは考えにくい.どうして問題点となるのかは,次の「日本が批准する場合の利用者への影響」でみることとしたい.

3. 過去に取得した遺伝資源に対し,利益配分を求められる恐れ

過去に取得された遺伝資源の取り扱いも,交渉の大きな争点であった.開発途上国側,特にアフリカ諸国は,CBD発効以前に取得,移動された遺伝資源についても,議定書を遡及適用し,利益配分すべきであると主張した.この遡及適用に関する対立は最後まで続き,その政治決着のため,議長テキストで導入されたのが議定書第10条である.この第10条には,次のように規定されている(下線,筆者).

第10条 地球規模の多国間利益配分の仕組み

締約国は,遺伝資源及び遺伝資源に関連する伝統的知識*「遺伝資源に関連する伝統的知識」は,ABSの重要事項の一つであるが,誌面の都合もあり,本稿では取り上げなかった.が国境を越えて存在する場合,又は事前の情報に基づく同意の付与若しくは取得が不可能な場合に,その利用から生じる利益の公正かつ衡平な配分に対処するため,地球規模の多国間利益配分の仕組みの必要性及び態様について検討する.(以下,略)

下線部分の「事前の情報に基づく同意」というのは,ABSの基本で説明したPICのことである.その「PICの付与若しくは取得が不可能な場合」というのは,どのような場合であろうか? 提供国のABS国内法令などが整備されていない場合,整備されていてもそれがきちんと運営されていない場合などが想定される.しかしながら,PICの付与・取得というABSの基本原則が,CBDで導入されたことを思い出してほしい.つまり,CBD発効以前には,PICの付与・取得はなく,「PICの付与若しくは取得が不可能な場合」という表現には「CBD発効以前」ということが含意されているのである.

もちろん,「地球規模の多国間利益配分の仕組みの必要性及び態様について検討する」となっていることから,直ちに,過去に取得した遺伝資源に対し,利益配分を求められるわけではない.ただ,まだその火種が残っており,それが再び燃え上がることは間違いないのである.

日本が批准する場合の利用者への影響

では,日本が名古屋議定書を批准する場合,日本の学術界や産業界など,遺伝資源の利用者にどのような影響が及ぶであろうか? なお,先に,これまでに批准した国の多くは,利用国遵守措置を整備しないまま批准したと説明したが,日本が議定書の義務を履行せずに批准することはありえないと思われる.したがって,日本が名古屋議定書を批准する場合の利用者への影響というのは,直接的には,主に,日本が新たに導入する利用国遵守措置が利用者にどのような影響を及ぼすかということになる.

しかしながら,現時点では,どのような利用国遵守措置になるのか公表されておらずわからない(2015年5月31日現在).ただ,その目的からは,利用者にはPIC取得,MAT設定に関する情報を保持することが求められ,チェックポイントが何らかの形でそれらの情報を収集する,ということが柱となる措置が想像できる.では,その場合,何が起きるのであろうか?

1. 利用国遵守措置の対象範囲

まず,利用国遵守措置の対象範囲が無限大に広がる恐れがある.これは,名古屋議定書の問題点のところで指摘したように,議定書の対象範囲の外縁が明確でないため,各国のABS国内法令などの対象範囲も大きく広がる可能性があり,それらを漏れなくカバーするためには,利用国遵守措置の対象範囲が,さらに広がってしまうからである.

通常,日本で何らかの措置が設けられる場合には,その対象範囲が明確に規定されるが,名古屋議定書の場合は,CBDおよび名古屋議定書と同じ「遺伝資源」の定義が適用され,実質的に規定されないかもしれない.その場合,遺伝資源の利用者は,措置の対象となるのかどうか自分で判断しなければならなくなる.実際,EUの遵守措置(13)13) EUR-Lex: REGULATION (EU) No511/2014 OF THE EUROPEAN PARLIAMENT AND OF THE COUNCIL of 16 April 2014 on compliance measures for users from the Nagoya Protocol on Access to Genetic Resources and the Fair and Equitable Sharing of Benefits Arising from Their Utilization in the Union, http://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/?uri=CELEX:32014R0511(2015年5月29日アクセス).はそのようになっており,利用者などからは,分類のために遺伝子解析する場合や研究ツールとして遺伝資源を利用する場合,遵守措置の対象となるのかなど,どこまでが対象か不明確であると懸念の声が上がっている(14)14) EU Commission: Stakeholder consultation on forthcoming Commission implementing measures under Article 5, 7 and 8 of Regulation (EU) No. 511/2014—ABS Regulation,http://ec.europa.eu/environment/nature/biodiversity/international/abs/list_en.htm(2015年5月29日アクセス).

2. 利用国遵守措置の内容

また,日本の利用国遵守措置の内容が,他国と比べ厳しいものとなる恐れがある.これも議定書の問題点が関係してくる.利用国での遺伝資源の利用のモニタリングを規定する第17条では,通常条約などの規定で用いられる“shall”のほか,“would”,“should”,“will”が使い分けられているということを述べた.一方,日本で措置を検討する際には,外務省の仮訳(15)15) 外務省:生物の多様性に関する条約の遺伝資源の取得の機会及びその利用から生ずる利益の公正かつ衡平な配分に関する名古屋議定書,http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/treaty/shomei_72.html(2015年5月29日アクセス).に基づいて検討される.しかし,その仮訳では微妙な使い分けが十分には反映されておらず,すべて“shall”と同じに読めてしまうのである.このため,日本の措置は,利用国遵守措置に対し裁量権があるにもかかわらず,最大限の要件を詰め込んだ措置となってしまう恐れがある.その場合,日本の利用者は,ほかのどの国の利用者よりも多くの負担を強いられることになる.

3. 研究開発が停滞してしまう恐れ

では,日本が批准した場合,研究開発にどのような影響が及ぶ恐れがあるのか,もう少し具体的に見てみよう.

先に述べたように,日本の利用国遵守措置がどのようなものになるのか,具体的にはまだわからない.しかし基本的には,利用者にはPIC取得,MAT設定に関する情報を保持することが求められ,チェックポイントが,何らかの形でそれらの情報を収集することになると思われる.

それらの情報としては,名古屋議定書では「事前の情報に基づく同意(PIC),遺伝資源の出所,相互に合意する条件(MAT)の設定及び/又は遺伝資源の利用についての関連情報」(括弧部分は,筆者が挿入)とされており,たとえばEUの遵守措置では「国際的に認知された遵守証明書に基づく関連情報」となっている.しかしながら,この「国際的に認知された遵守証明書」は,提供国がABS-CHに,その情報を登録することになっており,どの程度スムーズに登録されるのかについては懸念が残る.では,「国際的に認知された遵守証明書」がない場合には,どうなるのであろうか? その場合,EU遵守措置では,以下の情報が求められている.

  • (ⅰ)遺伝資源又は遺伝資源に関連する伝統的知識へのアクセスの年月日及びその場所
  • (ⅱ)利用した遺伝資源又は遺伝資源に関連する伝統的知識の説明
  • (ⅲ)遺伝資源又は遺伝資源に関連する伝統的知識が直接に得られた出所並びに遺伝資源又は遺伝資源に関連する伝統的知識のその後の利用者
  • (ⅳ)アクセスと利益配分に関する権利及び義務の有無.これには,その後の応用及び商業化に関する権利及び義務も含む.
  • (ⅴ)アクセス許可証(該当する場合)
  • (ⅵ)利益配分の取決めを含め,相互に合意する条件(該当する場合)

日本でどのような情報が求められるのかはわからないが,利用者(研究者)は,このような情報を,一つひとつの遺伝資源に対し,求め,保持しておかなければならなくなる.たとえば,微生物や植物サンプルを対象としたスクリーニングを想像してほしい.厖大な情報を求め,保持する必要があり,実際に研究者が対応できるかどうかもわからない.もし,それらの情報が紙に記されたものであれば(MATは,いわゆる契約なので,その可能性が高い),研究室は書類の山に埋もれることになる.また,EU遵守措置では,それらの情報を「利用期間の終了後20年間保存する」こととなっており,そのための仕組みや施設を整備する必要も出てくる.

なお,資料およびその保管ということについては,すでに医薬品等各種GLP(Good Laboratory Practice)制度があるが,それらが開発ステージがかなり進んだ試験に対し適用されるのに対し,この名古屋議定書の下での対応は,学術研究やスクリーニングなどの基礎研究に対しても求められる可能性が高く,学術研究や基礎研究が受ける影響は計り知れない.

また,チェックポイントが,利用者(研究者)が保持している情報を,何らかの方法で収集することになる.日本で,それがどのような制度になるかまだわからないが,たとえば,EUの遵守措置では,「遺伝資源又は遺伝資源に関連する伝統的知識を利用して開発された製品の最終開発段階」に,それらの情報を提出することとなっている.このEUの場合,関連情報の保持は基礎研究の研究者にも求められるが,実際に当局への情報提出が求められるのは「製品の最終開発段階」に達した場合だけである.それに対し,日本では,海外から遺伝資源が移転された時点(最初の段階)で,情報提出が求められることになるかもしれない.その場合には,学術研究や基礎研究の研究者も含め利用者の負担がますます大きくなる.

このように,日本が批准した場合,研究開発にどのような影響が及ぶのかについては,現時点では「もし,こうなったら」という話にならざるをえない.しかし,これまでになかった措置に対応することになるので,研究者の負担が増えることは間違いない.それも,学術研究や基礎研究へのインパクトが大きくなりそうである.そうなると遺伝資源を利用した学術研究や基礎研究が停滞し,その成果を活用した応用開発も止まってしまうことになる.

また,アメリカはCBDを批准しておらず,おそらく名古屋議定書も批准しないと思われる.このため,アメリカの利用者(研究者)は,利用国遵守措置へ対応する必要がなく,その時点で,日本の研究開発はアメリカに対し競争力を失うことになる.この意味においても,日本の研究開発全体が多大な影響を受ける恐れがある.

日本の現状,今後の方向性

1. 国内措置の検討状況

では,実際,日本での国内措置の検討状況はどのようになっているのであろうか.2012年9月に,環境省の下に,日本にふさわしい国内措置のあり方について検討するため,産業界および学術界の有識者を委員とする「名古屋議定書に係る国内措置のあり方検討会」(16)16) 環境省:遺伝資源の取得の機会及びその利用から生ずる利益の公正かつ衡平な配分/名古屋議定書に係る国内措置のあり方検討会,http://www.env.go.jp/nature/biodic/abs/conf01.html(2015年5月29日アクセス).が設置された.このあり方検討会は16回開催され,2014年3月にはその報告書が公表されている.しかし,このあり方検討会の位置づけは,日本の国内措置のあり方(基本方針や方向性)を検討する場であり,国内措置の具体的な内容については検討されなかった.

国内措置の具体的な内容については,あり方検討会の後,関係省庁の作業チームで検討していると聞くが,その内容は公表されていない.ただ,環境省によると「この作業チームでは『遺伝資源』,『遺伝資源の利用』,『名古屋議定書の下での義務』は何か,それらを利用実態に照らし合わせたときにどうなるかなど,議論してきた.しかしながら,『遺伝資源』というものが明確でないので,その利用,名古屋議定書の義務(モニタリング,チェックポイント)といっても,結局『遺伝資源』とは何かに戻ってしまい,詰め切れていないのが現状」とのことである(17)17) 一般財団法人バイオインダストリー協会:環境省との意見交換メモ,http://www.jba.or.jp/pc/activitie/development_base/info/001781.html(2015年5月29日アクセス).

2. 批准の時期

また,批准の時期については,2012年9月に閣議決定された「生物多様性国家戦略2012–2020」(18)18) 環境省:生物多様性国家戦略2012-2020,http://www.env.go.jp/press/files/jp/20763.pdf, p. 113(2015年5月29日アクセス).の中に,「可能な限り早期に名古屋議定書を締結し,遅くとも2015年までに,名古屋議定書に対応する国内措置を実施することを目指す」と書かれている.

ただ,今年の3月に参議院に提出された「名古屋議定書等に関する質問主意書」に対する答弁書(19)19) 参議院:質問主意書,http://www.sangiin.go.jp/japanese/joho1/kousei/syuisyo/189/meisai/m189069.htm(2015年5月29日アクセス).では「名古屋議定書の締結については,『生物多様性国家戦略2012–2020』に基づき,産業界,学術界等の国内関係者の要望を十分踏まえつつ,関係省庁間で検討を行っているところであるが,現時点では具体的な締結時期についてお答えすることは困難である」とされており,具体的な締結時期については,明言されていない.

3. 今後の方向性

このように,日本においても批准に向けた検討が行われているが,名古屋議定書の曖昧さのために検討が難航しているというのが現状のようである.また,名古屋議定書自体も発効はしたが,円滑に機能するまでには,まだまだ時間がかかりそうである.このような状況の下,「名古屋」という日本の都市の名称が付された議定書ではあるが,批准に向けた議論を行うにあたっては,日本は拙速に走るべきではなく,時間をかけて内容を一つひとつ丁寧に検討していくべきであろう.また,その間に,EUでの遵守措置の運用実態なども蓄積されていくであろうから,それを参考とすることもできる.

学術界や産業界の対応

1. 国内措置検討への対応

では,学術界や産業界は,このような状況に対し,どのように対応すればよいであろうか? あり方検討会の報告書(20)20) 環境省:遺伝資源の取得の機会及びその利用から生ずる利益の公正かつ衡平な配分/名古屋議定書に係る国内措置のあり方検討会報告書,p. 29, http://www.env.go.jp/nature/biodic/abs/conf/conf01-rep20140320/01_main.pdf(2015年5月29日アクセス).にも述べられているが,国内措置の検討は,関係する主要な学術分野や産業分野の具体的な課題をイメージできる程度まで遺伝資源などの利用実態を把握したうえで進めるべきである.上記のとおり,あり方検討会以降,国内措置の検討は関係省庁連絡会作業チームで行われてきた.しかし,この作業チームが,影響を受ける学術分野や産業分野の実態を正確に把握することは容易ではない.このため,学術界や産業界は,名古屋議定書を正しく理解したうえで,どの分野がどのような影響を受けるのかを把握し,自ら発信すべきであろう.昨年の10月には,バイオインダストリー協会(JBA)をはじめとする産業界6団体(21)21) 一般財団法人バイオインダストリー協会:生物多様性条約・名古屋議定書に関する要請書,http://www.jba.or.jp/pc/activitie/development_base/info/001553.html(2015年5月29日アクセス).が,今年の2月には,日本農芸化学会と日本生物工学会が連名で,それぞれ名古屋議定書に関する要請書を,関係各大臣宛に提出した.今後も,このような動きが各方面に広がっていかなければならない.

2. ABSへの対応

一方,ABSの2つの基本原則は,名古屋議定書のいかんにかかわらず,遺伝資源利用者が従わなければならない原則であり,利用者は,これまでどおりこの原則に誠実に対応しなければならない.

経済産業省とJBAでは,遺伝資源利用者向けのガイドラインである「遺伝資源へのアクセス手引」(22)22) 一般財団法人バイオインダストリー協会生物資源総合研究所:遺伝資源へのアクセス手引,http://www.mabs.jp/archives/tebiki/index.html(2015年5月29日アクセス).を作成している.このアクセス手引は,ABSの基本原則の下,さまざまな状況で利用者が具体的にどのように対応すればよいのかを示したものである.また,JBAでは,守秘の下,ABSに関する個別の相談(23)23) 一般財団法人バイオインダストリー協会生物資源総合研究所:相談窓口,http://www.mabs.jp/aboutus/contact.html(2015年5月29日アクセス).にも応じている.

3. 組織としての対応

「日本が批准する場合の利用者への影響」の「3. 研究開発が停滞してしまう恐れ」で触れたように,このABSの問題に研究者個人が対応するのには,自ずと限界があるように思われる.このため,ABSの国際的な状況も踏まえれば,今後,企業,大学,研究機関などが組織として体制を整え対応していくことが必須になってくると思われる.そのためには,以下のような取組みが必要である.

  • ・組織内におけるCBDおよび名古屋議定書の内容の周知徹底
  • ・遺伝資源などへのアクセスと利用に関する組織内体制の整備
  • ・取得した遺伝資源などの記録および保存の体制の整備

これらについては,日本の大学の中で九州大学の有体物管理センター(24)24) 九州大学有体物管理センター:http://mmc-u.jp/(2015年6月15日アクセス).が先駆的な取組みを行っており,参考とすることができる.

また,国立遺伝学研究所のABS学術対策チームでは,大学などの学術機関を対象に「大学での生物多様性条約と名古屋議定書実施のための講習会」を開催しており,研究者だけでなく,研究支援や産学連携担当者への啓発にも努めている(25)25) 国立遺伝学研究所ABS学術対策チーム:http://idenshigen.jp/(2015年6月15日アクセス).

日本の利用者や組織は,これらを活用し,ABSへの理解を深め,適切に遺伝資源にアクセスし,利益配分に対応していくよう努めねばならない.

Acknowledgments

本稿で述べた内容は,これまでのJBAのABSに関する活動に基づくものです.JBAのメンバーをはじめとする関係者の皆様に厚く御礼申し上げます.

Note

編集委員後記

生物多様性条約における研究面,安全面,倫理的側面に関する最近の議論については,特に遺伝子組換え技術に関連する話題を中心に,本誌の次号から記事を連載いたします.併せてご覧いただき,生物多様性条約への関心を高めていただけることを期待します.

Reference

1) 公益社団法人日本農芸化学会:生物多様性条約・名古屋議定書に関する要請書,http://www.jsbba.or.jp/info/news/nagoya_protocol.html (2015年5月29日アクセス).

2) 公益社団法人日本生物工学会:生物多様性条約・名古屋議定書に関する要請書,http://www.sbj.or.jp/news/news_20150522-1.html(2015年5月29日アクセス).

3) 井上 歩:日本乳酸菌学会誌,26,22 (2015).

4) CBD事務局: List of Parties,https://www.cbd.int/information/parties.shtml(2015年5月29日アクセス).

5) 外務省:生物の多様性に関する条約,http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/treaty/pdfs/B-H5-0299_1.pdfおよびhttp://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/treaty/pdfs/B-H5-0299_2.pdf(2015年5月29日アクセス).

6) 一般財団法人バイオインダストリー協会生物資源総合研究所:ボン・ガイドライン(2002年9月5日JBA訳),http://www.mabs.jp/archives/bonn/index.html(2015年5月29日アクセス).

7) 一般財団法人バイオインダストリー協会生物資源総合研究所:もうひとつの生物多様性のおはなし-Win-Winな関係(2009),http://www.mabs.jp/archives/pdf/mohitotsu.pdf(2015年5月29日アクセス).

8) 薮崎義康,渡辺順子,野崎恵子,炭田精造:バイオサイエンスとインダストリー,69,162 (2011).

9) 一般財団法人バイオインダストリー協会生物資源総合研究所:名古屋議定書(2011年1月31日JBA仮訳),http://www.mabs.jp/archives/pdf/nagoya_protocol_je_3.pdf(2015年5月29日アクセス).

10) 磯崎博司,炭田精造,渡辺順子,田上麻衣子,安藤勝彦:“生物遺伝資源へのアクセスと利益配分—生物多様性条約の課題—”,信山社,2011, p. 264.

11) CBD事務局:Parties to the Nagoya Protocol, https://www.cbd.int/abs/nagoya-protocol/signatories/default.shtml(2015年5月29日アクセス).

12) CBD事務局:Access and Benefit-sharing Clearing-house, https://absch.cbd.int/(2015年5月29日アクセス).

13) EUR-Lex: REGULATION (EU) No511/2014 OF THE EUROPEAN PARLIAMENT AND OF THE COUNCIL of 16 April 2014 on compliance measures for users from the Nagoya Protocol on Access to Genetic Resources and the Fair and Equitable Sharing of Benefits Arising from Their Utilization in the Union, http://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/?uri=CELEX:32014R0511(2015年5月29日アクセス).

14) EU Commission: Stakeholder consultation on forthcoming Commission implementing measures under Article 5, 7 and 8 of Regulation (EU) No. 511/2014—ABS Regulation,http://ec.europa.eu/environment/nature/biodiversity/international/abs/list_en.htm(2015年5月29日アクセス).

15) 外務省:生物の多様性に関する条約の遺伝資源の取得の機会及びその利用から生ずる利益の公正かつ衡平な配分に関する名古屋議定書,http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/treaty/shomei_72.html(2015年5月29日アクセス).

16) 環境省:遺伝資源の取得の機会及びその利用から生ずる利益の公正かつ衡平な配分/名古屋議定書に係る国内措置のあり方検討会,http://www.env.go.jp/nature/biodic/abs/conf01.html(2015年5月29日アクセス).

17) 一般財団法人バイオインダストリー協会:環境省との意見交換メモ,http://www.jba.or.jp/pc/activitie/development_base/info/001781.html(2015年5月29日アクセス).

18) 環境省:生物多様性国家戦略2012-2020,http://www.env.go.jp/press/files/jp/20763.pdf, p. 113(2015年5月29日アクセス).

19) 参議院:質問主意書,http://www.sangiin.go.jp/japanese/joho1/kousei/syuisyo/189/meisai/m189069.htm(2015年5月29日アクセス).

20) 環境省:遺伝資源の取得の機会及びその利用から生ずる利益の公正かつ衡平な配分/名古屋議定書に係る国内措置のあり方検討会報告書,p. 29, http://www.env.go.jp/nature/biodic/abs/conf/conf01-rep20140320/01_main.pdf(2015年5月29日アクセス).

21) 一般財団法人バイオインダストリー協会:生物多様性条約・名古屋議定書に関する要請書,http://www.jba.or.jp/pc/activitie/development_base/info/001553.html(2015年5月29日アクセス).

22) 一般財団法人バイオインダストリー協会生物資源総合研究所:遺伝資源へのアクセス手引,http://www.mabs.jp/archives/tebiki/index.html(2015年5月29日アクセス).

23) 一般財団法人バイオインダストリー協会生物資源総合研究所:相談窓口,http://www.mabs.jp/aboutus/contact.html(2015年5月29日アクセス).

24) 九州大学有体物管理センター:http://mmc-u.jp/(2015年6月15日アクセス).

25) 国立遺伝学研究所ABS学術対策チーム:http://idenshigen.jp/(2015年6月15日アクセス).

* 「遺伝資源に関連する伝統的知識」は,ABSの重要事項の一つであるが,誌面の都合もあり,本稿では取り上げなかった.