Kagaku to Seibutsu 53(9): 643-644 (2015)
農芸化学@High School
茶葉の成分は製造工程によって変化するのか
Published: 2015-08-20
本研究は,日本農芸化学会2015年度大会(開催地:岡山大学)での「ジュニア農芸化学会」において発表された.茶葉は製造工程を変えることにより緑茶,紅茶,黒茶といったさまざまな製品を作ることができる.本研究は,同じ茶葉を異なる製造工程で加工することにより,製造工程の違いにより加工後のお茶に含まれる成分がどのように変化するかを分析した興味深いものである.
© 2015 Japan Society for Bioscience, Biotechnology, and Agrochemistry
© 2015 公益社団法人日本農芸化学会
お茶の葉からは,製造工程を変えることで,緑茶,紅茶,黒茶を作ることができる.緑茶は生茶→蒸し→もむ→乾燥の工程を経て作られ,これに萎凋と酸化発酵が加わると紅茶に,後発酵と呼ばれる微生物による長期発酵が加わると黒茶となる.そこで同じ畑で摘まれた同品種の茶葉を使用して作られた緑茶,紅茶,黒茶(バタバタ茶)を使用し,その成分を比較することで製造工程の違いによる影響を考察するため実験を行った.本研究を進めるに当たり,文献1~5を参考にした(1~5)1) 久延義弘,末松伸一ほか:東洋食品工業短大・東洋食品研究所研究報告,20, 67 (1994).2) 馬淵良顕:神奈川県立教育センター研究集録,20, 49 (2001).3) 良辺文久,衣笠 仁,竹尾忠一:日本農藝化學會誌,62, 443 (1988).4) 人見英里,磯村裕佳,三浦由紀子:山口県立大学学術情報,5, 57 (2012).5) 木村英生,長沼孝多,小松正和,恩田 匠:山梨県工業技術センター研究報告,20, 101 (2006)..
市販の緑茶(せん茶),紅茶(セイロン茶),黒茶(プーアール茶)のカテキン,カフェイン,光合成色素を抽出し,カテキンはペーパークロマトグラフィおよびTLCで,光合成色素はTLCで物質構成の比較を行い,カフェインは,含有量の比較を行った.効能実験として抽出した粗カテキンを使用し,ルミノール反応阻害実験による抗酸化実験,アンモニアを対象とした消臭実験,落下細菌を対象にした抗菌力試験を行った.
実験1では,試料の市販の産地の違いや生育環境の差などのファクターが多く,お茶による成分の傾向が一概に工程によるとは言い難いと思われたため,富山県下新川郡朝日町にある“なないろKAN”協力のもと,同じ畑で摘まれた茶葉を使った緑茶,紅茶,バタバタ茶を使用し実験を行った.実験2では,実験1の成分に加え,総ポリフェノール量を吸光度によって測定し,遊離アミノ酸をUPLCによって測定,ビタミンC量を滴定により算出した.また,効能実験として,実験1では数値化できなかった抗酸化力をDPPH法で測定した.
実験1:カテキンは,各お茶で粗カテキン量,カテキンの種類構成ともに異なっていた.また同様に光合成色素も,お茶によって色素の成分構成が異なっていることがわかった.これらは,緑茶,紅茶,黒茶の順に構成物質が減っている傾向にあった.カフェインについては,各お茶ともに収量にさほど差が見られないことがわかった.効能実験の結果,カテキンがアンモニアに対し消臭効果があると確認された(図1図1■粗カテキンによるアンモニア消臭).また,ルミノール反応阻害実験により,カテキンと鉄が反応して濃い色に変色した紙片ほど発光しなかったことから,抗酸化力があると考察した.殺菌力についても,今回採取した菌の一部に阻止円を確認することができたため,一部細菌に対して殺菌効果があることがわかった.
実験2:総ポリフェノール量は緑茶が最も多く,紅茶はその7割程度,バタバタ茶にいたってはごく少量しかないことがわかった(表1表1■ポリフェノール量).カテキンの種類構成は,緑茶で3種類,紅茶では2種類,バタバタ茶では1種類と実験1と同様の結果であり,製造工程が複雑化するほど減ることがわかり,カテキンの分子構造が大きいものからなくなる結果となった.このことより,カテキンは分子構造が大きいものほど変化しやすく,製造工程が複雑になるほど減少したのではないかと考察した(表2表2■カテキンの種類構成).光合成色素も実験1と同様にお茶によって色素成分の構成が異なっていることがわかった.なかでもカロテンは壊れやすいと考えられた(表3表3■光合成色素構成).カフェインも実験1と同様の結果となった.カフェインは分子構造的にも安定しており,製造工程による影響は受けないと考えられた.ビタミンCは,どのお茶もごく少量でさほど含有量に差がないように思われた.遊離アミノ酸は,紅茶がアミノ酸の種類や量が緑茶に比べ増加し,バタバタ茶になると激減することがわかった.このことから,遊離アミノ酸は紅茶の工程で増加されるが,バタバタ茶のような微生物を使った発酵では分解され減少するのではないかと考えられた(表4表4■遊離アミノ酸量).
1回目 | 2回目 | 3回目 | 平均 | |
---|---|---|---|---|
緑茶 | 2.162 | 2.290 | 2.345 | 2.416 |
紅茶 | 1.82 | 1.502 | 1.506 | 1.609 |
バタバタ茶 | 0.004 | 0.001 | 0.002 | 0.002 |
緑茶 | 紅茶 | バタバタ茶 | |
---|---|---|---|
エピガロカテキンガレート | ○ | × | × |
エピガロカテキン | ○ | ○ | × |
エピカテキン | ○ | ○ | ○ |
緑茶 | 紅茶 | バタバタ茶 | |
---|---|---|---|
カロテン | ○ | × | × |
クロロフィルa | ○ | ○ | ○ |
クロロフィルb | ○ | ○ | △ |
キサントフィル | ○ | ○ | △ |
緑茶 | 紅茶 | バタバタ茶 | |
---|---|---|---|
アスパラギン酸 | <0.5 | 100 | <0.5 |
グルタミン酸 | 3.7 | 35 | <0.5 |
セリン | <0.5 | 47 | <0.5 |
グルタミン | <0.5 | 37 | <0.5 |
γ–アミノ酪酸 | <0.5 | 58 | <0.5 |
アルギニン | <0.5 | 47 | <0.5 |
テアニン | 34 | 300 | <0.5 |
抗酸化能実験では,数値的にも抗酸化力は緑茶が最も高く,紅茶はその2/3程度であり,バタバタ茶にはあまり抗酸化力がないことがわかった.このことは,総ポリフェノール量に比例する結果となり,緑茶の抗酸化力はポリフェノールに起因するものと考えられた(図2図2■DPPHラジカル消去能).
各お茶の成分が異なっていることは知られていたが,本研究のように同じロットで作られた原料のお茶を比較することにより,製造工程が成分に影響を及ぼすのかが示唆された.今後は工程で加わる酸化や発酵などがどう成分の分子構造に作用するのかという化学的アプローチで実験を進めていきたい.
(文責「化学と生物」編集委員)
Reference
1) 久延義弘,末松伸一ほか:東洋食品工業短大・東洋食品研究所研究報告,20, 67 (1994).
2) 馬淵良顕:神奈川県立教育センター研究集録,20, 49 (2001).
3) 良辺文久,衣笠 仁,竹尾忠一:日本農藝化學會誌,62, 443 (1988).
4) 人見英里,磯村裕佳,三浦由紀子:山口県立大学学術情報,5, 57 (2012).
5) 木村英生,長沼孝多,小松正和,恩田 匠:山梨県工業技術センター研究報告,20, 101 (2006).