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微生物による長鎖n-アルカンの新規サブターミナル酸化経路微細藻Prototheca zopfiin-ヘキサデカンのサブターミナル酸化

Eiji Sakuradani

櫻谷 英治

徳島大学大学院ソシオテクノサイエンス研究部 ◇ 〒770-8506 徳島県徳島市南常三島町二丁目1番地

Institute of Technology and Science, The University of Tokushima ◇ 2-1 Minami-Josanjima-cho, Tokushima-shi, Tokushima 770-8506, Japan

Published: 2015-09-20

一部のバクテリア,酵母は,直鎖炭化水素鎖(n-アルカン)を炭素源として利用し生育することが可能である.そのなかでも,n-アルカン資化性酵母については研究が進んでおり,Candida属のCandida maltosaCandida tropicalisや,Yarrowia lipolyticaなどのn-アルカン資化経路がよく知られている(1)1) 小暮高久,角田 徹,飯田敏也,太田明徳,高木正道:化学と生物,38, 693 (2000)..これらの微生物は図1図1■n-アルカンのターミナル酸化とサブターミナル酸化経路のターミナル酸化経路でn-アルカンの末端をチトクロームP450またはアルカン1-モノオキシゲナーゼと呼ばれる酵素によりn-アルカンの末端を酸化し1級アルコールへ,さらに,アルコールデヒドロゲナーゼによりアルデヒドへ,アルデヒドデヒドロゲナーゼにより脂肪酸へと酸化する.生成した脂肪酸をβ酸化系により代謝することでエネルギーを獲得すると考えられる.さらに,C. maltosaCorynebacterium sp.においては,n-アルカンが脂肪酸へと酸化された後,脂肪酸は脂肪酸モノオキシゲナーゼによりω位が酸化され,最終的にジカルボン酸へと変換されることもわかっている(2)2) J. B. Beilen, Z. Li, W. A. Duetz, T. H. M. Smits & B. Wiitholt: Oil Gas Sci. Technol., 58, 427 (2003)..多くの糸状菌においてもn-アルカンが資化されることがわかっており,中でも油脂蓄積性糸状菌Mortierella alpinaは炭素源として培地に添加されたn-アルカンを効率良く脂肪酸へと変換し,生成した脂肪酸を貯蔵脂質として菌体内に蓄積する(3)3) S. Shimizu, H. Kawashima, K. Akimoto, Y. Shinmen & H. Yamada: J. Am. Oil Chem. Soc., 68, 254 (1991).

図1■n-アルカンのターミナル酸化とサブターミナル酸化経路

ターミナル酸化経路において,n-アルカンは最終的に脂肪酸へと変換されβ酸化経路へと流入する.一方,サブターミナル酸化経路において,n-アルカンは2級アルコール,ケトンへと酸化された後,バイヤビリガーモノオキシゲナーゼによりエステルへ変換されると推測される.

微生物によるn-アルカンの資化経路はターミナル酸化経路が主流であるが,一部の微生物においてサブターミナル酸化経路(図1図1■n-アルカンのターミナル酸化とサブターミナル酸化経路)の存在が示唆された.Pseudomonas aeruginosan-デカンを,Penicillium sp.はn-テトラデカンを,Rhodococcus sp.はn-ヘキサデカンをサブターミナル酸化で資化することが報告された(2)2) J. B. Beilen, Z. Li, W. A. Duetz, T. H. M. Smits & B. Wiitholt: Oil Gas Sci. Technol., 58, 427 (2003)..しかし,これら微生物の長鎖n-アルカンのサブターミナル酸化活性は低く,変換される酸化化合物は微量であった.n-アルカンのサブターミナル酸化にかかわる酵素群には未解明な点が多く,特にn-アルカンを最初に酸化するサブターミナルアルカンモノオキシゲナーゼについては報告されていない.酸化代謝物の同定により,n-アルカンはサブターミナルアルカンモノオキシゲナーゼにより2級アルコールへ,続いてアルコールデヒドロゲナーゼによりケトンへ,バイヤビリガーモノオキシゲナーゼによりエステルへ,エステラーゼにより1級アルコールと脂肪酸へと順に変換されると推測された(図1図1■n-アルカンのターミナル酸化とサブターミナル酸化経路).

n-アルカンを資化する微生物の中でも,光合成能を持たない微細藻類であるPrototheca属はn-アルカン分解能が極めて高いことが知られていた(4)4) J. D. Walker, R. R. Colwell, Z. Vaituzis & S. A. Meyer: Nature, 254, 423 (1975)..しかしながら,どのような代謝経路でn-アルカンを分解し利用しているかは不明であった.筆者らは,数種のPrototheca属のn-ヘキサデカン資化能を調べたところPrototheca zopfiiの資化能が高いことを確認した.特に,P. zopfii JCM9400とP. zopfii NBRC6998はn-ヘキサデカンの分解能が高いことと,ガスクロマトグラム上での代謝産物のパターンがやや異なることを見いだした.すなわち,n-ヘキサデカンを炭素源として培養すると,P. zopfii JCM9400では5-ヘキサデカノンが,P. zopfii NBRC6998では5-ヘキサデカノールが主要な代謝中間体として同定された(5)5) E. Sakuradani, Y. Natsume, Y. Takimura, J. Ogawa & S. Shimizu: J. Biosci. Biotechnol., 116, 472 (2013)..さらに,微量代謝中間体を同定した結果,ペンタン酸ウンデシルエステルと1-ウンデカノールを同定した.これら代謝中間体の同定により,n-ヘキサデカンを炭素源としてP. zopfiiを培養すると図2図2■Prototheca zopfii JCM9400のn-ヘキサデカン代謝経路のような5位を酸化するサブターミナル酸化経路でn-ヘキサデカンが速やかに分解されると予想した.

図2■Prototheca zopfii JCM9400のn-ヘキサデカン代謝経路

P. zopfii JCM9400はn-ヘキサデカンの5位を酸化するサブターミナル酸化経路をもつと考えられる.

さらに,炭素鎖長が11~17のn-アルカンを炭素源としてP. zopfii JCM9400を培養するとそれらを速やかに分解し,その主要な代謝中間体はそれぞれ5位が酸化されたケトンであった.また,生成量は少ないものの2位,3位,4位が酸化されたケトンも検出されたが,末端が酸化された代謝中間体は検出されなかった(6)6) Y. Takimura, E. Sakuradani, Y. Natsume, T. Miyake, J. Ogawa & S. Shimizu: J. Biosci. Biotechnol., 117, 275 (2014).P. zopfii JCM9400の脂肪酸組成は,炭素鎖長16または18の飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸で構成されており,炭素鎖長15や17の奇数鎖脂肪酸を含んでいない.もしP. zopfii JCM9400にn-アルカンの末端酸化にかかわるアルカン1-モノオキシゲナーゼ活性が存在すれば,奇数鎖n-アルカンであるペンタデカンを炭素源とした場合ペンタデカン酸が生成すると予想された.実際には,菌体の脂肪酸組成を分析したところペンタデカン酸や奇数鎖脂肪酸を検出することができなかったことから,P. zopfii JCM9400はn-アルカンの末端酸化にかかわるアルカン1-モノオキシゲナーゼ活性を有していないことが示唆された.一方,奇数鎖1級アルコールである1-ペンタデカノールを添加して培養するとペンタデカン酸が検出されたことから1級アルコールを脂肪酸へ酸化するアルコール(およびアルデヒド)デヒドロゲナーゼ活性は有していることがわかった.

n-アルカン資化性酵母は,n-アルカン酸化系で初発酸化を担うチトクロームP450や脂肪酸のβ酸化系の酵素をコードする遺伝子の発現が誘導されることが知られている(1)1) 小暮高久,角田 徹,飯田敏也,太田明徳,高木正道:化学と生物,38, 693 (2000).P. zopfii JCM9400のサブターミナル酸化にかかわる酵素系の情報を得るために,n-アルカンで誘導した菌体と非誘導の菌体の総タンパク質の二次元電気泳動を試みたが顕著な違いを検出することはできなかったことから,P. zopfii JCM9400のサブターミナル酸化にかかわる酵素群は誘導酵素でない可能性が示唆された.

これまで知られている微生物の中でもP. zopfiiは長鎖n-アルカンの高い分解活性を有していると言える.これら代謝にかかわる関連酵素群の中でも酸化系の初発酵素であるサブターミナルアルカンモノオキシゲナーゼが最も重要であると考えられる.これまで酵素・遺伝子レベルで報告がない本酵素の諸性質が解明されれば,新たな脂質変換ツールとして位置選択的な2級アルコールやケトン生産への利用が期待される.

Reference

1) 小暮高久,角田 徹,飯田敏也,太田明徳,高木正道:化学と生物,38, 693 (2000).

2) J. B. Beilen, Z. Li, W. A. Duetz, T. H. M. Smits & B. Wiitholt: Oil Gas Sci. Technol., 58, 427 (2003).

3) S. Shimizu, H. Kawashima, K. Akimoto, Y. Shinmen & H. Yamada: J. Am. Oil Chem. Soc., 68, 254 (1991).

4) J. D. Walker, R. R. Colwell, Z. Vaituzis & S. A. Meyer: Nature, 254, 423 (1975).

5) E. Sakuradani, Y. Natsume, Y. Takimura, J. Ogawa & S. Shimizu: J. Biosci. Biotechnol., 116, 472 (2013).

6) Y. Takimura, E. Sakuradani, Y. Natsume, T. Miyake, J. Ogawa & S. Shimizu: J. Biosci. Biotechnol., 117, 275 (2014).