解説

SNAREによる細胞内膜融合の分子機構再構成アプローチからの発見

Understanding the Molecular Machinery of SNARE-Dependent Membrane Fusion by in vitro Reconstituted Proteoliposomal Systems

Joji Mima

三間 穣治

大阪大学蛋白質研究所蛋白質構造生物学研究部門 ◇ 〒565-0871 大阪府吹田市山田丘3番2号

Division of Protein Structural Biology, Institute for Protein Research, Osaka University ◇ 3-2 Yamadaoka, Suita-shi, Osaka 565-0871, Japan

Published: 2015-09-20

SNAREファミリータンパク質に依存する細胞内膜融合は,単細胞である出芽酵母からヒトを含む高等動物に至るまで,すべての真核細胞において保存された根源的な生体膜反応である.このSNARE依存性膜融合は,真核細胞内におけるさまざまな物質(タンパク質や脂質など)の輸送,所謂メンブレントラフィック(細胞内膜交通)に必要不可欠な過程である.これまで,「生きた細胞」や「単離オルガネラ」を用いた遺伝学・細胞生物学・生化学的研究に加え,人工脂質二重膜リポソームと精製SNAREタンパク質群から構成される再構成プロテオリポソーム系を駆使した研究により,SNARE依存性膜融合の分子機構の理解が大きく進展してきた.

はじめに

SNAREタンパク質(SNAPレセプター:soluble N-ethylmaleimide-sensitive factor attachment protein receptor)に依存する細胞内膜融合の過程は,真核細胞において小胞輸送あるいは細胞内膜交通(メンブレントラフィック),細胞小器官オルガネラの膜形態形成,細胞外受容体のリサイクリングなども含めたエンドサイトーシス過程,ホルモン分泌やシナプス神経伝達物質の放出を含めたエキソサイトーシス過程など,細胞機能に不可欠な多くの重要な生命現象に必須である(1,2)1) R. Jahn & R. H. Scheller: Nat. Rev. Mol. Cell Biol., 7, 631 (2006).2) W. Hong: Biochim. Biophys. Acta, 1744, 493 (2005)..そして,このSNARE依存性細胞内膜融合の分子機構は,単細胞である出芽酵母からヒトを含めた高等動物に至るまで,すべての真核生物で保存されていると考えられている(1,2)1) R. Jahn & R. H. Scheller: Nat. Rev. Mol. Cell Biol., 7, 631 (2006).2) W. Hong: Biochim. Biophys. Acta, 1744, 493 (2005)..メンブレントラフィック研究の黎明期から現在まで,輸送小胞やオルガネラの膜形態の異常を指標とする変異株スクリーニングなどの細胞生物学的・遺伝学的研究,そして,生細胞を破砕して単離精製したオルガネラを材料とした生化学的研究・生化学アッセイなどによる研究成果から,本解説の主題であるSNAREタンパク質をはじめ,細胞内膜融合に関与するさまざまな分子群が同定されてきた(3,4)3) J. S. Bonifacino & B. S. Glick: Cell, 116, 153 (2004).4) W. Wickner & R. Schekman: Nat. Struct. Mol. Biol., 15, 658 (2008).表1, 2表1■出芽酵母Saccharomyces cerevisiaeの全SNAREファミリータンパク質表2■液胞(リソソーム)膜融合およびシナプス小胞膜融合に関与する主要なタンパク質・脂質因子群).

表1■出芽酵母Saccharomyces cerevisiaeの全SNAREファミリータンパク質
SNAREサブファミリーSNAREタンパク質細胞内局在・輸送経路アミノ酸残基SNAREモチーフヒトSNAREホモログ
QaUfe1pER346255–317Syntaxin 18
Sed5pER・ゴルジ340249–311Syntaxin 5
Tlg2p1ゴルジ397244–306Syntaxin 16
Pep12pゴルジ・エンドソーム288195–257Syntaxin 13
Vam3p液胞283190–252Syntaxin 7
Sso1p細胞質膜290190–252Syntaxin 1
Sso2p細胞質膜295194–256Syntaxin 1
QbSec20p2ER383203–265Sec20
Bos1pER・ゴルジ244152–214Membrin
Gos1pER・ゴルジ223135–197GOS-28
Vti1pゴルジ・エンドソーム・液胞217124–186Vti1
Sec9p (Qbc)3細胞質膜651434–496SNAP-23
Spo20p (Qbc)3細胞質膜397179–241SNAP-25/29
QcUse1pER245156–218Use1
Bet1pER・ゴルジ14252–114Bet1
Sft1pゴルジ977–69GS15
Tlg1pゴルジ・エンドソーム224132–194Syntaxin 6
Syn8pエンドソーム255164–228Syntaxin 8
Vam7p4液胞316251–313Syntaxin 8
Sec9p (Qbc)3細胞質膜651588–650SNAP-23
Spo20p (Qbc)3細胞質膜397330–392SNAP-25/29
RSec22pER・ゴルジ214132–192Sec22b
Ykt6p5ゴルジ・エンドソーム・液胞200140–200Ykt6
Snc1pゴルジ・細胞質膜11728–88VAMP1/2
Snc2pゴルジ・エンドソーム・液胞11527–87VAMP1/2
Nyv1p液胞253167–227VAMP7
1 膜貫通ドメインのC末端側に特徴的な59残基の可溶性領域をもつ.2 膜貫通ドメインのC末端側に特徴的な91残基の可溶性領域をもつ.3 Qb-およびQc-SNAREモチーフの2つのSNAREモチーフをもつQbc-SNAREファミリー.4 膜貫通ドメインをもたず,N末端ドメインとしてホスホイノシチドPI(3)P結合能を有するPXドメインをもつ.5 膜貫通ドメインをもたず,代わりにC末端に脂質アンカーをもつ.
表2■液胞(リソソーム)膜融合およびシナプス小胞膜融合に関与する主要なタンパク質・脂質因子群
膜融合過程Qa-, Qb-, Qc-, RSNARESNAREシャペロンRab GTPaseテザリング因子・Rabエフェクター特異的脂質因子
液胞–液胞Vam3p (Qa)Sec17pYpt7pHOPSPI(3)P
Vti1p (Qb)Sec18pVam7p (Qc)?PI(4,5)P2
Vam7p (Qc)Vps33p1DAG6
Nyv1p (R)HOPS2Ergosterol
シナプス小胞–シナプス前膜Syntaxin 1a (Qa)α-SNAPRab3?Synaptotagmin?PI(4,5)P2
SNAP-25 (Qbc)NSFMunc13?Cholesterol
VAMP2 (R)Munc183
Synaptotagmin4
Complexin4
Munc135
1 Sec1/Munc18ファミリータンパク質,HOPSサブユニット.2 Vps11p,Vps16p,Vps18p,Vps33p,Vps39p,Vps41pから構成されるヘテロ6量体のタンパク質複合体.3 Sec1/Munc18ファミリータンパク質.4 カルシウム依存性段階に関与する.5 Munc18と協調的に機能する.6 ジアシルグリセロール.

さらに,近年の細胞内膜融合の研究においては,上記の膜融合過程に関与する遺伝子・タンパク質因子群のスクリーニング法の確立,それらの探索,そして同定という段階から,多種多様な膜融合タンパク質因子群と脂質因子群が協調的に織りなす,細胞内膜融合マシナリーの動作原理の解明に向けて進展している.しかしながら,従来からメンブレントラフィック研究で主たる実験対象・手法である,「生きた細胞」や「生細胞から単離精製したオルガネラ」を用いた細胞生物学的・遺伝学的・生化学的研究だけでは,さまざまな膜タンパク質群と脂質群から構成される,複雑な膜融合マシナリーを解き明かすのは非常に困難であることは明白であった.

そのなか,James Rothman(2013年,小胞輸送の分子機構にかかわる功績によりノーベル医学・生理学賞授賞)のグループは,シナプス神経伝達におけるシナプス小胞膜とシナプス前膜との膜融合に必須のSNAREタンパク質3種類と人工脂質二重膜リポソームから,シナプスSNAREプロテオリポソームのin vitro完全再構成に挑戦した(1)1) R. Jahn & R. H. Scheller: Nat. Rev. Mol. Cell Biol., 7, 631 (2006)..そして1998年にRothmanらは,調製した再構成SNAREプロテオリポソームが,膜融合に関与するほかのタンパク質因子群が存在していなくとも,自発的に膜融合を引き起こすことを世界で初めて実験的に示した(5)5) T. Weber, B. V. Zemelman, J. A. McNew, B. Westermann, M. Gmachl, F. Parlati, T. H. Sollner & J. A. Rothman: Cell, 92, 759 (1998).

SNAREタンパク質の発見,機能,構造

1980年代後半から90年代前半にかけて,Rothmanらは,動物細胞より単離精製したゴルジ体膜画分を実験材料に構築したin vitroゴルジ層間輸送アッセイを駆使して,細胞内膜融合に関与するタンパク質因子群の同定に次々と成功した.まず,ゴルジ輸送アッセイの活性化因子としてATPアーゼであるNSF(N-ethylmaleimide-Sensitive Factor,出芽酵母ホモログはSec18p)を細胞質画分(サイトゾル)から単離・同定し,続いてNSFに結合するアダプタータンパク質としてα-SNAP(Soluble NSF Attachment Protein,出芽酵母ホモログはSec17p)を同定した(1)1) R. Jahn & R. H. Scheller: Nat. Rev. Mol. Cell Biol., 7, 631 (2006)..しかしながら,NSFとα-SNAPはともに膜貫通ドメインをもたない可溶性タンパク質であることから,NSF/α-SNAPが膜ドッキングや膜融合の過程で機能するためには,それらが結合する特異的なレセプターとなる膜タンパク質が膜上に存在するはずである.そして,1993年にRothmanらは,NSF/α-SNAPがATP加水分解に依存して結合・解離する3種類のタンパク質(Syntaxin 1, SNAP-25, VAMP2),つまりはSNAPレセプターとしてSNARE(SNAP REceptor)を,ウシ脳抽出物からアフィニティー精製法により単離・同定することに成功した(6)6) T. Sollner, S. W. Whiteherart, M. Brunner, H. Erdjument-Bromage, S. Geromanos, P. Tempst & J. E. Rothman: Nature, 362, 318 (1993).表1表1■出芽酵母Saccharomyces cerevisiaeの全SNAREファミリータンパク質).このときに発見されたSNAREが,一つ(VAMP2)はシナプス小胞に局在し,ほかの2つのもの(Syntaxin 1, SNAP-25)はシナプス前膜(細胞質膜)に局在することから,NSF/α-SNAPそしてSNAREを必要とする細胞内膜融合マシナリーは,通常の膜交通(ゴルジ層間小胞輸送など)と高度に制御された膜交通(シナプス神経伝達物質の放出など)に共通する普遍的な機構であることが示唆された(6)6) T. Sollner, S. W. Whiteherart, M. Brunner, H. Erdjument-Bromage, S. Geromanos, P. Tempst & J. E. Rothman: Nature, 362, 318 (1993)..その後,これらシナプスSNAREと高い配列相同性を示すタンパク質群が,高等動物のみならず植物,出芽酵母を含めたすべての真核生物で次々と発見され,SNAREファミリータンパク質が,細胞内膜融合そして細胞内膜交通(メンブレントラフィック)において必須かつ中心的因子であることが確固たるものとなった(1,2)1) R. Jahn & R. H. Scheller: Nat. Rev. Mol. Cell Biol., 7, 631 (2006).2) W. Hong: Biochim. Biophys. Acta, 1744, 493 (2005).

すべてのSNAREファミリータンパク質は,60から70残基からなる「SNAREモチーフ」を細胞質側にもち,そしてSNAREモチーフの中心(the ‘0’ layerと定義される)に,非常に高度に保存されたグルタミン残基(Gln, Q)あるいはアルギニン残基(Arg, R)が存在する(1)1) R. Jahn & R. H. Scheller: Nat. Rev. Mol. Cell Biol., 7, 631 (2006).図1図1■SNAREのドメイン構造).これらの保存アミノ酸残基をもとに,SNAREファミリーはさらにQa-SNARE,Qb-SNARE,Qc-SNARE,そしてR-SNAREの4つのSNAREサブファミリーに分類される(1)1) R. Jahn & R. H. Scheller: Nat. Rev. Mol. Cell Biol., 7, 631 (2006).表1表1■出芽酵母Saccharomyces cerevisiaeの全SNAREファミリータンパク質).大部分のSNAREは,SNAREモチーフのC末端側に1回膜貫通型の膜貫通ドメインを,SNAREモチーフのN末端側には個々のSNAREに特徴的な可溶性N末端ドメインをもつ(図1図1■SNAREのドメイン構造).SNAREファミリーは,たとえば単細胞の出芽酵母では24種類,高等動物のヒトでは36種類が存在し,各SNAREタンパク質は特異的な細胞内膜画分(小胞体ER,ゴルジ体,エンドソーム,液胞・リソソームなどのオルガネラ,分泌小胞,細胞質膜など)に局在するとともに,それぞれ特定の細胞内輸送経路における膜融合の過程で機能する(1)1) R. Jahn & R. H. Scheller: Nat. Rev. Mol. Cell Biol., 7, 631 (2006).表1表1■出芽酵母Saccharomyces cerevisiaeの全SNAREファミリータンパク質).また,SNAREタンパク質は,Qa-,Qb-,Qc-,R-SNAREモチーフを各一つずつ含む構成でQabcR-SNARE複合体を形成する(図2図2■“cis”-SNARE複合体と“trans”-SNARE複合体).単一の脂質二重膜上,あるいは(実験における)界面活性剤を含む溶液中では,このSNARE複合体はcis-SNARE複合体と称され,自発的かつ迅速にSNARE 4量体を形成する.cis-SNARE複合体は非常に安定で膜融合を引き起こさない不活性型であり,その再解離にはNSF/α-SNAP(Sec18p/Sec17p)を必要とする(1)1) R. Jahn & R. H. Scheller: Nat. Rev. Mol. Cell Biol., 7, 631 (2006)..一方,trans-SNARE複合体は,2つの脂質二重膜の間を橋渡しするように形成されるQabcR-SNARE複合体であり,その形成は膜ドッキング・膜融合の効率性や特異性を決定する非常に重要なプロセスである(4)4) W. Wickner & R. Schekman: Nat. Struct. Mol. Biol., 15, 658 (2008)..後述のように,当初はtrans-SNARE複合体も,SNARE単独で自発的に形成して膜ドッキング・膜融合に至ると考えられてきたが(5)5) T. Weber, B. V. Zemelman, J. A. McNew, B. Westermann, M. Gmachl, F. Parlati, T. H. Sollner & J. A. Rothman: Cell, 92, 759 (1998).,後にSNAREシャペロンをはじめとするほかの因子群のtrans-SNARE複合体形成における重要性も次々と明らかとなり,現在も議論が続いている状況である(4,7,8)4) W. Wickner & R. Schekman: Nat. Struct. Mol. Biol., 15, 658 (2008).7) W. Wickner: Annu. Rev. Cell Dev. Biol., 26, 115 (2010).8) J. Rizo & T. C. Sudhof: Annu. Rev. Cell Dev. Biol., 28, 279 (2012).図2図2■“cis”-SNARE複合体と“trans”-SNARE複合体, 表2表2■液胞(リソソーム)膜融合およびシナプス小胞膜融合に関与する主要なタンパク質・脂質因子群).

図1■SNAREのドメイン構造

SNAREモチーフの中心(the ‘0’ layerと定義される)に位置し,かつ高度に保存されたGln(Q)残基とArg(R)残基をもとに,すべてのSNAREファミリータンパク質はQa-,Qb-,Qc-,R-SNAREの4つのSNAREサブファミリーに分類される.SNAREモチーフのN末端側には,各SNAREタンパク質に特徴的な多様性に富むN末端ドメインがある一方,SNAREモチーフのC末端側には膜貫通ドメイン(ほとんどの場合,1回膜貫通型)が存在する.一部のQc-SNAREとR-SNAREでは,N末端ドメインあるいは膜貫通ドメインをもたないものもある.また,Qbc-SNAREファミリー(表1表1■出芽酵母Saccharomyces cerevisiaeの全SNAREファミリータンパク質:Sec9p,Spo20p,SNAP-23/25/29など)には,膜貫通ドメインは存在せず,Qb-SNAREモチーフとQc-SNAREの間のリンカー領域が脂質修飾を受け,それを介して膜にアンカーされる.

図2■“cis”-SNARE複合体と“trans”-SNARE複合体

(A)cis-SNARE複合体.単一の膜上あるいは界面活性剤を含む溶液中などで形成されるSNARE複合体(cis-QabcR-SNARE複合体).Qa-,Qb-,Qc-,R-SNAREタンパク質がそろえば,自発的かつ迅速に形成される.SNAREシャペロンの一つである,α-SNAP(Sec17p)とATPアーゼNSF(Sec18p)が,ATP加水分解を伴ってcis-SNARE複合体を個々のQ-およびR-SNAREタンパク質へと解離させる.(B)trans-SNARE複合体.膜ドッキング・膜融合に至る過程で,2つの膜の間を橋渡しするように形成されるSNARE複合体(trans-QabcR-SNARE複合体).一般的に,片方の膜に3つのQ-SNARE(Qa-, Qb-, Qc-)タンパク質,もう片方の膜にR-SNAREタンパク質というペアの場合に選択的にtrans-SNARE複合体が形成されると考えられている.当初は,SNAREタンパク質だけでも自発的に2つの膜の間でtrans複合体へと会合すると考えられていた(SNAREが膜融合の最小マシナリーであるという説).しかし現在では,多くの膜融合過程において,SNAREシャペロン(Sec1/Munc18ファミリータンパク質など),テザリング因子,Rab GTPaseとRabエフェクタータンパク質など,ほかのさまざまな因子群の機能が,trans-QabcR-SNARE複合体形成に必須であることが明らかになってきている.

SNAREタンパク質は細胞内膜融合の最小マシナリーであるのか?

SNAREファミリータンパク質は,1990年代初頭にウシ脳抽出物から発見・精製されて以来,生化学,遺伝学,細胞生物学のさまざまな研究手法によって,細胞内膜融合の過程に必要不可欠であることが実証されてきた(1,2)1) R. Jahn & R. H. Scheller: Nat. Rev. Mol. Cell Biol., 7, 631 (2006).2) W. Hong: Biochim. Biophys. Acta, 1744, 493 (2005)..そのなか,上述のようにRothmanらは1998年に,精製SNAREタンパク質と合成脂質から調製した人工脂質二重膜リポソームを材料に,SNARE依存性膜融合をin vitroで再現する再構成SNAREプロテオリポソーム系を構築した(5)5) T. Weber, B. V. Zemelman, J. A. McNew, B. Westermann, M. Gmachl, F. Parlati, T. H. Sollner & J. A. Rothman: Cell, 92, 759 (1998)..シナプス神経伝達物質放出におけるシナプス小胞膜とシナプス前膜との膜融合に必須のSNAREタンパク質である,シナプス前膜のsyntaxin 1(Qa-SNARE)およびSNAP-25(Qbc-SNARE),そしてシナプス小胞膜のVAMP2(R-SNARE)の3種類のシナプスSNAREと,ホスファチジルコリン(PC)とホスファチジルセリン(PS)の2種類のリン脂質から構成されるリポソームを用いて,SNAREプロテオリポソームを再構成した(表2表2■液胞(リソソーム)膜融合およびシナプス小胞膜融合に関与する主要なタンパク質・脂質因子群).Syntaxin 1/SNAP-25を再構成したQabc-SNAREプロテオリポソームとVAMP2を再構成したR-SNAREプロテオリポソームを試験管内で混合させると,自発的にtrans-QabcR-SNARE複合体を形成して膜ドッキングが起こり,続いて膜融合を引き起こした.このシナプスSNARE再構成プロテオリポソーム膜融合の結果から,「SNAREタンパク質は,細胞内の特異的・選択的な膜融合に必要かつ十分であり,つまりは細胞内膜融合を駆動する最小マシナリーである」と提唱された(5)5) T. Weber, B. V. Zemelman, J. A. McNew, B. Westermann, M. Gmachl, F. Parlati, T. H. Sollner & J. A. Rothman: Cell, 92, 759 (1998).

しかしその一方で,このRothmanらによる再構成SNAREプロテオリポソーム膜融合の結果に対しては,①細胞内のオルガネラ膜とは大きく異なる非常に高いSNARE密度を使用している(高SNARE密度により融合前からリポソームの脂質二重膜が不安定な状態となる可能性がある),②膜融合反応の速度が非常に遅い(たとえば,シナプス神経伝達物質放出ではミリ秒単位で膜融合が起こると考えられている),③オルガネラ膜や細胞質膜と大きく異なる脂質組成を使用している(多くの場合,PC/PSなどの単純で非生理的な脂質組成が使用されてきた),④SNAREシャペロン,Rab GTPase,テザリング因子などSNAREタンパク質以外の重要な膜融合因子が再構成系に含まれていないなど,その限界や課題が数多く指摘されてきた(4,7,8)4) W. Wickner & R. Schekman: Nat. Struct. Mol. Biol., 15, 658 (2008).7) W. Wickner: Annu. Rev. Cell Dev. Biol., 26, 115 (2010).8) J. Rizo & T. C. Sudhof: Annu. Rev. Cell Dev. Biol., 28, 279 (2012)..そのため,SNARE再構成プロテオリポソーム膜融合の実験系から得られたさまざまな結果が,どれほど本来の細胞内の膜融合と相関があるのかについては多くの議論があり,それらの結果の解釈は慎重に行う必要がある.

酵母液胞(リソソーム)をモデルとしたオルガネラ膜融合研究

出芽酵母オルガネラの一つである液胞は,動物細胞のリソソームに相当するオルガネラであるが,細胞周期や細胞の生育環境に応じて,その液胞オルガネラ膜は融合や分裂を繰り返し,細胞内における形態や数をダイナミックに変化させる(7)7) W. Wickner: Annu. Rev. Cell Dev. Biol., 26, 115 (2010)..William Wicknerらは1990年代より,この酵母由来のオルガネラ,液胞をモデルとして細胞内膜融合の分子機構の研究を進め,多くの成果を上げてきた(4,7)4) W. Wickner & R. Schekman: Nat. Struct. Mol. Biol., 15, 658 (2008).7) W. Wickner: Annu. Rev. Cell Dev. Biol., 26, 115 (2010)..酵母細胞を破砕後,生化学的なオルガネラ分画法により単離精製した液胞を材料に,in vitroオルガネラ膜融合アッセイを確立,それを駆使することで,さまざまなタンパク質因子群・脂質因子群がこのオルガネラ膜融合に必須であることを示してきた.タンパク質因子としては,液胞膜に局在する4種類のSNAREタンパク質である,Vam3p(Qa-SNARE),Vti1p(Qb-SNARE),Vam7p(Qc-SNARE),Nyv1p(R-SNARE),3種類のSNAREシャペロンである,Sec17p(α-SNAPホモログ),Sec18p(NSFホモログ),HOPS複合体(HOmotypic fusion and vacuole Protein Sorting complex),そして1種類のRab GTPアーゼYpt7pが同定された.脂質因子としては,酵母由来ステロールであるエルゴステロール,ジアシルグリセロール,そして2種類のホスホイノシチド,PI(3)PとPI(4,5)P2,が同定された(表2表2■液胞(リソソーム)膜融合およびシナプス小胞膜融合に関与する主要なタンパク質・脂質因子群).これらのタンパク質因子群と脂質因子群の間には,①QabcR-SNARE複合体(cis-SNAREおよびtrans-SNARE複合体,図2図2■“cis”-SNARE複合体と“trans”-SNARE複合体),②Vam7p–PI(3)P結合,③HOPS–Vam3p結合,④HOPS–Vam7p結合,⑤HOPS–QabcR-SNARE複合体,⑥HOPS–ホスホイノシチド結合,⑦HOPS–Ypt7p結合,⑧QabcR-SNARE複合体–Sec17p/Sec18p結合など,多様な結合様式が存在することも報告されてきた(7)7) W. Wickner: Annu. Rev. Cell Dev. Biol., 26, 115 (2010).表2表2■液胞(リソソーム)膜融合およびシナプス小胞膜融合に関与する主要なタンパク質・脂質因子群).つまりは,酵母液胞膜をモデルとして用いたオルガネラ膜融合解析では,SNAREファミリータンパク質は細胞内膜融合を引き起こすのに必要十分でなく,SNAREとSNAREシャペロンやホスホイノシチドをはじめとするほかの膜融合因子群との機能的な相互作用ネットワークが,生理的な膜融合を駆動するのに必須であることが示されてきたのである.しかしながら,このin vitro液胞膜融合アッセイをはじめ,生細胞より単離したオルガネラ膜画分を用いた実験アプローチだけでは,これまで同定されてきた個々のタンパク質因子や脂質因子の膜ドッキング・膜融合過程における実際の特異的な機能・役割を含め,細胞内膜融合の複雑な分子マシナリーの詳細を探るには困難があった.

SNARE依存性の液胞オルガネラ膜融合の完全再構成

先述のように,主にシナプス小胞・シナプス前膜のSNAREタンパク質を対象とした再構成SNAREプロテオリポソーム解析,そして液胞融合アッセイをはじめとするin vitroオルガネラ膜融合アッセイで得られた研究成果により,SNARE依存性の細胞内膜融合について多くの知見が蓄積された.一方,これら2つの異なる実験アプローチから導かれた結論には大きな隔たりがあり,また実験手法・実験技術的な観点からもさまざまな課題が指摘されていた.2008年に,Wicknerと筆者らは,これまでin vitro液胞オルガネラ膜融合アッセイで同定した膜融合因子群の成果を基盤に,4種類の液胞局在SNAREの精製タンパク質のみならず,液胞SNAREと協調的に働くSNAREシャペロン群(Sec17p/Sec18pおよびHOPS複合体)の精製タンパク質,そして複雑ではあるが実際の液胞膜を真似た生理的なオルガネラ膜に近い脂質組成を有する,SNARE依存性液胞膜融合の再構成プロテオリポソーム系の構築に成功した(9)9) J. Mima, C. M. Hickey, H. Xu, Y. Jun & W. Wickner: EMBO J., 27, 2031 (2008)..この新しい再構成プロテオリポソーム系のアプローチにより,液胞膜に局在する4つのSNAREタンパク質(Vam3p, Vti1p, Vam7p, Nyv1p)とともに,2つのSNAREシャペロン機構(Sec17p/Sec18p/ATP, HOPS複合体)が液胞オルガネラ膜融合に必要不可欠なコアマシナリーであることを,化学的に純粋な実験系で実証した(表2表2■液胞(リソソーム)膜融合およびシナプス小胞膜融合に関与する主要なタンパク質・脂質因子群).さらに,これらのSNAREシャペロン機構が,従来用いられてきたPC/PSなどの単純で非生理的な脂質組成においては機能せず,その機能発現にはホスホイノシチド(PI(3)P, PI(4,5)P2)を含む複雑であるが生理的な脂質組成が必須であることも明らかにした(9)9) J. Mima, C. M. Hickey, H. Xu, Y. Jun & W. Wickner: EMBO J., 27, 2031 (2008).表2表2■液胞(リソソーム)膜融合およびシナプス小胞膜融合に関与する主要なタンパク質・脂質因子群).現在まで,このQabcR-SNAREタンパク質とSNAREシャペロン機構の両者に依存した,より生理的な再構成プロテオリポソーム膜融合アッセイ系の確立によって,酵母液胞(リソソーム)をモデルとした膜融合研究は,その詳細な分子マシナリーの解明へと進みだしている(10,11)10) J. Mima & W. Wickner: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 106, 16191 (2009).11) J. Mima & W. Wickner: J. Biol. Chem., 284, 27114 (2009)..たとえば具体的には,これまでホスホイノシチドは,可溶性タンパク質の特異的なオルガネラ膜・膜マイクロドメインへの結合の足場となることが主たる機能と考えられてきたが,この再構成プロテオリポソーム膜融合において,ホスホイノシチドが2つのSNAREシャペロン機構(Sec17p/Sec18p/ATP, HOPS複合体)と協調的にtrans-SNARE複合体のアセンブリーやリモデリングを飛躍的に促進することが明らかとなった(10)10) J. Mima & W. Wickner: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 106, 16191 (2009)..つまり,ホスホイノシチドをはじめ特異的な脂質因子群は,タンパク質因子群の単なる足場としてだけではなく,むしろ積極的かつ直接的に膜融合反応を触媒する因子であることが次々と再構成アプローチにより実証されてきている(7)7) W. Wickner: Annu. Rev. Cell Dev. Biol., 26, 115 (2010).

おわりに

1980年代から2000年代初頭における,細胞内膜交通(メンブレントラフィック)研究,そして細胞内膜融合研究の飛躍的な進展により,SNAREファミリータンパク質が膜融合の過程に直接関与するタンパク質として発見され(6)6) T. Sollner, S. W. Whiteherart, M. Brunner, H. Erdjument-Bromage, S. Geromanos, P. Tempst & J. E. Rothman: Nature, 362, 318 (1993).,そしてシナプスSNARE(5)5) T. Weber, B. V. Zemelman, J. A. McNew, B. Westermann, M. Gmachl, F. Parlati, T. H. Sollner & J. A. Rothman: Cell, 92, 759 (1998).や出芽酵母SNARE(12)12) J. A. McNew, F. Parlati, R. Fukuda, R. J. Johnston, K. Paz, F. Paumet, T. H. Söllner & J. E. Rothman: Nature, 407, 153 (2000).をモデルとする再構成SNAREプロテオリポソーム膜融合アッセイ系の構築を経て,「SNAREは,選択的かつ効率的な細胞内膜融合に必須かつ十分であり,膜融合の最小マシナリーである」と提唱されるに至った(1,2)1) R. Jahn & R. H. Scheller: Nat. Rev. Mol. Cell Biol., 7, 631 (2006).2) W. Hong: Biochim. Biophys. Acta, 1744, 493 (2005)..一方で,先述の酵母液胞(リソソーム)膜融合モデルの研究をはじめ,国内外のさまざまな研究室でSNAREファミリー以外の膜融合因子も数多く同定され,それらの重要性も主張されてきたが,このSNARE最小マシナリー説が近年までメンブレントラフィック分野で広く受け入れられてきた.そのなかで2008年のWicknerと筆者らによる,SNARE,SNAREシャペロン,ホスホイノシチドを含む生理的脂質組成を含む液胞融合の再構成プロテオリポソーム系は,SNARE最小マシナリー説の修正を確固たるものとし,液胞オルガネラ膜融合のみならず,真核細胞内のさまざまな細胞内輸送経路・オルガネラ動態にかかわる研究に新たな概念的な進歩をもたらした(9)9) J. Mima, C. M. Hickey, H. Xu, Y. Jun & W. Wickner: EMBO J., 27, 2031 (2008)..その後,SNAREとSNAREシャペロン,ホスホイノシチドに加えて,膜ドッキング・膜融合の前段階である膜テザリング過程(膜繋留:輸送小胞とオルガネラなど,異なる細胞内膜画分が最初に接触する過程であり,膜交通の選択性・特異性の決定に重要な段階)に関与するRab GTPaseを含む再構成プロテオリポソーム系による成果が,ヒトエンドソームと酵母液胞をモデルに相次いで報告されている(13~15)13) T. Ohya, M. Miaczynska, U. Coskun, B. Lommer, A. Runge, D. Drechsel, Y. Kalaidzidis & M. Zerial: Nature, 459, 1091 (2009).14) C. Stroupe, C. M. Hickey, J. Mima, A. S. Burfeind & W. Wickner: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 106, 17626 (2009).15) C. M. Hickey, C. Stroupe & W. Wickner: J. Biol. Chem., 284, 16118 (2009)..また,再構成アプローチによる研究の初期から主なモデルであり,多くの成果が産まれたシナプスSNAREモデルにおいても,シナプスSNAREに対して特異的に機能するSNAREシャペロンやカルシウム結合タンパク質因子群を含む再構成系による新たな知見も報告されてきている(16)16) C. Ma, L. Su, A. B. Seven, Y. Xu & J. Rizo: Science, 339, 421 (2013)..今後も,再構成プロテオリポソーム系アプローチにより,遺伝学的・細胞生物学的アプローチでは見いだせなかった重要な新概念が生み出され,複雑でありながらも厳密に制御された細胞内膜融合の,そして細胞内膜交通の分子機構の全貌が明らかになることを期待している.

Reference

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9) J. Mima, C. M. Hickey, H. Xu, Y. Jun & W. Wickner: EMBO J., 27, 2031 (2008).

10) J. Mima & W. Wickner: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 106, 16191 (2009).

11) J. Mima & W. Wickner: J. Biol. Chem., 284, 27114 (2009).

12) J. A. McNew, F. Parlati, R. Fukuda, R. J. Johnston, K. Paz, F. Paumet, T. H. Söllner & J. E. Rothman: Nature, 407, 153 (2000).

13) T. Ohya, M. Miaczynska, U. Coskun, B. Lommer, A. Runge, D. Drechsel, Y. Kalaidzidis & M. Zerial: Nature, 459, 1091 (2009).

14) C. Stroupe, C. M. Hickey, J. Mima, A. S. Burfeind & W. Wickner: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 106, 17626 (2009).

15) C. M. Hickey, C. Stroupe & W. Wickner: J. Biol. Chem., 284, 16118 (2009).

16) C. Ma, L. Su, A. B. Seven, Y. Xu & J. Rizo: Science, 339, 421 (2013).