テクノロジーイノベーション

免疫調節多糖体を産生する乳酸菌を活用した機能性ヨーグルトの開発

Seiya Makino

牧野 聖也

株式会社明治研究本部食機能科学研究所 ◇ 〒250-0862 神奈川県小田原市成田540番地

Food Science Research Laboratories, R&D Division, Meiji Co., Ltd. ◇ 540 Naruda, Odawara-shi, Kanagawa 250-0862, Japan

Shuji Ikegami

池上 秀二

株式会社明治研究本部食機能科学研究所 ◇ 〒250-0862 神奈川県小田原市成田540番地

Food Science Research Laboratories, R&D Division, Meiji Co., Ltd. ◇ 540 Naruda, Odawara-shi, Kanagawa 250-0862, Japan

Hiroshi Kano

狩野

株式会社明治研究本部食機能科学研究所 ◇ 〒250-0862 神奈川県小田原市成田540番地

Food Science Research Laboratories, R&D Division, Meiji Co., Ltd. ◇ 540 Naruda, Odawara-shi, Kanagawa 250-0862, Japan

Hiroyuki Itoh

伊藤 裕之

株式会社明治研究本部食機能科学研究所 ◇ 〒250-0862 神奈川県小田原市成田540番地

Food Science Research Laboratories, R&D Division, Meiji Co., Ltd. ◇ 540 Naruda, Odawara-shi, Kanagawa 250-0862, Japan

Published: 2015-09-20

はじめに

日本をはじめとする先進国では少子高齢化が急速に進行しており,今後ますます高齢者の健康長寿,子どもの健やかな成長が望まれる.しかしながら,われわれを取り巻く環境にはさまざまな微生物が存在しており,われわれは常に感染症の脅威にさらされている.特に,免疫力が低下した高齢者にとって感染症は非常に深刻な問題であり,たとえばインフルエンザ感染で死亡する人の8割以上が65歳以上の高齢者である.また,2011年には肺炎が日本人の死因の第3位となり,本感染症で死亡した人の96.5%は65歳以上の高齢者であった.一方,子どもにおいても感染症による学級閉鎖や受験シーズンでのインフルエンザ流行は社会的な影響が大きい.このような背景から,毎日手軽に摂取できる食品で免疫力の強化,感染症の予防ができれば大きな社会貢献につながる.ヨーグルトは健康に良い食品として広く受け入れられており,お腹の調子を整えることが代表的な効果とされている.われわれは新たなヨーグルトの健康機能として,乳酸菌が産生する多糖体の免疫調節作用に着目して,免疫力を高める機能性ヨーグルトを開発した.

研究背景

1. ヨーグルト不老長寿説

1900年代のはじめ,免疫の研究でノーベル賞を受賞したイリヤ・メチニコフ(1845~1916)は,ブルガリア旅行中の見聞からヨーグルトが長寿に有用であるという説を唱え,ヨーグルトが世界中に広まるきっかけを作った(1)1) E. Metchnikoff: “The prolongation of life,” William Heinemann, 1907..メチニコフは「腸内細菌のうち有害な働きをする腐敗菌が動脈硬化の原因となる毒性物質を作ることから老化が始まる」と考え,ヨーグルト中のブルガリア菌が腸内で増殖して腐敗菌を抑制するという理論を提唱した.この理論は現在の「プロバイオティクス」の考え方の元になっている.プロバイオティクスとは「十分量を摂取することで宿主の健康に有益な作用をもたらす生きた微生物」であり(2)2) G. Reid, J. Jass, M. T. Sebulsky & J. K. McCormick: Clin. Microbiol. Rev., 16, 658 (2003).,その効果は腸内環境の改善による整腸効果にとどまらず,感染防御,アレルギー緩和,炎症抑制といった免疫調節作用を発揮することが報告されている(3)3) 日本乳酸菌学会編:“乳酸菌とビフィズス菌のサイエンス”,京都大学学術出版会,2010, p. 510..近年,このようなプロバイオティクスを毎日手軽に摂取できる食品として,プロバイオティクスを添加した機能性ヨーグルトが数多く開発されている.われわれはプロバイオティクスの原点であり,メチニコフが不老長寿の妙薬と考えた伝統的なブルガリアヨーグルトについて,不老長寿効果の検証とメカニズムの解明に向けた研究を国内外で推進している(4)4) 浅見幸夫:日本食品免疫学会2014年度大会要旨集,2014, p. 13.

2. 乳酸菌が産生する多糖体の免疫調節作用

伝統的なブルガリアヨーグルトは,ブルガリア菌とサーモフィルス菌の共生作用を利用して製造される.乳酸菌によって乳酸をはじめ,アセトアルデヒドやジアセチルなどの芳香成分が産生されることにより,ヨーグルト特有のさわやかな酸味と風味が生まれる(5)5) 山内邦男,横山健吉編:“ミルク総合事典”,朝倉書店,1992, p. 233..また,ヨーグルトの美味しさにとって重要な要素であるクリーミーな食感やボディー感には,乳酸菌が産生する多糖体が大きな役割を果たしている.

多糖体は植物や海草由来のものを中心に増粘剤や安定剤として加工食品に幅広く活用されており,食品製造においてはなじみ深い成分である.また,多糖体は食品加工用途以外でも,免疫調節作用を有する食品素材としても注目されている.コンブやメカブ,モズクに多く含まれるフコイダン(硫酸化多糖体)には免疫調節作用が報告されている(6,7)6) 大和谷和彦:月刊フードケミカル,17, 77 (2001).7) 土井邦鉱,辻 啓介編:“食物繊維—基礎と臨床—”,朝倉書店,1997, p. 42..キノコ類の免疫調節作用についても,カワラタケの多糖体(クレスチン)やシイタケの多糖体(レンチナン)は抗がん剤としても活用され,1980年代には免疫力を高めることでがんの治療を行う「がん免疫療法」に注目が集まった.

1980年代後半頃からは乳酸菌やその代謝産物の免疫調節作用に関する報告がなされるようになり,1993年には東北大学の研究グループが北欧の粘性発酵乳「Viili」から分離したLactococcus lactis ssp. cremorisが産生するリン酸化多糖体が免疫細胞を活性化することをin vitroの実験で明らかにした(8)8) H. Kitazawa, T. Yamaguchi, M. Miura, T. Saito & T. Itoh: J. Dairy Sci., 76, 1514 (1993)..その後,ヨーグルト由来のブルガリア菌,Lactobacillus delbrueckii ssp. bulgaricus OLL1073R-1(以下1073R-1乳酸菌)が産生する多糖体についても免疫細胞を活性化させることが同研究グループによって報告された(9)9) H. Kitazawa, T. Harata, J. Uemura, T. Saito, T. Kaneko & T. Itoh: Int. J. Food Microbiol., 40, 169 (1998)..これらの知見は,乳酸菌が産生する多糖体がヒトの免疫力に働きかける可能性を示しており,免疫調節作用を有する多糖体をヨーグルトに応用することで,免疫力を高める機能性ヨーグルトを開発できるとわれわれは考えた.

免疫力向上を目的とした新規機能性ヨーグルトの開発

1. ナチュラルキラー(NK)活性に注目

筆者らが研究を開始した2001年当時,乳酸菌が産生する多糖体の免疫調節作用に関する研究は,多糖体をin vitroで免疫細胞に作用させ,細胞の増殖やサイトカインの産生を評価する実験がほとんどであった.しかしながら,このような評価やアプローチでは,実際に生体内でどのような機能を発揮するのかが明確ではなく,また最終的なアウトカムも不明瞭であると考えた.一口に免疫調節作用と言っても,感染防御,アレルギー緩和,自己免疫疾患およびがんの予防など幅が広く,ターゲットとその指標を明確にする必要があった.この時,われわれが注目したのがナチュラルキラー(NK)活性である.NK活性はNK細胞ががん細胞を攻撃・破壊する能力を示す指標である.また,NK細胞はウイルス感染細胞の排除にも働くことから,NK活性を上昇させることはウイルスに対する感染防御においても重要である.実際に,NK活性は20歳頃をピークとして加齢とともに低下するため,高齢者はさまざまな感染症にかかりやすく,また重症化しやすいことが知られている.そこで,NK細胞を活性化させる作用をもつサイトカインであるインターフェロン(IFN)-γの産生誘導活性を指標に,NK活性を上昇させる免疫調節多糖体を産生する乳酸菌の探索を行った(図1図1■スクリーニングの考え方).

図1■スクリーニングの考え方

2. 免疫調節多糖体を産生する乳酸菌の選抜

免疫調節多糖体を産生する乳酸菌であっても,ヨーグルト中での産生量が少ないと効果を発揮させることは難しい.そこで,われわれはまず大量に多糖体を産生するブルガリア菌を探索した.われわれが保有する139株のブルガリア菌について培養物中の多糖体量を測定したところ,ブルガリア菌の多糖体産生量は株によって大きく異なることが明らかとなった.産生量の多い上位10株の培養物から多糖体を精製し,凍結乾燥物の重量を比較することで,最終的に3株を多糖体高産生株として選抜した.

これらのブルガリア菌が産生する多糖体の免疫調節作用を評価するために,多糖体をマウスの脾臓細胞に作用させてIFN-γ産生誘導活性を評価した.その結果,3株の中で1073R-1乳酸菌が産生する多糖体のみがIFN-γ産生誘導活性を発揮した.本多糖体は3つのグルコースと2つのガラクトースからなる基本構造が繰り返し連なった分子量100万以上の高分子であり,リン酸基をもたない中性多糖体とリン酸基をもつ酸性多糖体の混合物である(10)10) J. Uemura, T. Itoh, T. Kaneko & K. Noda: Milchwissenschaft, 53, 443 (1998).図2図2■1073R-1乳酸菌が産生する多糖体).そこで,中性多糖体と酸性多糖体を分画してそれぞれIFN-γ産生誘導活性を評価した.その結果,酸性多糖体が活性成分であることが明らかとなった(11)11) S. Makino, S. Ikegami, H. Kano, T. Sashihara, H. Sugano, H. Horiuchi, T. Saito & M. Oda: J. Dairy Sci., 89, 2873 (2006).

図2■1073R-1乳酸菌が産生する多糖体

3. NK活性増強効果の検証

IFN-γ産生誘導活性を発揮する多糖体が実際に生体のNK活性を上昇させるかどうかを検証するために,多糖体をマウスに経口投与する実験を行った.本実験では,IFN-γ産生誘導活性を保持した高純度の酸性多糖体が大量に必要であった.乳酸菌が産生する多糖体の種類は構成糖や分子量,電荷チャージおよび枝分かれ構造の有無などさまざまであり,精製法についてもこれらの特徴に合わせた方法を検討する必要がある.過去の文献を参考に試行錯誤を重ね,1073R-1乳酸菌の培養物から,エタノール沈殿,陰イオン交換カラムなどを用いてIFN-γ産生誘導活性を保持した酸性多糖体を精製することに成功した.このとき,免疫調節多糖体を大量に精製できたことが,その後の研究を大きく進展させるきっかけとなった.

精製した酸性多糖体を3週間毎日マウスに経口投与した結果,脾臓細胞のNK活性が蒸留水を経口投与したマウスに比べて有意に上昇した.次に,1073R-1乳酸菌とサーモフィルス菌で発酵したヨーグルトを調製し,4週間毎日マウスに経口投与したところ,酸性多糖体単体の投与と同様に脾臓細胞のNK活性が有意に上昇した.一方,ほかの乳酸菌で発酵したヨーグルトには,NK活性を上昇させる効果は認められなかった(11)11) S. Makino, S. Ikegami, H. Kano, T. Sashihara, H. Sugano, H. Horiuchi, T. Saito & M. Oda: J. Dairy Sci., 89, 2873 (2006)..本知見をもとに,1073R-1乳酸菌で発酵したヨーグルトについては,「NK細胞活性化剤」として特許を取得している.上述したように,実際に多糖体やヨーグルトを摂取したマウスのNK活性が上昇することを証明したことで研究が大きく進展し,後の共同研究や商品開発研究につながった.

4. 抗インフルエンザ活性の検証

免疫調節多糖体ならびに1073R-1乳酸菌で発酵したヨーグルトのウイルス感染防御効果を評価するために,インフルエンザウイルス感染モデルを用いて実験を行った.本実験は北里大学の山田陽城名誉教授,永井隆之准教授との共同研究として実施した.ヨーグルト,あるいはヨーグルトに含まれる量と同程度の多糖体を,インフルエンザウイルスを経鼻感染させる21日前から毎日マウスに経口投与した.その結果,ヨーグルトや多糖体を経口投与したマウスでは,生存率の上昇および生存日数の延長が認められた(12)12) T. Nagai, S. Makino, S. Ikegami, H. Itoh & H. Yamada: Int. Immunopharmacol., 11, 2246 (2011)..また,感染4日後に脾臓細胞のNK活性と肺洗浄液中の抗体量,ウイルス量を測定したところ,ヨーグルト投与および多糖体投与ともに,NK活性の上昇と肺洗浄液中のインフルエンザウイルス特異的IgA, IgG1の増加が観察された.本結果を反映するように,これらのマウスでは肺洗浄液中の感染性ウイルス価が減少していた(12)12) T. Nagai, S. Makino, S. Ikegami, H. Itoh & H. Yamada: Int. Immunopharmacol., 11, 2246 (2011)..これらの結果から,1073R-1乳酸菌で発酵したヨーグルトは抗インフルエンザ活性を発揮し,また免疫調節多糖体が重要な役割を果たしていることが示唆された.

5. 1073R-1乳酸菌で発酵したヨーグルトの感染防御効果

2005年3~5月,山形県舟形町に在住する健常高齢者を対象に,1073R-1乳酸菌で発酵したヨーグルトの摂取試験を実施した.本試験では,健常高齢者57名(平均年齢74.5歳)を2群に分け,それぞれヨーグルト摂取群,牛乳摂取群とした.摂取期間は8週間とし,ヨーグルトは90 g,牛乳は100 mLを1日1回摂取していただいた.その結果,被験者を摂取開始前のNK活性で低値のグループ,正常値のグループ,高値のグループに層別化した場合,ヨーグルト摂取群では低値のグループのNK活性がヨーグルト摂取後に有意に上昇した.また,ヨーグルト摂取群では,風邪症候群に対する罹患リスクが牛乳摂取群に比較して低下した(図3図3■風邪症候群への罹患リスク).

図3■風邪症候群への罹患リスク

山形県舟形町で得られた結果について再現性を確認するとともに,より精度の高いデータを得ることを目的に,2006年11月~2007年2月,佐賀県有田町において1073R-1乳酸菌で発酵したヨーグルトの摂取試験を実施した.佐賀県有田町では85名の健常高齢者(平均年齢67.7歳)を対象として,NK活性の変動,風邪症候群への罹患状況について評価した.ヨーグルトの摂取期間については舟形町の8週間から12週間に延長した.その結果,ヨーグルト摂取群では舟形町の試験と同様に,NK活性が低値のグループではヨーグルトの摂取後にNK活性が有意に上昇した.風邪症候群への罹患リスクは,牛乳摂取群に比べてヨーグルト摂取群で低下する傾向が認められた(図3図3■風邪症候群への罹患リスク).次に,舟形町,有田町の試験結果をメタ解析の手法を用いて統合して解析した結果,1073R-1乳酸菌で発酵したヨーグルトの摂取は牛乳摂取に比べて風邪症候群への罹患リスクを有意に低下させることが明らかとなった(13)13) S. Makino, S. Ikegami, A. Kume, H. Horiuchi, H. Sasaki & N. Orii: Br. J. Nutr., 104, 998 (2010).(オッズ比0.39,p=0.019)(図3図3■風邪症候群への罹患リスク).

1073R-1乳酸菌で発酵した機能性ヨーグルトの製品化

1. 製品化までの経緯

1073R-1乳酸菌で発酵したヨーグルトの製品化過程を振り返ると,ヒトを対象とした試験で効果のあった試験食と同等の製品を製造すること,毎日食べても飽きない風味にすること,発売のタイミングが重要であったと考える.機能性に関しては,これまでに実施した試験での多糖体の含有量を基準とし,製造予定の工場で基準値を満たすヨーグルトが生産できることを確認した.また,1073R-1乳酸菌で発酵したヨーグルトは,一般的なヨーグルトに比べて多糖体が多く含まれるため,独特の粘性を有するが,この特徴を活かしつつ毎日食べても飽きない風味になるように商品開発を進めた.

商品化の準備がほぼ整い,後は発売のタイミングである.1073R-1乳酸菌で発酵した新規機能性ヨーグルトの発売は2009年12月であるが,実は前年の2008年にはすでに準備は整っていた.しかしながら,その時点では本当に需要があるのかを疑問視する社内関係者も多く,工場での生産体制を変更してまで上市することには踏み切れなかった.このときは,2009年春に新型インフルエンザによるパンデミックが発生したことが大きな転機となった.当時,世界的に新興感染症が問題となっていたが,わが国において身近な問題として新型インフルエンザがあった.感染症の猛威を背景に,食品を通して健康に貢献したいという筆者らをはじめとする開発者の思いが,新規機能性ヨーグルトの発売を可能にしたと考える.また,新規機能性ヨーグルトの機能性として,NK活性に注目し,ウイルス感染予防をターゲットしてきたことも功を奏した.

2. 発売後の取り組み

1073R-1乳酸菌で発酵したヨーグルトの発売後は,お客さまの健康に貢献するための研究活動を地道に続けている.その一環として,2010年9月~2011年3月には佐賀県有田町の健康増進活動に協力し,飲料タイプの1073R-1乳酸菌で発酵したヨーグルトを町内の全小中学生に学校で毎日配布する活動を行った.さらに,2012年にはインフルエンザワクチンの接種を予定している医学部の男子大学生を対象に,1073R-1乳酸菌で発酵したヨーグルトの飲用がワクチン接種後の抗体価の上昇に与える影響を評価する試験を実施した.この試験では,男子大学生40名を2群に分け,一方には1073R-1乳酸菌で発酵したヨーグルト,もう一方には酸性乳飲料を1日1本(112 mL),冬季休暇の前8週間と後2週間摂取していただいた.また,摂取開始3週間後に被験者全員に3種混合のインフルエンザワクチン(A型H1N1,A型H3N2,B型)を接種した.その結果,インフルエンザA型H3N2に対する抗体価はワクチン接種約8週間後にプラセボ摂取群に比べてヨーグルト摂取群で有意に高値となった.さらに,抗体価の陽転率はA型H1N1ではワクチン接種5週間後,A型H3N2ではワクチン接種1週間後,5週間後,約10週間後にプラセボ摂取群に比べてヨーグルト摂取群で有意に高値となった(14)14) 牧野聖也,池上秀二,狩野 宏,浅見幸夫,伊藤裕之,鈴木良雄,河合祥雄,澤木啓祐,長岡 功,竹田和由ほか:日本食品免疫学会2013年度大会要旨集,2013, p. 30..これらの結果から,1073R-1乳酸菌で発酵したヨーグルトの摂取はインフルエンザワクチンの効果を高める可能性が明らかとなった.

1073R-1乳酸菌で発酵したヨーグルトの推定作用メカニズム

1073R-1乳酸菌で発酵したヨーグルトを食べることで,免疫調節多糖体が腸管から取り込まれ,まず抗原提示細胞である樹状細胞やマクロファージに認識されると考えられる.樹状細胞は体内に侵入した異物を見分け,その情報をほかの免疫細胞に伝えることで必要な免疫応答を誘導する細胞である.免疫調節多糖体は樹状細胞の活性化とインターロイキン(IL)-12といったサイトカインの産生を介して,T細胞やNK細胞からのIFN-γ産生を促進し,最終的にNK活性を上昇させることが想定される.さらに,免疫調節多糖体により樹状細胞が活性化することで,NK活性の上昇だけではなく,ウイルス特異的な抗体の産生が高まると考えている(図4図4■免疫調節多糖体の推定作用メカニズム).

図4■免疫調節多糖体の推定作用メカニズム

おわりに

ヨーグルトの健康効果については,メチニコフのヨーグルト不老長寿説に始まり,現代において整腸作用,免疫調節作用および美肌効果などが明らかにされつつある.われわれは,乳酸菌が産生する多糖体の免疫調節作用に注目して研究を推進し,1073R-1乳酸菌で発酵したヨーグルトを摂取することでNK活性が高まり,風邪やインフルエンザといった風邪症候群への罹患リスクが低下することを明らかにした.また,本ヨーグルトの摂取によりインフルエンザワクチンの効果が高まる可能性が示された.今後,本機能性ヨーグルトがもつ免疫調節作用の更なる可能性を追求するとともに,「ヨーグルト不老長寿説」を科学的に証明することで,究極の「健康長寿ヨーグルト」の開発に挑戦していきたい.

Acknowledgments

免疫調節多糖体,1073R-1乳酸菌で発酵したヨーグルトの抗インフルエンザ活性の評価を実施していただいた北里大学の山田陽城名誉教授,永井隆之准教授に深く感謝申し上げます.

Reference

1) E. Metchnikoff: “The prolongation of life,” William Heinemann, 1907.

2) G. Reid, J. Jass, M. T. Sebulsky & J. K. McCormick: Clin. Microbiol. Rev., 16, 658 (2003).

3) 日本乳酸菌学会編:“乳酸菌とビフィズス菌のサイエンス”,京都大学学術出版会,2010, p. 510.

4) 浅見幸夫:日本食品免疫学会2014年度大会要旨集,2014, p. 13.

5) 山内邦男,横山健吉編:“ミルク総合事典”,朝倉書店,1992, p. 233.

6) 大和谷和彦:月刊フードケミカル,17, 77 (2001).

7) 土井邦鉱,辻 啓介編:“食物繊維—基礎と臨床—”,朝倉書店,1997, p. 42.

8) H. Kitazawa, T. Yamaguchi, M. Miura, T. Saito & T. Itoh: J. Dairy Sci., 76, 1514 (1993).

9) H. Kitazawa, T. Harata, J. Uemura, T. Saito, T. Kaneko & T. Itoh: Int. J. Food Microbiol., 40, 169 (1998).

10) J. Uemura, T. Itoh, T. Kaneko & K. Noda: Milchwissenschaft, 53, 443 (1998).

11) S. Makino, S. Ikegami, H. Kano, T. Sashihara, H. Sugano, H. Horiuchi, T. Saito & M. Oda: J. Dairy Sci., 89, 2873 (2006).

12) T. Nagai, S. Makino, S. Ikegami, H. Itoh & H. Yamada: Int. Immunopharmacol., 11, 2246 (2011).

13) S. Makino, S. Ikegami, A. Kume, H. Horiuchi, H. Sasaki & N. Orii: Br. J. Nutr., 104, 998 (2010).

14) 牧野聖也,池上秀二,狩野 宏,浅見幸夫,伊藤裕之,鈴木良雄,河合祥雄,澤木啓祐,長岡 功,竹田和由ほか:日本食品免疫学会2013年度大会要旨集,2013, p. 30.