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キチンオリゴ糖は受容体のサンドイッチ型ダイマー形成を介して植物免疫を活性化する糖鎖を表と裏から認識するユニークな受容体活性化機構

Hanae Kaku

賀来 華江

明治大学農学部生命科学科 ◇ 〒214-8571 神奈川県川崎市多摩区東三田一丁目1番1号

Department of Life Sciences, School of Agriculture, Meiji University ◇ Higashi-Mita 1-1-1, Tama-ku, Kawasaki-shi, Kanagawa 214-8571, Japan

Naoto Shibuya

渋谷 直人

明治大学農学部生命科学科 ◇ 〒214-8571 神奈川県川崎市多摩区東三田一丁目1番1号

Department of Life Sciences, School of Agriculture, Meiji University ◇ Higashi-Mita 1-1-1, Tama-ku, Kawasaki-shi, Kanagawa 214-8571, Japan

Published: 2015-10-20

菌類の細胞壁由来の代表的なMAMP(Microbe-Associated Molecular Pattern)であるキチンの断片(キチンオリゴ糖)は,イネやシロイヌナズナをはじめとする多くの植物の防御応答を誘導する.また,その受容にかかわる分子として,原形質膜に局在する2種類のlysin motif(LysM)型タンパク質,CEBiP(Chitin Elicitor Binding Protein)とCERK1(Chitin elicitor receptor kinase 1)が同定されている(1)1) 賀来華江,新屋友規,渋谷直人:化学と生物,50, 52 (2012)..イネにおいては,キチンオリゴ糖に特異的に結合するGPIアンカー型タンパク質であるOsCEBiPが,受容体キナーゼ型分子OsCERK1とリガンド依存的に複合体を形成することにより,下流のシグナル伝達系を活性化することが示されている.一方,シロイヌナズナでは,AtCERK1が直接キチンと結合する能力をもつこと,キチンオリゴ糖と結合した細胞外ドメインの結晶構造が報告されていること(2)2) T. Liu, Z. Liu, C. Song, Y. Hu, Z. Han, J. She, F. Fan, J. Wang, C. Jin, J. Chang et al.: Science, 336, 1160 (2012).,OsCEBiPのホモログであるAtCEBiP(LYM2)がキチン応答に関与しないこと(3,4)3) T. Shinya, N. Motoyama, A. Ikeda, M. Wada, K. Kamiya, M. Hayafune, H. Kaku & N. Shibuya: Plant Cell Physiol., 53, 1696 (2012).4) C. Faulkner, E. Petutschnig, Y. Benitez-Alfonso, M. Beck, S. Robatzek, V. Lipka & A. J. Maule: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 110, 9166 (2013).などから,AtCERK1単独でリガンド受容とシグナル伝達を行っていると考えられてきた.しかし最近,シロイヌナズナの別のLysM型受容体キナーゼLYK5が主要なキチン結合分子であり,LYK5とAtCERK1が複合体を形成してシグナル伝達を行っているとするモデルが提唱されており,これらのモデルの妥当性について今後さらなる検討が必要となっている(5)5) Y. Cao, Y. Liang, K. Tanaka, C. T. Nguyen, R. P. Jedrzejczak, A. Joachimiak & G. Stacey: eLife, 10, 7554 (2014).

これまでわれわれはイネ培養細胞を用いた解析から,ある鎖長以上のキチンオリゴ糖(七量体や八量体)がnMオーダーという低濃度で防御応答を誘導すること,またキチンオリゴ糖の脱アセチル体ではこうした応答が消失することを報告してきた(1)1) 賀来華江,新屋友規,渋谷直人:化学と生物,50, 52 (2012)..しかし,これまでのところ,キチンオリゴ糖がどのようにして受容体を活性化しているのか,また,どうして特定のサイズ以上のキチンオリゴ糖が必要なのかについては不明であった.こうした疑問に答えるため,最近われわれはイネキチン受容体であるOsCEBiPとキチンオリゴ糖の相互作用に関して詳細な解析を行った.OsCEBiPの細胞外領域には,キチンとの結合に関与すると推測される3個のLysM構造が存在しているが,これらのLysMをそれぞれ欠失させた分子,あるいは,キチン結合性をもたないシロイヌナズナのCEBiP型分子の対応するLysMと入れ替えた分子を用いた実験の結果,細胞外ドメインの中央部に位置するLysM(LysM1)がキチンの結合に重要であることを見いだした(6)6) M. Hayafunea, R. Berisiob, R. Marchettic, A. Silipoc, M. Kayamaa, Y. Desakia, S. Arimaa, F. Squegliab, A. Ruggierob, K. Tokuyasud et al.: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 111, E404 (2014)..この結果は,シロイヌナズナAtCERK1細胞外ドメインのX線結晶構造に基づくOsCEBiPのモデリングとキチンオリゴ糖とのドッキングシミュレーションによっても支持された.一方,このLysM1を含むOsCEBiPの細胞外ドメインを大腸菌で発現させ,キチンオリゴ糖との相互作用をSTD(Saturation Transfer Difference)-NMRによって解析することにより,エピトープマッピングを行った.その結果,キチン八量体の両端を除く6個のN-アセチルグルコサミン残基のアセチル基が,受容体タンパク質との結合に強く関与することが明らかになった.

キチンは2回らせん構造をとることが知られており,そのN-アセチルグルコサミン残基のアセチル基の配向は隣接する糖残基とは逆向きになっている.このキチンの構造と,ドッキングシミュレーションでLysM1部分に3個のN-アセチルグルコサミン残基が結合していたことを考え合わせると,上記のエピトープマッピングの結果は,1分子のキチンオリゴ糖に2分子のOsCEBiPが両側からサンドイッチ状に結合していることを示唆するものと考えられた(図1a図1■イネキチン防御応答系の活性化機構の概略図).このモデルをさらに確認するため,われわれはグルコサミン残基とN-アセチルグルコサミン残基が交互にβ1,4結合したユニークな八量体(N-NA)4(7)7) K. Tokuyasu, Y. Mori, Y. Kitagawa & K. Hayashi: United States Patent 6,437,107 (1999).を用いた実験を行った.このオリゴ糖では,アセチル基が分子の片側のみに配向するため,上記のモデルではOsCEBiPと相互作用しても二量体形成は誘導できないと考えられる(図1b図1■イネキチン防御応答系の活性化機構の概略図).実際に(N-NA)4は,OsCEBiP細胞外ドメインの二量体形成を誘導せず,また,イネ培養細胞におけるキチン誘導型活性酸素の生成も誘導しなかった.さらに,(N-NA)4は(GlcNAc)8による活性酸素の生成を阻害した(6)6) M. Hayafunea, R. Berisiob, R. Marchettic, A. Silipoc, M. Kayamaa, Y. Desakia, S. Arimaa, F. Squegliab, A. Ruggierob, K. Tokuyasud et al.: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 111, E404 (2014)..これらの結果は,上記のサンドイッチモデルをよく裏づけるものであった.また,このモデルではなぜ七量体や八量体といったサイズのキチンオリゴ糖が強い生物活性を示すのかも理解できる(両端を除く分子内にサンドイッチ型相互作用に必要な数のN-アセチルグルコサミン残基=アセチル基をもっている).実際にはこうしたOsCEBiPの二量体形成が,受容体様キナーゼOsCERK1との受容体複合体形成とシグナル伝達起動につながると想定されるが,この過程の詳細は今後の課題として残されている.キチン受容体を介した植物免疫活性化機構に関しては,最近,イネおよびシロイヌナズナのキチン受容体下流のシグナル伝達機構の解析が精力的に行われ,重要な知見が明らかになりつつある(8,9)8) K. Yamaguchi, K. Yamada, K. Ishikawa, S. Yoshimura, N. Hayashi, K. Uchihashi, N. Ishihama, M. Kishi-Kaboshi, A. Takahashi, S. Tsuge et al.: Cell Host Microbe, 13, 347 (2013).9) T. Shinya, K. Yamaguchi, Y. Desaki, K. Yamada, T. Narisawa, Y. Kobayashi, K. Maeda, M. Suzuki, T. Tanimoto, J. Takeda et al.: Plant J., 79, 56 (2014)..また,AtCERK1/OsCERK1ノックアウト植物を用いた解析から,CERK1がバクテリアの細胞壁由来MAMPであるペプチドグリカンに対する防御応答にも関与すること(10,11)10) R. Willmann, H. M. Lajunen, G. Erbs, M. A. Newman, D. Kolb, K. Tsuda, F. Katagiri, J. Fliegmann, J. J. Bono, J. V. Cullimore et al.: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 108, 19824 (2011).11) Y. Kouzai, S. Mochizuki, K. Nakajima, Y. Desaki, M. Hayafune, H. Miyazaki, N. Yokotani, K. Ozawa, E. Minami, H. Kaku et al.: Mol. Plant Microbe Interact., 27, 975 (2014).,さらに,これらの防御応答と一見相反する菌根菌との共生応答にもOsCERK1が寄与することなどが明らかになっている(12)12) K. Miyata, T. Kozaki, Y. Kouzai, K. Ozawa, K. Ishii, E. Asamizu, Y. Okabe, Y. Umehara, A. Miyamoto, Y. Kobae et al.: Plant Cell Physiol., 55, 1864 (2014)..今後,OsCERK1を含めたLysM受容体がどのように防御および共生応答にかかわるリガンドの認識・受容を行っているのか,また,どのようにして防御と共生という相反する応答系の制御を行っているのかが明らかにされることが期待される.

図1■イネキチン防御応答系の活性化機構の概略図

(a)2分子のOsCEBiPがキチン八量体(GlcNAc)8の両側からサンドイッチ型に結合することにより,受容体キナーゼOsCERK1との複合体が形成され,防御応答シグナル伝達系を起動する.(b)グルコサミン残基とN-アセチルグルコサミン残基が交互にβ1,4結合したユニークな八量体(N-NA)4は,OsCEBiPと結合するが二量体を形成できず,キチン防御応答系を起動することができない.Hayafuneらの論文(6)6) M. Hayafunea, R. Berisiob, R. Marchettic, A. Silipoc, M. Kayamaa, Y. Desakia, S. Arimaa, F. Squegliab, A. Ruggierob, K. Tokuyasud et al.: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 111, E404 (2014).より転用,一部改変.

Reference

1) 賀来華江,新屋友規,渋谷直人:化学と生物,50, 52 (2012).

2) T. Liu, Z. Liu, C. Song, Y. Hu, Z. Han, J. She, F. Fan, J. Wang, C. Jin, J. Chang et al.: Science, 336, 1160 (2012).

3) T. Shinya, N. Motoyama, A. Ikeda, M. Wada, K. Kamiya, M. Hayafune, H. Kaku & N. Shibuya: Plant Cell Physiol., 53, 1696 (2012).

4) C. Faulkner, E. Petutschnig, Y. Benitez-Alfonso, M. Beck, S. Robatzek, V. Lipka & A. J. Maule: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 110, 9166 (2013).

5) Y. Cao, Y. Liang, K. Tanaka, C. T. Nguyen, R. P. Jedrzejczak, A. Joachimiak & G. Stacey: eLife, 10, 7554 (2014).

6) M. Hayafunea, R. Berisiob, R. Marchettic, A. Silipoc, M. Kayamaa, Y. Desakia, S. Arimaa, F. Squegliab, A. Ruggierob, K. Tokuyasud et al.: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 111, E404 (2014).

7) K. Tokuyasu, Y. Mori, Y. Kitagawa & K. Hayashi: United States Patent 6,437,107 (1999).

8) K. Yamaguchi, K. Yamada, K. Ishikawa, S. Yoshimura, N. Hayashi, K. Uchihashi, N. Ishihama, M. Kishi-Kaboshi, A. Takahashi, S. Tsuge et al.: Cell Host Microbe, 13, 347 (2013).

9) T. Shinya, K. Yamaguchi, Y. Desaki, K. Yamada, T. Narisawa, Y. Kobayashi, K. Maeda, M. Suzuki, T. Tanimoto, J. Takeda et al.: Plant J., 79, 56 (2014).

10) R. Willmann, H. M. Lajunen, G. Erbs, M. A. Newman, D. Kolb, K. Tsuda, F. Katagiri, J. Fliegmann, J. J. Bono, J. V. Cullimore et al.: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 108, 19824 (2011).

11) Y. Kouzai, S. Mochizuki, K. Nakajima, Y. Desaki, M. Hayafune, H. Miyazaki, N. Yokotani, K. Ozawa, E. Minami, H. Kaku et al.: Mol. Plant Microbe Interact., 27, 975 (2014).

12) K. Miyata, T. Kozaki, Y. Kouzai, K. Ozawa, K. Ishii, E. Asamizu, Y. Okabe, Y. Umehara, A. Miyamoto, Y. Kobae et al.: Plant Cell Physiol., 55, 1864 (2014).