解説

レアアースを必須因子として要求する新たな代謝系植物共生細菌たちがもつレアアース依存型C1代謝

Novel Metabolic Pathway Requiring Rare-Earth Elements as an Essential Factor

中川 智行

Tomoyuki Nakagawa

岐阜大学応用生物科学部 ◇ 〒501-1193 岐阜県岐阜市柳戸1番1号

Faculty of Applied Biological Sciences, Gifu University ◇ Yanagito 1-1, Gifu-shi, Gifu 501-1193, Japan

三井 亮司

Ryoji Mitsui

岡山理科大学理学部生物化学科 ◇ 〒700-0005 岡山県岡山市北区理大町1番1号

Department of Biochemistry, Faculty of Science, Okayama University of Science ◇ Ridai-cho 1-1, Kita-ku, Okayama-shi, Okayama 700-0005, Japan

明生

Akio Tani

岡山大学資源植物科学研究所環境生物ストレスユニット植物・微生物相互作用グループ ◇ 〒710-0046 岡山県倉敷市中央二丁目20番1号

Group of Plant–Microbe Interactions, Biotic Stress Unit, Institute of Plant Science and Resources, Okayama University ◇ Chuo 2-20-1, Kurashiki-shi, Okayama 710-0046, Japan

河合 啓一

Keiichi Kawai

岐阜大学応用生物科学部 ◇ 〒501-1193 岐阜県岐阜市柳戸1番1号

Faculty of Applied Biological Sciences, Gifu University ◇ Yanagito 1-1, Gifu-shi, Gifu 501-1193, Japan

Published: 2015-10-20

「産業のビタミン」とも呼ばれる希土類元素(レアアース)は,さまざまなエレクトロニクス製品などの性能向上に必要不可欠な金属であることから,私たちの生活とかかわりが深い重要金属元素に数えられる.しかし,これまでレアアースが自然界において生態系や生物の生命活動にどのように関与するか,その生物学的意義はほとんど研究されていない.このようななか,近年,メタノールを唯一の炭素源として生育できるMethylobacterium属細菌がレアアースを要求する新規なメタノール代謝系をもつことが見いだされ,そのメタノール代謝の鍵酵素がレアアースを補因子とする新規なメタノール脱水素酵素(MDH)であることが明らかとなった.またレアアースを要求するMethylobacterium属細菌が自然界に普遍的に生息すること,さらにはMethylobacterium属細菌のみならず,根粒菌やメタン酸化細菌などからもレアアース依存的MDHの存在が報告されていることなど,レアアースを要求するC1代謝系は単なる一部のメチロトローフ細菌群に限った性質ではなく,広く自然界に分布する一般的かつ基盤的代謝系である可能性が示されている.本解説では,この新規なレアアース依存的なメタノール代謝系についてM. extorquens AM1株を中心に解説し,鍵酵素レアアース依存型MDHの機能と新規なメタノール代謝系の生物学的意義について説明する.

はじめに

希土類元素(レアアース)は,周期表「第3族」に属するスカンジウム(Sc)とイットリウム(Y)の2元素とランタン(La)からルテチウム(Lu)までの15種類のランタノイドを含めた17元素の総称で(図1図1■元素周期表とレアアースの分類),磁石や蓄電池,発光体や超伝導体などといったさまざまなエレクトロニクス製品などの性能向上に必要不可欠な金属であることから「産業のビタミン」とも呼ばれる希少金属群の総称である.レアアースは互いに化学的性質が似ており,原子量が小さいユウロピウム(Eu)までを軽希土類元素,ガドリニウム(Gd)よりも大きい元素を重希土類元素と分類されている(図1図1■元素周期表とレアアースの分類).

図1■元素周期表とレアアースの分類

レアアースはその名から,地球上にほとんど存在しない「希少な金属元素」と思われがちであるが,実際は自然界に広く分布する金属元素である(1)1) 日本化学会編:化学便覧 基礎編,改訂4版,2002, p. 51..たとえば,ランタン(La)とセリウム(Ce)の地殻中の存在量は,それぞれ35 µg/g,66 µg/gと見積もられており(2)2) G. Tyler: Plant Soil, 267, 191 (2004).,鉛(Pb)などのベースメタルよりも多く存在するとされている(1)1) 日本化学会編:化学便覧 基礎編,改訂4版,2002, p. 51..つまり,レアアースは自然界においてすべての生物が直接接触している主要金属元素であり,生物はその影響を少なからず受けていると言える.さらにレアアースの産業利用の拡大に伴い,精錬された高濃度のレアアースを利用した工業製品を作り続けていることから,近年,私たちの生命活動に及ぼす高濃度レアアースの影響や環境への流出による生態系への影響など,高濃度のレアアースの生物・生態系に対する「負」の影響に関する研究がこれまで数多く行われてきた(3)3) G. Pagano, M. Guida, F. Tommasi & R. Oral: Ecotoxicol. Environ. Saf., 115C, 40 (2015).

一方,レアアースは自然環境レベルでは生体に対して毒性を示さないことから,自然環境レベルでの「生物とレアアースの関係」に言及した報告はこれまでほとんどない.つまり,自然界で積極的にレアアースを生命活動に利用する生物の存在や,レアアースを必須因子として要求するような代謝系の存在など,レアアースの「正」の生物学的意義を証明するような研究はほとんどなかった.このようななか,近年,適正濃度のレアアースが植物成長促進作用をもつことが示され(4,5)4) D. Liu, X. Wang, X. Zhang & Z. Gao: Plant Soil Environ., 59, 196 (2013).5) Z. Hu, H. Richter, G. Sparovek & E. Schnug: J. Plant Nutr., 27, 183 (2004).,生物がレアアースを積極的に利用している可能性が高いと想像させる事例が報告され始めた.しかし,これら報告ではレアアースによる植物成長促進作用の作用点やその分子メカニズムに関する詳細は記載されておらず,レアアースの「正」の生物学的意義を証明するには至っていなかった.

レアアースを必須因子として要求する新たな代謝系の存在

1. レアアースに依存したメタノール生育を示すMethylobacterium属細菌の発見

私たちのグループではレアアースと微生物のかかわりを探るべく,貧栄養培地上でレアアースにより生育が著しく賦活化される微生物のスクリーニングを試みたところ,サマリウム(Sm)とユウロピウム(Eu)でコロニー径が大きくなるピンク色のコロニーを見いだした(6)6) 日比慶久,奥田雅代,佐久間隆介,岩間智徳,河合啓一:環境技術,40, 108 (2011).図2図2■レアアース(Sm)により生育が賦活化されるMethylobacterium sp. MAFF211642株).このピンク色のコロニーを形成するEU-1株(MAFF211642株)は,16S rRNA遺伝子配列がMethylobacterium radiotolerans基準株と98%以上の相同性を示し,その生理・生化学的性状からもMethylobacterium sp.と同定された(6)6) 日比慶久,奥田雅代,佐久間隆介,岩間智徳,河合啓一:環境技術,40, 108 (2011).

図2■レアアース(Sm)により生育が賦活化されるMethylobacterium sp. MAFF211642株

貧栄養培地(1/100普通寒天培地)上でのMAFF211642株のコロニーの形態.培地にSmを添加することでMAFF211642株のコロニー径は大きくなる.

Methylobacterium属細菌は,塩素消毒された水道水からも高頻度に単離される貧栄養細菌として知られるが(7)7) A. Hiraishi, K. Furuhata, A. Matsumoto, K. A. Koike, M. Fukuyama & K. Tabuchi: Appl. Environ. Microbiol., 61, 2099 (1995).,その名のとおりメタノールを唯一の炭素源として生育できるメチロトローフ細菌であり,生態系では植物葉上で放出されるメタノールを資化し(8)8) D. Abanda-Nkpwatt, M. Musch, J. Tschiersch, M. Boettner & W. Schwab: J. Exp. Bot., 57, 4025 (2006).,植物にホルモン様物質などを供給するという生態が理解されつつあり(9,10)9) M. Madhaiyan, B. V. Suresh Reddy, R. Anandham, M. Senthilkumar, S. Poonguzhali, S. P. Sundaram & T. Sa: Curr. Microbiol., 53, 270 (2006).10) M. Senthilkumar, M. Madhaiyan, S. Sundaram & S. Kannaiyan: Microbiol. Res., 164, 92 (2009).,近年,注目を集めている植物共生細菌の一種である(11)11) J. A. Vorholt: Nat. Rev. Microbiol., 10, 828 (2012)..そこで,Methylobacterium属細菌のモデル株であるM. extorquens AM1株を用いてメタノール生育におけるレアアース要求性を観察したところ,メタノール生育の必須因子とされていたカルシウム(Ca)を培地中から取り除くとAM1株はメタノール生育をほとんど示さないことが知られているが,Caの代わりにLaを培地中に添加すると良好なメタノール生育を示した(12)12) T. Nakagawa, R. Mitsui, A. Tani, K. Sasa, S. Tashiro, T. Iwama, T. Hayakawa & K. Kawai: PLoS ONE, 7, e50480 (2012).図3A図3■M. extorquens AM1野生株およびΔmxaF株のメタノール生育(12)).つまり,AM1株もMAFF211642株同様にレアアースに依存的なメタノール生育能力をもち,レアアースがメタノール代謝においてCaと同等,もしくはそれ以上の役割をもつ必須因子である可能性が初めて示された.

図3■M. extorquens AM1野生株およびΔmxaF株のメタノール生育(12)

(A)AM1野生株はメタノール/Ca培地(○)でもメタノール/La培地(●)でも同等の生育を示す.一方,(B)ΔmxaF株はメタノール/Ca培地(○)では全く生育できないが,メタノール/La培地(●)にはごく普通に生育できる.つまり,レアアース依存的メタノール生育にはMxaFは関与しないことがわかる.

新規なレアアース依存型メタノール脱水素酵素XoxF1の機能と役割

1. レアアース依存的なメタノール生育に必要なメタノール脱水素酵素はXoxF1である

Methylobacterium属細菌のメタノール生育で,レアアースはどのような役割を果たしているのだろうか? M. extorquens AM1株が軽希土類元素に特異的なメタノール生育を示したので,軽希土類元素LaによるAM1株のメタノール代謝酵素群の発現誘導を観察したところ,メタノール脱水素酵素(MDH)がLaにより強力に誘導された(12)12) T. Nakagawa, R. Mitsui, A. Tani, K. Sasa, S. Tashiro, T. Iwama, T. Hayakawa & K. Kawai: PLoS ONE, 7, e50480 (2012)..レアアースによるMDH活性の誘導はMethylobacterium sp.やM. radiotoleransでも同様に観察され(6,13)6) 日比慶久,奥田雅代,佐久間隆介,岩間智徳,河合啓一:環境技術,40, 108 (2011).13) Y. Hibi, K. Asai, H. Arafuka, M. Hamajima, T. Iwama & K. Kawai: J. Biosci. Bioeng., 111, 547 (2011).,このことはMDHがレアアース依存的メタノール代謝の鍵を握る因子であることを容易に連想させた.そこで,メタノール/Ca培地とメタノール/La培地で生育させたAM1株からそれぞれMDHを精製し,両MDH(Ca-MDHおよびLa-MDH)の比較を行った.その結果,Ca-MDHはこれまで報告されているとおりmxaオペロンにコードされているαサブユニット(MxaF)とβサブユニット(MxaI)からなるヘテロ四量体のMxaFIであったのに対し(14)14) D. Y. Nunn, D. Day & C. Anthony: Biochem. J., 260, 857 (1989).,驚いたことにLa-MDHはこれまで機能未知とされていたxoxF1にコードされているタンパク質で,βサブユニットをもたなかった(12)12) T. Nakagawa, R. Mitsui, A. Tani, K. Sasa, S. Tashiro, T. Iwama, T. Hayakawa & K. Kawai: PLoS ONE, 7, e50480 (2012)..またLa-MDHであるXoxF1は,MxaFIと比較しても十分なMDH活性をもち,予想どおりPQQを補欠分子族とし,これまで報告例のないLaを補因子とする新規な酵素であった(12)12) T. Nakagawa, R. Mitsui, A. Tani, K. Sasa, S. Tashiro, T. Iwama, T. Hayakawa & K. Kawai: PLoS ONE, 7, e50480 (2012).

これまでXoxF1は,アミノ酸レベルでMxaFと約50%と高い相同性を示すものの,CaではMDH活性を示さないこと(15)15) S. Schmidt, P. Christen, P. Kiefer & J. A. Vorholt: Microbiology, 156, 2575 (2010).,その遺伝子欠損株はメタノール/Ca培地に生育できることなどから(16)16) L. Chistoserdova & M. E. Lidstrom: Microbiology, 143, 1729 (1997).xoxF2とともにmxaFの機能未知のパラログ遺伝子として考えられてきた.しかし,近年,XoxF1が植物葉上や根圏で主要な微生物由来タンパク質として検出されること(11,17,18)11) J. A. Vorholt: Nat. Rev. Microbiol., 10, 828 (2012).17) N. Delmotte, C. Knief, S. Chaffron, G. Innerebner, B. Roschitzki, R. Schlapbach, C. von Mering & J. A. Vorholt: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 106, 16428 (2009).18) S. M. Sowell, P. E. Abraham, M. Shah, N. C. Verberkmoes, D. P. Smith, D. F. Barofsky & S. J. Giovannoni: ISME J., 5, 856 (2011).xoxF1xoxF2がともに欠損するとAM1株はメタノール生育を示さなくなることなど(19)19) E. Skovran, A. D. Palmer, A. M. Rountree, N. M. Good & M. E. Lidstrom: J. Bacteriol., 193, 6032 (2011).,XoxF1は単なる重複遺伝子ではなく,何らかの重要な機能をもつことが推測され始め,その機能に関してはさまざまな仮説が挙げられていたものの,その核心を突くものはなかった.そのようななか,レアアース存在下でXoxF1がMDH活性を示したことから,XoxF1の主要な機能はレアアース依存型MDHであることが初めて明らかとなったのである.

前述のとおり,AM1株はmxaFxoxF1xoxF2の3コピーのMDHパラログ遺伝子をもつが(図4図4■M. extorquens AM1株のMDHをコードする遺伝子とMDHの構成),それぞれのMDH遺伝子欠損株のうち,Ca-MDHをコードするmxaFの欠損株ΔmxaFはメタノール/Ca培地には生育できないが,メタノール/La培地に野生株と同等の生育を示す(12)12) T. Nakagawa, R. Mitsui, A. Tani, K. Sasa, S. Tashiro, T. Iwama, T. Hayakawa & K. Kawai: PLoS ONE, 7, e50480 (2012).図3B図3■M. extorquens AM1野生株およびΔmxaF株のメタノール生育(12)).一方,ΔxoxF1株はメタノール/La培地にほとんど生育することができない(未発表データ).このことから,MxaFIはLa依存的メタノール代謝には一切関与しておらず,La依存的なメタノール生育に必要なMDHはXoxF1であることが示され,XoxF1がメタノール代謝において重要な機能タンパク質であることが証明された.

図4■M. extorquens AM1株のMDHをコードする遺伝子とMDHの構成

Ca-MDHはαサブユニット(MxaF: 緑色)とβサブユニット(MxaI: 灰色)からなるヘテロ四量体で,これらをコードするmxaオペロンは,mxaFmxaI,Ca-MDHの電子受容体であるシトクロムcLをコードするmxaGなどCa-MDHの活性発現に関与する遺伝子群で構成されている.一方,La-MDHをコードするxox1オペロンは,αサブユニット(緑色)のxoxF1とシトクロムcをコードするxoxGおよびmxaJのパラログ遺伝子のみからなる小さなオペロンである.一方,xoxF2はオペロン構造をもたず,その遺伝子産物の構造・機能は不明である.

2. レアアース依存型メタノール脱水素酵素はさまざまな微生物群に広く分布する

新規レアアース依存型MDHであるXoxF1だが,レアアース依存型MDHは果たしてM. extorquens AM1株のみがもつユニークな酵素なのであろうか? 答えは,「ノー」であり,M. radiotolerans NBRC15690株から精製されたLa-MDHもまた,mxaFではなくxoxFにコードされていることが証明されている(13)13) Y. Hibi, K. Asai, H. Arafuka, M. Hamajima, T. Iwama & K. Kawai: J. Biosci. Bioeng., 111, 547 (2011)..また,XoxF1と高い相同性をもつMDH遺伝子はMethylobacterium属細菌の公開されているほとんどのゲノム配列上で確認できること(図5図5■Methylobacterium属細菌およびさまざまな細菌由来のXoxFの系統樹),また私たちが自然界から単離したほとんどすべてのMethylobacterium属細菌がxoxF遺伝子をもつことから(未発表データ),レアアース依存型MDHはMethylobacterium属細菌に広く分布することは間違いない事実である.

図5■Methylobacterium属細菌およびさまざまな細菌由来のXoxFの系統樹

XoxF1と高い相同性を示す遺伝子は,Methylobacterium属細菌(薄灰色box)のみならず,根粒菌(濃灰色box)をはじめとしたさまざまな細菌に広く分布するが,それらは分子系統上,MxaF(Ca-MDH)とは異なるグループを形成する.

一方,ゲノム情報からXoxF1と高い相同性をもつMDH遺伝子はMethylobacterium属細菌以外にも,ほかのメチロトローフ細菌のMethylotenera mobilis(20,21)20) G. Bosch, T. Wang, E. Latypova, M. G. Kalyuzhnaya, M. Hackett & L. Chistoserdova: Microbiology, 155, 1103 (2009).21) A. Lapidus, A. Clum, K. Labutti, M. G. Kaluzhnaya, S. Lim, D. A. Beck, T. Glavina Del Rio, M. Nolan, K. Mavromatis, M. Huntemann et al.: J. Bacteriol., 193, 375 (2011).Bradyrhizobium(22,23)22) T. Kaneko, Y. Nakamura, S. Sato, K. Minamisawa, T. Uchiumi, S. Sasamoto, A. Watanabe, K. Idesawa, M. Iriguchi, K. Kawashima et al.: DNA Res., 9, 189 (2002).23) N. Sudtachat, N. Ito, M. Itakura, S. Masuda, S. Eda, H. Mitsui, Y. Kawaharada & K. Minamisawa: Appl. Environ. Microbiol., 75, 5012 (2009).Rhizobium属,Sinorhizobium属,Azorhizobium属などの根粒菌,メタン酸化細菌であるMethylacidiphilum fumariolicum(24,25)24) A. Pol, K. Heijmans, H. R. Harhangi, D. Tedesco, M. S. Jetten & H. J. Op den Camp: Nature, 450, 874 (2007).25) A. F. Khadem, A. S. Wieczorek, A. Pol, S. Vuilleumier, H. R. Harhangi, P. F. Dunfield, M. G. Kalyuzhnaya, J. C. Murrell, K. J. Francoijs, H. G. Stunnenberg et al.: J. Bacteriol., 194, 3729 (2012).,光合成細菌であるRhodobacter sphaeroides(26)26) C. Mackenzie, M. Choudhary, F. W. Larimer, P. F. Predki, S. Stilwagen, J. P. Armitage, R. D. Barber, T. J. Donohue, J. P. Hosler, J. E. Newman et al.: Photosynth. Res., 70, 19 (2001).などさまざまな細菌がXoxFのオーソログ遺伝子をもっていることが知られている(27)27) J. T. Keltjens, A. Pol, J. Reimann & H. J. M. Op den Camp: Appl. Microbiol. Biotechnol., 98, 6163 (2014).図5図5■Methylobacterium属細菌およびさまざまな細菌由来のXoxFの系統樹).特にBradyrhizobium sp. MAFF211645株とMethylacidiphilum fumariolicum SolV株由来XoxFは精製され,両酵素ともにレアース依存型MDHであることがすでに報告されている(28,29)28) N. A. Fitriyanto, M. Fushimi, M. Matsunaga, A. Pertiwiningrum, T. Iwama & K. Kawai: J. Biosci. Bioeng., 111, 613 (2011).29) A. Pol, T. R. Barends, A. Dietl, A. F. Khade, J. Eygensteyn, M. S. Jetten & H. J. Op den Camp: Environ. Microbiol., 16, 255 (2014)..さらにSolV株由来XoxFはその分子立体構造も提示され,Laを中心とした活性中心の構造も明らかになっている(29,30)29) A. Pol, T. R. Barends, A. Dietl, A. F. Khade, J. Eygensteyn, M. S. Jetten & H. J. Op den Camp: Environ. Microbiol., 16, 255 (2014).30) J. A. Bogart, A. J. Lewis & E. J. Schelter: Chemistry, 21, 1743 (2015)..このようにレアアース依存型MDHは,Methylobacterium属細菌のみならずさまざまな微生物群に広く分布する一般的な酵素であることが徐々に明らかとなってきた.

自然界におけるレアアース依存的メタノール代謝系の役割と機能

1. レアアース依存的にメタノールを利用できる微生物は自然界に広く生息する

レアアースに依存的なメタノール生育を示す微生物は自然界にどれくらい生息するのであろうか? 私たちはメタノール/La培地を用いて自然界から集積培養でメチロトローフ細菌をスクリーニングしたところ,ほとんどすべての植物サンプルからLa依存的にメタノール生育を示すMethylobacterium属細菌が獲得でき,なかには従来メタノール生育に必須とされていたCaに依存的なメタノール生育を全く示さず,レアアースのみを要求する株まで存在した(未発表データ).このことは,レアアースを必須因子として利用するメタノール代謝系をもつMethylobacterium属細菌が自然界に普遍的に存在し,これら微生物達は私たちが常識と考えていたCaよりもレアアースを優先的に利用する,またはそれに依存しているということになる.

また,先述のレアアース依存型MDHのXoxFをもつメタン酸化菌Methylacidiphilum fumariolicumMethylobacterium属細菌同様,レアアース依存的なメタン生育を示すことが報告されているが(29)29) A. Pol, T. R. Barends, A. Dietl, A. F. Khade, J. Eygensteyn, M. S. Jetten & H. J. Op den Camp: Environ. Microbiol., 16, 255 (2014).,メチロトローフとしての報告がない根粒菌Bradyrhizobium属細菌さえもレアアースを加えることでメタノール生育を示す(未発表データ).面白いことに,これら菌株はCa依存型MDHをコードするmxaFIのオーソログ遺伝子をもたず,レアアース存在下でのみメタノール生育を示す.このことは,これまでメチロトローフとしての報告がない細菌群でもレアアース依存的メタノール代謝系をもっている可能性を示しており,レアアース依存的なメチロトローフ細菌が自然界に広く分布する可能性を示している.

2. 自然界におけるレアアース依存的メタノール代謝系の役割

では,何故これら微生物群がレアアース依存的メタノール生育能力をもつ必要があるのだろうか? これまで見いだされているレアアース依存的なメタノール代謝を示す微生物群はMethylobacterium属細菌や根粒菌のBradyrhizobium属細菌など,植物との共生が知られている細菌群がほとんどである.また,植物は成長の過程において大量のメタノールを生産し,体外に放出していることが知られている(31)31) M. Nemecek-Marshall, R. C. MacDonald, J. J. Franzen, C. L. Wojciechowski & R. Fall: Plant Physiol., 108, 1359 (1995)..さらに,植物根圏には十分なレアアースが存在し(32)32) G. Tyler & T. Olsson: Biol. Trace Elem. Res., 106, 177 (2005).,植物がレアアースを根から積極的に吸収し,根のみならず,茎,葉上にまでレアアースを輸送・蓄積していることが報告されている(2,33)2) G. Tyler: Plant Soil, 267, 191 (2004).33) X. Guo, Q. Zhou, T. Lu, M. Fang & X. Huang: Ann. Bot. (Lond.), 100, 1459 (2007)..つまり,これら微生物群は葉上や根圏で植物と共生することで常にレアアース依存的メタノール代謝を行える環境下に身を置くことができ,レアアースを利用することで植物の生育や代謝を邪魔することなく,メタノールに生育できることが想像できる.また,これら植物共生細菌群は植物の成長促進を促すことから,報告されている適正濃度のレアアースによる植物成長促進作用(4,5)4) D. Liu, X. Wang, X. Zhang & Z. Gao: Plant Soil Environ., 59, 196 (2013).5) Z. Hu, H. Richter, G. Sparovek & E. Schnug: J. Plant Nutr., 27, 183 (2004).もこれら植物共生細菌群の活性化が要因となっているとの仮説も立てることができる(図6図6■植物共生細菌のレアアース依存的メタノール代謝と植物との共生関係).これらはあくまでも仮説の段階を抜け出せないが,今後,レアアースが微生物と植物の共生関係の鍵を握る因子としての役割を証明できればと考えている.

図6■植物共生細菌のレアアース依存的メタノール代謝と植物との共生関係

メチロトローフ細菌は植物が放出するメタノールをレアアース依存的に資化し,植物ホルモン様物質を供給することで共生関係を結んでいると考えられる.一方,根粒菌も窒素固定と引き換えに,根から放出されるメタノールをレアアース依存的に利用していることが想像できるが,そのメタノール代謝経路の詳細と役割については不明である.現在,根粒菌のメタノール代謝経路について,ゲノム情報などからの解析を進めている.

おわりに

本解説のとおり,自然界においてレアアースが生命活動に利用されていることが証明され,生態系の物質循環においてレアアースが大きな生物学的役割をもつ金属元素であることが理解されつつある.一方,これまでレアアースの生物学的機能が分子・遺伝子レベルで理解されているのは,本解説で紹介したメタノール代謝のみであるが,先述の植物生育促進作用や,Bradyrhizobium属細菌による多糖の生産(34)34) N. A. Fitriyanto, M. Nakamura, S. Muto, K. Kato, T. Yabe, T. Iwama, K. Kawai & A. Pertiwiningrum: J. Biosci. Bioeng., 111, 146 (2011).Streptomyces属細菌による抗生物質生産(35,36)35) K. Kawai, G. Wang, S. Okamoto & K. Ochi: FEMS Microbiol. Lett., 274, 311 (2007).36) K. Ochi, Y. Tanaka & S. Tojo: J. Ind. Microbiol. Biotechnol., 41, 403 (2014).,微生物による色素の生産(未発表データ)など,詳細な作用機序は不明ではあるものの,レアアースにより生命活動が活性化される事例はいくつか報告されている.つまり,レアアースはもっと重要でかつ普遍的な生物学的意義をもつことも十分に考えられ,今後のレアアースの生命活動における機能解明のさらなる進展により,新たな「レアアース・ワールド」の扉が開かれることが期待できる.

Acknowledgments

本解説は,岐阜大学応用生物科学部および岡山理科大学理学部,岡山大学資源植物科学研究所で行われた研究成果を中心にレアアースの生物学的意義についてまとめたものである.本研究にご協力・ご助言いただいた先生方,多大な貢献をいただいた多くの大学院生および学部学生に感謝いたします.

Reference

1) 日本化学会編:化学便覧 基礎編,改訂4版,2002, p. 51.

2) G. Tyler: Plant Soil, 267, 191 (2004).

3) G. Pagano, M. Guida, F. Tommasi & R. Oral: Ecotoxicol. Environ. Saf., 115C, 40 (2015).

4) D. Liu, X. Wang, X. Zhang & Z. Gao: Plant Soil Environ., 59, 196 (2013).

5) Z. Hu, H. Richter, G. Sparovek & E. Schnug: J. Plant Nutr., 27, 183 (2004).

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