セミナー室

ストリゴラクトン研究の進展と環境応答における役割

Hiromu Kameoka

亀岡

大学共同利用機関法人自然科学研究機構基礎生物学研究所共生システム研究部門 ◇ 〒444-8585 愛知県岡崎市明大寺町字西郷中38番地

Division of Symbiotic Systems, National Institute for Basic Biology, National Institutes of Natural Sciences (NINS), Japan ◇ Myodaiji-cho Nishi-Gonaka 38, Okazaki-shi, Aichi 444-8585, Japan

Junko Kyozuka

経塚 淳子

東北大学大学院生命科学研究科 ◇ 〒980-8577 宮城県仙台市青葉区片平二丁目1番1号

Graduate School of Life Sciences, Tohoku University ◇ Katahira 2-1-1, Aoba-ku, Sendai-shi, Miyagi 980-8577, Japan

Published: 2015-11-20

はじめに

ストリゴラクトンは植物の根から分泌され寄生植物ストライガの種子発芽を誘引する物質として1960年代に同定されたが,その後数十年間,植物がなぜ自分に不利益をもたらす物質を合成するのかは不明であった(1)1) C. E. Cook, L. P. Whichard, B. Turner, M. E. Wall & G. H. Egley: Science, 154, 1189 (1966)..2005年にストリゴラクトンがアーバスキュラー菌根菌と植物との共生を促進することが明らかになり,さらに,2008年には植物体内で植物ホルモンとして働くことが示された(2~4)2) K. Akiyama, K. Matsuzaki & H. Hayashi: Nature, 435, 824 (2005).3) M. Umehara, A. Hanada, S. Yoshida, K. Akiyama, T. Arite, N. Takeda-Kamiya, H. Magome, Y. Kamiya, K. Shirasu, K. Yoneyama et al.: Nature, 455, 195 (2008).4) V. Gomez-Roldan, S. Fermas, P. B. Brewer, V. Puech-Pagès, E. A. Dun, J. P. Pillot, F. Letisse, R. Matusova, S. Danoun, J. C. Portais et al.: Nature, 455, 189 (2008)..これらの発見を契機にストリゴラクトンの生合成,信号伝達,進化などの研究が急速に進展した.また,最初に報告された腋芽伸長の抑制以外にも植物ホルモンとしてのさまざまな機能をもつことが明らかになってきており,ストリゴラクトンは環境に応答した形態形成を制御することにより植物の成長を最適化するという役割を果たしていると考えられるようになってきた.本稿では,ストリゴラクトンに関する最新の知見を概説する.

生合成

ストリゴラクトンが植物ホルモンとして働くことが発見される以前から,シロイヌナズナ,イネ,エンドウ,ペチュニアなどで地上部の枝分かれが増加する一連の変異体が解析され,それぞれmore axillary growthmax),dwarfd),ramosusrms),decreased apical dominancedad)と命名されていた(5)5) Y. Seto, H. Kameoka, S. Yamaguchi & J. Kyozuka: Plant Cell Physiol., 53, 1843 (2012)..そのため,ストリゴラクトン関連の遺伝子には現在でも生物種ごとに異なる名称が用いられている.

変異体の解析から単離された遺伝子のうち,D27,CAROTENOID CLEAVAGE DIOXIGENASE 7(CCD7)をコードするMAX3/D17/RMS5/DAD3,CAROTENOID CLEAVAGE DIOXIGENASE 8(CCD8)をコードするMAX4/D10/RMS1/DAD1,P450ファミリータンパク質をコードするMAX1については,機能欠損変異体で見られる枝分かれの増加などの成長異常がストリゴラクトン処理により正常に回復することから,これら4遺伝子はストリゴラクトン合成系で働くと考えられる(5)5) Y. Seto, H. Kameoka, S. Yamaguchi & J. Kyozuka: Plant Cell Physiol., 53, 1843 (2012)..ストリゴラクトン合成系では,β-カロテノイドがD27,CCD7,CCD8によって順に触媒されカーラクトンが合成されることがin vitroの実験で示された(6)6) A. Alder, M. Jamil, M. Marzorati, M. Bruno, M. Vermathen, P. Bigler, S. Ghisla, H. Bouwmeester, P. Beyer & S. Al-Babili: Science, 335, 1348 (2012)..カーラクトンは植物体からも検出されること,また,イネに投与した同位体ラベルカーラクトンがストリゴラクトンに変換されたことから,カーラクトンがストリゴラクトンの前駆体であることが明らかになった(7)7) Y. Seto, A. Sado, K. Asami, A. Hanada, M. Umehara, K. Akiyama & S. Yamaguchi: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 111, 1640 (2014).図1図1■ストリゴラクトン生合成経路).

図1■ストリゴラクトン生合成経路

β-カロテンはD27,CCD7,CCD8に触媒されカーラクトンに変換される.カーラクトンからストリゴラクトンへの変換やその後の修飾の経路は完全には解明されていないが,MAX1ホモログが働くことが明らかになっている.MAX1の働きはホモログ間でも異なると考えられている.シロイヌナズナ遺伝子は緑,イネは赤,エンドウは青,ペチュニアは紫で示した.

カーラクトンからストリゴラクトンに至る生合成経路は完全には解明されていない.また,ストリゴラクトンには多種類の天然アナログが存在するが,これらがどのように合成されるかも明らかになっていない.最近,MAX1が多様な天然ストリゴラクトンの合成にかかわることが報告された(8,9)8) S. Abe, A. Sado, K. Tanaka, T. Kisugi, K. Asami, S. Ota, H. I. Kim, K. Yoneyama, X. Xie, T. Ohnishi et al.: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 111, 18084 (2014).9) Y. Zhang, A. D. van Dijk, A. Scaffidi, G. R. Flematti, M. Hofmann, T. Charnikhova, F. Verstappen, J. Hepworth, S. van der Krol, O. Leyser et al.: Nat. Chem. Biol., 10, 1028 (2014)..シロイヌナズナのCCD7,CCD8を欠損するmax3変異体,max4変異体にカーラクトンを与えると枝分かれなどの異常が正常に戻る.それに対して,max1変異体ではカーラクトンを投与しても表現型が相補されないことから,カーラクトンからストリゴラクトンが合成されるにはMAX1が必要であることがわかる(10)10) A. Scaffidi, M. T. Waters, E. L. Ghisalberti, K. W. Dixon, G. R. Flematti & S. M. Smith: Plant J., 76, 1 (2013)..シロイヌナズナではMAX1によってカーラクトンがカーラクトン酸に変換される(8)8) S. Abe, A. Sado, K. Tanaka, T. Kisugi, K. Asami, S. Ota, H. I. Kim, K. Yoneyama, X. Xie, T. Ohnishi et al.: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 111, 18084 (2014)..植物個体からカーラクトンのメチルエステルであるカーラクトン酸メチルが検出されており,カーラクトン酸メチルはストリゴラクトン信号伝達経路で働くAtD14タンパク質と相互作用することから,植物体ではカーラクトン酸メチルがストリゴラクトンとして働いている可能性が示唆されている(8)8) S. Abe, A. Sado, K. Tanaka, T. Kisugi, K. Asami, S. Ota, H. I. Kim, K. Yoneyama, X. Xie, T. Ohnishi et al.: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 111, 18084 (2014)..イネは4つのMAX1ホモログ遺伝子をもつが,その一つである(Os900)がカーラクトンから最も単純な構造のストリゴラクトンの一種であるent-2′-epi-5DSへの変換を触媒し,さらに別のMAX1ホモログ(Os1400)がent-2′-epi-5DSを酸化することにより別の種類のストリゴラクトンであるオロバンコールが合成される(9)9) Y. Zhang, A. D. van Dijk, A. Scaffidi, G. R. Flematti, M. Hofmann, T. Charnikhova, F. Verstappen, J. Hepworth, S. van der Krol, O. Leyser et al.: Nat. Chem. Biol., 10, 1028 (2014)..このように,MAX1の複数のホモログがそれぞれ異なる反応を触媒し多様な天然ストリゴラクトンを合成していると考えられる(図1図1■ストリゴラクトン生合成経路).しかし,シロイヌナズナでカーラクトン酸メチルを合成する酵素は見つかっておらず,また,イネからは上記ストリゴラクトン(ent-2′-epi-5DS,オロバンコール)以外の複数の内生ストリゴラクトンが検出されている.したがって,MAX1ホモログだけで多様なストリゴラクトン合成を説明することはできない.遺伝学と有機化学を組み合わせた解析により,ストリゴラクトン生合成経路の解明は急速に進展しており,ストリゴラクトン合成経路の完全な解明に向けたさらなる研究の発展が期待される.

輸送

ストリゴラクトンは主に根で合成され,それが地上部に輸送されると考えられている.ストリゴラクトンの輸送にかかわる遺伝子としては,ペチュニアのPLEIIOTROPIC DRUG RESISTANCE 1PDR1)が報告されている(11)11) T. Kretzschmar, W. Kohlen, J. Sasse, L. Borghi, M. Schlegel, J. B. Bachelier, D. Reinhardt, R. Bours, H. J. Bouwmeester & E. Martinoia: Nature, 483, 341 (2012)..PDR1はストリゴラクトンの排出トランスポーターとして働き,ストリゴラクトンの根から土壌への分泌と,根から地上部への輸送の両方に関与している.そのためpdr1変異体ではアーバスキュラー菌根菌の感染率が低下し,さらに,地上部の枝分かれが増加する(11)11) T. Kretzschmar, W. Kohlen, J. Sasse, L. Borghi, M. Schlegel, J. B. Bachelier, D. Reinhardt, R. Bours, H. J. Bouwmeester & E. Martinoia: Nature, 483, 341 (2012)..PDR1は極性をもって細胞内に局在しており,皮層細胞では細胞の上部の細胞膜に局在し,アーバスキュラー菌根菌の侵入経路となる根の細胞(Hypodermal passage cell)では外側面の細胞膜に局在する.このPDR1の細胞内局在がストリゴラクトンの極性輸送に関与していると考えられている(12)12) J. Sasse, S. Simon, C. Gübeli, G. W. Liu, X. Cheng, J. Friml, H. Bouwmeester, E. Martinoia & L. Borghi: Curr. Biol., 25, 647 (2015).

信号伝達

F-boxタンパク質をコードするMAX2/D3や,α/β-hydrolase様タンパク質をコードするD14/RMS3/DAD2の機能欠損変異体はストリゴラクトン非感受性の表現型を示す(5)5) Y. Seto, H. Kameoka, S. Yamaguchi & J. Kyozuka: Plant Cell Physiol., 53, 1843 (2012)..D14/RMS3/DAD2はストリゴラクトンと結合し,結合によりタンパク質の立体構造が変化する(13)13) C. Hamiaux, R. S. Drummond, B. J. Janssen, S. E. Ledger, J. M. Cooney, R. D. Newcomb & K. C. Snowden: Curr. Biol., 22, 2032 (2012)..D14/RMS3/DAD2がストリゴラクトンと結合すると,D14/RMS3/DAD2,MAX2/D3,シャペロン様タンパク質であるD53の3者の複合体が形成される.MAX2/D3とD53はストリゴラクトンの有無にかかわらず相互作用するが,この複合体がさらにストリゴラクトンと結合したD14/RMS3/DAD2と相互作用することが引き金となり,D53がMAX2/D3によってポリユビキチン化され,26Sプロテアソーム経路によって分解される.d53変異体はほかのd変異体と同様に過剰に枝分かれするが,ストリゴラクトン非感受性であり,また優性の変異体である.優性d53変異体アリルがコードする変異型タンパク質はストリゴラクトンに依存した分解が起こらない.さらに,D53は転写抑制因子との結合モチーフをもつ.これらを総合して,ストリゴラクトンがない場合はD53が下流遺伝子の発現を抑制することによりストリゴラクトン応答反応を抑えており,細胞内でストリゴラクトンが受容されるとD53が分解されることにより下流遺伝子の発現抑制が解除され,その結果,さまざまな下流のカスケードが働き出し,ストリゴラクトンの作用が起こると考えられている(14,15)14) L. Jiang, X. Liu, G. Xiong, H. Liu, F. Chen, L. Wang, X. Meng, G. Liu, H. Yu, Y. Yuan et al.: Nature, 504, 401 (2013).15) F. Zhou, Q. Lin, L. Zhu, Y. Ren, K. Zhou, N. Shabek, F. Wu, H. Mao, W. Dong, L. Gan et al.: Nature, 504, 406 (2013).図2図2■ストリゴラクトン信号伝達経路).

図2■ストリゴラクトン信号伝達経路

(A)ストリゴラクトン非存在下ではD53が下流の応答を抑制している.(B)ストリゴラクトンがD14と結合すると,D14,MAX2/D3,D53が複合体を形成し,D3の働きによりD53が分解され,下流の応答が誘導される.ストリゴラクトンはD14によって加水分解される.

D14/RMS3/DAD2はストリゴラクトンを加水分解することが示されているが,ストリゴラクトン信号伝達におけるこの反応の意味は明らかになっていない(13)13) C. Hamiaux, R. S. Drummond, B. J. Janssen, S. E. Ledger, J. M. Cooney, R. D. Newcomb & K. C. Snowden: Curr. Biol., 22, 2032 (2012)..D14/RMS3/DAD2とストリゴラクトンとの結合が引き金となって下流の応答を誘導することから,D14/RMS3/DAD2がストリゴラクトンの受容体であり,D14/RMS3/DAD2によるストリゴラクトンの加水分解は信号伝達後のフィードバック制御であるという仮説が考えられる.その一方で,D14/RMS3/DAD2によって生じたストリゴラクトン分解産物が下流の応答を誘導する真の活性型ホルモンであるという可能性も否定できない.したがって,現状ではD14/RMS3/DAD2がストリゴラクトン受容体であるとは断定できていない.

進化

ストリゴラクトンは植物ホルモンとして機能するだけではなく,根から分泌され共生菌であるアーバスキュラー菌根菌の菌糸分岐を誘導し,植物との共生を促進する機能ももつ(2)2) K. Akiyama, K. Matsuzaki & H. Hayashi: Nature, 435, 824 (2005)..植物はどちらの機能を先に獲得したのだろうか.この疑問に答えるために陸上植物の基部にあたる苔類,蘚類などのコケ植物と,陸上植物の起源であると考えられる緑藻類でのストリゴラクトンの合成や生理活性が調べられた.その結果,苔類や蘚類だけでなく,陸上植物に最も近縁であると考えられている車軸藻類の一部でも生理活性をもつストリゴラクトンが合成されていることが示された(16)16) P. M. Delaux, X. Xie, R. E. Timme, V. Puech-Pages, C. Dunand, E. Lecompte, C. F. Delwiche, K. Yoneyama, G. Bécard & N. Séjalon-Delmas: New Phytol., 195, 857 (2012)..植物とアーバスキュラー菌根菌との共生は陸上植物にのみ見られる現象であることから,植物ホルモンとしての機能が先に生じたと考えられる(図3図3■ストリゴラクトンの進化).

図3■ストリゴラクトンの進化

ストリゴラクトンは植物ホルモンとして誕生し,植物の陸上進出後にAM菌誘引活性を獲得した.その後,ストリゴラクトンに応答して種子発芽を促進させるストライガなどの寄生植物が現れた.

D14ファミリー遺伝子の機能と進化

MAX2/D3は,発芽時や幼苗期の光応答において,ほかのストリゴラクトン合成・信号伝達経路で働く遺伝子とは異なる働きをする.シロイヌナズナのmax2変異体では,発芽の遅れや明所での胚軸の伸長促進など典型的な光応答性の低下が見られる(17)17) D. C. Nelson, A. Scaffidi, E. A. Dun, M. T. Waters, G. R. Flematti, K. W. Dixon, C. A. Beveridge, E. L. Ghisalberti & S. M. Smith: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 108, 8897 (2011)..また,イネのストリゴラクトン変異体では,暗所でメソコチルの伸長が促進されるが,なかでもd3変異体は著しく強い表現型を示す(18)18) Z. Hu, H. Yan, J. Yang, S. Yamaguchi, M. Maekawa, I. Takamure, N. Tsutsumi, J. Kyozuka & M. Nakazono: Plant Cell Physiol., 51, 1136 (2010)..最近の研究から,これらの表現型はカリキンと呼ばれる物質への応答と関連があることが明らかになってきた.

カリキンは植物が燃えた灰に含まれる物質であり,山火事後に種子発芽が促進される現象の原因物質として単離された(19)19) G. R. Flematti, E. L. Ghisalberti, K. W. Dixon & R. D. Trengove: Science, 305, 977 (2004)..野生型シロイヌナズナにカリキンを処理すると発芽が促進され胚軸伸長が抑制されるなど,光形態形成の促進が起こる.一方,このようなカリキンに対する応答はmax2変異体では見られない(17)17) D. C. Nelson, A. Scaffidi, E. A. Dun, M. T. Waters, G. R. Flematti, K. W. Dixon, C. A. Beveridge, E. L. Ghisalberti & S. M. Smith: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 108, 8897 (2011)..また,AtD14のパラログがカリキン非感受性変異体karrikin insensitive 2kai2)変異体の原因遺伝子として同定された(20)20) M. T. Waters, D. C. Nelson, A. Scaffidi, G. R. Flematti, Y. K. Sun, K. W. Dixon & S. M. Smith: Development, 139, 1285 (2012)..さらに,D53と同じファミリーの遺伝子がmax2のカリキン応答復帰変異体suppressor of max2 1smax1)として同定されている(21)21) J. P. Stanga, S. M. Smith, W. R. Briggs & D. C. Nelson: Plant Physiol., 163, 318 (2013)..これらの知見から,ストリゴラクトン信号伝達経路ではMAX2/D3D14/RMS3/DAD2D53とともに働くのに対し,カリキン信号伝達経路ではMAX2/D3KAI2SMAX1とともに働くと考えられる(図4図4■D14ファミリータンパク質の機能).また,カリキンは植物体からは検出されていないことや,max2変異体やkai2変異体ではカリキン投与の有無にかかわらず光応答などに異常が見られることから,MAX2/D3KAI2SMAX1経路はカリキンだけではなく未知の植物ホルモンを受容し,その信号を伝達している可能性が考えられる.

図4■D14ファミリータンパク質の機能

一般的な種子植物ではD14はMAX2/D3,D53とともに働き,枝分かれ抑制などのストリゴラクトン応答に寄与している.一方,KAI2はMAX2/D3,SMAX1とともに働き,種子発芽促進などのカリキン応答に寄与している.また,KAI2はカリキン以外にも未知の植物ホルモンの信号伝達を行っている可能性がある.ストライガなどのストリゴラクトンに応答して種子発芽を促進できる根寄生植物では,KAI2のオーソログが遺伝子重複により多様化している.その中の一つのグループ(KAI2d)は,ストリゴラクトンを受容して一般的なKAI2下流遺伝子を制御できるように進化していると考えられている.

D14は遺伝子ファミリーを作っており,それらは大きくD14サブファミリーとKAI2サブファミリーに分けられる.シロイヌナズナではD14サブファミリーのAtD14がストリゴラクトンを,KAI2サブファミリーのKAI2がカリキンを受容する.また,AtD14はカリキンを受容できず,KAI2はストリゴラクトンを受容できない.このように,リガンドと受容体(候補)の間には明瞭な組み合わせの特異性がある.ところが,D14サブファミリーが存在するのは種子植物のみである(16)16) P. M. Delaux, X. Xie, R. E. Timme, V. Puech-Pages, C. Dunand, E. Lecompte, C. F. Delwiche, K. Yoneyama, G. Bécard & N. Séjalon-Delmas: New Phytol., 195, 857 (2012)..したがって種子植物以外の植物はKAI2ファミリーの遺伝子しかもたないにもかかわらずストリゴラクトンを受容してということになる.これらの植物がどのようにストリゴラクトンを受容しているかは不明である.

最近,根寄生植物ストライガがD14ファミリー遺伝子を特殊に進化させることにより宿主から分泌されたストリゴラクトンに応答して種子を発芽させる能力を獲得したことが報告された(22)22) C. E. Conn, R. Bythell-Douglas, D. Neumann, S. Yoshida, B. Whittington, J. H. Westwood, K. Shirasu, C. S. Bond, K. A. Dyer & D. C. Nelson: Science, 349, 5540 (2015)..種子植物であるストライガはD14KAI2それぞれのファミリーの遺伝子をもつが,遺伝子重複によってKAI2ファミリー遺伝子を大幅に増やし機能を多様化させた.そのうち,寄生性をもたない植物のKAI2とは配列が大きく異なるグループの遺伝子(KAI2d)がストリゴラクトンに応答して発芽を誘導させる機能をもつことが報告された.KAI2dグループではリガンド認識部位の構造が変化しており,D14のリガンド認識部位に類似している.そのため,KAI2dがストリゴラクトンを認識してほかの植物のKAI2と同じ下流を制御することで,ストライガは宿主から分泌されるストリゴラクトンを感受して発芽することができるようになったと考えられる(22)22) C. E. Conn, R. Bythell-Douglas, D. Neumann, S. Yoshida, B. Whittington, J. H. Westwood, K. Shirasu, C. S. Bond, K. A. Dyer & D. C. Nelson: Science, 349, 5540 (2015).図4図4■D14ファミリータンパク質の機能).

環境応答

植物はリンが欠乏すると根でのストリゴラクトン合成や輸送にかかわる遺伝子の発現を上昇させ,ストリゴラクトンの内生量や根からの分泌量を増加させる(5)5) Y. Seto, H. Kameoka, S. Yamaguchi & J. Kyozuka: Plant Cell Physiol., 53, 1843 (2012)..これは,根からのストリゴラクトン分泌を増加させてアーバスキュラー菌根菌との共生を促進するためであると解釈されている(23)23) J. A. López-Ráez, T. Charnikhova, V. Gómez-Roldán, R. Matusova, W. Kohlen, R. De Vos, F. Verstappen, V. Puech-Pages, G. Bécard, P. Mulder et al.: New Phytol., 178, 863 (2008)..アーバスキュラー菌根菌は植物のリン吸収を助けるため,植物はアーバスキュラー菌根菌との共生を促進することによりリン吸収を増やすことができる.また,ストリゴラクトン内生量の増加はさまざまなリン欠乏応答を誘導する.シロイヌナズナでは,リン欠乏への応答としてリン酸トランスポーターなどのいくつかの遺伝子の発現量が著しく増加するが,ストリゴラクトン関連遺伝子の変異体ではこれら遺伝子の発現が誘導されない(24)24) E. Mayzlish-Gati, C. De-Cuyper, S. Goormachtig, T. Beeckman, M. Vuylsteke, P. B. Brewer, C. A. Beveridge, U. Yermiyahu, Y. Kaplan, Y. Enzer et al.: Plant Physiol., 160, 1329 (2012)..また,多くの植物ではリン欠乏条件下で地上部の枝分かれが減少するが,ストリゴラクトン関連遺伝子の変異体では枝分かれが減少しない(25,26)25) W. Kohlen, T. Charnikhova, Q. Liu, R. Bours, M. A. Domagalska, S. Beguerie, F. Verstappen, O. Leyser, H. Bouwmeester & C. Ruyter-Spira: Plant Physiol., 155, 974 (2011).26) M. Umehara, A. Hanada, H. Magome, N. Takeda-Kamiya & S. Yamaguchi: Plant Cell Physiol., 51, 1118 (2010)..そのほかにも,典型的なリン欠乏応答として側根の増加,主根の伸長抑制,根毛の伸長促進,地上部に対する根の乾物重の割合の増加,アントシアニン合成の促進などが知られているが,ストリゴラクトン関連遺伝子の変異体ではこれらの応答が起こらない(27)27) S. Ito, T. Nozoye, E. Sasaki, M. Imai, Y. Shiwa, M. Shibata-Hatta, T. Ishige, K. Fukui, K. Ito, H. Nakanishi et al.: PLoS ONE, 10, e0119724 (2015)..したがって,これらのリン欠乏に対する応答はストリゴラクトンを介していることがわかる.車軸藻類や苔類,蘚類では,ストリゴラクトンを処理すると根毛の相同器官である仮根の伸長が促進され,ヒメツリガネゴケccd8変異体では逆に仮根が短くなる(16)16) P. M. Delaux, X. Xie, R. E. Timme, V. Puech-Pages, C. Dunand, E. Lecompte, C. F. Delwiche, K. Yoneyama, G. Bécard & N. Séjalon-Delmas: New Phytol., 195, 857 (2012)..仮根の伸長促進はリン欠乏時に見られる現象であることから,これらの植物においてもストリゴラクトンはリン応答に寄与している可能性が考えられる.

窒素に対する応答は植物種によって異なる.イネでは窒素欠乏に応答してストリゴラクトン合成量が増加し,ストリゴラクトン関連変異体では根の形態形成における窒素応答が抑制される(28)28) H. Sun, J. Tao, S. Liu, S. Huang, S. Chen, X. Xie, K. Yoneyama, Y. Zhang & G. Xu: J. Exp. Bot., 65, 6735 (2014)..しかし,窒素欠乏条件でもストリゴラクトン合成量に差が見られない種も多数ある(29)29) K. Yoneyama, X. Xie, H. I. Kim, T. Kisugi, T. Nomura, H. Sekimoto, T. Yokota & K. Yoneyama: Planta, 235, 1197 (2012).

ストリゴラクトンの合成や輸送にかかわる遺伝子が根で無機栄養欠乏に応答して発現誘導されるのに対して,ストリゴラクトンの信号伝達にかかわる遺伝子は光や糖によって発現が制御される.一般に,赤色光は枝分かれを促進し,赤外光は枝分かれを抑制する,ペチュニアではDAD2の発現が赤色光によって抑制され,赤外光によって促進される(30)30) R. S. Drummond, B. J. Janssen, Z. Luo, C. Oplaat, S. E. Ledger, M. W. Wohlers & K. C. Snowden: Plant Physiol., 168, 735 (2015)..また,光合成や糖も枝分かれを促進するが,シロイヌナズナのトランスクリプトーム解析により強光や糖処理によってMAX2AtD14の発現が抑制された(31)31) D. Osuna, B. Usadel, R. Morcuende, Y. Gibon, O. E. Bläsing, M. Höhne, M. Günter, B. Kamlage, R. Trethewey, W. R. Scheible et al.: Plant J., 49, 463 (2007)..これらの遺伝子の発現変動と枝分かれ制御との因果関係は十分に検証されてはいないが,光や糖がストリゴラクトン信号伝達経路の遺伝子発現制御を介して枝分かれを制御している可能性が考えられる.

おわりに

ストリゴラクトンの研究は数年で急速に進展したが,本文中にも書いてきたように残されている謎も多い.特に,ストリゴラクトンが植物ホルモンとしての機能と種間の情報伝達因子としての機能を併せ持つことや,ストリゴラクトン信号伝達経路で働く遺伝子が未知のホルモンの信号伝達も担っている可能性があることから,ストリゴラクトンやその信号伝達経路の進化は非常に興味深い問題である.また,ストリゴラクトンと環境応答に関して多数の論文が報告されているが,情報は断片的であり,本稿では取り上げなかったものもある.今後,これらの知見が整理されていくことで,植物の環境応答におけるストリゴラクトンの役割に関する理解がさらに深まるものと期待される.

Reference

1) C. E. Cook, L. P. Whichard, B. Turner, M. E. Wall & G. H. Egley: Science, 154, 1189 (1966).

2) K. Akiyama, K. Matsuzaki & H. Hayashi: Nature, 435, 824 (2005).

3) M. Umehara, A. Hanada, S. Yoshida, K. Akiyama, T. Arite, N. Takeda-Kamiya, H. Magome, Y. Kamiya, K. Shirasu, K. Yoneyama et al.: Nature, 455, 195 (2008).

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