農芸化学@High School

微生物酵素による色素脱色作用に関する研究

伊藤 夢人

愛媛県立新居浜工業高等学校 ◇ 〒792-0004 愛媛県新居浜市北新町8番1号

Niihama Technical High School ◇ Kita-Shinmachi 8-1, Niihama-shi, Ehime 792-0004, Japan

古谷 秀斗

愛媛県立新居浜工業高等学校 ◇ 〒792-0004 愛媛県新居浜市北新町8番1号

Niihama Technical High School ◇ Kita-Shinmachi 8-1, Niihama-shi, Ehime 792-0004, Japan

Published: 2015-11-20

本研究は,日本農芸化学会2015年度大会(開催:岡山大学津島キャンパス)の「ジュニア農芸化学会2015」で発表されたものである.発表者らは,地域産業に貢献しうる研究を展開している.具体的には,タオルや製紙の生産過程で出る染料廃水を処理するため,微生物酵素を活用した染料の脱色に取り組んでいる.今回の発表は,発表者らの先輩たちが残した成果をさらに発展させるものである.

本研究の目的,方法および結果

目的

発表者らが学んでいる愛媛県はタオルと製紙の産業が盛んである.タオルや紙の生産過程には染色工程がある.そこで問題となってくるのが染料廃水である.発表者らの先輩たちは,染料廃水への対処方法として,微生物酵素による染料脱色を思いついた.そして,自然界からグラム陰性細菌,Chryseobacterium daecheongense KIT-56株を単離し,本菌株由来の抽出液が染料の中でも特にアゾ染料の脱色に有効であることを示した(1)1) 学校法人神奈川大学広報委員会 全国高校生理科・科学論文大賞専門委員会編:“未来の科学者との対話X—第10回神奈川大学全国高校生理科・科学論文大賞受賞作品集—”日刊工業新聞,2012..さらに,本菌株を活用した染料廃水処理装置を考案し,特許を取得している(2)2) 特許第5504396号,2014.3.28.

現在のところ,発表者らは本菌株がアゾ染料に対して脱色作用のある酵素を生産していると考えている.しかし本菌株の抽出液では,アゾ染料と並んでタオルや紙の染色工程でよく用いられるアントラキノン染料を脱色することができないことがわかっている.そこで本研究では,新たにシイタケなどの廃菌床の抽出液がアントラキノン染料を脱色しうるかどうか調べた.

方法および結果

シイタケなどの廃菌床抽出液の調製

シイタケ,ヒラタケ,ヒマラヤヒラタケ,およびキクラゲの廃菌床(森産業株式会社より譲渡)100 gに対し精製水1,000 mLを加えた.その後,20秒間ミキサーにかけ,そのろ過液をシイタケなどの廃菌床抽出液として以下の実験に用いた.

シイタケ廃菌床抽出液によるアントラキノン染料の脱色条件

最適pH

シイタケ廃菌床抽出液による脱色の条件を知るため,まず最適pHを検討した.pH 1.8~5.0の2 Mクエン酸–1 Mリン酸緩衝液を調製し,シイタケ廃菌床抽出液4.0 mL,緩衝液0.5 mL,0.1%のアントラキノン染料であるレマゾールブリリアントブルーR(RBBR)0.5 mLを混和し,30°Cにて2時間反応させた.その後,RBBRの最大吸収波長である595 nmの吸光度の消長を吸光光度計(UV-2550,株式会社島津製作所製)で測定し,吸光度の低下,すなわちRBBRの分解を脱色と定義して,脱色率を求めた.なお,脱色率の計算方法は,脱色率〔%〕=100−{(吸光度−ブランク)/(失活処理の吸光度−ブランク)×100}とした.

その結果,最も脱色率が高い条件は,pH 2.6であることがわかった(図1A図1■シイタケ廃菌床抽出液によるRBBRの脱色条件).

図1■シイタケ廃菌床抽出液によるRBBRの脱色条件

A. 最適pH,B. 最適温度

最適温度

シイタケ廃菌床抽出液による脱色の条件を知るため,さらに最適温度も検討した.最適pHを検討したときと同様の方法により,温度を5~50°Cと変えてpH 2.6にて2時間反応させた.その結果,最も脱色率が高い条件は,30°Cであることがわかった(図1B図1■シイタケ廃菌床抽出液によるRBBRの脱色条件).

シイタケ以外の廃菌床抽出液によるRBBRの脱色

シイタケ廃菌床抽出液でRBBRを脱色することができたので,そのほかの廃菌床抽出液でも同様に脱色できるかどうか調べた.シイタケと同様に,ヒラタケ,ヒマラヤヒラタケ,およびキクラゲの廃菌床から抽出液を得た.シイタケ廃菌床抽出液によるRBBR脱色でわかった最適条件(pH 2.6および30°C)でRBBR脱色活性を測定し,それぞれの抽出液によるRBBR脱色率を求めた.その結果,シイタケ廃菌床抽出液以外はRBBRをほとんど脱色しないことがわかった(図2図2■シイタケ以外の廃菌床抽出液によるRBBRの脱色).

図2■シイタケ以外の廃菌床抽出液によるRBBRの脱色

本研究の意義と展望

本研究によって,シイタケ廃菌床抽出液にはアントラキノン染料を脱色しうる酵素が含まれることがわかった.今後は,シイタケ廃菌床抽出液からアントラキノン染料の分解を触媒する酵素を精製して,その実体を明らかにするとともに,酵素による脱色の作用機構を知る手掛かりが得られることを期待する.

本研究は,シイタケ廃菌床を利用して,地域のタオル・製紙産業にかかわる問題点の解決を図ろうとする試みである.いずれの産業とも発表者らにとって身近な存在である.ジュニア農芸化学会は,このように身近な題材を対象に,高校生が抱いた疑問を解き明かすことを目的としている.本研究では問題解決にあたり,実験のデザインから実行,そして結果の解釈まで豊かな洞察力を発揮して研究を進めている.今後のますますの発展を期待したい.

(文責「化学と生物」編集委員)

Reference

1) 学校法人神奈川大学広報委員会 全国高校生理科・科学論文大賞専門委員会編:“未来の科学者との対話X—第10回神奈川大学全国高校生理科・科学論文大賞受賞作品集—”日刊工業新聞,2012.

2) 特許第5504396号,2014.3.28.