思い出コラム

ご受賞を祝して

Masami Ishibashi

石橋 正己

千葉大学大学院薬学研究院創成薬学研究部門 ◇ 〒260-8675 千葉県千葉市中央区亥鼻一丁目8番1号

Division of Drug Development Science, Faculty of Pharmaceutical Sciences, Chiba University ◇ Inohana 1-8-1, Chuo-ku, Chiba-shi, Chiba 260-8675 Japan

Published: 2015-12-20

その日が来たらすぐ行こうと数年前から心に決めていました.10月5日午後6時半過ぎ,ノーベル財団ウェブサイトで大村 智先生ご受賞決定を知るなり,私は千葉を飛び出し北里に向かいました.午後8時半からの記者会見に間に合い,会場で,受賞決定直後の大村先生の生のお姿と記者会見での貴重でかつユーモアあふれるお話にじかに接することができ,たいへん幸せな時間を過ごさせていただきました.

大村先生このたびのご受賞誠におめでとうございます.数年前から心に決めていたことが現実となり本当にうれしいです.翌朝のNHKニュース「おはよう日本」でもトップで紹介され,記者会見場での私の後姿もしっかり写っていました.

さて,「思い出コラム」に拙文を載せていただける機会を賜りたいへん光栄です.私は1988年4月に前勤務先でのポスドクの任期が終了し,行き場所がなくて困っていたところを北里研究所で拾っていただきました.大村先生にはお忙しいなか,面接の機会も設けていただき,その場で直ちに「わかった.いいよ」とおっしゃっていただきました.自分のやりたかった天然物化学の研究を継続することができることになり感謝の気持ちでいっぱいでした.北里研究所では小宮山寛機先生のグループで放線菌・カビからの殺細胞活性物質の探索研究に加えていただき,船山信次先生ほか多くの先生方にご指導いただきました.1年間という短い期間でしたが,その間に放線菌KO-3988株からフラキノシンという新規活性成分の単離・構造決定,生合成に関する研究などを行いました.フラキノシンはナフトキノン環にイソプレノイド鎖が結合したハイブリッド型構造をもち,後に全合成研究や生合成遺伝子研究の対象として国内外の多くの研究者により活発に研究が展開されました.一方,新規化合物だけでなく,ピエリシジン,アンチマイシン,サンギバマイシンなど多くの既知化合物を単離したことも,その後に天然物の単離・構造決定研究を続けていくうえで大切な経験となりました.

そのような研究経験をもとにして,現在千葉大学においても生物活性天然物の探索を続けています.種々の生命現象や疾患にかかわる細胞シグナルを標的としたスクリーニングを基盤として,天然物の単離・構造決定,合成化合物ライブラリー構築,細胞アッセイ,細胞応答解析,作用発現分子機構の解析など,一連の包括的なケミカルバイオロジーの展開を目指して研究しています.放線菌も研究材料として扱っており,これまでに主に千葉県産の土壌から分離した菌株から種々の新規芳香族複素環化合物を見いだしてきました.

大村先生にはいつも折りに触れて温かいお言葉をかけていただき,また多岐にわたって多大なるご支援を賜りました.改めて深く感謝申し上げますとともに,先生の今回のご受賞を心よりお祝い申し上げます.