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共役脂肪酸の多様な機能性とその利用臨床利用への足掛かり

Kazuaki Kishita

木下 和昭

宮崎大学大学院農学工学総合研究科 ◇ 〒889-2192 宮崎県宮崎市学園木花台西一丁目1番地

Graduate School of Agriculture and Engineering, University of Miyazaki ◇ Gakuen Kibanadai-Nishi 1-1, Miyazaki-shi, Miyazaki 889-2192, Japan

Shota Nomiyama

野見山 将太

宮崎大学大学院農学工学総合研究科 ◇ 〒889-2192 宮崎県宮崎市学園木花台西一丁目1番地

Graduate School of Agriculture and Engineering, University of Miyazaki ◇ Gakuen Kibanadai-Nishi 1-1, Miyazaki-shi, Miyazaki 889-2192, Japan

Masao Yamasaki

山崎 正夫

宮崎大学大学院農学工学総合研究科 ◇ 〒889-2192 宮崎県宮崎市学園木花台西一丁目1番地

Graduate School of Agriculture and Engineering, University of Miyazaki ◇ Gakuen Kibanadai-Nishi 1-1, Miyazaki-shi, Miyazaki 889-2192, Japan

Published: 2016-01-20

脂肪酸は生体内においてエネルギー源として用いられ,生体を構成する多様な脂質の部分構造でもある.一方,魚油に含まれるエイコサペンタエン酸,ドコサヘキサエン酸の血中脂質の改善作用を例とした,機能性の面でも脂肪酸は注目されている.

機能性脂肪酸の一つとして注目を集めているのが共役脂肪酸である.共役脂肪酸とは,その炭素鎖構造中に共役構造を有するもので,同一の組成式でもいくつかの構造異性体が存在する.特に1980年代に抗変異原活性や発がん抑制作用が報告された共役リノール酸(Conjugated Linoleic Acid;CLA)は多くの機能性について報告がなされている.CLAとして反芻動物の肉や乳に含まれるc9,t11-CLA,リノール酸をアルカリ条件下で熱処理するとc9,t11-CLAとおよそ1 : 1の割合で得られるt10,c12-CLAが主に知られている.多くの場合c9,t11-CLAよりt10,c12-CLAのほうが生理活性が強く,CLAは異性体によって機能性が異なることも多い.たとえば,c9,t11-CLAはインスリン抵抗性の改善作用,アテローム性動脈硬化症や炎症性腸疾患(IBD)の予防作用が報告されている.一方,t10,c12-CLAは体脂肪量を減少させる抗肥満作用や抗がん作用が報告されている.

本稿ではCLAの抗がん作用に特に注目したい.CLAは低濃度で増殖抑制を示し,乳がん,皮膚がん,結腸がん,肺がん,肝がんなどのさまざまながん細胞においてin vitroで抗腫瘍作用を示す.この抗腫瘍作用はマウスやラットといった動物試験でも確認されている.抗腫瘍作用は細胞周期調節による細胞増殖抑制とミトコンドリアを介したアポトーシスなどの細胞死誘導機構により発揮される.たとえば,ヒト結腸がん細胞株HT-29でt10,c12-CLAは濃度依存的にG1期停滞を引き起こし(1)1) H. J. Cho, E. J. Kim, S. S. Lim, M. K. Kim, M. K. Sung, J. S. Kim & J. H. Park: J. Nutr., 136, 893 (2006).,さらにp53変異TM4tマウス乳がん細胞株でアポトーシス抑制タンパク質Bcl-2の発現阻害を引き起こし,アポトーシスを誘導する(2)2) L. Ou, C. Ip, B. Lisafeld & M. M. Ip: Biochem. Biophys. Res. Commun., 356, 1044 (2007)..またCLAのアポトーシス誘導機構には小胞体ストレスがかかわることが示唆されており,小胞体ストレスマーカーの発現や小胞体ストレス応答により誘導されるアポトーシス促進タンパク質であるCHOPの発現増加が報告されている(3)3) A. S. Pierre, M. Minville-Walz, C. Fèvre, A. Hichami, J. Gresti, L. Pichon, S. Bellenger, J. Bellenger, F. Ghiringhelli, M. Narce et al.: Biochim. Biophys. Acta, 1831, 759 (2013)..またt10,c12-CLAは,血管新生阻害や細胞間接着分子ICAM-1,浸潤にかかわるMMP-2の発現減少を引き起こすことによりがん転移抑制にも働くと考えられる(4, 5)4) C. Bocca, F. Bozzo, S. Cannito, S. Colombatto & A. Miglietta: Chem. Biol. Interact., 183, 187 (2010).5) L. S. Wang, Y. W. Huang, Y. Sugimoto, S. Liu, H. L. Chang, W. Ye, S. Shu & Y. C. Lin: Anticancer Res., 25(6B), 4061 (2005)..さらに,共役リノレン酸であるエレオステアリン酸(18 : 3 ; c9,t11,t13-リノレン酸)はG2/M期停滞やカスパーゼ依存的なアポトーシスを引き起こす(6)6) M. E. Grossmann, N. K. Mizuno, M. L. Dammen, T. Schuster, A. Ray & M. P. Cleary: Cancer Prev. Res. (Phila.), 2, 879 (2009)..またジャカル酸(18 : 3 ; c8,t10,c12-リノレン酸)はCLAよりさらに低用量で抗腫瘍活性を示すことが報告されていることから(7)7) M. Yamasaki, C. Motonaga, M. Yokoyama, A. Ikezaki, T. Kakihara, R. Hayasegawa, K. Yamasaki, M. Sakono, Y. Sakakibara, M. Suiko et al.: J. Oleo Sci., 62, 925 (2013).,共役リノレン酸の抗がん作用も期待されている.

しかしながら,t10,c12-CLAはc9,t11-CLAに比べて吸収後に体内での代謝を受けやすく,t10,c12-CLAとc9,t11-CLAが同量含まれるCLA食を与えたマウス(8)8) A. Białek, A. Tokarz, A. Dudek, W. Kazimierska & W. Bielecki: Lipids Health Dis., 9, 126 (2010).やCLAサプリメントを数週間摂取したヒト試験(9, 10)9) K. Sato, N. Shinohara, T. Honma, J. Ito, T. Arai, N. Nosaka, T. Aoyama, T. Tsuduki & I. Ikeda: J. Nutr. Sci. Vitaminol. (Tokyo), 57, 364 (2011).10) S. N. Zlatanos, K. Laskaridis & A. Sagredos: Lipids Health Dis., 7, 34 (2008).において,試験中および試験終了時の血中ではt10,c12-CLAはc9,t11-CLAのおよそ半分以下の量しか存在しないことが明らかになっている.そのため,CLAの多様な機能の有効性をより強固にするためには,t10,c12-CLAの代謝速度を考慮した戦略が必要と考えられる.ここでは,「エマルション化技術」にフォーカスし,この技術を利用した共役脂肪酸の安定性や吸収効率の改善によるバイオアベイラビリティーの向上,そして薬剤との併用による作用増強を取り上げる.

一般的に水中に油滴粒子が安定して分散することでO/Wエマルションとなるが,粒子径が小さいマイクロ,ナノエマルションになるとさらに安定性が増加する.また,ナノエマルションにすることで表面積が増加するため標的細胞との相互作用が起こりやすくなり,細胞への取り込み効率も向上する.共役脂肪酸はその構造のために酸化を受けやすいという特徴があるが,エマルション化させることで脂肪酸の安定性を向上させ,標的とする組織や細胞にそのままの形で取り込ませることでバイオアベイラビリティーが改善したことがエレオステアリン酸で報告されている(11)11) D. Paul, S. Mukherjee, R. Chakraborty, S. K. Mallick & P. Dhar: Colloids Surf. B: Biointerfaces, 126, 426 (2015)..腸管組織での吸収もまた同様であり,ナノエマルションを含む微粒子では比較的速やかに吸収されることがわかっている.この特徴を利用し,CLAの体脂肪減少作用や血中トリグリセリド濃度の減少作用はCLAをナノエマルションにすることで効果的に発現することも観察されている(12)12) D. Kim, J. H. Park, D. J. Kweon & G. D. Han: Int. J. Nanomedicine, 8, 451 (2013)..また,当研究室においてもCLAナノエマルションを作製しており,炎症性疾患を標的としたCLAによる抗炎症性の向上に関する評価を進めている(図1図1■共役脂肪酸の構造,生理機能とナノエマルション化技術を利用した機能増強).

図1■共役脂肪酸の構造,生理機能とナノエマルション化技術を利用した機能増強

CLA,エレオステアリン酸やジャカル酸といった共役脂肪酸はさまざまな生理機能をもっており,いくつかの作用においては極めて強い効果を発揮する.これらの脂肪酸をナノエマルション化技術により粒子化させることで,腸管吸収効率の上昇や脂溶性薬剤との併用により,さらに効率良く生理機能を発揮させることが期待できる.

抗がん作用において,CLAはタキサン系の抗がん剤の効果を増強することがわかっており,CLAとタキサン系抗がん剤であるパクリタキセル(PTX)を結合させたCLA-PTXはグリオーマ細胞の増殖を強く抑制する.さらにCLA側鎖によって血液脳関門を通過することができるため,PTX単独よりも生体内での作用効率が高い.このように,抗がん剤にCLAを結合させるだけでも相加あるいは相乗的な抗がん作用が期待されるが,CLA-PTXは低水溶性という問題がある.この問題もまたエマルション化によって解決されており,大豆油を使用したCLA-PTX含有エマルションはCLA-PTXの溶解性をクリアしつつ,CLA-PTXと同じように腫瘍増殖を抑制することが報告されている(13)13) D. Li, K. Yang, J. Si Li, X. Yu Ke, Y. Duan, R. Du, P. Song, K. Fu Yu, W. Ren, D. Huang et al.: Int. J. Nanomedicine, 7, 6105 (2012).

共役脂肪酸はある種の作用では強い効果を発揮するため,副作用などの安全性に関する情報が必要ではあるが,そのさまざまな生理活性は非常に有望なものである.これらの作用を効率的に発揮させるような技術開発は,共役脂肪酸の利用価値を大きく前進させることが期待される.

Reference

1) H. J. Cho, E. J. Kim, S. S. Lim, M. K. Kim, M. K. Sung, J. S. Kim & J. H. Park: J. Nutr., 136, 893 (2006).

2) L. Ou, C. Ip, B. Lisafeld & M. M. Ip: Biochem. Biophys. Res. Commun., 356, 1044 (2007).

3) A. S. Pierre, M. Minville-Walz, C. Fèvre, A. Hichami, J. Gresti, L. Pichon, S. Bellenger, J. Bellenger, F. Ghiringhelli, M. Narce et al.: Biochim. Biophys. Acta, 1831, 759 (2013).

4) C. Bocca, F. Bozzo, S. Cannito, S. Colombatto & A. Miglietta: Chem. Biol. Interact., 183, 187 (2010).

5) L. S. Wang, Y. W. Huang, Y. Sugimoto, S. Liu, H. L. Chang, W. Ye, S. Shu & Y. C. Lin: Anticancer Res., 25(6B), 4061 (2005).

6) M. E. Grossmann, N. K. Mizuno, M. L. Dammen, T. Schuster, A. Ray & M. P. Cleary: Cancer Prev. Res. (Phila.), 2, 879 (2009).

7) M. Yamasaki, C. Motonaga, M. Yokoyama, A. Ikezaki, T. Kakihara, R. Hayasegawa, K. Yamasaki, M. Sakono, Y. Sakakibara, M. Suiko et al.: J. Oleo Sci., 62, 925 (2013).

8) A. Białek, A. Tokarz, A. Dudek, W. Kazimierska & W. Bielecki: Lipids Health Dis., 9, 126 (2010).

9) K. Sato, N. Shinohara, T. Honma, J. Ito, T. Arai, N. Nosaka, T. Aoyama, T. Tsuduki & I. Ikeda: J. Nutr. Sci. Vitaminol. (Tokyo), 57, 364 (2011).

10) S. N. Zlatanos, K. Laskaridis & A. Sagredos: Lipids Health Dis., 7, 34 (2008).

11) D. Paul, S. Mukherjee, R. Chakraborty, S. K. Mallick & P. Dhar: Colloids Surf. B: Biointerfaces, 126, 426 (2015).

12) D. Kim, J. H. Park, D. J. Kweon & G. D. Han: Int. J. Nanomedicine, 8, 451 (2013).

13) D. Li, K. Yang, J. Si Li, X. Yu Ke, Y. Duan, R. Du, P. Song, K. Fu Yu, W. Ren, D. Huang et al.: Int. J. Nanomedicine, 7, 6105 (2012).