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直鎖状ポリユビキチン鎖生成酵素LUBACの阻害剤開発疾患治療からLUBACの新たな機能解明まで

Hiroki Sakamoto

坂本 裕樹

東京大学大学院薬学系研究科 ◇ 〒113-0033 東京都文京区本郷七丁目3番1号

Graduate School of Pharmaceutical Sciences, The University of Tokyo ◇ Hongo 7-3-1, Bunkyo-ku, Tokyo 113-0033, Japan

Kazuhiro Iwai

岩井 一宏

京都大学大学院医学研究科 ◇ 〒606-8501 京都府京都市左京区吉田近衛町

Graduate School of Medicine, Kyoto University ◇ Yoshida Konoe-cho, Sakyo-ku, Kyoto-shi, Kyoto 606-8501 Japan

Tetsuo Nagano

長野 哲雄

東京大学創薬オープンイノベーションセンター ◇ 〒113-0033 東京都文京区本郷七丁目3番1号

Open Innovation Center for Drug Discovery, The University of Tokyo ◇ Hongo 7-3-1, Bunkyo-ku, Tokyo 113-0033, Japan

Published: 2016-01-20

ユビキチンはすべての真核生物に存在する76アミノ酸から構成される小球状タンパク質であり,基質タンパク質に結合することでプロテアソーム依存的な分解に導く因子として広く知られている.しかし,近年の研究により,ユビキチンの機能はタンパク質の分解のみにとどまらず,多彩な様式でタンパク質の機能を調節する翻訳後修飾系であると認識されている.多くの場合,ユビキチンはポリマーであるポリユビキチン鎖としてタンパク質に結合することでその機能を制御するが,細胞内には多様な種類のユビキチン鎖が存在しており,その種類によってタンパク質の制御様式が異なると考えられている.これまで,ユビキチン鎖はユビキチン分子内に7個存在するリジン残基のいずれかのε-アミノ基と,ほかのユビキチンのC末端グリシン残基のカルボキシ基との結合により形成されると考えられてきたが,本稿のトピックである「直鎖状ポリユビキチン鎖」は,ユビキチンのリジン残基ではなくN末端のメチオニン残基のα-アミノ基を介して形成されるポリユビキチン鎖であり,HOIL-1L (heme-oxidized IRP2 ubiquitin ligase 1L), HOIP (HOIL-1L-interacting protein), SHARPIN (shank-associated RH domain-interacting protein)の3種のサブユニットから構成されるlinear ubiquitin chain assembly complex (LUBAC)ユビキチンリガーゼにより特異的に生成される(1, 2)1) T. Kirisako, K. Kamei, S. Murata, M. Kato, H. Fukumoto, H. Kanie, S. Sano, F. Tokunaga, K. Tanaka & K. Iwai: EMBO J., 25, 4877 (2006).2) F. Tokunaga, T. Nakagawa, M. Nakahara, Y. Saeki, M. Taniguchi, S. Sakata, K. Tanaka, H. Nakano & K. Iwai: Nature, 471, 633 (2011)..LUBACによる直鎖状ポリユビキチン鎖生成は,免疫応答のみならず,過剰活性化が発がんに関与することが知られている転写因子NF-κB (nuclear factor of κB)の活性化や,細胞死抑制に関与することが示されている(2)2) F. Tokunaga, T. Nakagawa, M. Nakahara, Y. Saeki, M. Taniguchi, S. Sakata, K. Tanaka, H. Nakano & K. Iwai: Nature, 471, 633 (2011)..加えて,LUBACの活性亢進はマウス骨肉種の肺転移(3)3) M. Tomonaga, N. Hashimoto, F. Tokunaga, M. Onishi, A. Myoui, H. Yoshizawa & K. Iwai: Int. J. Oncol., 40, 409 (2012).やある種のヒトB細胞リンパ腫の発症(4)4) Y. Yang, R. Schmitz, J. Mitala, A. Whiting, W. Xiao, M. Ceribelli, G. W. Wright, H. Zhao, Y. Yang, W. Xu et al.: Cancer Discov., 4, 480 (2014).,汎用されている抗がん剤シスプラチンへの耐性に関与すること(5)5) C. Mackay, E. Carroll, A. F. Ibrahim, A. Garg, G. J. Inman, R. T. Hay & A. F. Alpi: Cancer Res., 74, 2246 (2014).などが報告されており,LUBACは有力な抗がん剤のターゲットであると考えられる.

上述のような背景を踏まえ,筆者らはLUBACの酵素活性阻害剤を探索した.LUBACの酵素活性中心はHOIPのC末端領域に存在し,HOIL-1LとSHARPINはその補助サブユニットである.LUBACは分子量約600 kDaの大きな複合体であり,ハイスループットスクリーニングを施行するために十分な精製タンパク質を得ることは困難であった.そこで,大腸菌発現系を用いて大量に発現・精製が可能である直鎖状ポリユビキチン鎖伸長活性をもつLUBACの部分配列を検索し,HOIPのC末端部分とHOIL-1LあるいはSHARPINのHOIP結合領域からなるpetit-LUBAC, petit-SHARPINを作製した.それらを用いておよそ14万の小分子化合物のスクリーニングをした結果,LUBACの酵素活性を阻害する化合物としてグリオトキシンを見いだした(6)6) H. Sakamoto, S. Egashira, N. Saito, T. Kirisako, S. Miller, Y. Sasaki, T. Matsumoto, M. Shimonishi, T. Komatsu, T. Terai et al.: ACS Chem. Biol., 10, 675 (2015).図1図1■グリオトキシンはLUBACを阻害することによりNF-κBの活性化を抑制する).同化合物は,試験管内においてLUBACの酵素活性中心であるHOIPのC末端領域に結合することが確認されており,petit-LUBAC, petit-SHARPINのみならず,LUBAC全長の直鎖状ポリユビキチン鎖生成活性も阻害することが示されている.さらに,グリオトキシンを添加することでヒトT細胞株であるJurkat細胞のTNF-α刺激依存的なNF-κB活性化が抑制された.グリオトキシンはNF-κB活性化阻害剤として以前より知られていたが,その詳細なメカニズムや標的分子は不明であった.LUBACによる直鎖状ポリユビキチン鎖生成はIKK (IκB kinase)複合体の活性化を通じてNF-κBの活性化へと導くが,筆者らはグリオトキシンがTNF-α刺激依存的なIKK複合体の活性化を抑制することを示し,グリオトキシンはLUBACを阻害することでNF-κB活性化を抑制することを明らかにした.加えて,グリオトキシンを添加することによりTNF-αやシスプラチン依存的な細胞死が亢進することも観察しており,LUBAC阻害剤の創薬への応用可能性が期待される.

図1■グリオトキシンはLUBACを阻害することによりNF-κBの活性化を抑制する

グリオトキシンがLUBACの活性を阻害するという発見は病理的にも意義深い.なぜなら,グリオトキシンは臨床的によく見られる日和見感染症であるアスペルギールス症の原因真菌Aspergillus fumigatusなどが産生する二次代謝産物であり,その病原性に深く関与する病原性因子として知られているためである.NF-κBが免疫応答においても中核的な役割を果たす転写因子であることを鑑みると,LUBACによる直鎖状ポリユビキチン化がAspergillus fumigatusなどの真菌に対する感染防御時においても中心的な役割を果たしていることが予想される.

グリオトキシンによるLUBAC活性の阻害がNF-κB活性化を抑制するとともに,細胞死を亢進させるという結果は,がんなどの疾患への治療におけるLUBAC阻害剤の有効性を強く示唆するものである.また,LUBACの酵素活性はシスプラチンのみならず,ほかの汎用されている抗がん剤であるエトポシドやドキソルビシンへの抵抗性にも関与することが示唆されているため,LUBAC阻害剤の適用範囲がさらに拡大することが期待される.しかし,高濃度のグリオトキシンを添加すると,LUBAC以外にもさまざまなタンパク質と結合してそれらの活性を阻害することが示されているため,LUBACに高い選択性をもち,非特異的な阻害による副作用の少ない薬剤を開発することが望まれる.

Reference

1) T. Kirisako, K. Kamei, S. Murata, M. Kato, H. Fukumoto, H. Kanie, S. Sano, F. Tokunaga, K. Tanaka & K. Iwai: EMBO J., 25, 4877 (2006).

2) F. Tokunaga, T. Nakagawa, M. Nakahara, Y. Saeki, M. Taniguchi, S. Sakata, K. Tanaka, H. Nakano & K. Iwai: Nature, 471, 633 (2011).

3) M. Tomonaga, N. Hashimoto, F. Tokunaga, M. Onishi, A. Myoui, H. Yoshizawa & K. Iwai: Int. J. Oncol., 40, 409 (2012).

4) Y. Yang, R. Schmitz, J. Mitala, A. Whiting, W. Xiao, M. Ceribelli, G. W. Wright, H. Zhao, Y. Yang, W. Xu et al.: Cancer Discov., 4, 480 (2014).

5) C. Mackay, E. Carroll, A. F. Ibrahim, A. Garg, G. J. Inman, R. T. Hay & A. F. Alpi: Cancer Res., 74, 2246 (2014).

6) H. Sakamoto, S. Egashira, N. Saito, T. Kirisako, S. Miller, Y. Sasaki, T. Matsumoto, M. Shimonishi, T. Komatsu, T. Terai et al.: ACS Chem. Biol., 10, 675 (2015).