解説

黄麹菌A. oryzaeのタンパク質分解酵素

Proteolytic Enzymes of A. oryzae

Youhei Yamagata

山形 洋平

東京農工大学大学院農学研究院 ◇ 〒183-8509 東京都府中市幸町三丁目5番8号

Institute of Agriculture, Tokyo University of Agriculture and Technology ◇ Saiwai-cho 3-5-8, Fuchu-shi, Tokyo 183-8509, Japan

Published: 2016-01-20

黄麹菌Aspergillus oryzaeのゲノム解析の結果,約130種のタンパク質分解酵素遺伝子が存在することが明らかとなってきた.この数は,同時期に発表されたAspergillus属のなかでは最大の数であった.麹菌タンパク質分解酵素の産業的重要性が高いことを考え,これらの酵素の酵素化学的性質を明らかにすることを試みている.これまでの結果からは,今までに麹菌では見つかっていなかった性質をもつ酵素がいくつも存在することがわかってきた.また,菌株による基質特異性の違いも示されてきた.これらの新しい酵素が産業的に利用されることを願って,麹菌タンパク質分解酵素の概要を解説する

黄麹菌A. oryzaeのタンパク質分解酵素

麹菌は,古くからわが国で醸造や醗酵に用いられてきた有用な糸状菌である(1)1) K. Kitamoto: Adv. Appl. Microbiol., 51, 129 (2002)..醸造や醗酵に用いられてきたのは,さまざまな有用酵素の生産能に優れているからである.この酵素の生産能を利用して,麹菌をタンパク質の生産用ホストとして用いる試みがさまざまに行われている(2~4)2) J. Yoon, J. Maruyama & K. Kitamoto: Appl. Microbiol. Biotechnol., 89, 747 (2011).4) M. Tanaka, M. Tokuoka, T. Shintani & K. Gomi: Appl. Microbiol. Biotechnol., 96, 1275 (2012)..麹菌と一口に言っても黄麹菌,醤油麹菌,黒麹菌,白麹菌などさまざまな種類があるが,これら麹菌を日本醸造学会は,わが国の伝統的醸造・醗酵食品生産やユネスコ無形文化遺産にも認められた「和食文化の形成」を担い,今後ますます産業的に重要な役割を果たす重要な菌であることから「国菌」と認定した(5)5) 日本醸造協会:麴菌をわが国の「国菌」に認定する,http://www.jozo.or.jp/koujikinnituite2.pdf

黄麹菌は,有性生殖世代が見いだされていない不完全菌であり,遺伝学的解析や育種に関する知見がほとんどなかったが,2001年に国内の研究者,民間企業,独立行政法人研究機関などが共同して,EST解析を行った(6)6) T. Akao, M. Sano, O. Yamada, T. Akeno, K. Fujii, K. Goto, S. Ohashi-Kunihiro, K. Takase, M. Yasukawa-Watanabe, K. Yamaguchi et al.: DNA Res., 14, 47 (2007)..EST解析の後,多くの麹菌研究者がゲノム解析の必要性を痛切に感じ,2005年には,黄麹菌Aspergillus oryzae RIB40株の全ゲノムDNAの配列を報告するに至った(7)7) M. Machida, K. Asai, M. Sano, T. Tanaka, T. Kumagai, G. Terai, K.-i. Kusumoto, T. Arima, O. Akita, Y. Kashiwagi et al.: Nature, 438, 1157 (2005)..このゲノム解析により黄麹菌には,約12,000の遺伝子が存在することが明らかにされた.

ゲノム解析の結果,黄麹菌には,134種類のタンパク質分解酵素遺伝子が存在することが明らかとなった(8)8) T. Kobayashi, K. Abe, K. Asai, K. Gomi, P. R. Juvvadi, M. Kato, K. Kitamoto, M. Takeuchi & M. Machida: Biosci. Biotechnol. Biochem., 71, 646 (2007)..ゲノム解析が行われる前に,よく知られていたタンパク質分解酵素の数は僅か20種程度であった(表1表1■ゲノム解析以前に知られていた主な黄麹菌タンパク質分解酵素).

タンパク質分解酵素は,国際酵素委員会によって,タンパク質やペプチド内部のペプチド結合を加水分解するエンドペプチダーゼとタンパク質やペプチドの末端に存在するペプチド結合を加水分解し,アミノ酸やジペプチド,トリペプチドなどを遊離するエキソペプチダーゼに分類されている(9)9) NC-IUBMB: Enzyme Nomenclature: http://www.chem.qmul.ac.uk/iubmb/enzyme/.エンドペプチダーゼは,さらに活性中心のタイプによって分類されており,セリン,システイン,アスパルティック,金属,スレオニン,未分類の6つに,エキソ型ペプチダーゼはN-末端,C-末端のどちらから作用するかという作用様式で分類されている.最近では,構造に基づくタンパク質分解酵素の分類体系であるMEROPSデータベースによるaspartic, cysteine, glutamic, metallo, asparagine, mixed, serine, threonine, unknownの9つの分類が構造研究においてはよく用いられる(10)10) J. Song, H. Tan, A. J. Perry, T. Akutsu, G. I. Webb, J. C. Whisstock & R. N. Pike: PLoS ONE, 7, e50300 (2012)..しかし,この分類では,エンド型とエキソ型の酵素が混在しているため,産業分野においては国際酵素委員会による分類が便利である.

表1■ゲノム解析以前に知られていた主な黄麹菌タンパク質分解酵素
TypesEnzyme names
Serine endopeptidasesOryzin(52)
Aorsin (Sedolisin family)(57)
Kexin(38)
Cystein endopeptidasePalB(61)
Metallo endopeptidaseNPI(45)
Deuterolysin (NPII)(50)
Aspartic endopeptidaseAspergillopepsin I(62)
AminopeptidasesLeu aminopeptidase I–IV(16–19)
Aminopeptidase(20)
Dipeptydyl peptidasesDipeptidyl peptidase IV(26)
Serine carboxypeptidasesCarboxypeptidase O,(32) O1, O2(34)
Acid carboxypeptidase I–IV(63–66)

これまでに,麹菌の酵素については,著名な先生方による総説がいくつもあるが(11~13),ゲノム解析終了後に明らかになってきた黄麹菌のプロテアーゼについて酵素学的性質を中心に紹介したい.

ゲノム解析によって明らかとなった黄麹菌(A. oryzae RIB40株)のタンパク質分解酵素遺伝子の数を表2表2■ゲノム解析によって推定された黄麹菌タンパク質分解酵素にまとめた.ゲノム解析修了後,われわれは,タンパク質分解酵素遺伝子のcDNA配列の再検討と酵素活性の解析を大規模に行い,スプライシング異常などにより機能をもつタンパク質として翻訳されていないことが明らかになったものなどを除外して,現在では,エキソ型ペプチダーゼが69種,エンド型ペプチダーゼが64種の計126種のタンパク質分解酵素が存在すると推定している.

表2■ゲノム解析によって推定された黄麹菌タンパク質分解酵素
EC numberNumber of genes
Exopeptidase69
Aminopeptidases3.4.11._21
Dipeptidases3.4.13._3
Dipeptidyl-peptidases and tripeptidyl-peptidases3.4.14._8
Peptidyl-dipeptidases3.4.15._0
Serine-type carboxypeptidases3.4.16._12
Metallo carboxypeptidases3.4.17._12
Unknown13
Subtotal69
Endopeptidase64
Serine endopeptidases3.4.21._11
Cysteine endopeptidases3.4.22._12
Aspartic endopeptidases3.4.23._14
Metallo endopeptidases3.4.24._17
Threonine endopeptidases3.4.25.17
Unknown3
Subtotal64
Total126

アミノペプチダーゼ

アミノペプチダーゼは,N-末端からアミノ酸を順次遊離する酵素である.現在は21種のアミノペプチダーゼ遺伝子が黄麹菌ゲノム中に存在するものと考えている.このなかでわれわれは,3種の菌体外ロイシンアミノペプチダーゼを見いだしている.このうち2つは,A. sojaeで報告されている酵素(14)14) H. R. Chien, L. Lin, S. Chao, C. Chen, W. Wang, C. Shaw, Y. Tsai, H. Hu & W. Hsu: Biochim. Biophys. Acta, 1576, 119 (2002).のオルソログであるLapA(15)15) M. Matsushita-Morita, S. Tada, S. Suzuki, R. Hattori, J. Marui, I. Furukawa, Y. Yamagata, H. Amano, H. Ishida, M. Takeuchi et al.: Curr. Microbiol., 62, 557 (2011).とLapAのアミノ酸配列と56%のidentityを示すLapBである.A. sojaeA. flavusは,LapAのオルソログしかもっておらず,A. fumigatus, A. nidulans, A. nigerなどは,LapBのオルソログしかもっていない.近縁種のなかではA. oryzaeだけがLapAとLapBの両方を有していた.LapAを麹菌で高発現させたところ,その分子質量は33  kDaとなり,既報のA. oryzae ATCC20386株由来のロイシンアミノペプチダーゼI~IV(16~19)16) T. Nakadai, S. Nasuno & N. Iguchi: Agric. Biol. Chem., 37, 757 (1973).19) T. Nakadai, S. Nasuno & N. Iguchi: Agric. Biol. Chem., 41, 1657 (1977).のいずれの分子質量(26.5, 61.0, 56.0, 130 kDa)とも異なっていた.至適pHをpH 8.5付近にもち,LeuやPheなどの疎水性アミノ酸や塩基性アミノ酸をN-末端から遊離する活性を示した.一方,Aspのような酸性のアミノ酸はN-末端から遊離できなかった.さらに,ジペプチドからのアミノ酸の遊離が見られなかったことから基質となるペプチドには3アミノ酸残基以上の長さが必要であると推定された.もう一つのLapBは,A. oryzae ATCC20386から見いだされた発色性基質Xaa-p-nitroanilide(pNA)のうちLeu-pNAを最もよく加水分解するが非常に特異性が低いaminopeptidase II(20)20) A. M. Blinkovsky, T. Byun, K. M. Brown, E. J. Golightly & A. V. Klotz: Biochim. Biophys. Acta, 1480, 171 (2000).と推定アミノ酸配列が同じ酵素である.この酵素は,Leu-pNA, Lys-pNA, Ala-pNA, Glu-pNAなどからアミノ酸を遊離することができ,Val-pNA, Pro-pNA, Ile-pNAなどに弱い活性をもつことがBlinkovskyらによって示されており,至適pHを9.5~10にもつ.

細胞内にも多種類のアミノペプチダーゼが存在した.DapAは,Watanabeらによって大腸菌で(21)21) J. Watanabe, H. Tanaka, T. Akagawa, Y. Mogi & T. Yamazaki: Biosci. Biotechnol. Biochem., 71, 2557 (2007).,また,楠本らにより麹菌(22)22) K.-i. Kusumoto, M. Matsushita-Morita, I. Furukawa, S. Suzuki, Y. Yamagata, Y. Koide, H. Ishida, M. Takeuchi & Y. Kashiwagi: J. Appl. Microbiol., 105, 1711 (2008).を宿主とした組換え酵素として発現された.Family M18に属するこの酵素は,Xaa-pNAを基質とした際に,いずれの場合もAsp-pNAを最も良い基質とし,次いでGlu-pNAを好む.それ以外のアミノ酸では,ほとんど活性が見られない.麹菌で発現させたDapAでアンジオテンシンIIを処理すると末端のAspが遊離し,アンジオテンシンIIIに変換されるが,それ以上の分解が見られず,この酵素がペプチド基質に対しても酸性アミノ酸を好む高い基質特性をもつことが明らかとなった.

細胞内には,基質特異性の高いアミノペプチダーゼがほかにも存在する.AspAとAspBは,いずれもリシルアミノペプチダーゼであった(23)23) J. Marui, M. Matsushita-Morita, S. Tada, R. Hattori, S. Suzuki, H. Amano, H. Ishida, Y. Yamagata, M. Takeuchi & K.-i. Kusumoto: World J. Microbiol. Biotechnol., 28, 2643 (2012)..2つの酵素のアミノ酸配列は,42%の同一性を示し,Xaa-pNAを基質とするといずれもLys-pNAを最も良い基質とし,次いでArg-pNA, Ala-pNA, Leu-pNA, Met-pNAの順に強い活性を示した.これ以外のXaa-pNA基質はほとんど分解できない点まで共通していた.しかし,ペプチドを基質とすると,2つの酵素の特異性の違いが明確に示された.AspAは,ほとんどN末端のLysしか遊離できないのに対して,AspBは,Lys-Glu-Thr-Tyr-Ser-Lysに反応させた際,同ペプチドのN末端から順次アミノ酸を遊離し,最後のSer–Lys間のペプチド結合も加水分解することができた.

基質特性が広いアミノペプチダーゼでも,N-末端からアミノ酸を順次遊離させていくうちに末端にPro残基が出現すると,そこから先の分解ができなくなってしまう.PamAは,Pro残基がN-末端に存在する際,そのPro残基を認識して遊離するプロリルアミノペプチダーゼであった(24)24) M. Matsushita-Morita, I. Furukawa, S. Suzuki, Y. Yamagata, Y. Koide, H. Ishida, M. Takeuchi, Y. Kashiwagi & K.-I. Kusumoto: J. Appl. Microbiol., 109, 156 (2010)..この酵素はヒドロキシプロリンに対しても同様の活性を示し,Pro残基が連続して(Pro-Pro-)N-末端に存在してもPro残基を遊離することができる酵素であった.

細胞内には,アミノ酸の立体異性体を認識することができる酵素も存在した.GdaAである(25)25) J. Marui, M. Matsushita-Morita, S. Tada, R. Hattori, S. Suzuki, H. Amano, H. Ishida, Y. Yamagata, M. Takeuchi & K.-I. Kusumoto: Appl. Microbiol. Biotechnol., 93, 655 (2012)..この酵素は,N-末端にGlyあるいはd-Alaが存在するとそれらを遊離する酵素で,活性中心にSerをもつfamily S12に属する.Gly-pNAを最もよく分解し,次いでd-Ala-pNAに対して高い活性を示す.l-Ala-pNAを加水分解することもできるが,d-Ala-pNAの13%程度にしか過ぎず,この酵素がグリシンd-アラニンアミノペプチダーゼであると結論した.

ジペプチジルペプチダーゼ

ジペプチジルペプチダーゼは,タンパク質やペプチドのN-末端からジペプチドを遊離する酵素であり,哺乳類で多数見いだされている.Tachiら(26)26) H. Tachi, H. Ito & E. Ichishima: Phytochemistry, 31, 3707 (1992).は,A. oryzae RIB915からこの酵素を見いだしている.この酵素は,Pro残基がN-末端から2番目に存在する(Xaa-Pro-)とそのアミノ末端からジペプチドを遊離する酵素である.われわれは,A. oryzae RIB 40株のこの酵素(DppB)について検討した(27)27) H. Maeda, D. Sakai1, T. Kobayashi, H. Morita, A. Okamoto, M. Takeuchi, K-i. Kusumoto, H. Amano, H. Ishida & Y. Yamagata: “Aspergillus oryzae has three extracellular dipeptidyl peptidases varying substrate specificities,” in submission..RIB40株のDppBは,A. fumigatusで報告されているDPP IV(28)28) A. Beauvais, M. Monod, J. Wyniger, J. P. Debeaupuis, E. Grouzmann, N. Brakch, J. Svab, A. G. Hovanessian & J. P. Latge: Infect. Immun., 65, 3042 (1997).に比べて厳密な特異性を示し,ProがN-末端から2番目にない基質からのジペプチドの遊離は困難であった.また,N-末端のアミノ酸には,側鎖があることが好ましいという条件もあった.A. oryzaeゲノム中には,さらに2種類の細胞外ジペプチジルペプチダーゼ遺伝子(dppE, dppF)が存在した.これらは,A. fumigatusには一つしかないAfDPP V(29)29) A. Beauvais, M. Monod, J. P. Debeaupuis, M. Diaquin, H. Kobayashi & J. P. Latge: J. Biol. Chem., 272, 6238 (1997).のオルソログをコードする遺伝子であった.これらをそれぞれA. nidulansを宿主として発現させたところ(27)27) H. Maeda, D. Sakai1, T. Kobayashi, H. Morita, A. Okamoto, M. Takeuchi, K-i. Kusumoto, H. Amano, H. Ishida & Y. Yamagata: “Aspergillus oryzae has three extracellular dipeptidyl peptidases varying substrate specificities,” in submission.,DppFは,AfDPPVによく似ており,N-末端から2番目にAlaのような小さなアミノ酸残基が存在する場合にジペプチドの遊離を示した.これに対して,DppEは,N-末端から2番目にPhe残基が存在する基質からジペプチドを遊離する能力が高く,これまでに知られているAfDPPVとは異なる基質特異性をもつことが明らかとなった.

セリンタイプカルボキシペプチダーゼ

黄麹菌には,12種のセリンタイプカルボキシペプチダーゼをコードする遺伝子が存在することがゲノム解析の結果明らかとなった.そのうちの9つが菌体外,一つが液胞型,一つがゴルジ体に存在するものと考えられた.よく研究されている菌体外セリンタイプカルボキシペプチダーゼの一つがA. oryzae TK3株のcarboxypeptidase Iである(30)30) A. M. Blinkovsky, T. Byun, K. M. Brown & E. J. Golightly: Appl. Environ. Microbiol., 65, 3298 (1999)..これに相当する酵素がRIB40株のCpIであることが推定アミノ酸配列と基質特異性の一致から明らかとなった(31)31) H. Morita, A. Okamoto, Y. Yamagata, K.-I. Kusumoto, Y. Koide, H. Ishida & M. Takeuchi: Appl. Microbiol. Biotechnol., 85, 335 (2009)..また,A. oryzae IAM2640から見いだされた固体培養特異的なcarboxypeptidase O(32)32) M. Takeuchi & E. Ichishima: Agric. Biol. Chem., 50, 633 (1986).の遺伝子ocpOを同定し(33)33) H. Morita, K. Kuriyama, N. Akiyama, A. Okamoto, Y. Yamagata, K.-I. Kusumoto, Y. Koide, H. Ishida & M. Takeuchi: Biosci. Biotechnol. Biochem., 74, 1000 (2010).,液体培養特異的なcarboxypeptidase O1, O2(34)34) M. Takeuchi, T. Ushijima & E. Ichishima: Curr. Microbiol., 7, 19 (1982).と類似した基質特性をもつ酵素としてOcpA, CcpB(31)31) H. Morita, A. Okamoto, Y. Yamagata, K.-I. Kusumoto, Y. Koide, H. Ishida & M. Takeuchi: Appl. Microbiol. Biotechnol., 85, 335 (2009).を見いだした.これら3種の酵素はいずれもN-アシル化ジペプチドやN-アミノアシル化トリペプチドを基質にした際にC-末端からアミノ酸を遊離させる能力をもち,アンジオテンシンIなどを基質とした際も同様にC-末端からアミノ酸を遊離する活性を示している.A. oryzae TK3株のCpIは,固体培養特異的にタンパク質が観察されたが,RIB40株での転写解析では,液体培養でもcpIからの転写がocpAocpBと同様に観察された.またocpBは硝酸ナトリウムのような無機窒素でもスキムミルクでも転写量にほとんど変化はないが,ocpAcpIは,硝酸ナトリウムによって,転写量が減少する傾向が見られ,窒素源の影響で転写に変化が生じることが明らかとなった.

ゴルジ体に存在すると推定されたカルボキシペプチダーゼは,酵母Saccharomyces cerevisiae Kex1p(35)35) A. Dmochowska, D. Dignard, D. Henning, D. Y. Thomas & H. Bussey: Cell, 50, 573 (1987).のオルソログであった.本酵素KexAは,酵母と同様にセリンエンドペプチダーゼの1種であるkexinとともにゴルジ体で働いて機能性ペプチドなどの成熟化に関与している(36)36) L. Thomas, A. Cooper, H. Bussey & G. Thomas: J. Biol. Chem., 165, 10821 (1990).のではないかと推定していたが,同酵素の膜貫通ドメインから下流を削除したタンパク質をA. nidulansで発現させ精製し,その性質を調べたところ,酵母Kex1pはLysやArgといった塩基性アミノ酸を遊離するという特異性を示すのに対して,黄麹菌KexAはLysやArgのみならず,Leuを遊離する活性を強く示した(37)37) H. Morita, S. Tomita, H. Maeda, A. Okamoto, Y. Yamagata, K.-I. Kusumoto, H. Amano, H. Ishida & M. Takeuchi: Appl. Environ. Microbiol., 78, 8145 (2012)..また,KexA欠損株を作製するとコロニーの形成が遅くなり,菌糸の分岐が少なくなった直線的な菌糸を形成した.また,分生子形成能が低下していた.酵母において,Kex1pと共同して働いていると考えられるkexinの黄麹菌でオルソログKexBの欠損株は,菌糸の分岐が増加し,短い菌糸しかできなくなる(38)38) O. Mizutani, A. Nojima, M. Yamamoto, K. Furukawa, T. Fujioka, Y. Yamagata, K. Abe & T. Nakajima: Eukaryot. Cell, 3, 1036 (2004).などKexA欠損株とは逆の表現型を示し,黄麹菌においては,KexAとKexBは,細胞壁の形成に関して,それぞれ独立して働いている可能性が示された.

アスパルティックエンドペプチダーゼ

黄麹菌には,11種のアスパルティックエンドペプチダーゼ(APase)遺伝子が存在すると推定された.A. nidulansA. fumigatusが7種のAPase遺伝子しかもっていないことを考えると,1.6倍もの酵素をもっていることになる.ホモロジーからAPaseは,菌体外型,膜結合型,液胞型の3つに分類される.菌体外型は5つ存在し(AOENA003, AOENA005, AOENA010, AOENA011, AOENA012),このうち,AOENA003がよく知られているPepOである(39)39) M. Takeuchi, K. Ogura, T. Hamamoto & Y. Kobayashi: Adv. Exp. Med. Biol., 392, 577 (1995)..これらのAPaseをA. nidulansを宿主とした発現系で発現させたところ,AOENA003, AOENA005, AOENA011の精製に成功した.PepOであるAOENA003とAOENA005はさまざまなタンパク質に作用させるとカゼイン,ヘモグロビン,ミオグロビン,クルペインなどにほぼ同様の活性を示し,広い基質特異性を示した(40)40) 岡本綾子,森田寛人,山形洋平,楠本憲一,小出芳直,石田博樹,竹内道雄:麹菌酸性プロテアーゼ群の発現および解析,2009年度日本農芸化学会大会要旨集,p. 114..一方,AOENA011は,これらのタンパク質に対して,ほとんど活性を示さなかったが,唯一ミオグロビンに対してSDS-PAGEで確認できる限定的な分解を示した.これら3つの酵素は,系統樹上では同一のブランチに存在する(図2図2■各黄麹菌A. oryzae RIB 40株の細胞外アスパルティックエンドペプチダーゼのアミノ酸配列による系統樹).なかでも,AOENA003とAOENA011は系統樹上最も近い位置に存在するパラログであり,AOENA005は,これら2つをコードする遺伝子が出現する以前に別れた遺伝子にコードされているものと考えられた.遺伝子の配列,イントロンの位置などからこれら3つの遺伝子は,遺伝子重複によって増加したものであると考えられた.これらの結果,AOENA011は,このグループのなかで新たに出現した基質特性の異なる酵素であると考えられた.

図1■各NpIの過ギ酸酸化インスリンに対する基質特異性

1) A. oryzae RIB40(7)7) M. Machida, K. Asai, M. Sano, T. Tanaka, T. Kumagai, G. Terai, K.-i. Kusumoto, T. Arima, O. Akita, Y. Kashiwagi et al.: Nature, 438, 1157 (2005).株由来NpI, 2) A. oryzae(47)47) K. Morihara: Adv. Enzymol. Relat. Areas Mol. Biol., 41, 179 (1974).由来NpI, 3) A. oryzae 3,042株(48)48) Y. Ke, W. Huang, J. Li, M. Xie & X. Luo: J. Agric. Food Chem., 60, 12164 (2012).由来NpI C*は,システイン酸を示す.

図2■各黄麹菌A. oryzae RIB 40株の細胞外アスパルティックエンドペプチダーゼのアミノ酸配列による系統樹

膜結合型のAPaseはGPI-アンカー型の酵素であると考えられた(40)40) 岡本綾子,森田寛人,山形洋平,楠本憲一,小出芳直,石田博樹,竹内道雄:麹菌酸性プロテアーゼ群の発現および解析,2009年度日本農芸化学会大会要旨集,p. 114..このうちの一つopsCはcDNAの塩基配列を調べると,予想とは異なる位置でスプライシングが生じていた.APaseの活性中心は2つのAspで構成されているが,この活性中心を形成する2つ目のAspが現れる前に終止コドンが出現することから,偽遺伝子ではないかと考えられた.残る2つのopsAopsBは,正しく翻訳されGPI-anchor型の酸性プロテアーゼとして酵母yapsin(41,42)41) I. Gagnon-Arsenault, J. Tremblay & Y. Bourbonnais: FEMS Yeast Res., 6, 966 (2006).と同様な働きをしているものと推測された.

グルタミンエンドペプチダーゼ

黄麹菌には,酸性側で働くグルタミンエンドペプチダーゼが3種(pipA, pipB, pipC)存在することがゲノム解析の結果から推定された.この酵素は,グルタミン酸とグルタミンを活性中心として用いている(43)43) M. Fujinaga, M. M. Cherney, H. Oyama, K. Oda & M. N. G. James: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 101, 3364 (2004)..これらの酵素をコードする遺伝子のうちpipBは,発現解析の結果,イントロンのスプライシングが生じないため,終止コドンが現れてしまい,活性のあるタンパク質としては発現しないものと考えられた.これ以外の2つの酵素は菌体外型で,Pichiaを宿主として高発現させ,酵素の精製を行ったところ,PipAは,カゼインを分解できないもののヘモグロビンやミオグロビンを分解する活性が見られた.一方,PipCのタンパク質分解活性は,カゼインなどを基質とした活性測定では,活性が検出できなかったものの,BSAを基質とするとSDS-PAGEで分解断片が検出されることから,限定的なタンパク質分解を行う高い基質特異性をもつ酵素であると考えられ(44)44) 竹内真理衣,岡本綾子,阿保春花,前田 浩,山形洋平,竹内道雄:麹菌ペプスタチン非感受性プロテアーゼの機能解析,2014日本農芸化学会大会要旨集,p. 1906.,詳細を検討している.

金属エンドペプチダーゼ

黄麹菌ゲノム中には,5つの細胞外金属エンドペプチダーゼをコードすると推定された遺伝子が見いだされた.そのうちの2つはサーモリシン型であり,残りの3つはデューテロリシン型であった.サーモリシン型の金属プロテアーゼは,NpI(45)45) T. Nakadai, S. Nasuno & N. Iguchi: Agric. Biol. Chem., 37, 2695 (1973).,NpIII(46)46) 特開2003-250586.である.特に,NpIはこれまでに非常によく研究され,ブタ・過ギ酸酸化インスリンB鎖に作用させると1Phe-↓-2Val, 5His-↓-6Leu, 10His-↓-11Leu, 14Ala-↓-15Leu, 16Tyr-↓-17Leu, 17Leu-↓-18Val, 23Gly-↓-24Phe, 24Phe-↓-25Phe, 25Phe-↓-26Tyrの9カ所の加水分解を触媒する(47)47) K. Morihara: Adv. Enzymol. Relat. Areas Mol. Biol., 41, 179 (1974).と報告されていた.KeらはA. oryzae 3.042株のNpIをPichiaで発現させ,同様の実験を行った結果,3Asn-↓-4Gln, 6Leu-↓-7Cys*,9Ser-↓-10His, 10His-↓-11Leu, 11Leu-↓-12Val, 17Leu-↓-18Val, 19Cys*-↓-20Gly, 24Phe-↓-25Pheの8カ所を加水分解すると報告した(48)48) Y. Ke, W. Huang, J. Li, M. Xie & X. Luo: J. Agric. Food Chem., 60, 12164 (2012)..これら2つの結果で一致するのは,10His-↓-11Leu, 17Leu-↓-18Val, 24Phe-↓-25Pheの3カ所だけであった.そこで,われわれは,A. oryzae RIB 40株のNp1をA. nidulansを宿主として発現,精製し,同様に過ギ酸酸化インスリンに対する基質特異性の検討を行ったところ,10His-↓-11Leu, 14Ala-↓-15Leu, 16Tyr-↓-17Leu, 23Gly-↓-24Phe, 24Phe-↓-25Pheの5カ所のみの切断が確認された.この結果は,Moruharaのレヴューに示された結果に近いものとなったが,A. oryzae RIB40株のNpIは,これまで考えられていたよりずっと特異性が高く,P1′-P2′に2つの連続した疎水性アミノ酸が存在するときのみペプチド結合を加水分解できる酵素であることが示された.同じA. oryzaeであっても3株それぞれの菌株が生産するNp1の基質特異性が大きく異なっていることが明らかとなった.

一方,RIB40株には,デューテロリシン型の酵素をコードする遺伝子が3種存在することが推定された.A. oryzaeを宿主として発現させたところ,一つは推定どおりのスプライシングがされておらず,活性の発現に必要なアミノ酸がすべて翻訳される前に終止コドンが出現してしまうため偽遺伝子であると考えられた.残りの2つ(NpIIaおよびNpIIb)について,それぞれ発現,精製を行った(49)49) Y. Yamagata, H. Maeda, K.-i. Kusumoto, Y. Koide, H. Ishida & M. Takeuchi: Comparison of low molecular mass metallo-endopeptidases in Aspergillus oryzae. The 25th Fungal Genetics Conference at Asilomar Fungal Program Book, p. 171.いずれの酵素もサルミン,クルペインなどの塩基性アミノ酸を良い基質とし,それ以外のタンパク質に対してはほとんど作用できなかった.RIB40株のNpIIaは,Tatsumiらが報告したA. oryzae ATCC20386株のNpIIのアミノ酸配列とは,2つのアミノ酸が異なっていた.このNpIIaはTatsumiらの報告(50)50) H. Tatsumi, S. Murakami, R. F. Tsuji, Y. Ishida, K. Murakami, A. Masaki, H. Kawabe, H. Arimura, E. Nakano & H. Motai: Mol. Gen. Genet., 228, 97 (1991).と同様,耐熱性が高く90°Cで処理しても80%,100°Cで処理した後でも85%の残存活性を示した.この高い耐熱性に関しては,土居らの報告でそのメカニズムが明らかにされている(51)51) Y. Doi, H. Akiyama, Y. Yamada, C. Ee, B. Lee, M. Ikeguchi & E. Ichishima: Protein Eng. Des. Sel., 17, 261 (2004)..一方,NpIIbは,NpIIaとアミノ酸配列で62%のidentityを示すが,NpIIaほど耐熱性が高くなく,80°Cで処理するとほぼ活性を失うが,100°Cでは10%程度の残存活性を示した.

セリンエンドペプチダーゼ

A. oryzae RIB40株には3つのセリンエンドペプチダーゼ遺伝子が存在する.一つは,菌体外プロテアーゼoryzinである.この酵素も古くから研究されており,基質特異性に関する報告も数多い(52, 53)52) K. Morihara & H. Tsuzuki: Arch. Biochem. Biophys., 129, 620 (1969).53) T. Nakadai, S. Nasuno & N. Iguchi: Agric. Biol. Chem., 37, 2685 (1973)..ほかの2つは,液胞に存在すると推定される酵母PrbI(54)54) C. M. Moehle, R. Tizard, S. K. Lemmon, J. Smart & E. W. Jones: Mol. Cell. Biol., 7, 4390 (1987).のオルソログとゴルジ体のkexin(38)38) O. Mizutani, A. Nojima, M. Yamamoto, K. Furukawa, T. Fujioka, Y. Yamagata, K. Abe & T. Nakajima: Eukaryot. Cell, 3, 1036 (2004).である.酵母kexinは,ペプチドホルモンであるα-ファクターやキラートキシン,さまざまなタンパク質などの成熟化に関与している(55)55) R. S. Fuller, R. E. Sterne & J. Thorner: Annu. Rev. Physiol., 50, 345 (1988)..黄麹菌では,その基質となるタンパク質やペプチドは明らかにできていないが,酵母と同様,黄麹菌のkexinは塩基性アミノ酸が2残基並んだ配列を認識した.KexAの項でも記載したが,この酵素の欠損は,細胞壁に深刻なダメージを与え,縮れて小さくなったコロニーしか形成できなくなり,菌糸は多分岐となり,分生子の形成が減少する.細胞壁を構成する多糖の合成にかかわる酵素に対するプロセッシング不全がこれらの原因ではないかと考えている.

セドリシンタイプセリンエンドペプチダーゼ

セリン,グルタミン酸,アスパラギン酸が活性中心を形成しているこの酵素(56)56) A. Wlodawer, M. Li, A. Gustchina, H. Oyama, B. M. Dunn & K. Oda: Acta Biochim. Pol., 50, 81 (2003).は,黄麹菌では,Leeらによってaorsinと名づけられた酵素が報告されている(57)57) B. Lee, M. Furukawa, K. Yamashita, Y. Kanasugi, C. Kawabata, K. Hirano, K. Ando & E. Ichishima: Biochem. J., 371, 541 (2003)..ゲノム中の検索から,もう一つの遺伝子が存在することが明らかとなった.これら2つを区別するためLeeらが見いだしていた酵素をaorsin A,新たに見いだされたものをaorsin Bとした(58)58) T. Katase, Y. Hoshi, Y. Koide, K. Yuuki, M. Takeuchi, Y. Yamagata, K.-I. Kusumoto & H. Ishida: Analysis of Putative Serine Proteases in Aspergillus oryzae. The 25th Fungal Genetics Conference at Asilomar Fungal Program Book, p. 174..Leeらは,aorsin Aは,固体培養でのみ発現し,液体培養では見られないことを報告している.その基質特異性は,Arg残基のC-末端側のペプチド結合を切断するという,clostripain様の活性を示し,わずかではあるがリジン残基やフェニルアラニン残基をも認識する.一方,aorsin Bは,aorsin Aとは異なり,AspやPheを主に認識し,僅かにArg残基などを認識する基質特異性の異なる酵素であったが,leupeptinで阻害されることや至適pHをpH 4付近にもつことは共通していた.

おわりに

黄麹菌のタンパク質分解酵素は,古くから醸造産業で利用されていたが,黄麹菌が分泌している約20種程度のタンパク質分解酵素の性質などが明らかになるのに,約半世紀以上かかった.ゲノム解析の結果,これまで半世紀以上かかって明らかになった酵素の数倍のタンパク質分解酵素遺伝子が黄麹菌ゲノムに存在することが明らかになった.私たちは,生化学の立場から,まずはこれらの酵素がどんな酵素なのか,酵素化学的な性質を知りたいと考え,東京農工大学(竹内,山形),食品総合研究所(楠本),天野エンザイム(小出,天野),月桂冠(石田)のチームで協力して多数の酵素の性質を明らかにしてきた.その結果,黄麹菌には,これまで知られていない基質特異性や酵素化学的をもつタンパク質分解酵素遺伝子が存在することが明らかとなってきた.また,私たちの解析とこれまでの黄麹菌のタンパク質分解酵素研究の結果とを比較して見ると,NpIのように同じNpIであり,アミノ酸配列もほんの僅かしか異ならない酵素の特異性が全く異なっている例もあり,たいへん興味深かった.麹菌によりアスパルティックエンドペプチダーゼの生産量が高いとか,アミノペプチダーゼの活性が高いなど,生産される酵素の種類や量が異なることは,これまでも指摘されていた.しかし,菌株により同じ酵素でも基質特異性が大きく異なる可能性があることは,酵素を利用する産業界においては,酵素の種類だけでなく菌株にも十分な注意を払わなければならないことを示唆している.現在酵素メーカー各社がもつ麹菌の酵素剤でそれぞれの効果が異なるのは,含有している酵素の種類の違いだけでなく,このような基質特異性の異なる酵素が含まれていることによるのかもしれない.酵素化学的には,このような基質特異性の違いがどのような構造の違いによっているのかと考えるとたいへん興味深い.

黄麹菌のタンパク質分解酵素遺伝子数は,同時期にゲノム解析されたA. nidulans(59)59) J. E. Galagan, S. E. Calvo, C. Cuomo, L. Ma, J. R. Wortman, S. Batzoglou, S. Lee, M. Baştürkmen, C. C. Spevak, J. Clutterbuck et al.: Nature, 438, 1105 (2005).の90種,A. fumigatus(60)60) W. C. Nierman, A. Pain, M. J. Anderson, J. R. Wortman, H. S. Kim, J. Arroyo, M. Berriman, K. Abe, D. B. Archer, C. Bermejo et al.: Nature, 438, 1151 (2012).の99種と比較して,126種と最大の遺伝子数を誇る.この種類の多さが醸造や醗酵に適しているのかもしれない.しかし,なぜ黄麹菌だけこのようにたくさんのタンパク質分解酵素遺伝子を有しているのかは明らかではない.アスパルティックエンドペプチダーゼで示されたようにアミノ酸配列の相同性は高いにもかかわらず,基質特異性は相同性が低い隣のブランチに存在する酵素と同様であるというような例が存在することから黄麹菌はある時期から機能が異なる酵素を積極的に増やして,これらを使い分けているかのようである.この変化の意味や使い分けについては,今後の研究課題である.いくつかの酵素において培地の栄養源によって転写が変化することがその解決の緒になるのかもしれない.

黄麹菌は,長年の食経験によって安全な微生物として認知されており,米国FDAのGRASにも認定されているためその酵素の利用は,ほかの微生物の酵素を利用することに比べ安全性の確認や食品用酵素としての登録における審査の点で大きなメリットがある.基質特異性の異なる麹菌のタンパク質分解酵素をたくさん集めておくことは,さまざまなタンパク質という布地に対するいろいろなハサミを用意しておくようなものである.さまざまな生物のゲノムの解析結果が開示されているが,ゲノム情報から得られるタンパク質の配列に対して使えるハサミ(タンパク質分解酵素)の組み合わせで,思いのままにペプチド加工や呈味性の付与が可能になるのではないかと考えており,今後もハサミの収集を継続したいと考えている.

Acknowledgments

本研究は,生物系特定産業技術研究支援センター(生研センター)基盤研究推進事業の一環として行われたものである.

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