農芸化学@High School

原木栽培干し椎茸中のビタミンD2によるCa吸収率に関する研究

河合 香帆

岐阜県立岐阜農林高等学校 ◇ 〒501-0431 岐阜県本巣郡北方町北方150番地

Gifu Senior High School of Agriculture and Forestry ◇ Kitagata 150, Kitagata-cho, Motosu-gun, Gifu 501-0431, Japan

三浦 功太郞

岐阜県立岐阜農林高等学校 ◇ 〒501-0431 岐阜県本巣郡北方町北方150番地

Gifu Senior High School of Agriculture and Forestry ◇ Kitagata 150, Kitagata-cho, Motosu-gun, Gifu 501-0431, Japan

Published: 2016-01-20

本研究は,日本農芸化学会2015年度(平成27年度)大会(開催地:岡山大学)「ジュニア農芸化学会2015」で発表されたものである.発表者は,地元特産の原木栽培干し椎茸によるCa吸収促進に着目した.干し椎茸の成分分析によりビタミンD2含量が高いことを確認するとともに,それをマウスに与えて骨形成実験を行った.その結果,ジャコとともに干し椎茸を与えたマウスで骨形成促進効果が見いだされた.原木栽培干し椎茸とさまざまな食材とを組み合わせて食べることにより骨形成に効果があるという,栄養学,食育の観点からたいへん興味深い研究であった.

本研究の目的,方法および結果

【背景と目的】

超高齢化社会に突入しつつある現代の日本において,高齢者が生活の質(QOL)を維持しつつ,自立した生活を送ることは非常に大事である.高齢者の健康寿命を維持,延長する観点から近年特に注目されているのがロコモティブシンドローム(運動器症候群;locomotive syndrome)である(1, 2)1)公益社団法人日本整形外科学会:新概念「ロコモティブシンドローム(運動器症候群)」(http://www.joa.or.jp/jp/public/locomo/)2)厚生労働省:「健康づくりのための身体活動基準2013」および「健康づくりのための身体活動指針(アクティブガイド)」について(http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r9852000002xple.html).ロコモティブシンドローム(以下ロコモ)は,骨,関節,筋肉の機能障害により運動機能が低下した状態である.ロコモを誘発する疾患として骨粗鬆症,変形関節症,サルコペニアなどがあるが,これらはいずれも骨と筋肉に深くかかわるものである.

ビタミンDの主な作用は,カルシウム吸収を促進することで骨を丈夫にすることととらえられがちであったが,近年筋肉の形成を促進する作用をもつことが明らかとなり,サルコペニアのように筋肉量が減少する疾患を予防する観点からもビタミンDの重要性はますます高まっている.このように,ビタミンDはこれまでの骨の強化という観点を越え,運動機能全体の維持,向上という観点からも積極的に摂取すべき重要な栄養素である.

干し椎茸は,ビタミンD2を豊富に含む食品である.本研究では,岐阜県産干し椎茸のロコモ予防への効果を検討するため,ビタミンD2含有量を測定するとともに,骨形成への影響をさまざまな条件下で動物を使って調べた.その結果,岐阜県産干し椎茸「しいたけブラザーズ」が高いビタミンD2含有量を示すこと,カルシウムを豊富に含む食品(ジャコ)と一緒に食べさせると骨形成が促進したこと,さらにその作用は日光浴により増強されたことが示された.

実験1:干し椎茸のビタミンD2含量分析

岐阜県産「しいたけブラザーズ」に含まれるビタミンD2含量を解析した.この干し椎茸は,原木栽培により得られた椎茸を天日干しにて製造したものである(図1図1■しいたけブラザーズの天日干し).ビタミンD2量はNield–Russel–Zimmerli法(3, 4)3) C. H. Nield, W. C. Russel & A. Zimmerli: J. Biol. Chem., 136, 73 (1940).4)京都大学農芸化学教室編:新改版農芸化学実験書(増補)第2巻(第26版),産業図書(株),1976.にて測定した.また,比較のため,ほかの国産原木干し椎茸,中国産菌床干し椎茸も測定した.可食部100 g当たりのビタミンD2量を比較したところ,しいたけブラザーズの含量は86 µg/100 g可食部であった.一方,ほかの2検体のビタミンD2含量は16 µg/100 g可食部(国産原木栽培干し椎茸),8.7 µg/100 g可食部(中国産菌床栽培干し椎茸)であり,しいたけブラザーズには約5~10倍量のビタミンD2が含まれていることがわかった.

図1■しいたけブラザーズの天日干し

椎茸に含まれるプロビタミンD2(エルゴステロール)は紫外線を受けて,ステロイド環が開裂し,ビタミンD2(エルゴカルシフェロール)に変換される.このことから,干し椎茸中のビタミンD2量は紫外線の照射状況(天日干しされた季節や時間)により変動しうること,各製品のビタミンD2含量にはロット差が存在するであろうことが考えられる.したがって,各製品のビタミンD2量を比較するときは慎重にならねばならないが,一般的な干し椎茸(16 µg/100 g可食部)(5)5)文部科学省科学技術・学術審議会・資源調査分科会:五訂日本食品標準成分表,2005.に比べても,しいたけブラザーズのビタミンD2含量は高いと言える.

実験2:餌の違いによるCa吸収への効果

干し椎茸「しいたけブラザーズ」に含まれるビタミンD2がCa吸収に及ぼす効果を明らかにするため,マウスの成長および骨形成への影響を検討した.マウスは3週齡のオスddYを用いた.マウスを3匹ずつ5群に分け,それぞれの群に異なる種類の餌(表1)を与え,体重の変化を経時的に測定し,給餌開始後31日目に摘出した大腿骨の長さと重量を測定した.また,2群については,日光浴の効果を調べるために,快晴日に10分間の日光浴を行った(図2図2■マウスの日光浴).

表1■餌の成分
基本餌成分添加成分日光浴の有無
1群ペレット××
2群ペレット×
3群ペレット干し椎茸×
4群ペレットジャコ×
5群ペレット干し椎茸,ジャコ×
ペレットは一般動物飼料を用いた.ジャコはCa供給源として添加した.ジャコ,干し椎茸の添加量を算出するに当たって,それぞれビタミンDおよびCa量が摂取基準の上限を超えない最大量となるようにした(65 kgのヒトが摂取可能な上限量を算出し,マウスの平均体重に対して比例計算で算出した.算出に用いた数値の由来は「日本人の食事摂取基準2015年度版」)

図2■マウスの日光浴

干し椎茸とジャコを食べたマウスの体重は,ペレットのみを餌としたマウスに比べ,大きい傾向があった(1–2群 vs. 3–5群;図3図3■干し椎茸とジャコの体重変化に与える影響).ただ,ジャコ+椎茸(5群)の体重は,椎茸のみ(3群),あるいはジャコのみ(4群)の体重とはほとんど差は認められなかった.