Kagaku to Seibutsu 54(3): 159-169 (2016)
解説
単孔類,有袋類ミルクオリゴ糖の種特異的進化と生存戦略
Species Specific Evolution of Milk Oligosaccharides in Monotremes and Marsupials: Relationship to Their Reproductive Strategy
Published: 2016-02-20
単孔類(カモノハシ,ハリモグラ)や有袋類(カンガルー,ポッサム,コアラなど)の乳では,多くの有胎盤類(ヒト,ウシなど)とは異なり,ミルクオリゴ糖の方がラクトースよりも優先的である.有胎盤類の乳仔がラクトースを主要なエネルギー源としているのに対し,単孔類や有袋類の乳仔はミルクオリゴ糖をピノサートーシスかエンドサイトーシスで小腸細胞内に取り込み,リソソーム内のグリコシダーゼの働きで単糖に分解し,エネルギー源とする.単孔類のシアル酸含有ミルクオリゴ糖に付加するN-アセチルノイラミン酸は,4位がO-アセチル化した固有の形をしているが,そのことで細菌の生産するノイラミニダーゼへの加水分解抵抗性を付与する.それには乳首がなくて皮膚の上に乳を分泌する単孔類において,乳が細菌の増殖源にならないメカニズムが潜んでいる.単孔類や有袋類の固有のミルクオリゴ糖には,それらの繁殖戦略や子育て戦略との密接なかかわりがある.
© 2016 Japan Society for Bioscience, Biotechnology, and Agrochemistry
© 2016 公益社団法人日本農芸化学会
乳に含まれる糖質は専らラクトース(乳糖,Gal(β1-4)Glc)であるという先入観は,多くの哺乳動物の乳の糖質を分析した事例によって覆りつつある(1~9)1) T. Urashima, T. Saito, T. Nakamura & M. Messer: Glycoconj. J., 18, 357 (2001).9) T. Urashima, E. Taufik, K. Fukuda & S. Asakuma: Biosci. Biotechnol. Biochem., 77, 455 (2013)..確かに,牛乳の中の糖質は専らラクトースであると断言できるほど,ラクトース以外の糖質の量は少ない(9, 10)9) T. Urashima, E. Taufik, K. Fukuda & S. Asakuma: Biosci. Biotechnol. Biochem., 77, 455 (2013).10) B. Fong, K. Ma & P. McJarrow: J. Agric. Food Chem., 59, 9788 (2011)..一方で人乳を観察してみると,7%の糖質のうちの80%をラクトースが,そして残りの20%を240種類にも数えられるミルクオリゴ糖が占めている(11)11) Y. Yu, Y. Lasanajak, X. Song, L. Hu, S. Ramani, M. L. Mickum, D. J. Ashline, B. V. V. Prasad, M. K. Estes, V. N. Reinhold et al.: Mol. Cell. Proteomics, 13, 2944 (2014)..ミルクオリゴ糖の大半はラクトース骨格を還元末端側に有し,それにN-アセチルグルコサミン,ガラクトース,フコース,N-アセチルノイラミン酸などの単糖が付加した構造をしている(1~9)1) T. Urashima, T. Saito, T. Nakamura & M. Messer: Glycoconj. J., 18, 357 (2001).9) T. Urashima, E. Taufik, K. Fukuda & S. Asakuma: Biosci. Biotechnol. Biochem., 77, 455 (2013)..ヒトを含む哺乳動物の乳仔が母乳を摂取した際,母乳の中のラクトースは小腸上皮微絨毛膜に存在するラクターゼの働きによって,グルコースとガラクトースに分解される(6~8, 12)6) T. Urashima, M. Kitaoka, T. Terabayashi, K. Fukuda, M. Ohnishi & A. Kobata: “Oligosaccharides: Sources, Properties and Applications,” ed. by N. S. Gordon, Nova Science, New York, USA, 2011, pp. 1–58.8) T. Urashima, M. Messer & O. T. Oftedal: “Evolutionary Biology, Genome Evolution, Speciation, Coevolution and Origin of Life,” ed. by P. Pontarotti, Springer, Switzerland, 2014, pp. 3–33.12) O. T. Oftedal: J. Mammary Gland Biol., 7, 253 (2002)..グルコースは吸収されて循環に入り,ガラクトースは肝臓でグルコースに変換されてから循環する.つまりラクトースは多くの哺乳動物の乳仔にとっては重要な栄養源になっている.一方でミルクオリゴ糖はたとえばヒトの乳児の場合,大半は小腸で分解・吸収されないで大腸に到達し,(1)ビフィズス菌などの有用な腸内細菌の栄養源となってその増殖を促進する,(2)病原性微生物が腸管内に付着するのを防ぐなどの機能的役割を果たしている(1~9)1) T. Urashima, T. Saito, T. Nakamura & M. Messer: Glycoconj. J., 18, 357 (2001).9) T. Urashima, E. Taufik, K. Fukuda & S. Asakuma: Biosci. Biotechnol. Biochem., 77, 455 (2013)..
クマやアザラシ,ミンクなどの一部の例外を除き多くの有胎盤類(胎盤をもち,妊娠期間が長くて胎盤の中で仔を育てる哺乳類)の乳では主要な糖質はラクトースであるが,有胎盤類とは異なる固有の進化をたどった単孔類や有袋類では,乳の中のラクトースの量は少なく,ミルクオリゴ糖の方が圧倒的に多い(1~4, 7, 8)1) T. Urashima, T. Saito, T. Nakamura & M. Messer: Glycoconj. J., 18, 357 (2001).4) T. Urashima, S. Asakuma, M. Kitaoka & M. Messer: “Encyclopedia of Dairy Science, Second Edition,” ed. by J. W. Fuquay, P. F. Fox & P. L. H. McSweeney, Vol. 3, Academic Press, San Diego, USA, 2011, pp. 241–273.7) T. Urashima, K. Fukuda & M. Messer: Animal, 6, 369 (2012).8) T. Urashima, M. Messer & O. T. Oftedal: “Evolutionary Biology, Genome Evolution, Speciation, Coevolution and Origin of Life,” ed. by P. Pontarotti, Springer, Switzerland, 2014, pp. 3–33..またミルクオリゴ糖の化学構造も固有の特徴を有している(1~4, 7, 8)1) T. Urashima, T. Saito, T. Nakamura & M. Messer: Glycoconj. J., 18, 357 (2001).4) T. Urashima, S. Asakuma, M. Kitaoka & M. Messer: “Encyclopedia of Dairy Science, Second Edition,” ed. by J. W. Fuquay, P. F. Fox & P. L. H. McSweeney, Vol. 3, Academic Press, San Diego, USA, 2011, pp. 241–273.7) T. Urashima, K. Fukuda & M. Messer: Animal, 6, 369 (2012).8) T. Urashima, M. Messer & O. T. Oftedal: “Evolutionary Biology, Genome Evolution, Speciation, Coevolution and Origin of Life,” ed. by P. Pontarotti, Springer, Switzerland, 2014, pp. 3–33..それは,哺乳類の共通祖先からの乳成分の進化と種の生存戦略によって形成されたと考えられる.この解説の中では,乳の糖質の生理的意義と進化を特に単孔類と有袋類にフォーカスしながら,化学構造と絡めて考察してみたい.
現存の哺乳類はキノドン類を共通祖先として進化をとげ,祖先の原獣類よりまず約1億9000万年前に単孔類が,ついで約1億6000万年前に有袋類と有胎盤類が相互に分化したと推測されている(13, 14)13) M. Messer, A. S. Weiss, D. C. Show & M. J. Westerman: J. Mammal., 5, 95 (1998).14) Z. X. Luo, C. X. Yuan, Q. J. Meng & Q. Ji: Nature, 476, 442 (2011)..現存する単孔類はハリモグラとカモノハシの2種であり,それは卵生であって乳首をもたず,乳は乳嚢と言われる2つの皮膚領域の小孔から皮膚の上に分泌される.これは哺乳類祖先から受け継いだ特徴であろう.乳を分泌する乳腺細胞の集合体である乳腺は,アポクリン腺から進化したと予想される(12, 15)12) O. T. Oftedal: J. Mammary Gland Biol., 7, 253 (2002).15) O. T. Oftedal: “Advanced dairy chemistry,” ed. by P. H. L. McSweeney & P. F. Fox, Vol. 1A, 4th edn. Springer Science+Business Media, New York, USA, 2013, pp. 1–42..それは細胞内で合成された脂肪球が,乳腺とアポクリン腺では共通して細胞外へと分泌される際に細胞の頂上細胞膜を突き破り,細胞膜に由来する脂肪球膜に包まれるような形で分泌される(アポクリン分泌と命名される)事実に基づいている.本来水と油は交わらないものの代名詞のように言われるが,乳の中では水と油が混じり合っているのは脂肪の粒子の周りを取り囲むこのような脂肪球膜の存在のためである.乳タンパク質は乳腺細胞の中で合成される成分(カゼイン,α-ラクトアルブミン,β-ラクトグロブリンなど)と血液タンパク質に由来する成分(免疫グロブリン,血清アルブミンなど)があるが,乳腺の進化の中で一部の血液成分を乳腺細胞へと取り込む機構とともに,ほかの祖先タンパク質から乳腺特異的発現タンパク質への遺伝子の変異があったであろうと予想される.たとえばカゼインは歯のエナメル芽関連タンパク質を先祖成分とすると推定されている(16)16) K. Kawasaki, A. Lafont & L. Sire: Mol. Biol. Evol., 28, 2053 (2011)..そのような仮説は,歯のエナメルタンパク質とカゼインがどちらもカルシウムの運搬機能を担っているという事実に基づく.
泌乳期乳腺においてラクトースの合成は,ホエータンパク質の一種であるα-ラクトアルブミンとβ4-ガラクトシルトランスフェラーゼIの共同作用によって,遊離のグルコースをアクセプター,UDP-ガラクトースをドナーとして行われる.β4-ガラクトシルトランスフェラーゼIは乳腺以外の組織でも発現し,乳腺以外では複合糖質の末端のN-アセチルグルコサミンに対してガラクトースを転移し,N-アセチルラクトサミン(Gal(β1-4)GlcNAc)単位の合成を触媒している.乳腺でのα-ラクトアルブミンの働きは,β4-ガラクトシルトランスフェラーゼIの基質特異性を糖鎖末端のN-アセチルグルコサミンから遊離のグルコースに変換するmodifierである(17)17) B. Rajput, N. L. Shaper & J. H. Shaper: J. Biol. Chem., 271, 5131 (1996)..α-ラクトアルブミンは,細菌の細胞壁を破壊して殺菌作用を司る酵素リゾチームと一次構造や三次構造が類似している(18)18) H. A. McKenzie & F. H. White, Jr.: Adv. Protein Chem., 41, 174 (1991)..α-ラクトアルブミンは哺乳類の乳腺のみに発現する“新しい”タンパク質であるから,哺乳類以外に魚類や昆虫にも発現している“古い”タンパク質であるリゾチームからの遺伝子変異によって獲得されたことは疑いない.α-ラクトアルブミンの出現によって,乳腺の中でラクトース単位の合成が開始された.
一方,ミルクオリゴ糖は還元末端にラクトース単位を有しており,乳腺の中で生合成されたラクトースに対して各種の糖転移酵素が作用することで生合成される.つまりα-ラクトアルブミンの出現はミルクオリゴ糖の生合成をも開始させた.α-ラクトアルブミンの出現は,約3億1000万年前という推定もある(19)19) E. M. Prager & A. C. Wilson: J. Mol. Evol., 27, 326 (1988)..その当時哺乳類はおろか恐竜さえも出現しておらず,祖先に乳腺様の組織も存在しなかったであろう.特殊な皮膚腺から何かの成分が分泌されていたのであろうか.
α-ラクトアルブミンの偶然の出現によってラクトース単位の生合成は開始されるようになった.一方でスフィンゴ糖脂質の還元末端側にラクトース単位が含まれるように,ラクトース単位は細胞内ゴルジ体で各種の糖転移酵素のアクセプターになりうる.α-ラクトアルブミンの発現量が低くてラクトースの生合成速度が遅い場合は,生合成された遊離のラクトースは主に糖転移酵素のアクセプターとして利用されていたであろう.哺乳類の共通祖先で乳様の分泌物が原始的な乳腺または乳腺の先祖腺において分泌されていた段階では,その分泌物の中にラクトースは少なくてミルクオリゴ糖のほうがはるかに優先的であったと予想される(2, 7, 8)2) M. Messer & T. Urashima: Trends Glycosci. Glycotechnol., 14, 153 (2002).7) T. Urashima, K. Fukuda & M. Messer: Animal, 6, 369 (2012).8) T. Urashima, M. Messer & O. T. Oftedal: “Evolutionary Biology, Genome Evolution, Speciation, Coevolution and Origin of Life,” ed. by P. Pontarotti, Springer, Switzerland, 2014, pp. 3–33..それは卵生や乳首のない乳腺からの乳分泌など,哺乳類祖先の特徴を今日でも残している単孔類の乳において,ラクトースよりもミルクオリゴ糖のほうが圧倒的に多い事実からも推測される.今日有胎盤類の乳においては主要な糖質はラクトースであり,ラクトースは乳仔にとって重要な栄養源である.それは有胎盤類においてα-ラクトアルブミンの発現量が増加し,ラクトースの合成速度が速くなってその合成がミルクオリゴ糖生合成の律速段階ではなくなったこと,また乳仔の小腸上皮にラクターゼが出現して,ラクトースをグルコースとガラクトースに小腸細胞頂端膜(刷子縁)上で加水分解できるようになってから初めて可能になった(2, 7, 8)2) M. Messer & T. Urashima: Trends Glycosci. Glycotechnol., 14, 153 (2002).7) T. Urashima, K. Fukuda & M. Messer: Animal, 6, 369 (2012).8) T. Urashima, M. Messer & O. T. Oftedal: “Evolutionary Biology, Genome Evolution, Speciation, Coevolution and Origin of Life,” ed. by P. Pontarotti, Springer, Switzerland, 2014, pp. 3–33..では初期乳様分泌物において,優先的なミルクオリゴ糖はどのような生理機能を果たしていたのであろうか.人乳などでは構造的に分散したミルクオリゴ糖は一定の濃度で存在し,デコイレセプターとして乳仔の腸管に病原性細菌が付着するのを阻止するという観察結果が多く報告されている(4, 6, 9)4) T. Urashima, S. Asakuma, M. Kitaoka & M. Messer: “Encyclopedia of Dairy Science, Second Edition,” ed. by J. W. Fuquay, P. F. Fox & P. L. H. McSweeney, Vol. 3, Academic Press, San Diego, USA, 2011, pp. 241–273.6) T. Urashima, M. Kitaoka, T. Terabayashi, K. Fukuda, M. Ohnishi & A. Kobata: “Oligosaccharides: Sources, Properties and Applications,” ed. by N. S. Gordon, Nova Science, New York, USA, 2011, pp. 1–58.9) T. Urashima, E. Taufik, K. Fukuda & S. Asakuma: Biosci. Biotechnol. Biochem., 77, 455 (2013)..哺乳類共通祖先の原始的乳腺によって皮膚上に分泌された乳様分泌物は,皮膚の上に細菌などが増殖する栄養源とならない,病原性微生物が皮膚の上に付着するのを阻止する,皮膚の上をなめるように分泌物を摂取した仔に対して感染防御能を果たす,などの機能を有していたのではないか(2, 7, 8)2) M. Messer & T. Urashima: Trends Glycosci. Glycotechnol., 14, 153 (2002).7) T. Urashima, K. Fukuda & M. Messer: Animal, 6, 369 (2012).8) T. Urashima, M. Messer & O. T. Oftedal: “Evolutionary Biology, Genome Evolution, Speciation, Coevolution and Origin of Life,” ed. by P. Pontarotti, Springer, Switzerland, 2014, pp. 3–33..それは単孔類の乳に含まれるミルクオリゴ糖の観察に基づいて推測された.
現存する単孔類はカモノハシとハリモグラの2種であり,ハリモグラはさらに長くちばしハリモグラと短くちばしハリモグラの2種に分類される.カモノハシ(Ornithorhynchus anatinus)はオーストラリア大陸の東側,クイーンズランド北部からタスマニアにかけての川や湖に棲息している.短くちばしハリモグラ(Tachyglossus aculeatus)はオーストラリア,ニューギニアに,長くちばしハリモグラ(Zaglossus bruijni)はニューギニアのみに棲息する(オーストラリアでは2万年前に絶滅した).前述のように単孔類の乳腺は乳首をもたず,乳は乳嚢といわれる2つの皮膚領域内の約100の散らばった孔から分泌される.
カモノハシとハリモグラミルクオリゴ糖の研究は,1973年にMesserとKerryによって開始された(20)20) M. Messer & K. Kerry: Science, 180, 201 (1973)..図1図1■ハリモグラとカモノハシの乳の糖質画分のSephadex G-15カラムによるゲルろ過プロファイルはハリモグラ(カンガルー島ならびにオーストラリア・ニューサウスウェールズ州で捕獲されたハリモグラから採乳した)とカモノハシの乳から抽出した糖質のSephadex G-15カラムによるゲルクロマトグラムである.いずれの乳でもラクトースはごく少量しか含まれず(最後に溶出した小さなピークがラクトース),ミルクオリゴ糖のほうが圧倒的に多い.ハリモグラではフコシルラクトースとシアリルラクトースが,カモノハシ乳ではジフコシルラクトースが主要な糖質であった.ハリモグラのミルクオリゴ糖は引き続いて,Messer(21)21) M. Messer: Biochem. J., 139, 415 (1974).,Kamerlingら(22)22) J. P. Kamerling, L. Dorland, H. van Halbeek, J. F. G. Vliegenthart, M. Messer & R. Schauer: Carbohydr. Res., 100, 331 (1982).,Jenkinsら(23)23) G. A. Jenkins, J. H. Bradbury, M. Messer & E. Trifonoff: Carbohydr. Res., 126, 157 (1984).によってFuc(α1-2)Gal(β1-4)Glc, Fuc(α1-2)Gal(β1-4)[Fuc(α1-3)]Glc, Neu4,5Ac2(α2-3)Gal(β1-4)Glc(4-O-アセチル-3′-シアリルラクトース)が同定された.一方,カモノハシの中性オリゴ糖は,Jenkinsら(23)23) G. A. Jenkins, J. H. Bradbury, M. Messer & E. Trifonoff: Carbohydr. Res., 126, 157 (1984).,ならびにAmanoら(24)24) J. Amano, M. Messer & A. Kobata: Glycoconj. J., 2, 121 (1985).によって図2図2■従来(文献(21~24))構造決定されていたハリモグラとカモノハシのミルクオリゴ糖のように決定された.
筆者は2012年9月にタスマニア島の州都ホバートの北方50 kmのフィールドにおいて,タスマニア大学のStewart Nicol博士とともにハリモグラ・タスマニア亜種の捕獲と乳試料採集を行った.泌乳中の個体はNicol博士が取り付けたGPS発信器の信号を頼りに探し,巣の地中から掘り起こして捕獲した.図3図3■2012年9月タスマニアでのハリモグラフィールド調査はGPSを頼りに泌乳個体を探しているところ,図4図4■タスマニアハリモグラから採乳しているところは捕獲した個体へのオキシトシン静脈注入後に皮膚上の乳嚢から採乳しているところである.ハリモグラは,乳首をもたない乳腺から泌乳することが理解されるであろう.この際のフィールド調査によって回収されたものも含め,乳試料は,仔の孵化後39日の初期乳,約90日の中期乳,約150日の後期乳が採集された.
初期乳,中期乳,ならびに後期乳から抽出された糖質画分は,超高速液体クロマトグラフィーと連結した三重極質量分析(UPLC-MS)によって分析した.一方,後期乳から抽出した糖質画分は,BioGel P-2によるゲルろ過,グラファイトカーボンカラムを用いた中性オリゴ糖の高速液体クロマトグラフィー(HPLC)による分離・精製,ならびにプロトン核磁気共鳴スペクトル(1H-NMR)測定によって構造決定した(25)25) O. T. Oftedal, S. C. Nicol, N. W. Davies, N. Sekii, E. Taufik, K. Fukuda, T. Saito & T. Urashima: Glycobiology, 24, 826 (2014)..初期乳,中期乳には圧倒的に優先的なオリゴ糖として4-O-アセチル-3′-シアリルラクトースが,後期乳ではそれとともにGal(α1-3)[Fuc(α1-2)]Gal(β1-4)[Fuc(α1-3)]Glc(Bペンタサッカライド)とGal(α1-3)[Fuc(α1-2)]Gal(β1-4)Glc(Bテトラサッカイライド)が含まれていた.同時にマイナー成分としてFuc(α1-2)Gal(β1-4)Glc(2′フコシルラクトース),Fuc(α1-2)Gal(β1-4)[Fuc(α1-3)]Glc(ジフコシルラクトース),Gal(β1-4)[Fuc(α1-3)]GlcNAc(β1-3)Gal(β1-4)Glc(ラクト-N-フコペンタオースIII, LNFP-III)が後期乳に,Neu4,5Ac2(α2-3)Gal(β1-4)[Fuc(α1-3)]Glcが初期乳,中期乳,後期乳に発見された.初期乳,中期乳にはNeu5Ac(α2-3)Gal(β(1-4)Glc(3′-シアリルラクトース),ジ-O-アセチル-3′-シアリルラクトースと4-O-アセチル-3′-シアリルラクトース硫酸が発見された.
ここで注目されるのは初期乳で圧倒的に優先的な4-O-アセチル-3′-シアリルラクトースである.単孔類の特に初期乳は,哺乳類祖先の原始的な乳の特徴を残していると予想されるので,哺乳類祖先の乳の糖質はラクトースではなくこのようなオリゴ糖を優先的に含んでいたと推測される.N-アセチルノイラミン酸への4-O-アセチル基の付加の意義については,後に考察する.以前のMesserらの研究において,カンガルー島ならびにオーストラリア大陸のハリモグラの乳で2′フコシルラクトースが優先的な糖質であり,BペンタサッカイライドやBテトラサッカライドは発見されなかった(20~23)20) M. Messer & K. Kerry: Science, 180, 201 (1973).23) G. A. Jenkins, J. H. Bradbury, M. Messer & E. Trifonoff: Carbohydr. Res., 126, 157 (1984)..この違いは,ハリモグラの亜種どうしでのミルクオリゴ糖の不均一性を示している.ミルクオリゴ糖の非還元末端単位としてB抗原(Gal(α1-3)[Fuc(α1-2)]Gal),A抗原(GalNAc(α1-3)[Fuc(α1-2)]Gal)またH抗原(Fuc(α1-2)Gal)の存在と不在による不均一性は,近縁種のクマのミルクオリゴ糖においても発見されている.ツキノワグマではB抗原を含むミルクオリゴ糖が(26)26) T. Urashima, W. Sumiyoshi, T. Nakamura, I. Arai, T. Saito, T. Komatsu & T. Tsubota: Biochim. Biophys. Acta, 1472, 290 (1999).,ホッキョクグマではA抗原またB抗原を含むミルクオリゴ糖が(27)27) T. Urashima, T. Yamashita, T. Nakamura, I. Arai, T. Saito, A. E. Derocher & O. Wiig: Biochim. Biophys. Acta, 1475, 395 (2000).,エゾヒグマではH抗原を含むオリゴ糖が(28)28) T. Urashima, Y. Kusaka, T. Nakamura, T. Saito, N. Maeda & M. Messer: Biochim. Biophys. Acta, 1334, 247 (1997).発見されている.タスマニアハリモグラの泌乳期乳腺ではH抗原をB抗原に変換するα3ガラクトシルトランスフェラーゼ活性が存在するのに対し,オーストラリア大陸やカンガルー島のハリモグラの乳腺ではこの酵素の活性が失われた可能性がある.また大半のハリモグラミルクオリゴ糖のコア骨格はラクトースであるが,微量ながらラクト-N-ネオテトラオース(Gal(β1-4)GlcNAc(β1-3)Gal(β1-4)Glc)をコア骨格とするLNFP-IIIが発見されたことも注目される.
カモノハシミルクオリゴ糖に対しては,1984年に中性ミルクオリゴ糖の化学構造がAmanoらによって報告(24)24) J. Amano, M. Messer & A. Kobata: Glycoconj. J., 2, 121 (1985).されて以降研究報告はなかったが,最近筆者らが酸性オリゴ糖の化学構造を解析した(29)29) T. Urashima, H. Inamori, K. Fukuda, T. Saito, M. Messer & O. T. Oftedal: Glycobiology, 25, 683 (2015)..カモノハシ乳から抽出した糖質画分をBioGel P-2カラムによるゲルろ過に供して,早く溶出したシアル酸を含む画分を,Amide-80カラムを使用した順相系のHPLCに供して各オリゴ糖の分離・精製を行った.分離された各ピークに含まれるオリゴ糖は,1H-NMRとマトリックス支援レーザー脱離イオン化質量分析(MALDI TOFMS)に供して構造決定した.決定された酸性オリゴ糖の構造は図5図5■構造決定されたカモノハシ酸性ミルクオリゴ糖(文献(29))に示した.オリゴ糖はラクトース,ラクト-N-ネオテトラオース,またラクト-N-ネオヘキサオース(Gal(β1-4)GlcNAc(β1-3)[Gal(β1-4)GlcNAc(β1-6)]Gal(β1-4)Glc)をコア骨格とし,ルイスx(Gal(β1-4)[Fuc(α1-3)]GlcNAc),ルイスy(Fuc(α1-2)Gal(β1-4)[Fuc(α1-3)]GlcNAc),シアリルルイスx(Neu4,5Ac2(α2-3)Gal(β1-4)[Fuc(α1-3)]GlcNAc)などの構造単位を有していた.これらのコア骨格やルイスx,ルイスy単位は中性ミルクオリゴ糖にも発見されているので,酸性オリゴ糖は基本的に中性オリゴ糖と同じ構造単位をもちシアル酸が付加したような構造であった.また,シアル酸を含むオリゴ糖の大半が,4-O-アセチル化したN-アセチルノイラミン酸(Neu4,5Ac2)を含んでいた.
ミルクオリゴ糖におけるO-アセチル化N-アセチルノイラミン酸の存在は,ウシオリゴ糖の微量成分に示されている(完全構造は決定されていない)(30)30) K. Marino, J. A. Lane, J. L. Abrahams, W. B. Struwe, D. J. Harvey, M. Marotta, R. M. Hickey & P. M. Rudd: Glycobiology, 21, 1317 (2011).が,シアリルオリゴ糖の大半がNeu4,5Ac2を含むのは単孔類の固有の特徴である.4-O-アセチルシアル酸を含むシアリルラクトースは,細菌が生産するシアリダーゼに対して加水分解抵抗性を有している(31)31) R. Schauer, G. V. Srinivasan, D. Wipfler, B. Kniep & R. Schwartz-Albiezet: Adv. Exp. Med. Biol., 705, 525 (2011)..単孔類は前述のように乳首のない乳腺で,皮膚の上に乳を分泌する.それに細菌が増殖しては母体にとっても仔にとっても不都合である.シアル酸へのO-アセチル基の付加は,ミルクオリゴ糖が細菌増殖のための栄養源とならないような機能を付与するものと予想される.一方で有袋類や有胎盤類での乳首の存在は,それ自体が感染防御に対してある程度有効であり,シアル酸のO-アセチル化の必要性が失われたのではないかと考えられる.
Stewartらは,ハリモグラやラットの乳仔の腸粘膜のホモゲネートとともに4-O-アセチルシアリルラクトースをインキュベートした(32)32) I. M. Stewart, M. Messer, P. J. Walcott, P. A. Gadiel & M. Griffiths: Aust. J. Biol. Sci., 36, 139 (1983)..ハリモグラのホモゲネートでは中間分解産物としてシアリルラクトースが,最終分解産物として,ラクトース,シアル酸,グルコース,ガラクトースが生成したが,ラットでは加水分解生成物がえられたかった(32)32) I. M. Stewart, M. Messer, P. J. Walcott, P. A. Gadiel & M. Griffiths: Aust. J. Biol. Sci., 36, 139 (1983)..このことはハリモグラの乳仔が,主要糖質の4-O-アセチルシアリルラクトースを小腸内で分解できることを示している.ハリモグラ乳仔はおそらくピノサイトーシスのような単純な輸送方式で小腸細胞内にそれを取り込み,リソソームで加水分解して栄養源として利用していることが予想される.カモノハシでも同様であると考えられるが,ミルクオリゴ糖を構成する単糖の中で栄養源として利用できるのは,グルコースとガラクトースだけであり,栄養効率は高くないであろう.ミルクオリゴ糖は母体の乳腺付近でも,授乳した乳仔の腸管内でも感染防御因子として機能することが予想される.In vitroの実験で3′-シアリルラクトースは,Campylobacter jejuniやE. coli P1422株のHT-29細胞への侵入やロタウィルスのMA-104細胞への感染を阻害することが観察されているので(33~35)33) J. A. Lane, K. Marino, J. Naughton, D. Kavanaugh, M. Clyne, S. D. Carrigton & R. M. Hickey: Int. J. Food Microbiol., 157, 182 (2012).35) S. N. Hester, X. Chen, M. Li, M. H. Monaco, S. S. Comstock, T. B. Kuhlenschmidt, M. S. Kuhlenshimidt & S. M. Donovan: Br. J. Nutr., 110, 1233 (2013).,単孔類の母体皮膚や乳仔腸管でも病原性細菌やウィルスへの感染防御を果たしていることが想像できる.
以上のような構造解析によって,ハリモグラにはラクトースやラクト-N-ネオテトラオースをコア骨格とするミルクオリゴ糖が,カモノハシにはラクトース,ラクト-N-ネオテトラオース,ラクト-N-テトラオース,ラクト-N-ネオヘキサオースをコア骨格とするミルクオリゴ糖が発見された.ラクトースコア以外のこれらのコア骨格をもつオリゴ糖は,ヒトなどの有胎盤類でも発見されているが,有袋類には見つかっていない(2, 7, 8)2) M. Messer & T. Urashima: Trends Glycosci. Glycotechnol., 14, 153 (2002).7) T. Urashima, K. Fukuda & M. Messer: Animal, 6, 369 (2012).8) T. Urashima, M. Messer & O. T. Oftedal: “Evolutionary Biology, Genome Evolution, Speciation, Coevolution and Origin of Life,” ed. by P. Pontarotti, Springer, Switzerland, 2014, pp. 3–33..これらの共通のコア骨格オリゴ糖が単孔類と有胎盤類で発見されたという事実は,それらが共通祖先哺乳類の乳様分泌物にすでに存在していた可能性を示唆している.
現存する有袋類は約250種類であり,南アメリカ,オーストラリア,ニューギニアに棲息する.妊娠期間が20日前後と短く200 mg未満の未熟な新生仔を出産し,乳仔は授乳の一定期間を育仔嚢の中で発育する.有袋類の一種カンガルーの袋の中には4つの乳首が存在するが,そのうちの一つに仔が吸い付き,仔の付着した乳首のみで泌乳が開始される,泌乳期の経過とともに乳首のサイズは増加する.それはある泌乳時期に2つの異なる乳首から異なる組成の乳を分泌するが,一方の小さな乳首から分泌される新生仔用の乳でも,他方の大きな乳首から分泌され,乳仔が袋の外側から授乳する乳でも,ラクトースはマイナーな成分にすぎない.有袋類の乳の糖質分析は,従来薄層クロマトグラフィーによってアカクビワラビー(36)36) J. C. Merchant, B. Green, M. Messer & K. Newgrain: Comp. Biochem. Physiol., 93A, 483 (1989).,イースタンクオール(フクロネコ)(37)37) M. Messer, P. A. Fitzgerald, J. C. Merchant & B. Green: Comp. Biochem. Physiol., 88B, 1083 (1987).,ブラッシュテイルポッサム(38)38) E. A. Crisp, P. E. Cowan & M. Messer: Reprod. Fertil. Dev., 1, 309 (1989).,リングタイルポッサム(39)39) S. A. Munks, B. Green, K. Newgrain & M. Messer: Aust. J. Zool., 39, 403 (1991).,コアラ(40)40) A. K. Krockenberger: Physiol. Zool., 69, 701 (1996).およびグレーショートテイルオポッサム(41)41) E. A. Crisp, M. Messer & J. L. Vandeberg: Physiol. Zool., 62, 1117 (1989).などに対して行われた.一方でミルクオリゴ糖の構造解析は,従来のMesserらによるタマーワラビー以外に,近年筆者らによってアカカンガルー,コアラ,ブラッシュテイルポッサム,イースタンクオールに対して行われた.
タマーワラビーの中性オリゴ糖の構造解析は,1980年のMesserら(42)42) M. Messer, E. Trifonoff, W. Stern, J. G. Collins & J. H. Bradbury: Carbohydr. Res., 83, 327 (1980).の研究によって開始され,Collinsら(43)43) J. G. Collins, J. H. Bradbury, E. Trifonoff & M. Messer: Carbohydr. Res., 92, 136 (1981).,Messerら(44)44) M. Messer, E. Trifonoff, J. G. Collins & J. H. Bradbury: Carbohydr. Res., 102, 316 (1982).,Bradburyら(45)45) J. H. Bradbury, J. G. Collins, G. A. Jenkins, E. Trifonoff & M. Messer: Carbohydr. Res., 122, 327 (1983).の研究が続いた.この一連の研究によって,主要オリゴ糖系列としてGal(β1-3)Gal(β1-4)Glc(3′-ガラクトシルラクトース)(42)42) M. Messer, E. Trifonoff, W. Stern, J. G. Collins & J. H. Bradbury: Carbohydr. Res., 83, 327 (1980).,Gal(β1-3)Gal(β1-3)Gal(β1-4)Glc(43)43) J. G. Collins, J. H. Bradbury, E. Trifonoff & M. Messer: Carbohydr. Res., 92, 136 (1981).,Gal(β1-3)Gal(β1-3)Gal(β1-3)Gal(β1-4)Glc(43)43) J. G. Collins, J. H. Bradbury, E. Trifonoff & M. Messer: Carbohydr. Res., 92, 136 (1981).,Gal(β1-3)Gal(β1-3)Gal(β1-3)Gal(β1-3)Gal(β1-4)Glc(43)43) J. G. Collins, J. H. Bradbury, E. Trifonoff & M. Messer: Carbohydr. Res., 92, 136 (1981).が,マイナーオリゴ糖系列としてGal(β1-3)[GlcNAc(β1-6)]Gal(β1-4)Glc(ラクト-N-ノボテトラオース)(44)44) M. Messer, E. Trifonoff, J. G. Collins & J. H. Bradbury: Carbohydr. Res., 102, 316 (1982).,Gal(β1-3)[Gal(β1-4)GlcNAc(β1-6)]Gal(β1-4)Glc(ラクト-N-ノボペンタオースI)(45)45) J. H. Bradbury, J. G. Collins, G. A. Jenkins, E. Trifonoff & M. Messer: Carbohydr. Res., 122, 327 (1983).,Gal(β1-3)Gal(β1-3)[Gal(β1-4)GlcNAc(β1-6)]Gal(β1-4)Glc(ガラクトシルラクト-N-ノボペンタオースI)(45)45) J. H. Bradbury, J. G. Collins, G. A. Jenkins, E. Trifonoff & M. Messer: Carbohydr. Res., 122, 327 (1983).が決定された.
アカカンガルーの酸性ミルクオリゴ糖はAnrakuら(46)46) T. Anraku, K. Fukuda, T. Saito, M. Messer & T. Urashima: Glycoconj. J., 29, 147 (2012).,コアラ,ブラッシュテイルポッサム,イースタンクオールのミルクオリゴ糖はそれぞれUrashimaら(47~49)47) T. Urashima, E. Taufik, R. Fukuda, T. Nakamura, K. Fukuda, T. Saito & M. Messer: Glycoconj. J., 30, 801 (2013).49) T. Urashima, Y. Sun, K. Fukuda, K. Hirayama, E. Taufik, T. Nakamura, T. Saito, J. C. Merchant, B. Green & M. Messer: Glycoconj. J., 32, 361 (2015).によって構造決定された.図6図6■ブラッシュテイルポッサム乳より抽出した糖質画分のBioGel P-2カラムのよるゲルろ過プロファイルに泌乳中期のブラッシュテイルポッサム乳より抽出された糖質画分のBioGel P-2によるゲルクロマトグラムを示した(48)48) T. Urashima, S. Fujita, K. Fukuda, T. Nakamura, T. Saito, P. E. Cowan & M. Messer: Glycoconj. J., 31, 387 (2014)..BP-6はラクトースであるが,ラクトースは少量でラクトースよりも前に溶出するミルクオリゴ糖の方が優先的である.分離された中性オリゴ糖ピークのうち複数のオリゴ糖を含む画分はグラファイトカーボンカラムによるHPLCによって,酸性オリゴ糖はAmide-80カラムによる順相系HPLCによって各オリゴ糖の分離・精製を行い,1H-NMRとMALDI TOFMSに供して構造決定された(48)48) T. Urashima, S. Fujita, K. Fukuda, T. Nakamura, T. Saito, P. E. Cowan & M. Messer: Glycoconj. J., 31, 387 (2014)..構造決定されたブラッシュテイルポッサム中性ミルクオリゴ糖は図7図7■構造決定されたブラッシュテイルポッサムの中性ミルクオリゴ糖(文献(48))に,酸性ミルクオリゴ糖は図8図8■構造決定されたブラッシュテイルポッサムの酸性ミルクオリゴ糖(文献(48))に示した.ブラッシュテイルポッサムの中性ミルクオリゴ糖の構造と組成は,タマーワラビーの中性ミルクオリゴ糖と非常に近い.新規化合物としてGal(β1-3)[Gal(β1-4)GlcNAc(β1-6)]Gal(β1-3)Gal(β1-4)Glc(ガラクトシルラクト-N-ノボペンタオースII)が発見されたが,これはタマーワラビーのミルクオリゴ糖の未同定の画分の中にも含まれていると予想される.酸性オリゴ糖は中性オリゴ糖と同様のコア骨格に対して,N-アセチルノイラミン酸また非還元末端ガラクトースの3位に硫酸基が付加している.オリゴ糖の直鎖部分の末端ガラクトースには,Neu5Acがα(2-3)結合のみで結合していることが注目される.また,高度に硫酸基が付加していることも特徴的であるが,ブラッシュテイルポッサム乳仔の脳などの成長にとって,ミルクオリゴ糖由来の硫酸基が利用されているかもしれない.一方,アカカンガルーの酸性ミルクオリゴ糖は,ブラッシュテイルポッサムの酸性ミルクオリゴ糖と構造と組成が極めて類似していた(46)46) T. Anraku, K. Fukuda, T. Saito, M. Messer & T. Urashima: Glycoconj. J., 29, 147 (2012)..
イースタンクオールのミルクオリゴ糖に対しては,同様の方法によって中性ならびに酸性オリゴ糖の分離・精製,および構造解析が行われた(49)49) T. Urashima, Y. Sun, K. Fukuda, K. Hirayama, E. Taufik, T. Nakamura, T. Saito, J. C. Merchant, B. Green & M. Messer: Glycoconj. J., 32, 361 (2015).(図9図9■イースタンクオールの写真(Jim Merchant博士より提供された)はイースタンクオール).決定された化学構造は図10図10■構造決定されたイースタンクオールのミルクオリゴ糖(文献(49))に示した.新規オリゴ糖として2単位の分枝型N-アセチルラクトサミンを含むGal(β1-3)[Gal(β1-4)GlcNAc(β1-6)]Gal(β1-3)[Gal(β1-4)GlcNAc(β1-6)]Gal(β1-4)Glc(ラクト-N-ノボオクタオース)とそのシアリル誘導体,ならびにGal(β1-3)[Gal(β1-3)Gal(β1-4)GlcNAc(β1-6)]Gal(β1-4)Glc(ラクト-N-ノボペンタオースIII)が発見されたが,これらはほかの有袋類種のミルクオリゴ糖の未同定画分の中にも含まれている可能性がある.他種の有袋類乳の糖質画分は,優先種として直鎖のβ(1-3)ガラクトシルラクトースシリーズ,一方マイナーシリーズとしてGlcNAcを含む分枝オリゴ糖を含んでいたが,イースタンクオール乳の糖質画分では,ラクト-N-ノボペンタオースIやラクト-N-ノボオクタオースなどの分枝型オリゴ糖のほうが優先的であった.タマーワラビーの泌乳期乳腺にはミルクオリゴ糖の生合成にかかわる酵素として,グルコースやN-アセチルグルコサミンにガラクトースを転移するβ4-ガラクトシルトランスフェラーゼ,ラクトースなどの非還元末端にガラクトースを転移するβ3-ガラクトシルトランスフェラーゼ,および3′-ガラクトシルラクトースなどの非還元末端から2番目のガラクトースにN-アセチルグルコサミンを転移するβ6-N-アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼの活性が発見されている(50, 51)50) M. Messer & K. R. Nicholas: Biochim. Biophys. Acta, 1077, 79 (1991).51) T. Urashima, M. Messer & W. A. Bubb: Biochim. Biophys. Acta, 1117, 223 (1992)..同様の酵素系がイースタンクオールの泌乳期乳腺にも存在すると予想し,イースタンクオールの決定されたミルクオリゴ糖の推定される生合成経路を図11図11■イースタンクオール中性ミルクオリゴ糖の予想される生合成経路に示した(49)49) T. Urashima, Y. Sun, K. Fukuda, K. Hirayama, E. Taufik, T. Nakamura, T. Saito, J. C. Merchant, B. Green & M. Messer: Glycoconj. J., 32, 361 (2015)..イースタンクオールとほかの有袋類種のミルクオリゴ糖のパターンの違いは,イースタンクオールにおいてβ6-N-アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼ活性が相対的に高いためであると予想された.
コアラの乳の糖質画分においては,ほかの有袋類種と同様のミルクオリゴ糖とともに,フコースを含むGal(β1-3){Gal(β1-4)[Fuc(α1-3)]GlcNAc(β1-6)}Gal(β1-4)GlcおよびNeu5Ac(α2-3)Gal(β1-3){Gal(β1-4)[Fuc(α1-3)]GlcNAc(β1-6)}Gal(β1-4)Glcが発見された(47)47) T. Urashima, E. Taufik, R. Fukuda, T. Nakamura, K. Fukuda, T. Saito & M. Messer: Glycoconj. J., 30, 801 (2013)..これまでに分析された有袋類種の中でフコースを含むミルクオリゴ糖が発見されたのはコアラだけであり,注目される.
有袋類のミルクオリゴ糖のコア骨格には,単孔類や一部の有胎盤類のミルクオリゴ糖に共通のコア骨格として発見されるラクト-N-ネオテトラオースやラクト-N-ネオヘキサオースはなく,代わりにラクト-N-ノボペンタオースIをコア骨格とするオリゴ糖が発見された.後者のタイプのミルクオリゴ糖は単孔類には見当たらないが,ウシ,ウマ,ヤギ,ヒツジ,ラクダ,ブタ,フサオマキザルなどの一部の有胎盤類では,ラクト-N-ノボペンタオースI自身とそのシアリル誘導体が発見されている(8)8) T. Urashima, M. Messer & O. T. Oftedal: “Evolutionary Biology, Genome Evolution, Speciation, Coevolution and Origin of Life,” ed. by P. Pontarotti, Springer, Switzerland, 2014, pp. 3–33..ラクト-N-ネオテトラオース,ラクト-N-ネオヘキサオースまたラクト-N-ノボペンタオースIは,ラクトースのガラクトース残基の3位にN-アセチルグルコサミンを転移するβ3-N-アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼ,GlcNAc(β1-3)Gal(β1-4)Glcのガラクトース残基の6位にN-アセチルグルコサミンを転移するβ6-N-アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼ,3′-ガラクトシルラクトースなどの非還元末端より2番目のガラクトース残基の6位にN-アセチルグルコサミンを転移するβ6-N-アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼのいずれかの活性によって生合成される.これらのN-アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼは哺乳類共通祖先においては共通に存在していたが,各々の哺乳類系統への進化過程で一部が失われたと予想される(8)8) T. Urashima, M. Messer & O. T. Oftedal: “Evolutionary Biology, Genome Evolution, Speciation, Coevolution and Origin of Life,” ed. by P. Pontarotti, Springer, Switzerland, 2014, pp. 3–33..一方で,2単位以上のβ(1-3)ガラクトース残基が直鎖につながったミルクオリゴ糖は,有袋類でしか発見されていない(8)8) T. Urashima, M. Messer & O. T. Oftedal: “Evolutionary Biology, Genome Evolution, Speciation, Coevolution and Origin of Life,” ed. by P. Pontarotti, Springer, Switzerland, 2014, pp. 3–33..これはβ3-ガラクトシルトランスフェラーゼの発現量が,有袋類の泌乳期乳腺で著しく高まったことによるものと考えられる(8)8) T. Urashima, M. Messer & O. T. Oftedal: “Evolutionary Biology, Genome Evolution, Speciation, Coevolution and Origin of Life,” ed. by P. Pontarotti, Springer, Switzerland, 2014, pp. 3–33..
有胎盤類の乳仔では,母乳中のラクトースは小腸ラクターゼ(中性β-ガラクトシダーゼ)活性によってグルコースとガラクトースに加水分解され,吸収される.一方で中性および酸性β-ガラクトシダーゼに対する特異的な組織化学実験によって,タマーワラビー乳仔小腸上皮微絨毛膜にラクターゼ活性が欠損していることが示された(52, 53)52) P. J. Walcott & M. Messer: Aust. J. Biol. Sci., 33, 521 (1980).53) M. Messer, E. A. Crisp & R. Czolij: “Kangaroos, Wallabies and Rat Kangaroos,” ed. by G. Grigg, P. Jarman & I. Hume, Syrry Beatty & Sons Pty Ltd., NSW, Australia, 1989, pp. 217–221..その一方で非常に強い酸性β-ガラクトシダーゼ活性が,リソソームか超核液胞と予想される細胞内に存在している.酸性β-ガラクトシダーゼは,ラクトースしか加水分解しない有胎盤類中性ラクターゼとは異なり,ラクトースもβ1-3ガラクトシドも切断する(52, 53)52) P. J. Walcott & M. Messer: Aust. J. Biol. Sci., 33, 521 (1980).53) M. Messer, E. A. Crisp & R. Czolij: “Kangaroos, Wallabies and Rat Kangaroos,” ed. by G. Grigg, P. Jarman & I. Hume, Syrry Beatty & Sons Pty Ltd., NSW, Australia, 1989, pp. 217–221..また,β-ガラクトシダーゼのほかに,N-アセチルグルコサミニダーゼ,α-L-フコシダーゼ,ノイラミニダーゼなどの酸性グリコシダーゼ活性が,タマーワラビー小腸に検出された(53)53) M. Messer, E. A. Crisp & R. Czolij: “Kangaroos, Wallabies and Rat Kangaroos,” ed. by G. Grigg, P. Jarman & I. Hume, Syrry Beatty & Sons Pty Ltd., NSW, Australia, 1989, pp. 217–221..この結果,タマーワラビーのミルクオリゴ糖は小腸微絨毛膜で加水分解されず,それらが消化されるためには,まずピノサイトーシスかエンドサイトーシスにより細胞内に取り込まれなければならないことを示している.おそらくこれらのオリゴ糖は,それからリソソームか超核液胞に入り,構成単糖に加水分解されるであろう.このようなミルクオリゴ糖の吸収・消化は,タマーワラビー以外のほかの有袋類種の乳仔にもあてはまるであろう.
上の観察は有袋類では乳の中で優先的な糖質であるミルクオリゴ糖が,有仔への重要な栄養源として利用されていることを示唆している.有袋類の乳は,タマーワラビーでの観察結果のように最大で14%もの糖質含量を含んでいるが(54)54) M. Messer & B. Green: Aust. J. Biol. Sci., 32, 519 (1979).,ラクトースよりも分子量の大きなオリゴ糖を高濃度に含むことによって乳の低浸透圧を維持している.同重量濃度の溶液において2糖を溶解した溶液の浸透圧が,単糖の溶液のそれの2倍であることからも,低浸透圧維持のメカニズムが理解されるであろう.浸透圧が高くない状態で高濃度の糖質を含む乳を摂取すれば,乳仔は下痢をしないで高エネルギーを獲得することができる.有袋類乳の高ガラクトシルオリゴ糖のガラクトースは,乳仔での循環過程でグルコースに変換され,エネルギーとして利用されているであろう.つまりこのような高ガラクトシルオリゴ糖の獲得が,非常に未熟な状態で出産された有袋類乳仔の成長にとって重要な生存戦略になっていった.
筆者は恩師で友人のMichael Messerとともに2002年にTrends in Glycoscience and Glycotechnology誌に「ミルクオリゴ糖とラクトースの進化」というタイトルで,乳の糖質の進化と単孔類,有袋類,有胎盤類の泌乳・子育て戦略についての総説を出版した(2)2) M. Messer & T. Urashima: Trends Glycosci. Glycotechnol., 14, 153 (2002)..それから10年以上が経過し,それまでに研究されていなかったカモノハシの酸性ミルクオリゴ糖や,タマーワラビー以外の有袋類の中性ならびに酸性ミルクオリゴ糖の構造情報が新たに蓄積された.それはNMRやMALDI TOFMSのような構造解析方法とともに,中性オリゴ糖や酸性オリゴ糖の分離・精製技術の進歩によるところが大きい.ハリモグラのみならず,カモノハシの酸性ミルクオリゴ糖における4-O-N-アセチルノイラミン酸の存在や,有袋類と一部の有胎盤類ミルクオリゴ糖の共通コア骨格としてのラクト-N-ノボペンタオースIの存在,有袋類の酸性ミルクオリゴ糖における高濃度の硫酸基の存在など,新たな知見が付け加わった.そのことで,特に単孔類や有袋類の乳仔の子育て戦略,生存戦略はより詳細に考察できるようになった.乳に含まれる糖質はラクトースであるという単純なドグマはすでに過去のものとなり,多様なミルクオリゴ糖の存在は哺乳類の多様な進化と生存戦略とも密接に関連している.一方でミルクオリゴ糖研究は,動物園などの飼育下での単孔類や有袋類の乳仔への人工調合乳の調整方法にもヒントを与えている.たとえば,一部の乳業会社がヒトへの育児用調合乳にプレバイオティクス素材として添加しているガラクトオリゴ糖を,カンガルー用の調合乳に添加すれば,仔にとっての重要な成長のための栄養源となるであろう.
Acknowledgments
本文の中でも紹介した2012年9月にオーストラリア・タスマニア島で行ったハリモグラのフィールドワークは,文部科学省グローバルCOEプログラムによる研究助成によって行われた.
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