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ドメインスワッピング機構によるタンパク質超分子化タンパク質が構造領域の一部を分子間で交換することでパズルのようにつながる

Masaru Yamanaka

山中

奈良先端科学技術大学院大学物質創成科学研究科

Shun Hirota

廣田

奈良先端科学技術大学院大学物質創成科学研究科

Published: 2016-04-20

タンパク質の多くは,生体内で多量体や複合体などの超分子となって機能している.タンパク質超分子化にはさまざまな機構があるが,本稿では近年注目されているドメインスワッピングを取り上げる.ドメインスワッピングは,Eisenbergらによってジフテリアトキシンの2量化機構として見いだされた(1)1) M. J. Bennett, S. Choe & D. Eisenberg: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 91, 3127 (1994)..ジフテリアトキシンは,2分子間で構造領域の一部を交換することでまるでパズルのように2量体を形成した.このように,タンパク質が構造領域の一部を分子間で交換することで超分子化する機構がドメインスワッピングである.Eisenbergらの報告以降,次々とドメインスワッピングにより超分子化するタンパク質が明らかとなっている.

ドメインスワッピングによるタンパク質超分子化は,生理学的観点からも注目されている.セルピン病に関連するα1-antitrypsinがドメインスワッピングにより連続的に多量化することがYamasakiらにより報告された(2)2) M. Yamasaki, W. Li, D. J. Johnson & J. A. Huntington: Nature, 455, 1255 (2008)..また,Liuらは透析アミロイド症にかかわるβ2-microglobulinがドメインスワッピングにより多量化し,アミロイド繊維となることを報告した(3)3) C. Liu, M. R. Sawaya & D. Eisenberg: Nat. Struct. Mol. Biol., 18, 49 (2011)..これらの報告などにより,ドメインスワッピングによるタンパク質超分子化が,タンパク質の構造変性がかかわる疾病とも関連することが示唆されている.

われわれは,生物エネルギー代謝系の電子伝達ヘムタンパク質であるシトクロムc (cyt c)がドメインスワッピングにより超分子化することを見いだした(4)4) S. Hirota, Y. Hattori, S. Nagao, M. Taketa, H. Komori, H. Kamikubo, Z. Wang, I. Takahashi, S. Negi, Y. Sugiura et al.: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 107, 12854 (2010)..ウマcyt cの2量体および3量体のX線結晶構造解析から,cyt cがC末端α-ヘリックスを分子間で交換することで超分子化することが明らかとなった(図1図1■Cyt cおよびMbのドメインスワッピングによる超分子化).ドメインスワッピングによる超分子ではメチオニン配位子がヘム鉄から解離し,cyt cは電子伝達能を失った.さらに,ヘムタンパク質であり酸素貯蔵機能をもつミオグロビン(Mb)もドメインスワッピングにより超分子化することを明らかにした(5)5) S. Nagao, H. Osuka, T. Yamada, T. Uni, Y. Shomura, K. Imai, Y. Higuchi & S. Hirota: Dalton Trans., 41, 11378 (2012)..MbはF–Hヘリックス領域を分子間で交換し,EとFヘリックス間のループがつながって1本の長いα-ヘリックスになり,2量体を形成した(図1図1■Cyt cおよびMbのドメインスワッピングによる超分子化).これらの研究により,生体内で重要な機能を担うヘムタンパク質もドメインスワッピングにより超分子化することが明らかとなった.

図1■Cyt cおよびMbのドメインスワッピングによる超分子化

上段左からcyt c単量体,2量体,3量体,下段左からMb単量体,2量体.それらの模式図も構造の下に示した.

現在,われわれはドメインスワッピングによるヘムタンパク質の超分子化をさまざまな角度から研究している.その一部を紹介する.ウマcyt cと3次構造とヘム配位構造は似ているが,分子量が小さい好熱性水素細菌Hydrogenobacter thermophilus cyt c552(HT cyt c552)の超分子化を調べた.その結果,HT cyt c552もドメインスワッピングにより超分子化するが,分子間での交換領域はN末端α-ヘリックスとヘムを含む領域で,ウマcyt cの場合と異なることがわかった(6)6) Y. Hayashi, S. Nagao, H. Osuka, H. Komori, Y. Higuchi & S. Hirota: Biochemistry, 51, 8608 (2012)..交換領域の違いはタンパク質ごとの内部相互作用の違いに起因すると考えられる.HT cyt c552は好熱菌由来でその単量体の熱安定性は高いが,HT cyt c552 2量体もウマcyt c 2量体よりも熱に安定であった.これは,単量体の安定性がドメインスワッピングにより形成される2量体の安定性に関係することを示している.ドメインスワッピングでは構造領域の一部を交換することで超分子化するので,単量体と2量体で多くの相互作用が保存され,単量体の安定化因子が2量体の安定性にも寄与するのは当然とも言える.

ドメインスワッピングによる超分子化をタンパク質工学的な分子デザインへ応用する試みも行っている.上述のようにMbのドメインスワッピング2量体では,2つのサブユニットの各E–Fループ部分がα-ヘリックスとなり逆平行に並んでいる.そこで,この部分に存在する塩橋を改変した2種類の変異体を作ることで,異なるMb変異体からなる2量体を構築することに成功した(7)7) Y. W. Lin, S. Nagao, M. Zhang, Y. Shomura, Y. Higuchi & S. Hirota: Angew. Chem. Int. Ed. Engl., 54, 511 (2015)..塩橋の改変と並行してヘム周辺環境も改変することで,分子内に異なる2種類のヘム中心をもつ人工ヘムタンパク質を作製した.このように,ドメインスワッピング超分子の構造を鋳型として新たな超分子の構築が可能であることが示された.また,HT cyt c552よりも熱安定な超好熱菌Aquifex aeolicus cyt c555(AA cyt c555)を材料にドメインスワッピングによる2量体を作製することで,幅広いpH領域や熱に対して安定なタンパク質超分子の構築にも成功した(8)8) M. Yamanaka, S. Nagao, H. Komori, Y. Higuchi & S. Hirota: Protein Sci., 24, 366 (2015)..AA cyt c555単量体にはCOやCNなどの外因性リガンドは結合しないが,AA cyt c555 2量体はこれらの外因性リガンドを結合する能力を新たに発現していた.AA cyt c555 2量体のX線結晶構造を見てみると,タンパク質表面からヘム中心へ通じるチャネルが形成されており(図2図2■AA cyt c555単量体と2量体の表面比較),ドメインスワッピングによるタンパク質超分子化によって,タンパク質の機能も改変できる可能性が示された.

図2■AA cyt c555単量体と2量体の表面比較

2量体ではヘムに通じるチャネル(矢印)が形成されている.

タンパク質が構造領域の一部を交換することでパズルのようにつながるドメインスワッピングは現象としてたいへん興味深い.ドメインスワッピングがどのようにして起こるのかその詳細な機構はいまだ不明な部分も多いが,本稿で紹介したように,タンパク質内部の相互作用が交換領域や多量体の安定性と関係していることなど,最近の研究からドメインスワッピングについてわかってきた部分も多く,新たなタンパク質超分子をデザインすることも可能になってきた.ドメインスワッピングによるタンパク質超分子化は,タンパク質の構造や機能を自由自在にデザインする手法としての可能性を秘めており,今後の展開が楽しみである.

Reference

1) M. J. Bennett, S. Choe & D. Eisenberg: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 91, 3127 (1994).

2) M. Yamasaki, W. Li, D. J. Johnson & J. A. Huntington: Nature, 455, 1255 (2008).

3) C. Liu, M. R. Sawaya & D. Eisenberg: Nat. Struct. Mol. Biol., 18, 49 (2011).

4) S. Hirota, Y. Hattori, S. Nagao, M. Taketa, H. Komori, H. Kamikubo, Z. Wang, I. Takahashi, S. Negi, Y. Sugiura et al.: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 107, 12854 (2010).

5) S. Nagao, H. Osuka, T. Yamada, T. Uni, Y. Shomura, K. Imai, Y. Higuchi & S. Hirota: Dalton Trans., 41, 11378 (2012).

6) Y. Hayashi, S. Nagao, H. Osuka, H. Komori, Y. Higuchi & S. Hirota: Biochemistry, 51, 8608 (2012).

7) Y. W. Lin, S. Nagao, M. Zhang, Y. Shomura, Y. Higuchi & S. Hirota: Angew. Chem. Int. Ed. Engl., 54, 511 (2015).

8) M. Yamanaka, S. Nagao, H. Komori, Y. Higuchi & S. Hirota: Protein Sci., 24, 366 (2015).