解説

Toll-like receptorによる核酸の認識機構

Nucleic Acid Recognition Mechanisms by Toll-Like Receptors

Umeharu Ohto

大戸 梅治

東京大学大学院薬学系研究科

Toshiyuki Shimizu

清水 敏之

東京大学大学院薬学系研究科

CREST, JST

Published: 2016-04-20

微生物やウイルスなどの病原体由来のRNAやDNAは自然免疫系を活性化する.これらの核酸を認識する受容体の一つとしてToll様受容体(TLRs)が知られており,エンドソーム膜上に存在するTLR3, TLR7, TLR8, TLR9がその役割を担っている.これらのTLRsは,抗ウイルス薬,アレルギー薬,ワクチンのアジュバントなどのターゲットとして注目を集めている.近年,これらのTLRsに関しての構造生物学的研究が進んでいる.興味深いことに,いずれのTLRも異なる部位で核酸を認識していることが明らかになってきた.本稿では,これらのTLRsがどのようにしてターゲット核酸を特異的に認識し,膜を隔てて細胞内へとシグナルを伝達するのかに関するこれまでの知見を紹介する.

自然免疫を担うパターン認識受容体

われわれの体の中には微生物などの病原体が侵入したことを検知し排除する機構が存在し,これは免疫システムと呼ばれている.自然免疫系は,その最前線に位置しており,病原体の侵入をいち早く検知し,さまざまな炎症性サイトカインやインターフェロンなどの因子の発現を誘導するとともに,獲得免疫を活性化させることで外敵から生体を防御している(1)1) O. Takeuchi & S. Akira: Cell, 140, 805 (2010)..自然免疫を活性化させる病原体の構成成分はPAMPs(Pathogen associated molecular patterns)と呼ばれ,自然免疫系のパターン認識受容体により特異的に認識され免疫系を活性化する.代表的なパターン認識受容体として,Toll様受容体(TLRs),Nod様受容体,RIG-I様受容体などが知られている(1)1) O. Takeuchi & S. Akira: Cell, 140, 805 (2010).

TLR受容体

90年代後半にTLR4がLPS受容体であることが実証されて以降(2, 3)2) K. Hoshino, O. Takeuchi, T. Kawai, H. Sanjo, T. Ogawa, Y. Takeda, K. Takeda & S. Akira: J. Immunol., 162, 3749 (1999).3) A. Poltorak, X. L. He, I. Smirnova, M. Y. Liu, C. Van Huffel, X. Du, D. Birdwell, E. Alejos, M. Silva, C. Galanos et al.: Science, 282, 2085 (1998).,次々とほかのTLRおよびそれらが認識するPAMPsが明らかにされてきた.これまでに,ヒトで10種類のTLRs(TLR1~TLR10)が見いだされている(1)1) O. Takeuchi & S. Akira: Cell, 140, 805 (2010)..それぞれのTLRは異なるPAMPを認識している(図1図1■自然免疫系Toll様受容体).いずれのTLRも3つの領域から構成されている.ロイシンリッチリピート(LRR)からなる細胞外ドメイン,膜貫通領域,細胞内のToll-IL-1受容体相同性(TIR)ドメインである(4, 5)4) N. Matsushima, T. Tanaka, P. Enkhbayar, T. Mikami, M. Taga, K. Yamada & Y. Kuroki: BMC Genomics, 8, 124 (2007).5) J. K. Bell, G. E. Mullen, C. A. Leifer, A. Mazzoni, D. R. Davies & D. M. Segal: Trends Immunol., 24, 528 (2003)..細胞外ドメインはリガンド認識を,細胞内のTIRドメインは下流へのシグナル伝達を担っている.細胞内のシグナル伝達経路はそれぞれのTLRによって異なっているが,大きく分けるとNF-κBを活性化して炎症性サイトカインを誘導する経路と,IRF-3やIRF-7を活性化して一型インターフェロンを誘導する経路に分けられる(1)1) O. Takeuchi & S. Akira: Cell, 140, 805 (2010)..TLR1, TLR2, TLR4, TLR5, TLR6は一般的には免疫細胞の細胞膜上に発現している.一方,TLR3, TLR7, TLR8, TLR9は細胞内小器官であるエンドソームの膜上に発現し,エンドソーム内腔に取り込まれた病原体由来のRNAやDNAなどの核酸の認識を行っている.TLR3はウイルス由来の二本鎖RNAを,TLR7とTLR8は主にウイルス由来の一本鎖RNAを,TLR9は微生物由来のDNAが有する非メチル化CpGモチーフを認識して活性化する.

図1■自然免疫系Toll様受容体

これまでに,TLR1/TLR2/トリアシルリポペプチド複合体(6)6) M. S. Jin, S. E. Kim, J. Y. Heo, M. E. Lee, H. M. Kim, S. G. Paik, H. Lee & J. O. Lee: Cell, 130, 1071 (2007).,TLR2/TLR6/ジアシルリポペプチド複合体(7)7) J. Y. Kang, X. Nan, M. S. Jin, S. J. Youn, Y. H. Ryu, S. Mah, S. H. Han, H. Lee, S. G. Paik & J. O. Lee: Immunity, 31, 873 (2009).,TLR3/dsRNA複合体(8)8) L. Liu, I. Botos, Y. Wang, J. N. Leonard, J. Shiloach, D. M. Segal & D. R. Davies: Science, 320, 379 (2008).,TLR4/MD-2/LPS複合体(9, 10)9) B. S. Park, D. H. Song, H. M. Kim, B. S. Choi, H. Lee & J. O. Lee: Nature, 458, 1191 (2009).10) U. Ohto, K. Fukase, K. Miyake & T. Shimizu: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 109, 7421 (2012).,TLR5/フラジェリン複合体の結晶構造が明らかにされてきた(11)11) S. I. Yoon, O. Kurnasov, V. Natarajan, M. Hong, A. V. Gudkov, A. L. Osterman & I. A. Wilson: Science, 335, 859 (2012)..いずれのTLR/リガンド複合体も,ホモ2量体またはヘテロ2量体中の2分子のTLRがそれらのC末端側を中央に配置したM字型の構造を形成していた.つまり,2分子のTLRがリガンドを介して背中合わせに会合しており,リガンドはその際に2分子のTLRを互いにつなぎ止める役割を果たしていた.2分子のTLRのC末端側が互いに近接することで,膜貫通領域を通じた細胞内のTIRドメインが相互作用できるようになり,そこへ各種アダプター分子がリクルートされることでシグナルが伝達されるというモデルが考えられている(12)12) D. H. Song & J. O. Lee: Immunol. Rev., 250, 216 (2012).

一本鎖核酸を認識するTLR7, TLR8, TLR9

一本鎖核酸を認識するTLR7, TLR8, TLR9は,系統学的には近縁のタンパク質であり,TLRの中では互いに高いアミノ酸配列の相同性を有するサブファミリーを形成している.特にTLR7とTLR8はともに一本鎖RNAを認識し,アミノ酸配列の相同性も最も高い.TLR7とTLR8は,当初抗ウイルス作用を示す合成低分子リガンドの受容体であることが同定された(13, 14)13) M. Jurk, F. Heil, J. Vollmer, C. Schetter, A. M. Krieg, H. Wagner, G. Lipford & S. Bauer: Nat. Immunol., 3, 499 (2002).14) H. Hemmi, T. Kaisho, O. Takeuchi, S. Sato, H. Sanjo, K. Hoshino, T. Horiuchi, H. Tomizawa, K. Takeda & S. Akira: Nat. Immunol., 3, 196 (2002).が,その後,HIV-1やインフルエンザなどウイルス由来の一本鎖RNAの受容体であることが実証された(15, 16)15) F. Heil, H. Hemmi, H. Hochrein, F. Ampenberger, C. Kirschning, S. Akira, G. Lipford, H. Wagner & S. Bauer: Science, 303, 1526 (2004).16) S. S. Diebold, T. Kaisho, H. Hemmi, S. Akira & C. R. E. Sousa: Science, 303, 1529 (2004)..TLR7やTLR8はGUに富んだRNAやポリU配列のRNAによって活性化される.TLR7やTLR8を活性化する合成低分子リガンドは強力な抗ウイルス作用を示し,また,分子量も200~300と小さく,抗ウイルス薬や抗腫瘍薬として有望視されている.TLR9は微生物由来のDNAが有する非メチル化CpGモチーフを認識する(17)17) H. Hemmi, O. Takeuchi, T. Kawai, T. Kaisho, S. Sato, H. Sanjo, M. Matsumoto, K. Hoshino, H. Wagner, K. Takeda et al.: Nature, 408, 740 (2000)..哺乳動物のDNA中のCpG配列は高頻度でメチル化されるのに対して,微生物のDNAはメチル化されない.それゆえに,TLR9はDNA中のCpG配列のメチル化の有無を見分けることによって,外来のDNAと自己のDNAを見分けている.TLR7-9の細胞外ドメインは,約800アミノ酸残基からなりTLRファミリーの中で最も大きく,いずれも26個のLRR単位から構成され,LRR14とLRR15の間には40~60残基程度のループ領域が存在すると予想されていた.興味深いことに,この領域においてプロテアーゼに切断を受けることがTLR7-9の活性化に必須であるという複数の報告がなされている(18~21).TLR7-9のリガンドの同定以来,さまざまな研究がなされてきたが,TLR7およびTLR8がどのようにして一本鎖RNAを認識するのか,また,なぜ低分子リガンドによっても活性化されうるのか,TLR9がどのようにして非メチル化CpGモチーフを特異的に認識して活性化するのか,を説明するために構造生物学的な研究が待望されていた.

TLR8によるリガンド認識とシグナル伝達

1. TLR8は2量体を再構成することで活性化する

筆者らは,ショウジョウバエS2細胞を用いて複数のTLRの細胞外ドメイン全長を発現させることに成功し,まずTLR8の構造解析に着手した.TLR8は発現させた時点ですでにLRR14とLRR15の間のループ領域(以降Z-loopと呼ぶ)において切断されていたが,精製の過程でZ-loopを挟んだN末端側とC末端側は解離することはなかった.まず,リガンド非結合状態と低分子リガンド結合状態のTLR8の結晶構造解析に成功し,いずれの構造でもTLR8の2量体が観察された(22)22) H. Tanji, U. Ohto, T. Shibata, K. Miyake & T. Shimizu: Science, 339, 1426 (2013).図2図2■リガンド結合に伴うTLR8の2量体構造の再編成).2量体を構成するプロトマーは,これまで構造解析されていたほかのTLRの馬蹄型構造とは異なり,閉じたリング型構造を形成していた.リガンド非結合状態とリガンド結合状態のTLR8は,C末端が中央に配置したM字型の2量体を形成しているという点では共通していた.しかし,リガンド非結合状態ではC末端の間の距離が約50 Å離れているのに対して,リガンド結合状態ではC末端の間の距離は約30 Åまで接近している(図2図2■リガンド結合に伴うTLR8の2量体構造の再編成).これまで構造解析されていたほかのTLRの活性化型構造におけるC末端同士の距離はいずれも20~30 Åであり,TLR8のリガンド結合状態が活性化型構造であると結論づけられた.ほかのTLRと同様に細胞外ドメインのC末端同士が近接することで,細胞内のTIRドメインが相互作用して下流のアダプター分との相互作用が可能になりシグナルが伝わるのであろう.リガンド非結合状態で形成されていた2量体のプロトマー間の相互作用は,リガンド結合に伴いすべていったん破壊され,新たに別の相互作用が形成されていた.つまり,TLR8はリガンド結合に伴い2量体構造を再編成することで活性化することが明らかになった.

図2■リガンド結合に伴うTLR8の2量体構造の再編成

2. TLR8による低分子リガンドの認識

TLR8に対する低分子リガンドは,TLR8の2量体の2回軸で関係づけられる等価な2カ所の位置に結合していた(図2図2■リガンド結合に伴うTLR8の2量体構造の再編成).低分子リガンドは,2量体の一方のプロトマーのN末端側断片と,そしてもう一方のプロトマーのC末端側断片によって挟まれる形で結合していた.このようにリガンドは2量体界面に存在しプロトマー間の会合を介在する役割を果たしている.構造解析の結果,複数のリガンドにおいて共通した相互作用が確認され,TLR8と低分子リガンドの結合に重要だと思われる相互作用が明らかになった.これは,さらなる構造展開する際に重要な指針となるであろう.

3. TLR8による一本鎖RNAの認識

一本鎖RNAと低分子リガンドは大きさも化学的な性質も全く異なるため,TLR8と低分子リガンドとの複合体の結果から一本鎖RNAの認識機構を予測するのは困難であった.そこで,筆者らは,20 merのRNAを用いてTLR8と共結晶化しRNA複合体の構造解析を行った.TLR8とRNA複合体の構造は,TLR8と低分子リガンド複合体構造と同様の活性化型2量体を形成していた(23)23) H. Tanji, U. Ohto, T. Shibata, M. Taoka, Y. Yamauchi, T. Isobe, K. Miyake & T. Shimizu: Nat. Struct. Mol. Biol., 22, 109 (2015).図3図3■TLR8は一本鎖RNAの分解産物であるウリジンを認識する).結晶構造中では,結晶化に用いた20 merのRNAに相当する長さの電子密度は確認されず,代わりに,ウリジンと短鎖RNAの電子密度がそれぞれ2カ所の異なる場所に確認された.ウリジンは,低分子リガンドが結合していた場所(第1結合部位)に結合していた.短鎖RNAは,リング型構造の内側(第2結合部位)に結合していた.一本鎖RNAはそのままの状態でTLR8に結合するのではなく,分解されてTLR8に結合していたのである.第一結合部位におけるウリジンは,低分子リガンドと同様に2量体界面に結合することで活性化型2量体構造を安定化しているものと考えられる.一方,第2結合部位における短鎖RNAは,リングの内側のLRRの凹面とZ-loopに挟まれて結合しており,2量体界面からは離れた位置に存在している.このため,第2結合部位への短鎖RNAの結合は,活性化型2量体への構造変化には直接は関与しないものと考えられる.ここで,筆者らは一本鎖RNAとウリジンの間にシナジー効果が存在することを見いだした.恒温滴定カロリメトリー(ITC)により,TLR8とリガンドとの解離定数を算出したところ,ウリジンをTLR8単独の溶液に滴定した場合に比べて,TLR8と一本鎖RNAの混合溶液に滴定した場合のほうがTLR8とウリジンの間の結合が数十倍強くなることが明らかになった.同様に,TLR8を発現させた培養細胞を用いた系においても,ウリジンと一本鎖RNAでともに刺激した場合は顕著に活性の上昇が認められた.これらの結果を総合して考えると,一本鎖RNAを認識する際にはTLR8の第2結合部位にまず短鎖RNAが結合して,次に第1結合部位にウリジンが結合して活性化型2量体を誘導するという活性化モデルが考えられる.第2結合部位へのRNAの結合は,それ自体では活性化を引き起こさないが,アロステリックな効果により第1結合部位へのリガンドの結合を促進するものと考えられる.低分子リガンドでの活性化においても,一本鎖RNAでの活性化においても,第1結合部位へのリガンド結合が最終的な活性化状態へと導くのに重要である.この点において,これまでTLR8は一本鎖RNAを認識する受容体であると考えられてきたが,実際は,一本鎖RNAが分解されて生じたウリジンを認識する受容体であるといったほうが適切であろう.

TLR9によるCpGモチーフDNAの認識

TLR9はCpGモチーフを有するDNA(CpG DNA)をどのように認識するのか,なぜメチル化CpGモチーフではTLR9は活性化されないのか長年の疑問であった.筆者らは,それらの疑問に答えるために,リガンド非結合状態のTLR9, TLR9とCpG DNAとの複合体,さらにTLR9とアンタゴニストDNAとの複合体の構造解析を行った(24)24) U. Ohto, T. Shibata, H. Tanji, H. Ishida, E. Krayukhina, S. Uchiyama, K. Miyake & T. Shimizu: Nature, 520, 702 (2015).

1. TLR9におけるZ-loop切断の意義

S2細胞で発現させたTLR9は,TLR8とは違って,Z-loopで切断されていなかった.ゲルろ過クロマトグラフィーおよび超遠心分析の結果,このZ-loop未切断体はDNAの結合能は有しているが,その後の2量体形成が起きないことが明らかになった.そこで,TLR9に対してV8プロテアーゼを作用することで人工的にZ-loop部分で切断されたTLR9を調製した.このZ-loop切断体TLR9は,リガンド非結合状態およびアンタゴニストDNA結合状態では溶液中で単量体として存在していた.一方,アゴニストDNAであるCpG DNA依存的にTLR9の2量体形成が促進された.つまり,TLR9におけるZ-loop切断は,リガンド結合ではなくリガンド依存的な2量体形成を制御していることが明らかになった.

2. TLR9によるCpG DNAの認識

結晶構造解析には,上記のようにZ-loop部分で切断されたTLR9を用いた(以降ではこれをTLR9と呼ぶ).溶液中での結果と対応して,結晶中ではリガンド非結合状態およびアンタゴニストDNA結合状態のTLR9は単量体として存在していた.一方,CpG DNA結合状態のTLR9は2量体として存在しており,2  : 2の結合比の複合体を形成していた(図4図4■TLR9によるCpG DNAおよびアンタゴニストDNAの認識).アミノ酸配列の相同性から予測されたように,TLR9の単量体の構造はTLR8と非常によく似たリング型の構造をしていた.TLR9とCpG DNAとの複合体の2量体構造は,TLR8の活性化型2量体構造の配置と非常によく似ており,2つのプロトマーのC末端同士の距離も約30 Åであり活性化型構造だと考えられる.面白いことに,TLR8とTLR9の間で,単量体の構造および活性化型2量体の構造はよく似ているにもかかわらずリガンド結合部位は全く異なっていた(図2~4図2■リガンド結合に伴うTLR8の2量体構造の再編成図4■TLR9によるCpG DNAおよびアンタゴニストDNAの認識).DNAは2量体の一方のプロトマーのN末端側断片の側面からリングの内側に沿う形で伸びた状態で結合していた.さらに,もう一方のプロトマーのC末端側断片の凸面との間で相互作用していた.つまり,TLR9の2つのプロトマーの間に挟まれる形で結合することで活性化型の2量体構造を安定化していた(図4図4■TLR9によるCpG DNAおよびアンタゴニストDNAの認識).CpGモチーフのシトシンおよびグアニン環は,TLR9の側面に形成された溝にはまり込む形でTLR9の残基と特異的な相互作用を形成していた.構造解析の結果,CpGモチーフの塩基部分は直接TLR9の残基と相互作用するとともに,複数の水を介してTLR9と相互作用することが明らかになった.CpGモチーフのシトシン部分がメチル化されることでその水を介した相互作用ネットワークが破壊されて,結合が弱くなるのであろうと考察している.実際に,ゲルろ過クロマトグラフィーやITC実験を行ったところ,CpGモチーフのシトシンをメチル化したDNAでは,非メチル化DNAに比べて結合が弱くなることが確認されている.細胞を用いたリポーターアッセイにおいても同様にメチル化したDNAでは活性が減少している.TLR9はエンドソームの酸性条件下でリガンド認識を行うと考えられる.そこで,TLR9のCpG DNA結合のpH依存性を調べたところ,酸性側で強い結合を示し塩基性側では結合が弱くなることが明らかになった.構造解析の結果,複数のヒスチジン残基が静電相互作用によりCpG DNA認識に寄与していることが明らかになった.TLR9のCpG DNA結合のpH依存性はこれらのヒスチジン残基の影響しているものと考えられる.

図3■TLR8は一本鎖RNAの分解産物であるウリジンを認識する

図4■TLR9によるCpG DNAおよびアンタゴニストDNAの認識

3. TLR9によるアンタゴニストDNAの認識

TLR9とアンタゴニストDNAは1 : 1の複合体を形成していた(図4図4■TLR9によるCpG DNAおよびアンタゴニストDNAの認識).CpG DNAが伸びた状態でTLR9に結合していたのとは対照的に,アンタゴニストDNAはTLR9のN末端側のハーフリングの内側にコンパクトなステムループを形成して結合していた.ステム領域は3または4塩基対によって形成されており主に3′側ステムのリン酸基部分が認識されていた.それに加えて,ループ領域の塩基部分や3′側の突出末端部分の塩基部分も特異的に認識されていた.アンタゴニストDNAの結合部位は一部CpG DNAの結合部位と重複していた.また,ITC実験の結果,アンタゴニストDNAはCpG DNAと比べてTLR9に強く結合することが明らかになった.これらのことから,アンタゴニストDNAはTLR9に対して強固に結合することで,アゴニストCpG DNAの結合を競合的に阻害するものと考えられる.

おわりに

TLRの発見から20年近くが経過し,さまざまなアプローチによりその制御機構,リガンド認識機構,活性化機構が明らかにされてきた.なかでも構造生物学的研究,特にX線結晶構造解析によるTLRとそのリガンドとの複合体の構造情報が,TLRのリガンド認識機構およびシグナル伝達機構を理解するのに大きく貢献してきた.本稿で紹介したTLR8のように,構造解析して初めて真の意味でのリガンドの同定に成功したものもある.それらの研究により,TLRの細胞外ドメインにおけるリガンド認識機構はおおむね明らかになったということができるだろう.しかし,それらの構造生物学的研究はいずれもTLRの細胞外ドメインに焦点を絞ったものであり,膜を隔てた細胞内へとシグナルを伝達する機構に関しては未だ憶測の域を出ない.今後,真の意味でTLRのシグナル伝達機構を理解するには,膜貫通領域および細胞内のTIRドメインを含んだ全長TLRについての構造生物学的な研究を展開していく必要があるだろう.

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