Kagaku to Seibutsu 54(5): 324-334 (2016)
解説
液胞/リソソーム膜を介したアミノ酸輸送の分子機構
The Molecular Machinery of Amino Acid Transport across the Vacuolar/Lysosomal Membrane
Published: 2016-04-20
真核微生物の細胞内に発達する液胞はアミノ酸を能動的に取り込み蓄積するとともに,動物リソソーム同様,その内腔へと輸送されたタンパク質を分解しアミノ酸を生じる.これらアミノ酸は栄養飢餓条件で速やかにサイトゾルへと排出され新規タンパク質合成へと再利用される.液胞/リソソーム膜のアミノ酸トランスポーターは細胞内アミノ酸濃度の好適化に機能すると考えられ,その改変により有用微生物の育種,農作物の栄養価および収量の向上や病原性真菌の駆除/感染予防などへの応用が期待される.本稿ではこれまで同定された液胞/リソソームアミノ酸トランスポーターについて解説するとともに,その生理機能および調節機構について最近の知見を紹介する.
© 2016 Japan Society for Bioscience, Biotechnology, and Agrochemistry
© 2016 公益社団法人日本農芸化学会
細胞内に存在するアミノ酸には代謝回転が活発な“動的”なプールとほとんど代謝されない“静的”なプールが存在するといわれてきた.細胞内の一重膜オルガネラである液胞がこの“静的”なアミノ酸プールを形成するコンパートメントであると報告されて以来40年が経過した(1)1) A. Wiemken & M. Durr: Arch. Microbiol., 101, 45 (1974)..出芽酵母Saccharomyces cerevisiaeの液胞内には細胞全体の70~90%の塩基性アミノ酸(リジン,ヒスチジン,アルギニン)が蓄積する一方,酸性アミノ酸(アスパラギン酸,グルタミン酸)は細胞全体の10%以下しか存在しないことが単離液胞の解析を通じて明らかにされた(図1図1■液胞膜を介したアミノ酸輸送).その後,液胞膜小胞の単離法が確立され(図2図2■液胞膜小胞の単離),これを用いた解析によって,アルギニンが液胞型プロトンATPase(V-ATPase)によって形成されたプロトン濃度勾配に依存して能動的に取り込まれ,小胞内外で40倍の濃度差を形成することが示された(2)2) Y. Ohsumi & Y. Anraku: J. Biol. Chem., 256, 2079 (1981)..さらにアルギニン以外の9種のアミノ酸(リジン,ヒスチジン,フェニルアラニン,トリプトファン,チロシン,グルタミン,アスパラギン,イソロイシン,ロイシン)のATP依存的な取り込み活性が検出され(3)3) T. Sato, Y. Ohsumi & Y. Anraku: J. Biol. Chem., 259, 11505 (1984).,ヒスチジンとアルギニンの交換輸送活性も報告されている(4)4) T. Sato, Y. Ohsumi & Y. Anraku: J. Biol. Chem., 259, 11509 (1984)..液胞膜小胞のATP依存的なアルギニン取り込みのKm値(0.6 mM)は細胞膜を介したアルギニン取り込みの約100倍と親和性が低いことから,液胞内へのアミノ酸取り込みは細胞内に取り入れたアミノ酸を隔離・保存し,サイトゾル中アミノ酸濃度を適正に維持するために機能すると考えられている.液胞膜小胞の単離解析法に続き,酵母細胞を銅処理することによって液胞内アミノ酸のみを調製する手法も確立された(5)5) Y. Ohsumi, K. Kitamoto & Y. Anraku: J. Bacteriol., 170, 2676 (1988)..この手法はさまざまな栄養条件で培養した細胞の液胞内アミノ酸含量を比較的簡便に測定することを可能とし,培地中アミノ酸含量の変化に伴って液胞内アミノ酸含量が大きく変化することが示された(6)6) K. Kitamoto, K. Yoshizawa, Y. Ohsumi & Y. Anraku: J. Bacteriol., 170, 2683 (1988)..特に,窒素飢餓条件では液胞内のアルギニンが速やかに減少したことから,アミノ酸排出機構の存在も示唆され,液胞内アミノ酸プールの“動的”な側面が見えてきた(6)6) K. Kitamoto, K. Yoshizawa, Y. Ohsumi & Y. Anraku: J. Bacteriol., 170, 2683 (1988)..こうした変化に関わる分子機構や生理的意義を明らかにするためには,アミノ酸輸送を担うトランスポーターの同定解析が必要である.2000年代に入って出芽酵母Avtトランスポーター(7)7) R. Russnak, D. Konczal & S. L. McIntire: J. Biol. Chem., 276, 23849 (2001).と動物リソソームアミノ酸トランスポーターLYAAT-1(PAT1)(8)8) C. Sagne, C. Agulhon, P. Ravassard, M. Darmon, M. Hamon, S. El Mestikawy, B. Gasnier & B. Giros: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 98, 7206 (2001).が同定され,これを皮切りに現在まで表1表1■酵母液胞アミノ酸トランスポーターとそのホモログおよび図3図3■酵母液胞アミノ酸トランスポーターに示すトランスポーターが報告されている.後述するが,液胞/リソソームアミノ酸トランスポーターの生理機能が少しずつ明らかになっており,こうした新たな知見獲得が今後新規トランスポーター同定につながると期待される.
Superfamily | Family | 出芽酵母(Saccharomyces cerevisiae) | 分裂酵母(Schizosaccharomyces pombe) | ||||
---|---|---|---|---|---|---|---|
Transporter1 | Substrate | Direction2 | Transporter1 | Substrate | Direction2 | ||
AAAP | AVT | Avt1 | 中性アミノ酸・ヒスチジン | in | SpAvt3 | 中性・塩基性アミノ酸 | out |
Avt2 | unknown | — | |||||
Avt3 | 中性アミノ酸 | out | |||||
Avt4 | 中性・塩基性アミノ酸 | out | SpAvt5 | チロシン・グルタミン酸・塩基性アミノ酸 | in | ||
Avt5 | unknown | — | |||||
Avt6 | 酸性アミノ酸 | out | |||||
Avt7 | 中性アミノ酸 | out | |||||
MFS | VBA | Vba1 | リジン・ヒスチジン・Quinidine・Azole | in | Fnx1 | リジン・アスパラギン・イソロイシン | in |
Vba2 | 塩基性アミノ酸・Quinidine・Azole | in | |||||
Vba3 | リジン・ヒスチジン | in | Fnx2 | リジン・アスパラギン・イソロイシン | in | ||
Vba4 | Quinidine・Azole | in | |||||
(Vba5) | アルギニン・NQO3 | (細胞膜) | |||||
(Azr1) | Azole | (細胞膜) | SpVba2 | 塩基性アミノ酸 | in | ||
(Sge1) | Crystal violet | (細胞膜) | |||||
Atg22 | チロシン・ロイシン | out | SpAtg22 | 塩基性アミノ酸 | in | ||
TOG | PQ-loop protein | Ypq1 | リジン・アルギニン | in | (Stm1) | (栄養情報伝達) | (細胞膜) |
Ypq2 | アルギニン | in | |||||
Ypq3 | unknown | — | |||||
Ers1 | unknown | — | |||||
APC | Uga4 | GABA | in | — | — | — | |
1カッコ内は液胞膜以外に局在するタンパク質を示す 2 in: 液胞内への取り込み,out: 液胞外への排出,—:不明 3 4-Nitroquinoline N-oxide |
シナプス小胞にγ-aminobutyric acid(GABA)とグリシンを取り込むトランスポーターVGAT(ラット),VIAAT(ヒト・マウス)およびUNC-47(線虫)はいずれもAmino acid/auxin permease(AAAP)スーパーファミリー中のSLC32ファミリーに属する(9, 10)9) S. L. McIntire, R. J. Reimer, K. Schuske, R. H. Edwards & E. M. Jorgensen: Nature, 389, 870 (1997).10) C. Sagne, S. El Mestikawy, M. F. Isambert, M. Hamon, J. P. Henry, B. Giros & B. Gasnier: FEBS Lett., 417, 177 (1997)..出芽酵母ゲノムにコードされる7種のAAAPタンパク質は10~11回膜貫通型と予想され,AVTファミリーと名づけられた.RussnakらはこのうちAvt1がグルタミン,イソロイシン,チロシンを液胞内へ取り込み,Avt3とAvt4がこれらアミノ酸を逆に液胞外へ排出すること,また,Avt6は酸性アミノ酸の液胞外への排出に機能することを明らかにした(7)7) R. Russnak, D. Konczal & S. L. McIntire: J. Biol. Chem., 276, 23849 (2001)..これらは単離液胞膜小胞のATP依存的なアミノ酸取り込みへの各遺伝子破壊の影響に基づいたものであったが,我々は銅処理法によって抽出した液胞内アミノ酸試料の解析により,AVT3およびAVT4遺伝子の破壊や過剰発現によって中性アミノ酸全般の液胞内含量が大きく変化することを見い出した(図4図4■AVT3/AVT4の破壊および過剰発現による液胞内アミノ酸含量の変化).さらに液胞膜小胞に前負荷したこれらアミノ酸のATP依存的な排出活性を検出し,この活性がAVT3およびAVT4の発現に依存することを明らかにした(11)11) T. Sekito, S. Chardwiriyapreecha, N. Sugimoto, M. Ishimoto, M. Kawano-Kawada & Y. Kakinuma: Biosci. Biotechnol. Biochem., 78, 969 (2014).(図5図5■液胞膜小胞からのアミノ酸排出).これらの結果はAvt3とAvt4が広い基質特異性を有し,中性アミノ酸全般を液胞外へと排出することを示唆する.また液胞内の塩基性アミノ酸含量が栄養豊富条件でAVT4を過剰発現すると大幅に減少し(図4図4■AVT3/AVT4の破壊および過剰発現による液胞内アミノ酸含量の変化),欠損すると窒素飢餓条件での減少が部分的に抑制されることを見い出した(図6図6■窒素飢餓条件での液胞内塩基性アミノ酸含量の減少).塩基性アミノ酸は液胞膜小胞へのATP依存的取り込み活性が非常に高いため,排出活性を検出できない.そこでアミノ酸を前負荷せず液胞膜小胞のATP依存的な取り込みを測定したところ,塩基性アミノ酸のATP依存的取り込みがAVT4過剰発現によって減少した(図7図7■液胞膜小胞のATP依存的なアルギニン取り込み).これらは,Avt4が塩基性アミノ酸の排出にも機能することを示唆する(11)11) T. Sekito, S. Chardwiriyapreecha, N. Sugimoto, M. Ishimoto, M. Kawano-Kawada & Y. Kakinuma: Biosci. Biotechnol. Biochem., 78, 969 (2014)..
A. 液胞膜小胞からのアミノ酸排出活性測定.14C標識した各アミノ酸を前負荷した液胞膜小胞に2 mM ATPを添加し,経時的に小胞内のアミノ酸含量を測定した.B. Avt3およびAvt4による中性アミノ酸の排出.図示した各ベクターを導入したavt3∆avt4∆株から液胞膜小胞を単離し,アミノ酸排出活性を測定した.前負荷したアミノ酸量を100%とし相対値をプロットした.実線はATP存在下,点線はATP非存在下での測定結果を示す.C. 液胞膜小胞のプロトン/アミノ酸共輸送モデル.
A. 液胞膜小胞へのアルギニンおよびカルシウムのATP依存的取り込み活性測定.液胞膜小胞にATPと14C標識アルギニンもしくはカルシウム(45Ca)を添加し,小胞内含量を経時的に測定した.ATP未添加でも同様に測定し,ATP存在下での測定値から差し引いた値をATP依存的な取り込みとした.B. AVT4過剰発現による液胞膜小胞のアルギニン取り込みの減少.図示した各ベクターを導入したavt3∆avt4∆株から液胞膜小胞を単離し,ATP依存的なアルギニンとカルシウムの取り込みを測定した.C. 液胞膜小胞のアルギニン輸送モデル.小胞内に取り込まれたアルギニンがAvt4によって排出されるため,小胞へのアルギニン取り込みが減少する.
Avt3, Avt4, Avt6によるアミノ酸排出活性はV-ATPase阻害剤であるコンカナマイシンAやH+/K+イオノフォアであるニゲリシンによって阻害されることから,液胞からのアミノ酸排出も取り込み同様プロトン駆動力を利用すると考えられる(7, 11)7) R. Russnak, D. Konczal & S. L. McIntire: J. Biol. Chem., 276, 23849 (2001).11) T. Sekito, S. Chardwiriyapreecha, N. Sugimoto, M. Ishimoto, M. Kawano-Kawada & Y. Kakinuma: Biosci. Biotechnol. Biochem., 78, 969 (2014)..さらに最近,機能未知であったAvt7も中性アミノ酸の排出に関与することが報告された(12)12) J. Tone, A. Yamanaka, K. Manabe, N. Murao, M. Kawano-Kawada, T. Sekito & Y. Kakinuma: Biosci. Biotechnol. Biochem., 79, 190 (2015)..こうしたアミノ酸排出機構の解明は,液胞内へのアミノ酸取り込みについても新たな知見をもたらしている.当初,液胞内に能動的に取り込まれないとされたアラニンやバリン,トレオニンといった多くの中性アミノ酸は,avt3∆avt4∆株由来の液胞膜小胞にATP依存的に取り込まれた(13)13) J. Tone, A. Yoshimura, K. Manabe, N. Murao, T. Sekito, M. Kawano-Kawada & Y. Kakinuma: Biosci. Biotechnol. Biochem., 79, 782 (2015)..すなわち,液胞膜小胞のアミノ酸輸送は排出と取り込みによりバランスがとられており,排出活性を欠損させると取り込み活性が検出される.我々はこれらアミノ酸の取り込み活性がAVT1を破壊すると消失することを見い出した.Avt1依存的なイソロイシン取り込みのKmはアルギニンと同様10−3 M程度と低親和性である.さらに,このイソロイシン取り込みに対する競合阻害実験より,Avt1が中性アミノ酸全般だけでなく塩基性アミノ酸であるヒスチジンも液胞膜小胞へと取り込むことが明らかとなった(13)13) J. Tone, A. Yoshimura, K. Manabe, N. Murao, T. Sekito, M. Kawano-Kawada & Y. Kakinuma: Biosci. Biotechnol. Biochem., 79, 782 (2015)..こうしたAvt1によるアミノ酸の取り込みは小胞内酸性化に伴う蛍光色素キナクリンの消光効果を利用してプロトンとの対向輸送であることが示されている(13)13) J. Tone, A. Yoshimura, K. Manabe, N. Murao, T. Sekito, M. Kawano-Kawada & Y. Kakinuma: Biosci. Biotechnol. Biochem., 79, 782 (2015)..avt3∆avt4∆株のAVT1を破壊すると中性アミノ酸全般の液胞内含量が減少することから,in vivoにおいてもAvt1が幅広い基質特異性をもち,これらアミノ酸の液胞内への取り込みに機能すると考えられる(13)13) J. Tone, A. Yoshimura, K. Manabe, N. Murao, T. Sekito, M. Kawano-Kawada & Y. Kakinuma: Biosci. Biotechnol. Biochem., 79, 782 (2015)..
VBAファミリーはMajor facilitator superfamily(MFS)のサブファミリーであり,出芽酵母では11~12回膜貫通型タンパク質である7種のメンバーから構成される.我々はこの中のVba1を欠損すると細胞の塩基性アミノ酸取り込みが減少することを見い出した.Vba1のGFP融合タンパク質は液胞膜へと局在し,欠損株から単離した液胞膜小胞では塩基性アミノ酸のATP依存的取り込みが大幅に減少した.Vba2とVba3の欠損株も同様に塩基性アミノ酸の取り込みが減少したことから,これらが液胞アミノ酸輸送に関与することが示唆された(14)14) M. Shimazu, T. Sekito, K. Akiyama, Y. Ohsumi & Y. Kakinuma: J. Biol. Chem., 280, 4851 (2005).(表1表1■酵母液胞アミノ酸トランスポーターとそのホモログ,図3図3■酵母液胞アミノ酸トランスポーター).しかし,vba1∆vba2∆vba3∆株においても塩基性アミノ酸の取り込み活性が依然検出されることから,他のトランスポーターの関与が示唆されており,Avt1や後述のYpqタンパク質との機能重複について今後検討が必要である.
VBAファミリーに近縁のトランスポーターはいずれも薬剤耐性への関与が報告されており,VBAファミリーにおいてもAzr1とSge1は細胞膜に局在し薬剤の排出に機能することが示唆されている(15, 16)15) S. Tenreiro, P. C. Rosa, C. A. Viegas & I. Sa-Correia: Yeast, 16, 1469 (2000).16) A. E. Ehrenhofer-Murray, M. U. Seitz & C. Sengstag: Yeast, 14, 49 (1998).(表1表1■酵母液胞アミノ酸トランスポーターとそのホモログ).Vba5はVba3と非常に高い相同性を有するが,細胞膜に局在し,薬剤およびアルギニンの細胞内への取り込みに関与すると考えられる(17)17) M. Shimazu, T. Itaya, P. Pongcharoen, T. Sekito, M. Kawano-Kawada & Y. Kakinuma: Biosci. Biotechnol. Biochem., 76, 1993 (2012).(表1表1■酵母液胞アミノ酸トランスポーターとそのホモログ).また,Vba4は液胞膜に局在するがアミノ酸輸送には関与せず,これも薬剤耐性に関与する(18)18) M. Kawano-Kawada, P. Pongcharoen, R. Kawahara, M. Yasuda, T. Yamasaki, K. Akiyama, T. Sekito & Y. Kakinuma: Biosci. Biotechnol. Biochem., in press..Vba1およびVba2も欠損株の薬剤感受性試験より塩基性アミノ酸に限らず幅広い基質を輸送することが示唆されている(18)18) M. Kawano-Kawada, P. Pongcharoen, R. Kawahara, M. Yasuda, T. Yamasaki, K. Akiyama, T. Sekito & Y. Kakinuma: Biosci. Biotechnol. Biochem., in press..
真核細胞は飢餓条件に移すとオートファジーを誘導し,二重膜小胞であるオートファゴソームをサイトゾル中に形成する.やがてその外膜が液胞膜と融合し内膜に包まれたオートファジックボディ(AB)が液胞内腔に放出され,内容物が分解されてアミノ酸を産生する.MFSに属するAtg22は液胞膜に局在し,欠損するとABが分解されず液胞内に蓄積する.その原因としてAtg22が液胞外へのアミノ酸排出に機能し,欠損するとAB分解にはたらく液胞内在性プロテアーゼ合成へのアミノ酸供給が低下するためと説明されている(19)19) Z. Yang, J. Huang, J. Geng, U. Nair & D. J. Klionsky: Mol. Biol. Cell, 17, 5094 (2006)..しかし,先述のAvt3, Avt4, Avt6といった排出系トランスポーターの多重欠損株ではABの蓄積は見られず(未発表),Atg22欠損に伴う飢餓条件での液胞内アミノ酸含量や,液胞膜小胞のアミノ酸輸送活性の変化も検討されていない.アミノ酸リサイクルとオートファジックボディ分解の因果関係についてはさらなる検証が必要とされる.
Transporter-opsin-G protein coupled receptor(TOG)スーパーファミリーに属する線虫LAAT-1およびヒトPQLC2はリソソームからの塩基性アミノ酸排出に機能する(20, 21)20) B. Liu, H. Du, R. Rutkowski, A. Gartner & X. Wang: Science, 337, 351 (2012).21) A. Jezegou, E. Llinares, C. Anne, S. Kieffer-Jaquinod, S. O'Regan, J. Aupetit, A. Chabli, C. Sagne, C. Debacker, B. Chadefaux-Vekemans et al.: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 110, 3197 (2013)..これらは7回膜貫通型と予想され,保存されたプロリン-グルタミン連続2残基配列をもつことからPQループタンパク質と呼ばれている(図8A図8■PQループタンパク質のアライメントとYPQ1破壊による液胞膜小胞のアミノ酸取り込み活性の変化).出芽酵母PQループタンパク質であるYpq1とYpq2は液胞膜に局在し(21)21) A. Jezegou, E. Llinares, C. Anne, S. Kieffer-Jaquinod, S. O'Regan, J. Aupetit, A. Chabli, C. Sagne, C. Debacker, B. Chadefaux-Vekemans et al.: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 110, 3197 (2013).,我々はYpq1が液胞膜小胞へのATP依存的なリジンの取り込みに関与することを報告した(22)22) T. Sekito, K. Nakamura, K. Manabe, J. Tone, Y. Sato, N. Murao, M. Kawano-Kawada & Y. Kakinuma: Biosci. Biotechnol. Biochem., 78, 1199 (2014).(図8B図8■PQループタンパク質のアライメントとYPQ1破壊による液胞膜小胞のアミノ酸取り込み活性の変化).また,アルギニンのATP依存的な取り込みもYPQ1破壊によって部分的に低下し(図8B図8■PQループタンパク質のアライメントとYPQ1破壊による液胞膜小胞のアミノ酸取り込み活性の変化),YPQ2との二重破壊によってさらに大幅に低下したことから,Ypq1とYpq2はともにアルギニンの取り込みに機能することが示唆されている.アルギニンの液胞膜小胞への取り込みにはプロトンとの対向輸送の他にヒスチジンとの交換輸送も報告されているが(4)4) T. Sato, Y. Ohsumi & Y. Anraku: J. Biol. Chem., 259, 11509 (1984).,我々はこの活性の実体がYpq2であることを示す結果を得ている(日本農芸化学会2015年度大会にて発表).しかし,ypq1∆ypq2∆株の液胞には依然として塩基性アミノ酸が高度に蓄積するため,前述のようにVbaタンパク質との機能重複を検討する必要がある.また,塩基性アミノ酸の蓄積には負電荷をもつポリリン酸との相互作用が関与すると考えられている(23)23) M. Durr, K. Urech, Th. Boller, A. Wiemken, J. Schwencke & M. Nagy: Arch. Microbiol., 121, 169 (1979)..現在,ポリリン酸合成酵素やリン酸を液胞外へと排出するトランスポーターも同定され,その分子基盤を明らかにする環境が整ってきたといえる.
A. PQループタンパク質のCLUSTALWプログラムによるアライメント.予測された膜貫通領域(TM1~7)とプロリン–グルタミン保存配列(緑枠)を示した.B. 野生株(WT)とypq1∆株から単離した液胞膜小胞の各アミノ酸のATP依存的取り込み活性.
出芽酵母ゲノムにコードされるPQループタンパク質にはさらにYpq3とErs1がある.Ypq3の機能は未知であるが,Ers1は動物リソソームからシスチンを排出するシスチノシンのホモログとして解析されている.Ers1欠損株のハイグロマイシン感受性がシスチノシン発現によって抑制されることが報告されているが,シスチン輸送活性については依然未検証である(24)24) X. D. Gao, J. Wang, S. Keppler-Ross & N. Dean: FEBS J., 272, 2497 (2005)..
前述のように液胞アミノ酸輸送に機能するVba1は欠損すると細胞のアミノ酸取り込みも減少する.Amino-acid-polyamine-organocation(APC)ファミリーに属するUga4も欠損すると細胞のGABAの取り込みが減少するが,液胞膜に局在することから,液胞膜を介したGABA輸送への関与が示唆されている(25)25) T. Uemura, Y. Tomonari, K. Kashiwagi & K. Igarashi: Biochem. Biophys. Res. Commun., 315, 1082 (2004)..APCに属するトランスポーターの多くは欠損や過剰発現によって細胞のアミノ酸取り込み活性が変化するが,細胞内局在が未検証のものが含まれる.これらの細胞内局在検討により新規液胞アミノ酸トランスポーター同定につながる可能性がある.
分裂酵母Schizosaccharomyces pombeゲノムにコードされるVBA, AVT, YPQのホモログはそれぞれ三つ(Fnx1, Fnx2, SpVba2),二つ(SpAvt3, SpAvt5),一つ(Stm1)と出芽酵母よりも少ない(表1表1■酵母液胞アミノ酸トランスポーターとそのホモログ,図3図3■酵母液胞アミノ酸トランスポーター).したがって遺伝子間の機能重複が少なく,液胞アミノ酸輸送の生理的意義を明らかにするうえで有利と予想される.分裂酵母で発現したVBAとAVT各ホモログのGFP融合タンパク質はいずれも液胞膜に局在するが,液胞の単離法が確立されておらず,単離液胞膜小胞を用いたアミノ酸輸送活性の測定ができない.そこで我々は,分裂酵母細胞のアミノ酸取り込みを指標にできないかと考えた.プロトン濃度勾配を駆動力として液胞内に取り込まれるアミノ酸は分裂酵母細胞への取り込みがV-ATPase特異的阻害剤であるコンカナマイシンAによって阻害される.一方,液胞内へ能動的に取り込まれないグルコースアナログである2-Deoxy-D-glucoseの細胞内への取り込みは阻害されない.このことは液胞内への能動的な取り込み活性の変化が細胞内への取り込みに反映されることを示す.これを利用して,Fnx1とFnx2がリジン,イソロイシン,アスパラギン,SpVba2が塩基性アミノ酸全般,SpAvt5が塩基性アミノ酸,チロシン,グルタミン酸をそれぞれ液胞内に取り込むことが示唆された(26~28)26) S. Chardwiriyapreecha, M. Shimazu, T. Morita, T. Sekito, K. Akiyama, K. Takegawa & Y. Kakinuma: FEBS Lett., 582, 2225 (2008).28) S. Chardwiriyapreecha, H. Mukaiyama, T. Sekito, T. Iwaki, K. Takegawa & Y. Kakinuma: FEBS Lett., 584, 2339 (2010).(表1表1■酵母液胞アミノ酸トランスポーターとそのホモログ,図3図3■酵母液胞アミノ酸トランスポーター).
近年では出芽酵母でホモログを発現させ,単離液胞膜小胞を用いてそのアミノ酸輸送活性が検討されている.SpVba2を出芽酵母で発現させると単離液胞膜小胞のATP依存的な塩基性アミノ酸の取り込みが増加した(29)29) P. Pongcharoen, M. Kawano-Kawada, T. Iwaki, N. Sugimoto, T. Sekito, K. Akiyama, K. Takegawa & Y. Kakinuma: Biosci. Biotechnol. Biochem., 77, 1988 (2013)..この結果は細胞内へのアミノ酸取り込み活性を指標に得られた結果と一致する.また,SpAvt3についても出芽酵母で発現させると液胞膜に局在し,単離液胞膜小胞の中性/塩基性アミノ酸の排出が増加した(30)30) S. Chardwiriyapreecha, K. Manabe, T. Iwaki, M. Kawano-Kawada, T. Sekito, S. Lunprom, K. Akiyama, K. Takegawa & Y. Kakinuma: PLoS ONE, 10, e0130542 (2015)..さらにSpAvt3を欠損した分裂酵母細胞では液胞内の中性/塩基性アミノ酸の含量が大幅に増加したことから,SpAvt3は分裂酵母の排出系液胞アミノ酸トランスポーターとして機能すると考えられる(30)30) S. Chardwiriyapreecha, K. Manabe, T. Iwaki, M. Kawano-Kawada, T. Sekito, S. Lunprom, K. Akiyama, K. Takegawa & Y. Kakinuma: PLoS ONE, 10, e0130542 (2015)..
分裂酵母PQループタンパク質であるStm1は細胞膜に局在し,Gタンパク質(Gpa2)と結合する栄養感知受容体として機能することが示唆されている(31)31) K. S. Chung, M. Won, S. B. Lee, Y. J. Jang, K. L. Hoe, D. U. Kim, J. W. Lee, K. W. Kim & H. S. Yoo: J. Biol. Chem., 276, 40190 (2001)..出芽酵母Ypqタンパク質とは局在性も機能も異なるが,トランスポーターの中には栄養状態を感知する受容体として機能するものが報告されており,出芽酵母Ypqタンパク質もそのような機能をもつのかは今後の検討課題である.
分裂酵母ゲノムには出芽酵母Atg22と42%の相同性をもつSpAtg22がコードされている.出芽酵母Atg22はアミノ酸排出への関与が示唆されているが,SpAtg22は細胞へのアミノ酸取り込みに基づく評価より塩基性アミノ酸を液胞内に取り込むことが示唆されている(32)32) N. Sugimoto, T. Iwaki, S. Chardwiriyapreecha, M. Shimazu, M. Kawano, T. Sekito, K. Takegawa & Y. Kakinuma: Biosci. Biotechnol. Biochem., 75, 385 (2011)..前述のとおり,液胞膜小胞などを用いた直接的なアミノ酸輸送活性の検討が必要とされる.
フザリウム菌の1種F. oxysporumは植物の根から感染し,萎凋性病害を引き起こす病原菌である.最近我々はF. oxysporumのAvt3ホモログ(FoAvt3)がF. oxysporum細胞の液胞膜に局在することを見い出した.さらに出芽酵母で発現させると液胞内の中性アミノ酸含量が減少し,単離液胞膜小胞からの中性アミノ酸排出活性も増加した(33)33) S. Lunprom, P. Pongcharoen, T. Sekito, M. Kawano-Kawada, Y. Kakinuma & K. Akiyama: Biosci. Biotechnol. Biochem., in press..近年,フザリウム菌の病原性におけるオートファジーの重要性も相次いで報告され(34, 35)34) L. Josefsen, A. Droce, T. E. Sondergaard, J. L. Sorensen, J. Bormann, W. Schafer, H. Giese & S. Olsson: Autophagy, 8, 326 (2012).35) C. Corral-Ramos, M. G. Roca, A. Di Pietro, M. I. Roncero & C. Ruiz-Roldan: Autophagy, 11, 131 (2015).,我々の研究を起点に液胞アミノ酸リサイクルが果たす役割も今後明らかとなる可能性がある.真核微生物のAvt3/Avt4ホモログのN末端側には後述するように200アミノ酸残基以上の親水性領域が存在し(図9図9■Avt3/Avt4ホモログのN末端親水性領域),活性調節への関与が示唆されている.このような長い親水性領域は動植物のAvtホモログには存在しないため,病原性真菌に特異的な阻害効果をもつ薬剤の開発につながる可能性がある.
植物では窒素源が過剰供給されるとアミノ酸が液胞内に貯蔵され(36)36) J. Tilsner, N. Kassner, C. Struck & G. Lohaus: Planta, 221, 328 (2005).,周囲の栄養環境が整うとタンパク質合成に使われる.窒素化合物の転流は種子形成に重要であることから,液胞アミノ酸輸送の改変は農作物の収量や品質向上といった応用展開につながると考えられる.植物の液胞には大量のアミノ酸が蓄積するが,その体積が非常に大きいため,アミノ酸濃度はサイトゾルや葉緑体よりも低く,能動的な排出機構の存在が示唆されている.実際,葉細胞から単離した液胞にはいくつかの中性および塩基性アミノ酸排出系の存在が示唆されている(37, 38)37) S. Lalonde, D. Wipf & W. B. Frommer: Annu. Rev. Plant Biol., 55, 341 (2004).38) S. Okumoto & G. Pilot: Mol. Plant, 4, 453 (2011)..シロイヌナズナ単離液胞のプロテオミクス解析よりAPCに属するCAT(cationic amino acid transporter)ファミリーのうちいくつかは液胞に存在することが示唆され(39)39) M. Jaquinod, F. Villiers, S. Kieffer-Jaquinod, V. Hugouvieux, C. Bruley, J. Garin & J. Bourguignon: Mol. Cell. Proteomics, 6, 394 (2007).,最近トマトのCAT9ホモログがGABAとグルタミン酸/アスパラギン酸の交換輸送体であることが報告された(40)40) C. J. Snowden, B. Thomas, C. J. Baxter, J. A. Smith & L. J. Sweetlove: Plant J., 81, 651 (2015)..プロテオミクス解析ではAvt1とAvt6ホモログの液胞への局在も示されている.シロイヌナズナゲノムには19種のAvtホモログがコードされており,最近我々はシロイヌナズナAvt3ホモログの一つ(AtAvt3a)がシロイヌナズナ細胞の液胞膜に局在することを見い出した.出芽酵母avt3∆avt4∆株に発現したAtAvt3aは液胞膜に局在し,液胞内中性アミノ酸含量を低下させた.さらに単離液胞膜小胞のアミノ酸輸送活性測定より,AtAvt3aは出芽酵母Avt3と同様,中性アミノ酸の輸送能を有することが示唆されている(投稿中).
動物細胞では前述のようにAAAPに属するSLC32ファミリーのVGAT/VIAAT/UNC-47がシナプス小胞へのGABAおよびグリシン輸送を担う(9, 10)9) S. L. McIntire, R. J. Reimer, K. Schuske, R. H. Edwards & E. M. Jorgensen: Nature, 389, 870 (1997).10) C. Sagne, S. El Mestikawy, M. F. Isambert, M. Hamon, J. P. Henry, B. Giros & B. Gasnier: FEBS Lett., 417, 177 (1997)..AAAPにはSLC32の他にSLC36とSLC38ファミリーも含まれており,SLC36にはリソソームからの中性アミノ酸排出に機能するLYAAT-1が属する(8)8) C. Sagne, C. Agulhon, P. Ravassard, M. Darmon, M. Hamon, S. El Mestikawy, B. Gasnier & B. Giros: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 98, 7206 (2001)..SLC32およびSLC36ファミリーのトランスポーターはプロトン濃度勾配を駆動力とするが,SLC38ファミリーのトランスポーターはいずれもナトリウム依存性である.SLC38A9はリソソーム膜に局在し,再構成したリポソームは内部のナトリウムおよび酸性pHに依存してさまざまなアミノ酸を内外へと輸送することが示されている (41, 42)41) M. Rebsamen, L. Pochini, T. Stasyk, M. E. de Araujo, M. Galluccio, R. K. Kandasamy, B. Snijder, A. Fauster, E. L. Rudashevskaya, M. Bruckner et al.: Nature, 519, 477 (2015).42) S. Wang, Z. Y. Tsun, R. L. Wolfson, K. Shen, G. A. Wyant, M. E. Plovanich, E. D. Yuan, T. D. Jones, L. Chantranupong, W. Comb et al.: Science, 347, 188 (2015)..
PQループタンパク質ではシスチノシンがプロトンとの共輸送によってシスチンをリソソームから排出することが報告されている(43)43) V. Kalatzis, N. S. Cherqui, C. Antignac & B. Gasnier: EMBO J., 20, 5940 (2001)..シスチノシン遺伝子はシスチン症の原因遺伝子であり,変異によるリソソーム中でのシスチン蓄積が細胞障害を生じる.また,別のPQループタンパク質であるPQLC2(LAAT-1)はリソソームから塩基性アミノ酸を排出する(20)20) B. Liu, H. Du, R. Rutkowski, A. Gartner & X. Wang: Science, 337, 351 (2012)..シスチノシンの治療に投与されるシステアミンはリソソーム内でシスチンとジスルフィド結合によって,リジンと類似の構造をもつMxDと呼ばれる化合物となる.PQLC2はMxDをリソソーム外へと排出することが示唆されており,その活性を増強することにより効果的な治療が可能となるかも知れない.
動物リソソームのアミノ酸代謝における重要性は近年のオートファジー研究の飛躍的進展とともに大いに注目されている.動植物では未解析のAvt/Ypqホモログが数多く残っており,今後これらの解析も進むと考えられる.
細胞膜局在性のアミノ酸トランスポーターは細胞内外の栄養環境に応答して転写および翻訳後段階での調節を受ける.液胞/リソソーム膜局在性のアミノ酸トランスポーターも細胞内アミノ酸レベルを好適化するために緻密な制御を受けても不思議ではない.AVT4やAVT6といった排出系トランスポーター遺伝子の転写はマイクロアレイ解析より窒素飢餓条件で増加することが示されている(44)44) A. P. Gasch, P. T. Spellman, C. M. Kao, O. Carmel-Harel, M. B. Eisen, G. Storz, D. Botstein & P. O. Brown: Mol. Biol. Cell, 11, 4241 (2000)..またYPQ3はリジン存在下で転写が誘導されることから,YPQ1やYPQ2と同様に塩基性アミノ酸輸送への関与が示唆されている(21)21) A. Jezegou, E. Llinares, C. Anne, S. Kieffer-Jaquinod, S. O'Regan, J. Aupetit, A. Chabli, C. Sagne, C. Debacker, B. Chadefaux-Vekemans et al.: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 110, 3197 (2013)..
翻訳後段階での調節では最近,リジン欠乏培地でのYpq1の分解誘導が報告された(45)45) M. Li, Y. Rong, Y. S. Chuang, D. Peng & S. D. Emr: Mol. Cell, 57, 467 (2015)..Ypq1はリジン欠乏に応答してユビキチンリガーゼRsp5によってユビキチン化され,一旦,液胞から離れ,Multivesicular bodyへと移行し,やがて液胞内腔へと輸送されて分解される.液胞膜に局在するタンパク質レベルを適正に維持する機構は長らく不明であったが,このような機構が他の液胞アミノ酸トランスポーターにも作用するのか興味深い.
トランスポーターの中にはその親水性領域が活性調節に機能するものが知られている.出芽酵母Avt3/Avt4およびそのホモログのN末端には200アミノ酸残基以上の長い親水性領域が存在する(図9図9■Avt3/Avt4ホモログのN末端親水性領域).我々は出芽酵母Avt4のN末端親水性領域を欠損すると液胞からのアミノ酸排出が亢進することを見い出しており,この領域の活性調節機能について現在研究を進めている(日本農芸化学会2014年度大会にて発表).
液胞アミノ酸トランスポーターのユビキチン化の誘導や活性化にはたらく分子機構は現段階では全く不明であるが,Avt1とAvt4はキナーゼ複合体であるTOR complex 1(TORC1)の阻害剤ラパマイシンの添加によって脱リン酸化されることが報告されている(46)46) A. Huber, B. Bodenmiller, A. Uotila, M. Stahl, S. Wanka, B. Gerrits, R. Aebersold & R. Loewith: Genes Dev., 23, 1929 (2009)..TORC1は細胞内外の栄養情報を伝達し,下流遺伝子の転写およびリボソーム生合成や翻訳活性,オートファジー活性などを調節する.我々もTORC1が不活性化する窒素飢餓条件においてAvt4の脱リン酸化を検出しており,トランスポーターのリン酸化状態の変化が調節の引き金として機能する可能性が考えられる.
出芽酵母のオートファジー欠損株は窒素飢餓条件においてタンパク質合成が低下し速やかに生存率が低下することから,液胞内アミノ酸のリサイクルは細胞の飢餓適応に非常に重要と考えられている(47)47) J. Onodera & Y. Ohsumi: J. Biol. Chem., 280, 31582 (2005)..胞子形成はこうした飢餓適応の一つであるが,分裂酵母の胞子形成効率はSpAvt3の欠損によって部分的に低下し(48)48) H. Mukaiyama, S. Kajiwara, A. Hosomi, Y. Giga-Hama, N. Tanaka, T. Nakamura & K. Takegawa: Microbiology, 155, 3816 (2009).,出芽酵母においてもAVT3, AVT4, AVT7の多重破壊による部分的な低下が示された(12)12) J. Tone, A. Yamanaka, K. Manabe, N. Murao, M. Kawano-Kawada, T. Sekito & Y. Kakinuma: Biosci. Biotechnol. Biochem., 79, 190 (2015)..窒素飢餓条件での液胞内アミノ酸含量はAVT多重破壊株においても部分的に減少することから(未発表),依然未同定の排出系トランスポーターが存在すると考えられる.液胞アミノ酸リサイクルの生理機能を正確に理解するうえではこうした「欠けたピース」を地道に埋めていく作業が必要である.
最近,動物細胞においてSLC38A9がRag GTPaseとの結合を介して哺乳類TORC1活性の調節に直接的に関与することが報告され,液胞/リソソームアミノ酸プールは単なる栄養源としてだけではなく,栄養情報伝達の起点として機能する可能性が示唆された(41, 42)41) M. Rebsamen, L. Pochini, T. Stasyk, M. E. de Araujo, M. Galluccio, R. K. Kandasamy, B. Snijder, A. Fauster, E. L. Rudashevskaya, M. Bruckner et al.: Nature, 519, 477 (2015).42) S. Wang, Z. Y. Tsun, R. L. Wolfson, K. Shen, G. A. Wyant, M. E. Plovanich, E. D. Yuan, T. D. Jones, L. Chantranupong, W. Comb et al.: Science, 347, 188 (2015)..これと関連してTORC1は寿命決定に関与するが,出芽酵母においてAVT1を破壊すると寿命が短縮され,過剰発現すると逆に延びることから,液胞内へのアミノ酸取り込みが寿命決定に関与することが示唆されている(49)49) A. L. Hughes & D. E. Gottschling: Nature, 492, 261 (2012)..液胞/リソソームアミノ酸輸送に関わる分子装置の同定解析が進めば,これらの作用機序についてさらに具体的なモデルが構築できるだろう.
細胞内アミノ酸量はアミノ酸の細胞内への取り込み,アミノ酸やタンパク質の合成および分解活性によって変化し,各々が栄養条件によって厳密に制御されている.本稿で解説した液胞/リソソーム膜を介したアミノ酸輸送はこうした細胞内アミノ酸レベルの重要な調節機構の一つとして認識されつつある.これまで同定されたトランスポーターは重複した基質特異性をもつものが多く,トランスポーターの同定が進めば,こうした機能重複がさらに顕著化するであろう.個々のトランスポーターの特異的な生理機能を理解するには,速度論的解析による輸送活性や基質との親和性などの生化学的な特徴づけが必要である.しかし,この点については依然手つかずの状態である.とりわけ排出系トランスポーターの酵素学的な解析は液胞膜小胞を用いた解析では困難であり,精製トランスポーターを再構成したリポソームでの解析が必要とされる.創薬などへの応用展開には酵素学的な知見とトランスポーターの構造情報を組み合わせた構造機能相関の議論が重要であるが,AAAPファミリーやPQループファミリーの構造情報はいまだ得られておらず,残された重要課題の一つである.液胞/リソソームアミノ酸トランスポーターの研究は近年のオートファジー研究の著しい進展とともに,TORC1活性調節や寿命決定の分野においてもその重要性が認識され始め,今後多くの研究者の参入が予想される.さらに多角的な知見が集積することによって基礎研究にとどまらず,農学的/医学的な応用への展開が期待される.
Acknowledgments
本稿で紹介した筆者らの研究は文部省科学研究費補助金(課題番号15H04486, 15K07396, 10F00410, 21570200, 18056015, 13119201),エリザベス・アーノルド富士財団学術研究助成,野田産研研究助成,タカノ農芸化学研究助成の支援を受けて行われた.また,竹川 薫教授(九州大学農学部),秋山浩一准教授,河田美幸准教授(ともに愛媛大学学術支援センター),島津昌光助教(室蘭工業大学),藤木友紀助教(埼玉大学理学部)との共同研究によるものであり,深く御礼申し上げたい.
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