解説

液胞/リソソーム膜を介したアミノ酸輸送の分子機構

The Molecular Machinery of Amino Acid Transport across the Vacuolar/Lysosomal Membrane

Takayuki Sekito

関藤 孝之

愛媛大学農学部

Yoshimi Kakinuma

柿沼 喜己

愛媛大学農学部

Published: 2016-04-20

真核微生物の細胞内に発達する液胞はアミノ酸を能動的に取り込み蓄積するとともに,動物リソソーム同様,その内腔へと輸送されたタンパク質を分解しアミノ酸を生じる.これらアミノ酸は栄養飢餓条件で速やかにサイトゾルへと排出され新規タンパク質合成へと再利用される.液胞/リソソーム膜のアミノ酸トランスポーターは細胞内アミノ酸濃度の好適化に機能すると考えられ,その改変により有用微生物の育種,農作物の栄養価および収量の向上や病原性真菌の駆除/感染予防などへの応用が期待される.本稿ではこれまで同定された液胞/リソソームアミノ酸トランスポーターについて解説するとともに,その生理機能および調節機構について最近の知見を紹介する.

はじめに

細胞内に存在するアミノ酸には代謝回転が活発な“動的”なプールとほとんど代謝されない“静的”なプールが存在するといわれてきた.細胞内の一重膜オルガネラである液胞がこの“静的”なアミノ酸プールを形成するコンパートメントであると報告されて以来40年が経過した(1)1) A. Wiemken & M. Durr: Arch. Microbiol., 101, 45 (1974)..出芽酵母Saccharomyces cerevisiaeの液胞内には細胞全体の70~90%の塩基性アミノ酸(リジン,ヒスチジン,アルギニン)が蓄積する一方,酸性アミノ酸(アスパラギン酸,グルタミン酸)は細胞全体の10%以下しか存在しないことが単離液胞の解析を通じて明らかにされた(図1図1■液胞膜を介したアミノ酸輸送).その後,液胞膜小胞の単離法が確立され(図2図2■液胞膜小胞の単離),これを用いた解析によって,アルギニンが液胞型プロトンATPase(V-ATPase)によって形成されたプロトン濃度勾配に依存して能動的に取り込まれ,小胞内外で40倍の濃度差を形成することが示された(2)2) Y. Ohsumi & Y. Anraku: J. Biol. Chem., 256, 2079 (1981)..さらにアルギニン以外の9種のアミノ酸(リジン,ヒスチジン,フェニルアラニン,トリプトファン,チロシン,グルタミン,アスパラギン,イソロイシン,ロイシン)のATP依存的な取り込み活性が検出され(3)3) T. Sato, Y. Ohsumi & Y. Anraku: J. Biol. Chem., 259, 11505 (1984).,ヒスチジンとアルギニンの交換輸送活性も報告されている(4)4) T. Sato, Y. Ohsumi & Y. Anraku: J. Biol. Chem., 259, 11509 (1984)..液胞膜小胞のATP依存的なアルギニン取り込みのKm値(0.6 mM)は細胞膜を介したアルギニン取り込みの約100倍と親和性が低いことから,液胞内へのアミノ酸取り込みは細胞内に取り入れたアミノ酸を隔離・保存し,サイトゾル中アミノ酸濃度を適正に維持するために機能すると考えられている.液胞膜小胞の単離解析法に続き,酵母細胞を銅処理することによって液胞内アミノ酸のみを調製する手法も確立された(5)5) Y. Ohsumi, K. Kitamoto & Y. Anraku: J. Bacteriol., 170, 2676 (1988)..この手法はさまざまな栄養条件で培養した細胞の液胞内アミノ酸含量を比較的簡便に測定することを可能とし,培地中アミノ酸含量の変化に伴って液胞内アミノ酸含量が大きく変化することが示された(6)6) K. Kitamoto, K. Yoshizawa, Y. Ohsumi & Y. Anraku: J. Bacteriol., 170, 2683 (1988)..特に,窒素飢餓条件では液胞内のアルギニンが速やかに減少したことから,アミノ酸排出機構の存在も示唆され,液胞内アミノ酸プールの“動的”な側面が見えてきた(6)6) K. Kitamoto, K. Yoshizawa, Y. Ohsumi & Y. Anraku: J. Bacteriol., 170, 2683 (1988)..こうした変化に関わる分子機構や生理的意義を明らかにするためには,アミノ酸輸送を担うトランスポーターの同定解析が必要である.2000年代に入って出芽酵母Avtトランスポーター(7)7) R. Russnak, D. Konczal & S. L. McIntire: J. Biol. Chem., 276, 23849 (2001).と動物リソソームアミノ酸トランスポーターLYAAT-1(PAT1)(8)8) C. Sagne, C. Agulhon, P. Ravassard, M. Darmon, M. Hamon, S. El Mestikawy, B. Gasnier & B. Giros: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 98, 7206 (2001).が同定され,これを皮切りに現在まで表1表1■酵母液胞アミノ酸トランスポーターとそのホモログおよび図3図3■酵母液胞アミノ酸トランスポーターに示すトランスポーターが報告されている.後述するが,液胞/リソソームアミノ酸トランスポーターの生理機能が少しずつ明らかになっており,こうした新たな知見獲得が今後新規トランスポーター同定につながると期待される.

図1■液胞膜を介したアミノ酸輸送

図2■液胞膜小胞の単離

表1■酵母液胞アミノ酸トランスポーターとそのホモログ
SuperfamilyFamily出芽酵母(Saccharomyces cerevisiae分裂酵母(Schizosaccharomyces pombe
Transporter1SubstrateDirection2Transporter1SubstrateDirection2
AAAPAVTAvt1中性アミノ酸・ヒスチジンinSpAvt3中性・塩基性アミノ酸out
Avt2unknown
Avt3中性アミノ酸out
Avt4中性・塩基性アミノ酸outSpAvt5チロシン・グルタミン酸・塩基性アミノ酸in
Avt5unknown
Avt6酸性アミノ酸out
Avt7中性アミノ酸out
MFSVBAVba1リジン・ヒスチジン・Quinidine・AzoleinFnx1リジン・アスパラギン・イソロイシンin
Vba2塩基性アミノ酸・Quinidine・Azolein
Vba3リジン・ヒスチジンinFnx2リジン・アスパラギン・イソロイシンin
Vba4Quinidine・Azolein
(Vba5)アルギニン・NQO3(細胞膜)
(Azr1)Azole(細胞膜)SpVba2塩基性アミノ酸in
(Sge1)Crystal violet(細胞膜)
Atg22チロシン・ロイシンoutSpAtg22塩基性アミノ酸in
TOGPQ-loop proteinYpq1リジン・アルギニンin(Stm1)(栄養情報伝達)(細胞膜)
Ypq2アルギニンin
Ypq3unknown
Ers1unknown
APCUga4GABAin
1カッコ内は液胞膜以外に局在するタンパク質を示す
2 in: 液胞内への取り込み,out: 液胞外への排出,—:不明
3 4-Nitroquinoline N-oxide

図3■酵母液胞アミノ酸トランスポーター

出芽酵母の液胞アミノ酸輸送系

1. AVTファミリー

シナプス小胞にγ-aminobutyric acid(GABA)とグリシンを取り込むトランスポーターVGAT(ラット),VIAAT(ヒト・マウス)およびUNC-47(線虫)はいずれもAmino acid/auxin permease(AAAP)スーパーファミリー中のSLC32ファミリーに属する(9, 10)9) S. L. McIntire, R. J. Reimer, K. Schuske, R. H. Edwards & E. M. Jorgensen: Nature, 389, 870 (1997).10) C. Sagne, S. El Mestikawy, M. F. Isambert, M. Hamon, J. P. Henry, B. Giros & B. Gasnier: FEBS Lett., 417, 177 (1997)..出芽酵母ゲノムにコードされる7種のAAAPタンパク質は10~11回膜貫通型と予想され,AVTファミリーと名づけられた.RussnakらはこのうちAvt1がグルタミン,イソロイシン,チロシンを液胞内へ取り込み,Avt3とAvt4がこれらアミノ酸を逆に液胞外へ排出すること,また,Avt6は酸性アミノ酸の液胞外への排出に機能することを明らかにした(7)7) R. Russnak, D. Konczal & S. L. McIntire: J. Biol. Chem., 276, 23849 (2001)..これらは単離液胞膜小胞のATP依存的なアミノ酸取り込みへの各遺伝子破壊の影響に基づいたものであったが,我々は銅処理法によって抽出した液胞内アミノ酸試料の解析により,AVT3およびAVT4遺伝子の破壊や過剰発現によって中性アミノ酸全般の液胞内含量が大きく変化することを見い出した(図4図4■AVT3AVT4の破壊および過剰発現による液胞内アミノ酸含量の変化).さらに液胞膜小胞に前負荷したこれらアミノ酸のATP依存的な排出活性を検出し,この活性がAVT3およびAVT4の発現に依存することを明らかにした(11)11) T. Sekito, S. Chardwiriyapreecha, N. Sugimoto, M. Ishimoto, M. Kawano-Kawada & Y. Kakinuma: Biosci. Biotechnol. Biochem., 78, 969 (2014).図5図5■液胞膜小胞からのアミノ酸排出).これらの結果はAvt3とAvt4が広い基質特異性を有し,中性アミノ酸全般を液胞外へと排出することを示唆する.また液胞内の塩基性アミノ酸含量が栄養豊富条件でAVT4を過剰発現すると大幅に減少し(図4図4■AVT3AVT4の破壊および過剰発現による液胞内アミノ酸含量の変化),欠損すると窒素飢餓条件での減少が部分的に抑制されることを見い出した(図6図6■窒素飢餓条件での液胞内塩基性アミノ酸含量の減少).塩基性アミノ酸は液胞膜小胞へのATP依存的取り込み活性が非常に高いため,排出活性を検出できない.そこでアミノ酸を前負荷せず液胞膜小胞のATP依存的な取り込みを測定したところ,塩基性アミノ酸のATP依存的取り込みがAVT4過剰発現によって減少した(図7図7■液胞膜小胞のATP依存的なアルギニン取り込み).これらは,Avt4が塩基性アミノ酸の排出にも機能することを示唆する(11)11) T. Sekito, S. Chardwiriyapreecha, N. Sugimoto, M. Ishimoto, M. Kawano-Kawada & Y. Kakinuma: Biosci. Biotechnol. Biochem., 78, 969 (2014).

図4■AVT3AVT4の破壊および過剰発現による液胞内アミノ酸含量の変化

栄養豊富条件で培養した細胞より銅処理により抽出した液胞内アミノ酸をアミノ酸自動分析計により解析した.塩基性アミノ酸含量は右側の別グラフに示す.pGPD: 過剰発現ベクター.

図5■液胞膜小胞からのアミノ酸排出

A. 液胞膜小胞からのアミノ酸排出活性測定.14C標識した各アミノ酸を前負荷した液胞膜小胞に2 mM ATPを添加し,経時的に小胞内のアミノ酸含量を測定した.B. Avt3およびAvt4による中性アミノ酸の排出.図示した各ベクターを導入したavt3avt4∆株から液胞膜小胞を単離し,アミノ酸排出活性を測定した.前負荷したアミノ酸量を100%とし相対値をプロットした.実線はATP存在下,点線はATP非存在下での測定結果を示す.C. 液胞膜小胞のプロトン/アミノ酸共輸送モデル.

図6■窒素飢餓条件での液胞内塩基性アミノ酸含量の減少

白棒:栄養豊富条件.黒棒:窒素飢餓条件(6時間).