Kagaku to Seibutsu 54(5): 358-364 (2016)
セミナー室
フロリゲン受容体の発見とその後
Published: 2016-04-20
© 2016 Japan Society for Bioscience, Biotechnology, and Agrochemistry
© 2016 公益社団法人日本農芸化学会
フロリゲンは花芽形成を強力に誘導する発生制御因子であるが,その機能の仕方にはとても興味深い側面がある.フロリゲンは1936年に,葉で合成されて茎頂まで輸送されて花芽形成を開始させる植物ホルモンとしてその存在が提唱された(1)1) M. K. Chailakhyan: C. R. Acad. Sci. URSS, 13, 79 (1936)..長い間その正体は謎に包まれていたが,今日ではFLOWERING LOCUS T(FT)と呼ばれる遺伝子にコードされたタンパク質がフロリゲンの分子実体であることが明らかにされている(2, 3)2) H. Tsuji & K. Taoka: Enzymes, 35, 113 (2014).3) G. S. Golembeski & T. Imaizumi: Arabidopsis Book, 13, e0178 (2015)..ホスファチジルエタノールアミン結合タンパク質ファミリーに属する,しかし生化学的な機能ははっきりわからない球状のタンパク質が正体であった.この,タンパク質が丸ごと植物ホルモンとして振舞う点が,ほかの植物ホルモンとフロリゲンを比較した場合の際立った特徴である.多くの植物ホルモンは低分子化合物,もしくはペプチドなどであり,これら小分子を輸送するシステムや,受容体に認識された後の情報伝達が詳しく調べられている(4, 5)4) A. Santner & M. Estelle: Nature, 459, 1071 (2009).5) Y. Matsubayashi: Annu. Rev. Plant Biol., 65, 385 (2014)..一方でフロリゲンはタンパク質であるため,その輸送と分布,受容と情報伝達の仕組みには,低分子のホルモンとは異なるメカニズムの存在が想定される.また最近は花芽形成を超えた驚くべき多機能性を発揮することもわかってきた(2, 6)2) H. Tsuji & K. Taoka: Enzymes, 35, 113 (2014).6) K. Taoka, I. Ohki, H. Tsuji, C. Kojima & K. Shimamoto: Trends Plant Sci., 18, 287 (2013)..さらにフロリゲンには,構造がそっくりだが一部が異なるために真逆の活性を示すタンパク質も存在している(7~10).フロリゲンは,その実体がタンパク質であり,なおかつ長距離輸送されて機能するという特徴のために,興味深い発生制御の仕組みを提示してくれる分子である.
フロリゲン・FTタンパク質の受容体としては,どのような分子が想定できるであろうか.ジベレリン,オーキシン,アブシジン酸などは細胞内に可溶性の受容体が存在している(11~15).一方でサイトカイニンやブラシノステロイドのように,細胞膜上のレセプターキナーゼが受容する場合もある(16~18).フロリゲンの場合は,これと相互作用するタンパク質の詳細な機能解析,特に生細胞を用いたイメージング解析から,普段細胞質に局在している「14-3-3」と名づけられたタンパク質が受容体として機能することが提案されている(19)19) K. Taoka, I. Ohki, H. Tsuji, K. Furuita, K. Hayashi, T. Yanase, M. Yamaguchi, C. Nakashima, Y. A. Purwestri, S. Tamaki et al.: Nature, 476, 332 (2011)..この奇妙な名前はかつて14-3-3タンパク質が精製されたときの試料番号から名づけられており,機能を示すものではない.イネのFTホモログHeading date 3a(Hd3a)の解析によると,Hd3aははじめに細胞質で14-3-3と直接相互作用し,次いでHd3a-14-3-3サブコンプレックスが核移行してbZIP型転写因子FDと相互作用する(19)19) K. Taoka, I. Ohki, H. Tsuji, K. Furuita, K. Hayashi, T. Yanase, M. Yamaguchi, C. Nakashima, Y. A. Purwestri, S. Tamaki et al.: Nature, 476, 332 (2011)..こうしてDNA上にHd3a-14-3-3-FDから構成される「フロリゲン活性化複合体」が構築され,下流遺伝子の転写を活性化することが強く示唆されている.FDはFTが正常に機能するために必須の遺伝子として同定された転写因子であり(20, 21)20) M. Abe, Y. Kobayashi, S. Yamamoto, Y. Daimon, A. Yamaguchi, Y. Ikeda, H. Ichinoki, M. Notaguchi, K. Goto & T. Araki: Science, 309, 1052 (2005).21) P. A. Wigge, M. C. Kim, K. E. Jaeger, W. Busch, M. Schmid, J. U. Lohmann & D. Weigel: Science, 309, 1056 (2005).,詳細は本シリーズの川本らを参照されたい.「タンパク質ホルモン」の受容体というとなかなか想像しづらい点もあるが,受容体はリガンドと直接的に相互作用する分子であり,両者が相互作用したときに初めて細胞内で特定の生理作用を発揮させることができる分子と言える.この観点に照らし合わせると,14-3-3タンパク質がフロリゲンの受容体であることが理解しやすくなるであろう.すなわち14-3-3タンパク質はHd3aと直接相互作用することがかなりはっきりと示されており,結晶構造解析の結果やこれに基づく変異解析の結果も両者の直接的な相互作用を支持している(19)19) K. Taoka, I. Ohki, H. Tsuji, K. Furuita, K. Hayashi, T. Yanase, M. Yamaguchi, C. Nakashima, Y. A. Purwestri, S. Tamaki et al.: Nature, 476, 332 (2011)..またHd3aと14-3-3は両者が相互作用したときに初めてFDを介した花芽形成遺伝子の転写活性化を引き起こす(19)19) K. Taoka, I. Ohki, H. Tsuji, K. Furuita, K. Hayashi, T. Yanase, M. Yamaguchi, C. Nakashima, Y. A. Purwestri, S. Tamaki et al.: Nature, 476, 332 (2011)..イメージングで明らかになった細胞質から核へのダイナミックな細胞内局在の変化を考え合わせると,14-3-3タンパク質がフロリゲンの細胞内受容体として機能していることが理解しやすくなるであろう.
フロリゲン受容体のサブコンプレックスは細胞質で形成された後,どのように核内へ輸送されるのであろうか.一つのメカニズムとして,転写因子FDには核移行シグナルが存在するため,細胞質でFT-14-3-3とFDが相互作用した後にその核移行シグナルの活性で核移行する可能性が考えられている(22)22) H. Tsuji, H. Nakamura, K. Taoka & K. Shimamoto: Plant Cell Physiol., 54, 385 (2013)..実際に14-3-3に変異を導入してFDとの相互作用を弱めると,Hd3a-14-3-3の核移行の程度も弱まるため,FDは複合体を核内に形成するために必須の因子である(19)19) K. Taoka, I. Ohki, H. Tsuji, K. Furuita, K. Hayashi, T. Yanase, M. Yamaguchi, C. Nakashima, Y. A. Purwestri, S. Tamaki et al.: Nature, 476, 332 (2011)..しかし最新の報告では,FDが14-3-3と相互作用するためにはC末端のリン酸化が必須であり,このリン酸化を担うキナーゼであるCDPKとして同定されたCPK33およびCPK6は主に核内に蓄積していることが明らかとなった(23)23) N. Kawamoto, M. Sasabe, M. Endo, Y. Machida & T. Araki: Scientific Reports, 5, 8341 (2015)..つまりFDのリン酸化は核内で生じる可能性が考えられる.いったん核内でリン酸化されたFDがFT-14-3-3を核に輸送するため細胞質へ戻るのか,ほかのメカニズムが存在するのか興味深い問題である.筆者らによるイネFDホモログの一つOsFD2の解析によると,前者の可能性もありうるようである(22)22) H. Tsuji, H. Nakamura, K. Taoka & K. Shimamoto: Plant Cell Physiol., 54, 385 (2013)..OsFD2はFDの一つとしてHd3a, 14-3-3とともにフロリゲン活性化複合体を構成可能な転写因子であり,複合体形成に依存して葉の発生を制御する機能をもつ.後述するフロリゲンの多機能性にも重要な示唆を与える分子であるが,その複合体形成過程のイメージング実験からは以下のようなプロセスが提案されている.OsFD2と14-3-3タンパク質の相互作用を細胞内でイメージングすると,このサブコンプレックスは核だけでなく細胞質からもよく検出される.この理由は,14-3-3タンパク質の有する核外輸送シグナルによるものであろう.興味深いことに,複合体の構造解析によるとHd3aは14-3-3の核外輸送シグナルをカバーするように相互作用する.したがってOsFD2を含む複合体の場合は,フロリゲンの結合による核外輸送シグナルの阻害がトリガーとなって複合体全体の核移行が開始されるメカニズムが示唆されている(22)22) H. Tsuji, H. Nakamura, K. Taoka & K. Shimamoto: Plant Cell Physiol., 54, 385 (2013)..一方で花芽形成を促進するOsFD1はこれと異なり常に強く核に局在することから,フロリゲン活性化複合体はFDごとに異なるメカニズムで核移行する可能性も考えられる(2)2) H. Tsuji & K. Taoka: Enzymes, 35, 113 (2014)..
フロリゲンが茎頂メリステムで花芽分化を誘導するプロセスも詳細に明らかになってきた.これには茎頂メリステムにおけるフロリゲンの分布をGFPによってかなり直接的に観察する方法(24)24) S. Tamaki, S. Matsuo, H. L. Wong, S. Yokoi & K. Shimamoto: Science, 316, 1033 (2007).の発展や,ジーンターゲティングなどのこれまで植物科学ではあまり取り入れられなかった方法の導入も貢献している(25)25) R. Terada, H. Urawa, Y. Inagaki, K. Tsugane & S. Iida: Nat. Biotechnol., 20, 1030 (2002)..茎頂メリステムにおけるフロリゲンのはたらきを考えるうえで重要な質問の一つは,各要素の分布の時間的・空間的な関係である.上述したフロリゲン活性化複合体のモデルによれば,フロリゲン,受容体,転写因子FD,下流の遺伝子発現は,メリステムにおいて時空間的にオーバーラップして発現していることが期待される.しかしシロイヌナズナにおけるフロリゲンFTの分布を可視化した例を見ると,現在までの例では多くの場合,茎頂メリステムの下部に観察されている(26~28).一方でFDはかなりはっきりと茎頂メリステムで発現が観察される(20, 21)20) M. Abe, Y. Kobayashi, S. Yamamoto, Y. Daimon, A. Yamaguchi, Y. Ikeda, H. Ichinoki, M. Notaguchi, K. Goto & T. Araki: Science, 309, 1052 (2005).21) P. A. Wigge, M. C. Kim, K. E. Jaeger, W. Busch, M. Schmid, J. U. Lohmann & D. Weigel: Science, 309, 1056 (2005)..そして興味深いことに,FTとFDを含むフロリゲン活性化複合体の標的とされる遺伝子AP1は,茎頂メリステムの脇に生じた花メリステムで最もよく発現している(29)29) F. Turck, F. Fornara & G. Coupland: Annu. Rev. Plant Biol., 59, 573 (2008)..つまり3者の間には,遺伝学的・分子生物学的にかなり明瞭な制御があるにもかかわらず,その空間的制御には未知のメカニズムが介在する可能性が考えられる.筆者らは,イネで茎頂メリステムを直接イメージングする実験によって,フロリゲン活性化複合体と下流遺伝子の発現の時空間的な分布を明らかにすることを試みた(30)30) S. Tamaki, H. Tsuji, A. Matsumoto, A. Fujita, Z. Shimatani, R. Terada, T. Sakamoto, T. Kurata & K. Shimamoto: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 112, E901 (2015)..その結果,イネの茎頂メリステムではフロリゲンHd3aの到達と同時に生殖成長期が開始しており,その後の花序形成過程を通じてHd3aはメリステムに供給され続けることがわかった(図1図1■フロリゲンと下流遺伝子のイメージング).ではフロリゲンと複合体を形成する14-3-3とOsFD1はどこに分布するのであろうか.In situ hybridizationによって両者の発現領域を観察すると,いずれもHd3aの到達前からメリステムで発現しており,Hd3aの到達後も3者がメリステム内に同時に分布することがわかった.さらに,フロリゲン活性化複合体の標的遺伝子の一つであるAP1ホモログOsMADS15の発現の観察を試みた.イネはルーチンなジーンターゲティング系が活用できる数少ない植物である(31, 32)31) A. Nishizawa-Yokoi, S. Nonaka, K. Osakabe, H. Saika & S. Toki: Plant Physiol., (2015), in press, DOI: 10.1104/pp.15.0063832) Z. Shimatani, A. Nishizawa-Yokoi, M. Endo, S. Toki & R. Terada: Front. Plant Sci., 5, 748 (2015)..その専門家である名城大学の寺田理枝教授・島谷善平博士との共同研究によって,イネゲノム中の内在OsMADS15遺伝子座に蛍光タンパク質mOrangeをノックインしたOsMADS15-mOrangeレポーター植物を作製した(30)30) S. Tamaki, H. Tsuji, A. Matsumoto, A. Fujita, Z. Shimatani, R. Terada, T. Sakamoto, T. Kurata & K. Shimamoto: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 112, E901 (2015)..ノックインによるレポーターは,内在遺伝子と同一の発現パターンを正確に反映することが強く期待される.これを用いて,茎頂メリステムにおけるOsMADS15-mOrangeの発現を花成の全過程を通して観察したところ,OsMADS15の発現はHd3aの分布とおおむねオーバーラップしていることが明らかとなった(図1図1■フロリゲンと下流遺伝子のイメージング).これらの結果は,少なくともイネのメリステムにおいてはフロリゲン,受容体,転写因子FD,下流遺伝子の活性化の4つが時空間的にオーバーラップしていることを示しており,フロリゲン活性化複合体による下流遺伝子の制御が実際の茎頂メリステムにおいても成立することが強く示唆されたと言える(30)30) S. Tamaki, H. Tsuji, A. Matsumoto, A. Fujita, Z. Shimatani, R. Terada, T. Sakamoto, T. Kurata & K. Shimamoto: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 112, E901 (2015)..
フロリゲン活性化複合体はメリステムにおいてどのような遺伝子を標的にしているのであろうか.これまでメリステムのトランスクリプトーム解析がさまざまな植物種で実施されており,その結果を総合するとキーになる転写因子の発現誘導によって多段階の遺伝子発現ネットワークが起動されると考えられている(33~35).フロリゲン活性化複合体の直接の標的遺伝子,もしくはかなり初期に発現誘導されると考えられる遺伝子として,シロイヌナズナではMADS-box転写因子のAP1/FULやSPLファミリーの転写因子をコードする遺伝子が(21, 33)21) P. A. Wigge, M. C. Kim, K. E. Jaeger, W. Busch, M. Schmid, J. U. Lohmann & D. Weigel: Science, 309, 1056 (2005).33) M. Schmid, N. H. Uhlenhaut, F. Godard, M. Demar, R. Bressan, D. Weigel & J. U. Lohmann: Development, 130, 6001 (2003).,イネではAP1/FULクレードの転写因子OsMADS14, OsMADS15やSEPファミリーの転写因子PAP2が同定されている(34)34) K. Kobayashi, N. Yasuno, Y. Sato, M. Yoda, R. Yamazaki, M. Kimizu, H. Yoshida, Y. Nagamura & J. Kyozuka: Plant Cell, 24, 1848 (2012)..これらの転写因子遺伝子は単独もしくは組み合わせた変異によって花芽分化が抑制されるため,フロリゲン活性化複合体の標的として花成を正常に誘導する機能を有すると考えられる(33, 34)33) M. Schmid, N. H. Uhlenhaut, F. Godard, M. Demar, R. Bressan, D. Weigel & J. U. Lohmann: Development, 130, 6001 (2003).34) K. Kobayashi, N. Yasuno, Y. Sato, M. Yoda, R. Yamazaki, M. Kimizu, H. Yoshida, Y. Nagamura & J. Kyozuka: Plant Cell, 24, 1848 (2012)..
茎頂メリステムのトランスクリプトーム解析からは,フロリゲンが花成の際にトランスポゾンのサイレンシングを誘導することも明らかとなった(30)30) S. Tamaki, H. Tsuji, A. Matsumoto, A. Fujita, Z. Shimatani, R. Terada, T. Sakamoto, T. Kurata & K. Shimamoto: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 112, E901 (2015)..フロリゲン遺伝子Hd3aとそのパラログRFT1の二重RNAiイネは花成が誘導されなくなるため,そのメリステムは完全に栄養成長期で停滞している(36)36) R. Komiya, A. Ikegami, S. Tamaki, S. Yokoi & K. Shimamoto: Development, 135, 767 (2008)..このメリステムと,野生型で花成が始まったばかりのメリステムを材料にRNA-seqで遺伝子発現を比較すれば,フロリゲンが制御する遺伝子を精度よく網羅的に同定できる.実験の結果,フロリゲンが発現誘導する遺伝子の中には前述のとおり重要な転写因子が複数含まれていた.興味深いのは発現が抑制される遺伝子の解析で,実に60%近くをトランスポゾンが占めていることが明らかとなった(30)30) S. Tamaki, H. Tsuji, A. Matsumoto, A. Fujita, Z. Shimatani, R. Terada, T. Sakamoto, T. Kurata & K. Shimamoto: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 112, E901 (2015)..ではトランスポゾンの発現抑制はどのように生じているのであろうか.たとえばゲノムの特定の領域に集積しているのか.解析の結果,発現抑制されたトランスポゾンの分布は全トランスポゾンのゲノム全体における分布と同様であり,したがって位置特異的な制御はないと考えられる(30)30) S. Tamaki, H. Tsuji, A. Matsumoto, A. Fujita, Z. Shimatani, R. Terada, T. Sakamoto, T. Kurata & K. Shimamoto: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 112, E901 (2015)..すなわちトランスポゾン全体を偏りなくサイレンシングするような一般的な仕組みによるものであろう.フロリゲンが花成に際してトランスポゾンをサイレンシングする意義は不明であるが,大きく2つの可能性が考えられる.一つは,生殖の開始に際してゲノムを不安定化しうるトランスポゾンの活性をできる限り抑えようというものである.もう一つは,トランスポゾンから生じたsmall RNAを介するものである.トランスポゾンのサイレンシングを通してsmall RNAの蓄積量を減らし,結果small RNAによって発現抑制されていた遺伝子を活性化する可能性を提案している.後者の考えはフロリゲンがトランスポゾンによる積極的な発生制御を起動する可能性を提示するもので,今後興味深い研究対象となるであろう.
フロリゲンは,花芽分化を誘導する植物ホルモンとして提唱されたが,近年の研究から,フロリゲンFTタンパク質は花成以外のさまざまな発生段階(トマトの成長制御(37)37) A. Shalit, A. Rozman, A. Goldshmidt, J. P. Alvarez, J. L. Bowman, Y. Eshed & E. Lifschitz: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 106, 8392 (2009).,ジャガイモの塊茎形成(38)38) C. Navarro, J. A. Abelenda, E. Cruz-Oró, C. A. Cuéllar, S. Tamaki, J. Silva, K. Shimamoto & S. Prat: Nature, 478, 119 (2011).,ポプラの成長促進(39)39) C. Y. Hsu, J. P. Adams, H. Kim, K. No, C. Ma, S. H. Strauss, J. Drnevich, L. Vandervelde, J. D. Ellis, B. M. Rice et al.: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 108, 10756 (2011).,気孔の開閉制御(40)40) T. Kinoshita, N. Ono, Y. Hayashi, S. Morimoto, S. Nakamura, M. Soda, Y. Kato, M. Ohnishi, T. Nakano, S. Inoue et al.: Curr. Biol., 21, 1232 (2011).,タマネギの鱗茎形成(41)41) R. Lee, S. Baldwin, F. Kenel, J. McCallum & R. Macknight: Nat. Commun., 4, 2884 (2013).,シロイヌナズナの花序の構造(42)42) M. Niwa, Y. Daimon, K. Kurotani, A. Higo, J. L. Pruneda-Paz, G. Breton, N. Mitsuda, S. A. Kay, M. Ohme-Takagi, M. Endo et al.: Plant Cell, 25, 1228 (2013).,イネ分げつの成長促進(43)43) H. Tsuji, C. Tachibana, S. Tamaki, K. Taoka, J. Kyozuka & K. Shimamoto: Plant J., 82, 256 (2015).,など)で働く多機能ホルモンであることが明らかになってきている.これらの例のうち,気孔の開閉制御,シロイヌナズナの花序構造,イネの分げつ数の制御やトマトの成長制御には,花成促進に主要に働くフロリゲン(シロイヌナズナFT/TSF,イネHd3a,トマトSFT)が働いていると考えられているが,それら以外では,花成促進に働くフロリゲンとは発現パターンやタンパク質機能が異なるFTホモログ(広い意味で捉えたフロリゲン)が重要な役割を果たしている.たとえば,ジャガイモの2つのFTホモログ遺伝子(StSP3D, StSP6A)のうち,StSP3Dは花成促進に,StSP6Aは塊茎形成促進に働いている(38)38) C. Navarro, J. A. Abelenda, E. Cruz-Oró, C. A. Cuéllar, S. Tamaki, J. Silva, K. Shimamoto & S. Prat: Nature, 478, 119 (2011).(図2A図2■フロリゲンの多機能性とFACモデル).ジャガイモの花成は日長変化によらない中日性であり,StSP3Dの発現も日長変化に応答しない.StSP3Dのノックダウンは花成にのみ影響し,StSP6Aの発現や塊茎形成には影響しない.それに対してStSP6Aは,塊茎形成を誘導する短日条件下の葉で発現誘導される.そして,葉で合成されたStSP6Aタンパク質が地下茎(ストロン)の先端まで輸送されて,そこでStSP6A自身の発現を促進させるとともに,塊茎形成プログラムを開始させる.両FTホモログのアミノ酸配列を比較すると,StSP3Dは典型的なFTコンセンサス配列に高度に類似しているのに対して,StSP6Aでは,フロリゲンによる花成促進機能に必須であり高度に保存されているセグメントBループ領域にアミノ酸残基の置換が見られる.しかし,StSP6A過剰発現はシロイヌナズナft変異体の遅咲き表現型を相補できることや,イネHd3aの過剰発現はStSP6Aノックダウンによる塊茎形成抑制を相補できることから,花成促進する典型的なフロリゲンとStSP6Aの間にタンパク質機能の大きな違いはないと考えられている.
(A)機能分化したFTホモログによる制御.塊茎形成,鱗茎形成,栄養成長制御における機能分化FTホモログの役割を図示した.ポプラでは,FDホモログFDL1はフロリゲン非依存的に低温適応にも機能する.このようなFDホモログは,ポプラ以外ではまだ同定されていない.(B)FAC(フロリゲン活性化複合体)とその構成要素入れ替えによる活性制御.転写因子FD(青棒)はAP1などの花芽分裂組織決定遺伝子(ピンク)の標的遺伝子プロモーター領域に結合する.FDのC末端領域のリン酸化SAPモチーフ(六角形P)にフロリゲンFTの受容体14-3-3(緑の弧)が結合し,その14-3-3のC末端領域にフロリゲン(赤丸)が結合することで,それら3者からなるFACが形成され,花成誘起される.FACは,転写コファクターのリクルートあるいはほかの転写因子との相互作用によって標的遺伝子の発現を制御していると予想される.(1)FAC中のFTが,機能分化したFTホモログや花成抑制因子TFL1と入れ替わることで,標的遺伝子に対するFACの転写活性化能が質的あるいは量的に変化する.(2)FD以外の転写因子の上でFACが形成されることで,花成とは異なる過程にかかわる標的遺伝子の発現が制御される.(3)FT/TFL1に対する結合能が異なる14-3-3によってFAC形成効率が調節されているかもしれない.(4)転写因子のSAPモチーフのリン酸化の制御によってFAC形成効率が制御される.
一方で,タマネギの鱗茎形成過程は,発現パターンとタンパク質機能の異なる機能分化したFTホモログによって制御されている(41)41) R. Lee, S. Baldwin, F. Kenel, J. McCallum & R. Macknight: Nat. Commun., 4, 2884 (2013).(図2A図2■フロリゲンの多機能性とFACモデル).タマネギは,最初の1年はまず栄養成長を続け,長日条件になると鱗茎を形成するが,冬を越しvernalizationされると花を形成する.この過程は少なくとも3つのFTホモログ(AcFT1, AcFT2, AcFT4)によって制御されていることが明らかにされている.AcFT2は花成時期に強く発現し,その過剰発現はシロイヌナズナft変異体を早咲きにできる.AcFT1は長日条件で発現が上昇するが,AcFT4は逆に発現が減少する.AcFT1の過剰発現はタマネギに鱗茎様の構造を形成させft変異体を早咲きにできるのに対して,AcFT4の過剰発現はタマネギにそのような構造形成を引き起こさず,ft変異体をさらに遅咲きにする.これら3つのFTホモログのアミノ酸配列をイネHd3aのそれと比較すると,AcFT2では前述のセグメントBループ領域に5アミノ酸残基の,AcFT1では1アミノ酸残基の,AcFT4では8アミノ酸残基もの置換が見られる.AcFT4過剰発現がシロイヌナズナの花成を強く抑制することから,AcFT4は花成抑制因子TFL1型に機能転換したものと考えられよう.TFL1は,FTと同じくPEBPファミリーに属するタンパク質をコードする遺伝子であるが,FTとは逆に花成に抑制的にはたらく因子として同定された(44)44) D. Bradley, O. Ratcliffe, C. Vincent, R. Carpenter & E. Coen: Science, 275, 80 (1997)..そして,FTとの構造比較やドメイン交換解析などから,前述のセグメントBループ領域の違いが両者の機能差異の主要な原因の一つであることが明らかにされている(45)45) J. H. Ahn, D. Miller, V. J. Winter, M. J. Banfield, J. H. Lee, S. Y. Yoo, S. R. Henz, R. L. Brady & D. Weigel: EMBO J., 25, 605 (2006)..系統樹上でFTサブファミリーに分類される遺伝子でありながら花成抑制型として機能する例としてテンサイのBvFT1が知られている(46)46) P. A. Pin, R. Benlloch, D. Bonnet, E. Wremerth-Weich, T. Kraft, J. J. Gielen & O. Nilsson: Science, 330, 1397 (2010)..テンサイは2年生植物で,最初の1年目は花を作らない.テンサイの2つのFTホモログのうち,BvFT2が春化後に発現して花成誘導するのに対して,BvFT1は栄養成長期に発現し花成抑制能をもつ(図2A図2■フロリゲンの多機能性とFACモデル).BvFT1ではセグメントBループ領域に3アミノ酸の置換があり,この置換が花成促進型から抑制型へのタンパク機能転換に十分であることが明らかにされている.同様のFT機能転換による成長制御の例が多年生の樹木であるポプラでも報告されている(47)47) S. Tylewicz, H. Tsuji, P. Miskolczi, A. Petterle, A. Azeez, K. Jonsson, K. Shimamoto & R. P. Bhalerao: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 112, 3140 (2015)..なお,AcFT4は,そのアミノ酸配列から,14-3-3とは結合しないドミナントネガティブとして機能している可能性が推測されているが(41)41) R. Lee, S. Baldwin, F. Kenel, J. McCallum & R. Macknight: Nat. Commun., 4, 2884 (2013).,Hd3aにおいて14-3-3との結合に重要な4つのアミノ酸残基(R64, P96, F103, R132)のうちR132に相当する残基以外は保存されている.また,14-3-3と相互作用しない変異Hd3aを過剰発現してもイネの花成には影響しない(19)19) K. Taoka, I. Ohki, H. Tsuji, K. Furuita, K. Hayashi, T. Yanase, M. Yamaguchi, C. Nakashima, Y. A. Purwestri, S. Tamaki et al.: Nature, 476, 332 (2011)..AcFT4がどのような分子機構で鱗茎抑制にはたらいているのか,今後の進展が待たれる.
FACの構成要素の入れ替えによるFAC機能変化の可能性をこれまで提唱してきたが(2, 6)2) H. Tsuji & K. Taoka: Enzymes, 35, 113 (2014).6) K. Taoka, I. Ohki, H. Tsuji, C. Kojima & K. Shimamoto: Trends Plant Sci., 18, 287 (2013).,その仮説を支持する事例が報告され始めている.フロリゲンとTFL1やFTホモログは14-3-3との相互作用を介してFAC上で入れ替わることでFAC機能変換がなされている可能性(図2図2■フロリゲンの多機能性とFACモデル)については,1)FT/TFL1ファミリーにおいて14-3-3との相互作用に必須と予想されるアミノ酸残基は基本的に保存されていること(19)19) K. Taoka, I. Ohki, H. Tsuji, K. Furuita, K. Hayashi, T. Yanase, M. Yamaguchi, C. Nakashima, Y. A. Purwestri, S. Tamaki et al.: Nature, 476, 332 (2011).,2)FTとTFL1はともにFDと植物細胞で相互作用できること(9)9) S. Hanano & K. Goto: Plant Cell, 23, 3172 (2011).,3)FT/TFL1の量的バランスがトマトの形態形成を制御していること(37)37) A. Shalit, A. Rozman, A. Goldshmidt, J. P. Alvarez, J. L. Bowman, Y. Eshed & E. Lifschitz: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 106, 8392 (2009).などから,強く示唆される.しかし,TFL1や前項で紹介したFTホモログの機能発揮に14-3-3との相互作用が必要かどうかをきちんと検証した例はまだ報告されておらず,今後の進展が待たれる.
FD以外の転写因子の上でFACが形成されることで,花成とは異なる過程にかかわる標的遺伝子の発現が制御される可能性を示唆する例としては,イネOsFD2が挙げられる(22)22) H. Tsuji, H. Nakamura, K. Taoka & K. Shimamoto: Plant Cell Physiol., 54, 385 (2013)..イネOsFD2は,花成促進にはたらくOsFD1とは異なるサブファミリーに属するbZIP型転写因子であるが,C末端のSAPモチーフと14-3-3との相互作用を介してHd3aと相互作用できる.そして過剰発現体の表現型解析から,OsFD2はSAPモチーフの機能依存的に葉の発生制御にかかわる因子であることが明らかにされている.フロリゲンの多機能性の分子機構の解析が進むにつれて,このような転写因子の例が増えてくるだろう.また,変則的な例として,ポプラFDL1が挙げられよう(47)47) S. Tylewicz, H. Tsuji, P. Miskolczi, A. Petterle, A. Azeez, K. Jonsson, K. Shimamoto & R. P. Bhalerao: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 112, 3140 (2015)..ポプラの花成と栄養成長は,発現時期とタンパク質機能の異なる2つのFTホモログ(冬に発現するFT1と夏に発現するFT2)によって制御されているが(39)39) C. Y. Hsu, J. P. Adams, H. Kim, K. No, C. Ma, S. H. Strauss, J. Drnevich, L. Vandervelde, J. D. Ellis, B. M. Rice et al.: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 108, 10756 (2011).,FDL1は両者と相互作用し,花成促進と栄養成長の両方を制御している(図2A図2■フロリゲンの多機能性とFACモデル).さらに,秋になってFT2の発現が減少すると,FDL1の発現が上昇し,フロリゲン非依存的に低温適応にかかわる遺伝子群の発現を活性化する(47)47) S. Tylewicz, H. Tsuji, P. Miskolczi, A. Petterle, A. Azeez, K. Jonsson, K. Shimamoto & R. P. Bhalerao: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 112, 3140 (2015)..このフロリゲン非依存機能にはABA応答にかかわるbZIP型転写因子ABI3との相互作用の関与が示唆されているが,その分子機構は不明である.FDL1がもつ2つの機能の解析から,FAC構成要素の機能分化に関する新たな知見が得られるものと期待される.
14-3-3はリン酸化セリン·スレオニンに結合する,真核生物に高度に保存されたアダプタータンパク質であるが,植物においては,系統樹上で動物の14-3-3に近いイプシロン型に属する14-3-3と植物において独自に進化した非イプシロン型に属する14-3-3が存在する.イネにおいては,8つの14-3-3アイソフォームのうち,構成的に発現している4つの非イプシロン型14-3-3がHd3aと強い結合を示す(19)19) K. Taoka, I. Ohki, H. Tsuji, K. Furuita, K. Hayashi, T. Yanase, M. Yamaguchi, C. Nakashima, Y. A. Purwestri, S. Tamaki et al.: Nature, 476, 332 (2011)..このことから,FT/TFL1への結合能の異なる14-3-3アイソフォームが時空間的に発現変化することによってFAC形成効率が制御される可能性が考えられるが(図2図2■フロリゲンの多機能性とFACモデル),それを支持する報告例はまだない.
FAC構成要素の入れ替えではないがFAC活性を制御しうる過程として,FDのSAPモチーフのリン酸化制御もFAC形成制御に重要である可能性が示唆されている(19, 23)19) K. Taoka, I. Ohki, H. Tsuji, K. Furuita, K. Hayashi, T. Yanase, M. Yamaguchi, C. Nakashima, Y. A. Purwestri, S. Tamaki et al.: Nature, 476, 332 (2011).23) N. Kawamoto, M. Sasabe, M. Endo, Y. Machida & T. Araki: Scientific Reports, 5, 8341 (2015).(図2図2■フロリゲンの多機能性とFACモデル).これについては本誌の川本らの解説を参照されたい.また,リン脂質の一種フォスファチジルコリン(PC)がFTに特異的に結合し,花成に促進的に働くことが報告されている(48)48) Y. Nakamura, F. Andrés, K. Kanehara, Y. C. Liu, P. Dörmann & G. Coupland: Nat. Commun., 5, 3553 (2014)..PCがどのような分子機構でフロリゲンの活性制御にかかわっているかについては,たいへん興味深く今後の進展が待たれる.
FTやTFL1が転写制御複合体の構成要素として機能することは,VP16転写活性化ドメインあるいはSRDX転写抑制ドメインを融合した実験(9)9) S. Hanano & K. Goto: Plant Cell, 23, 3172 (2011).や転写因子FDとのFAC形成(19)19) K. Taoka, I. Ohki, H. Tsuji, K. Furuita, K. Hayashi, T. Yanase, M. Yamaguchi, C. Nakashima, Y. A. Purwestri, S. Tamaki et al.: Nature, 476, 332 (2011).などから強く示唆される.しかし,その転写制御能を担う分子機構は明らかになっていない.FTとTFL1の構造比較やドメイン交換から,FTによる転写活性化の領域として,アニオン結合ポケット領域やセグメントBループ領域が同定されていた(8, 45)8) Y. Hanzawa, T. Money & D. Bradley: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 102, 7748 (2005).45) J. H. Ahn, D. Miller, V. J. Winter, M. J. Banfield, J. H. Lee, S. Y. Yoo, S. R. Henz, R. L. Brady & D. Weigel: EMBO J., 25, 605 (2006)..そして最近になって,FTの網羅的変異解析により,FTタンパク質の表面に位置する特定の酸性アミノ酸残基や芳香族アミノ酸残基の重要性も明らかにされた(10)10) W. W. Ho & D. Weigel: Plant Cell, 26, 552 (2014)..それらの酸性アミノ酸残基を塩基性のものに置換するとFTを強力な花成抑制因子に転換できることなどから,FT表面の負に帯電した領域や芳香族アミノ酸残基によるπ–πスタッキングにより転写のコアクティベーターがリクルート・ロックされて標的遺伝子の転写が促進されるというモデルが提唱されている(図2図2■フロリゲンの多機能性とFACモデル).TFL1については,転写のコリプレッサーをリクルートして積極的に転写抑制に働いているのか,あるいは単にコアクティベーターをリクルートできないことによる受動的な転写抑制に働いているのではないかと考えられている.FT相互作用因子を探索する酵母ツーハイブリッドスクリーニングが複数の研究グループによって独立になされているが,そこでは多くの転写因子が重複して候補因子として同定されている(42)42) M. Niwa, Y. Daimon, K. Kurotani, A. Higo, J. L. Pruneda-Paz, G. Breton, N. Mitsuda, S. A. Kay, M. Ohme-Takagi, M. Endo et al.: Plant Cell, 25, 1228 (2013)..そして,その中のTCP型転写因子は14-3-3非依存的にFTと相互作用できることから,FTはさまざまな転写因子と直接相互作用して標的遺伝子の転写を促進している可能性も考えられる(42)42) M. Niwa, Y. Daimon, K. Kurotani, A. Higo, J. L. Pruneda-Paz, G. Breton, N. Mitsuda, S. A. Kay, M. Ohme-Takagi, M. Endo et al.: Plant Cell, 25, 1228 (2013).(図2図2■フロリゲンの多機能性とFACモデル).フロリゲンがどのような分子と相互作用して標的遺伝子の転写制御を実行しているのかを明らかにすることは,フロリゲンの生化学的機能を知るうえで重要な課題であり,今後の進展が待たれる.
茎頂分裂組織は,花成後にメリステムの分化/未分化状態のバランスをうまく保ちながら花芽と花序形態の形成を続けていく.茎頂分裂組織に運ばれたフロリゲンが,その後どのように分布して,どのような遺伝子の発現を制御しているのかが明らかになってきた.そして,花成以外の重要な機能の一つとして,メリステムでのトランスポゾン不活性化に働いていることが明らかにされた.今後,イメージング技術を駆使したフロリゲンの局在解析やメリステムの経時的なオミックス解析などから,フロリゲンがいかに時空間的に分化バランスを制御しているかが明らかにされていくだろう.発現や機能の分化したFTホモログが多くの発生過程の制御にかかわっていることがわかってきた.FACモデルを基盤に,フロリゲンやFAC構成要素の機能分化の分子機構の理解が進んでいくだろう.フロリゲンの花芽形成遺伝子転写活性化にかかわる機能領域が明らかになってきた.しかし,その機能発揮を担う相互作用因子は見つかっていない.フロリゲンの基本性質を理解するうえでの重要な課題であり,今後の進展が強く望まれる.
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