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コレステロールの腸管吸収機構とその制御NPC1L1の発見と輸送を抑制するポリフェノール

Shoko Kobayashi

小林 彰子

東京大学大学院農学生命科学研究科

Published: 2016-05-20

コレステロールは腸管から受動輸送で吸収されると考えられてきたが,2004年,小腸の管腔側膜上に局在するコレステロールトランスポーターが発見された.本稿ではコレステロールトランスポーターの発見とその輸送特性,およびわれわれが見い出した食品成分による抑制作用について紹介する.

コレステロールは生体にとって必要不可欠な成分であるが,高コレステロール血症はアテローム性動脈硬化や心筋梗塞などのリスクを高める.従来脂質異常症治療薬としては,肝臓において,コレステロール合成経路の律速酵素であるHMG-CoA還元酵素の阻害薬(スタチン系薬剤)が中心的役割を担ってきた.近年新たな治療薬としてコレステロール吸収阻害をターゲットとした研究が行われるようになり,エゼチミブが開発された.エゼチミブは高コレステロール食を負荷したモデル動物の血中コレステロール濃度を有意に低下させたが,標的分子が不明なまま臨床実験が開始され,この開発過程でコレステロールトランスポーターの存在が示唆された.Altmannらは小腸の吸収側上皮にトランスポーターが存在することを予想し,バイオインフォマティクスの手法を用いて,コレステロール取り込みにかかわる遺伝子を探索した(1)1) S. W. Altmann, H. R. Davis Jr., L. J. Zhu, X. Yao, L. M. Hoos, G. Tetzloff, S. P. Iyer, M. Maguire, A. Golovko, M. Zeng et al.: Science, 303, 1201 (2004)..ラットの小腸のcDNAライブラリから得られた発現遺伝子配列断片(Expressed Sequence Tags; ESTs)を,マウスおよびヒトのESTsと関連づけ,これらのデータベースからコレステロールトランスポーターの特性を備えていることが予測される全転写産物を解析し,一つの候補を見いだした(1)1) S. W. Altmann, H. R. Davis Jr., L. J. Zhu, X. Yao, L. M. Hoos, G. Tetzloff, S. P. Iyer, M. Maguire, A. Golovko, M. Zeng et al.: Science, 303, 1201 (2004)..この候補タンパク質は,コレステロールがリソソーム内に蓄積するNiemann–Pick病C型の原因遺伝子産物であるNPC1とアミノ酸レベルで約50%の相同性を有することからNiemann–Pick C1 Like 1(NPC1L1)と命名された.ラット,マウスおよびヒト組織において,NPC1L1のmRNAは小腸で最も高発現していた.作出されたNPC1L1ノックアウトマウスはコレステロールの吸収が約70%抑制され,さらに野生型のマウスにエゼチミブを与えるとNPC1L1ノックアウトマウスと同レベルまでコレステロール吸収が抑制された.ヒト型のNPC1L1は1332アミノ酸からなる,13回膜貫通型のタンパク質である(2)2) J. L. Betters & L. Yu: FEBS Lett., 584, 2740 (2010).. NPC1L1のコレステロール輸送については,コレステロールを結合したままエンドサイトーシスで輸送される機構が示唆されており(3)3) H. R. Davis Jr. & S. W. Altmann: Biochim. Biophys. Acta, 1791, 679 (2009).,近年Liらによってより詳細な機構が報告されている(4)4) P. S. Li, Z. Y. Fu, Y. Y. Zhang, J. H. Zhang, C. Q. Xu, Y. T. Ma, B. L. Li & B. L. Song: Nat. Med., 20, 80 (2014)..コレステロールが結合したNPC1L1はクラスリン型のエンドサイトーシスにより細胞内に入り,複合体のままリサイクリングエンドソームへと運ばれる.その後コレステロールはNPC1L1から離れ小胞体へ,コレステロールを離したNPC1L1は細胞膜へと戻され再利用される.なぜ生体はこのような,一見エネルギー効率の悪いエンドサイトーシスによりコレステロールを細胞内へと取り込んでいるのか,NPC1L1の吸収機構については議論が残されている.Weinglassらは,イヌとマウスのNPC1L1においてエゼチミブのアナログリガンドの結合親和性が異なることに着目し,変異体を用いた検討により,エゼチミブのNPC1L1結合部位を予測した(5)5) A. B. Weinglass, M. Kohler, U. Schulte, J. Liu, E. O. Nketiah, A. Thomas, W. Schmalhofer, B. Williams, W. Bildl, D. R. McMasters et al.: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 105, 11140 (2008).図1図1■NPC1L1の種差別の細胞外第2ループ配列と,ヒト型NPC1L1の2Dモデル).エゼチミブのアナログはイヌ型NPC1L1に高い親和性を示し,その親和性の高さには細胞外第2ループのアミノ酸配列,特にPhe-532およびMet-543が重要であることが示された.これらはヒト型においても保存されている.また近年Takadaらにより,ビタミンKの腸管吸収がNPC1L1を介して行われることが示され(6)6) T. Takada, Y. Yamanashi, K. Konishi, T. Yamamoto, Y. Toyoda, Y. Masuo, H. Yamamoto & H. Suzuki: Sci. Transl. Med., 275, 275ra23 (2015).,NPC1L1は脂溶性ビタミンの吸収においても重要な働きを担っていることが明らかにされた.

図1■NPC1L1の種差別の細胞外第2ループ配列と,ヒト型NPC1L1の2Dモデル

図中×で示したPhe-532およびMet-543がエゼチミブとの高親和性に重要なアミノ酸と考えられている.PM: Plasma Membrane, SSD: Sterol-Sensing Domain.文献5, Fig. 4Aおよび5より一部改変.

小腸に存在するコレステロールは,食事中コレステロール(約250~500 mg/日)と食後腸管へと排出される胆汁中コレステロール(約1,000 mg/日)の総和である.脂質異常症により体内コレステロール量が増加した場合には,肝臓から腸管へ胆汁として排泄されたコレステロールの再吸収を抑制することが体内コレステロール量の減少につながり,エゼチミブのターゲットはここにある.われわれは,食品成分の中からエゼチミブ様の活性を有する成分を探索する目的で,34種のポリフェノールをスクリーニングした.その結果,数種のポリフェノールがヒトの小腸吸収モデル細胞Caco-2においてコレステロールの吸収を有意に阻害した(7)7) M. Nekohashi, M. Ogawa, T. Ogihara, K. Nakazawa, H. Kato, T. Misaka, K. Abe & S. Kobayashi: PLoS ONE, 9, e97901 (2014)..なかでもフラボンの1種であるケルセチンおよびルテオリンは,コレステロール負荷食ラットにおいても血中コレステロール濃度の上昇を有意に抑制した(7)7) M. Nekohashi, M. Ogawa, T. Ogihara, K. Nakazawa, H. Kato, T. Misaka, K. Abe & S. Kobayashi: PLoS ONE, 9, e97901 (2014)..さらにトランスポーターの発現が少ないとされるHEK293T細胞にNPC1L1を強制発現させた系においても,エゼチミブと同レベルまでコレステロールの吸収が抑制されたため,これらのフラボンはNPC1L1を阻害すると推察された.一方ラットを用いた検討において,腸管上皮に発現するNPC1L1のmRNA発現量を測定したところ,コレステロール食群で上昇傾向を示し,ケルセチン群で有意な減少,ルテオリン群で低下傾向を示した.Caco-2細胞においても,ルテオリンおよびケルセチンによりNPC1L1のmRNA発現量は低下した.NPC1L1の転写調節については,転写因子SREBP2–HNF4α経路およびPPARα–RXRα経路が報告されており(8)8) Y. Iwayanagi, T. Takada, F. Tomura, Y. Yamanashi, T. Terada, K. Inui & H. Suzuki: Pharm. Res., 28, 405 (2011).,現在われわれは,ケルセチンおよびルテオリンがこれらの転写調節に与える影響を解析している.本研究によりポリフェノールの高コレステロール血症改善・予防効果の一つとして,腸管におけるコレステロールトランスポーター阻害という新たな可能性を示すことができた.ポリフェノールは腸管吸収性が低いものも多いが,経口摂取された際,消化管へは高濃度で到達するため,われわれは,生体における機能発現の場として腸管は重要な臓器の一つであると考えている.今後はin vitroおよびin vivo両方の系においてさらに詳細なメカニズムを解析し,生体におけるこれらフラボンの作用を明らかにしたい.

エゼチミブに関しては,39カ国の急性冠症候群患者1万8,000人超を平均約6年追跡したIMPROVE-IT試験が実施されている.この試験では,エゼチミブとシンバスタチンとの併用により,シンバスタチン単独と比較してLDLコレステロール(LDL-C)値のさらなる低下とともに,心血管イベントリスクが有意に減少することが明らかとなった(9)9) C. P. Cannon, M. A. Blazing, R. P. Giugliano, A. McCagg, J. A. White, P. Theroux, H. Darius, B. S. Lewis, T. O. Ophuis, J. W. Jukema et al.: N. Engl. J. Med., 372, 2387 (2015)..一方,血中コレステロールに関しては,薬物によるLDL-C低下に否定的な意見や,食事などの外因性コレステロール,スタチン,およびエゼチミブに対する感受性には個人差があることも知られている.これらの感受性の差と遺伝子多型との関連性についての解析も進められており,今後のこの分野の発展を期待したい.

Reference

1) S. W. Altmann, H. R. Davis Jr., L. J. Zhu, X. Yao, L. M. Hoos, G. Tetzloff, S. P. Iyer, M. Maguire, A. Golovko, M. Zeng et al.: Science, 303, 1201 (2004).

2) J. L. Betters & L. Yu: FEBS Lett., 584, 2740 (2010).

3) H. R. Davis Jr. & S. W. Altmann: Biochim. Biophys. Acta, 1791, 679 (2009).

4) P. S. Li, Z. Y. Fu, Y. Y. Zhang, J. H. Zhang, C. Q. Xu, Y. T. Ma, B. L. Li & B. L. Song: Nat. Med., 20, 80 (2014).

5) A. B. Weinglass, M. Kohler, U. Schulte, J. Liu, E. O. Nketiah, A. Thomas, W. Schmalhofer, B. Williams, W. Bildl, D. R. McMasters et al.: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 105, 11140 (2008).

6) T. Takada, Y. Yamanashi, K. Konishi, T. Yamamoto, Y. Toyoda, Y. Masuo, H. Yamamoto & H. Suzuki: Sci. Transl. Med., 275, 275ra23 (2015).

7) M. Nekohashi, M. Ogawa, T. Ogihara, K. Nakazawa, H. Kato, T. Misaka, K. Abe & S. Kobayashi: PLoS ONE, 9, e97901 (2014).

8) Y. Iwayanagi, T. Takada, F. Tomura, Y. Yamanashi, T. Terada, K. Inui & H. Suzuki: Pharm. Res., 28, 405 (2011).

9) C. P. Cannon, M. A. Blazing, R. P. Giugliano, A. McCagg, J. A. White, P. Theroux, H. Darius, B. S. Lewis, T. O. Ophuis, J. W. Jukema et al.: N. Engl. J. Med., 372, 2387 (2015).