解説

グリセロホスホジエステラーゼの分子進化から生理的役割の新たな展開哺乳動物における新基質の発見

Molecular Evolution and New Insight of Glycerophosphodiesterase Family: Recent Findings on Substrates of Mammalian Glycerophosphodiesterases

Noriyasu Ohshima

大嶋 紀安

群馬大学大学院医学系研究科

Minako Nakamura

中村 美奈子

広島大学大学院生物圏科学研究科

Noriyuki Yanaka

矢中 規之

広島大学大学院生物圏科学研究科

Published: 2016-05-20

細菌におけるグリセロホスホジエステラーゼは,グリセロリン脂質の二つの脂肪酸が切断された水溶性代謝物であるグリセロホスホジエステルを分解することでグリセロール3-リン酸を獲得し,リンや炭素の栄養源としての利用において重要な役割を担う.一方,酵母,植物,線虫,哺乳動物においてもグリセロホスホジエステラーゼが同定されたが,哺乳動物においてはグリセロホスホジエステル以外の基質も発見され,多彩な生理的役割が明らかにされている.グリセロホスホジエステラーゼの酵素タンパク質としての分子進化上の特徴,さらに哺乳動物における生理機能の新展開について紹介する.

グリセロホスホジエステラーゼファミリーの分子進化における大きな特徴

細菌から哺乳動物まで,すべての生物の細胞膜の主成分はグリセロリン脂質である.グリセロリン脂質の代謝は,細胞生物の成長や生存において極めて重要な生命機構であるが,その代謝機構や意義においては未解明の部分も多い.本稿において解説する一群のグリセロホスホジエステラーゼ(glycerophosphodiester phosphodiesterase: EC 3.1.4.46)は,グリセロリン脂質の2つの脂肪酸が切断された水溶性代謝物であるグリセロホスホジエステルを分解する酵素として微生物においてその機能が明らかにされ,リン源や炭素源としてリン脂質を栄養資化するために大きな役割を果たしている(図1図1■大腸菌の2つのグリセロホスホジエステル利用経路としてのGlp系とUgp系).しかしながら,本酵素ファミリーは細菌から哺乳動物までの酵素進化の中で,酵素の基質,局在から生理的意義までを大きく変化させた希有な例である(1)1) D. Corda, M. G. Mosca, N. Ohshima, L. Grauso, N. Yanaka & S. Mariggiò: FEBS J., 281, 998 (2014)..細菌のグリセロホスホジエステラーゼについては,グリセロリン脂質からのリン源,および炭素源の供給経路としての役割を担うため,ホスファチジルコリンやホスファチジルエタノールアミンなどに由来するすべてのグリセロホスホジエステルの分解が可能であり,グリセロール3-リン酸(G3P)を獲得するために理にかなっている.ところが,哺乳動物のグリセロホスホジエステラーゼはグリセロホスホイノシトール(GroPIns),あるいはグリセロホスホコリン(GroPCho)などに対して限定した基質特異性を有する点は細菌と大きく異にする.哺乳動物においてGroPIns,あるいはGroPChoは細胞増殖や細胞分化において極めて重要な生理活性物質であり,グリセロホスホジエステラーゼがそれぞれの基質特異性によって細胞内のGroPIns,あるいはGroPCho濃度を厳密に調節する重要な役割を担うことが示されている.さらに,細菌から哺乳動物まで推定の酵素活性領域のアミノ酸配列はよく保存されているものの,哺乳動物のグリセロホスホジエステラーゼの基質はグリセロホスホジエステルにとどまらず,GDE2はグリコシルホスファチジルイノシトールアンカー型タンパク質の切断に,GDE4,およびGDE7はリゾリン脂質からリゾホスファチジン酸の生成に関与するなど,多彩な生命現象を担う可能性が明らかにされている.

図1■大腸菌の2つのグリセロホスホジエステル利用経路としてのGlp系とUgp系

大腸菌における2つのグリセロホスホジエステルの利用経路

細菌で最もグリセロホスホジエステル代謝についての研究が行われているのは大腸菌(Escherichia coli)である.大腸菌はグリセロホスホジエステルを利用する2つの経路,Glp系とUgp系を有している.いずれの経路も細胞外からグリセロホスホジエステルをリンや炭素の栄養源として利用する役割を有するが,各経路においてそれぞれ異なったタンパク質群がこの機能を担っている.大腸菌のGlpオペロンには,G3Pをペリプラスムから細胞質に能動輸送するトランスポーターをコードするglpTと,グリセロホスホジエステラーゼをコードするglpQが含まれる(2)2) T. J. Larson, M. Ehrmann & W. Boos: J. Biol. Chem., 258, 5428 (1983)..GlpQはペリプラスムに局在し,GlpQによりグリセロホスホジエステルから生じたG3PはGlpTによって細胞内へと輸送されて利用される(3)3) T. J. Larson & A. T. van Loo-Bhattacharya: Arch. Biochem. Biophys., 260, 577 (1988).図1図1■大腸菌の2つのグリセロホスホジエステル利用経路としてのGlp系とUgp系).GlpQはグリセロホスホエタノールアミン(GroPEth),GroPCho, GroPIns,グリセロホスホセリン(GroPSer),グリセロホスホグリセロール(GroPGro),カルジオリピンの脱アシル化産物であるビスグリセロホスホグリセロールを加水分解する.一方,ホスファチジルグリセロールやリゾホスファチジルグリセロールは加水分解しない(2, 3)2) T. J. Larson, M. Ehrmann & W. Boos: J. Biol. Chem., 258, 5428 (1983).3) T. J. Larson & A. T. van Loo-Bhattacharya: Arch. Biochem. Biophys., 260, 577 (1988)..GlpQの酵素活性には,特にCa2+を必要とするが,Mg2+の存在下では活性が認められない.

もう一つのグリセロホスホジエステル利用経路は5つの遺伝子を含むugpオペロンによって担われている(4)4) P. Brzoska & W. Boos: J. Bacteriol., 170, 4125 (1988).ugpA, ugpC,およびugpEがグリセロホスホジエステルのトランスポーターをコードしており,ペリプラスムから細胞質へのグリセロホスホジエステルの能動輸送を担っている(図1図1■大腸菌の2つのグリセロホスホジエステル利用経路としてのGlp系とUgp系).ペリプラスムに存在するUgpBはグリセロホスホジエステルと結合し,トランスポーターとともにグリセロホスホジエステルの輸送に関与する(5)5) P. Brzoska, M. Rimmele, K. Brzostek & W. Boos: J. Bacteriol., 176, 15 (1994).ugpQは27 kDaのグリセロホスホジエステラーゼタンパク質をコードしており,アミノ酸配列においてGlpQとの高い相同性があるが,GlpQとは対照的に,UgpQは細胞質に存在するタンパク質である.以前のugpオペロンの研究では単離したUgpQは酵素活性をもたず,UgpA, UgpC,およびUgpEから構成されるグリセロホスホジエステル輸送タンパク質に結合し,輸送に共役することで酵素活性を発現すると提唱されていた(4)4) P. Brzoska & W. Boos: J. Bacteriol., 170, 4125 (1988)..しかしながら,精製したUgpQはCa2+の代わりにMg2+の存在下で酵素活性を示すことが後に明らかとなった(6)6) N. Ohshima, S. Yamashita, N. Takahashi, C. Kuroishi, Y. Shiro & K. Takio: J. Bacteriol., 190, 1219 (2008)..UgpQのグリセロホスホジエステルに対する基質特異性を解析したところ,GroPEth, GroPCho, GroPIns, GroPSer,およびGroPGroに対してほぼ同等の分解活性を示した(6)6) N. Ohshima, S. Yamashita, N. Takahashi, C. Kuroishi, Y. Shiro & K. Takio: J. Bacteriol., 190, 1219 (2008).ugpQを含むugpオペロンはリン酸飢餓状態の大腸菌で顕著に遺伝子発現が誘導されることや,ugpQの欠損によりグリセロホスホジエステルを添加したリン酸欠乏培地中で増殖ができなくなることからから(4)4) P. Brzoska & W. Boos: J. Bacteriol., 170, 4125 (1988).,UgpQの第一義的な生理機能は細胞内のグリセロホスホジエステルを分解し,リン源としての利用であると考えられており,得られたG3Pはグリセロリン脂質の生合成や解糖系など,さまざまな代謝経路に利用される(7)7) A. Forsgren, K. Riesbeck & H. Janson: Clin. Infect. Dis., 46, 726 (2008)..大腸菌のGlpQとUgpQの一次構造は顕著な相同性を示すことから,共通の祖先から進化したと考えられるが,系統樹解析の結果(図2図2■各生物種のグリセロホスホジエステラーゼ,および一次構造上類縁のファミリータンパク質の系統樹解析)から大腸菌のUgpQは真核生物やほかの細菌の細胞質型のグリセロホスホジエステラーゼ類と近縁であることがわかる.GlpQはUgpQとは異なる一群を形成し,植物のグリセロホスホジエステラーゼと近縁である.

図2■各生物種のグリセロホスホジエステラーゼ,および一次構造上類縁のファミリータンパク質の系統樹解析

生物種_タンパク質名_NCBIまたはSwissProt IDとして表記した

細菌の病原性にかかわるグリセロホスホジエステラーゼ

インフルエンザ菌(Haemophilus influenzae),特にb型莢膜株(Hib)は小児において髄膜炎や敗血症を引き起こす病原菌である.そのワクチンには,抗原としてインフルエンザ菌を不活化したうえで精製した細菌表面の莢膜が使用されるが,抗体価を上昇させるために莢膜をキャリアタンパク質と結合させている.インフルエンザ菌の細胞表面に存在するprotein Dが大腸菌GlpQのオルソログであり,ワクチン製造時に用いるキャリアタンパク質として有効であることが示された(7)7) A. Forsgren, K. Riesbeck & H. Janson: Clin. Infect. Dis., 46, 726 (2008)..一方で,protein Dはインフルエンザ菌の病原性にも関与している.protein Dは大腸菌のGlpQと同様の酵素活性を有し(8)8) R. S. Munson Jr. & K. Sasaki: J. Bacteriol., 175, 4569 (1993).,N末端残基に脂質修飾を受け,細胞表面に局在する(9)9) H. Janson, L. O. Heden & A. Forsgren: Infect. Immun., 60, 1336 (1992)..protein Dがラットの中耳炎モデルにおいて病原性に大きく関与していることや(1010) H. Janson, A. Melhus, A. Hermansson & A. Forsgren: Infect. Immun., 62, 4848 (1994).),気道へのインフルエンザ菌の感染にも関与し(11)11) H. Janson, B. Carln, A. Cervin, A. Forsgren, A. B. Magnusdottir, S. Lindberg & T. Runer: J. Infect. Dis., 180, 737 (1999).,ヒト単球への接着や内在化に重要であることが報告されている(12)12) I. L. Ahren, H. Janson, A. Forsgren & K. Riesbeck: Microb. Pathog., 31, 151 (2001)..protein Dが宿主細胞への接着や内在化に関与する分子機序は,以下のように説明されている(13, 14)13) X. Fan, H. Goldfine, E. Lysenko & J. N. Weiser: Mol. Microbiol., 41, 1029 (2001).14) L. Serino & M. Virji: Mol. Microbiol., 35, 1550 (2000)..細菌の表面で宿主のホスファチジルコリンの分解によりprotein Dによって産生されたコリンは細菌表面のリポ多糖–ホスホコリンの合成に利用され,この細胞壁の修飾により宿主細胞の特徴が模倣されることで,細菌が宿主の免疫系から逃れることが可能となる.

一方,マイコプラズマ(Mycoplasma pneumonia)のGlpQは,一次構造上では細胞質型のタンパク質であり,大腸菌UgpQのオルソログであると考えられる.M. pneumoniaeは非定型肺炎を引き起こす細菌の一種であり,宿主細胞から自身の構築分子の材料を獲得する.肺への感染時には肺胞サーファクタントのリン脂質を栄養源とする.マイコプラズマのglpQ遺伝子を欠失させた際には,細菌の増殖能の低下,HeLa細胞に対する細胞毒性の低下が引き起こされる(15)15) S. R. Schmidl, A. Otto, M. Lluch-Senar, J. Pinol, J. Busse, D. Beche & J. Stulke: PLoS Pathog., 7, e1002263 (2011).

そのほかの細菌のグリセロホスホジエステラーゼ

枯草菌(Bacillus subtilis)には,細胞質型グリセロホスホジエステラーゼであるYqiKが存在し,浸透圧調節に関与していると報告されている(16)16) K. E. Fische & E. Bremer: J. Bacteriol., 194, 5197 (2012).YqiKyqiHIKオペロンに存在し,大腸菌のUgpQのオルソログである.YqiKの発現は高塩濃度の環境下で誘導され,yqiHIKオペロンを欠失させると枯草菌の高塩濃度環境下での増殖が障害される(17)17) L. Steil, T. Hoffmann, I. Budde, U. Volker & E. Bremer: J. Bacteriol., 185, 6358 (2003)..放線菌(Streptmyces coelicolor)ゲノムは7種もの推定グリセロホスホジエステラーゼ遺伝子をコードしている.そのうちのGlpQ1-3は分泌型であり,UgpQ1-4は細胞質型であるが,酵素活性についての報告はない(18)18) F. Santos-Beneit, A. Rodriguez-Garcia, A. K. Apel & J. F. Martin: Microbiology, 155, 1800 (2009).

細菌由来のグリセロホスホジエステラーゼの立体構造

グリセロホスホジエステラーゼに共通の立体構造上の特徴は,トリオースリン酸イソメラーゼが名前の由来であるTIMバレルフォールドを有することである(図3A図3■Thermoanaerobacter tengcongensisの細胞質型グリセロホスホジエステラーゼの立体構造A, グリセロホスホジエステラーゼファミリーに共通の特徴としてTIMバレルフォールドを有する.B, 活性中心付近の構造).好熱菌Thermotoga maritimaの細胞質型グリセロホスホジエステラーゼ(TM1621)の立体構造が最初に報告されたが,活性に必要な金属イオンの非存在下でのものであった(19)19) E. Santelli, R. Schwarzenbacher, D. McMullan, T. Biorac, L. S. Brinen, J. M. Canaves, J. Cambell, X. Dai, A. M. Deacon, M. A. Elsliger et al.: Proteins, 56, 167 (2004)..理研SPring8のタンパク3000プロジェクトでは,好熱菌Thermus thermophilusの細胞質型グリセロホスホジエステラーゼ(PDB ID; 1VD6)の基質結合部位にグリセロールが結合した構造が得られている.好熱菌Thermoanaerobacter tengcongensisの細胞質型グリセロホスホジエステラーゼの立体構造解析によると,その活性中心にはCa2+とグリセロールが結合しており,これらは基質結合や触媒機構の解明のために重要である(20)20) L. Shi, J. F. Liu, X. M. An & D. C. Liang: Proteins, 72, 280 (2008).図3B図3■Thermoanaerobacter tengcongensisの細胞質型グリセロホスホジエステラーゼの立体構造A, グリセロホスホジエステラーゼファミリーに共通の特徴としてTIMバレルフォールドを有する.B, 活性中心付近の構造).Ca2+に結合しているのはGlu44, Asp46, Glu119であり,いずれの残基をAlaに置換しても酵素活性は失われる.Arg18とLys121は基質のリン酸基に結合し,His17とHis59による酸塩基触媒の反応機構が提唱されている.

図3■Thermoanaerobacter tengcongensisの細胞質型グリセロホスホジエステラーゼの立体構造A, グリセロホスホジエステラーゼファミリーに共通の特徴としてTIMバレルフォールドを有する.B, 活性中心付近の構造

酵母のグリセロホスホジエステラーゼ

細菌のGlpQとのアミノ酸配列の相同性から,酵母(Saccharomyces cerevisiae)のYPL110c(Gde1p)とYPL206c(Pgc1p)が単離された(21)21) E. Fisher, C. Almaguer, R. Holic, P. Griac & J. Patton-Vogt: J. Biol. Chem., 280, 36110 (2005)..Gde1pは1223アミノ酸からなる細胞質のタンパク質であり,Gde1pを欠損させた酵母ではGroPChoの細胞内での蓄積が観察され,Gde1pは酵母がGroPChoを唯一のリン源として増殖するのに必要であった(21)21) E. Fisher, C. Almaguer, R. Holic, P. Griac & J. Patton-Vogt: J. Biol. Chem., 280, 36110 (2005)..Gde1pの発現は大腸菌UgpQと同様に低リン酸濃度の培養条件で上昇することが報告されており(22)22) N. Ogawa, J. DeRisi & P. O. Brown: Mol. Biol. Cell, 11, 4309 (2000).,Gde1は多くのリン酸恒常性に関与するタンパク質に含まれるSPXドメインを有している.これらのことから,酵母のグリセロホスホジエステラーゼは大腸菌の場合と同様にグリセロホスホジエステルからリン酸を獲得するために機能していると考えられている.一方,Pgc1pはホスファチジルグリセロールをジアシルグリセロールとG3Pに分解する活性を有し,生体膜のホスファチジルグリセロール量を制御していると考えられている(23)23) M. Simockova, R. Holic, D. Tahotna, J. Patton-Vogt & P. Griac: J. Biol. Chem., 283, 17107 (2008).

植物由来のグリセロホスホジエステラーゼの同定と機能解析

シロイヌナズナのゲノム中に13種類のグリセロホスホジエステラーゼ相同性遺伝子が単離され,タイプAとタイプBの2つのグループに分類された(24)24) Y. Cheng, W. Zhou, N. I. El sheery, C. Peters, M. Li, X. Wang & J. Huang: Plant J., 66, 781 (2011)..タイプAは一つの酵素活性ドメインを有するAtGDPD1-6であり,タイプBは2つの酵素活性ドメインをもつ“Long form”であるAtGDPDL1-7である.シロイヌナズナの精製AtGDPD1の酵素活性にはMg2+が必要であり,GroPGro, GroPCho, GroPEthに対する分解活性が報告されている(24)24) Y. Cheng, W. Zhou, N. I. El sheery, C. Peters, M. Li, X. Wang & J. Huang: Plant J., 66, 781 (2011)..一方,AtGDPDL1はグリセロホスホジエステルに対してAtGDPD1よりも極めて低い酵素活性を示すことから(25)25) S. Hayashi, T. Ishii, T. Matsunaga, R. Tominaga, T. Kuromori, T. Wada, K. Shinozaki & T. Hirayama: Plant Cell Physiol., 49, 1522 (2008).,タイプBの酵素にはグリセロホスホジエステル以外の基質が存在する可能性も示唆されている.AtGDPD1遺伝子はリンの欠乏により発現が上昇するが,葉緑体に局在するAtGDPD1を欠損させるとG3Pや無機リン酸濃度が減少し,実生の成長速度も低下する(24)24) Y. Cheng, W. Zhou, N. I. El sheery, C. Peters, M. Li, X. Wang & J. Huang: Plant J., 66, 781 (2011).

シロバナルーピンではタイプAに属する2つのグリセロホスホジエステラーゼが報告されており,いずれもリン酸飢餓で遺伝子発現が誘導される(26)26) L. Cheng, B. Bucciarelli, J. Liu, K. Zinn, S. Miller, J. Patton-Vogt, D. Allan, J. Shen & C. P. Vance: Plant Physiol., 156, 1131 (2011)..またグリセロホスホジエステラーゼ活性を有し,根毛の発生や密度の制御に関与している.以上の知見は,これらの植物のグリセロホスホジエステラーゼが,細菌のUgpQと同様に植物のリン酸飢餓環境への適応に関与することを示唆している.

昆虫由来のグリセロホスホジエステラーゼ

昆虫では,イエバエ(Musca domestica)の幼虫のグリセロホスホジエステラーゼ活性が解析されている(27)27) G. R. Hildenbrandt & L. L. Bieber: J. Lipid Res., 13, 348 (1972)..NCBIにはキイロショウジョウバエ(Drosophila melanogaster)のグリセロホスホジエステラーゼと考えられる複数のタンパク質が登録されているが,機能解析の報告はない.

哺乳動物におけるグリセロホスホジエステラーゼ

1. 哺乳動物におけるグリセロホスホジエステラーゼの発見とGDE1の生理機能

哺乳動物のグリセロホスホジエステルに対する分解活性は,ラット腎臓や脳由来の膜画分と可溶性画分において古くに見いだされている(28, 29)28) J. J. Baldwin, P. Lanes & W. E. Cornatzer: Arch. Biochem. Biophys., 133, 224 (1969).29) K. Zablocki, S. P. Miller, A. Garcia-Perez & M. B. Burg: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 88, 7820 (1991)..特に,ホスファチジルコリンの代謝産物であるGroPChoが,尿細管での高濃度のNaClや尿素による浸透圧ストレスに対抗するための細胞内有機性浸透圧物質として重要な役割を果たすと考えられており,GroPChoに対する分解活性に興味がもたれていた.一方,ラットの各脳領域のGroPChoに対する分解活性が明らかにされ(30)30) G. R. Webster, E. A. Marples & R. H. Thompson: Biochem. J., 65, 374 (1957).,脳における分布や発生過程における解析が行われている(31)31) J. N. Kanfer & D. G. McCartney: Neurochem. Res., 13, 803 (1988)..しかし一方で,哺乳動物におけるグリセロホスホジエステラーゼ遺伝子の単離は進まず,タンパク質の一次構造は未解明のままであった.最初に単離されたGDE1は細胞内の膜輸送の研究分野において,またGDE3は骨形成関連因子の探索の過程で偶然に発見され,さらに推定の酵素活性領域のアミノ酸配列から,現在では7種類のグリセロホスホジエステラーゼ相同性遺伝子が単離されている(32)32) N. Yanaka: Biosci. Biotechnol. Biochem., 71, 1811 (2007).図4図4■細菌,酵母,および哺乳動物のグリセロホスホジエステラーゼタンパク質の推定酵素活性領域のアミノ酸配列の比較).哺乳動物におけるグリセロホスホジエステラーゼは,細胞質型であるGDE5以外はタンパク質構造内に膜貫通領域を有している.さらに,グリセロホスホジエステルを基質とするGDE1, GDE2, GDE3, GDE5,さらにグリセロリゾリン脂質を基質とするGDE4, GDE7のようにグリセロホスホジエステル以外の新しい基質が見いだされており,その生物学意義は大きな展開を見せている.