Kagaku to Seibutsu 54(7): 471-477 (2016)
解説
乳酸菌の腸粘膜への定着機構
Colonization Properties of Lactic Acid Bacteria to Mucosal Surface of the Intestinal Tract
Published: 2016-06-20
乳酸菌は,哺乳類の小腸から大腸に広く棲息するグラム陽性細菌である.乳酸菌を構成する最大の属であるLactobacillus属は,多岐にわたる有用効果が報告されており,近年では,民間伝承的な健康増進効果にとどまらず予防医学への応用も期待されている.一般に乳酸菌は積極的に摂取され宿主消化管で定着することが求められることから,複雑な腸内フローラを形成する消化管において,摂取された乳酸菌がどのようなプロセスを経て定着・共生することができるのか興味深い点である.本解説では,乳酸菌の生存戦略の一つである腸粘膜への付着に着目し,特にアドヘシン(付着因子)の細胞表層への提示機構とその役割について解説する.
© 2016 Japan Society for Bioscience, Biotechnology, and Agrochemistry
© 2016 公益社団法人日本農芸化学会
哺乳類の消化管上皮には杯細胞が存在し,杯細胞から大量の粘液(ムチン)が産生され,腸上皮を被覆する.したがって,ムチンは乳酸菌の主要な定着の場であると考えられる.ムチンは,重量比で約90%以上の水分を含むため形態的に観察することは難しいが,凝固・脱水固定を原理とする灌流カルノア固定により速やかに固定を行うことで,薄いPAS陽性を示す粘液ゲル層(Outer mucus layer)と濃いPAS陽性を示す上皮細胞に接した高密度の粘液層(Inner mucus layer)の2層構造からなることを形態的に観察できる(図1a図1■PAS染色による大腸粘膜の組織学的所見と消化管粘膜の模式図).細菌は,粘液ゲル層までは入り込むことができるが,上皮細胞に接した粘液層はムチンが密に結合しているため入り込めず,それにより上皮細胞への細菌の接触や侵入を防ぐ役割を果たしている(1)1) M. E. Johansson, M. Phillipson, J. Petersson, A. Velcich, L. Holm & G. C. Hansson: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 105, 15064 (2008)..このような2層構造の粘液層は大腸に特徴的であり,ヒトでは大腸の粘液ゲル層の厚さは800~900 µmほどにもなる(2)2) M. Derrien, M. W. van Passel, J. H. van de Bovenkamp, R. G. Schipper, W. M. de Vos & J. Dekker: Gut Microbes, 1, 254 (2010).(図1b図1■PAS染色による大腸粘膜の組織学的所見と消化管粘膜の模式図).
ムチンは,ポリペプチド骨格のセリン,トレオニンおよびプロリンを多く含むタンデムリピート構造をもち,リピート数の異なる多型を示すことが多い.ムチンの最小単位であるモノマーがジスルフィド結合し,分子量数十万からなる巨大なポリマー構造を形成する.ムチン(muc)遺伝子は少なくとも20種類以上見いだされており,膜結合型と分泌型に分類されるが,小腸から大腸では分泌型のMuc2ムチンが主である(1)1) M. E. Johansson, M. Phillipson, J. Petersson, A. Velcich, L. Holm & G. C. Hansson: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 105, 15064 (2008)..図2a図2■ムチンの糖鎖修飾とHID染色による各消化管粘膜の組織学的所見にヒト大腸のMuc2ムチンに多く見られるO-型糖鎖のコア3型構造とそれに結合する糖鎖の例を示した.先に述べたタンデムリピート構造部分にO-グリコシド結合によりN-アセチルガラクトサミンが結合し,続いてN-アセチルグルコサミンがβ1→3結合したコア構造をとり(3)3) J. M. Larsson, H. Karlsson, H. Sjövall & G. C. Hansson: Glycobiology, 19, 756 (2009).,特に,非還元末端に存在するフコースを含む血液型関連糖鎖や負の電荷をもつシアル酸や硫酸基の修飾がムチン糖鎖の多様性を生み出している.筆者らは,ブタの各消化管部位の粘液組織を酸性糖の染色法である高鉄ジアミン・アルシアンブルー(HID/AB)染色により染色したところ,消化管下部になるほどHID染色性は強くなり,硫酸化ムチンの分布が消化管部位で顕著に異なることも確認している(図2b図2■ムチンの糖鎖修飾とHID染色による各消化管粘膜の組織学的所見).また最近,腸粘液のフコシル化の有無が腸内細菌の定着に影響することが報告されており(4)4) Y. Goto, T. Obata, J. Kunisawa, S. Sato, I. I. Ivanov, A. Lamichhane, N. Takeyama, M. Kamioka, M. Sakamoto, T. Matsuki et al.: Science, 345, 1254009 (2014).,このようなムチンの糖鎖修飾のパターンの違いは,乳酸菌の宿主腸粘膜との相互作用に影響を及ぼすものと推測される.
(a)ヒト大腸のMuc2ムチンに多いO-型糖鎖のコア3型構造に結合する糖鎖の模式図.Fuc, Fucose; Gal, Galactose; GalNAc, N-acetylgalactosamine; Glc, Glucose; NeuAc, N-acetylneuraminic acidを示す.コア3型構造とGalNAcの6位にNeuAcが結合した構造を基本として,SO3−, Fuc, NeuAc(青文字)がそれぞれの位置に結合する(ただし,これらがすべて結合した異性体構造は存在しない).シアル酸は,[NeuAc]で示したように内部のGalNAcあるいはGal残基にも分岐型として結合する.文献11) M. E. Johansson, M. Phillipson, J. Petersson, A. Velcich, L. Holm & G. C. Hansson: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 105, 15064 (2008).と33) J. M. Larsson, H. Karlsson, H. Sjövall & G. C. Hansson: Glycobiology, 19, 756 (2009).を参考にした.(b)ブタの各消化管部位の粘液のHID/AB染色像.
一方,大腸とは異なり小腸の粘液ゲル層は1/10以下と薄いことから(図1b図1■PAS染色による大腸粘膜の組織学的所見と消化管粘膜の模式図),粘液層直下の上皮細胞,あるいは上皮細胞の表面に発現する糖衣(Glycocalyx)と呼ばれる細胞膜結合型糖タンパク質も乳酸菌の受容体となりうると考えられる.また,コラーゲン,ラミニン,フィブロネクチンなどの細胞外マトリックス(ECM)タンパク質も乳酸菌の付着性を評価する際に用いられるが,ECMタンパク質の多くは基底膜側に存在し,特に創傷部において表面に露出すると考えられることから,乳酸菌がこれらの受容体と相互作用することが消化管での定着性にどの程度の優位性を与えることができるか疑問が残る.
非運動性の乳酸菌が流動性の高い腸内環境において一定の細菌数を維持するには,乳酸菌が消化管に対して能動的に付着し,増殖することが重要であると考えられる.グラム陽性菌である乳酸菌の細胞表層は,厚いペプチドグリカン層,テイコ酸およびリポテイコ酸などの多糖類に加え,タンパク質性の物質から構成され,これらの一部が宿主への付着性を促進する付着因子(アドヘシン)として機能する.アドヘシンは,レクチンのようにリガンドとその受容体が明確であり特異的な相互作用を示すものや,特定の受容体をもたず非特異的な結合プロセスを有するものまで多岐にわたる(図3a図3■アドヘシンを介した乳酸菌の腸上皮への定着過程).多くの場合,一つの乳酸菌においていくつかのアドヘシンが複合的に機能することで,細菌と腸粘膜との間に多価的な結合が生じ,流動性が高く刻々と環境が変化する消化管内での乳酸菌の効率的な付着を可能にすると考えられる.さらに,細胞表層の構成因子は,細菌同士の自己凝集(Self-aggregation)やほかの細菌との共凝集(Co-aggregation)を促進するものも存在し,これらは腸粘膜への付着をより強固なものにする補助的な役割を果たすことから,凝集因子も広義のアドヘシンとして考えてよいだろう.すなわち,乳酸菌の定着の過程は,①アドヘシンを介した初期付着,②菌体同士の凝集,③コロニー(細菌叢)の形成といくつかのステップを経て成立すると考えられる(図3b図3■アドヘシンを介した乳酸菌の腸上皮への定着過程).
先述のとおり,細胞表層に存在するさまざまな因子がアドヘシンとして機能するが,多くはタンパク質性の物質である.グラム陽性細菌において,細胞外に分泌されるタンパク質は,細胞内で合成された後,いくつかの分泌経路を介して細胞表層に提示される(図4図4■Lactobacillus属のゲノム配列情報から推測されるタンパク質の分泌経路).このようなタンパク質のN末端には,数十アミノ酸残基からなる分泌シグナル配列が保存され,シグナル配列の種類により厳密に分泌経路が決定される.現在,Lactobacillus属のゲノム配列情報をもとに報告されている分泌経路は,Secretion(Sec)translocation, Competence development(Com)pathway, ATP-binding cassette(ABC)transporter,そしてHolinである(5)5) M. Kleerebezem, P. Hols, E. Bernard, T. Rolain, M. Zhou, R. J. Siezen & P. A. Bron: FEMS Microbiol. Rev., 34, 199 (2010)..一方,ほかのグラム陽性菌で広く保存されるTwin-arginine transporter(TAT)は見いだされていない.また,膜貫通チャネル複合体SecYEGやATPase依存性駆動因子SecAなどのSecトランスロコンの中心的役割を担う因子は保存されるが,膜透過性を促進する膜タンパク質SecDFやシグナル配列の認識に寄与するSecBは見いだされておらず,分泌機構に関しては不明な点が多い.
Sec, Secretion translocation; Com, Competence development pathway, ABC, ATP-binding cassette transporter, Holinを示す.膜小胞(Membrane vehicle)や溶菌(Bacteriolysis)による分泌機構の存在も示唆される.文献55) M. Kleerebezem, P. Hols, E. Bernard, T. Rolain, M. Zhou, R. J. Siezen & P. A. Bron: FEMS Microbiol. Rev., 34, 199 (2010).を参考にした.
一方,既知の分泌シグナルが保存されていないにもかかわらず何らかの分泌機構により細胞外へと移行するタンパク質が存在する.枯草菌での解析例を示すと,Bacillus subtilis 168株は,遺伝子総数約4,100であり,プロテオミクス解析によると,250種類以上のタンパク質の分泌が確認されており(6, 7)6) H. Antelmann, H. Tjalsma, B. Voigt, S. Ohlmeier, S. Bron, J. M. van Dijl & M. Hecker: Genome Res., 11, 1484 (2001).7) I. Hirose, K. Sano, I. Shioda, M. Kumano, K. Nakamura & K. Yamane: Microbiology, 146, 65 (2000).,これは全タンパク質数の約6%に相当する.しかしながら,分泌シグナル配列に基づき分泌タンパク質を予測した結果では,プロテオミクス解析で検出されたタンパク質のおよそ半数に過ぎない.また,Lactobacillus属では,比較的ゲノムサイズの小さいLactobacillus salivariusでも遺伝子総数は約1,700であるので,枯草菌の報告例に当てはめると,分泌シグナル配列非依存的に分泌されるタンパク質が乳酸菌においても相当数あるものと推測される.また,これらの中には,アドヘシンとしてなど細胞内での本来の機能とは異なる役割を示すものが存在し,特にムーンライト(多機能)タンパク質と呼ばれる(8)8) C. J. Jeffery: Mol. Biosyst., 5, 345 (2009)..では,これらのタンパク質がどのように分泌されるのであろうか.乳酸菌では,これらの分泌機構に関する研究例はほとんどないが,近年,他の細菌種において興味深い報告例がある.
B. subtilisのα-Enolaseは,N末端に存在する疎水性のα-ヘリックスを構成するアミノ酸領域を欠損すると分泌されず,さらにα-Enolaseの分泌は溶菌でないことから,特定の領域が分泌シグナルのような役割を果たすことが示唆されている(9)9) C. K. Yang, H. E. Ewis, X. Zhang, C. D. Lu, H. J. Hu, Y. Pan, A. T. Abdelal & P. C. Tai: J. Bacteriol., 193, 5607 (2011)..また,Rhizobium leguminosarumのSuperoxide dismutase(SodA)では,tatC変異株では分泌が変化せず,secA変異株ではSodAの分泌が著しく減少することから,SodAの分泌はSecA依存性であると結論づけている(10)10) M. Krehenbrink, A. Edwards & J. A. Downie: Mol. Microbiol., 82, 164 (2011)..また,この分泌には,SodAのN末端のアミノ酸残基が寄与することが示されているが,Secトランスロコンとの関連性については言及されていない.これら報告以外に,Bacillus anthracisやB. subtilisのα-Enolaseの膜小胞による細胞外への移行(11)11) S. Agarwal, P. Kulshreshtha, D. Bambah Mukku & R. Bhatnagar: Biochim. Biophys. Acta, 1784, 986 (2008).,Listeria monocytogenesでは,SecA2依存性の溶菌酵素による溶菌が分泌シグナル非依存的なタンパク質分泌に間接的に寄与することが示されている(12)12) L. L. Lenz, S. Mohammadi, A. Geissler & D. A. Portnoy: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 100, 12432 (2003)..しかし,Lactobacillus属において膜小胞や溶菌がこれらのタンパク質の分泌経路として機能するかは不明である.このように,これまで全く未知であった既知の分泌シグナル配列をもたないタンパク質の分泌に特定の領域や分泌装置が関与することが明らかにされつつあるが,これらは特定のタンパク質や菌株における報告であり,その全貌解明には今後のさらなる研究が待たれる.
次に,細胞外に分泌されたタンパク質がアドヘシンとしての機能を発揮するためには,細胞表層にアンカリングされる必要がある.分泌シグナルを有する多くのアドへシンは,NあるいはC末端に保存されるアンカリングモチーフを介して細胞表層に固定される.LPxTGモチーフはSortase(SrtA)の作用により細胞壁に,リポボックスモチーフは,Prolipoprotein diacylglyceryl transferaseとSignal peptidase IIの作用により細胞膜に共有結合により固定される.また,Lysineモチーフ(LysM)やS-layer-proteinドメインは非共有結合により細胞壁に固定される.一方,アドヘシンとしてのムーンライトタンパク質の細胞表層における局在様式は明確にされていないが,Glyceraldehyde-3-phosphate dehydrogenase(GAPDH)やEnolase, Elongation factor Tu(EF-Tu)は,等電点以上の緩衝液で菌体を処理するとこれらのタンパク質は上清に遊離することから,負の電荷をもつリポテイコ酸に静電的に結合することで細胞表層に維持されるという説が最も有力である(13, 14)13) J. Antikainen, V. Kuparinen, V. Kupannen, K. Lähteenmäki & T. K. Korhonen: J. Bacteriol., 189, 4539 (2007).14) K. Nishiyama, A. Ochiai, D. Tsubokawa, K. Ishihara, Y. Yamamoto & T. Mukai: PLoS ONE, 8, e83703 (2013)..
これまでLactobacillus属で報告されるタンパク質のさまざまな提示機構に関して述べてきた.本稿では,細胞表層に提示されたタンパク質がアドヘシンとして実際にどのような機能を発揮するか,ムチンを受容体とするアドヘシンに着目し,特に近年盛んに研究が行われ新規な知見が得られているものを中心に述べる.
Lactobacillus属で見いだされているアドヘシンのなかで,N末端にSec依存性分泌シグナル配列,C末端にLPxTG配列もつアドヘシンは最も報告例が多い.Roosらにより,Lactobacillus reuteri 1063株において上記の特徴をもつ分子量358,000からなる巨大タンパク質Mucus-binding(Mub)がムチン付着因子として報告された(15)15) S. Roos & H. Jonsson: Microbiology, 148, 433 (2002)..Mubは,Mub1とMub2と呼ばれる2つの特徴的な領域をもち,183~206アミノ酸残基からなる領域の繰り返し配列(Mubリピート)が,保存されている(図5a図5■Mucus-binding(Mub)とSpaCBA線毛の模式図).その後の研究により,複数のLb. reuteriにおいてMubと推測されるタンパク質が確認され,菌体の凝集性との関連性や抗Mub抗体を用いた阻害試験によりムチンに対するアドヘシンとしての役割が示されている(16)16) D. A. Mackenzie, F. Jeffers, M. L. Parker, A. Vibert-Vallet, R. J. Bongaerts, S. Roos, J. Walter & N. Juge: Microbiology, 156, 3368 (2010)..
(a)Lb. reuteri 1063由来Mubを構成するMubリピートを示した.Mubリピートは,Mub1とMub2領域から構成され,Mub1は1~4, 5~6, Mub2は1~8の相同領域の繰り返しからなる.文献1515) S. Roos & H. Jonsson: Microbiology, 148, 433 (2002).と1818) S. Etzold, D. A. Mackenzie, F. Jeffers, J. Walshaw, S. Roos, A. M. Hemmings & N. Juge: Mol. Microbiol., 92, 543 (2014).を参考にした.(b)Lb. rhamnosus GG由来SpaCBA線毛の各サブユニットの重合パターンを示した.基軸となるSpaAに対しSpaCが1 : 2の割合で存在する.SpaBは,線毛の基盤あるいは途中に存在する.文献2020) M. Kankainen, L. Paulin, S. Tynkkynen, I. von Ossowski, J. Reunanen, P. Partanen, R. Satokari, S. Vesterlund, A. P. A. Hendrickx, S. Lebeer et al.: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 106, 17193 (2009).と2121) I. von Ossowski, J. Reunanen, R. Satokari, S. Vesterlund, M. Kankainen, H. Huhtinen, S. Tynkkynen, S. Salminen, W. M. de Vos & A. Palva: Appl. Environ. Microbiol., 76, 2049 (2010).を参考にした.
また,Mubリピートは,L. monocytogenesで報告されていたMucBP(Mucin-Binding Protein; PF06458)ドメインとアミノ酸配列の類似性が認められることから,ほかの菌種でもMucBP相同タンパク質が調べられた.その結果,10菌種以上でMucBPドメインと類似したアミノ酸配列をもつ細胞表層タンパク質が見いだされたが(17)17) J. Boekhorst, Q. Helmer, M. Kleerebezem & R. J. Siezen: Microbiology, 152, 273 (2006).,これらのアドヘシンとしての役割に関してはほとんど検討されていなかった.しかし,最近,これらの付着性に関する報告が立て続けに発表された.Lb. reuteri JCM1112株においてMubリピートのパターンが異なる新規なMubとしてLar_0958が見いだされた.lar_0958変異株を用いた試験により,Lar_0958がムチン付着性と細胞凝集性に寄与することが菌株レベルで明らかにされた(18)18) S. Etzold, D. A. Mackenzie, F. Jeffers, J. Walshaw, S. Roos, A. M. Hemmings & N. Juge: Mol. Microbiol., 92, 543 (2014)..また,Lb. reuteriから精製したMubを用いた組織学的解析により,Mubの受容体がムチンのシアル酸を含む糖鎖部位であることが示唆され(19)19) S. Etzold, O. I. Kober, D. A. Mackenzie, L. E. Tailford, A. P. Gunning, J. Walshaw, A. M. Hemmings & N. Juge: Environ. Microbiol., 16, 888 (2014).,徐々にMubのアドヘシンとしての特徴が明らかにされている.
Lactobacillus rhamnosus GG(LGG)株のSpa線毛も,Mubと同様にN末端にSec依存性分泌シグナル配列,C末端にLPxTG配列をもつタンパク質であり,付着性に関する知見が多くの研究者によって報告されている.Spa線毛は,spaCBAとspaFEDの2つのクラスターが存在し,それぞれの線毛を構成する各サブユニットが重合することで線毛構造を形成する(20)20) M. Kankainen, L. Paulin, S. Tynkkynen, I. von Ossowski, J. Reunanen, P. Partanen, R. Satokari, S. Vesterlund, A. P. A. Hendrickx, S. Lebeer et al.: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 106, 17193 (2009).(図5b図5■Mucus-binding(Mub)とSpaCBA線毛の模式図).ヒトをモデルとしてSpaCBA線毛の役割を評価するため,LGG株とspaCBAクラスターが欠失したLb. rhamnosus LC705(LC705)株を用いて,それぞれの菌株を摂取した際の糞便中の菌数変化を,各菌株に特異的な遺伝子を指標として測定した.その結果,LC705株は摂取後14日目以降に検出限界に達したが,LGG株は21日まで検出され,LGG株の腸管定着におけるSpaCBA線毛の寄与が報告された(21)21) I. von Ossowski, J. Reunanen, R. Satokari, S. Vesterlund, M. Kankainen, H. Huhtinen, S. Tynkkynen, S. Salminen, W. M. de Vos & A. Palva: Appl. Environ. Microbiol., 76, 2049 (2010)..その後,各サブユニットの組換えタンパク質を用いた解析により,SpaCとSpaBサブユニットがムチンへ結合に寄与することが示された(20, 21)20) M. Kankainen, L. Paulin, S. Tynkkynen, I. von Ossowski, J. Reunanen, P. Partanen, R. Satokari, S. Vesterlund, A. P. A. Hendrickx, S. Lebeer et al.: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 106, 17193 (2009).21) I. von Ossowski, J. Reunanen, R. Satokari, S. Vesterlund, M. Kankainen, H. Huhtinen, S. Tynkkynen, S. Salminen, W. M. de Vos & A. Palva: Appl. Environ. Microbiol., 76, 2049 (2010)..特に,SpaCサブユニットは,線毛の先端に位置し,さらにその結合性は塩基性タンパク質の添加により阻害されないことから,特異性のある結合様式が存在すると考えられた(21)21) I. von Ossowski, J. Reunanen, R. Satokari, S. Vesterlund, M. Kankainen, H. Huhtinen, S. Tynkkynen, S. Salminen, W. M. de Vos & A. Palva: Appl. Environ. Microbiol., 76, 2049 (2010)..そこで筆者らは,SpaCサブユニットと複合糖脂質との相互作用を評価したところ,非還元末端がガラクトシル基の糖鎖構造に対して特異的に結合するレクチン様の性質をもつことを見いだした(22)22) K. Nishiyama, S. Ueno, M. Sugiyama, Y. Yamamoto & T. Mukai: Anim. Sci. J., doi: 10.1111/asj.12491. (2015)..また最近,緑色蛍光タンパク質を導入したLGGのspaC変異株をマウスに投与し,近位空腸のムチン層におけるLGGの局在を組織化学的に評価する試みが行われており,LGG野生株と比較しspaC変異株のムチン層への付着性が顕著に低下することから,SpaCサブユニットのアドへシンとしての役割がin vivoでも確認されている(23)23) C. S. Ardita, J. W. Mercante, Y. M. Kwon, L. Luo, M. E. Crawford, D. N. Powell, R. M. Jones & A. S. Neish: Appl. Environ. Microbiol., 80, 5068 (2014)..
アドヘシンとしてのムーンライトタンパク質は,ムチンに特徴的な糖鎖プローブを用いて糖鎖特異的な結合性を示すものが報告されており,乳酸菌のアドヘシンの分類として欠くことはできない.一方,その多くはハウスキーピング遺伝子であることから変異株の取得は困難であり,菌株の付着性への関与は,カオトロピック試薬による剥離処理前後での付着性の違い,あるいは抗体を用いた付着阻害といった間接的な評価が多い.
ムチンに高い付着性を示す菌株として選抜されたLactobacillus plantarum LA 318株の細胞表層画分からアドヘシンの候補としてGAPDHが同定された(24)24) H. Kinoshita, H. Uchida, Y. Kawai, T. Kawasaki, N. Wakahara, H. Matsuo, M. Watanabe, H. Kitazawa, S. Ohnuma, K. Miura et al.: J. Appl. Microbiol., 104, 1667 (2008)..ムチン糖鎖にはABO式血液型抗原が高頻度に見られることから,血液型糖鎖プローブに対するGAPDHの結合性を評価したところ,特にA型とB型抗原に高い結合性を示すことが示され,血液型糖鎖に対するアドヘシンとして報告されている(25)25) H. Kinoshita, N. Wakahara, M. Watanabe, T. Kawasaki, H. Matsuo, Y. Kawai, H. Kitazawa, S. Ohnuma, K. Miura, A. Horii et al.: Res. Microbiol., 159, 685 (2008)..その後の研究で,ABCトランスポーターの構成因子の一つである分子量29,000のシステイン結合タンパク質(Lam29)も血液型糖鎖に結合することが報告されている(26)26) M. Watanabe, H. Kinoshita, M. Nitta, R. Yukishita, Y. Kawai, K. Kimura, N. Taketomo, Y. Yamazaki, Y. Tateno, K. Miura et al.: J. Appl. Microbiol., 109, 927 (2010)..
EF-Tuは,Lactobacillus johnsonii NCC533(La1)株において,メンブレンオーバーレイ法により腸上皮細胞に対するアドへシンとして同定された.さらに,EF-Tu組換えタンパク質を用いた実験により,特に弱酸性条件下で培養細胞だけでなくムチンに対しても結合性を示すことが報告されている(27)27) D. Granato, G. E. Bergonzelli, R. D. Pridmore, L. Marvin, M. Rouvet & I. E. Corthésy-Theulaz: Infect. Immun., 72, 2160 (2004)..一方,筆者らは,ムチンが高度に硫酸化されていることに着目し(図2b図2■ムチンの糖鎖修飾とHID染色による各消化管粘膜の組織学的所見),硫酸化ムチンと共通する糖鎖構造をもつスルファチドをプローブとしてアドヘシンの探索を行ったところ偶然にもEF-Tuを同定した(14)14) K. Nishiyama, A. Ochiai, D. Tsubokawa, K. Ishihara, Y. Yamamoto & T. Mukai: PLoS ONE, 8, e83703 (2013)..先の報告と同様に,EF-Tuは弱酸性条件で硫酸化糖鎖に高い結合性を示したため,静電的な相互作用であると思われたが,硫酸基と同じく負の電荷をもつシアル酸を含む糖鎖にはほとんど結合せず,硫酸化糖鎖に特異的なアドヘシンとして報告している(14)14) K. Nishiyama, A. Ochiai, D. Tsubokawa, K. Ishihara, Y. Yamamoto & T. Mukai: PLoS ONE, 8, e83703 (2013)..また近年,硫酸化ムチンがLactobacillusやBifidobacterium属の受容体として注目され,硫酸化ムチンへ付着性を示す菌株が次々と見いだされている(28, 29)28) I. N. Huang, T. Okawara, M. Watanabe, Y. Kawai, H. Kitazawa, S. Ohnuma, C. Shibata, A. Horii, K. Kimura, N. Taketomo et al.: J. Appl. Microbiol., 114, 854 (2013).29) K. Nishiyama, A. Kawanabe, H. Miyauchi, F. Abe, D. Tsubokawa, K. Ishihara, Y. Yamamoto & T. Mukai: Biosci. Biotechnol. Biochem., 78, 1444 (2014)..これらのいくつかの菌株ではEF-Tuの細胞表層での局在が確認できることから,EF-Tuが幅広い菌種あるいは菌株でアドヘシンとして機能すると考えられている(14, 29)14) K. Nishiyama, A. Ochiai, D. Tsubokawa, K. Ishihara, Y. Yamamoto & T. Mukai: PLoS ONE, 8, e83703 (2013).29) K. Nishiyama, A. Kawanabe, H. Miyauchi, F. Abe, D. Tsubokawa, K. Ishihara, Y. Yamamoto & T. Mukai: Biosci. Biotechnol. Biochem., 78, 1444 (2014)..
冒頭でも述べたように,ECMタンパク質に対するアドヘシンに関する報告は,in vitroの実験系で得られたものがほとんどであり,これらが粘液で覆われた腸上皮において乳酸菌の定着性にどの程度寄与するか不明な点が多い.そこで,最近,筆者らが取り組んできたECMタンパク質に対するアドヘシンの解析例を中心として,生体内における役割とその応用例について紹介したい.
Aggregation-promoting factor(APF)は,その名のとおり細胞凝集性にかかわるタンパク質としてLactobacillus gasseri 4B2株で同定され,NあるいはC末端にLysM配列と高い相同性を示す配列が保存されている(30)30) I. Jankovic, M. Ventura, V. Meylan, M. Rouvet, M. Elli & R. Zink: J. Bacteriol., 185, 3288 (2003)..Lb. gasseri 4B2由来APFの相同タンパク質は,Lactobacillus acidophilusの近縁種あるいはLb. johnsoniiで見いだされ,菌種によりAPF1とAPF2の2つのホモログが認められる.APFは,細胞凝集や形態維持にかかわることから(30)30) I. Jankovic, M. Ventura, V. Meylan, M. Rouvet, M. Elli & R. Zink: J. Bacteriol., 185, 3288 (2003).,長らく間接的なアドヘシンであると考えられていた.しかし近年,Lb. acidophilus NCFM株やLb. plantarum NCIMB 8826株のapf遺伝子変異株が作出され,ムチンや種々のECMタンパク質に対する付着性への関与が示された(31, 32)31) Y. J. Goh & T. R. Klaenhammer: Appl. Environ. Microbiol., 76, 5005 (2010).32) A. Hevia, N. Martínez, V. Ladero, M. A. Alvarez, A. Margolles & B. Sánchez: Appl. Environ. Microbiol., 79, 6059 (2013)..また,ごく最近の筆者らの研究により,Lb. gasseri SBT2055(LG2055)のAPF1は凝集性と付着性にかかわるが,APF2はいずれの表現型にも寄与せず,APF1とAPF2では機能が異なることが示された.さらに,組換えタンパク質を用いた速度論的解析から,APF1は,ECMタンパク質の一つであるフィブロネクチンに対するアドヘシンであることが見いだされた(33)33) K. Nishiyama, A. Nakazato, S. Ueno, Y. Seto, T. Kakuda, S. Takai, Y. Yamamoto & T. Mukai: Mol. Microbiol., 98, 712 (2015)..
さらに筆者らは,LG2055のAPF1を介したフィブロネクチン結合性を利用することで病原細菌のin vivoでの競合阻害を試みている(33, 34)33) K. Nishiyama, A. Nakazato, S. Ueno, Y. Seto, T. Kakuda, S. Takai, Y. Yamamoto & T. Mukai: Mol. Microbiol., 98, 712 (2015).34) K. Nishiyama, Y. Seto, K. Yoshioka, T. Kakuda, S. Takai, Y. Yamamoto & T. Mukai: PLoS ONE, 9, e108827 (2014)..すなわち,病原細菌の受容体に付着する乳酸菌を作用させることで,病原細菌の感染を競合的に阻害することができると考えた.このような仮説に基づき,腸内での定着の際にフィブロネクチンとの相互作用が知られているCampylobacter jejuniの感染阻害を検討した.LG2055 apf欠損株を用いて白色レグホーンの新生雛とヒト腸上皮細胞における感染阻害を試みたところ,LG2055野生株およびapf 2欠損株でC. jejuniの感染抑制効果が認められたが,apf1欠損株ではその抑制効果は顕著に低下した.また,組換えタンパク質を用いた同様の試験においても,APF1タンパク質でのみ抑制効果が認められた.次に,薬剤耐性マーカーを指標に新生雛におけるLG2055の定着を評価したところ,apf1変異株でのみ顕著に低下した.これらの結果は,フィブロネクチンに対するアドヘシンAPF1がLG2055の生体内での定着に寄与することを強く示唆するとともに,乳酸菌の付着特性を利用した病原細菌の競合排除の有用性を証明した試みといえる(33)33) K. Nishiyama, A. Nakazato, S. Ueno, Y. Seto, T. Kakuda, S. Takai, Y. Yamamoto & T. Mukai: Mol. Microbiol., 98, 712 (2015)..C. jejuniとの付着部位の競合現象から推測されるように,LG2055の腸管定着の際にフィブロネクチンが受容体として寄与すると考えられるが,その一方で,生体内で非運動性細菌である乳酸菌とECMタンパク質との実際の相互作用は十分に説明できない点もあり,組織学的な手法を用いて乳酸菌の局在性を評価するような視覚的な解析法の重要性がさらに増していくだろう.
本解説では,アドヘシンの細胞外への提示機構をはじめ,細胞表層でのそれぞれの機能に関して述べた.ここ数年間で乳酸菌の付着性に関する研究が飛躍的に進み,さまざまなアドヘシンを細胞表層に保持することで,宿主受容体を巧妙かつ厳密に認識し付着する機構をもつことが分子レベルで明らかになってきた.これにより,刻々と変化する腸内環境でほかの微生物と競合し生存するための乳酸菌の生存戦略を垣間見ることができたと思われる.一方で,ムーンライトタンパク質のように,その細胞表層提示機構やアドヘシンとしての機構解明が不十分なものも多く,本研究分野の残された課題の一つであるといえよう.乳酸菌は,プロバイオティクスとしてさまざまな分野で活用が期待されており,現在も新たな機能性をもつ菌株の選抜が精力的に行われている.乳酸菌の付着特性を見いだし積極的に研究することで,病原細菌の競合排除など科学的根拠に基づいたさらなる利用価値を引き出すことができると期待される.
Acknowledgments
本稿で紹介しました筆者らによる研究内容の相当部分は,北里大学獣医学部細胞分子機能学研究室で行われたものです.山本裕司博士をはじめとしたスタッフの皆様および共同研究者の皆様に深く感謝いたします.また,紹介しました筆者らによる研究の一部は,JSPS 24580397, 15K07709の助成を受けたものです.
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22) K. Nishiyama, S. Ueno, M. Sugiyama, Y. Yamamoto & T. Mukai: Anim. Sci. J., doi: 10.1111/asj.12491. (2015).
31) Y. J. Goh & T. R. Klaenhammer: Appl. Environ. Microbiol., 76, 5005 (2010).
33) K. Nishiyama, A. Nakazato, S. Ueno, Y. Seto, T. Kakuda, S. Takai, Y. Yamamoto & T. Mukai: Mol. Microbiol., 98, 712 (2015).