Kagaku to Seibutsu 54(7): 478-483 (2016)
解説
有機電解法の進展とペプチドおよび核酸誘導体の化学合成への応用
Development of Organic Electrolysis and Its Application for Chemical Synthesis of Peptides and Nucleic Acids
Published: 2016-06-20
有機電解法とは電極によって有機化合物の電子移動を引き起こし,生成した活性種の反応を制御する化学の一手法である.電極を用いた電子移動は,基質となる有機化合物から電子を奪う(陽極酸化),あるいは電子を与える(陰極還元)ものであり,酸化剤や還元剤を使わずに化学反応を開始することができる方法である(1)1) O. Hammerich & B. Speiser: “Organic Electrochemistry,” Fifth Edition: Revised and Expanded, September 25, 2015 by CRC Press, ISBN 9781420084016-CAT# 84011.そのため,「試薬は電子」と表現されることもあり,環境負荷の少ない一つの方法として期待されている.また,電極表面で電子移動を引き起こすために通常は極性の高い溶媒中で解離する支持電解質を溶解させるが,これは電極表面に電気二重層を形成するために働く.電極に一定の電位を印加することによって形成された電気二重層内に有機化合物が入ると分子と電極の間で電子移動が誘起され,この過程を経て得られた活性種の化学反応が電極表面近傍または電極表面から離れたバルク溶液中で進行する.このように基質となる有機化合物の活性化過程が反応容器内の特定の場所に限定されていることは,均一系とは異なるさまざまな反応システムの構築が可能となることを意味する.また電極は外部から電圧を印加するため,外部からの機械的制御によって電子移動の開始,停止をコントロールできることも一つの特徴である.本稿では,筆者がこれまでに実施した有機電解法の特徴を活かした化学合成反応を中心に紹介し,その非天然型のペプチドおよび核酸誘導体の化学合成への応用について解説する.
© 2016 Japan Society for Bioscience, Biotechnology, and Agrochemistry
© 2016 公益社団法人日本農芸化学会
筆者らは有機電解法の特徴を活かした化学合成への応用に関する研究を進めている.電解法の一つの特徴は,電極間にかかる電位を外部から制御できることであり,反応溶液に添加した酸化剤の作用をいわば一時的に停止,再開することや,酸化力を逐次高めることを可能にするものである.たとえば一定の電極間電位を付与することによって第一段階の反応生成物を選択的に得た後に,電極間の電位を高めることによって,二段階目の生成物を段階的に得ることが可能となる(2, 3)2) J. Yoshida, S. Suga, K. Fuke & M. Watanabe: Chem. Lett., 28, 251 (1999).3) K. Chiba, R. Uchiyama, S. Kim, Y. Kitano & M. Tada: Org. Lett., 3, 1245 (2001)..一方,通常の電解反応では陽極または陰極の一方だけを化学反応の開始に使い,対極は溶媒や共存物の酸化や還元だけに使う場合が多いが,たとえば陽極で活性なカチオン種を生成すると同時に陰極でアニオン種を発生させ,バルク相で両者が反応するシステムを構築することも可能である(4)4) S. Kim, Y. Kitano, M. Tada & K. Chiba: J. Electroanal. Chem., 507, 152 (2001)..図1図1■陽極酸化,陰極還元の双方を利用し,両極で発生した活性種を反応させるペアードエレクトリシスによるニトロアルキル化反応のシステムでは,陽極でスルフィドの電解酸化とそれに引き続く脱硫反応によって生成するベンジルカチオンと,溶媒であるニトロアルカンの陰極還元で生成したニトロアルキルアニオンが反応する.これによって,ベンジル位にニトロアルキル基が非常に効率良く(高い電流効率で)導入できる.
また,エノールエーテルの陽極電子移動で生成した炭素ラジカルカチオンは,溶液内に共存させた多様なアルケンと分子間[2+2]付加環化反応を起こすことも見いだした(5~11)5) K. Chiba, T. Miura, S. Kim, Y. Kitano & M. Tada: J. Am. Chem. Soc., 123, 11314 (2001).6) T. Miura, S. Kim, Y. Kitano, M. Tada & K. Chiba: Angew. Chem. Int. Ed., 5, 1461 (2006).7) M. Arata, T. Miura & K. Chiba: Org. Lett., 9, 4347 (2007).8) Y. Okada, R. Akaba & K. Chiba: Org. Lett., 11, 1033 (2009).9) Y. Okada, R. Akaba & K. Chiba: Tetrahedron Lett., 50, 5413 (2009).11) Y. Okada, Y. Yamaguchi, Y. Okada & K. Yohei: J. Org. Chem., 78, 2626 (2013)..この反応は電解質溶液である過塩素酸リチウム/ニトロメタン溶液において非常に効率良く進行するものであり,電極電子移動と電解質溶液の組み合わせによって実現した化学反応である.この反応は,シクロヘキサンと過塩素酸リチウム/ニトロメタン溶液で形成した二相溶液系(12, 13)12) K. Chiba & M. Tada: J. Chem. Soc., Chem. Commun., 2485 (1994).13) K. Chiba, J. Sonoyama & M. Tada: J. Chem. Soc., Chem. Commun., 1381 (1995).で実施すると,電極電子移動および[2+2]付加環化反応は下層である過塩素酸リチウム/ニトロメタン溶液で進行し,生成物が上層のシクロヘキサン相に溶解するため,原料の投入および生成物の回収を連続的に実施することができる.電極反応では先に述べたように,酸化剤,還元剤を添加する必要がないため,試薬の残渣が蓄積されることのないクリーンな反応システムが構築できる.また,シクロヘキサンは,メタノールやニトロメタン,アセトニトリルなどの極性溶媒と混合,加熱によって部分的に相溶する現象を利用し,フロー電解合成装置に応用することもできる(14, 15)14) Y. Okada, T. Yoshioka, M. Koike & K. Chiba: Tetrahedron Lett., 52, 4690 (2011).15) Y. Okada, Y. Yamaguchi & K. Chiba: Eur. J. Org. Chem., 2, 243 (2012)..この方法では,原料のシクロヘキサン溶液を,あらかじめ加温した電解質溶液を含む電解セルに連続的に導入し,電解反応が完了した生成物は再びシクロヘキサン溶液としてセル外から回収するものである.
次に,有機電解法により生成したフェノキソニウムカチオンの[3+2]付加環化反応を利用した,蛍光性核酸プローブ合成について述べる.図2図2■フェノール誘導体の電解酸化によって生成したフェノキソニウムカチオンを経由するジヒドロベンゾフラン誘導体合成に示すように,p-メトキシフェノールをイソプレン存在下,電解質溶液中で電解酸化すると,ジヒドロベンゾフラン誘導体が得られる(16, 17)16) K. Chiba, Y. Kono, S. Kim, K. Nishimoto, Y. Kitano & M. Tada: Chem. Commun. (Camb.), 1766 (2001).17) S. Kim, S. Noda, K. Hayashi & K. Chiba: Org. Lett., 10, 1827 (2008)..これはp-メトキシフェノールが電解酸化によって相応するフェノキソニウムカチオンと2-メチル-2-ブテンとの間で分子間付加環化反応が進行するものと考えられる.この方法では,アセチル基など電子求引基を有するフェノール誘導体でも進行するが,この場合には生成物は強い蛍光を発する(18)18) S. Kim, K. Hirose, J. Uematsu, Y. Mikami & K. Chiba: Chem. Eur. J., 18, 6284 (2012)..
そこで筆者らは,求核種として作用するアルケンをシリカゲル表面に共有結合で固定した状態で,電解質溶液中に分散させ,電極表面で生成した活性種であるフェノキソニウムカチオンのトラップを試みた.その結果電解反応後には,シリカゲル表面が紫外線照射によって蛍光を発する.このことはシリカゲル表面において,電極表面で生成したフェノキソニウムカチオンがシリカゲル表面に到達し,相応する蛍光性ジヒドロベンゾフランが生成したことを示すものである.電解法では電解質溶液に溶解した低分子化合物が電極表面の電気二重層内においてのみ電極電子移動が進行する.一方,シリカゲルのような巨大な粒子は電極表面とは空間的に隔絶されており,シリカゲル表面に結合させた物質と化学反応が進行した場合は活性中間体が電極表面からシリカゲル表面まで到達したことになる(図3図3■シリカゲル表面に固定したアルケンと電解反応で生成したフェノキソニウムカチオンが反応して,シリカゲル表面に蛍光性ジヒドロベンゾフランが生成する).
次に,この反応を蛍光性核酸プローブの合成に応用した結果を示す.近年,化学合成法により多様な非天然型の核酸誘導体の合成が進められている(19~22)19) L. P. Jordheim, D. Durantel, F. Zoulim & C. Dumontet: Nat. Rev. Drug Discov., 12, 447 (2013).20) T. Cihlar & A. S. Ray: Antiviral Res., 85, 39 (2010).21) A. V. Pinheiro, D. Han, W. M. Shin & H. Yan: Nat. Nanotechnol., 6, 763 (2011).22) E. Stuz: Chem. Eur. J., 18, 4456 (2012)..構造変換の対象は(デオキシ)リボース部分,リン酸ジエステル部分および核酸塩基部分と多岐に渡り,立体構造の固定化,新たな官能基の導入,可視化など,その目的も非常に広い.今回筆者らが目指したものは,天然の核酸塩基とほぼ同等のサイズを有する蛍光基を核酸塩基のアナログとして導入することである.有機電解法で得ることができるジヒドロベンゾフランは分子サイズが核酸塩基と同等のサイズでありながら,量子収率が高いため,核酸塩基のアナログとしてリボース骨格への導入を試みた.はじめに,保護基を導入したリボース誘導体にメタリルトリメチルシラン(methallyltrimethylsilane)を立体選択的に導入し,得られたリボースのアルケン置換基により,電解酸化で生成したフェノール由来のフェノキソニウムカチオンを捕捉することを試みた.その結果,アセチル基,アルデヒド基,エステル基をそれぞれ有するジヒドロベンゾフランをリボースの置換基として導入することに成功し,期待どおり強い蛍光を発した.また,電子求引基によって色調も大きく異なるものを得ることができた (23)23) Y. Okada, K. Shimada, Y. Kitano & K. Chiba: Eur. J. Org. Chem., 7, 1371 (2014).(図4図4■電解酸化をキーステップとする蛍光性核酸プローブの合成).
有機電解法による優れた合成反応の一つとして,アミド,あるいはカルバメートからのイミニウムカチオンの生成とその化学反応が挙げられる.この反応は,アミド,あるいはカルバメートの窒素原子に隣接する炭素原子を電解法によって直接酸化することによって相応するイミニウムカチオンが生成するものである.化学的に不活性な炭素を電解によって活性化できる点,非常に特徴ある化学プロセスに展開できる可能性があるものであるが,イミニウムカチオンの生成には約1.9 V(vs. Ag/AgCl)の電極電位を印加する必要があるため,同時にアルケン,芳香環,チオール,アミンなど,多くの官能基も分解されるという大きな問題があった.このような課題に対し,-78°C付近の低温で電解酸化するとこの不安定なカチオンがプールできることが見いだされ,その応用法が大きく広がった(24, 25)24) J. Yoshida, S. Suga, S. Suzuki, N. Kinomura, A. Yamamoto & K. Fujiwara: J. Am. Chem. Soc., 121, 9546 (1999).25) S. Suga, M. Okajima & J. Yoshida: Tetrahedron Lett., 42, 2173 (2001)..すなわち,1.9 V付近の高電位でイミニウムカチオンを生成した状態で保持し,電解処理を停止した後,直ちに電解酸化で分解しやすい求核剤を反応容器に溶解することで多様な誘導体に導くことが可能になった.また,筆者らが進める過塩素酸リチウム/ニトロメタン溶液中で電解しても,0°Cから室温付近でも比較的長時間,イミニウムカチオン等価体として存在することを見いだした(26, 27)26) S. Kim, K. Hayashi, Y. Kitano, M. Tada & K. Chiba: Org. Lett., 4, 3735 (2002).27) S. Kim, T. Shoji, Y. Kitano & K. Chiba: Chem. Commun. (Camb.), 49, 6525 (2013)..この反応系では,プロリンの誘導体も同様にイミニウムカチオンを生成するため,電解酸化でまずプロリン誘導体のイミニウムカチオンを生成し,その後電解を停止したのちに,さまざまな求核剤を投入することによってプロリンのN-α′位に置換基を導入した誘導体化を簡便な操作で実施することが可能になった(図5図5■電解酸化による,修飾プロリンの合成).
そこで,この誘導体化反応をペプチドの化学修飾に応用する方法について種々検討を開始した.プロリン残基はペプチド,タンパク質分子のヘアピンカーブ部分を構成する主要なアミノ酸残基となる場合が多く,またタンパク質分子内のシス–トランス異性化にも深く関与している.そこで筆者らは,この立体制御や活性発現に重要な役割を果たすプロリン残基のN-α′位をあらかじめ温和な条件で離脱する遊離基で修飾したペプチドの化学合成法の確立を目指した.すなわち,ここで鍵物質となるものは図6図6■ペプチド分子内にプロリン残基のイミニウムカチオン等価体を導入するための戦略に示すようなペプチドであると考えた.このペプチド誘導体は注目するプロリンのN-α′位に電子豊富な置換基(遊離基)が導入されていることが想定されるため,温和な酸化処理などで相応するイミニウムカチオンを生成することができる,最終段階でのペプチドへのプローブの導入や立体制御などが可能になるものであると期待される.ところがこのようなペプチド誘導体の合成は極めて困難であった.その理由はすでに述べたとおり,プロリン誘導体の電解酸化は位置選択的にイミニウムカチオンを形成できる一方で,電解酸化には高電位を必要とするため,多様な側鎖官能基を有するペプチド鎖はあらかじめプロリンの誘導体化が完了したものについて実施しなければならない.そのためにはプロリンの窒素原子には置換基(保護基)がない状態になっている必要があるが,N-α′位に硫黄,酸素,アミンなど,容易にプロリン骨格から離脱しやすいヘテロ原子を導入した場合は,電解酸化後のプロリン窒素の脱保護時に脱離してしまう.また,ひとたび開裂しにくい炭素求核剤を導入すると,最終的にイミニウムカチオンを再度発生させることが不可能になってしまう.このような課題を突破するため,遊離基となりうるさまざまな求核剤を新たに探索した結果,トリメトキシフェニル(TMP)基が優れた作用を示すことがわかった.すなわち,窒素原子をあらかじめBoc基で保護したプロリン誘導体の電解酸化によって蓄積されたイミニウムカチオンに対し,トリメトキシベンゼンを添加すると,N-α′位にTMPが導入された(図7図7■トリメトキシフェニル(TMP)基を電解酸化法によりプロリン残基のN-α′位に導入することが可能).その後,酸処理によってBoc基を外してもTMP基は脱離せず,プロリンのN末端方向から任意のペプチドを結合させることが可能になった(28)28) T. Shoji, S. Kim, K. Yamamoto, T. Kawai, Y. Okada & K. Chiba: Org. Lett., 16, 6404 (2014).(図8図8■プロリン残基のN末端方向にペプチド鎖を伸ばしたペプチドモデル化合物でも,N-α′位のポスト修飾が可能になった).
また,このTMP基は電解酸化条件では酸化的にプロリン骨格から遊離し,反応系内に共存させたアリルトリメチルシラン(AllylTMS)との反応によってアリル基が導入された生成物が得られた.このときの酸化電位は,1.2 V(vs. Ag/AgCl)程度と低く,ほとんどの官能基が分解しないレベルに抑制することができた.
この方法を応用して,プロリンのC末端,N末端にそれぞれ電解酸化により分解しやすいフェニルアラニンを導入したモデルペプチドを合成し,その後の電解酸化によってTMP基を導入することができた.プロリンの電解酸化を経由したTMP基置換プロリンは,C末端,N末端方向に自由にペプチド結合を伸長することが可能であり,温和な電解酸化条件で反応性の高いイミニウムカチオンに変換できるため,ペプチドのプロリン残基ポスト修飾の鍵物質となることが期待できる.
核酸のフラノース環の酸素原子を窒素原子に置換したアザヌクレオシド,アザヌクレオチドは,人工核酸の開発における非常に重要な化合物群として位置づけられている(29, 30)29) G. Romeo, U. Chiacchio, A. Corsaro & P. Merino: Chem. Rev., 110, 3337 (2010).30) D. Hernández & A. Boto: Eur. J. Org. Chem., 2201 (2014)..アザヌクレオシドの特徴は,窒素原子に置換することによって,フラノース環の酸素原子の位置に窒素原子を介して置換基を自由に導入することにより構造の多様性が生み出され,核酸としての新たな高機能化戦略が立てられることである.しかし分子全体の絶対立体配置も含め,核酸のフラノース環酸素原子部分を窒素原子に置換したアザヌクレオシドを合成するためには,数多くの合成ステップが必要である.筆者らはこの点に注目し,これまでに開発したプロリンの電解反応を応用することによってアザヌクレオシドを簡便に合成する方法について検討することにした.
キーステップと考えたのは図9図9■プロリノール誘導体の電解酸化,置換反応も位置選択的に進行するに示すとおり,これまでプロリン誘導体で実施した電解反応をプロリノール誘導体で実現できるかどうか,さらにはここで得られると期待される不安定なイミニウムカチオンに対し,核酸塩基を導入できるかどうかという点である.そこでプロリノール誘導体について,過塩素酸リチウム/ニトロメタン電解質溶液内で電解反応および電解停止後の求核剤添加の二段階で実施したところ,期待通りアリル基やフェニルスルファニル基を位置選択的に導入することができた.
次に,あらかじめ3′位に酸素官能基を導入したプロリノール誘導体に対し,同様に電解を行い,引き続き同一容器内で核酸塩基を添加したところ,アデニン,グアニンおよびシトシンが位置選択的に導入され,相当するアザヌクレオシド誘導体を簡便に得ることに成功した.チミンについては同一の条件では導入できなかったが,生成したイミニウムカチオンに対し水を添加し,一度水酸基を1′位に導入した後に置換反応によって同様にチミジン誘導体に相当するアザヌクレオシドを合成することができた.このように,有機電解法によってアザヌクレオシド誘導体を簡便に得ることができたため,人工核酸の構造および機能の多様化がさらに広がることが期待される(31)31) S. Kim, T. Shoji, Y. Kitano & K. Chiba: Chem. Commun. (Camb.), 49, 6525 (2013).(図10図10■プロリノール誘導体の電解酸化を基軸とする,アザヌクレオシドの合成).
有機電解法は簡便な装置と操作で化学反応を行うことが可能であり,通常の化学法では困難な反応も数多く実現できる.しかし,有機合成化学者がこの方法をほかの方法と同列で試すには若干の困難さを伴うものと思われる.これは通常新たな有機合成反応を探索する場合,試薬,触媒,溶媒などの選択肢の中でさまざまな反応を実施するものであるが,電解反応は簡単な装置とはいえ,反応溶液の中に電極を挿入し電位を付与するという,通常の選択肢にはない操作が必要である.このような課題点があることは,実際に有機電解法を合成反応の一つとして導入してみるとしばしば感じるものである.そしてそれだからこそこの方法の特性をさらに深く探求し,この方法でなければできない化学反応を多く見いだし,原理を解明することが重要ではないかと感じる.有機電解法による特徴ある反応をベースに合成反応について研究すると,有機反応のメカニズムや合成戦略,あるいは新たな機能性物質の探索に対し,また新たな道が拓かれるのではないかと考えている.
Acknowledgments
本解説執筆にあたり研究にご協力,ご助言いただいた先生方,多くの学生の皆様に心より感謝いたします.
Reference
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