Kagaku to Seibutsu 54(7): 500-507 (2016)
セミナー室
クルクミンの吸収代謝と生理作用発現の関係性
Published: 2016-06-20
© 2016 Japan Society for Bioscience, Biotechnology, and Agrochemistry
© 2016 公益社団法人日本農芸化学会
食品ポリフェノールによる生活習慣病予防の試みは広く興味をもたれており,現在もなお興味深い発見が続いている.本稿では,数あるポリフェノールの中で,近年多くの注目を集めているクルクミンについて,現在まで明らかになってきた発見や今後の研究の焦点についての概要を,本研究室で得られた知見も交えて紹介したい.本稿の執筆に際し,できるだけわかりやすい表現で文章を記載するように心がけた.周辺の研究者のみならず,他分野の技術者や新しく研究を始めた学生の皆さんにも,本稿を通して食品成分の吸収代謝やその生理作用発現の関係性について興味をもっていただけるきっかけとなれば幸いである.
クルクミン(IUPAC name :(1E,6E)-1,7-bis-(4-hydroxy-3-methoxyphenyl)-1,6-heptadien-3,5-dione; CAS number: 458-37-7)は,主にウコン(Curcuma longa)に高含有され,カルダモン,クローブ,クミン,胡椒,コリアンダー,パプリカ,メースなどにも含まれている脂溶性のポリフェノールである(1)1) T. Esatbeyoglu, P. Huebbe, I. M. A. Ernst, D. Chin, A. E. Wagner & G. Rimbach: Angew. Chem. Int. Ed., 51, 5308 (2012)..クルクミンの名称の由来は,アラビア語で香辛料という意味をもつ単語「Kourkoum」からという説が有力である(1)1) T. Esatbeyoglu, P. Huebbe, I. M. A. Ernst, D. Chin, A. E. Wagner & G. Rimbach: Angew. Chem. Int. Ed., 51, 5308 (2012)..クルクミン研究の歴史は古く,1815年にVogelらにより初めてクルクミンがウコンから抽出され(2)2) E. Vogel & S. Pelletier: J. Pharm., 2, 50 (1815).,その分子式(C21H20O6)と化学構造(図1図1■クルクミン(ケト型)とその類縁体(ジヒドロクルクミン,テトラヒドロクルクミン)の化学構造(4))はMiłobȩdzkaらによって1910年に初めて報告された(3)3) J. Miłobȩdzka, S. von Kostanecki & V. Lampe: Ber. Dtsch. Chem. Ges., 43, 2163 (1910)..クルクミンは化学構造中の共役二重結合の存在により黄色を呈すことが特徴的で,共役二重結合の数が異なるクルクミンの類縁体(ジヒドロクルクミンやテトラヒドロクルクミン)は異なる特異的吸収波長を呈する(4)4) A. Hassaninasab, Y. Hashimoto, K. Tomita-Yokotani & M. Kobayashi: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 108, 6615 (2011).(図1図1■クルクミン(ケト型)とその類縁体(ジヒドロクルクミン,テトラヒドロクルクミン)の化学構造(4)).つづいて,クルクミン研究への関心についてのデータを紹介したい.図2図2■Anthocyanin, catechin, curcumin, polyphenolの各々をPub Medで検索キーワードとしたときの,研究報告数の年間推移は,米国国立衛生研究所(National Institute of Health; NIH)が提供する文献データベースPub Med(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed)で1950~2015年の間での「クルクミン(curcumin)」,「ポリフェノール(polyphenol)」およびほかの代表的なポリフェノールである「アントシアニン(anthocyanin)」,「カテキン(catechin)」の各々を検索キーワードとしたときの研究報告数の年間推移である.1950~1990年にかけて,クルクミンはほかのポリフェノールと比較してその研究報告の合計数は特に少ない(クルクミン:合計73報,ポリフェノール:合計486報,アントシアニン:合計592報,カテキン:合計569報)(図2, A図2■Anthocyanin, catechin, curcumin, polyphenolの各々をPub Medで検索キーワードとしたときの,研究報告数の年間推移).一方で,1990年以降大きな年間研究報告数の増加がクルクミンに見られ,現在も増加し続けている(2015年の報告数はクルクミン:1,234報,ポリフェノール:2,042報,アントシアニン:838報,カテキン:535報)(図2, B図2■Anthocyanin, catechin, curcumin, polyphenolの各々をPub Medで検索キーワードとしたときの,研究報告数の年間推移).このことから,クルクミンの研究はポリフェノール研究全体から見ても世界的に盛んに行われていると推測される.その理由を次に紹介していきたい.
クルクミンが現在もなお注目を集めている大きな理由の一つは,in vitro試験や動物試験において抗アミロイドβ凝集抑制,抗酸化や抗がん,脂質代謝改善などの多くの有用な生理活性を示す可能性が報告されているためであろう(5)5) B. B. Aggarwal & K. B. Harikumar: Int. J. Biochem. Cell Biol., 41, 40 (2009)..このことから,クルクミンをさまざまな疾病の予防や治療に役立てる試みが世界中で進められている(図3図3■クルクミンによる予防・治療が試みられている疾病).それらの試みについてすべてを紹介するのは困難なので,今回は特に本稿のテーマ「生活習慣病予防」に焦点を置いた生理作用について,概要を紹介していきたい.メタボリックシンドロームは高脂血症,高血圧,高血糖,肥満などと密接に関与し,生体内で慢性的な炎症を引き起こす(6)6) R. H. Eckel, S. M. Grundy & P. Z. Zimmet: Lancet, 365, 1415 (2005)..この状態は,炎症性腸疾患,がん,神経疾患,糖尿病,動脈硬化といった重篤な疾病発症のリスクファクター(疾病の発症因子)となることから,ヒトが健康な生活を送るうえでの深刻な問題となっている.メタボリックシンドロームを引き起こすリスクファクターの一つに,日々の生活習慣の悪化を原因とする生体内の白色脂肪細胞の代謝異常による生体内の恒常性バランスの崩壊が挙げられ(7)7) N. Klöting & M. Blüher: Rev. Endocr. Metab. Disord., 15, 277 (2014).,この問題を改善できる食品成分が必要とされている.その中で,クルクミンは白色脂肪細胞のMonocyte chemoattractant protein-1(MCP-1)やPlasminogen activator inhibitor-1(PAI-1),Tumor necrosis factor alpha(TNF-α)に代表される炎症性アディポカイン(脂肪細胞から分泌される,生体内の恒常性のバランスを崩す原因となる物質)の発現を抑制し,アディポネクチン(抗炎症性アディポカインとも呼ばれ,生体内の恒常性を調節する)の発現を増加させ,マクロファージ(生体内で不要な物質を取り込み,排除する役割をもつ)の血中脂質濃度調節作用を促進するといった,生体内の恒常性を調節できる効果が報告され,これらの作用により生活習慣病の発症予防への期待が高まっている(8, 9)8) P. G. Bradford: Biofactors, 39, 78 (2013).9) J. M. Zingg, S. T. Hasan, D. Cowan, R. Ricciarelli, A. Azzi & M. Meydani: J. Cell. Biochem., 113, 833 (2012)..実際に,クルクミンの摂取による生活習慣病の予防に関する臨床試験が世界中で進められ,2015年までに計108件が進行中または完了している(10)10) Y. He, Y. Yue, X. Zheng, K. Zhang, S. Chen & Z. Du: Molecules, 20, 9183 (2015)..しかしながら,動物実験とヒト試験のいずれにおいても,効果があったという報告,なかったという報告の両方がある.すなわち,生活習慣病の予防という観点から見ると,in vitro試験で認められる有用な生理活性が,in vivo試験になるとクルクミンの有用性を確定付けるほどの効果を証明できるまでには至っていないのが現状であろう.その理由として,筆者らはクルクミンの吸収や代謝のかかわりが重要と考えており,吸収と代謝の各々について下記に記していきたい.
一般に,経口摂取されたクルクミンの多くは,小腸に到達して糞中に排出される.一部のクルクミンは,小腸において第二相反応(フェーズ2代謝)と呼ばれるUDP-glucuronosyltransferaseやSulfotransferaseによりグルクロン酸や硫酸などとの抱合化反応を受ける(11, 12)11) A. Asai & T. Miyazawa: Life Sci., 67, 2785 (2000).12) P. Anand, A. B. Kunnumakkara, R. A. Newman & B. B. Aggarwal: Mol. Pharm., 4, 807 (2007)..抱合化されたクルクミン,および抱合を免れた天然型(遊離型)のクルクミンは,小腸から吸収され,門脈を介して肝臓に運ばれ,さらに第一相反応(フェーズ1代謝)による水酸化反応や,再び第二相反応(フェーズ2代謝)による抱合化反応を受ける.その後,血流に乗って生体内を循環し,種々の臓器まで到達すると考えられている.このように,クルクミンの小腸からの吸収量は低値であるうえに,小腸や肝臓で代謝を受けるため,天然型(遊離型)クルクミンの血流への最終的な移行量は微量となる.たとえば,Schiborrらは50 mg/kg分のクルクミンをマウスに経口投与して,投与30, 60, 120分後の血漿,肝臓,脳のクルクミン濃度を液体クロマトグラフ–紫外可視分光検出器(HPLC-UV)で測定したが,これらの臓器すべてでクルクミンの濃度は検出限界以下であったと報告している(13)13) C. Schiborr, G. P. Eckert, G. Rimbach & J. Frank: Anal. Bioanal. Chem., 397, 1917 (2010)..そして,10倍の量となる500 mg/kg分のクルクミンをラットに経口投与し,投与3時間後の血漿中クルクミン濃度を液体クロマトグラフ–タンデム型質量分析計(HPLC-MS/MS)で測定し,29 nMであったとSharmaらは報告している(14)14) R. A. Sharma, C. R. Ireson, R. D. Verschoyle, K. A. Hill, M. L. Williams, C. Leuratti, M. M. Manson, L. J. Marnett, W. P. Steward & A. Gescher: Clin. Cancer Res., 7, 1452 (2001)..Shobaらはそのさらに4倍の投与量である2 g/kg分のクルクミンをヒトとラットに経口投与してHPLC-UVで測定し,投与60分後の血漿中クルクミン濃度はヒトでは約40 µM,ラットでは2 µMに達したと報告している(15)15) G. Shoba, D. Joy, T. Joseph, M. Majeed, R. Rajendran & P. S. Srinivas: Planta Med., 64, 353 (1998)..クルクミンの吸収についての現在までの報告は,そのクルクミン投与量や投与形態,分析機器の精度などによりさまざまであり既存の情報からその正確な吸収量を判断するのは困難ではあるが,げっ歯目とヒトのいずれにおいても,経口投与から血中へ移行するクルクミン(遊離型)が微量であることは明らかである.
さて,経口摂取したクルクミンの吸収量が微量であることを上述で紹介したが,次は代謝という視点からクルクミンを考察していきたい.クルクミンの吸収についての現在までの報告は,上述のようにその多くが「代謝されていないそのままの化学構造(遊離型)のクルクミン」についての検討である.クルクミンが肝臓や小腸などで代謝された後の代謝物(16~18)16) M. H. Pan, T. M. Huang & J. K. Lin: Drug Metab. Dispos., 27, 486 (1999).17) S. Prasad, A. K. Tyagi & B. B. Aggarwal: Cancer Res. Treat., 46, 2 (2014).18) O. N. Gordon, P. B. Luis, H. O. Sintim & C. Schneider: J. Biol. Chem., 290, 4817 (2015).(図4図4■経口投与クルクミンの予想代謝経路)についての検討や考察は,分析機器の感度の問題などから正確な分析を行うことが困難だったため,あまり行われてこなかった.よって,本研究室では「クルクミンが小腸や肝臓などで代謝された後の代謝物」が経口投与後にどの程度血中に存在し,各々の代謝物がどのような生理作用を示すのかに興味をもち,HPLC-MS/MSを使用した分析を行っている.たとえば,本研究室ではラットに100 mg/kgのクルクミンを経口投与すると,血漿中にどのようなクルクミン代謝物が多く存在するのかをHPLC-MS/MSで調べた(19)19) M. Shoji, K. Nakagawa, A. Watanabe, T. Tsuduki, T. Yamada, S. Kuwahara, F. Kimura & T. Miyazawa: Food Chem., 151, 126 (2014).(図5A図5■(A)ラット血漿のクルクミンとクルクミングルクロン酸抱合体のHPLC-MS/MSクロマトグラム.MRM条件:クルクミンm/z 367>134; クルクミングルクロン酸抱合体m/z 543>134(19).(B) HPLC-MS/MSで測定したクルクミン100 mg/kg経口投与1時間後のラット血漿中クルクミン,クルクミングルクロン酸抱合体濃度(19).(C)クルクミンとクルクミングルクロン酸抱合体によるHepG2細胞の増殖抑制作用とmRNA発現量の変化(19)).その結果,投与1時間後の血漿中の濃度はクルクミン(遊離型)が3.89 nM,グルクロン酸抱合体が59.8 nMであり,クルクミンと比較してその約15倍の濃度のクルクミングルクロン酸抱合体が存在することを報告した(図5B図5■(A)ラット血漿のクルクミンとクルクミングルクロン酸抱合体のHPLC-MS/MSクロマトグラム.MRM条件:クルクミンm/z 367>134; クルクミングルクロン酸抱合体m/z 543>134(19).(B) HPLC-MS/MSで測定したクルクミン100 mg/kg経口投与1時間後のラット血漿中クルクミン,クルクミングルクロン酸抱合体濃度(19).(C)クルクミンとクルクミングルクロン酸抱合体によるHepG2細胞の増殖抑制作用とmRNA発現量の変化(19)).こうした知見から,経口摂取されたクルクミンは遊離体ではなく,そのほとんどがグルクロン酸抱合体として血流に存在することは明白で,in vivo試験で今まで世界中で報告されてきた数多くのクルクミンの有用な生理活性は(5)5) B. B. Aggarwal & K. B. Harikumar: Int. J. Biochem. Cell Biol., 41, 40 (2009).,グルクロン酸抱合体によるものである可能性を考慮する必要があると示唆される.クルクミンの代謝物の重要性は,世界中で提唱されているが,クルクミングルクロン酸抱合体の生理活性については,その入手や正確な分析が困難であったためにほとんど検討されておらず,その解明が必要と考えられた.
経口摂取によって血中へ移行したクルクミンのほとんどがグルクロン酸抱合体であったことから,クルクミンとグルクロン酸抱合体の構造の違いが生理作用に与える影響について,筆者らは興味をもった.その検証の第一段として,ヒト肝臓がん細胞(HepG2)への抗がん作用の強さをクルクミンとクルクミングルクロン酸抱合体で比較した(19)19) M. Shoji, K. Nakagawa, A. Watanabe, T. Tsuduki, T. Yamada, S. Kuwahara, F. Kimura & T. Miyazawa: Food Chem., 151, 126 (2014)..その結果,WST-1試験によるHepG2増殖抑制作用の検討において,クルクミンが25 µMの濃度となるように培地に添加すると有意な増殖抑制作用を示したのに対し,クルクミングルクロン酸抱合体はこの濃度では増殖抑制作用を示さなかった(19)19) M. Shoji, K. Nakagawa, A. Watanabe, T. Tsuduki, T. Yamada, S. Kuwahara, F. Kimura & T. Miyazawa: Food Chem., 151, 126 (2014).(図5C図5■(A)ラット血漿のクルクミンとクルクミングルクロン酸抱合体のHPLC-MS/MSクロマトグラム.MRM条件:クルクミンm/z 367>134; クルクミングルクロン酸抱合体m/z 543>134(19).(B) HPLC-MS/MSで測定したクルクミン100 mg/kg経口投与1時間後のラット血漿中クルクミン,クルクミングルクロン酸抱合体濃度(19).(C)クルクミンとクルクミングルクロン酸抱合体によるHepG2細胞の増殖抑制作用とmRNA発現量の変化(19)).遺伝子(メッセンジャーRNA; mRNA)発現への影響においても同様の傾向が見られ,クルクミンではcatalase(CAT),acyl-CoA oxidase 1(ACOX1),amphiregulin(AREG),glutathione S-transferase theta 1(GSTT1),interleukin 8(IL-8)などといった脂質代謝,抗酸化,薬物代謝,炎症,アポトーシス,成長因子などにかかわるいくつかの遺伝子で有意な変動が認められた一方,クルクミングルクロン酸抱合体による影響はGSTT1にのみ微量の変動があったこと以外は,有意な変動は認められなかった(図5C図5■(A)ラット血漿のクルクミンとクルクミングルクロン酸抱合体のHPLC-MS/MSクロマトグラム.MRM条件:クルクミンm/z 367>134; クルクミングルクロン酸抱合体m/z 543>134(19).(B) HPLC-MS/MSで測定したクルクミン100 mg/kg経口投与1時間後のラット血漿中クルクミン,クルクミングルクロン酸抱合体濃度(19).(C)クルクミンとクルクミングルクロン酸抱合体によるHepG2細胞の増殖抑制作用とmRNA発現量の変化(19)).これらの生理活性の違いが起こる理由として,クルクミングルクロン酸抱合体は遊離体と極性が異なることから,HepG2細胞への移行量がクルクミンと比較して少ないことが考えられた.一方,Choudhuryらは合成したクルクミングルクロン酸抱合体とクルクミンの抗酸化能を,1,1-diphenyl-2-picrylhydrazyl radical scavenging assay(DPPHラジカル消去活性試験)とOxygen radical absorbance assay(ORAC法)を用いて比較している(20)20) A. K. Choudhury, S. Raja, S. Mahapatra, K. Nagabhushanam & M. Majeed: Antioxidants, 4, 750 (2015)..DPPHラジカル消去活性試験では,クルクミングルクロン酸抱合体はクルクミンの十分の一の抗酸化作用しか示さず(クルクミンが3.33 µg/mLの濃度で72.07%のラジカルの消去活性を示す一方,クルクミングルクロン酸抱合体は33.33 µg/mLの濃度で79.05%のラジカルの消去活性を示す),ORAC法でも同様に約半分(クルクミンが14981.34 µmol TE/gのORAC値を示す一方,クルクミングルクロン酸抱合体は6891.35 µmol TE/gのORAC値を示す)であると報告している.このような抗酸化作用の強度の違いが生理活性に与える影響についても,細胞への移行量と併せてその詳細を明らかにしていく必要があろう.
上述のクルクミングルクロン酸抱合体がHepG2増殖抑制作用を示さない理由は細胞取り込み量が低いことが原因で,ほかの細胞でも同様の現象が起こるのではないかと考えたこと,また,クルクミンはマクロファージの脂質取り込み量の増加(血中脂質濃度調節作用)を促進する効果をもつが,テトラヒドロクルクミンはもたないという報告にも興味をもち(9)9) J. M. Zingg, S. T. Hasan, D. Cowan, R. Ricciarelli, A. Azzi & M. Meydani: J. Cell. Biochem., 113, 833 (2012).,ヒト単球様細胞(THP-1)とヒトマクロファージ様細胞(THP-1由来)を使用して,クルクミン,テトラヒドロクルクミン,クルクミングルクロン酸抱合体のそれぞれの取り込みと代謝挙動の違いを比較した(21)21) K. Nakagawa, J. M. Zingg, S. H. Kim, M. J. Thomas, G. G. Dolnikowski, A. Azzi, T. Miyazawa & M. Meydani: Br. J. Nutr., 112, 8 (2014)..その結果,クルクミンを10 µMの濃度となるように培地に添加すると,10分後には単球とマクロファージへの早急な取り込みが見られ(単球:1,313;マクロファージ:2,073 pmol/2×106 cells),24時間のインキュベート後には単球とマクロファージのいずれにおいても細胞内に取り込まれたクルクミンの半分以上が代謝され(単球:401;マクロファージ:459 pmol/2×106 cells),ヘキサヒドロクルクミン硫酸抱合体が細胞から培地に排出された(単球:2,592;マクロファージ:4,839 counts/injection)(図6図6■ヒト単球様細胞(THP-1)とヒトマクロファージ様細胞(THP-1由来)におけるクルクミン,テトラヒドロクルクミン,クルクミングルクロン酸抱合体の予想吸収代謝経路).一方,テトラヒドロクルクミンはクルクミンより細胞内に取り込まれにくいが,その代謝物はクルクミンと同様,ヘキサヒドロクルクミン硫酸抱合体であった.クルクミングルクロン酸抱合体も細胞内への取り込みは微量で,ヘキサヒドロクルクミン硫酸抱合体への代謝は確認されなかった.クルクミングルクロン酸抱合体はヘキサヒドロクルクミンやクルクミンとは異なる代謝経路を辿ることから,これらの違いが生理活性に及ぼす影響を今後解明していく必要がある.一方,マクロファージの脂質取り込み量は,クルクミンを添加したときのみ上昇が確認され,ほかのクルクミン類縁体や代謝物(テトラヒドロクルクミン,クルクミングルクロン酸抱合体,デメトキシクルクミン,ビスデメトキシクルクミン)では確認されなかった(図7A図7■(A)クルクミンおよびその代謝物,類縁体がヒトマクロファージ様細胞(THP-1由来)の細胞内脂質量に与える影響(21).(B)クルクミン,デメトキシクルクミン,ビスデメトキシクルクミン混合物の液体クロマトグラフ–蛍光検出器(HPLC-FL)クロマトグラム(21).(C)クルクミンおよびその類縁体のヒトマクロファージ様細胞(THP-1由来)への取り込みの比較(21)).これらの知見をまとめると,クルクミンはテトラヒドロクルクミンやクルクミングルクロン酸抱合体と比較して,マクロファージに取り込まれやすいことが脂質吸収作用に影響を与える要因となっていることが考えられ,ほぼ同じ化学構造をもつデメトキシクルクミンとビスデメトキシクルクミンのマクロファージへの取り込み量はクルクミンより低いことから(図7B, C図7■(A)クルクミンおよびその代謝物,類縁体がヒトマクロファージ様細胞(THP-1由来)の細胞内脂質量に与える影響(21).(B)クルクミン,デメトキシクルクミン,ビスデメトキシクルクミン混合物の液体クロマトグラフ–蛍光検出器(HPLC-FL)クロマトグラム(21).(C)クルクミンおよびその類縁体のヒトマクロファージ様細胞(THP-1由来)への取り込みの比較(21)),その取り込み機構は脂溶性の違いのみではなく,トランスポーターなどのクルクミンに特異的な取り込み機構の存在が予期された.
本稿で述べてきたように,クルクミンが示す生理学的な有用性が広く知られるようになった一方で,その吸収代謝や代謝物の生理作用についてはまだほとんど明らかになっていない.クルクミン代謝物の生理作用を踏まえつつ,生活習慣病予防や改善機構の解明を図ることが望まれ,今後のクルクミン研究の焦点となっていくと考えられる.
2015年5月に「食品因子による栄養機能制御」が出版された.本稿ではクルクミンの吸収,代謝や,その代謝物の生理活性についてその概要のみを述べたが,本書はより細部にわたって食品成分の吸収代謝について理解し,学ぶことができる.もし興味をもっていただけたならぜひご一読いただければ幸いである.
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