セミナー室

褐藻由来フコキサンチンの抗肥満・抗糖尿病効果とその機序

Sho Nishikawa

西川

中部大学応用生物学部

Masafumi Hosokawa

細川 雅史

北海道大学水産科学研究院

Kazuo Miyashita

宮下 和夫

北海道大学水産科学研究院

Published: 2016-07-20

はじめに

近年,脂肪の過剰摂取や運動不足など生活習慣の乱れに起因する肥満は世界的に増加の一途をたどっており,その予防・治療が大きな課題となっている.特に肥満は,糖尿病や高脂血症,高血圧症の発症基盤となるだけでなく,それらを併発したメタボリックシンドロームは動脈硬化症のリスクファクターである.動脈硬化は日本人の死亡率の上位を占める心筋梗塞や脳梗塞の主要な要因であることからも,肥満の予防は極めて重要といえる.このような肥満は摂取エネルギーに対し消費エネルギーが少ないことに起因しており脂質が生体内で過剰になった状態である.肥満者の人口増加は世界的な問題であり,わが国の肥満人口(20歳以上,BMI≧25)はここ10年間で大きな変動は見られないものの,いまだ人口の3割と高止まりしている(1)1) 厚生労働省:平成26年度国民健康・栄養調査,http://www.mhlw.go.jp/file/04-Houdouhappyou-10904750-Kenkoukyoku-Gantaisakukenkouzoushinka/0000106547.pdf., 2015..このようなことからも肥満予防・治療はいまだ解決には至らないのが現状である.

肥満をリスクファクターとする2型糖尿病は,血糖制御に重要なインスリンの分泌や作用が低下するインスリン抵抗性とそれによる高血糖を特徴とする.肥満と同様に世界の糖尿病人口は増加し続け,糖尿病有病者数は2015年では4億1,500万人に達し,特に,糖尿病人口が第1位の中国では1億960万人にも達すると推定される.一方,わが国の糖尿病有病者数は2015年で第9位と2014年から順位を上げ(2)2) IDF: Diabetes atlas 7th edition, http://www.diabetesatlas.org/., 2015.,2007年の890万人から2012年では950万人と増加しており,2014年においても糖尿病有病者率に減少は見られない(1)1) 厚生労働省:平成26年度国民健康・栄養調査,http://www.mhlw.go.jp/file/04-Houdouhappyou-10904750-Kenkoukyoku-Gantaisakukenkouzoushinka/0000106547.pdf., 2015..さらに糖尿病は,無自覚に病状が進行することも相まって医療機関を受診していない人々が多いこと,50歳以上の有病者数がいまだ顕著であることから,高齢化社会を迎えたわが国おいて患者数はしばらく高い水準にとどまると懸念される.糖尿病は心筋梗塞や脳梗塞に加え,網膜症による失明や腎症による腎不全,神経障害や動脈硬化に伴う循環不全,壊疽など深刻な合併症を引き起こし予後が非常に悪いことからも,肥満予防のみをターゲットとするのではなく糖尿病予防への積極的な取り組みも重要である.

肥満や糖尿病の治療では,食事療法や運動療法の導入が基本である.しかし,発症前の予備軍や罹患率の高い就労者,高齢者にこのような方策を取り入れることは,時間的あるいは体力的な観点からも必ずしも容易ではない.そのため,予防や改善を期待して長期的に対応していくうえでは,機能性食品成分を日常的に摂取することが有効な策であるといえる.

本稿では,ワカメなどの褐藻中に含まれるフコキサンチンについて,われわれがこれまで見いだしてきた知見を交え,フコキサンチンの抗肥満,抗糖尿病効果にかかわる機能特性について紹介する.

フコキサンチンの抗肥満作用

肥満ではエネルギー摂取過多による白色脂肪組織(WAT)への過剰な脂質蓄積によりWATの肥大化が見られる.肥大化した脂肪細胞からはパルミチン酸などの飽和脂肪酸の放出や,monocyte chemotactic protein-1(MCP-1)を介したマクロファージの浸潤誘導によって炎症が惹起される.さらに浸潤したマクロファージからはtumor necrosis factor alpha(TNFα)など炎症性因子が分泌されることで脂肪細胞を刺激し,さらなるマクロファージの浸潤と炎症状態を促す.このように肥満の脂肪組織ではマクロファージとの細胞間相互作用によって慢性的な炎症状態に陥り,不可逆的な脂肪細胞のリモデリングが引き起こされる.一方,肥大化脂肪細胞では生体調節因子であるアディポカインの産生機構が破たんすることで,アディポネクチン産生が低下するばかりでなくTNFαやinterleukin-6(IL-6)などインスリン抵抗性を引き起こし糖尿病誘発にかかわる炎症性サイトカイン産生が増加する.したがって,上記のような組織リモデリングを防ぐことは肥満とそれを発症基盤とする2型糖尿病を予防・改善するうえで極めて重要である(3)3) A. Castoldi, C. N. Souza, N. O. S. Câmara & P. M. M. Moraes: Front. Immunol., 6, 637 (2016).

フコキサンチン(図1図1■フコキサンチン投与による脂肪組織リモデリングの改善)は,われわれ日本人が古来より食してきたワカメやヒジキ,モズクといった馴染み深い褐藻中に含まれる赤~赤橙色のカロテノイドである.その構造は,カロテノイドに特徴的なイソプレノイド構造に加え,アレン結合や共役カルボニル基,エポキシ基を有しており,β-カロテンやルテインとは大きく異なっている.褐藻中のフコキサンチン含量は,採取する季節や場所によって変動するが,ワカメでは乾燥藻体当たりで0.5~1.0 mg/gである(4)4) M. Terasaki, A. Hirose, B. Narayan, Y. Baba, C. Kawagoe, H. Yasui, N. Saga, M. Hosokawa & K. Miyashita: J. Phycol., 45, 974 (2009)..そこでわれわれはワカメ脂溶性画分よりフコキサンチンを単離・精製し2型糖尿病/肥満KK-Ayマウスに投与することで抗肥満・抗糖尿病効果について検討を行った.

図1■フコキサンチン投与による脂肪組織リモデリングの改善

KK-Ayマウスにフコキサンチン0.2%を含む飼料を4週間経口投与した結果,WAT重量の増加抑制とともに体重増加も抑制された(5)5) M. Hosokawa, T. Miyashita, S. Nishikawa, S. Emi, T. Tsukui, F. Beppu, T. Okada & K. Miyashita: Arch. Biochem. Biophys., 504, 17 (2010)..さらに,脂肪組織を構成する脂肪細胞のサイズを観察したところ,フコキサンチン群ではコントロール群と比較して個々の脂肪細胞が小型であり肥大化が抑制されていることも確認された(図1図1■フコキサンチン投与による脂肪組織リモデリングの改善).一方,健常マウス(C57BL/6J)のWAT重量に有意な差が見られなかったことから,フコキサンチンは肥満・糖尿病の発症や進行に特徴的に作用することが予想される.また,フコキサンチン投与によりWATの肥大化抑制が観察されたことから,脂肪組織へのマクロファージの浸潤および炎症抑制について検討を行った.フコキサンチン投与マウスのWATにおいて活性化マクロファージのマーカーであるF4/80を免疫化学染色にて検出した結果,その浸潤が明らかに抑制されていることが観察された(5)5) M. Hosokawa, T. Miyashita, S. Nishikawa, S. Emi, T. Tsukui, F. Beppu, T. Okada & K. Miyashita: Arch. Biochem. Biophys., 504, 17 (2010)..さらにTNFαやIL-6などのアディポカインのmRNA発現量を測定したところ,KK-Ayマウスのコントロール群と比較してmRNA発現量は大きく低下していることが確認された(5)5) M. Hosokawa, T. Miyashita, S. Nishikawa, S. Emi, T. Tsukui, F. Beppu, T. Okada & K. Miyashita: Arch. Biochem. Biophys., 504, 17 (2010)..一方,3T3-F442脂肪細胞やRAW264.7マクロファージ様細胞にフコキサンチン代謝物であるフコキサンチノール処理を行うと,TNFαで刺激した3T3-F442A脂肪細胞のMCP-1のmRNA発現が低下し,パルミチン酸により誘導されるマクロファージからのTNFα産生も抑制された(5)5) M. Hosokawa, T. Miyashita, S. Nishikawa, S. Emi, T. Tsukui, F. Beppu, T. Okada & K. Miyashita: Arch. Biochem. Biophys., 504, 17 (2010)..これらは,フコキサンチンが脂肪組織へのマクロファージの浸潤やマクロファージと脂肪細胞の相互作用を制御する結果と考えられる.また,C57BL/6JマウスのWATにおけるmRNA発現量には影響が見られなかったことから,フコキサンチンは肥満のWATで見られる慢性炎症を効果的に予防することが推察される(図1図1■フコキサンチン投与による脂肪組織リモデリングの改善).

一方,筆者らはフコキサンチンが,WATでの脱共役タンパク質1(UCP1)の発現誘導を見いだしている(6)6) H. Maeda, M. Hosokawa, T. Sashima, K. Funayama & K. Miyashita: Biochem. Biophys. Res. Commun., 332, 392 (2005)..UCP1は褐色脂肪細胞で高発現しており脂肪酸をATP産生ではなく熱へと変換し代謝する特徴的な機能を有する.UCP1のWATでの発現量は極めて低いことが知られているが,近年,寒冷刺激などの生理応答に加え魚油摂取に見られるように食品成分によってもWAT中にUCP1陽性の細胞(Beige/Brite cells)が誘導されることが報告されている(7)7) M. Kim, T. Goto, R. Yu, K. Uchida, M. Tominaga, Y. Kano, N. Takahashi & T. Kawada: Sci. Rep., 5, 18013 (2015)..また,マウスにおいてBeige/Brite cellsの誘導によってエネルギー代謝が亢進することも報告(8)8) J. Wu, P. Boström, L. M. Sparks, L. Ye, J. H. Choi, A. Giang, M. Khandekar, K. A. Virtanen, P. Nuutila, G. Schaart et al.: Cell, 150, 366 (2012).されており新たな抗肥満戦略として注目されている.したがってフコキサンチンによる抗肥満作用の一端には,このような機構を介したエネルギー代謝の亢進がかかわっている可能性があり今後の研究が期待される.

フコキサンチンによる高血糖改善効果と骨格筋への作用

糖尿病における高血糖は血管障害に起因して心筋梗塞や脳梗塞の発症リスクを高めることが知られている.さらに,これらのリスクは糖尿病の予備軍や発症初期から増加することからも高血糖の予防,改善は重要である.血糖制御ホルモンとしてインスリンが挙げられるが,たとえば食事などで血糖が上昇すると膵β細胞からのインスリン分泌が促され,インスリンは骨格筋や脂肪組織での糖取り込みの促進と肝臓からの糖放出を抑制することで血糖を正常な状態に保つ.しかし,糖尿病ではこれらの組織におけるインスリンの作用性が低下するインスリン抵抗性によって高血糖となる.すなわち糖尿病の予防や改善は,高血糖の改善に加え,その発症基盤であるインスリン抵抗性の改善が重要である(9)9) V. T. Samuel & G. I. Shulman: J. Clin. Invest., 126, 12 (2016)..そこで,インスリン抵抗性を発症するKK-Ayマウスにフコキサンチンを投与し高血糖改善効果について検討した.その結果,フコキサンチン投与は健常マウス(C57BL/6J)の血糖には影響しないのに対し,KK-Ayマウスでは非絶食時の血糖値を改善し(5, 10)5) M. Hosokawa, T. Miyashita, S. Nishikawa, S. Emi, T. Tsukui, F. Beppu, T. Okada & K. Miyashita: Arch. Biochem. Biophys., 504, 17 (2010).10) H. Maeda, M. Hosokawa, T. Sashima & K. Miyashita: J. Agric. Food Chem., 55, 7701 (2007).,糖負荷試験においてもコントロール群と比較して速やかな血糖値の回復が認められた.そこで次に,血糖制御器官に注目し,高血糖改善機序について検討を行った.

前述のように血糖制御器官として骨格筋や脂肪組織,肝臓などが挙げられる.特に骨格筋は体重の40%程度を占める生体最大の器官で,インスリン存在下において血糖取り込みの80%を占めることから血糖制御において最も重要な器官であるといえる.そこで,KK-Ayマウスにフコキサンチンを投与した際の骨格筋でのインスリンシグナル因子について検討したところ,インスリンレセプターのmRNA発現の増加とその下流であるAktのリン酸シグナルの活性化がコントロールマウスに対して見られた(11)11) S. Nishikawa, M. Hosokawa & K. Miyashita: Phytomedicine, 19, 389 (2012).図2図2■フコキサンチン投与による骨格筋を介した血糖値の改善).この結果は,フコキサンチンによる骨格筋でのインスリン抵抗性の改善を示唆することから,次に骨格筋での主要な糖取り込み因子であるグルコーストランスポーター4(GLUT4)に着目した.骨格筋での糖取り込み制御因子として,脳や腎臓などさまざまな組織で発現が見られ恒常的な糖取り込みにかかわるGLUT1と,骨格筋や脂肪組織などインスリン感受組織で発現が見られるGLUT4が挙げられる.このうち,GLUT4はインスリンにより細胞質から細胞膜へ移行することで糖取り込みが活性化する(12)12) D. Leto & A. R. Saltiel: Nat. Rev. Mol. Cell Biol., 13, 383 (2012)..GLUT4による糖取り込みはその発現と細胞膜移行により制御されると考えられるが,肥満や糖尿病では骨格筋でのGLUT4発現量の低下に加えインスリンシグナルの減弱による細胞膜移行の低下が見られる(13, 14)13) R. Carnagarin, A. M. Dharmarajan & C. R. Dass: Mol. Cell. Endocrinol., 417, 52 (2015).14) M. Gaster, P. Staehr, H. Beck-Nielsen, H. D. Schrøder & A. Handberg: Diabetes, 50, 1324 (2001)..よって,肥満・糖尿病において骨格筋でのGLUT4の細胞膜移行やその発現量を高めることができれば,高血糖改善効果につながる.そこで,0.2%フコキサンチンを4週間経口投与したKK-Ayマウスの骨格筋を摘出しGLUT4の細胞膜移行を検討した結果,フコキサンチン投与群においてGLUT4の細胞膜移行が亢進していることがわかった(図2図2■フコキサンチン投与による骨格筋を介した血糖値の改善).次にGLUT4による糖取り込みを検討するために筋管モデルC2C12細胞を用いて検討を行った.フコキサンチンを投与したマウスの骨格筋組織では,フコキサンチン代謝物としてフコキサンチノールの蓄積が認められる.そこで,C2C12細胞をフコキサンチノールで処理しGLUT4の細胞膜移行とタンパク質発現量について検討したところ,細胞膜移行の亢進に加え,タンパク質発現の有意な増加が見られた.さらに,GLUT1の阻害剤であるフロレチン存在下であってもフコキサンチノール添加による糖取り込み量の増加が確認された.

図2■フコキサンチン投与による骨格筋を介した血糖値の改善

これらの結果から,フコキサンチンによる高血糖改善機序をWATおよび骨格筋への作用から考えると,フコキサンチンはWATでの炎症性アディポカイン遺伝子の発現抑制を介した組織間相互作用による骨格筋でのインスリン抵抗性の改善と,フコキサンチン代謝物による骨格筋での血糖取り込み改善の直接的な作用によって,血糖値改善効果を発現すると推察される.

フコキサンチンの遅筋および速筋への作用

骨格筋は,構成する筋繊維とその働きによって分類されるが,代表的なものとして,ミトコンドリアを豊富にもち酸素を利用した持久的運動を担う遅筋と,ミトコンドリアは比較的少なく解糖系による瞬発的な運動を担う速筋が挙げられる.たとえば,ヒラメ筋に代表される遅筋は,糖や脂肪酸を酸化的に代謝する能力が高いTypeI繊維が特徴的に見られる.それに対し,長趾伸筋などに見られるTypeII繊維は,酸化能力は低いが解糖系による糖代謝が活発である.また,持久運動は速筋から遅筋への可逆的な筋繊維分化を誘導し,より代謝能の高い遅筋へと変化させ生体の基礎代謝を向上させることで肥満や糖尿病を予防できると考えられる.そこで,フコキサンチンを投与したKK-Ayマウスのヒラメ筋および長趾伸筋で酸化的代謝に関係する因子を解析したところ,筋繊維分化の誘導因子であるperoxisome proliferative activated receptor gamma coactivator-1(PGC-1)のmRNAおよびタンパク質発現量は両骨格筋で顕著に増加し,脂肪酸代謝に関係するfatty acid transporter/CD36(FAT/CD36)やcytochrome c oxidase subunit 2(COX2),medium-chain acyl-CoA dehydrogenase(MCAD),およびグルコースの酸化的代謝にかかわるlactate dehydrogenase b(LDHb)などのmRNA発現量が両骨格筋で増加した(図3図3■フコキサンチンの骨格筋での作用).この結果は,フコキサンチン投与により遅筋だけでなく速筋においても基質利用がより酸化的な代謝へとシフトしていることを示唆する.

図3■フコキサンチンの骨格筋での作用

一方,遅筋と速筋のGLUT4の応答性に注目してみると,運動負荷やAMPKの活性化剤である5-amino-1-β-D-ribofuranosyl-imidazole-4-carboxamide(AICAR)刺激において,これらの筋繊維でGLUT4の応答性が異なることが報告されている(15, 16)15) Y. S. Oh, H. J. Kim, S. J. Ryu, K. A. Cho, Y. S. Park, H. Park, M. Kim, C. K. Kim & S. C. Park: Exp. Mol. Med., 39, 396 (2007).16) E. S. Buhl, N. Jessen, O. Schmitz, S. B. Pedersen, O. Pedersen, G. D. Holman & S. Lund: Diabetes, 50, 12 (2001)..これらの骨格筋ではインスリンによる糖取り込みの応答性やGLUT4の発現量が異なり,TypeI繊維が豊富なヒラメ筋ではインスリンによる糖取り込み活性が高く,GLUT4の発現量も長趾伸筋と比較して高いことが知られている(17, 18)17) J. R. Daugaard, J. N. Nielsen, S. Kristiansen, J. L. Andersen, M. Hargreaves & E. A. Richter: Diabetes, 49, 1092 (2000).18) E. J. Henriksen, R. E. Bourey, K. J. Rodnick, L. Koranyi, M. A. Permutt & J. O. Holloszy: Am. J. Physiol., 259, 593 (1990)..一方,無酸素運動および有酸素運動ではヒラメ筋におけるGLUT4の発現量に変化が見られないものの,長趾伸筋では無酸素運動においてGLUT4の発現が増加する(15)15) Y. S. Oh, H. J. Kim, S. J. Ryu, K. A. Cho, Y. S. Park, H. Park, M. Kim, C. K. Kim & S. C. Park: Exp. Mol. Med., 39, 396 (2007)..さらに,肥満や糖尿病においてもこれらの筋繊維の組成が変化し,特に肥満においてはTypeI繊維の減少が見られ,インスリン抵抗性を伴うことによりこの減少がより顕著になることが知られている(14)14) M. Gaster, P. Staehr, H. Beck-Nielsen, H. D. Schrøder & A. Handberg: Diabetes, 50, 1324 (2001)..また,肥満患者ではTypeI繊維のみならずTypeII繊維においてもGLUT4の発現量が顕著に低下する(14)14) M. Gaster, P. Staehr, H. Beck-Nielsen, H. D. Schrøder & A. Handberg: Diabetes, 50, 1324 (2001)..したがって,フコキサンチン投与によるGLUT4の応答を骨格筋の部位ごとに検討することで,高血糖改善効果の特徴がより明確になると考えた.そこで,各骨格筋のGLUT4の発現量および細胞膜移行について検討を行った結果,ヒラメ筋ではフコキサンチン投与によりGLUT4の発現量に変化は見られないのに対し,細胞膜移行が有意に亢進していた(図3図3■フコキサンチンの骨格筋での作用).一方,長趾伸筋ではGLUT4の発現量が有意に増加したのに対し細胞膜移行には有意な影響は見られなかった(11)11) S. Nishikawa, M. Hosokawa & K. Miyashita: Phytomedicine, 19, 389 (2012).図3図3■フコキサンチンの骨格筋での作用).以上から,フコキサンチンはGLUT4が豊富な遅筋において細胞膜移行を促進し,GLUT4が乏しい速筋ではGLUT4の発現量を高め,それによって効果的に血糖を改善している可能性が考えられる.また,われわれは上記の結果のほかに,骨格筋でAMP-activated protein kinase(AMPK)の活性化も確認している.AMPKは酸化的代謝の活性化や運動負荷時の筋繊維分化を制御することが知られていることからも(19)19) V. A. Lira, C. R. Benton, Z. Yan & A. Bonen: Am. J. Physiol. Endocrinol. Metab., 299, 145 (2010).,フコキサンチンの機能性を考察するうえでこのような分子との関連性も考えられる.

以上の結果から,フコキサンチンは骨格筋において,酸化的代謝因子の発現増加によるエネルギー代謝の亢進に加え,各骨格筋でのGLUT4の応答性の差異など,運動負荷を行った骨格筋と近い作用により肥満や糖尿病を改善する可能性がある.

ヒト試験

近年,フコキサンチンは上記の試験に加え,内臓脂肪蓄積に及ぼす影響についてヒト試験が行われている.ロシアの研究グループによると,フコキサンチン2.4 mg/dayをBMI 30以上のロシア人女性に16週間投与することで体脂肪が低減したことが報告された(20)20) M. Abidov, Z. Ramazanov, R. Seifulla & S. Grachev: Diabetes Obes. Metab., 12, 72 (2010)..また日本でもヒト試験が行われており,肥満人口の9割程度が分布するBMI 25~30の日本人男女に対して,フコキサンチン3 mg/dayを1カ月投与することでBMIおよび内臓脂肪面積の減少が見られ(21)21) 単 少傑:“カロテノイドの科学と最新応用技術”,宮下和夫監修,シーエムシー出版,2009, p. 272.,さらに肥満人口が最も多い40歳以上の日本人男性に対しても3 mg/dayの28日間投与によりBMIが減少したことが報告されている(22)22) 神谷仁支,秋田浩幸,坂井愛子:“第68回日本栄養・食糧学会大会講演要旨集”,日本栄養・食糧学会,2014, p. 183..以上のようにフコキサンチンのヒトに対する抗肥満作用が期待されるが,現段階では研究例が極めて少なく,その安全性を含めた詳細な検討が期待される.

まとめ

本稿ではフコキサンチンの抗肥満・抗糖尿病効果についてWATおよび骨格筋への作用に焦点を当てご紹介した.その作用をまとめると,フコキサンチンはWATリモデリングの進行抑制や,筋繊維の特徴を活かした血糖の取り込み,骨格筋での酸化的代謝の活性化など多様な機序で抗肥満・抗糖尿病作用を示すと考えられる.近年ではヒト試験においてもフコキサンチンの抗肥満作用が報告され始めている.安全性の検討など課題は多いが,将来フコキサンチンが肥満や糖尿病予防に貢献できることを期待したい.

Reference

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