書評

H. Lodishほか(著),石浦章一,榎森康文,堅田利明,須藤和夫,仁科博史,山本啓一(訳)『分子細胞生物学』第7版(東京化学同人,2016年)

Yoshiro Ishimaru

石丸 喜朗

Published: 2016-07-20

本書は,分子細胞生物学のスタンダード教科書として世界的に広く使われている“Molecular Cell Biology”の日本語訳である.日本語訳は1989年の初版から4~5年ごとに再版を重ね,前回の第6版は2010年11月に発行された.以前の訳で学ばれた読者も多いに違いない.今回の版ではI. 化学的・分子的基礎(1~3章)から始まり,II. 遺伝学と分子生物学(4~8章),III. 細胞の構造と機能(9~19章),IV. 細胞の増殖と分化(20~24章)まで全部で24章から構成されており,綺羅星のごとき著名な先生方が訳に携わられている.

まえがきでも述べられているように,学部学生や大学院生の教育に長い経験をもち,常に教育の質を高める努力をしている原著者らは,本書の執筆にあたり,ここ数年間のうちに生まれた革新的技術を起爆剤として著しい進歩を遂げてきた生命科学の新たな展開を取り入れている.たとえば,次世代DNA配列決定法の技術的解説と,それがもたらした大量のゲノム情報についての解説が新たに追加されている(5, 6章).また,2012年のノーベル生理学・医学賞受賞の対象となり日本中が沸き立ったiPS細胞についても取り上げられている(21章).

以前の版からであるが各節の最後にはまとめが箇条書きで並べられていて,知識を整理するのを手助けしてくれる.各章の最後には「将来の展望」や「重要な単語」とともに「重要概念の復習」(章末問題)がまとめられている.中でも章末問題は今回の第7版で大きく作り直されたり追加されたりして最新の研究成果が反映されている.また,「データの分析」は実験結果の解釈の訓練に役立つ.これらに関しては,模範解答があればより理解が深まると感じるのは怠惰な私だけであろうか.章末にところどころ挿入されている「古典的実験」のコラムは生物学研究の歴史を学ぶうえで最高の教材であり,古典に立ち帰ることの重要性を教えてくれる.専門課程レベルの学生から教員,研究者まで分子細胞生物学に携わるすべての人にとって必読の一冊である.