解説

細菌が放出する膜小胞(Membrane Vesicle)の機能と生合成機構そして応用に向けた研究動向

Bacterial Membrane Vesicles: Their Functions, Biogenesis, and Application

Kunihiko Watanabe

渡部 邦彦

京都府立大学大学院生命環境科学研究科

Published: 2016-09-20

筆者は,はじめから膜小胞(membrane vesicle; MV)を研究対象にしたのではない.異分野の研究者との共同研究から得られた意外な結果がこの解説を書くきっかけになった.私たちは産業廃棄物であるトリ羽毛を強力に分解する好熱性細菌を神戸・有馬温泉源から単離し,この細菌が生産するプロテアーゼについて研究を推進していた(1~4)1) T. Matsui, Y. Yamada, H. Mitsuya, Y. Shigeri, Y. Yoshida, Y. Saito, H. Matsui & K. Watanabe: Appl. Microbiol. Biotechnol., 82, 941 (2009).2) Y. Shigeri, T. Matsui & K. Watanabe: Biosci. Biotechnol. Biochem., 73, 2519 (2009).3) 渡部邦彦:化学と生物,48, 751 (2010).4) M. Kataoka, A. Yamaoka, K. Kawasaki, Y. Shigeri & K. Watanabe: Appl. Microbiol. Biotechnol., 98, 2973 (2014)..オーソドックスな生化学的手法ではこのプロテアーゼの精製は進まず,異常な高分子様態が存在すると確認されたため,当初プロテアソーム様のタンパク質複合体と考え,それを捉えるために電子顕微鏡解析の専門家と共同研究を始めた.意外にも,細胞より小さい脂質二重膜状構造が見えるとの結果がもたらされたことが,今回取り扱う膜小胞(MV)との出会いであった(5~7)5) 渡部邦彦:バイオサイエンスとインダストリー,72, 34 (2014).6) A. Yamaoka, M. Kataoka, K. Kawasaki, E. Kobayashi, Y. Shigeri & K. Watanabe: Biosci. Biotechnol. Biochem., 78, 1623 (2014).7) 渡部邦彦:日本生物工学会誌,93, 412 (2015).

膜小胞の歴史と形状

まず最初に断っておきたいが,membrane vesicle(MV)に対して正式な用語は定まっておらず,「メンブランベジクル」と片仮名を使用する研究グループもあることから(8)8) 豊福雅典,田代陽介,野村暢彦:バイオサイエンスとインダストリー,70, 263 (2012).,ここではMVという呼称を暫定的に使うこととする.その言葉どおり受け取れば「膜でできた袋」という意味なので,いわゆる「リポソーム」と大差ない.しかし細菌などから精製してきた人工的な再構成膜に対してもこのような呼称が用いられた経緯が過去にあるため(9)9) 金沢 徹,二井将光,山登一郎,安楽泰宏:“生化学実験講座14 生体膜”,東京化学同人,1977, p. 361.,混乱を招く場合があるので注意を要する.本解説では,外膜が,酵母に見られる出芽のような形式で外側に隆起して,袋状の塊となって細胞外に放出される自然の細胞機能由来のものを指す(図1図1■細菌が作る膜小胞(MV)).したがって,グラム陰性細菌の外膜から放出されるMVは外膜小胞(outer membrane vesicle; OMV)と称される場合も多い.歴史的に見ると,細菌からMVが放出されるという現象の報告は,50年以上も前にある.最初の報告を特定するのは難しいが,グラム陰性で偏性嫌気性非芽胞形成桿菌として主要な腸内細菌であるバクテロイデスで類似する構造が電顕写真で1963年に報告され(10)10) H. A. Bladen & J. F. Waters: J. Bacteriol., 86, 1339 (1963).,モデル生物である大腸菌でも1966年にはリジン要求性変異株をリジン制限下で培養したときの異常形態として報告されている(11)11) K. W. Knox, M. Vesk & E. Work: J. Bacteriol., 92, 1206 (1966)..その後,さまざまな細菌,特にグラム陰性細菌を中心に報告が続き,グラム陰性細菌ではほぼ共通する現象として理解されている(12)12) T. J. Beveridge: J. Bacteriol., 181, 4725 (1998)..これに加え,グラム陽性細菌についても報告が続き(13)13) D. W. Dorward & C. F. Garon: Appl. Environ. Microbiol., 56, 1960 (1990).,常在菌や病原菌からStaphylococcus aureus(14)14) L. Marsollier, P. Brodin, M. Jackson, J. Korduláková, P. Tafelmeyer, E. Carbonnelle, J. Aubry, G. Milon, P. Legras, J. Saint André et al.: PLoS Pathog., 3, e62 (2007)., Mycobacterium ulcerans(15)15) E. Lee, D. Choi, D. Kim, J. Kim, J. Park, S. Kim, S. Kim, D. M. Desiderio, Y. Kim, K. Kim et al.: Proteomics, 9, 5425 (2009)., Bacillus anthracis(16)16) J. Rivera, R. J. B. Cordero, A. S. Nakouzi, S. Frases, A. Nicola & A. Casadevall: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 107, 19002 (2010).などでもMVが確認され,現在も研究が拡げられている.加えて,アーキアにも報告例が出てきていることから(17, 18)17) D. Prangishvili, I. Holz, E. Stieger, S. Nickell, J. K. Kristjansson & W. Zillig: J. Bacteriol., 182, 2985 (2000).18) B. L. Deatheragea & B. T. Cookson: Infect. Immun., 80, 1948 (2012).,今では原核生物全体に共通するものと解釈されている.論文数的には総じて2000年ぐらいまではMVを産生する細菌の報告が少しずつ出されてきたが,ゲノム解析,プロテオームなどの研究手法が普及・充実するとともに,今やMVの産生機構や,病原性,細胞間シグナル,ストレスなどと関連する報告が爆発的に増加してきて,次章で説明するMVが産生される目的の解明に向けた研究がさまざまな細菌に対して行われている.

図1■細菌が作る膜小胞(MV)

透過型電顕解析によるグラム陰性好熱性細菌Thermus aquaticus ATCC25104TThermus thermophilus ATCC27634T(HB8)が産生する膜小胞(MV).赤矢印がMVを指す.(産総研関西センター川崎一則氏,同つくばセンター小林恵美子氏撮影)

細菌が産生するMVのサイズは,これまでの報告例からおおむね20~300 nm(=0.02~0.3 µm)ぐらいの幅があり,グラム陽性細菌でも同程度のサイズの報告がある(18, 19)18) B. L. Deatheragea & B. T. Cookson: Infect. Immun., 80, 1948 (2012).19) T. N. Ellis & M. J. Kuehn: Microbiol. Mol. Biol. Rev., 74, 81 (2010)..しかし,中心的サイズはいずれも100 nm(=0.1 µm)近傍が多く,細菌細胞がおおよそ1 µmレベルのサイズであることを考えると,「MVは細胞ではない」という大原則はサイズのうえからも証明される.真核細胞である酵母は,出芽初期でも数µmあり大きく異なるものの,同じ真核細胞由来のエクソソームでは100 nmほどであることから(20)20) 吉岡祐亮,落谷孝広:バイオインダストリー,32, 5 (2015).,このエクソソームと細菌由来のMVは機能や構造のうえでかなりの共通点を有すると考えられる(後述).形については,MVは原則球状であるが,産生する細菌によっては扁平あるいは棒状の異常な形状(21)21) W. D. McCaiga, A. Kollerb & D. G. Thanassi: J. Bacteriol., 195, 1120 (2013).で報告されているほかに,超好熱菌のThermococcus属細菌がナノチューブ状もしくはナノポッド状のMVを放出することも報告されている(22)22) E. Marguet, M. Gaudin, E. Gauliard, I. Fourquauc, S. Olouy, I. Matsui & P. Forterre: Biochem. Soc. Trans., 41, 436 (2013)..しかし,形はMVの調製方法だけでなく,産生する細胞の生育段階に大きく依存しているので,一概に括ることは困難である.また,集団の一部で誘導される細胞死でMV形成されることも明らかになりつつある(豊福・野村ら,未発表データ).

膜小胞(MV)が産生される目的

MVはなぜ産生されるのかという目的に対し,大きく分けて3つを考えている(図2図2■膜小胞(MV)が産生される目的).共通する根本には,細胞として有利に栄養を得たい,増殖して子孫を増やしたい,その手段としてMVを産生するという単純な生命の本質がある.そこに加わる因子として,病原性の有無がある.

図2■膜小胞(MV)が産生される目的

(A)病原性毒素の送り込み;細菌細胞が産生する病原性毒素をMVに入れて,宿主細胞(多くは動物細胞)へ移送し,そこで毒素として働かせ細胞死に至らしめる.(B)細菌細胞間相互作用物質の送り込み;クオラムセンシング物質(QSシグナル)などをMVに入れて,細胞が増えて構築されたバイオフィルム中に放出し,その物質による遺伝子発現を誘導する.(C)細胞外酵素のキャリヤーとしての利用;酵素タンパク質をMVに入れて細胞外へ放出し,そこで主に高分子体を分解して低分子化し,栄養源として利用できるようにする.

まず病原性のある細菌について見てみると,病原性因子である毒素(たとえばPseudomonas aeruginosa PAO1株での毒素タンパク質および酵素のβ-ラクタマーゼ,溶血性ホスホリパーゼC,アルカリホスファターゼ,エステラーゼ,そしてタンパク質ヘモライシンなども含む)をこのMVに包み込んで,ターゲットとする細胞に接着し,送り込む(図2(A)図2■膜小胞(MV)が産生される目的)というシステムがこれまでの研究を主導してきた(23~26)23) J. L. Kadurugamuwa & T. J. Beveridge: J. Bacteriol., 177, 3998 (1995).24) J. L. Kadurugamuwa & T. J. Beveridge: J. Bacteriol., 178, 2767 (1996).25) M. J. Kuehn & N. C. Kesty: Genes Dev., 19, 2645 (2005).26) L. M. Mashburn & M. Whiteley: Nature, 437, 422 (2005)..同様に歯周病菌Porphyromonas gingivalisでは,外膜にある接着因子であるアドヘシンなどの接着タンパク質が,MV外周にも局在して特異的結合に役立つ高機能化が加わる(27)27) Y. Tashiro, H. Uchiyama & N. Nomura: Environ. Microbiol., 14, 1349 (2012)..大腸菌でも類似するMVで輸送されるシステムが見つかっており,サイトライシンA(ClyA)や熱不安定性エンテロトキシン(LT)の例がある(28~30)28) S. N. Wai, B. Lindmark, T. Söderblom, A. Takade, M. Westermark, J. Oscarsson, J. Jass, A. Richter-Dahlfors, Y. Mizunoe & B. E. Uhlin: Cell, 115, 25 (2003).29) M. J. Kuehn & N. C. Kesty: J. Biol. Chem., 279, 2069 (2004).30) N. C. Kesty, K. M. Mason, M. Reedy, S. E. Miller & M. J. Kuehn: EMBO J., 23, 4538 (2004)..つまり,相手細胞を死に追いやるために毒素を送り込み,その後に起こる細胞溶解などを通じて自分の栄養を獲得する目的でこのMVを用いるという狡猾な方法を取る.まとめると,内膜を通過してペリプラズムまで分泌されたこれら病原性因子を,外膜で包み込む形でMVとして放出し,ターゲットとするほかの細胞に向かわせ,その宿主に病原性毒素を送り込む.

病原性とは直接関係ないように見える細菌細胞間相互作用が,MV産生のもう一つの目的である(図2(B)図2■膜小胞(MV)が産生される目的).細菌細胞間相互作用で最も注目される事象はクオラムセンシング機構で,このシステムの誘導物質であるキノロン誘導体PQSがMVによって運ばれる(26, 31)26) L. M. Mashburn & M. Whiteley: Nature, 437, 422 (2005).31) Y. Tashiro, S. Ichikawa, T. Nakajima-Kambe, H. Uchiyama & N. Nomura: Microbes Environ., 25, 120 (2010)..またアーキアSulfolobus islandicusは,sulfolobicinというバクテリオシン様抗生物質ペプチドを作り,これをMVに入れて,近縁種Sulfolobus solfataricusSulfolobus shibataeを殺す機能をもつ(17)17) D. Prangishvili, I. Holz, E. Stieger, S. Nickell, J. K. Kristjansson & W. Zillig: J. Bacteriol., 182, 2985 (2000)..これらとは別に,細菌のバイオフィルム形成にも,MVが重要性を担っている(31)31) Y. Tashiro, S. Ichikawa, T. Nakajima-Kambe, H. Uchiyama & N. Nomura: Microbes Environ., 25, 120 (2010)..バイオフィルムとは,フィルム状になった微生物の菌叢を指すが,たとえばヒト口腔中や呼吸器系組織はもとより,さまざまな環境中にあるマット状のものすべてを含む.バイオフィルムの主成分は細菌の外膜表面にある細胞外多糖(EPS)であるが,質的にも量的にも異なりながらも,そこにMVが放出されバイオフィルム形成に寄与していることがわかっている.そのほかに輸送されるものとしてDNAなどの核酸も見られ(32)32) S. R. Schooling & T. J. Beveridge: J. Bacteriol., 188, 5945 (2006).,バイオフィルムの応用に向けたMVの利用の手掛かりになることが期待され,今後さらに実例が増えると予想される.

3つめの目的は,MVを細胞外酵素のキャリヤーとして用いることである.輸送先で酵素機能を駆使して反応を進行させ,その結果,主として細胞外から栄養獲得することに寄与する.これは自然の酵素固定化法あるいはナノリアクターとも言える(図2(C)図2■膜小胞(MV)が産生される目的).MVによる酵素機能の安定化・保護効果も期待できる一方,上述の病原性因子である酵素もこの場合に入るため,病原性との厳密な区別は難しい.酵素のMV中での局在性については,MVのまま酵素として機能する目的であればMV内より表層への提示が合理的であると予想されるが,ターゲット細胞と融合してMV内容物をターゲット細胞内に放出するのであればMV内でも矛盾はない.

膜小胞(MV)の産生メカニズム

MVの生合成機構は,グラム陰性細菌だけについてみても異なるメカニズムが提案されており,グラム陽性細菌のMVの報告とその生合成機構についても報告されるなか,一つの機構に収束しない混沌とした状態が現状である.単純な生合成機構ではなく,複雑な機構の組み合わせがMVには必要というのが大方の見方でもある(18, 33~35)18) B. L. Deatheragea & B. T. Cookson: Infect. Immun., 80, 1948 (2012).33) S. R. Schooling, A. Hubley & T. J. Beveridge: J. Bacteriol., 191, 4097 (2009).34) A. Kulp & M. J. Kuehn: Annu. Rev. Microbiol., 64, 163 (2010).35) M. Toyofuku, Y. Tashiro, Y. Hasegaw, M. Kurosawa & N. Nomura: Adv. Colloid Interfac., 226, 65 (2015).

グラム陰性細菌の細胞表層構造から,リポ多糖を含む外膜,そしてペリプラズムの2つがMV生合成機構の議論の中心である.まずリポ多糖については,特異なリポ多糖分子との結合が知られている抗生物質ゲンタマイシンの添加で,P. aeruginosaP. gingivalisではそのリポ多糖の減少に導かれるようにMVが増加する(36, 37)36) T. T. Nguyen, A. Saxena & T. J. Beveridge: J. Electron Microsc. (Tokyo), 52, 465 (2003).37) M. F. Haurat, J. Aduse-Opoku, M. Rangarajan, L. Dorobantu, M. R. Gray, M. A. Curtis & M. F. Feldman: J. Biol. Chem., 286, 1269 (2011).ことが報告されている.さらにMg2+イオン処理が細胞表層に静電的変化を与えMV産生減少を導くことが知られている(31)31) Y. Tashiro, S. Ichikawa, T. Nakajima-Kambe, H. Uchiyama & N. Nomura: Microbes Environ., 25, 120 (2010)..これらの現象においては,特定のリポ多糖の減少により外膜とペプチドグリカン層の特異な相互作用に欠損が生じてMV増加が起こると説明されている.次にペリプラズムについては,ミスフォールドしたタンパク質の蓄積が,ストレスとなって外膜を押し出しMV産生につながることも知られている(38, 39)38) A. J. McBroom & M. J. Kuehn: Mol. Microbiol., 63, 545 (2007).39) Y. Tashiro, R. Sakai, M. Toyofuku, I. Sawada, T. Nakajima-Kambe, H. Uchiyama & N. Nomura: J. Bacteriol., 191, 7509 (2009)..さらなる裏づけとして,大腸菌ではペリプラズムに局在しプロテアーゼとシャペロン機能をもつことが知られているdegPの欠損が,ミスフォールドしたタンパク質の増加・蓄積につながり,MV産生増加を引き起こした例が報告されている(40)40) C. Schwechheimer & M. J. Kuehn: J. Bacteriol., 195, 4161 (2013).

細菌の生育環境にMVの産生も大きく依存している.窒素分圧が低下すると,Azotobacter vinelandiiでは莢膜やバイオフィルムの素材となるアルギン酸生産の増加とともにMVの産生が見られ(41)41) W. Hashimoto, Y. Miyamoto, M. Yamamoto, F. Yoneyama & K. Murata: Int. Microbiol., 16, 35 (2013).P. aeruginosaでも嫌気脱窒環境下でバクテリオシンの一つであるpyocin産生とMVの産生がともに増加することが報告されている(42)42) M. Toyofuku, S. Zhou, I. Sawada, N. Takaya, H. Uchiyama & N. Nomura: Environ. Microbiol., 16, 2927 (2014).

未発表ながら,そのMV誘導機構には細菌間で保存性の高い遺伝子が携わっていることが明らかにされつつある.これらを端緒にMV形成機構解明につながり,MV生産がなぜ細菌間で一般的に起こるのかへの科学的証拠の提示が今後急速に増えることは確実である.しかし,MV産生制御が人為的に可能になることが本質の解明には必要である.

膜小胞の応用に向けた研究動向

膜小胞の生合成機構が解明されていけば,微生物工学的な応用での展開が期待され,すでにいくつか有望なものが報告されている.まず取り上げたいのが,ターゲットタンパク質を抗原として載せた大腸菌MVを用いた簡便なワクチン製造である(43)43) D. J. Chen, N. Osterrieder, S. M. Metzger, E. Buckles, A. M. Doody, M. P. DeLisa & D. Putnam: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 107, 3099 (2010)..確実にMVに搭載されるタンパク質ClyAに緑色蛍光タンパク質(GFP)を融合させ,この融合タンパク質を生産する遺伝子組換え大腸菌培養液から超遠心沈殿画分を用いて得たMVを直接マウスに注射してGFPに対する抗体作製を可能にしている.これにより,組換え体タンパク質であっても,抗体作製のための抗原タンパク質の精製操作は培地の超遠心操作だけとなるため極めて簡単になり,また免疫賦活剤であるアジュバントとの混合もあえて不要となることから,抗体作製の飛躍的な簡便化が期待される.

海洋性病原性細菌Vibrio choleraeの非タンパク質性small RNA分子とMVの関係も注目すべきである(44)44) T. Song, F. Mika, B. Lindmark, Z. Liu, S. Schild, A. Bishop, J. Zhu, A. Camilli, J. Johansson, J. Vogel et al.: Mol. Microbiol., 70, 100 (2008)..VrrA(Vibrio regulatory RNA of ompA)と呼ばれるsmall RNAが,外膜タンパク質OmpAを減少させることでMV産生を増強する.これはsmall RNA分子がMVで直接輸送されることを示すものではないが,このMVと構造や機能で共通点を有する真核生物におけるエクソソームでは,エクソソームで直接輸送されるsmall RNAががん転移の原因物質として突き止められている(45)45) N. Kosaka, F. Takeshita, Y. Yoshioka, K. Hagiwara, T. Katsuda, M. Ono & T. Ochiya: Adv. Drug Deliv. Rev., 65, 376 (2013)..エクソソームとsmall RNA分子によるがん転移関係を逆手にとって,たとえば腸内細菌を用いて,small RNAと機能的に拮抗する物質(つまりは抗がん剤的機能をもつ物質)をエクソソームではなくMVに搭載できるように操作し,大腸を中心としたがん化(または転移)の予防あるいはがん治療への応用が期待される.

筆者らは,最初に紹介した研究成果に基づき(1~6)1) T. Matsui, Y. Yamada, H. Mitsuya, Y. Shigeri, Y. Yoshida, Y. Saito, H. Matsui & K. Watanabe: Appl. Microbiol. Biotechnol., 82, 941 (2009).2) Y. Shigeri, T. Matsui & K. Watanabe: Biosci. Biotechnol. Biochem., 73, 2519 (2009).3) 渡部邦彦:化学と生物,48, 751 (2010).4) M. Kataoka, A. Yamaoka, K. Kawasaki, Y. Shigeri & K. Watanabe: Appl. Microbiol. Biotechnol., 98, 2973 (2014).5) 渡部邦彦:バイオサイエンスとインダストリー,72, 34 (2014).6) A. Yamaoka, M. Kataoka, K. Kawasaki, E. Kobayashi, Y. Shigeri & K. Watanabe: Biosci. Biotechnol. Biochem., 78, 1623 (2014).,MVを酵素のキャリヤーにした系の構築を進めることを考えている.現在は羽毛分解などに有用なプロテアーゼを主な対象として研究を進めているが,有用酵素タンパク質すべてが対象になる(図3(a)図3■膜小胞(MV)の応用).このような系の構築に有用なシステムとして,大腸菌の外膜タンパク質OmpAを足場にしてMVに目的酵素を提示させた例が最近報告されている(図3(b)図3■膜小胞(MV)の応用(46)46) N. J. Alves, K. B. Turner, M. A. Daniele, E. Oh, I. L. Medintz & S. A. Walper: Appl. Mater. Interfaces, 7, 24963 (2015)..OmpAにあらかじめタグタンパク質(SpyTag)を融合させておき,別途タグタンパク質を捕まえるタンパク質(SpyCatcher)と機能させたい酵素(ホスホトリエステラーゼ)を融合・発現させると,目的酵素がMV上へ提示される.今後は,OmpA-Spyタンパク質の組み合わせだけでなく,異なる細菌MVに適したタンパク質の組み合わせで,MVによるナノリアクターとも言える装置を作っていくことがバイオテクノロジーの可能性を広げることになると期待する.

図3■膜小胞(MV)の応用

(a)有用物質移送のキャリヤーとしての応用.細菌細胞が作る生理活性物質や有用酵素タンパク質を,膜小胞(MV)を用いて細胞外へ放出する.たとえばプロテアーゼであれば,細胞外の難分解性タンパク質などの分解反応に応用可能である.(b)外膜に局在するOmpAタンパク質を用いた目的タンパク質の膜小胞(MV)への提示.大腸菌内で2つのプラスミド(プラスミドAとB)にそれぞれ,外膜に局在するタンパク質OmpAとSpyTag(SpyT)の融合遺伝子,そしてSpyCatcher(SpyC)とホスホトリエステラーゼ(Pte)の融合遺伝子が載っている.SpyTとSpyCは,互いに結合性タンパク質の関係であるため,それぞれが別の融合遺伝子として発現された場合,まず外膜タンパク質OmpAがMV内に足場を作り,結合するSpyC/SpyTを介してPteタンパク質がMVの外膜の外側または内側に提示される.報告されている実施例では,内側を向いていることが確認されている46)46) N. J. Alves, K. B. Turner, M. A. Daniele, E. Oh, I. L. Medintz & S. A. Walper: Appl. Mater. Interfaces, 7, 24963 (2015).

おわりに

MVに関する日本の研究者は現状ではさほど多くない.筑波大学の野村暢彦先生と一緒に世話人として企画した日本農芸化学会(2015年3月岡山大会)のシンポジウム「細菌が放出する膜小胞(membrane vesicle)を知っていますか?」が,国内では初めてMVに焦点を絞った集まりではなかっただろうか.未解明の内容が多いだけに,今回の解説でもまだ貧弱な知見を提示するに過ぎなかったことは否めないが,細菌の病原性という根源に迫る一方,エキソソームとがん転移,あるいはウイルスとの進化ともかかわる可能性があり,酵素タンパク質のキャリヤーやバイオリアクターとしての応用だけでなく,細胞が自然にもつMVによるドラッグデリバリーシステムを応用して有効な薬剤を送り届けるなど,疾病を治療するという異なる視点からの方策を含め,今後の展開が期待される内容であることを感じていただければ幸いである.MVの国内研究者は確実に増えてきている.

Acknowledgments

本稿の作成にあたり,日本農芸化学会2015年岡山大会で開催されたシンポジウムでのシンポジストの先生方には,本稿の推敲などでたいへんお世話になりました.加えて,原稿作成に協力してくれた京都府立大学の微生物機能化学研究室の学生諸君にも感謝します.

Reference

1) T. Matsui, Y. Yamada, H. Mitsuya, Y. Shigeri, Y. Yoshida, Y. Saito, H. Matsui & K. Watanabe: Appl. Microbiol. Biotechnol., 82, 941 (2009).

2) Y. Shigeri, T. Matsui & K. Watanabe: Biosci. Biotechnol. Biochem., 73, 2519 (2009).

3) 渡部邦彦:化学と生物,48, 751 (2010).

4) M. Kataoka, A. Yamaoka, K. Kawasaki, Y. Shigeri & K. Watanabe: Appl. Microbiol. Biotechnol., 98, 2973 (2014).

5) 渡部邦彦:バイオサイエンスとインダストリー,72, 34 (2014).

6) A. Yamaoka, M. Kataoka, K. Kawasaki, E. Kobayashi, Y. Shigeri & K. Watanabe: Biosci. Biotechnol. Biochem., 78, 1623 (2014).

7) 渡部邦彦:日本生物工学会誌,93, 412 (2015).

8) 豊福雅典,田代陽介,野村暢彦:バイオサイエンスとインダストリー,70, 263 (2012).

9) 金沢 徹,二井将光,山登一郎,安楽泰宏:“生化学実験講座14 生体膜”,東京化学同人,1977, p. 361.

10) H. A. Bladen & J. F. Waters: J. Bacteriol., 86, 1339 (1963).

11) K. W. Knox, M. Vesk & E. Work: J. Bacteriol., 92, 1206 (1966).

12) T. J. Beveridge: J. Bacteriol., 181, 4725 (1998).

13) D. W. Dorward & C. F. Garon: Appl. Environ. Microbiol., 56, 1960 (1990).

14) L. Marsollier, P. Brodin, M. Jackson, J. Korduláková, P. Tafelmeyer, E. Carbonnelle, J. Aubry, G. Milon, P. Legras, J. Saint André et al.: PLoS Pathog., 3, e62 (2007).

15) E. Lee, D. Choi, D. Kim, J. Kim, J. Park, S. Kim, S. Kim, D. M. Desiderio, Y. Kim, K. Kim et al.: Proteomics, 9, 5425 (2009).

16) J. Rivera, R. J. B. Cordero, A. S. Nakouzi, S. Frases, A. Nicola & A. Casadevall: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 107, 19002 (2010).

17) D. Prangishvili, I. Holz, E. Stieger, S. Nickell, J. K. Kristjansson & W. Zillig: J. Bacteriol., 182, 2985 (2000).

18) B. L. Deatheragea & B. T. Cookson: Infect. Immun., 80, 1948 (2012).

19) T. N. Ellis & M. J. Kuehn: Microbiol. Mol. Biol. Rev., 74, 81 (2010).

20) 吉岡祐亮,落谷孝広:バイオインダストリー,32, 5 (2015).

21) W. D. McCaiga, A. Kollerb & D. G. Thanassi: J. Bacteriol., 195, 1120 (2013).

22) E. Marguet, M. Gaudin, E. Gauliard, I. Fourquauc, S. Olouy, I. Matsui & P. Forterre: Biochem. Soc. Trans., 41, 436 (2013).

23) J. L. Kadurugamuwa & T. J. Beveridge: J. Bacteriol., 177, 3998 (1995).

24) J. L. Kadurugamuwa & T. J. Beveridge: J. Bacteriol., 178, 2767 (1996).

25) M. J. Kuehn & N. C. Kesty: Genes Dev., 19, 2645 (2005).

26) L. M. Mashburn & M. Whiteley: Nature, 437, 422 (2005).

27) Y. Tashiro, H. Uchiyama & N. Nomura: Environ. Microbiol., 14, 1349 (2012).

28) S. N. Wai, B. Lindmark, T. Söderblom, A. Takade, M. Westermark, J. Oscarsson, J. Jass, A. Richter-Dahlfors, Y. Mizunoe & B. E. Uhlin: Cell, 115, 25 (2003).

29) M. J. Kuehn & N. C. Kesty: J. Biol. Chem., 279, 2069 (2004).

30) N. C. Kesty, K. M. Mason, M. Reedy, S. E. Miller & M. J. Kuehn: EMBO J., 23, 4538 (2004).

31) Y. Tashiro, S. Ichikawa, T. Nakajima-Kambe, H. Uchiyama & N. Nomura: Microbes Environ., 25, 120 (2010).

32) S. R. Schooling & T. J. Beveridge: J. Bacteriol., 188, 5945 (2006).

33) S. R. Schooling, A. Hubley & T. J. Beveridge: J. Bacteriol., 191, 4097 (2009).

34) A. Kulp & M. J. Kuehn: Annu. Rev. Microbiol., 64, 163 (2010).

35) M. Toyofuku, Y. Tashiro, Y. Hasegaw, M. Kurosawa & N. Nomura: Adv. Colloid Interfac., 226, 65 (2015).

36) T. T. Nguyen, A. Saxena & T. J. Beveridge: J. Electron Microsc. (Tokyo), 52, 465 (2003).

37) M. F. Haurat, J. Aduse-Opoku, M. Rangarajan, L. Dorobantu, M. R. Gray, M. A. Curtis & M. F. Feldman: J. Biol. Chem., 286, 1269 (2011).

38) A. J. McBroom & M. J. Kuehn: Mol. Microbiol., 63, 545 (2007).

39) Y. Tashiro, R. Sakai, M. Toyofuku, I. Sawada, T. Nakajima-Kambe, H. Uchiyama & N. Nomura: J. Bacteriol., 191, 7509 (2009).

40) C. Schwechheimer & M. J. Kuehn: J. Bacteriol., 195, 4161 (2013).

41) W. Hashimoto, Y. Miyamoto, M. Yamamoto, F. Yoneyama & K. Murata: Int. Microbiol., 16, 35 (2013).

42) M. Toyofuku, S. Zhou, I. Sawada, N. Takaya, H. Uchiyama & N. Nomura: Environ. Microbiol., 16, 2927 (2014).

43) D. J. Chen, N. Osterrieder, S. M. Metzger, E. Buckles, A. M. Doody, M. P. DeLisa & D. Putnam: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 107, 3099 (2010).

44) T. Song, F. Mika, B. Lindmark, Z. Liu, S. Schild, A. Bishop, J. Zhu, A. Camilli, J. Johansson, J. Vogel et al.: Mol. Microbiol., 70, 100 (2008).

45) N. Kosaka, F. Takeshita, Y. Yoshioka, K. Hagiwara, T. Katsuda, M. Ono & T. Ochiya: Adv. Drug Deliv. Rev., 65, 376 (2013).

46) N. J. Alves, K. B. Turner, M. A. Daniele, E. Oh, I. L. Medintz & S. A. Walper: Appl. Mater. Interfaces, 7, 24963 (2015).