解説

ポリフェノールパラドックス生体利用性と機能性の矛盾

Polyphenol Paradox: Contradiction between Bioavailability and Physiological Function

越阪部 奈緒美

Naomi Osakabe

芝浦工業大学システム理工学部生命科学科

Published: 2016-09-20

近年植物性食品に含まれるポリフェノール類は,食品の機能性研究の大きなターゲットの一つとなっている.ポリフェノール類を豊富に含む食品の摂取は,心血管系疾患のリスクの低減につながるが,そのメカニズムについてはいまだ不明な点が多い.その理由としては,ほとんどのポリフェノール類の生物利用性が極めて低いことにある.われわれは最近,ポリフェノール類が摂取直後から循環系・代謝系に変化を与えること,またその変化がアドレナリン受容体阻害剤で消失することを見いだした.これらのことは,ポリフェノール類が消化吸収を経ずに,交感神経を刺激することを示している.本稿では,ポリフェノールの作用メカニズム解明に対する最近のアプローチについて解説する.

ポリフェノールとは

ポリフェノールはベンゼン環に複数の水酸基が結合した化合物の総称であり,天然物はもちろんのこと,酸化防止剤として開発された合成品も含まれる.天然物としてはこれまでに8,000を超える化合物が同定され,これらはジフェニルプロパン構造をもつフラボノイド類や単純フェノール類,また加水分解型(ピロガロール型)タンニン類,縮合型(カテコール系)タンニン類に分類される(1)1) E. Haslam: “Practical Polyphenolics: From Structure to Molecular Recognition and Physiological Action,” Cambridge University Press, 2005.図1図1■ポリフェノール類の分類と化学構造).この中でも,フラボノイド類,単純フェノール類,縮合型タンニン類は食品の機能性研究のターゲットとなっており,特定保健用食品として認可されている成分も多い.フラボノイドは最も研究されているポリフェノール類であり,緑茶に含まれるカテキン類,タマネギに含まれるケルセチンなどのフラボノール類,ダイズに含まれるイソフラボン類やブルーベリーに含まれるアントシアニン類などがある.また単純フェノール類としては,カレーの色素であるクルクミンやコーヒーに含まれるクロロゲン酸などがある.一方,加水分解型タンニン類は,さらにガロタンニン類・エラジタンニン類に分類され,生薬成分として知られている.また縮合型タンニンは,一部の食品に含まれるが,その多くはリグナンとして木材に含まれる.近年の研究で得られた食品中のポリフェノール化合物の定量分析結果は,Polyphenol Explorerや米国農務省データベースに収載されている.これらデータベースを基に算出した疫学調査結果によると,一日にヒトが食事から摂取するフラボノイド類は20 mgから1 gと幅がある.この差は,食事内容に依存することはもちろんであるが,2つのデータベースにおける個別の食品中の含有量を比較した場合,数値に乖離が見られる食品も存在することから,データベースのさらなる整備が必要であると考えられる(2)2) C. Manach, A. Scalbert, C. Morand, C. Remesy & L. Jimenez: Am. J. Clin. Nutr., 79, 727 (2004).

図1■ポリフェノール類の分類と化学構造

ポリフェノールの機能性

植物性食品に含まれるポリフェノールの機能性についてはin vitroからコホートや介入試験に至るまで多種多様の研究報告がある.多くのポリフェノールはカテコールやピロガロール構造を有することから,in vitroにおいて強い抗酸化作用を有することが古くから知られている.長い間動物やヒトを用いた研究で発現するさまざまな効果が,これら抗酸化能に基づく作用であると考えられてきた.しかしながら,食事やサプリメントとしてポリフェノールを摂取した場合には,体内で代謝(後述)され化学構造が大きく変化することにより,その抗酸化能のほとんどは失われてしまう.それにもかかわらずポリフェノールの摂取により,抗炎症・抗アレルギー作用,骨粗鬆症予防作用,視覚機能調節作用,また最近では認知機能維持作用などといった有効性が報告されている.このようなポリフェノールの種々の生理機能の中でも代表的なものとしては,心筋梗塞・心不全や脳梗塞・脳卒中といった心血管系疾患のリスク低減効果が挙げられる.ポリフェノールの中でも特にフラボノイドを豊富に含む食品と心血管系疾患のリスクの関係については国内外で疫学調査が実施されており,茶(紅茶),ココアやチョコレート,リンゴ,タマネギ,赤ワイン,イチゴなどの食品の摂取頻度と心血管系疾患リスクとの間には負の相関が認められている(3)3) M. Quinones, M. Miguel & A. Aleixandre: Pharmacol. Res., 68, 125 (2013)..ほかのフラボノイド類と比較して,フラボノールには強い心血管系疾患のリスク低減が認められていることから,微細な化学構造の違いが大きく作用の発現に影響することが示唆されている.またフラボノールを豊富に含む食品の循環系に対する影響については多くの介入試験による検証結果があり(4)4) H. Sies: Arch. Biochem. Biophys., 501, 2 (2010).,ココアやチョコレートの摂取により軽度の高血圧患者の血圧が有意に低下するといった有効性が明らかとなっている.さらにフラボノールを豊富に含む食品の介入試験では,脂質異常症やインスリン感受性の改善効果が確認されている.このようなポリフェノールの有するメタボリックシンドロームのリスクファクターの改善効果が,心血管疾患リスク低減につながっていると推測される.

ポリフェノールの生体利用性

これまでの研究結果から,食事から摂取したポリフェノールの生体内における挙動はその化学構造によって大きく異なることが明らかとなっている.ほとんどのフラボノイド類は配糖体として植物中に存在しており,アグリコンのみならずその糖鎖の種類によっても動態が異なる.アグリコンのうち,カテキン・イソフラボン・フラバノール・カルコンは比較的吸収されやすいが(吸収率5~30%程度),アントシアニンや縮合型タンニンの生体への移行率は極めて低く難吸収性である(~0.1%程度)(2)2) C. Manach, A. Scalbert, C. Morand, C. Remesy & L. Jimenez: Am. J. Clin. Nutr., 79, 727 (2004)..これらの化合物はいったん腸管上皮細胞内に取り込まれ,配糖体の一部が乳糖–フロリジン加水分解酵素(LPH)やβグルコシダーゼ(CBG)の作用によって加水分解されアグリコンが切り出される.ケルセチンを例に同じアグリコンをもつ配糖体でも生体内動態が異なる結果について示す.ケルセチン4′-O-グルコシドは小腸上皮細胞内で酵素により切り出されたアグリコンが生体内に吸収されるため,血中濃度のピークが30分程度に認められるが,ケルセチン3β-ルチノシドはこの反応が起こらず,大腸に移行した後にアグリコンが切り出されるため,その血中濃度のピークは6~9時間であることが明らかとなっている.一方,その後受動拡散によってカテキンやフラバノールなどのアグリコンは上皮に取り込まれるが,アントシアニンや縮合型タンニンはトランスポーターであるP糖タンパク質や多剤排出タンパク質(MRP)を介して細胞から排出され消化管に戻る(図2図2■ポリフェノール類の腸管における挙動).このように腸管上皮細胞への取り込みと排出は,親化合物の化学構造に大きく依存するが,生体における認識機構についてはいまだ不明である.また腸管上皮細胞に取り込まれたアグリコンのほとんどはグルクロン酸転移酵素によりグルクロン酸抱合,硫酸転移酵素により硫酸抱合,カテコール-O-メチル転移酵素によってメチル化を受け,循環血流中に入る.循環血中に分泌したアグリコン代謝物は肝臓において,フェーズII肝臓代謝酵素によってさらなるメチル化,グルクロン酸抱合化または硫酸抱合体化を受け水溶性となる.これら一連のプロセスによって,活性を有する親化合物と体内に存在する代謝物の構造は全く異なるため,一般的な生体利用性(活性体の生体内への移行率)は易吸収性化合物であっても極めて低い.循環血流中のアグリコン代謝物は腎臓で一部脱抱合され,尿中に排出される.一方,吸収されずに消化管に残存したり,胆肝循環によって肝臓から消化管に排出されたポリフェノール類はそのまま大腸に到達する.大腸に存在する多様な腸内細菌叢はアグリコンおよびその代謝物のフラボノイド環構造を瞬時に分解し,フェノール酸や水酸化ケイ皮酸エステルといった低分子に分解する(図2図2■ポリフェノール類の腸管における挙動).これらの分解物の一部は大腸上皮細胞から吸収され,循環血流に分泌され,再び肝臓で二次代謝を受ける(5)5) C. P. Bondonno, K. D. Croft, N. Ward, M. J. Considine & J. M. Hodgson: Nutr. Rev., 73, 216 (2015).

図2■ポリフェノール類の腸管における挙動

LPG: 乳糖–フロリジン加水分解酵素,CEG: βグルコシダーゼ,MRP: 多剤排出タンパク質.

ポリフェノールの機能性発現メカニズム

栄養素は分解され低分子となって生体に吸収・利用される一方,プロドラッグを除く多くの生体外物質は,摂取(または投与)された活性本体が標的臓器に分布し,何らかの生化学的変化を生体分子に与えることでその活性を現す.しかしながら,ポリフェノールについてはそのようなメカニズムを想定することは難しい.前述したようにポリフェノール類は易吸収性化合物(カテキン・イソフラボン・フラバノール・カルコンなど)と難吸収性化合物(アントシアニン・縮合型タンニンなど)に大別される.難吸収性化合物はもちろんのこと,前述のように易吸収性化合物であっても生体内で代謝を受けることから,活性本体である親化合物の組織内濃度は極めて低いからである.一方で,疫学調査や介入試験においては,ポリフェノール類の摂取が心血管疾患の予防に効果的であることは明らかであり,“吸収されにくい”にもかかわらず“明らかな有用性を示す”という矛盾,すなわち本稿のタイトルともなっている「ポリフェノールパラドックス」が作用メカニズム解明のうえで大きな壁となっている.

最近では,大腸に到達し腸内細菌叢によって分解されたポリフェノール分解物が吸収され,組織に移行して生理活性を発現するという仮説の検証のため,多くの研究者が糞便中の代謝物についてメタボローム解析を実施している(6)6) S. Moco, F. P. Martin & S. Rezzi: J. Proteome Res., 11, 4781 (2012)..これらの研究結果では,摂取したポリフェノールの種類にかかわらず,糞便中にはほぼ同じ分解代謝物が検出されるため,疫学調査や介入試験で認められる化合物間の活性の差異を説明することは難しい.

一方,これまでに実施された介入試験において,ポリフェノール含有食品を摂取した後,2~4時間という短時間でFlow Mediated Dilatation(FMD)を指標とした血管内皮機能が改善されることが報告されている(4)4) H. Sies: Arch. Biochem. Biophys., 501, 2 (2010)..血管内皮機能は高血圧,高脂血症,糖尿病,肥満,運動不足,喫煙などの慢性的な要因によって障害される.また動脈硬化における血管内皮機能の低下は顕著であり,進行により心筋梗塞や脳梗塞といった心血管疾患を引き起こすことが知られている.このような長期にわたって惹起された障害が,ポリフェノール類を摂取した直後に一過的に緩和されることは非常に驚くべきことであり,多くの研究者がそのメカニズムについて解明を進めているが,いまだ詳細は明らかとなっていない.そこでわれわれもポリフェノール投与直後に起こる循環系の変動に着目し,実験動物を用いて投与後の大循環および微小循環に対する影響について検証することとした.エピカテキンおよびその重合物の画分であるflavan-3-olsをラットに強制経口投与し,投与直後からの血圧・心拍数・挙睾筋細動脈血流量の変化を60分観察したところ,血圧・心拍数は投与直後から上昇し60分後には投与前値に戻った.一方,睾丸周囲にある挙睾筋の細動脈血流量は60分間を通して顕著に上昇した.また投与60分後に摘出した大動脈における一酸化窒素合成酵素(eNOS)のリン酸化が亢進した(7)7) K. Inagawa, N. Aruga, Y. Matsumura, M. Shibata & N. Osakabe: PLoS ONE, 9, e94853 (2014)..われわれは,同様な条件下におけるエネルギー代謝の変動についても検証を行った.Flavan-3-olsをマウスに強制経口投与し,投与後24時間の呼気を分析し,エネルギー代謝量を算出したところ,有意な上昇が認められた(8)8) Y. Matsumura, Y. Nakagawa, K. Mikome, H. Yamamoto & N. Osakabe: PLoS ONE, 9, e112180 (2014)..また投与2時間後においては血中アドレナリン濃度の有意な上昇と同時に,褐色脂肪組織の熱産生タンパク質である脱共役タンパク質(UCP-1)や骨格筋におけるエネルギー代謝のキーとなる転写コアクチベーターであるペルオキシソーム増殖因子活性化受容体γコアクチベーター1α(PGC-1α)の増加が認められた.一方これらの変化は,アドレナリン受容体阻害剤の併用によって消失した(9)9) N. Kamio, R. Suzuki, Y. Watanabe, Y. Suhara & N. Osakabe: Free Radic. Biol. Med., 91, 256 (2016)..以上のことから,flavan-3-olsの投与により交感神経が興奮し,神経末端から分泌されたカテコールアミンにより,循環刺激作用やエネルギー代謝亢進作用が発現することが明らかとなった.

近年,運動の健康効果についての研究が盛んに行われているが,運動は骨格筋や骨といった運動器官に対してメカニカルストレスを及ぼし,そのストレス刺激は中枢へと伝達される.中枢ではこのようなストレスに対して,視床下部–下垂体–副腎(HPA軸)と交感神経–副腎髄質(SAM軸)がそれぞれ応答する.SAM軸の活性化により交感神経が興奮し,神経末端からノルアドレナリンが放出され,全身の臓器に分布するアドレナリン受容体を介してさまざまな生理反応が惹起される.心臓においてはβ1アドレナリン受容体に結合して心拍数の上昇が,また末梢血管平滑筋に発現するα1アドレナリン受容体と反応して血管の収縮が起こることから,一過的な心拍数・血圧の上昇が生じる.これらの循環動態の変化は血管内皮細胞にシェアストレスを負荷し,血管内皮に存在するシェアストレスセンサーに認識され,eNOSの活性化(リン酸化),つづいて一酸化窒素の生成が起こり血管が弛緩する.その結果,血圧・心拍数は投与前の水準に戻る.運動を習慣化することによって,この反応が繰り返され,eNOSの誘導や血管内皮増殖因子(VEGF)の生成により,血管の再構築や血管新生が生じ,血圧の低下につながると考えられている.

一方,実験動物にflavan-3-olsを単回投与した場合には前述したような一過性の血圧・血流の上昇が見られ,またflavan-3-olsを豊富に含む食品の介入試験においては血管内皮機能の改善が認められる.また同様にflavan-3-olsを動物に反復投与した場合には,数週間の介入試験と同様に有意な血圧の低下が認められる(10)10) N. Osakabe, J. Hoshi, N. Kudo & M. Shibata: Life Sci., 114, 51 (2014)..また運動時には,交感神経末端から放出されたノルアドレナリンが褐色脂肪組織に発現するβ3アドレナリン受容体に結合することで,熱産生タンパク質が活性化しエネルギーを熱として体外に放出する.さらに,SAM軸の活性化により副腎髄質からアドレナリンが血中に分泌され,骨格筋に発現するβ2アドレナリン受容体と反応し,PGC-1αを活性化し,糖代謝や脂質代謝を亢進することが示唆されている.前述したように,flavan-3-olsを動物に単回投与した場合にも同様の変化が認められた(図3図3■ポリフェノール経口投与後の交感神経を介した生理作用).このように,運動時とポリフェノール摂取時の循環系や代謝の変動は一致しており,いずれも交感神経の一過的な興奮によって発現した生理的変化であると考えられる.

図3■ポリフェノール経口投与後の交感神経を介した生理作用

一方,最近の報告では,食品成分の中でも強い味質をもつ成分,たとえば辛味成分であるカプサイシンやアリルイソチオシアネート,あるいは冷感をもつメントールなどが,消化管知覚神経を通じて交感神経を興奮させることが知られている(11)11) G. P. Ahern: Trends Endocrinol. Metab., 24, 554 (2013)..カプサイシンは全身に分布する侵害受容器であるtransient receptor potential vaniloid 1(TRPV1)のリガンドであり,痛みと同様な刺激を中枢に伝えストレス応答反応を惹起させ,SAM軸を通じて交感神経を興奮させることが明らかとなっている.

そこで,ポリフェノール類にも同様な作用機構が存在するかどうかについて検証することを目的に,神経毒を大量投与して作成した除知覚神経モデルラットを用いて,循環およびエネルギー代謝に及ぼすflavan-3-olsの作用について検討した.その結果,正常ラットで認められるflavan-3-ols投与後の循環刺激作用やエネルギー代謝亢進作用は除知覚神経モデルラットにおいてすべて消失した.これらのことから,ポリフェノールの一部は消化管に存在する知覚神経に認識され,その結果として交感神経を刺激する可能性が示唆された.

今後の検討課題

前述のようにポリフェノールは,フェノール性水酸基を複数もつ化合物の総称であり,抗酸化作用や心血管系疾患予防作用をもつと言われている.しかしながら,これらの化合物の作用強度には明らかな差異がある.われわれはこれまでに20種類強のカテキン・フラボノール・フラバノン・アントシアニン・イソフラボン・単純フェノール・テアフラビン(緑茶カテキンダイマー)・プロシアニジン(エピカテキンオリゴマー)に属する化合物をマウスに同用量投与した後の循環刺激作用について比較したところ,活性発現には微細な化学構造の違いが大きく影響することが示唆された(12)12) N. Aruga, M. Toriigahara, M. Shibata, T. Ishii, T. Nakayama & N. Osakabe: J. Funct. Foods, 10, 355 (2014)..これらのことは,分子量や化学構造もさまざまな8,000以上の化合物の集合体である“ポリフェノール”をひとくくりにして,その活性を議論することは妥当ではないことを示している.今後のポリフェノールの機能性研究においてはいくつもの課題があるが,その一つとして統一された評価系による化合物の作用強度・作用特性を明らかにすることが挙げられるだろう.また次の課題として適切な摂取量の設定がある.われわれは最近,flavan-3-olsまたはその構成成分を数用量動物に投与し,循環刺激作用ならびにエネルギー代謝亢進作用について用量反応性を検討したところ,食品から摂取可能な用量においてはいずれの作用も発現したが,食品から摂取不可能な高用量では効果が消失するという興味深い現象を確認している.また,単独では効果の見られない高用量とα2アドレナリン受容体阻害剤の併用実験では,いずれの作用も強く発現した.この結果は,高用量投与による交感神経の過度な興奮を上位の中枢に存在するα2アドレナリン受容体が抑制した(ネガティブフィードバック)と考えられ,化合物によって適切な用量が存在することを示唆している.さらに最も大きな課題としては,ポリフェノール作用発現メカニズムにおける脳–消化管軸の役割の解明である.前述のように,ポリフェノールが消化管知覚神経を介して認識されている可能性が示唆されてはいるものの,現在までその詳細は明らかとなっていない.この課題を解明することによって,簡便な評価系が構築することができ,第一の課題として挙げた化合物間の比較が可能となる.また,同様に第二の課題に挙げた適切な用量の設定も容易になることが予測され,ポリフェノールの作用メカニズム研究は画期的に前進すると考えられる.

以上のように,ポリフェノールの作用発現メカニズム,特に脳–消化管軸による作用機構の解明についてはいまだ多くの課題を抱えているのが現状ではあるが,近い将来全容が解明されることであろう.

Reference

1) E. Haslam: “Practical Polyphenolics: From Structure to Molecular Recognition and Physiological Action,” Cambridge University Press, 2005.

2) C. Manach, A. Scalbert, C. Morand, C. Remesy & L. Jimenez: Am. J. Clin. Nutr., 79, 727 (2004).

3) M. Quinones, M. Miguel & A. Aleixandre: Pharmacol. Res., 68, 125 (2013).

4) H. Sies: Arch. Biochem. Biophys., 501, 2 (2010).

5) C. P. Bondonno, K. D. Croft, N. Ward, M. J. Considine & J. M. Hodgson: Nutr. Rev., 73, 216 (2015).

6) S. Moco, F. P. Martin & S. Rezzi: J. Proteome Res., 11, 4781 (2012).

7) K. Inagawa, N. Aruga, Y. Matsumura, M. Shibata & N. Osakabe: PLoS ONE, 9, e94853 (2014).

8) Y. Matsumura, Y. Nakagawa, K. Mikome, H. Yamamoto & N. Osakabe: PLoS ONE, 9, e112180 (2014).

9) N. Kamio, R. Suzuki, Y. Watanabe, Y. Suhara & N. Osakabe: Free Radic. Biol. Med., 91, 256 (2016).

10) N. Osakabe, J. Hoshi, N. Kudo & M. Shibata: Life Sci., 114, 51 (2014).

11) G. P. Ahern: Trends Endocrinol. Metab., 24, 554 (2013).

12) N. Aruga, M. Toriigahara, M. Shibata, T. Ishii, T. Nakayama & N. Osakabe: J. Funct. Foods, 10, 355 (2014).