Kagaku to Seibutsu 54(10): 747-752 (2016)
セミナー室
プロシアニジンの機能性
Published: 2016-09-20
© 2016 Japan Society for Bioscience, Biotechnology, and Agrochemistry
© 2016 公益社団法人日本農芸化学会
近年,ヒトの健康維持・増進に寄与する機能性食品成分が注目され,抗酸化能をはじめ,生活習慣病予防・改善,抗がん,免疫促進,抗アレルギー,血流促進,認知症予防など多くの生理機能が報告されている.しかし,それぞれの機能の作用機構は,効果を示す機能性食品成分の構造によって異なることから,その全貌解明は困難な課題である.本稿で取り上げるプロシアニジンは,フラバン-3-オール構造をもつ難吸収性のポリフェノールである.難吸収性でありながらもさまざまな機能性を示す.ここでは,その一部についての作用機構を概説する.また,筆者らが近年明らかにしたプロシアニジンの生理機能についても紹介する.
プロシアニジンは,フラボノイド類のフラバン-3-オールに属し,エピカテキンあるいはカテキンが縮合したオリゴマーあるいはポリマー(2~15量体)として存在する,植物の二次代謝産物である.構造の一例を図1図1■プロシアニジンの構造例に示す.カカオや黒大豆,シナモン,ナッツ,アップル,グレープシードなどの食品に多く含まれている.フラバン-3-オールは,A, BとC環を基本骨格とし,3, 5, 7, 3′あるいは4′がヒドロキシル結合した構造をもち,平面ではなく通常は立体構造をとっている.たとえば,3位がヒドロキシル化されたグループは2つの立体構造が存在し,2,3-シスアイソマーは(-)-エピカテキンで,2,3-トランスアイソマーが(+)-カテキンである.これらの基本骨格をもつ単量体がいずれもC4–C8結合かC2–O–C7結合することによりオリゴマーが形成されている.その結合様式によりアイソマーが2つに大別され,C4–C8あるいはC4–C6結合したものをB-タイプと称し,C2–O–C7結合したものはA-タイプと称す.自然界に存在するプロシアニジンは,(-)-エピカテキンからなるもののほうが,(+)-カテキンから構成されるものより多く発見されており,主にB-タイプである.しかし,植物内でモノマーからオリゴマーに生合成される詳細な経路に関しては,まだ十分に解明されていない.一方で,フラバン-3-オールの酸化によるキノン構造が,ほかのオリゴマー形成に重要であるとの報告もなされている(1)1) S. V. Verstraeten, C. G. Fraga & P. I. Oteiza: Food Funct., 6, 32 (2015)..立体構造の特徴として,まず基本骨格となる(-)-エピカテキンのB環が垂直に曲がっている.これにより,二量体のプロシアニジンB2の[(-)-エピカテキン(C4–C8),(−)-エピカテキン]とプロシアニジンB1[(−)-エピカテキン(C4–C8)(+)-カテキン]は,いずれも同じようなU字カーブを描き,二つのB環同士が重なり合う構造をとっている.一方で,C2–O–C7結合したプロシアニジンA2は,2つの(-)-エピカテキンが重なり合わない.このような現象は付加的な結合だけでなく立体結合でも認められ,ヒドロキシグループの3位が分子の立体構造を位置づける重要な役割を果たしている.さらに高重合なプロシアニジンでは,ねじれ構造をとる.たとえば(-)-エピカテキン(C4–C8)が結合した四量体では,左側にねじれた立体配置をとる.このような結合様式や立体構造の差で,脂質やタンパク質,糖や核酸などのほかの化合物との親和性も変わる.さらに,分子構造の違いにより体内動態や生体機能が異なる点が興味深い.水酸基による抗酸化能に着目すれば,オリゴマーであるプロシアニジンは抗酸化性が高いと期待できる.重合度の高い高分子化合物は,モノマーと比べると腸管からほとんど吸収されないと考えられるが,その一方で,さまざまな生理機能が報告されている.プロシアニジンは,1990年代になってようやく標品が得られるようになり,生体調節能についての科学論文が顕著に増加したのもこの時期以降であり,まだ歴史がそう長くはないが,現在注目が高まっている化合物である.
プロシアニジンは,上述のとおり結合様式によってさまざまな立体構造や重合度の違いがあるため,体内動態が違うことが予想される.したがって,生体における機能性を考えるうえでの体内動態解明の重要性は高く,研究者の関心が集まっている.近年,in vitroやin vivo試験でプロシアニジンの消化吸収に関する研究結果が報告されてきている(2)2) L. Zhang, Y. Wang, D. Li, C. T. Ho, J. Li & X. Wan: Food Funct., 7, 1273 (2016)..まず,胃におけるプロシアニジンの消化と安定性については,胃酸のような低いpH条件下(pH 2.0)で,モノマーのエピカテキンやカテキンにまで分解されると報告されている(2)2) L. Zhang, Y. Wang, D. Li, C. T. Ho, J. Li & X. Wan: Food Funct., 7, 1273 (2016)..ただし,その分解は必ずしもC4–C8あるいはC4–C6で開裂したモノマーになるとは限らない.一方で,胃液がプロシアニジンを懸濁した水などの溶媒で薄まり,pH 5.0付近まで上昇した際には,プロシアニジンは分解されない.つまり,消化吸収を考えるうえでpHが炭素と炭素の結合を切ることに大きく影響する.加えて,ほかの栄養成分と同時に摂取した際には,また挙動が変化することもわかっている(2)2) L. Zhang, Y. Wang, D. Li, C. T. Ho, J. Li & X. Wan: Food Funct., 7, 1273 (2016)..たとえば,胃酸分泌を上昇させる高炭水化物食と同時にプロシアニジンを摂取させると,二量体や三量体の胃酸での分解が増加する(2)2) L. Zhang, Y. Wang, D. Li, C. T. Ho, J. Li & X. Wan: Food Funct., 7, 1273 (2016)..つまり,プロシアニジンが胃でどのような作用を受けるかに関しては,ほかのさまざまな因子の影響を受けるため,今後より詳細な胃内での動態検証が求められる.つづいて,腸における動態については,in vivo試験の報告によると,小腸でプロシアニジン二量体は直接受動輸送されるが,輸送可能なプロシアニジンは重合度により異なるとの報告がある.基本的にプロシアニジン四量体以上は吸収されないという報告が大半を占めるが,使用する動物種や投与方法によって得られる結果は異なっており,in vivoにおいてプロシアニジン二量体,三量体,またはそれ以上のポリマーが直接吸収されるかについては,まだ解明されていない点が多い.表1表1■プロシアニジンの体内動態に,これまでにプロシアニジン化合物あるいはプロシアニジンを高含有する食品を投与した際の動態についての報告例をまとめた(2)2) L. Zhang, Y. Wang, D. Li, C. T. Ho, J. Li & X. Wan: Food Funct., 7, 1273 (2016)..これらの報告によると,多くはカテキンやエピカテキンなどの単量体とそれらのメチル化物,あるいは抱合体として血中に検出されている.Babaら(3)3) S. Baba, N. Osakabe, M. Natsume & J. Terao: Free Radic. Biol. Med., 33, 142 (2002).は,ラットにプロシアニジン二量体を投与した際の血漿をスルファターゼ処理すると,プロシアニジンB2,エピカテキンならびにそのメチル化物3′-O-メチルエピカテキンが血中に検出され,尿中にも抱合体あるいは非抱合体が検出されることを明らかにしている.また,多くのプロシアニジンは腸内細菌によって代謝を受けることも報告されている(2)2) L. Zhang, Y. Wang, D. Li, C. T. Ho, J. Li & X. Wan: Food Funct., 7, 1273 (2016)..代謝されて生じるフェノール酸は,主にフェニル酢酸,安息香酸誘導体,フェニルバレロラクトンであるという報告(2)2) L. Zhang, Y. Wang, D. Li, C. T. Ho, J. Li & X. Wan: Food Funct., 7, 1273 (2016).があるが,詳細についてはまだわかっていない.ラットの腸内細菌に4種の二量体(B-typeエピカテキン,A-typeエピカテキン,A-typeエピカテキンガレート,A-typeエピガロカテキンガレート)を反応させたところ,構造によって得られる代謝物は異なること,また同一化合物でも腸内細菌の代謝時間に応じて,抗酸化能が変化することが報告されている(4)4) Z. Z. Ge, X. Q. Dong, W. Zhu, Y. Zhang & C. M. Li: J. Agric. Food Chem., 63, 8991 (2015)..
Sample | Subject | Administractive method | Dose (mg kg-1) | Plasma analytes | Pharmacokinetics parameters |
---|---|---|---|---|---|
PB2 | SD rats | i.g. | 50 | PB2, EC, 3′OMEC | Plasma Cmax, urinary excretion. PB2>EC>3′OMEC |
[14C]PB2 | Wister rats | i.v. | 21 | — | 8–11% oral-bioavailability |
i.g. | 21, 10.5 | — | |||
PB3, Gtyl Grape seed extract(GSE) | Wistar rats | Diet supplement | 20(PC3), 200 and 400 GSE | EC, C, methyl EC and C in GSE group | — |
Grape seed extract | Wistar rats | i.g. | 1000 | C, EC, (methyl)glucuronidased C and EC, dimer, trimer | EC>C>dimer>EGCG>trimer |
Grape seed extract | Wistar rats | i.g. | 1000 | C, EC, dimer, trimer | Trimer>dimer>EC>C |
Grape seed extract | SD rats | i.g. | 300×2 | EC, C, methyl EC and C, dimer, trimer | — |
Grape seed extract | SD rats | i.g. | 1000 | (Methyl)glucuronidated EC, C, metyl-sulfated EC and C | — |
Procyanidin extract and cocoa cream | Wistar rats | i.g. | 1000+50 | (Methyl)glucuronidated EC, C, methyl-sulfated EC and C, dimer, trimer | EC>C>dimer>trimer |
Cocoa | Human | i.g. | 357 | EC, C, PB2 | EC>C>PB2 |
Apple procyanidin | Wistar rats | Intragastric injections | 1000 | C, EC, PB1, PB2, PC | — |
PB2, A1, A2, A-type DP3, A-type DP4 | Wistar rats | In site perfusion of intestine | 100 µmol L-1 | PA1, PA2, PB2 | 5–10% absorption |
i.v., intravenous; i.g., intragastric; EC,(−)-Epicatechin; C, (+)-catechin; 3′OMEC, 3′-O-methyl-EC; PB1, procyanidin dimer B1; PB2, procyanidin dimer B2; [14C]PB2, 14C-labelled procyanidin dimer B2; PBA1, procyanidin dimer A1: PBA2, procyanidin dimer A2; DP3, trimer procyanidin; DP4, tetramer procyanidin |
近年では,プロシアニジン化合物レベルでの動物実験も増えてはきているものの,これまでの実験のほとんどはプロシアニジンを多く含む組成物を摂取させた実験であり,その由来する食品の特性やほかの成分との相互作用,抽出方法によっても体内動態が異なっている.
プロシアニジンの抗酸化能や,それを介した抗炎症効果をはじめとするさまざまな生理機能が数多く報告されている.筆者らも,プロシアニジン二~四量体とエピカテキンを用いて,2,2′-アゾビス(2-メチルプロピオンアミジン)(AAPH)ラジカル吸収能の評価を行ったところ,(-)-エピカテキン,(+)-カテキン,二量体のプロシアニジンB1, B2,三量体のプロシアニジンC,ならびに四量体のシンナムタンニンA2のAAPHラジカル吸収能は,ほかの抗酸化性物質と比べて高く,特に(-)-エピカテキンが最も高い抗酸化能を示すことを明らかにした(5)5) Y. Yoshioka, L. Xiu, T. Zhang, T. Mitani, M. Yasuda, F. Nanba, T. Toba, Y. Yamashita & H. Ashida: J. Clin. Biochem. Nutr., in press (2016)..また,肝細胞HepG2にこれらの各ポリフェノール化合物を作用させ,活性酸素(ROS)産生の抑制効果を2′,7′-ジクロロフルオレセインジアセタート(DCFH)法を用いて定量するとともに,DCFに由来する蛍光を顕微鏡下で観察して評価した.その結果,いずれのプロシアニジン化合物も,有意にROSの産生を抑制した.さらに,酸化的DNA損傷の抑制効果について,これらのプロシアニジン化合物をHepG2細胞に作用させ,AAPHが誘導する8-ヒドロキシデオキシグアノシン(8-OHdG)量をLC-MS/MSを用いて測定したところ,いずれの化合物もAAPHにより誘導された8-OHdGの生成を有意に抑制した(5)5) Y. Yoshioka, L. Xiu, T. Zhang, T. Mitani, M. Yasuda, F. Nanba, T. Toba, Y. Yamashita & H. Ashida: J. Clin. Biochem. Nutr., in press (2016)..また,プロシアニジンは,抗変異原性や小核形成抑制効果を示すことも明らかにした(6)6) T. Zhang, S. Jiang, C. He, Y. Kimura, Y. Yamashita & H. Ashida: Mutat. Res., 752, 34 (2013)..これらのことから,プロシアニジンは,その高い抗酸化能により,酸化的DNA損傷を効果的に抑制できることがわかった.
さまざまなポリフェノールが,環境汚染物質などによる細胞損傷や炎症に対して,薬物代謝促進作用を介して抑制することが報告されている.たとえば筆者らは,フラボノイド類が無細胞系や培養細胞系において芳香族炭化水素受容体(AhR)の形質転換(活性化)を阻害することが明らかにしており,カカオ由来のプロシアニジン組成物についても,ダイオキシン類のテトラクロロジベンゾジオキシン(TCDD)によって誘導されるAhRの活性化抑制作用を有し,なかでも四量体シンナムタンニンA2の抑制効果が最も強いと報告している(7)7) R. Mukai, I. Fukuda, S. Nishiumi, M. Natsume, N. Osakabe, K. Yoshida & H. Ashida: J. Agric. Food Chem., 56, 10399 (2008)..さらに,プロシアニジンについて,化学発がん物質であるベンゾ[a]ピレン[B(a)P]が誘導するDNA損傷に対して抑制効果を発揮することを明らかにした(6)6) T. Zhang, S. Jiang, C. He, Y. Kimura, Y. Yamashita & H. Ashida: Mutat. Res., 752, 34 (2013)..肝細胞あるいはマウスより摘出した肝臓において,B(a)Pが誘導する薬物代謝酵素のシトクロームP4501A1(CYP1A1)の発現と,核におけるAhRとの結合抑制が作用機序の一端を担うことを明らかにした.また,グルタチオンS-トランスフェラーゼの発現を上昇させる効果が,B(a)Pの解毒・代謝に寄与していると推測した(6)6) T. Zhang, S. Jiang, C. He, Y. Kimura, Y. Yamashita & H. Ashida: Mutat. Res., 752, 34 (2013)..これらのことから,プロシアニジンは,化学発がん物質により誘導される薬物代謝第I相酵素の発現を抑制し,一方で薬物代謝第II相酵素の発現を増加させることで化学発がん物質の解毒代謝を促進する食品因子の一つであると言える.
プロシアニジンは肝臓において,上述した抗酸化能や薬物代謝促進作用に伴って肝損傷に対して抑制あるいは保護作用を有することが明らかとなっている.筆者らも,黒大豆より抽出したプロシアニジン高含有組成物を用いて,肝損傷抑制効果を検討した.実験マウスに四塩化炭素(CCl4)を投与することで,肝障害を誘導した.肝障害誘導期間中にプロシアニジン組成物をAIN-93M飼料に混餌して与え,これらのマウスの肝線維化を評価した(山下ら,未発表).CCl4により上昇したマウス血漿のASTとALT活性を,プロシアニジン組成物は濃度依存的に抑制した.組織病理学検査において,CCl4が誘導した肝細胞の変性と壊死,ならびに炎症細胞の浸潤をプロシアニジン組成物は抑制した.また,CCl4により,肝線維化にかかわる分子マーカーと炎症マーカーの発現量が増加したが,プロシアニジン組成物はこれらの発現量を有意に低下させた.さらに,CCl4による肝臓の脂質過酸化の上昇も,プロシアニジン組成物は有意に抑制した.これらの効果には,CCl4による抗酸化酵素の活性低下をプロシアニジンが抑制していることが関わると推測した.Wangら(8)8) Z. Wang, Z. Zhang, N. Du, K. Wang & L. Li: Altern. Ther. Health Med., Suppl. 2, 12 (2015).やYangら(9)9) B. Y. Yang, X. Y. Zhang, S. W. Guan & Z. C. Hua: Molecules, 20, 12250 (2015).の報告においても,プロシアニジンB2を実験動物に摂取させると,CCl4誘導性肝繊維化が抑制され,トランスフォーミング増殖因子(TGF-β1)とマロンジアルデヒド(MDA)の生成が抑制されると報告している.以上のことから,プロシアニジン類は肝臓において,さまざまな作用機序によって炎症や障害に対して保護あるいは改善作用を有する可能性があると考えられる.
プロシアニジンやそれを多く含む食品が,糖代謝を促進し,高血糖の予防改善を含めた健康の維持増進に及ぼす効果が報告されている.たとえば,ダークチョコレートを摂取すると,健常人ではインスリン感受性が高まること(10)10) A. Kerimi & G. Williamson: Vascul. Pharmacol., 71, 11 (2015).,カカオポリフェノールを摂取させた肥満II型糖尿病モデルのdb/dbマウスでは,高血糖の進行を抑制することが報告されている(11)11) M. Tomaru, H. Takano, N. Osakabe, A. Yasuda, K. Inoue, R. Yanagisawa, T. Ohwatari & H. Uematsu: Nutrition, 23, 351 (2007)..グレープシードのプロシアニジンも,II型糖尿病モデルマウスにおいて高血糖を抑制すると報告されている(12)12) Z. Zhang, B. Y. Li, X. L. Li, M. Cheng, F. Yu, W. D. Lu, Q. Cai, J. F. Wang, R. H. Zhou, H. Q. Gao et al.: Biochim. Biophys. Acta, 1832, 805 (2013)..筆者らも黒大豆種皮由来のプロシアニジン組成物が,糖尿病や肥満を抑制することを報告した.その作用機序の一端は,消化管に存在するL細胞から分泌される消化管ホルモンのグルカゴン様ペプチド-1(GLP-1)の分泌を促進し,それに伴ってインスリン分泌の促進に寄与していることを明らかにした(13)13) Y. Yamashita, M. Okabe, M. Natsume & H. Ashida: Biosci. Biotechnol. Biochem., 77, 888 (2013)..GLP-1は,インスリン分泌以外にもさまざまな代謝調節を制御するホルモンとして近年注目されている.現在までに報告されている作用機構を図2図2■GLP-1の生理作用に示す.González-Abuínら(14)14) N. González-Abuín, N. Martínez-Micaelo, M. Blay, A. Ardévol & M. Pinent: J. Agric. Food Chem., 62, 1066 (2014).も,グレープシードプロシアニジンがGLP-1分泌の促進と,さらにGLP-1を失活させるDPP-4の阻害作用をもつことを報告しており,このことは,プロシアニジン類が消化管内で,すでに初発の機能を発揮していることを示唆している.また,別の作用機構として,筆者らはインスリン非依存的に,AMP活性化プロテインキナーゼ(AMPK)のリン酸化を介してグルコース輸送担体4型(GLUT4)の細胞膜への移行を促進し,筋肉へのグルコース取り込みを上昇させることも明らかにした(15)15) Y. Yamashita, M. Okabe, M. Natsume & H. Ashida: Arch. Biochem. Biophys., 527, 95 (2012)..AMPKは図3図3■AMPKの作用機構に示すとおり,エネルギー調節にも深くかかわっている.特に,体熱産生やミトコンドリアの生合成にかかわる脱共役タンパク質(UCP)やPeroxisome proliferator-activated receptor gamma coactivator-1α(PGC-1α)の発現上昇をもたらし,インスリン抵抗性や肥満の予防・改善にも寄与することが期待される分子ターゲットである.AMPKを介した脂質代謝促進作用については次項で述べるが,筆者ら(15)15) Y. Yamashita, M. Okabe, M. Natsume & H. Ashida: Arch. Biochem. Biophys., 527, 95 (2012).は高脂肪食摂取によるインスリン抵抗性を惹起したマウスにおいて,GLUT4の発現量低下をプロシアニジン高含有組成物が抑制することも見いだし,その際にAMPKの活性化が関与することも明らかにした.また,グレープシード由来プロシアニジンB2についても,高糖質誘導性のミトコンドリア機能異常に対して,AMPK–SIRT1–PGC1αの経路を介して糖尿病性神経症の改善に寄与する可能性も報告されている(16)16) X. Cai, L. Bao, J. Ren, Y. Li & Z. Zhang: Food Funct., 7, 805 (2016)..
CAMKK: calcium-calmodulin-dependent protein kinase kinase
LKB1: liver kinase B1
ACC: acetyl-CoA carboxylase
CPT-1: Carnitine palmitoyltransferase I
GLUT4: Glucose transporter 4
SIRT1: Sirtuin 1
PGC1α: Peroxisome proliferator-activated receptor gamma coactivator 1-alpha
CREB: cAMP response element binding protein
UCP: Uncoupling protein
AMPKα: AMP-activated protein kinase
プロシアニジンの脂質代謝促進や肥満・脂肪蓄積抑制効果については種々の報告がなされてきつつあるものの,いずれもプロシアニジン高含有組成物を用いた実験であるとともに,その詳細な作用機構はまだ十分に解明されていない.筆者らがマウスを用いて食事誘導性の高血糖や肥満に及ぼすプロシアニジン組成物の効果を検討したところ,カカオならびに黒大豆由来のプロシアニジン高含有組成物は,AMPKのリン酸化を亢進させることで,熱産生に関連するUCPや,ミトコンドリアの発生に関連するPGC-1αの遺伝子発現を上昇させ,エネルギー産生を促進し,高脂肪食摂取による脂肪蓄積の予防に寄与していることを明らかにした(15, 17)15) Y. Yamashita, M. Okabe, M. Natsume & H. Ashida: Arch. Biochem. Biophys., 527, 95 (2012).17) Y. Kanamoto, Y. Yamashita, F. Nanba, T. Yoshida, T. Tsuda, I. Fukuda, S. Nakamura-Tsuruta & H. Ashida: J. Agric. Food Chem., 59, 8985 (2011)..Kamioら(18)18) N. Kamio, T. Suzuki, Y. Watanabe, Y. Suhara & N. Osakabe: Free Radic. Biol. Med., 91, 256 (2016).も,プロシアニジンを単回投与すると,エネルギー代謝を上昇させ,褐色脂肪組織中のUCP-1発現を増加させること,さらにその作用機構には神経伝達物質が関与していることを報告している.また,プロシアニジンを反復投与した際にも,骨格筋におけるPGC-1αとUCPの発現上昇に伴って,ミトコンドリア新生が促されることも報告している.エネルギー代謝に対して大きく影響を与える交感神経系を,プロシアニジンは消化管内ですでに刺激し(18)18) N. Kamio, T. Suzuki, Y. Watanabe, Y. Suhara & N. Osakabe: Free Radic. Biol. Med., 91, 256 (2016).,その結果として分泌されるカテコールアミンが全身性の代謝促進作用を発揮している可能性が考えられている(19)19) Y. Matsumura, Y. Nakagawa, K. Mikome, H. Yamamoto & N. Osakabe: PLoS ONE, 9, e112180 (2014)..以上のことから,プロシアニジンはまず初発段階として,消化管内における何らかの受容体に作用し,分子機構を変化させることで抹消組織における代謝調節を制御する可能性が高いと考えられ,その詳細な作用機構の早期究明が求められる.
これまで,ポリフェノールをはじめとする食品由来の機能性成分は,小腸酵素活性を阻害することで,消化管からの糖や脂肪の吸収を抑制する作用を標的として,生体調節機能や生活習慣病予防に寄与することが報告されてきた(20)20) R. Libro, S. Giacoppo, T. Soundara Rajan, P. Bramanti & E. Mazzon: Molecules, 21, 518 (2016)..プロシアニジンと同様に難吸収性のポリフェノールであるテアフラビンは,小腸でのα-グルコシダーゼ阻害作用を有することが報告されている(21)21) E. Lo Piparo, H. Scheib, N. Frei, G. Williamson, M. Grigorov & C. J. Chou: J. Med. Chem., 51, 3555 (2008)..一方,たいへん興味深いことにプロシアニジンがこの活性阻害に関与する報告は少ない.筆者ら(15)15) Y. Yamashita, M. Okabe, M. Natsume & H. Ashida: Arch. Biochem. Biophys., 527, 95 (2012).も,in vitroとin vivoの両方でα-グルコシダーゼ活性を測定したところ,in vitro試験ではプロシアニジンは活性阻害作用を示すものの,in vivoでは活性阻害が認められないという結果を得ており,ほかの因子との相互作用や別の経路が血糖調節に関与していると考えている.
脂質代謝にかかわるリパーゼ活性阻害に関しては,プロアントシアニジンによる活性阻害作用が報告されている.たとえば,プロシアニジンがin vitroあるいはin vivo試験の両方でリパーゼ阻害作用を発揮し,二量体から五量体では重合度依存的に阻害活性が高まることを明らかにしている(22)22) H. Sugiyama, Y. Akazome, T. Shoji, A. Yamaguchi, M. Yasue, T. Kanda & Y. Ohtake: J. Agric. Food Chem., 55, 4604 (2007)..さらに,動物実験において脂質負荷試験を行った場合に,トリグリセリドの吸収量がプロシアニジンの1時間前処理により抑制されることを確認している(22)22) H. Sugiyama, Y. Akazome, T. Shoji, A. Yamaguchi, M. Yasue, T. Kanda & Y. Ohtake: J. Agric. Food Chem., 55, 4604 (2007)..しかしながら,その作用機序の詳細はまだ十分に判明しておらず,重合度による活性の違いについても解明が急がれる.
プロシアニジンは,抗酸化能をはじめとしてさまざまな生体調節機能を有することが報告されている.プロシアニジンを多く含む食材は,カカオやシナモン,黒大豆のように世界的に広く親しまれ,そして歴史的にも食経験の長い食材であるため,これらの食材が人々の健康維持増進に寄与することが多いに期待できる.しかしながら,現時点では組成物での評価が多く,化合物ごとで作用機序や体内動態の異なるプロシアニジンの評価は不明な点が多いが,それが逆に研究者の興味を引き寄せている理由とも言えるであろう.化合物レベルでの分子標的もまだ十分に解明されていないことと,重合度の違いあるいは立体構造の違いによる生体調節能の比較もほとんどなされていないことや,ヒトでの体内動態やその検証も不十分な点が多く残されていることから,今後のより詳細な科学的検証が求められる.また,筆者らの動物実験でも観察されたことであるが,プロシアニジンはごく微量で効果を発揮することがわかっている(23)23) Y. Yamashita, L. Wang, F. Nanba, C. Ito, T. Toda & H. Ashida: PLoS ONE, in press (2016)..そのため,生体でのより生理的な濃度域での検証や安全性評価も十分に行うことで,機能性表示食品などへと実用化し,社会貢献にもつなげられると考えている.また,そのほかの食品との食べ合わせや摂取するタイミングなど,生体で起こっている現象はさまざまな要素と複合的にかかわりあっているため,その点を踏まえて今後も健康の維持増進に寄与する機能性食品成分の科学的エビデンスを追求していきたい.
Reference
1) S. V. Verstraeten, C. G. Fraga & P. I. Oteiza: Food Funct., 6, 32 (2015).
2) L. Zhang, Y. Wang, D. Li, C. T. Ho, J. Li & X. Wan: Food Funct., 7, 1273 (2016).
3) S. Baba, N. Osakabe, M. Natsume & J. Terao: Free Radic. Biol. Med., 33, 142 (2002).
4) Z. Z. Ge, X. Q. Dong, W. Zhu, Y. Zhang & C. M. Li: J. Agric. Food Chem., 63, 8991 (2015).
6) T. Zhang, S. Jiang, C. He, Y. Kimura, Y. Yamashita & H. Ashida: Mutat. Res., 752, 34 (2013).
8) Z. Wang, Z. Zhang, N. Du, K. Wang & L. Li: Altern. Ther. Health Med., Suppl. 2, 12 (2015).
9) B. Y. Yang, X. Y. Zhang, S. W. Guan & Z. C. Hua: Molecules, 20, 12250 (2015).
10) A. Kerimi & G. Williamson: Vascul. Pharmacol., 71, 11 (2015).
13) Y. Yamashita, M. Okabe, M. Natsume & H. Ashida: Biosci. Biotechnol. Biochem., 77, 888 (2013).
15) Y. Yamashita, M. Okabe, M. Natsume & H. Ashida: Arch. Biochem. Biophys., 527, 95 (2012).
16) X. Cai, L. Bao, J. Ren, Y. Li & Z. Zhang: Food Funct., 7, 805 (2016).
19) Y. Matsumura, Y. Nakagawa, K. Mikome, H. Yamamoto & N. Osakabe: PLoS ONE, 9, e112180 (2014).
20) R. Libro, S. Giacoppo, T. Soundara Rajan, P. Bramanti & E. Mazzon: Molecules, 21, 518 (2016).
23) Y. Yamashita, L. Wang, F. Nanba, C. Ito, T. Toda & H. Ashida: PLoS ONE, in press (2016).