今日の話題

クラスター効果による糖鎖の相互作用N-結合型糖鎖,糖脂質およびグリコサミノグリカンに見る糖鎖の相互作用のしくみ

Yota Tatara

多田羅 洋太

弘前大学大学院医学研究科附属高度先進医学研究センター

Published: 2016-10-20

タンパク質と糖との相互作用は一般的に弱く,これにより非特異的な結合が抑制されている.では,タンパク質が糖を認識して働く場合,どのようにして糖に結合しているのか.生体内における糖の存在形態を観察してみると,そのしくみが見えてくる.糖タンパク質のN-結合型糖鎖の多くは非還元末端側が2残基以上に枝分かれしている.また細胞表面の糖脂質は脂質ラフトに集合しており,この部分では糖鎖の密度が高い.同じく細胞表面のプロテオグリカンに共有結合しているグリコサミノグリカン糖鎖にはタンパク質が結合するドメインが存在するが,このドメインが密に集まっている場合にその機能が発揮される.以上のように,生体内でタンパク質と相互作用する糖鎖は多くの場合,複数の糖鎖が集合した状態で存在していると言うことができる.実はこの「糖鎖の集合」にタンパク質との相互作用を可能にするしくみがあり,糖のクラスター効果と呼ばれている(1, 2)1) M. Mammen, S. K. Choi & G. M. Whitesides: Angew. Chem. Int. Ed., 37, 2754 (1998).2) O. Hayashida, K. Mizuki, K. Akagi, A. Matsuo, T. Kanamori, T. Nakai, S. Sando & Y. Aoyama: J. Am. Chem. Soc., 125, 594 (2003)..以下に具体的な例を見ていきたい.

細胞外に存在するタンパク質のほとんどは糖鎖が付加され,その特異的な機能を発揮する.糖タンパク質の糖鎖はタンパク質の選別や,免疫,炎症,病原性認識,がん転移などの細胞内プロセスにおける生物学的機能を担う.タンパク質のアスパラギン残基に共有結合するN-結合型糖鎖の還元末端側の5糖(コア5糖)は共通となっているが,非還元末端側の構造には多様性があり2分岐型,3分岐型といった分岐度の違いが見られる.この枝分かれ構造がクラスター効果を発揮してタンパク質と相互作用する例として,マクロファージのマンノース受容体が挙げられる(図1A図1■クラスター効果による糖鎖の結合).マンノース受容体は糖タンパク質のエンドサイトーシスを媒介する働きをもつ.このマンノース受容体はシステインリッチドメインと,フィブロネクチンII型リピート配列,8つのカルシウムイオン依存性の糖鎖認識ドメイン(carbohydrate-recognition domains; CRDs)をもつ.このうち結合したリガンドのエンドサイトーシスに関与するのはCRDである.一つのCRDに対して単糖が結合することができるが,それだけでは結合親和性は低い.エンドサイトーシスには,リガンドとなる糖タンパク質の糖鎖の枝分かれに対応するように,CRDも最低3つのドメインが必要とされる(3, 4)3) M. E. Taylor, K. Bezouska & K. Drickamer: J. Biol. Chem., 267, 1719 (1992).4) W. I. Weis, K. Drickamer & W. A. Hendrickson: Nature, 360, 127 (1992).

図1■クラスター効果による糖鎖の結合

細胞膜にはスフィンゴ脂質やスフィンゴ糖脂質,コレステロールからなる脂質ラフトと呼ばれるマイクロドメインが存在し,この脂質ラフトが細胞活性化シグナルの足場としての役割をもつことが明らかになりつつあり注目されている.細胞膜のガングリオシドGM3のほとんどは脂質ラフトに集合しているが(図1B図1■クラスター効果による糖鎖の結合),そのほかにもc-Src, Ras, Rho, focal adhesion kinase(FAK)といったシグナルを仲介する分子が集合しており,GM3がガングリオトリオシルセラミドやラクトシルセラミドと相互作用することでシグナルが活性化する.このように脂質ラフトに集合した糖脂質は情報伝達にかかわるタンパク質の機能を調節し,細胞認識やシグナル伝達の調節に関与する可能性が示唆されている(5~7)5) N. Kojima & S. Hakomori: J. Biol. Chem., 264, 20159 (1989).6) N. Kojima, M. Shiota, Y. Sadahira, K. Handa & S. Hakomori: J. Biol. Chem., 267, 17264 (1992).7) K. Iwabuchi, S. Yamamura, A. Prinetti, K. Handa & S. Hakomori: J. Biol. Chem., 273, 9130 (1998).

細胞膜の表面に存在するヘパラン硫酸プロテオグリカンは,ヘパラン硫酸糖鎖を介してシグナル分子と相互作用することでさまざまなシグナル伝達経路に関与する(図1C図1■クラスター効果による糖鎖の結合).ヘパラン硫酸は細胞や組織に特異的な構造をもち,それぞれが異なる成長因子との結合ドメインになることが知られている.線維芽細胞増殖因子(FGF)が結合するドメインはヘパラン硫酸上にクラスター化しているため,ヘパラン硫酸に結合したFGFに線維芽細胞増殖因子受容体(FGFR)が結合することでFGFRの二量体化が引き起こされシグナル伝達経路が活性化する(8, 9)8) F. J. Moy, M. Safran, A. P. Seddon, D. Kitchen, P. Böhlen, D. Aviezer, A. Yayon & R. Powers: Biochemistry, 36, 4782 (1997).9) A. B. Herr, D. M. Ornitz, R. Sasisekharan, G. Venkataraman & G. Waksman: J. Biol. Chem., 272, 16382 (1997).

ヘパラン硫酸プロテオグリカンであるシンデカン4は細胞接着因子として知られる.シンデカン4のヘパラン硫酸はフィブロネクチンのHepIIドメインに結合し,プロテインキナーゼCαとその下流のRhoファミリーGタンパク質との結合と活性化を促進する.シンデカン4はα平滑筋アクチンの組織化にも寄与することで細胞接着因子としての役割を果たす.ヘパラン硫酸を1本もつシンデカン4ではこれらの機能は発揮されず,複数のヘパラン硫酸が機能発現に必要とされる(10)10) S. Gopal, A. Bober, J. R. Whiteford, H. A. B. Multhaupt, A. Yoneda & J. R. Couchman: J. Biol. Chem., 285, 14247 (2010).

軟骨組織のほとんどは細胞外マトリックスであり軟骨細胞は僅かにしか存在しない.軟骨の細胞外マトリックスは主にII型コラーゲンとプロテオグリカン会合体により構成される.プロテオグリカン会合体に含まれるヒアルロン酸やコンドロイチン硫酸は水を多く保持することができ,この性質が軟骨に特有の耐圧性を与えているとされる.軟骨に多く存在するコンドロイチン硫酸プロテオグリカンは数十から100本以上の糖鎖をもつ巨大な分子である.このコンドロイチン硫酸は単鎖ではコラーゲン線維に結合することができないが,複数の糖鎖がクラスター化することでコラーゲン線維に結合することができる(図1D図1■クラスター効果による糖鎖の結合).さらにコンドロイチン硫酸クラスターは糖鎖同士で互いに結合する.このようなコンドロイチン硫酸のクラスター結合により細胞外マトリックスの間隙が充填されると考えられる(11)11) Y. Tatara, I. Kakizaki, S. Suto, H. Ishioka, M. Negishi & M. Endo: Glycobiology, 25, 557 (2015).

以上のように糖鎖のクラスター効果は糖鎖が関与する相互作用を理解するうえで重要な視点であると言える.特に糖脂質間やグリコサミノグリカン間の相互作用に見られる糖鎖間の結合についての報告がこれまでに少ないのは,クラスター効果が考慮されていなかったことが原因にあると考えられる.今後は糖鎖間の相互作用とその機能に焦点を当てた研究が幅広く展開されていくことを期待したい.

Reference

1) M. Mammen, S. K. Choi & G. M. Whitesides: Angew. Chem. Int. Ed., 37, 2754 (1998).

2) O. Hayashida, K. Mizuki, K. Akagi, A. Matsuo, T. Kanamori, T. Nakai, S. Sando & Y. Aoyama: J. Am. Chem. Soc., 125, 594 (2003).

3) M. E. Taylor, K. Bezouska & K. Drickamer: J. Biol. Chem., 267, 1719 (1992).

4) W. I. Weis, K. Drickamer & W. A. Hendrickson: Nature, 360, 127 (1992).

5) N. Kojima & S. Hakomori: J. Biol. Chem., 264, 20159 (1989).

6) N. Kojima, M. Shiota, Y. Sadahira, K. Handa & S. Hakomori: J. Biol. Chem., 267, 17264 (1992).

7) K. Iwabuchi, S. Yamamura, A. Prinetti, K. Handa & S. Hakomori: J. Biol. Chem., 273, 9130 (1998).

8) F. J. Moy, M. Safran, A. P. Seddon, D. Kitchen, P. Böhlen, D. Aviezer, A. Yayon & R. Powers: Biochemistry, 36, 4782 (1997).

9) A. B. Herr, D. M. Ornitz, R. Sasisekharan, G. Venkataraman & G. Waksman: J. Biol. Chem., 272, 16382 (1997).

10) S. Gopal, A. Bober, J. R. Whiteford, H. A. B. Multhaupt, A. Yoneda & J. R. Couchman: J. Biol. Chem., 285, 14247 (2010).

11) Y. Tatara, I. Kakizaki, S. Suto, H. Ishioka, M. Negishi & M. Endo: Glycobiology, 25, 557 (2015).