Kagaku to Seibutsu 54(11): 804-811 (2016)
解説
食品タンパク質由来ペプチドの生活習慣病予防改善作用に関する研究の新展開
New Development of the Study on Lifestyle-Related Disease Preventive and Improvement Action of Peptides Derived from Food Proteins
Published: 2016-10-20
食品成分の健康機能性に関する研究が活発に展開されている.とりわけ,食品タンパク質から派生する健康機能性ペプチドに関する研究は,カルシウム吸収促進作用を発揮するカゼインホスホペプチドや血圧降下ペプチドであるラクトトリペプチドなどの比較的初期の成果がよく知られ,教科書などでも食品タンパク質由来の健康機能性ペプチドは,まさに「食品の3次機能」の原点として紹介されている.これは食品タンパク質の機能が生体構成成分の原料獲得などの栄養機能を中心に展開されてきた従来の概念を覆すものである.その後も国内外で多種多様な食品タンパク質由来の健康機能性ペプチドが発見されてきた.一方,多種多様な食品タンパク質由来の健康機能性ペプチドがin vitroで多数報告されるに至っているが,in vivoでの作用機構や分子レベルでの理解,ヒトでの有効性の検証などには,いまだに多くの課題を残している.そこで,本稿では,これらの食品タンパク質由来の健康機能性ペプチドのうち,生活習慣病と関連の深い脂質代謝(コレステロール)を中心に,トリアシルグリセロール代謝,糖代謝に影響を及ぼすユニークな作用について,現在の最先端の研究成果とその展望を概説する.
© 2016 Japan Society for Bioscience, Biotechnology, and Agrochemistry
© 2016 公益社団法人日本農芸化学会
世界規模で生活習慣病の増加が深刻な社会問題である.高コレステロール血症,動脈硬化症予防・改善のための多くの医薬品・食品の登場,社会的関心とは裏腹に,現在でもWHOの統計では世界の死因の第1位(全体の約25%)は,依然として心臓血管疾患であり,決定的な動脈硬化症の解決策は,残念ながら現在もないというのも厳然とした事実である.高コレステロール血症制圧は動脈硬化症制圧につながる.このような背景から食物繊維,大豆タンパク質などが研究されてきた(1)1) D. A. Kerckhoffs, F. Brouns, G. Hornstra & R. P. Mensink: J. Nutr., 132, 2494 (2002)..
しかし,満足できる成分が発見されていないことは上記の事実からも明白である.つまり,従来から世界中で研究されてきた大豆タンパク質や食物繊維などの従来の食品や医薬品では,体内に余分に蓄積したコレステロールや摂取したコレステロールを効率的に体外排出させることや,高コレステロール血症の予防改善は実現困難である.また,そのための理論・技術も未成熟である.したがって,コレステロール代謝を改善するための革新的な理論・技術が切望されている.このような視点から,新しい脂質代謝改善ペプチド研究が取り組まれている.本章ではコレステロール代謝改善ペプチドを中心に脂質代謝改善ペプチドについて概説する.
コレステロール代謝を改善するタンパク質に関する研究は100年以上前から行われてきた.乳タンパク質に関する研究について概説する.乳清タンパク質が,高コレステロール食摂取時およびコレステロール無添加食摂取時のいずれの場合にも,ラットにおいて血清コレステロール低下作用を発揮することが知られている(2, 3)2) 長岡 利:日本栄養食糧学会誌,49, 303 (1996)3) S. Nagaoka, Y. Kanamaru & Y. Kuzuya: Agric. Biol. Chem., 55, 813 (1991)..乳清タンパク質のコレステロール代謝改善作用は大豆タンパク質よりも優れていることが報告されている(4)4) S. Nagaoka, Y. Kanamaru, Y. Kuzuya, T. Kojima & T. Kuwata: Biosci. Biotechnol. Biochem., 56, 1484 (1992)..高コレステロール食摂取時に,ラットにおいて乳清タンパク質の主要構成タンパク質であるβ-ラクトグロブリンやα-ラクトアルブミンあるいは,それらのペプシン加水分解物の摂取により,血清コレステロール低下作用が報告されている(5)5) S. Nagaoka: “Neutraceutical Proteins and Peptides in Health and Disease,” Taylor & Francis Group, 2006, pp. 42–67..さらに,乳清タンパク質の主要構成タンパク質であるβ-ラクトグロブリンのトリプシン分解物(ペプチド混合物)にも,血清コレステロール低下作用があることが報告されている(6)6) S. Nagaoka, Y. Futamura, K. Miwa, Y. Kanamaru, T. Kojima & T. Kuwata: Biochem. Biophys. Res. Commun., 281, 11 (2001)..β-ラクトグロブリンのトリプシン分解物を用いて,Caco-2細胞において,コレステロール吸収抑制作用を発揮するペプチドが探索・評価された(6)6) S. Nagaoka, Y. Futamura, K. Miwa, Y. Kanamaru, T. Kojima & T. Kuwata: Biochem. Biophys. Res. Commun., 281, 11 (2001)..その結果,IIAEK(ラクトスタチン(lactostatin)と命名された)などがコレステロール吸収抑制ペプチドとして発見され,ラットによる動物実験評価を経て,長い間誰も発見できなかったコレステロール代謝改善ペプチドIIAEKが乳清タンパク質から初めて発見された(6)6) S. Nagaoka, Y. Futamura, K. Miwa, Y. Kanamaru, T. Kojima & T. Kuwata: Biochem. Biophys. Res. Commun., 281, 11 (2001)..
ところで,体内のコレステロール分解は,肝臓のコレステロール7α-水酸化酵素(CYP7A1)を律速酵素とする経路にのみ依存している.したがって,CYP7A1のマウスでの過剰発現により,動脈硬化症や高コレステロール血症が改善されることが知られている(7)7) D. K. Spady, J. A. Cuthbert, M. N. Willard & R. S. Meidell: J. Clin. Invest., 96, 700 (1995)..つまり,CYP7A1の活性化により動脈硬化症や高コレステロール血症が改善可能である.CYP7A1の活性化物質(天然物を含む)は動脈硬化症や高コレステロール血症改善のための機能性食品素材・医薬品となる可能性が高いわけである.しかし,従来のCYP7A1の活性化剤は,転写因子LXRのリガンドである22-ヒドロキシコレステロールなどの酸化コレステロールや合成薬剤LG268であり,副作用でトリグリセリドを増加させるため活用不可能である(8)8) R. Koishi, Y. Ando, M. Ono, M. Shimamura, H. Yasumo, T. Fujiwara, H. Horikoshi & H. Furukawa: Nat. Genet., 30, 151 (2002)..つまり,有用なCYP7A1活性化剤は未発見である.
さらに,ラクトスタチンの標的遺伝子がCYP7A1であることがマウスで特定された(9)9) S. Nagaoka, W. Fujimura, K. Morikawa, A. Nakamura, Y. Kanamaru, G. Hori, K. Yamamoto, M. Takamura, M. Oda & K. Shin: “Dietary Fat and Risk of Common Diseases,” American Oil Chemist’s Society (AOCS) Press, 2006, pp. 168–185..これまでオリゴペプチドの媒介するコレステロール分解調節系に関する報告はないことから,オリゴペプチドの媒介する新しいコレステロール分解調節系の存在を示唆する.
そこでヒト肝臓由来株化細胞HepG2を用いて,ラクトスタチンによるヒトCYP7A1遺伝子発現に対する影響を解析することにより,ラクトスタチンの媒介する新しいコレステロール分解調節系の解明が試みられた.その結果,HepG2細胞においてラクトスタチンがCYP7A1 mRNAレベルを特異的に誘導することが発見され,ラクトスタチンによりヒトCYP7A1遺伝子転写活性が増加することが報告された(10)10) K. Morikawa, I. Kondo, Y. Kanamaru & S. Nagaoka: Biochem. Biophys. Res. Commun., 352, 697 (2007)..また,ラクトスタチンによるCYP7A1 mRNAの増加は,C末端のリジン(K)が重要であることがラクトスタチンを構成する断片化ペプチドの評価により解明された(10)10) K. Morikawa, I. Kondo, Y. Kanamaru & S. Nagaoka: Biochem. Biophys. Res. Commun., 352, 697 (2007)..よって,CYP7A1 mRNA発現解析により,新しいコレステロール代謝改善ペプチドが発見できる可能性が示唆された.
ラクトスタチンのCYP7A1 mRNAの誘導が,どのような経路を必要とするのかを検討するために,阻害剤を用いて,ラクトスタチンによるCYP7A1遺伝子の活性化経路の特定を行われた.MAPキナーゼキナーゼ阻害剤やカルシウムチャネル阻害剤により,ラクトスタチンによるCYP7A1 mRNA誘導は完全に消失した.さらにラクトスタチンにより,ERKのリン酸化の亢進が観察されるとともに細胞内カルシウムイオンの増加が観察された.よって,ラクトスタチンはHepG2細胞においてヒトCYP7A1遺伝子を転写活性化し,そのmRNAレベルを増加させることが明らかにされた(10)10) K. Morikawa, I. Kondo, Y. Kanamaru & S. Nagaoka: Biochem. Biophys. Res. Commun., 352, 697 (2007)..この誘導はカルシウムチャネルに関連したMAPキナーゼ経路に依存したシグナル伝達系を媒介した新しいコレステロール分解調節系を介して起こることが解明された(10)10) K. Morikawa, I. Kondo, Y. Kanamaru & S. Nagaoka: Biochem. Biophys. Res. Commun., 352, 697 (2007)..ラクトスタチンがどのようなシグナル伝達系を介してヒトCYP7A1遺伝子発現の誘導を引き起こすのかについて,作業仮説であるヒトラクトスタチン受容体の特定を含め,さらに詳細に分子・遺伝子レベルで解明することが望まれる(図1図1■ラクトスタチン(IIAEK)の作用機構(仮説を含む)).
さらに,得られた成果を基盤に14種類のジペプチドのCYP7A1遺伝子発現に対する影響を解析し,新しくCYP7A1のmRNAレベルを増加させるジペプチド,DK, EK, WKが発見された(11)11) K. Morikawa, K. Ishikawa, Y. Kanamaru, G. Hori & S. Nagaoka: Biosci. Biotechnol. Biochem., 71, 821 (2007)..
ラクトスタチンはHepG2細胞でCYP7A1遺伝子を活性化し,コレステロール分解を促進することが明らかにされた.ほかの研究者の総説(12)12) K. Schoonjans & J. Auwerx: Nat. Med., 8, 789 (2002).でも明らかなように,オリゴペプチドによるCYP7A1遺伝子の活性化経路は過去に報告がない.人間の肝臓には未知のラクトスタチン受容体の媒介するカルシウムチャネルに関連したMAPキナーゼ依存型の新しいコレステロール分解調節系が存在することが明らかにされた(10)10) K. Morikawa, I. Kondo, Y. Kanamaru & S. Nagaoka: Biochem. Biophys. Res. Commun., 352, 697 (2007)..これは人間には本来,内因性の未知のコレステロール代謝改善ペプチドが存在していることを推測させる.本研究により,ヒト型ラクトスタチン受容体やヒト型ラクトスタチン受容体に本来結合するヒトの未知の内因性コレステロール代謝改善ペプチドの解明を含む新しいコレステロール分解調節系の発見が期待される.
さらに,以上のコレステロール代謝改善作用を発揮するタンパク質から派生するオリゴペプチドであるラクトスタチンの研究成果に基づいて,従来から考えられてきたタンパク質の疎水性,アミノ酸組成,含硫アミノ酸含量,リジン/アルギニン比,レジスタントプロテインなどとは一線を画す新しい考え方を提示し,外因性ペプチドのコレステロール代謝調節に関する新しい学問領域を開拓した.これらのラクトスタチンの標的遺伝子を含む新しいコレステロール代謝調節系の発見は,現在不可能であるコレステロール代謝改善ペプチドデザインや新しいコレステロール代謝改善ペプチドの効率的スクリーニングにも道を拓くものである.
従来から,脂質代謝改善作用を発揮する大豆タンパク質(グリシニン)を遺伝子組換え技術により,米タンパク質のうち5%(米100 gあたり350 mgグリシニン含有)になるように組み込んだコレステロール代謝改善米(マメヒカリ)が開発されている(13, 14)13) 内海 成,高岩文雄:化学と生物,39, 193 (2001).14) T. Katsube, N. Kurisaka, M. Ogawa, N. Maruyama, R. Ohtsuka, S. Utsumi & F. Takaiwa: Plant Physiol., 120, 1063 (1999)..しかし,この組換え米の摂取により,コレステロール低下作用が動物実験で発揮できるかどうかは検討されていない.2005年に開始された農林水産省のゲノム育種による効率的品種育成技術の開発(ゲノム育種技術の開発と実証)や,その成果を発展させて2008年に始まった新農業展開ゲノムプロジェクト研究により,ラクトスタチン(IIAEK)を米に組み込んだ新型米が創成された(15, 16)15) Y. Wakasa, H. Yasuda & F. Takaiwa: Plant Biotechnol. J., 4, 499 (2006).16) Y. Wakasa, C. Tamakoshi, T. Ohno, S. Hirose, T. Goto, S. Nagaoka & F. Takaiwa: J. Agric. Food Chem., 59, 3845 (2011)..なお,乳清タンパク質自身はヒト試験でも血清コレステロール低下作用を発揮することが証明されており(17)17) S. Pal, V. Ellis & S. Dhaliwal: Br. J. Nutr., 104, 716 (2010).,今後の特定保健用食品などとしての活用が期待される.
大豆タンパク質などの植物性タンパク質の摂取は,カゼインなどの動物性タンパク質摂取と比較して,血中コレステロール濃度が低値を示すことが知られている(18)18) K. K. Carrol & R. M. G. Hamilton: J. Food Sci., 40, 18 (1975)..これまで日本では菅野らを中心とした研究(19~21)が活発に展開され,大豆タンパク質を含む食品は厚生省の特定保健用食品として許可された.また,海外でも大豆タンパク質のコレステロール代謝に対する臨床成績(22, 23)22) C. R. Sirtori, R. Even & M. R. Lovati: Ann. N. Y. Acad. Sci., 676, 188 (1993).23) G. C. Descovich, C. Ceredi, A. Gaddi, M. S. Benassi, G. Mannino, L. Colombo, L. Cattin, G. Fontana, U. Senin, E. Mannarino et al.: Lancet, 2, 709 (1980).がある.活発に展開された大豆タンパク質の血清コレステロールに対する影響の解析結果に基づいて,1999年にアメリカでは大豆タンパク質が心臓血管疾患のリスク軽減に有効である旨のヘルスクレームが米国食品薬品局(FDA)で認可され,そのためには1日25 gの大豆タンパク質の摂取が必要であるとしている.
これまでの大豆タンパク質の血清コレステロール低下作用に関する研究の一つの大きな流れは,大豆タンパク質そのものから,より効力の高い有効成分を特定する方向の研究である.その研究の過程で登場した大豆タンパク質そのものよりも強力な活性を有している大豆タンパク質ペプシン分解物高分子画分(SPH)を含む食品は,特定保健用食品には認定されていない.
以上のような背景から,大豆タンパク質を活用して大豆タンパク質そのものやSPHよりも,これまでにないほど強力に血清コレステロール低下作用を高めることが試みられた.大豆タンパク質と大豆リン脂質を効率的に結合させ,pH 2でペプシンにより加水分解し,遠心分離後,高分子画分を得て,これはリン脂質結合大豆タンパク質ペプシン分解物高分子画分(SPHP,またはSPHP-p)と命名されている.これはSPH自身が元来リン脂質を含有しているという事実(20)20) M. Sugano, S. Goto, Y. Yamada, K. Yoshida, Y. Hashimoto, T. Matsuo & M. Kimoto: J. Nutr., 120, 977 (1990).や,大豆リン脂質自身による血清コレステロール低下作用の報告(24, 25)24) J. E. O’Mullane & J. N. Hawthorne: Atherosclerosis, 45, 81 (1982).25) K. Imaizumi, M. Sakono & M. Sugano: Agric. Biol. Chem., 53, 2469 (1989).にヒントを得たものである.また,Sirtoriらは,6%レシチンを含む大豆タンパク質が高脂血症患者のHDLコレステロールを上昇させることを報告した(26)26) C. R. Sirtori, C. Zucchi-Dentone, M. Sirtori, C. R. Sirtori, C. Z. Dentone, M. Sirtori, E. Gatti, G. C. Descovich, A. Gaddi, L. Cattin et al.: Ann. Nutr. Metab., 29, 348 (1985)..しかし,SPHPは20%以上リン脂質を結合することが可能であり,リン脂質の結合能が著しく向上した(27)27) S. Nagaoka, K. Miwa, M. Eto, K. Yasuo, H. Goro & Y. Yamamoto: J. Nutr., 129, 1725 (1999)..したがって,SPHPはSPHのペプチドとしての作用増強効果と大豆リン脂質の効能を併せ持つ優れた特性を有し,そのためコレステロール代謝改善作用は既存の大豆関連調製物には例を見ないほどに飛躍的に向上したことが,ラットを用いて報告されている(27, 28)27) S. Nagaoka, K. Miwa, M. Eto, K. Yasuo, H. Goro & Y. Yamamoto: J. Nutr., 129, 1725 (1999).28) 堀 悟郎,山元一弘,森下幸治,武川狭織,神谷俊一,長岡 利:日本栄養食糧学会誌,52, 135 (1999)..SPHPはSPHと同様にコレステロール吸収抑制により血清コレステロール低下作用を発現することが報告されている(27)27) S. Nagaoka, K. Miwa, M. Eto, K. Yasuo, H. Goro & Y. Yamamoto: J. Nutr., 129, 1725 (1999)..
さらに,工業化を主眼においた研究開発が進められ,微生物由来のスミチームFPを用いて加水分解する方法が開発されている(29)29) 森下幸治,山元一弘,堀 悟郎,田中美穂,神谷俊一,長岡 利:日本栄養食糧学会誌,52, 183 (1999)..これはリン脂質結合大豆タンパク質スミチーム分解物高分子画分(SSHP,またはSPHP-s)と命名されている(27~29).また,スミチームFPによる分解後の反応液を遠心分離操作を行わずに乾燥した粉末は,リン脂質結合大豆ペプチド(CSPHP,またはc-SPHP)と命名されている(28)28) 堀 悟郎,山元一弘,森下幸治,武川狭織,神谷俊一,長岡 利:日本栄養食糧学会誌,52, 135 (1999)..さらに,CSPHPも顕著なコレステロール低下作用を発現し,工業化にはCSPHPが適していることが明らかにされている(28, 29)28) 堀 悟郎,山元一弘,森下幸治,武川狭織,神谷俊一,長岡 利:日本栄養食糧学会誌,52, 135 (1999).29) 森下幸治,山元一弘,堀 悟郎,田中美穂,神谷俊一,長岡 利:日本栄養食糧学会誌,52, 183 (1999)..
CSPHPを含む食品の特定保健用食品許可・工業的生産を視野に入れた研究開発の視点から,十分な安全性試験が実施されるとともに,高コレステロール血症の成人男性が1日僅か3 gのCSPHPを3カ月間摂取することにより,血清コレステロールの有意な低下が観察され,1日6 g摂取では,2カ月間で顕著な効果が得られた(30)30) G. Hori, M. F. Wang, Y. C. Chan, T. Komatsu, Y. Wong, T. H. Chen, K. Yamamoto, S. Nagaoka & S. Yamamoto: Biosci. Biotechnol. Biochem., 65, 72 (2001)..この場合の血清コレステロール低下は主にLDLコレステロールの低下であり,HDL-コレステロールはむしろ上昇が観察される(30)30) G. Hori, M. F. Wang, Y. C. Chan, T. Komatsu, Y. Wong, T. H. Chen, K. Yamamoto, S. Nagaoka & S. Yamamoto: Biosci. Biotechnol. Biochem., 65, 72 (2001)..ヒト試験において明らかにされたCSPHPの有効投与量は,前述のFDAなどが示している大豆タンパク質そのものの効果(1日25 g摂取)よりも優れている.
以上のように,大豆タンパク質に血清コレステロール低下作用があることは以前から多く報告され,大豆タンパク質由来の疎水性ペプチドがコレステロール吸収阻害に大きな役割を担っていると推定されてきた.しかし,in vivoでコレステロール吸収を抑制する大豆ペプチドの実態は長い間不明だった.そこで,大豆タンパク質の主要構成タンパク質グリシニンのA1aサブユニットで最も疎水度の強い配列VAWWMYについて検討された.その結果,in vitroの胆汁酸結合能やコレステロールミセル溶解性試験で,医薬品コレスチラミンと同程度の活性を有し,放射性コレステロールを用いた吸収実験により,ラットにおいてコレステロール吸収を抑制することが発見され,VAWWMYはソイスタチン(soystatin)と命名された(31)31) S. Nagaoka, A. Nakamura, H. Shibata & Y. Kanamaru: Biosci. Biotechnol. Biochem., 74, 1738 (2010)..現在,動物実験(in vivo)でコレステロール吸収抑制作用が確認された大豆由来のオリゴペプチドはVAWWMYのみである.VAWWMYを改変し,ペプチドアレイ(32)32) T. Takeshita, M. Okochi, R. Kato, C. Kaga, Y. Tomita, S. Nagaoka & H. Honda: J. Biosci. Bioeng., 112, 92 (2011).により高機能化(図2図2■ペプチドアレイによるソイスタチン(VAWWMY)の高機能化)することにより,医薬品のシーズや新しい大豆品種を創成する「分子育種」への高度有効利活用が将来展望として考えられる.
さらに,in vitroでの効果のみが報告されている例を概説する.HepG2細胞において,大豆タンパク質由来ペプチドであるFVVNATSNはLDL受容体mRNAを増加させることが報告されたが,in vivoでの作用は不明である(33)33) S. J. Cho, M. A. Juillerat & C. H. Lee: J. Agric. Food Chem., 56, 4372 (2008)..また,大豆タンパク質の構成成分であるβ-コングリシニン由来のLRVPAGT TFYVVNPDNDENLRMIAは,HepG2細胞において,LDL受容体の放射性標識LDLの取り込みと分解を促進することが報告されたが,in vivoでの作用は不明である(34)34) M. R. Lovati, G. E. Manzoni, A. Arnoldi, E. Kurowska, K. K. Carroll & C. R. Sirtori: J. Nutr., 130, 2543 (2000)..さらに,HepG2細胞におけるβ-コングリシン由来ペプチド混合物の添加により,アポリポタンパク質B-100の分泌抑制やコレステロール合成の低下が報告された(35)35) Y. Mochizuki, M. Maebuchi, M. Kohno, M. Hirotsuka, H. Wadahama, T. Moriyama, T. Kawada & R. Urade: J. Agric. Food Chem., 57, 1473 (2009)..
2008年開始の新農業展開ゲノムプロジェクト研究により,β-コングリシニンα′サブユニットを米に組み込んだ新型米が創成され(36)36) C. Cabanos, N. Kato, Y. Amari, K. Fujiwara, T. Ohno, K. Shimizu, T. Goto, M. Shimada, M. Kuroda, T. Masuda et al.: Transgenic Res., 23, 609 (2014).,この新型米は動物実験評価により世界初のコレステロール代謝改善米として報告された.
豚肉タンパク質のパパイン分解物中の可溶性低分子画分(豚肉ペプチド,分子量300~2,000)の摂取は,ラットにおいて血清コレステロール低下作用を発現する.このペプチド混合物の摂取により,血清コレステロールが低下するとともに,コレステロールや胆汁酸の糞中排泄量の増加する(37)37) F. Morimatsu, M. Ito, S. Budijanto, I. Watanabe, Y. Furukawa & S. Kimura: J. Nutr. Sci. Vitaminol. (Tokyo), 42, 145 (1996)..しかし,活性ペプチドのアミノ酸配列決定には至っていない.
一方,牛肉タンパク質(牛心臓タンパク質)の加水分解物摂取は,ラットにおいて血清や肝臓コレステロール低下作用を発揮する.牛心臓タンパク質加水分解物は,in vitroでのコレステロールミセル溶解性を低下させ,ラットで腸管でのコレステロール吸収を抑制する.活性ペプチドは分子量1,000以下であると報告されている(38)38) K. Nakade, H. Kaneko, T. Oka, A. M. Ahhmed, M. Muguruma, M. Numata & S. Nagaoka: Biosci. Biotechnol. Biochem., 73, 607 (2009)..
卵白タンパク質の摂取は高コレステロール血症を改善することが動物実験(39)39) S. Yamamoto, T. Kina, N. Yamagata, T. Kokubu, S. Shinjo & L. Asato: Nutr. Res., 13, 1453 (1993).やヒト試験(40)40) L. Asato, M. F. Wang, Y. C. Chan, S. H. Yeh, H. M. Chung, S. Y. Chung, S. Chida, T. Uezato, I. Suzuki, N. Yamagata et al.: J. Nutr. Sci. Vitaminol. (Tokyo), 42, 87 (1996).で報告されている.卵白ペプチド(EP-1)のラットへの投与により,コレステロール代謝が改善されるとともに,肝臓CYP7A1 mRNAが増加する(未発表).HepG2細胞へのEP-1やEP-1分画ペプチド添加はCYP7A1 mRNAを増加させる.よって,ラクトスタチン同様,EP-1にはコレステロール分解系を活性化する新規ペプチドが含まれる.IIAEKの類似配列であるオボアルブミン由来GLWEKは,CYP7A1 mRNAを増加させる新規ペプチドであることを発見し,GLWEKをオボコレスチン(ovocholestin)と命名した(41)41) 長岡 利,木村 守:特許第4854271号2011.11.4..Mansoらは自然発症高血圧ラットで,20週間の卵白タンパク質加水分解物摂取(1g/kg 体重/日)により,血漿コレステロールとトリグリセリドレベルを低下させることを報告した(42)42) M. Manso, M. Miguel, J. Even, R. Hernandez, A. Aleixandre & R. Lopez-Fandino: Food Chem., 109, 361 (2008)..また,卵白タンパク質のペプシン分解物は,カゼイン加水分解物と比較して,ミセル溶解性を有意に低下させ,相対粘度を増加させる効果がある.さらに,オボアルブミンのペプシン加水分解物もミセル溶解性を低下させ,コレステロール吸収を抑制することが報告された(43)43) R. Matsuoka, B. Shirouchi, S. Kawamura, S. Baba, S. Shiratake, K. Nagata, K. Imaizumi & M. Sato: J. Agric. Food Chem., 62, 10694 (2014)..
apoE欠損マウスを用いて,ペプチドの抗動脈硬化作用の視点からの研究も行われている.動脈硬化を抑制することが知られている血中のアポリポタンパク質AIと同じ効果を発揮するペプチドの探索評価から発見されたLys-Arg-Glu-Ser(KRES)は,血中の低密度リポタンパク質過酸化物を減少させ,高密度リポタンパク質と関連するparaoxonaseを活性化して動脈硬化を抑制することが,apoE欠損マウスによる研究で示唆されている(44)44) M. Navab, G. M. Anantharamaiah, S. T. Reddy, S. Hama, G. Hough, J. S. Frank, V. R. Grijalva, V. K. Ganesh, V. K. Mishra, M. N. Palgunachari et al.: Circ. Res., 97, 524 (2005)..また,ラットの動脈を用いたin vitro評価系で,強力な血管拡張作用を発揮するジペプチドTrp-Hisの経口投与は,血清脂質に影響することなく,アポリポタンパク質E欠損マウスの動脈硬化症の進展を抑制することが報告されている(45)45) T. Matsui, M. Sato, M. Tanaka, Y. Yamada, S. Watanabe, Y. Fujimoto, K. Imaizumi & K. Matsumoto: Br. J. Nutr., 103, 309 (2010)..以上のマウスで抗動脈硬化作用を発揮したペプチドのヒトでの効果は報告されていない.
さらに,膵臓のコリパーゼから遊離するエンテロスタチン(VPDPR, APGPR)は,摂食などに関係する.エンテロスタチンやその断片化ペプチドであるDPRの経口投与は高コレステロール食摂取時において,コレステロール低下作用を有することが報告されている(46, 47)46) Y. Takenaka, F. Nakamura, T. Yamamoto & M. Yoshikawa: Biosci. Biotechnol. Biochem., 67, 1620 (2003).47) Y. Takenaka, T. Shimano, T. Mori, I. C. Hou, K. Ohinata & M. Yoshikawa: Peptides, 29, 2175 (2008)..
脂肪食摂取後の血中トリアシルグリセロールの上昇を指標として探索評価したところ,グロビンペプチドの作用が強いことが明らかにされた.グロビンペプチドは,家畜の新鮮血赤血球のヘモグロビンからヘム鉄を除去したグロビンを酵素分解したオリゴペプチド混合物である.グロビンペプチド混合物中に含まれるVal-Val-Tyr-Pro(VVYP)は,比較的強力な当該活性を有する(48)48) K. Kagawa, H. Matsutaka, C. Fukuhama, Y. Watanabe & H. Fujino: Life Sci., 58, 1745 (1996)..グロビンペプチドはヒト試験での効果が確認され(49)49) K. Kagawa, H. Matsutaka, C. Fukuhama, H. Fujino & H. Okuda: J. Nutr., 128, 56 (1998).,特定保健用食品許可成分として,食後の血清トリアシルグリセロールの上昇を抑えるという表示が許可されている.
肥満モデルラットでは大豆タンパク質の摂取により脂肪酸合成が抑制されて,肥満抑制が観察されている(50)50) N. Iritani, H. Hosomi, H. Fukuda, K. Tada & H. Ikeda: J. Nutr., 126, 380 (1996)..大豆タンパク質加水分解物(ペプチド混合物)のOLETFラットによる摂取により,肝臓トリアシルグリセロールの減少が観察された.また,ヒト肝臓細胞HepG2で大豆ペプチド分画物に含まれるLys-Ala, Val-Lys, Ser-Tyrは,[1-14C]酢酸からのトリアシルグリセロール合成を抑制した.これらのジペプチドのin vivoでの効果は明らかではない(51)51) N. Inoue, K. Nagao, K. Sakata, N. Yamano, P. E. R. Gunawardena, S. Y. Han, T. Matsui, T. Nakamori, H. Furuta, K. Takamatsu et al.: Lipids Health Dis., 10, 85 (2011)..また,大豆タンパク質加水分解物(低分子ペプチド混合物:分子量500以下のペプチドを約80%含有)やカゼインをラットに摂取させた場合,単離肝臓灌流法での肝臓からのトリアシルグリセロールの分泌は大豆タンパク質加水分解物でカゼインよりも低下し,血清トリアシルグリセロール低下との関連性が示唆された(52)52) S. Tamaru, T. Kurayama, M. Sakono, N. Fukuda, T. Nakamori, H. Furuta, K. Tanaka & M. Sugano: Biosci. Biotechnol. Biochem., 71, 2451 (2007)..
さらに,大豆水溶性ペプチド混合物をマウス3T3-L1細胞に添加する実験において,PPARγ発現の増加を介して脂肪細胞の分化を促進し,抗糖尿病・抗動脈硬化作用を発揮するアディポネクチンのmRNAと分泌量を増加させ,インスリン応答性のグルコース輸送担体4のmRNAレベルやインスリン応答性のグルコース取り込みを促進することが明らかにされている(53)53) T. Goto, A. Mori & S. Nagaoka: Mol. Nutr. Food Res., 57, 1435 (2013)..よって,大豆タンパク質由来のペプチドにかかわらず,アディポネクチンのmRNAと分泌量を増加させるペプチドは未発見である.
脂肪酸合成酵素(FAS: EC 3.2.1.85)の阻害剤は,肥満や肥満と関連する代謝性疾患の予防改善に有用である(54, 55)54) G. V. Ronnett, E. K. Kim, L. E. Landree & Y. Tu: Physiol. Behav., 85, 25 (2005).55) H. Sheng, B. Niu & H. Sun: Curr. Med. Chem., 16, 1561 (2009)..Martinezらは,大豆β-コングリシニン由来のKNPQLR, EITPEKNPQLRやRKQEEDEDEEQQREがFASを阻害することを報告した(56)56) C. Artinez-Villaluenga, S. G. Rupasinghe, M. A. Schuler & E. Gonzalez: FEBS J., 277, 1481 (2010)..これらの3種類のペプチドはin vitroにおいて,精製したニワトリのFASの阻害実験や3T3-L1マウス脂肪細胞における脂肪蓄積を抑制することが明らかにされた.FASとその阻害ペプチドとの相互作用に関するコンピューターによる結合解析では,EITPEKNPQLRやRKQEEDEDEEQQREは典型的なヒトFASのthioesteraseドメインに結合し,抗肥満作用を発揮することが知られている医薬品Orlistatよりも低い相互作用により結合することが明らかにされた.
大豆ペプチドの摂取は人間やラットで熱産生が亢進し,肥満改善に有効であるとする報告がある.大豆ペプチドのエネルギー代謝に対する影響をヒトで観察した.絶食した大学生に大豆ペプチド(低分子ペプチド混合物),大豆タンパク質,ラクトアルブミンを摂取させ,食事による熱産生能を調べた結果,大豆ペプチド摂取群のエネルギー代謝量はほかの群よりも増加することが報告された(57)57) 小松龍史,山岸 稔,小松啓子:大豆たん白質研究,9, 61 (1988)..また,大豆ペプチド(低分子ペプチド混合物)をラットに投与すると,褐色脂肪組織のミトコンドリアにおける熱産生能が亢進することが報告された.この熱産生の亢進には,ノルエピネフリンの代謝回転の亢進が関与していると推測されている(58)58) 斎藤昌之:大豆たん白質研究,11, 95 (1990)..しかし,大豆タンパク質由来の活性ペプチドのアミノ酸配列は不明である.
一方,天然タンパク質由来ではないが,脂肪細胞に存在するタンパク質(プロヒビチン)に特異的に結合するペプチド(CKGGRAKDC)が発見され,このペプチドにアポトーシスを誘導するD型アミノ酸で構成されたペプチド(KLAKLAKKLAKLAK)を連結させた合成ペプチド(CKGGRAKDCGGKLAKLAK KLAKLAK)は,遺伝的および食餌性肥満マウスの肥満改善に有効であることが発見された(59)59) M. G. Kolonin, P. K. Saha, L. Chan, R. Pasqualini & W. Arap: Nat. Med., 10, 625 (2004)..
以上のように,天然に存在するタンパク質由来の抗肥満ペプチドは未発見である.乳清タンパク質(β-ラクトグロブリン,α-ラクトアルブミンやラクトフェリン)自身が抗肥満作用を発揮することが報告(60)60) T. Ono, S. Morishita, C. Fujisaki, M. Ohdera, M. Murakoshi, N. Iida, H. Kato, K. Miyashita, M. Iigo, T. Yoshida et al.: Br. J. Nutr., 85, 1 (2010).されているので,これらのタンパク質から抗肥満作用を発揮するペプチドが発見される可能性がある.
大豆β-コングリシニンβ-サブユニット由来のμオピオイドペプチド(抗不安ペプチド)であるSoymorphin-5(YPFVV)は,血糖値と血清トリグリセリドを低下させることが,糖尿病モデルマウスであるKKAyマウスに5週間飲料水にペプチドを含ませて摂取させる手法を使って報告された.血糖値と血清トリグリセリドの低下には,アディポネクチンとPPARαを介したβ-酸化の活性化とエネルギー消費の増加が関与することが示唆された(61)61) Y. Yamada, A. Mukai, M. Oie, N. Kanegawa, A. Oda, Y. Sawashi, K. Kaneko, M. Yoshikawa, T. Goto, N. Takahashi et al.: Am. J. Physiol. Endocrinol. Metab., 302, E433 (2012)..μオピオイド受容体の活性化と糖尿病の発症との関連性やほかの抗不安ペプチドと糖尿病の関連性は不明である.
抗糖尿病作用・糖代謝改善作用の視点から,糖代謝,GLP-1分泌と食品タンパク質由来ペプチドとの関連性が研究されている.GLP-1は血糖上昇に伴うインスリン分泌を増強するインクレチン作用を担うホルモンであり,インスリン分泌を担う膵ランゲルハンス島β細胞の保護作用などを有している.そこで,GLP-1産生消化管内分泌細胞株(GLUTag)を用いて,種々の食品タンパク質加水分解物のGLP-1分泌活性を評価した.その結果,Zeinのパパイン加水分解物(Zein H)は強力なGLP-1分泌促進作用を発揮した(62)62) T. Hira, T. Mochida, K. Miyashita & H. Hara: Am. J. Physiol. Gastrointest. Liver Physiol., 297, G633 (2009)..Zein Hはラット腸管でもGLP-1分泌を促進し,応答には消化管部位差があることが明らかにされた.Zein HのGLP-1分泌の作用には,迷走神経が関与することが示唆された.
また,グルコース吸収抑制作用を標的にした医薬品開発の標的である腸のNa依存性グルコース輸送担体(SGLT-1)に作用するペプチドも報告されている.Gln-Cys-ProやGln-Ser-Proは,Caco-2細胞において,グルコース吸収を抑制するとともに,ラット腸管でのグルコース吸収を抑制することが報告された(63)63) A. Vernaleken, M. Veyhl, V. Gorboulev, G. Kottra, D. Palm, B. C. Burckhardt, G. Burckhardt, R. Pipkorn, N. Beier, C. Amsterdam et al.: J. Biol. Chem., 282, 28501 (2007)..これら2種類のトリペプチドは,SGLT-1の転写や翻訳を調節する細胞内タンパク質RS1由来のペプチドあるが,食品タンパク質からも生成する可能性がある.
脂質蓄積と肥満はインスリン抵抗性と2型糖尿病を招く.糖尿病モデルマウスのGKラットにおける卵白加水分解物(EWH)投与実験では,血糖値の低下が観察された(64)64) M. Ochiai, T. Kuroda & T. Matsuo: Int. J. Food Sci. Nutr., 65, 495 (2014)..EWHの有効成分は未特定である.EWHに含まれる特異的なペプチドがGKラットの血糖値の低下に関与すると推定されている.たとえば,RVPSLMは卵白タンパク質加水分解物に由来するα-グルコダーゼ阻害ペプチドである(65)65) Z. Yu, Y. Yin, W. Zhao, Y. Yu, B. Liu, J. Liu & F. Chen: Food Chem., 129, 1376 (2011)..また,オボアルブミン由来ペプチドKLPGFはα-グルコシダーゼやα-アミラーゼを阻害する(66)66) Z. Yu, Y. Yin, W. Zhao, J. Liu & F. Chen: Food Chem., 135, 2078 (2012)..
ジペチダーゼ(peptidase 4 (DPP-4))とアンジオテンシン転換酵素(ACE)は血糖値調節と腎臓血管系の保護において重要な標的である.Zucker糖尿病肥満ラットは,広く肥満やメタボリックシンドロームのモデルとして用いられてきた.Zuckerラットにおいて,長期の卵白タンパク質加水分解物NWT-03 (DPP4やACE阻害活性を有する)は,腎障害を改善することが報告された(67)67) Y. Wang, S. Landheer, W. H. Gilst, A. Amerongen, H. P. Hammes, R. H. Henning, L. E. Deelman & H. Buikema: PLoS ONE, 7, e46781 (2012)..
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