バイオサイエンススコープ

地球温暖化対策・地域環境保全への技術貢献

Yoshito Yuyama

柚山 義人

農林水産省農林水産技術会議事務局研究調整官

Published: 2016-10-20

はじめに:自己紹介から

夢みる力を鍛えよう! 挑戦しよう! 人と科学の出会いで目標は実現できます.持続的で安定的な農業生産,われらに続く世代のために,地球温暖化対策と地域環境保全は,あらゆる施策の前提です.さまざまな手段を総動員して,輝く未来を共創してまいりましょう.

所属していない学会の機関誌への投稿は新たな出会いを予感できてワクワクします.農芸化学とはお友だちですが,少し距離のある分野で生きてきたので,まずは自己紹介をさせていただきます.2015年4月からの現職での担当は,バイオマス,生物多様性,地球温暖化,再生可能エネルギーです.農林水産省へ転籍する前は,1984年から農業・食品産業技術総合研究機構にいました.うち,3年間はタイ国にJICA専門家として住んでいました.研究課題は,同時並行で複数もちつつ,広域排水診断,農業集落排水処理,水質保全,水管理,バイオマス利活用などを10年単位で変遷していきました.現地調査,実験,シミュレーションが手段です.自然科学系の仕事が多いですが,根幹は農村計画にあります.地域の問題解決を団体戦による技術のシステム化により成し遂げることに醍醐味を感じております.

日夜,先端技術の開発にまっしぐらという方も,一期一会ですので,スルーしないで,最後まで好奇心旺盛にお読みいただけると嬉しいです.

プロジェクトメイキング:霞が関物語

バイオサイエンススコープの今シリーズでは,農林行政に携わる行政官から研究者に対する情報発信を行っていますが,私自身の本職は研究者でありますし,行政官としての経歴はあまりに短いので,そうした立場から見た流石と思う行政官ウォッチも交えさせてご紹介させていただきます.

霞が関で仕事をしていると,毎日のようにすぐ締め切りの作業が出てきます.そんななかでも,予算を獲得して国家プロジェクトを企画していくプロセスに燃えます.たくさんの情報が飛び交うなかで,幹部の行政官の臭覚,スピード,構成づくりからの学びは大きいです.題するなら,国家プロジェクトはいかにつくるかです.

ここでは,記憶に新しいと思われる地球温暖化対策を取り上げます.2015年度から2016年度にかけての主な動きとしては,地球温暖化適応計画,COP21(パリ協定),エネルギー革新戦略,エネルギー・環境イノベーション戦略,科学技術イノベーション戦略2016, G7新潟農業大臣会合,地球温暖化対策計画,バイオマス活用推進基本計画(改訂)などがありました.

これらは,外部有識者を含むメンバーや委員長の人選,複数回の会合,事務局による骨子・素案の提示と修正,関係省庁協議を経て決定されていきます.会合での配布資料や議事録は,ほとんどがホームページで公開されます.一字一句の文言には,どの部局が施策の推進に責任をもつかが貼り付けられます.修正意見を出す場合には,その根拠と理由が求められます.ある施策を推進しようと思ったら,しかるべき文言が入る必要が生じます.必ず聞かれるのは予算の裏づけはあるのか,フォローアップに耐えられるのかということです.文言が入れば予算要求の根拠にもなります.ただし,何の保証もありません.一方,文言が入っていないと予算要求の根拠を失います.まさに,鶏と卵の関係です.

地球温暖化対策となる研究開発のネタはたくさん持ち合わせています.あれこれ提案しますが,こうしたい,こうするべきだという夢を語る場ではないようです.上記のような大きな決定に即して,今,提案していることが必要だと言わせるストーリーが重要です.ニーズ,シーズ,投資効果,実施主体候補,過去の施策との関連など説明事項は多岐にわたります.まさに,針に糸をとおしていくようなプロジェクトメイキングです.

こういうなか,センスと経験ある行政官の方々は,情報・情勢の分析,折衝,人脈を駆使して戦略を練り上げていきます.ある方は,論理的合理性の追求と表現されていました.私のようなにわか行政官がそのノウハウを簡単にマスターできるものではありませんが,とても参考になります.また,かつて,このような苦労の末に成立したプロジェクトに研究開発責任者として応募し担当できたことに感謝の気持ちが膨らみました.

この記事が掲載となる時期まで,今,同僚とともに考えている平成29年度の新規プロジェクト提案が生き残り,将来の研究担当者に活躍の機会がつくれることを念願しています.

地球温暖化と地域環境保全の対策:持続的農業生産あってこそ

地球温暖化対策を講じること,地域の環境保全を推進することに総論として異議を唱える方はいないでしょう.前者には気候変動に伴う極端現象への対応,適応策,緩和策が対象になります.後者は,水質,土壌,生きもの,臭気,煙,大気汚染物質,景観などが対象になります.洪水,渇水,自然災害への対応も広義には含まれるでしょう.環境悪化は外部不経済を,環境保全は外部経済をもたらしますが,当該分野の農業研究の意義については直接的な投資効果を説明しづらいところに悩ましさがあります.目下の課題は,環境によいことをすることを農業の収益性向上,地域経済の発展につなげることです.なぜなら,持続的農業生産には,良質の水と土,栄養・有機物の供給,病虫害・雑草防除,種子更新,営農者,花粉を媒介してくれる昆虫,エネルギー・資材・関連設備や機械,再生産に必要な利益などを確保する必要があるからです.

私は,自然豊かな農村で生まれ育ち,田んぼ,ため池,里山が身近でした.人の営みによって守り育まれる自然や生きものの恩恵は計り知れません.生物多様性に関する研究プロジェクトの運営管理の担当になり,生きものがますます気になり,いつもキョロキョロ観察をしています.図1図1■カエルは生物多様性を象徴する指標は,知人に描いてもらったカエルのイラストです.食物連鎖の中間に位置し,水とのかかわりが深い指標種です.図2図2■環境保全効果を訴求力高く説明できるアオサギは,毎日の通勤時に日比谷公園の池でよく出会うアオサギです.鳥類は移動性が大きいですが,一般の方々にも馴染みがあり訴求力が高いので,慣行農業と環境保全型農業・有機農業の水田への飛来や採餌の差に注目しています.

図1■カエルは生物多様性を象徴する指標