プロダクトイノベーション

プリン体吸収低減作用を有する新規機能性ヨーグルトの研究開発

Naruomi Yamada

山田 成臣

株式会社 明治 研究本部 食機能科学研究所

Hiroshi Kano

狩野

株式会社 明治 研究本部 食機能科学研究所

Yukio Asami

浅見 幸夫

株式会社 明治 研究本部 食機能科学研究所

Published: 2016-10-20

はじめに

血清尿酸値とかかわりの深い疾病として痛風が挙げられる.痛風の歴史はとても古く紀元前にまでさかのぼる.歴史的な有名人の痛風患者にはヒポクラテス,アレキサンダー大王,ミケランジェロ,ニュートン,ダーウィンなどが挙げられ,数多く存在する.一方で日本における痛風の歴史は比較的浅く,1950年代に八十数例程度が報告されている程度であったが,近年は食生活の欧米化や生活習慣の変化によって増加傾向が続いている.また高尿酸血症は痛風の発症リスク要因の一つであることから,痛風を発症しないためには血清尿酸値を適切に管理することが重要である.日本においては血清尿酸値の管理として生活指導が推奨されており,そのなかに食生活の改善も含まれている.そこでわれわれは血清尿酸値上昇のリスク因子の一つであるプリン体の過剰摂取によるプリン体吸収量を軽減することで,血清尿酸値の維持管理に貢献できないかと考え,その解決手段の素材として乳酸菌に着目した.

高尿酸血症・痛風の現状,それらの治療と対策の現状を踏まえて「プリン体と戦う乳酸菌」であるLactobacillus gasseri PA-3の作用メカニズム,さらにはその効果について紹介する.

背景

1. 高尿酸血症と痛風の現状

プリン体はプリン骨格を有する化合物の総称であり,ヒトにおいては最終的に尿酸へと代謝される.尿酸は難溶性物質であるため,血清濃度が7.0 mg/dL以上となると過飽和状態となり,尿酸塩結晶として皮下組織や滑膜,腎臓などの組織に沈着しやすくなる(1)1) 鎌谷直之:“高尿酸血症・痛風”,最新医学社,2006, p. 24..また尿酸塩の結晶化と組織沈着には組織の温度やpHなどさまざまな要因が関与するが,体液中に溶解できる尿酸濃度が7.0 mg/dLであることから7.0 mg/dLを超えると高尿酸血症と定義される(2)2) 日本痛風・核酸代謝学会ガイドライン改訂委員会:“高尿酸血症・痛風の治療ガイドライン(第2版)”,メディカルレビュー社,2010, p. 30..高尿酸血症は痛風の発症リスクを高くすることが知られている.日本において痛風患者が増え始めたのは1960年代からであり,1986年に約25万人であった痛風患者数が2013年には100万人を超え,約30年間で4倍以上となっている(図1図1■日本における痛風患者数の推移).痛風患者数が近年増加している背景には食事内容の欧米化などが挙げられる.また痛風予備軍と言われる高尿酸血症者の数は痛風患者の約10倍とも言われており,痛風患者数とともに今後も増え続けると予想されている.したがって,尿酸値の管理に向けた対策は,健康増進の観点からもますます重要になると考えられる.

図1■日本における痛風患者数の推移

厚生労働省国民生活基礎調査を基に作成.

2. 高尿酸血症の治療と対策

血清尿酸値の上昇は日頃の生活習慣が大きく影響するため,日本の医療現場では高尿酸血症の治療として生活指導が推奨されている(2)2) 日本痛風・核酸代謝学会ガイドライン改訂委員会:“高尿酸血症・痛風の治療ガイドライン(第2版)”,メディカルレビュー社,2010, p. 30..生活指導は飲酒制限,運動の推奨,食事療法が中心となっていることから,食生活の改善も重要な位置づけとなっていることがわかる.

尿酸と密接に関係する物質がプリン体であり,プリン体源の一種である核酸は細胞の構成成分でもあることから,あらゆる食物中に含まれている(3)3) K. Kaneko, Y. Aoyagi, T. Fukuuchi, K. Inazawa & N. Yamaoka: Biol. Pharm. Bull., 37, 709 (2014)..一日に体内で産生される尿酸は約700 mgであり,その約3分の1は食物由来のプリン体が代謝されることで産生する.一日に産生する尿酸量から比較すると食物由来のプリン体から産生する尿酸量は通常では少ない.一方,プリン体の一種であるIMP(イノシン酸:肉や魚に多く含まれる),GMP(グアニル酸:キノコ類に多く含まれる)などが旨味性ヌクレオチドと言われているように,プリン体には旨味成分であるものも含まれる.したがって,プリン体高含量の食品には美味と言われる食品が多い.そのためプリン体高含量の食品は好んで食されることが多く,その結果,プリン体の過剰摂取につながり,高尿酸血症の一因となっている.

このような背景から,食事療法ではプリン体の一日の摂取量が400 mgを超えないように高プリン体食を極力控える指導が行われているが,旨味の成分でもあるプリン体の含有量が少ない低プリン体食を食べ続けることは困難である.しかし,食生活の改善においてほかに有効な手段がないのが現状である.また,国の医療費削減の動きに伴い疾病予防が推奨されていることから,薬だけでなく食品から血清尿酸値を管理するアプローチが今後重要視されることが容易に想像される.

3. 食物由来プリン体対策

食物由来のプリン体の過剰摂取による血清尿酸値の上昇を防ぐためには,2つの方法が考えられる.まず一つ目は食事においてプリン体摂取量を制限することである.実際に,医療現場でも上述したように食事療法が高尿酸血症対応の第一選択肢となっている.しかし,食事療法で低プリン体食を1週間摂取しても血清尿酸値に与える影響は1 mg/dL程度であり(4)4) 谷口敦夫:高尿酸血症と痛風,16, 20 (2008).,旨味のない低プリン体食を続ける利点が当事者に感じられず,長期間の継続が難しい.そのため,食事療法も十分な効果を発揮していない.2つ目は血清尿酸値を低減させる食品を摂取することである.プリン体はさまざまな代謝を受けた後にキサンチンオキシダーゼの働きによって尿酸へと代謝されるが,キサンチンオキシダーゼの阻害作用をもつ血清尿酸値降下薬としてアロプリノールやフェブキソスタットが知られている.これら薬剤と同様の作用メカニズムをもつ食品などを摂取することで血清尿酸値の上昇を抑制できる可能性がある.さらに,これらと異なるメカニズムをもつ食品を組み合わせて摂取することでより効果的な血清尿酸値の低減につながると考えられる.

プリン体吸収低減作用を有する新規機能性ヨーグルトの研究開発

1. プリン体吸収低減作用に着目

われわれは血清尿酸値を低減させるメカニズムとして,体内における尿酸の合成阻害ではなく,腸管で吸収される食物由来のプリン体量を低減することで血清尿酸値が低減するのではないかと考えた.

まず腸管でのプリン体の吸収に関し,プリンヌクレオシドよりもプリン塩基は吸収されにくい.腸管でのプリンヌクレオシドの分解には,腸管由来の分解酵素のほかに腸内細菌由来分解酵素の関与も考えられる.一方で乳酸菌はヨーグルトやチーズなどの発酵食品に幅広く利用されているバクテリアの一つである.乳酸菌の中には免疫賦活作用やコレステロールの吸収抑制効果など,プロバイオティクスとして宿主にとって有益な効果を示すものも数多く報告されている.そこで食物摂取後に腸管内に到達したプリン体が腸管で乳酸菌の働きによって減じる可能性について検討を行うことになった.

2. プリンヌクレオシドの分解活性評価

乳酸菌が想定した作用を達成するためには,摂取した乳酸菌が腸管まで生菌として届くことが大前提として挙げられる.Lactobacillus gasseriは乳酸菌のなかでも比較的胃酸および胆汁酸の耐性が高いことから,われわれはLactobacillus gasseriを中心に192株についてプリンヌクレオシドの分解活性評価を行った.

Lactobacillus gasseriのなかでもプリンヌクレオシドをプリン塩基に分解する活性は菌株間で異なったが,そのなかでもLactobacillus gasseri PA-3(以下,L. gasseri PA-3)が高いプリンヌクレオシドの分解活性を示した.

3. L. gasseri PA-3の菌体自身のプリン体利用の可能性

食物摂取時に腸管内に到達したプリン体の量を乳酸菌の働きによって減らす可能性としてプリンヌクレオシドの分解活性に着目したが,菌体自身が腸管内でプリン体を利用することによってもプリン体の量を低減することが可能になるのではないかと考え,次にL. gasseri PA-3のプリン体利用に関する検討を行った.

L. gasseri PA-3がプリン体を利用するためには,菌体内にプリン体を取り込む必要がある.そこでL. gasseri PA-3のプリン体取り込みを評価した.プリンヌクレオチドであるAMP(以下,アデニル酸)とその代謝物であるプリンヌクレオシドのアデノシンおよびプリン塩基であるアデニンについて評価した結果,L. gasseri PA-3はこれらすべてのプリン体を経時的に取り込んだ.

L. gasseri PA-3はプリン体を取り込むことが明らかとなったことから,次に取り込んだプリン体の用途として菌体の増殖に着目して評価した.栄養素を最小限にした合成培地にアデニル酸,アデノシン,アデニンを添加すると,これらプリン体を添加しなかった場合と比較して増殖が促進された.これらの結果より,L. gasseri PA-3はプリン体を取り込み,菌体の増殖に取り込んだプリン体を利用していることが明らかとなった.

4. L. gasseri PA-3単回投与によるプリン体吸収低減効果(動物試験)

これまでの検討結果から,L. gasseri PA-3はプリン体の一種であるプリンヌクレオシドを腸管で吸収されにくいプリン塩基に分解すること,また自身が増殖するためにプリン体を菌体内に取り込むことで,プリン体の吸収低減効果を発揮するメカニズムが考えられた.

そこでL. gasseri PA-3がプリン体の吸収低減効果を発揮するか否かについて,プリン体負荷に対するL. gasseri PA-3単回投与の影響を動物実験で検証した.プリン体の負荷にはアデニル酸を用いた.その結果,アデニル酸のみを投与した場合と比較して,アデニル酸とL. gasseri PA-3を同時投与した場合において,血液中のプリン体量の低下が観察された.

したがって,L. gasseri PA-3の摂取により,腸管におけるプリン体の吸収量が低減することを,動物実験において実証することができた.

5. ヒトにおけるL. gasseri PA-3を配合したヨーグルトの継続摂取の効果

L. gasseri PA-3の効果について血清尿酸値を指標にヒトで検証した.臨床試験は社内ボランティアを対象にプラセボ対照二重盲検比較試験により実施した.試験対象者は年齢35歳以上60歳未満の成人男性で血清尿酸値が6.0 mg/dL以上8.0 mg/dL未満の者とし,14名(平均年齢44.3歳)で行った.試験食品としてL. gasseri PA-3を配合したヨーグルトまたはL. gasseri PA-3を配合していないヨーグルト(以下,コントロールヨーグルト)を用い,4週間摂取させた.その結果,L. gasseri PA-3配合ヨーグルト摂取群ではコントロールヨーグルト群と比較して血清尿酸値が低値で推移した.

このように動物実験だけでなく,ヒトでも効果が認められたことから商品化に向けて大きく前進した.

6. L. gasseri PA-3の腸管におけるプリン体吸収低減効果に関する考察

本研究では血清尿酸値に影響を与える因子として食物由来プリン体に着目し,腸管における食物由来プリン体の吸収量を乳酸菌で低減させる目的で,プリンヌクレオシドの分解能が高いL. gasseri PA-3を選抜した.L. gasseri PA-3はアデノシンのほかに主要なプリンヌクレオシドであるイノシン,グアノシンもプリン塩基に分解する活性をもつことから,L. gasseri PA-3はさまざまなプリンヌクレオシドを分解する菌株と言える.さらにL. gasseri PA-3はプリンヌクレオシド分解能とプリン体取り込み能の両者で検証されている点が特徴である.

動物を用いたプリン体の負荷試験において,L. gasseri PA-3の単回投与で血液中のプリン体量が低下した.L.gasseri PA-3の投与によって最高血中濃度到達時間(Tmax)に変化はなかったものの,血液中のプリン体量が低下したことから,L. gasseri PA-3によるこの効果は,負荷したプリン体の排泄促進によるものではなく,吸収低下によるものと考えられた.したがって本結果は,想定していたメカニズム,すなわち,L. gasseri PA-3がプリンヌクレオシドを腸管から吸収されにくいプリン塩基に分解することに加え,菌体自身がプリン体を取り込むことによって,腸管におけるプリン体吸収量を減少させていると推察された(図2図2■Lactobacillus gasseri PA-3の作用メカニズム概要).

図2■Lactobacillus gasseri PA-3の作用メカニズム概要

①プリン体の一種であるプリンヌクレオシドを吸収されにくいプリン塩基へと分解する,②プリン体を菌体自身に取り込み利用することによって,腸管から吸収されるプリン体量を低減させる.

さらに,血清尿酸値が6.0 mg/dL以上8.0 mg/dL未満の成人男性を対象とした臨床試験の結果から,L. gasseri PA-3を配合したヨーグルトがヒトにおいても有効であることが示された.

7. L. gasseri PA-3を配合したヨーグルトの発売

科学的エビデンスに基づき,臨床試験においても効果を確認したことから,社内では商品化に向けて動き始めた.(株)明治ではプロバイオティクスヨーグルトとして明治プロビオシリーズを展開しており,これまでにLG21とR-1を有している.これら2大ブランドのインパクトに負けないためにも,風味だけではなくパッケージの色についても特にこだわりがあった.LG21は青色,R-1は赤色であるため,これらに負けない色であり,かつ「プリン体と戦う」イメージを表す必要があった.試行錯誤の結果,開放感があり,前向きなイメージをもつ黄色とした.黄色でも数十種類のなかから現在の鮮やかな黄色に決まった.素材や風味だけでなく,パッケージにもこだわったL. gasseri PA-3を配合したヨーグルトは2015年に発売するに至った(図3図3■Lactobacillus gasseri PA-3).

図3■Lactobacillus gasseri PA-3

Lactobacillus gasseri PA-3の電子顕微鏡写真.

おわりに

プリン体は旨味成分でもあることから,適正な血清尿酸値の維持管理のためにプリン体の摂取制限を長期的に実践することは極めて難しいのが現状である.実際に医療現場においても食べてはいけないプリン体高含量の食材について指導することはあるものの,積極的に摂取した方がよいと勧められる食品がないという声が多いことから,血清尿酸値に有効でかつ日ごろから容易に摂取できる食品の開発が待たれていた.

一方,これまでの疫学調査から乳製品の摂取によって血清尿酸値が低下すること(5)5) H. K. Choi, S. Liu & G. Curhan: Arthritis Rheum., 52, 283 (2005).や痛風の発症リスクを低減させること(6)6) H. K. Choi, K. Atkinson, E. W. Karlson, W. Willett & G. Curhan: N. Engl. J. Med., 350, 1093 (2004).が報告されている.「プリン体と戦う乳酸菌」であるL. gasseri PA-3を配合したヨーグルトは,プリン体の吸収を低減させる乳酸菌と血清尿酸値を低下させる乳素材を併せ持つ乳製品であり,適正な血清尿酸値の維持管理に適したプロダクトであると言える.またターゲットがこれまでヨーグルトを摂取する習慣が少なかった中年男性であることから,新たな食習慣のキッカケにつながることを期待している.L.gasseri PA-3がプリン体代謝という側面からヒトの健康に貢献することを今後も目標に掲げ,L.gasseri PA-3のさらなる可能性について日々努力して研究を進めていきたい.

Reference

1) 鎌谷直之:“高尿酸血症・痛風”,最新医学社,2006, p. 24.

2) 日本痛風・核酸代謝学会ガイドライン改訂委員会:“高尿酸血症・痛風の治療ガイドライン(第2版)”,メディカルレビュー社,2010, p. 30.

3) K. Kaneko, Y. Aoyagi, T. Fukuuchi, K. Inazawa & N. Yamaoka: Biol. Pharm. Bull., 37, 709 (2014).

4) 谷口敦夫:高尿酸血症と痛風,16, 20 (2008).

5) H. K. Choi, S. Liu & G. Curhan: Arthritis Rheum., 52, 283 (2005).

6) H. K. Choi, K. Atkinson, E. W. Karlson, W. Willett & G. Curhan: N. Engl. J. Med., 350, 1093 (2004).