解説

ヘテロ多糖の輸送にかかわる細菌由来超分子の構造基盤

Structural Basis of Bacterial Supramolecules for Import of Heteropolysaccharide

Wataru Hashimoto

橋本

京都大学大学院農学研究科

Yukie Maruyama

丸山 如江

京都大学大学院農学研究科

現 摂南大学理工学部

Takafumi Itoh

伊藤 貴文

京都大学大学院農学研究科

現 福井県立大学生物資源学部

Ryuichi Takase

髙瀬 隆一

京都大学大学院農学研究科

現 Department of Biochemistry and Molecular Biology, Thomas Jefferson University

Kousaku Murata

村田 幸作

京都大学大学院農学研究科

現 摂南大学理工学部

Published: 2016-11-20

近年,循環型社会の構築のため,海洋バイオマスの利活用が重要な課題の一つとなっている.特に,褐藻類の主要な成分であるヘテロ多糖アルギン酸は有望なバイオマスとして期待されている.そのため,アルギン酸資化性細菌を中心に,その分解酵素の研究が盛んに行われているが,細胞内取り込み系はよくわかっていない.菌体外に分解酵素を分泌する多くのアルギン酸資化性細菌とは異なり,Sphingomonas属細菌A1株はアルギン酸を「超分子」を介して高分子のまま取り込み資化する.最近,「超分子」の主要な構成要素であるABCトランスポーターの立体構造が決定され,その構造的特徴から高分子の輸送を可能にする仕組みがわかってきた.本稿では,多糖アルギン酸の取り込みに機能する結合タンパク質と輸送体およびアルギン酸代謝酵素を中心に,それらの構造基盤について紹介する.

はじめに

アルギン酸は,互いにエピマー体の関係にあるβ-D-マンヌロン酸(M)とα-L-グルロン酸(G)から構成されるヘテロ酸性多糖であり,褐藻類の細胞間隙やある種の細菌の莢膜に存在する(1)1) P. Gacesa: Carbohydr. Polym., 8, 161 (1988)..アルギン酸の分子内にM/G組成の異なるブロック構造が含まれるが,これはポリMとして合成されるアルギン酸が異性化酵素の作用を受けて,一部のMがGに変換されるためである.粘性,キレート性や難消化性などの特異な物理化学的または生理学的特性から,褐藻類由来のアルギン酸は食品添加物,食物繊維やゲル形成ポリマーとして広く産業界に利用されている.最近,食料利用の低い一部の褐藻類を海洋バイオマスとして利活用することが試みられている(2)2) E. Stokstad: Science, 335, 273 (2012)..一方,病原性の緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)が生産するアルギン酸は,バイオフィルムとして機能し,その感染症の治癒を困難にしている(3)3) T. B. May & A. M. Chakrabarty: Trends Microbiol., 2, 151 (1994)..そのような背景の下,多くのアルギン酸分解微生物が自然界から分離され,その菌学的性質や分解酵素の構造と機能が解析されている(4)4) H. Ertesvåg: Front. Microbiol., 6, 523 (2015)..しかし,アルギン酸の輸送にかかわる分子機構に関する知見は乏しい.

ATP結合カセット(ABC)トランスポーターは,最大のタンパク質ファミリーの一つであり,あらゆる生物に存在する.ATPの加水分解エネルギーを駆動力として物質を輸送するABCトランスポーターは,膜内に取り込むインポーターと膜外に分泌するイクスポーターに大別される.がん細胞の多剤排出にかかわる輸送体は,ABCイクスポーターの典型である(5)5) K. Ueda, C. Cardarelli, M. M. Gottesman & I. Pastan: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 84, 3004 (1987)..一方,細胞質に物質を取り込むABCインポーターは細菌を中心に見いだされており,その機能解析が進んでいる(6)6) K. P. Locher: Philos. Trans. R. Soc. Lond. B Biol. Sci., 364, 239 (2009)..アルギン酸と同様の酸性多糖であるペクチンを分解する細菌に,ペクチンオリゴ糖を取り込むABCトランスポーター(TogMNABなど)が同定されている(7)7) N. Hugouvieux-Cotte-Pattat, N. Blot & S. Reverchon: Mol. Microbiol., 41, 1113 (2001)..アルギン酸の輸送に関しても,ナトリウムイオン共役輸送体(ToaA)(8)8) A. J. Wargacki, E. Leonard, M. N. Win, D. D. Regitsky, C. N. Santos, P. B. Kim, S. R. Cooper, R. M. Raisner, A. Herman, A. B. Sivitz et al.: Science, 335, 308 (2012).と本稿の対象であるABCトランスポーター(AlgM1M2SS)(9)9) Y. Maruyama, T. Itoh, A. Kaneko, Y. Nishitani, B. Mikami, W. Hashimoto & K. Murata: Structure, 23, 1643 (2015).の実体が明らかにされている.膜タンパク質であるが故に構造解析が遅れていたが,マルトース,モリブデン,ヘム,メチオニンやビタミンB12などの低分子物質を基質とする細菌ABCインポーターや多剤耐性にかかわるABCイクスポーターの立体構造が決定されている(6)6) K. P. Locher: Philos. Trans. R. Soc. Lond. B Biol. Sci., 364, 239 (2009)..これまで,高分子物質を取り込むABCトランスポーターの構造は不明であったが,今回AlgM1M2SSの構造解析により,高分子基質に対応する特徴的な構造要因がわかってきた.ここでは,主にアルギン酸の輸送にかかわる分子機構を概説し,その構造特性と機能との相関について述べる.

アルギン酸取り込み細菌

グラム陰性のSphingomonas属細菌A1株は,細胞表層に形成する大きな孔「体腔」にアルギン酸を濃縮し,アルギン酸を高分子のまま細胞内に輸送した後,細胞質で分解する.A1株における高分子多糖の輸送と分解・代謝にかかわる分子機構「超分子」には,以下の主要なタンパク質が機能する(10)10) W. Hashimoto, S. Kawai & K. Murata: Bioeng. Bugs, 1, 97 (2010).図1図1■A1株細胞におけるアルギン酸の輸送と分解・代謝機構の全体像(本文参照)).細胞表層アルギン酸結合タンパク質(Algp7:アルギン酸を細胞表層に濃縮する),ペリプラズム局在性アルギン酸結合タンパク質(AlgQ1またはAlgQ2:アルギン酸を細胞表層からABCトランスポーターに運搬する),細胞質膜貫通型ABCトランスポーター(四量体AlgM1-AlgM2/AlgS-AlgS(本稿ではAlgM1M2SSと略記する): アルギン酸を細胞質に輸送する),細胞質局在性アルギン酸リアーゼ(A1-I, A1-II, A1-III, およびA1-IV:アルギン酸を単糖にまで分解する),および細胞質局在性代謝酵素(A1-RとA1-R′:単糖(不飽和ウロン酸)を還元する).これらの分子のうち,最近立体構造が決定された細胞表層アルギン酸結合タンパク質,ABCトランスポーター,および代謝酵素を中心に以下に述べる.そのほかの分子については,ほかの総説を参照されたい(10, 11)10) W. Hashimoto, S. Kawai & K. Murata: Bioeng. Bugs, 1, 97 (2010).11) K. Murata, S. Kawai, B. Mikami & W. Hashimoto: Biosci. Biotechnol. Biochem., 72, 265 (2008).

アルギン酸は種々の金属(イオン)をキレートし,たとえばカルシウムイオン存在下では不溶性のゲルを形成する.A1株細胞は可溶性のアルギン酸のみならず,不溶性のアルギン酸カルシウムゲルも分解する.走査型電子顕微鏡などの各種顕微鏡を用いて,A1株細胞の表層構造を解析した(投稿論文準備中).アルギン酸カルシウムゲルに接着した細胞には,表層構造が窪んだ「体腔」の形成が認められる(図2A図2■A1株細胞の走査型電子顕微鏡像).また,褐藻類であるワカメの藻体表面にA1株細胞が付着することも観察される(図2B図2■A1株細胞の走査型電子顕微鏡像).さらに,原子間力顕微鏡で解析したところ,生細胞においても「体腔」が形成されることを確認し,その窪みの深さが76~147 nm程度であることがわかった.また,「体腔」形成部位は,その周囲と比較すると高電位があることから,この高電位が負電荷を帯びたアルギン酸の濃縮に寄与していると考えられる.

図1■A1株細胞におけるアルギン酸の輸送と分解・代謝機構の全体像(本文参照)

M, マンヌロン酸;G, グルロン酸;m, 不飽和マンヌロン酸;g, 不飽和グルロン酸;Algp7, 細胞表層局在性アルギン酸結合タンパク質;AlgQ1とAlgQ2, ペリプラズム局在性アルギン酸結合タンパク質;AlgM1-AlgM2/AlgS-AlgS, アルギン酸取り込みABCトランスポーター;A1-I, -II, -III, -IV, アルギン酸リアーゼ;A1-RとA1-R′, 補酵素依存性還元酵素;aly,エンド型アルギン酸リアーゼ(A1-I, -II, -III)遺伝子;algO,転写制御遺伝子;algS, algM1, algM2,アルギン酸ABCトランスポーター遺伝子;algQ1, algQ2,アルギン酸結合タンパク質遺伝子;a1-IV,エキソ型アルギン酸リアーゼ遺伝子.

図2■A1株細胞の走査型電子顕微鏡像

(A)アルギン酸カルシウムゲルにおけるA1株細胞の体腔(矢印)の形成.(B)ワカメ藻体表面に接着するA1株細胞.

「体腔」も含めて,「超分子」の主要なタンパク質の多くは,アルギン酸存在下で誘導発現する.特に,AlgM1, AlgM2, AlgS, AlgQ1, AlgQ2, A1-I, A1-II, A1-III, およびA1-IVの発現は,LacIファミリーに分類される転写因子AlgOにより制御されている(12)12) C. Hayashi, R. Takase, K. Momma, Y. Maruyama, K. Murata & W. Hashimoto: J. Bacteriol., 196, 2691 (2014).図1図1■A1株細胞におけるアルギン酸の輸送と分解・代謝機構の全体像(本文参照)下).AlgO遺伝子破壊株はこれらのタンパク質を構成的に発現すること,AlgOが上記タンパク質遺伝子群のプロモーター付近に結合すること,ならびにアルギン酸オリゴ糖によりその結合が阻害されることから,アルギン酸非存在下ではAlgOが転写抑制に機能し,アルギン酸存在下ではAlgOがプロモーター付近から解離することにより「超分子」遺伝子の転写が誘導される.

「輸送系」の構造と機能

1. 細胞表層局在性アルギン酸結合タンパク質

細胞表層タンパク質Algp7は,アルギン酸との結合と解離性を示し,「体腔」におけるアルギン酸濃縮タンパク質として機能する(10)10) W. Hashimoto, S. Kawai & K. Murata: Bioeng. Bugs, 1, 97 (2010)..A1株のゲノムにおいて,Algp7(SPH726)遺伝子は,低pHにおける鉄(Fe2+)取り込みEfe系(EfeU, EfeO, EfeB)(13)13) J. Cao, M. R. Woodhall, J. Alvarez, M. L. Cartron & S. C. Andrews: Mol. Microbiol., 65, 857 (2007).とそれぞれ相同性を示すSPH729, SPH728, SPH727の遺伝子クラスターの下流に位置する.アルギン酸はFe2+をキレートすること,およびA1株が金属をキレートしたアルギン酸ゲルを分解することから,Algp7は細胞表層でアルギン酸のみならず鉄の取り込みにも関与することが示唆される.実際,Algp7は鉄結合タンパク質EfeOと高いidentity(61.8%)を示し,金属結合モチーフHxxEをもつ.

X線結晶構造解析により立体構造が決定されたAlgp7は,各々主要な4本のup-and-downのヘリックスからなる2つのバンドルから構成される(図3A図3■細胞表層アルギン酸結合タンパク質).Algp7のアルギン酸結合にかかわる構造要因を明らかにするため,Algp7とアルギン酸オリゴ糖とのドッキングシミュレーションを行い,アルギン酸結合部位を形成する候補残基を見いだした(14)14) K. Temtrirath, K. Murata & W. Hashimoto: Carbohydr. Res., 404, 39 (2015).図3B図3■細胞表層アルギン酸結合タンパク質).それらの残基に部位特異的変異を導入し,変異体のアルギン酸結合能を評価したところ,Lys68とLys69残基が形成する表面正電荷クラスターが酸性多糖アルギン酸との結合に重要であることがわかった.この結合部位に位置するTrpによるスタッキング相互作用も考えられる.一方,示差走査型蛍光定量法により,Algp7がFe2+,Fe3+,Zn2+,Cu2+と結合することが示唆された(投稿論文準備中).金属結合モチーフは酸性残基に取り囲まれていることから,Algp7はここでアルギン酸にキレートされた金属イオンと結合する可能性がある.以上のことから,Algp7が金属をキレートしたアルギン酸から金属とアルギン酸とを分離し,金属をEfe輸送系に,アルギン酸をABCトランスポーターに分配するトラフィックコントローラーとして機能することが考えられる.